WRITE, DREAM, LIVE

アメリカ在住の日本人がいろいろ書き散らす

バーベンハイマー、日本で炎上

 アメリカでは引き続き映画『バービー』と『オッペンハイマー』が絶好調みたいで、すごい金額を稼いでいるという興行記録がよくニュースで流れています。
 私、でかいシネコンの近所に住んでいるのですが、そこの駐車場がもういっぱいでバーベンハイマー効果のすごさにひいてしまいました。畑ばかりの田舎街なので、みんなほかにやることないんでしょうか。こうまで、みんながみんなバーベンハイマー!バーベンハイマー!ってギャーギャー騒いでると、「意地でも観に行くものか、ブームが去った頃に気が向いたら観に行ってやってもいいけどな・・・へっ・・・」となるのは私だけでしょうか。観に行ったら負け、という誰と何を勝負しているのかよくわからない感情が湧きます。
 それにしても、映画、2作ともあたってよかった、よかった。ワーナーとユニバーサルが社運を賭けて勝負に出た感があり、これでこけたら映画館ビジネスは本当にもういよいよ終わりだよなあ、とはらはらと見守っていました。なので、バーベンハイマー大成功のニュースをすごくポジティブなことととらえて喜んでいたんですよ。こういうふうに、同日公開の大作映画2作がどっちが勝つかみたいなライバルじゃなくて、「両方とも観に行くのがクール」「両方観ないとこの祭りに参加できないぜ」みたいに共闘して、うまいこと観客の奪い合いにならないで済むケースもあるなんてすごいな、とか思っていたのに。

海外でも報道された日本での「バーベンハイマー」炎上

 日本ではこの流れがたいそう冷ややかに見られているというじゃないですか。最近、SNSをチェックする暇が無かったせいで、日本のTwitter(X、と言うべきか)の流れをニューヨーク・タイムズ紙経由で知ってしまうこのていたらく・・・日本人なのにさ。

‘Barbenheimer’ Isn’t Funny in Nuclear-Scarred Japan
https://www.nytimes.com/2023/08/01/world/asia/japan-barbenheimer.html

「核で傷ついた日本では面白くもなんともないバーベンハイマー」、みたいな感じ・・・? 英紙のガーディアンも記事にしてますね。

Barbenheimer backlash: Warner Bros apologises after its Japan arm complains | Film | The Guardian

 皆さん私なんぞよりご存知とは思いますが、ざっくり流れを書くと、どこかのおバカな誰かが作った原爆とバービーをマッシュアップしたミームに、映画『バービー』の公式アカウントの中の人が乗っかって好意的に反応しちゃったという感じです。

私は右側の方にイラッときたけど、「忘れられない夏になるだろう」という左への公式アカウントのコメントもひどい

 ごめんなさいね・・・本当に。バカな暇人ばっかりで皆さんを傷つけて・・・ってなんで私がアメリカ人の代わりに謝らないといけないんだ。
 いやもうこれね、擁護するわけじゃないけれど、元のミーム作ったどっかの誰かさんは、おそらく「いいね」もらうことくらいしか考えてなくて、ヘタすると原爆をどこの国がどこに落としてどうなったのかもよくわかってない気がします。脳みそがピンポン玉くらいしか無くて、なんかみんな騒いでるし僕も私もミーム作っていいねもらわないと!みたいな、人生にあまり楽しいことが無いかわいそうな方々です。何か私と同じ匂いを感じます・・・憐れんでやってください・・・。
 が、しかし、公式さんはもうちょっと気をつけたほうがよかったんじゃないのか。これ、『オッペンハイマー』の公式さんじゃなくて、『バービー』の公式さんだったとこがミソだね。『オッペンハイマー』の方は、センシティブな題材だから公式アカウントの人はかなり問題起こさないようにトレーニング受けたり、何か発信する前にチェック受けたりしているはず。『バービー』の方は、映画のノリに合わせて公式さんも頭の中がお花畑になっている??

なんでバーベンハイマーが楽しいのか

 ちなみに、どっちの映画もよくわからん、という方のためにざっくり書くと『バービー』は、かの有名なマテル社のバービー人形を主人公にした映画で、全編ピンクのペンキをぶっかけたようなトーン、ファッション狂いのブロンド美女が元気に楽しくちょっぴりおバカに大活躍する女の子頑張れムービー!ザ・エンターテイメント!・・・という感じです。100社以上のタイアップがついた巨大プロジェクトを若干39歳の女性監督グレタ・カーヴィグさんがプレッシャーの中よくまとめたと割と批評家にも好評。
 『オッペンハイマー』の方はこれがまた、『バービー』の対極で・・・原爆の父と呼ばれた科学者ロバート・オッペンハイマーを描いた伝記映画。今まで不可思議コワい感じの映画と言えばこの人、という感じだったクリストファー・ノーランが何を思ってこんな3時間の重厚な歴史大作映画を撮ったのかよくわかりませんが、こちらも批評家・観客共に評価好評。
 つまり、『バービー』と『オッペンハイマー』は「公開日が同じ」「映画会社が気合入れた作った大作映画」ということくらいしか共通点が無い、まったくかぶるところの無い2作、それどころか対極に存在する2作と言えると思います。
 その2作をマッシュ・アップする、そこが面白い。
 この「バーベンハイマー現象」が自然とどっかから湧いてきて、こんだけ盛り上がっているのは、そこだと思うのですよ。おバカとシリアスの融合というか・・・。全然関係ないじゃん、みたいな・・・。もともとはその現象に、原爆投下をバカにしたり茶化したり軽く見たりと言った意図は全く無かったと思うのです。純粋に「あまりに違う2作を同じ日に観ちゃえ!外暑いし!」「こんなに違う二作を同じ日に観たら頭おかしくなるよな」みたいな・・・。ほんと、それだけだったはず。無害なうまいミームもいっぱいあったし。

左『バービー』鑑賞時、右『オッペンハイマー』鑑賞時・・・このミームの男性が原爆をバカにしてるとは思わない
これも別に怒りは感じない

 バーベンハイマー!バーベンハイマー!言ってるアメリカ人全員が原爆をバカにしてるわけじゃない。ごく一部が悪ノリしてそれが日本でまとめられちゃってるだけだと思う。
 映画会社も、映画産業がストリーミングサービスに押されて斜陽で、そこにパンデミックもあって、かなり追い詰められている。しかも、こんだけ大金つぎ込んで作って公開の日を迎えたのに、俳優組合がストライキしていて、出演者がメディア・ジャック状態であちこちで宣伝することもできないではないか!! バーベンハイマー現象!?ミーム作ってくれたの?乗っかります乗っからせていただきます!! という感じになるのもよくわかります。
 特に、『オッペンハイマー』の方は、ウハウハじゃないでしょうか。3時間、早送りもトイレ休憩も無しで集中してシリアスな映画を観るなんて、現代人には拷問に近いはず。絶対にはずすだろうな、こけるだろうな、と私は思っていました。そこに降って湧いたようなバーベンハイマー祭り・・・公式さんに止める手はありませんよね。
 

皆さんの炎上への反応は

 ただ、バーベンハイマー、ちょっと盛り上がり過ぎました。
 こうまで、皆が乗っかると無知な人、目立つために度を越えてしまう人も出てくるわけで・・・。自分が生まれる前に遠い日本で起こった悲劇などよく知らんわどうでもいいわ、という冷めた輩も正直いっぱいいますよね。そんなもんです、残念ながら。
 かなり前に、中国で大人気だった蒼井そらさんが、南京大虐殺の日に中国語で中華圏の方々に向けて全然関係ない能天気な発信をした、ということがあったんですよ。で、「やっぱりAV女優は南京大虐殺の日が何日かなんて知らないんだな!」とか中国でヒンシュク買って・・・(AV女優さんたちに失礼な言い方だ!)。でもそのニュースを知った私の反応は、
「エッ・・・何日かどころか中国でそんな日があることすら知らない・・・いやそれAV女優以外でも多分日本でほとんどの人は知らない・・・」
でした。そんなもんですよね。いじめでも、いじめた方は覚えてすらいないのにいじめられた方は一生忘れなかったり。
 あのきのこ雲を見ただけで悲しみがこみ上げる日本人の感覚、日本人にとって夏は原爆投下と終戦に思いをはせる季節であること、そういうのをわかるアメリカ人なんて何人いるんだろう。私が他国の傷みにピンと来ないように、きっと彼らにもわからない。
 だからこそ、日本人は今回みたいなケースでは炎上していいと思う。いやそれぜんぜん面白くないよ、と教えてあげていいと思います。日本人以外で誰もそれを指摘する人はいないでしょうから。おバカちゃんには教えてあげないと。

こんなの何が面白いの?これ作って何が楽しいの?

 でもどれだけ伝わるのか・・・
 ニューヨーク・タイムズ紙の前述の記事に、80件近く読者のコメントがついていて、ざっと読んでみたのですが、うーん、不毛だなあと思いました。数年前、小川洋子さんが原爆投下の日に合わせて、いくつか原爆や被爆体験をテーマにした日本の文学作品をアメリカ人向けに紹介した記事がNYタイムズ紙に載ったんですけど、その時とまあ、おんなじ感じのコメントが多かった。
 被爆には同情する、だけど、自分が始めた戦争だよね?
 被爆には同情する、だけど、日本軍だってアジア諸国で一般人にひどいことしまくったよね?

 「but」だらけで、理解を示しつつ厳しい。あとは、原爆投下が正当だったかどうかみたいな議論ばかりで・・・。タイムズは購読者の年齢層が高いのか、皆さん詳しいこと詳しいこと。実際にミームを載せた記事ではなかったせいか、「あれはいかん」というような意見は少数で、残念でした。どっちが始めた戦争か、日本もどれだけひどかったか、それはそれ、これはこれで、だからって原爆に関して無知さらしてくだらんミーム作るのはアメリカ人として恥だろ、って思うんですけど。
 「100%我が国が悪く一切言い訳も何もありません」な感じでただただ悪事を認めてひたすら批判を受け入れるしかないドイツと違って、どうも日本は加害者のような被害者のような微妙な立ち位置なんですよね。今後は、被爆国として被爆者に無神経な奴らに抗議する時は、
「我々も多くの過ちを犯した、だけど、これはないだろ?」
とニューヨーク・タイムズ紙のコメントの皆さん風に言えばいいのかも。そうしたらもっと言い分を聞いてもらえるのかも。

映画産業の終わりの始まり

 まあ、今回のバーベンハイマー現象って、「最後に大きな花火をドカンとあげて終わろう・・・」という映画産業と観客の最後のバカ騒ぎに見えて、そっちの方がなんか気にかかります。あのくだらないミームは、「くだらない、ああ、くだらない」くらいにしか思わないのですが。
 みんな映画館が好きだと思うんですよ。ストリーミングばっか観てるくせに。本屋行かないけど無くなるのさみしいな、っていうのと同じで・・・。本屋はもう絶滅を食い止められないレベルまで来ていると思うんだけど、映画館はまだそこまでは行っていない。でも、どうもゆっくりと本屋と同じ運命をたどる気もします。
 無神経なミームやツイートに水を差されたけれど、バーベンハイマーで盛り上がってみんなが映画館に戻るのはやっぱり喜ばしい事のように思います。『オッペンハイマー』を観た人が、広島や長崎に気持ちを寄せるようになってくれることを願います。

 それにしても、くだらんミーム作るのも、それを拡散するのも、それを目にして怒るのも、なんか本当に時間の無駄で、なんのためにSNSとかネットってあるんだろうと最近つくづく思います。
 と言いつつ、私もそれに関してこんな文章書いてるわけだし、この時間で『オッペンハイマー』の原作でも読んだ方が100倍有益ですね。ニューヨーク・タイムズ紙にコメントしていた方々によると、原作はたいそう優れたノンフィクションだそうですよ。これを機に私もマンハッタン・プロジェクトに関して勉強してみようと思います。

ロングアイランド連続殺人犯逮捕 アメリカの警察がいろんな意味ですごい 

 2023年の7月第三週の週末は、とにかくメディア総出で「バーベンハイマー!バーベンハイマー!!」(映画『バービー』+『オッペンハイマー』)状態で、衰退中の映画館ビジネスが再生のためにこの週末にすべてを賭けている感じがすごかった。ひたすら自閉症児のお世話の私は、祭りに参加することもできず、捜査官らしく、大ニュースとなった長らく未解決だった連続殺人事件の犯人逮捕の続報をひたすら追ったのだった・・・いやあ、楽しかったよ。バーベンハイマー無くても平気さ!

ロングアイランド連続殺人事件とは

 ニューヨークのマンハッタン、超高層ビル群が立ち並ぶザ・都会なエリアから少し離れたところに、ロングアイランドという島がくっついている。島と言っても、奈良県と同じくらいの広さで、富裕層の別荘地から畑から湿地帯からビーチまでまあなんでもありな感じだけど、マンハッタンのベッドタウンみたいな住宅地がたくさんあるところ。日本で言うと千葉県みたいなイメージ? ちょっと違うか。
 まあ、とにかくそのロングアイランドで、2010年にシャノン・ギルバートさんという24歳の女の子が110番通報で助けを求めたあと、ぷっつりと消息を絶つ。実に謎めいた失踪だけど、シャノンさんはもう未成年ではないし、失踪時は男性に性的なサービスを提供するお仕事をしていて、まさにそのお仕事中にお客さんのおうちで錯乱していなくなった感じ。警察はあんまり真剣に探す気が無い。しかし家族の必死に訴えもあり、捜索は細々と続けられた。そしてある日、訓練を兼ねて連れて行った警察犬がロングアイランドのギルゴ・ビーチと呼ばれるエリアでついに遺体を発見する・・・なんと4体も! もはや骨だけになっていて誰だかわからない。DNA鑑定の結果、それはシャノンさんの遺体ではなく、ニューヨークで消息不明になっていたまったく別の女性たちの遺体と判明した。その四名(『ファンタスティック・フォー』みたいに『ギルゴ・フォー』と呼ばれている)、彼女たちには共通点があった。全員すごく小柄で細い。髪の色や目の色も同じ、そして、全員がシャノンさんと同じく男性に性的サービスを提供するお仕事をしていて、ピンプ(日本語で言うとなんだろう・・・ポン引き?)を通さず、クレイグリストを使って直接客をとっていた・・・。
 警察による付近の捜索は続き、その後も次々と死体が発見され、その数なんと合計11体!! 中には、女装したアジア系男性や幼児も含まれ、今も身元がわからない死体もある。ギルゴ・フォーと同じ人物による犯行なのかすらわからない。最初探していたシャロンさんとギルゴ・フォーの殺害との関係もわからない。もう何がなんだかわからない。警察は捜査本部を設けて捜査にあたったが、10年以上未解決のままだった・・・2023年7月までは。

 というのが、ざっくりとした経緯です。この事件に関しては、おびただしい数のポッドキャストやらウェブサイトやらがあり、永らく未解決事件の推理が大好きなネット探偵たちの関心の的だった。こんなドキュメンタリーもあるみたいです。

『キリング・シーズン ロングアイランドの連続殺人鬼』
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08VFZ5J5J/ref=atv_dp_share_cu_rwww.amazon.co.jp

 が、私は『統合失調症の一族 遺伝か、環境か(原題:Hidden Valley Road)』がベストセラーになったジャーナリスト、ロバート・コルカーの出世作である『Lost Girls(未邦訳)』をおすすめします。名前と年齢、そして「売春婦」としかメディアに紹介されないギルゴ・フォー+シャノンさんたちの短い一生を追った力作です。事件まで彼女たちはどう生きたか、そして事件によって遺された家族の人生がいかに破壊されたか、苦しんだか。犯人探しではなく、被害者側に寄り添った内容になっているし、アメリカの高級住宅地のゆがんだ狭い人間関係みたいなのにも迫っています。邦訳が出るといいんですけど、この本を基にした映画がネットフリックスにあるので、興味のある方はそちらを是非。

『ロストガールズ』 | Netflix (ネットフリックス)
youtu.be

2023年についに犯人逮捕

 先日、警察がこの連続殺人事件の犯人を逮捕したという大ニュースが流れてから、犯人の自宅が観光名所になったり、犯人の知人による「やっぱりね~ずっとあの人は怪しいと思ってたんですよ~」といういかにも後付けなコメントが次々にニュースになったり、続報が多さに皆さんの衝撃と関心の高さがうかがえるんだけど、警察がおおやけに向けて発表した「Bail Document」と呼ばれる文書がすごい。これ、日本にもあるんですか? 
 この文書は、警察がニューヨーク州民に向けて、「我々はこれらの証拠をもってこの人物を事件の犯人と断定した、そしてこの人物は非常に危険であるから保釈はできない」と、保釈無しで身柄を拘束する根拠と正当性を説明するためのもので、大手メディアによると「異例の丁寧さで書かれている」そうで・・・。おもしろくて思わず32ページ全部読んでしまった。確かに、携帯電話のアンテナの位置関係とか、誰にでもわかるようにGoogleマップに解説入りで載せてあったり、警察の仕事ぶりの一端が明かされていてすごい。記者会見では、「今後の捜査のために詳細な捜査テクニックは明かせません」とか言っていたけど、かなり詳細だよね・・・?

1) 使い捨て携帯の基地局から犯行の場所を割り出す

 まず行われたのが、被害者と犯人の間の電話通信の解析。犯人はもちろん、足がつかない使い捨て携帯を現金で購入して、それを被害者との通信に使っている。しかも、犯行ごとに違う使い捨て携帯を使ったり、かなり用心深い。用心深いんだけど、その使い捨て携帯を使ってなんらかの交信をした瞬間、基地局に繋がるわけで、「誰が使ったか」はわからなくても「どこで使ったか」「いつ使ったか」がわかってしまう。被害者側の電話番号は捜査する側はもちろんわかっているわけで、その電話の通信記録から犯人の使い捨て携帯を特定、その後、その使い捨て携帯がどの基地局がカバーするエリアで使われたか、それを通話ごとに割り出していく。この解析はFBI担当だそうです。犯人は複数の使い捨て電話で性的サービスを受けるために被害者たちと数回通信しており、しかも被害者の一人に15歳の妹がいることを知って、被害者を殺害後、その被害者のスマホで妹さんに7回も「ねえねえ姉さんがどういう仕事してたか知ってる?」「君も売春婦なのー?」「姉さんの死体が腐ってくの見てるんだよー」などという鬼畜な嫌がらせ電話をかけていた。余計なことはするもんじゃない。それらすべての通話が基地局解析のソースとなり、警察は地図上に「ポリゴン」「ボックス」と呼ばれる通話者の位置を絞り込む図形を作成していくことになる。
 そして、警察は、「犯人は日中はマンハッタンのミッドタウンから、夜間はロングアイランドのマサピークアからかけている」、つまり、マンハッタンに通勤していて、マサピークアにある住宅地に住んでいる男、ここまで突き止めた。しかもこれでマサピークアの数百件の住宅まで絞り込めたという。日本で言うと、「都心に通勤する千葉県松戸市●●町在住と推定される人物」、こんな感じ? 犯罪に関係する通話は、自宅からじゃなくて東京駅の真ん中みたいなとこからするようにしなくちゃ。

2) 目撃証言から車の登録をチェック

 そして、警察は同時にギルゴ・フォーのうちの一人が失踪直前に会うことになっていたと思われる人物を前日に目撃した被害者のボーイフレンドの証言に注目。その男は、比較的珍しいもう生産されていない車に乗っていたという。その車種、第一世代のシボレーアバランチを州の車両登録データベースで探したところ、あらびっくり、持ち主の一人がFBIが1)で作成したボックスの中に住んでいるではないか!! その男の名は、レックス・ヒューアーマン。59歳、結婚していて、子供が二人、建築家でマンハッタンのミッドタウンの自分の建築事務所がある。

容疑者が出会い系サイト上のお相手に送っていた自撮り写真

ここから、警察はこの男に捜査の焦点をしぼり、徐々に証拠を固めていく。犯罪には珍しい車を使っちゃダメだね。これがホンダのアコード(長いことアメリカでベストセラーだそうです)だったらここまで早く絞れなかったはず・・・。

3) 容疑者の妻の海外渡航記録のチェック、国内旅行の時期のチェック

 容疑者の妻は犯行の間、何をしていたのか? 警察は、妻の海外渡航記録を入手。これは入管を通ってすべて記録されているわけで、すぐにわかる。すると、妻がアイスランドに渡航していた時期が、ギルゴ・フォーの中の一人の失踪の日とぴたりと重なったではないか! 警察は更に、妻が契約している携帯電話の請求記録から彼女の国内旅行の時期も割り出す。やはり、妻がニューヨークを離れている時期と二人の被害者の失踪の日は一致していた。これは偶然としてはありえない。警察が現在立件している3件の殺人のすべてが、妻の不在の日に容疑者ヒューアーマンによって行われた犯行と考えて間違いなかろう。

4)容疑者の携帯電話、被害者の携帯電話、使い捨て携帯が一緒に移動している

 容疑者特定により、使い捨て携帯ではなく、こやつが正式に仕事や家族との連絡に使っている電話の番号が特定できる。そして令状により、その通信記録も手に入る。被害者の失踪日の携帯電話の通信情報の解析と比較すると、ある時点からこの二つの携帯電話は一緒に移動していることがわかる。そして、ヒューアーマンのスマホが使っている基地局と使い捨て携帯の基地局のエリアがかぶっている。使い捨て携帯とヒューアーマンのスマホは同じ時間に同じエリアで使われていた、すなわち使い捨て携帯の持ち主はヒューアーマンと結論づけられる。携帯電話の追跡技術、すごいっすね。ヒューアーマン・・・家に自分のスマホ置いて、使い捨て携帯だけもってでかけりゃよかったのに。

5) 容疑者のクレジットカードの明細 → 出会い系アプリのアカウント割り出し

 警察は更に、捜査令状により容疑者のアメックスのカード明細を入手。Google Payによって、繰り返し出会い系サイトTinderに頻繁に支払いが行われているではないか。そこから、Tinderに登録されている電話番号(新たな使い捨て携帯)、彼のメールアカウントを入手。偽名と使い捨て携帯で、クレイグリストではなく今度はティンダーで懲りずに性的なサービスを利用しまくっている容疑者・・・もちろん、どこでその電話を使ったかは、基地局からバレバレであり、それはやはり彼の自宅とマンハッタンの彼の職場の周辺だった。まるで、10年以上前の犯行時とそのまま同じ。警察が「こいつを止めなければ」と震えあがったのは想像に難くない。

6)使い捨てのメールアカウントから容疑者のGoogle検索が・・・

 前項で書いた通り、カード明細→ティンダーのアカウント→そのアカウントが使っている使い捨て携帯が明らかになり、警察はさらにその使い捨て携帯上で容疑者が使っていたいわゆる「捨てアカ」扱いのGmailアカウントを新たに発見。ここで世にも恐ろしい「グーグル捜査令状(Google warrant)」発動! つまり、「Googleさん、この捨てアカが何を検索していたかを警察に提出しなさい」というやつで・・・。これやられるなら死んだ方がマシ、という人も多いのでは。この容疑者の検索が、もうね・・・ひどい。NYタイムズ紙とか大手のメディアも検閲をかけて公開している。容疑者は、この捨てアカで、数千の児童ポルノやサディスティックな拷問ポルノ、性的なサービスを検索していたとのこと。こいつがいかに異常で危険かを示すために、検索ワードの例が30個、以下のように全世界に公開されてしまっています。こんな感じで・・・。

容疑者のGoogle検索ワードの例 気持ち悪い検索ばかりなので一部ぼかした

 悪いことはできません、本当に。警察、容赦なくあなたの恥ずかしい検索履歴を世界に公開しますよ。こやつの恥知らずの鬼畜ぶりに吐き気がします。もう病気だよね。そういうことが検索履歴から一発でわかってしまう。Googleは本当に個人個人の全人生や内面や欲望を知り過ぎている! プーチンに「おまえの検索履歴を公開してやる」って脅して、停戦に持ち込む、とかできるんじゃないか。
 四人の被害者たちが全員、すごく小柄で細かったというのは「犯人が自分のパワーを示すため、犯行後の遺棄を簡単にするため」とか分析している専門家がいたけれど、検索ワードからこいつは単に10歳くらいの女の子が大好きで特にそういう子が苦痛で泣いているところが見たいという正真正銘の変態で、その欲望を小柄な成人女性で満たそうとしたとしか思えない。そういや、検索ワードに「hentai」というのが入っていたな。ramen とか tofu みたいに英語になっていたとは・・・。

5) 事件への異常な関心

 警察のGoogle令状を使った追及はここでは終わらない。警察は、こいつが例の捨てアカで異常な回数、被害者の画像を繰り返し検索したり、捜査の進展を調べていたことを指摘。何が恐ろしいって画像や情報の検索が、被害者の家族やら親類やらまで及んでいたことです。一体、なんのために・・・? 事件の記憶をたどりたかったのか? それとも何か恐ろしいことを計画していたのか。
 2022年に捜査チームが新たに結成されてからは、非常に不安だったらしく、「why could law enforcement not trace the calls made by the long island serial killer(なぜ警察はロングアイランド連続殺人犯の通話を追跡できなかったのか?)」という非常に具体的な検索ワードまで入力している。いつかはばれるだろう、こんなに長い間ばれないなんておかしい、と本人も怖かったのでしょう。
 同時に、「アメリカの5大未解決連続殺人事件」とか「現在も活動中の連続殺人犯」みたいなワードも入力していて、自分の事件が有名なのが嬉しいかのような、自分のやったことが騒がれていることで自尊心が満たされているかのような痕跡もある。警察が保釈などもってのほか、と訴えるのもわかる。

6)DNAの証拠

 しかし、これまでの捜査では状況証拠しかない。「すべて偶然です、クレジットカードは盗まれてほかの人に使われた」などと言い逃れもできるかもしれない。物的証拠が欲しい。
 そこで被害者3人の遺体に残されていた被害者以外の体毛のDNA分析が行われた。まず女性の体毛であることが判明。被害者以外の女性の体毛・・・ということは・・・? 捜査チームは、レックス・ヒューアーマン宅が出したゴミをあさって空のペットボトル11本を回収、そこからDNAのサンプルを入手。ラボで解析が行われ、ご遺体から回収した体毛とペットボトルから検出された唾液のDNAが99.69%以上の確率で合致、これは容疑者の妻のDNAであると推測された。妻が犯行に関与したのかという憶測も呼んだけど、犯行時、妻は不在であったはず。どういうわけか、容疑者の妻の体毛が死体遺棄の際に使ったテープか運搬に使った車か何かにくっついて被害者のご遺体に残ったらしい。
 これはもうレックス・ヒューアーマンが犯人で確定でよいではないかと思うのですが、警察はまだまだ頑張る。ご遺体のひとつに、男性DNAの体毛がもう一本残っていたではないか。これを解析するしかない。事件当時の技術では、「ヨーロッパ系の白人の特性を持つDNA」ということまでしかわからなかったのだけど、DNA分析はこの10年の間で新たな技術革新があったらしい。それを使って、なんとかこの体毛とレックス・ヒューアーマンの関連を証明できないものか? 警察はチャンスを待ちます。
 レックス・ヒューアーマンの名が捜査線上に浮上してからは、警察の監視チームが常時ヒューアーマンに付いていたらしいんだけど、ある日監視チームの一人がマンハッタンの建物の入り口の監視カメラで、ヒューアーマンが食べ終わったピザの箱をゴミ箱に捨てるところを確認! 別のチームメンバーがゴミ箱に急行して、ピザボックスを回収、そして警察の鑑識のラボに回したとのこと。ハイテクなのかローテクなのか、よくわからないけど警察、すごい。

保釈反対リポートで大反響だったピザボックス

 そして、食べかけのピザから採取したサンプルとご遺体にあった体毛のDNAが99.96%の確率で一致、ここで警察は「逮捕に踏み切ってよし」となったようです。

事件が10年以上未解決だった理由

 警察の記者会見は非常にエモーショナルな感じで、捜査本部のトップが、
「昨年、遺族の方々にお会いしてお話しさせていただき、ギルゴ・ビーチの殺人事件を優先順位のトップに持ってきて解決にあたるとお約束しました。そして特別捜査本部を新たに結成し、郡警察、州警察、ニューヨーク市警、FBIで協力してやってきました。皆さんの仕事ぶりに感謝し、誇りに思います。被害者の方々は帰ってくることはありません。しかし、今回の逮捕が遺族の方にとってせめてもの慰めとなり区切り(closure)となることを願います。」
みたいなトーンで感極まっていて、私も「警察、よくやった!」と思ったんだけど・・・だけど・・・

この10年間、何してたの?

 これ、いろんな人がつっこんでるとこです。だって、容疑者特定のきっかけになった1)と2)に新捜査本部がたどり着くまでにたったの6週間だったというではないですか。車の目撃証言は10年前からファイルにあったわけだし、ご遺体が発見された当時、10年前でも逮捕できたんじゃない? と思うわけです。
 そこで、当時の捜査本部のことを掘り返すと・・・その当時に捜査を率いていた自治体の警察署長がまたすごい。なんかドラマに出てくる典型的なダーティー・コップみたいな感じ。この方、ギルゴ・ビーチ周辺で死体がどんどん発見されて一番捜査を頑張らなくちゃいけない時期に、乗っていた警察支給のSUVが運悪く車強盗にあってしまったのですよ。そして、強盗に後部座席のダッフルバッグを盗られたのですが、そこには銃器のほか、オトナのおもちゃとポルノがどっさりだったという・・・。強盗のほうもまさか警察署長の車とは知らずにやっちゃったというから、なんかどっちもどっちで本当に間抜け過ぎる・・・。そして、警察署長はこの間抜けな強盗をもちろんひっ捕らえ、テメー俺にこんなことしてただですむと署内の地下の取調室にぶちこんでリンチ。
「弁護士を呼んでくれ、弁護士を呼ぶ権利がある、と何度も言ったが、耳をつかんで床を引きずり回されて暴行され、致死量のヘロインを打って殺してやると言われました。」(間抜けな車強盗の証言)
「古き良き時代を思い出すぜ、と暴行を自慢げに語っていました。」(署内のほかの警察官の証言)
 まあさすがに殺すまではしなかったということで、そこはよかったんだけど、警察署長は連続殺人の捜査を指揮しながらこれを隠蔽するのにお忙しかったようで・・・。いろいろと隠したいことがほかにもあったらしく、頑なにFBI の捜査協力を遠ざけていたとのこと。まあ、結局、車強盗も署長も両方仲良くムショ入りしてます。
 こんなのがトップだったということで、当時の捜査には今も多くの疑問の声が上がっていて、「警察署長犯人説」も囁かれていたほど。ロバート・コルカーの本の中で、遺族の方々も「警察がセッ〇ス・ワーカーを軽く見ていたから事件を防げず、捜査もちゃんとなされなかった」と悔しがっている。
 今回の逮捕って、実は全然快挙じゃなくて、実は10年経ってからやっとやるべきことが行われたというだけで、日本の警察だったら6か月くらいで全部終わらせそうな感じもしてきました・・・。

まとめ

 ということで、まとめると、アメリカの警察は本気出すとすごいけど、はずれにあたっちゃうと地獄、ってことでしょうかね。
 警察の記者会見で、捜査本部のリーダーたちが何人も遺族へのお悔やみと自分のチームへのねぎらいを次々と述べている中、一人だけ短く、
「まだ全く終わっていません。逮捕の報道を見て、何か警察に提供できる情報があると気付いた方はxxx-xxx-xxxxまでお願いします。」
と淡々と情報提供の電話番号だけ言って終わった人がいた。そう、まだ終わっていないんだよね・・・。身元不明の死体も含めて、同じ容疑者による犯行なのか、すべてをはっきりさせないと! これに関しては同一人物による犯行であるという意見と、あまりに死体の遺棄の方法が違い過ぎて同一人物とは思えないという意見にまっぷたつに割れている。もし後者だったら、レックス・ヒューアーマンみたいな鬼畜がほかにもいて、今も市民に紛れて普通に生活しているということで・・・ヒィー!!!
 ニューヨークの警察の方々!! 本気出してくれ!! 頼むよ!!!

「ゲイ・カップルのためにウェブサイトは作れない」、言論の自由と差別からの自由、どちらが優先されるのか

アメリカの最高裁 (https://pixabay.com/photos/us-supreme-court-building-2225765/)

 アメリカの法曹界って、日本でいう所の「年度末」みたいなのがあって、どうやらそれが6月末らしい。そのせいで、6月最終週はアメリカの最高裁で重要判決目白押しでした。その中で、私が深く悩んでしまったのが、あるウェブデザイナーコロラド州の裁判の判決です。
 
 簡単に訴訟の内容を説明すると・・・

 アメリカのコロラド州のグラフィック・デザイナー、ロリ―・スミスさんという方がこんな主張をされておられるわけですよ。

「私は、ロゴや店舗の看板を始め、あらゆるもののデザインを手掛けるデザイナー。私の住むコロラド州の州法が定める通り、私は、あらゆる人種、あらゆる信条、性的指向を持つ人々とビジネスをしようとしている。しかし、私は敬虔なクリスチャン、結婚は男性と女性との間のものであるべきだという固い信条を持っている。だから、同性婚をする客からのウェディング・ウェブサイト作成の依頼は断りたい。同性婚を祝福するようなメッセージを含むものは作れない。コロラド州はそうした私に対して、罰則を適用することはできない。それは私の言論の自由への侵害である。」

 つまりスミスさんは、コロラド州の「おおやけに向けてビジネスをオープンしている人は、肌の色とか出身国とか性的指向とかで、あの人は客にするけど、こっちの人はダメ、みたいなことはしちゃいかん、それは差別ですよ、罰則がありますからね」という法律に挑戦しているということ。
 この法律っておそらく元々は、黒人差別が横行したいた時代、「黒人お断り」「白人オンリー」みたいな看板かかげている店がうじゃうじゃあった時代、そういう時代みたいにならないためのものだと思われます。映画とかでこういうシーン、観た事ありませんか? 

場面:とある食料品店
黒人(日本人でもいい)の子供「リンゴを三つください」
店主「売り切れだよ」
子供「えっ・・・でもほらあそこの箱にたくさんありますけど・・・」
店主(ちらりとリンゴを見て)「ああ、あれは明日の分だから」
子供 (店の外にとぼとぼと出てくる。)
ほどなくして、その彼を同じ店から出て来たリンゴを持った白人が追い越していく。

・・・というような展開です。このバリエーションがよく小説や映画で出てくるような・・・。まあとにかく、コロラド州の法律の背景は人々がこういう差別にあわず暮らせるように、こういう差別があったら抗議の声をあげられるように、という意図で作られたという背景があります。

 そして最近の結婚ですが、どうやら「ウェディング・ウェブサイト」なるものを作る人が多いんですかね? 結婚する二人がどういう人で、二人にどういう歴史があるのかとか、結婚式のスケジュールや会場まで行き方とか、そういうのをウェブサイトにするらしい。紙の節約にもなるし、招待客も道に迷ったらすぐそのサイトにアクセスできるし・・・便利だけど・・・なんか結婚ってどうもナルシストな匂いが漂いますね。まあとにかく、スミスさんは、ゲイカップルのためにそんなものを作るのは、同性婚絶対反対の私には無理、とおっしゃられているわけですよ。
 まあ彼女の気持ちは想像できんでもないのですが、なんでそこで「言論の自由」が出てくるのか、まずこれが紛らわしい。「宗教権の行使」じゃなくて「言論の自由」。 合衆国憲法で保証されている大切な大切な権利です。いつも非常に都合よく使われている難しい権利でもありますが。 「言論の自由」、国家はすべての人の自由な発言や表現を保証するという、日本でももちろん保証されている権利でわかりやすいとは思いますが、スミスさんが主張しているのはその逆バージョンなんですよ。つまり「国は、個人の信条や主張に反した発言・表現を強制することはできない」という「発言しない権利」です。「自由な発言の権利」も認められているし、「しない権利」も認められているというわけです。これも、「言論の自由」の一部なんですねー。 だから、国歌斉唱の時に斉唱しないで抗議のためにひざまずいてもいいし、公立校で毎朝「星条旗に忠誠を誓います」みたいな宣誓するのも嫌ならやらなくていい。強制はできない。日本でどっかの知事が「君が代の時に座ってる教職員はクビ」みたいなこと言ってたことあったけど、アメリカでそれやったらその知事のほうが裁判に負けるということ。
 スミスさんは、「ウェブサイトは私の表現 → だからゲイ結婚祝福を表現することになっちゃう → 望まない表現を強制されない権利の侵害だよね → 政府にゲイカップル差別で罰則受けるいわれはない」という論理なわけですね。わかります、わかります・・・と言いたいところですが・・・でも・・・じゃあ・・・

 ウェブ・デザイナーがデザインを依頼されたウェブサイトに「窓の修理ならウィンドウ・ガイ!最もお得でベストな俺たち!」に書いてあったら、そのデザイナーが「ウィンドウ・ガイという会社はその業界で一番お得だし腕前がいい」と認めたことになるのか?
 ウェブ・デザイナーが自分がデザインを依頼されたウェブサイトに「はぁ!?まだそんな薄い髪で婚活してんの!? 三日で結果が出る増毛剤↓↓」とでかでかと載せたら、そのデザイナーが頭髪の量で誰かを差別するメッセージを発したことになるのか?
 ウェブ・デザイナーが「宇宙人はいる! 政府の陰謀論を解説」みたいなウェブサイトをデザインする仕事受けたら、その人は陰謀論者なの?
 ウェブデザイナー以外でもいろいろあるよね?
 客から依頼された絵や字をTシャツにプリントする会社が「神は死んだ」っていうTシャツ作ったら、その会社は神を冒涜したことになるの?
 ハリウッド俳優が悪役の台詞で「薄汚い日本人の豚野郎め、お前らは滅びろ!」って迫真の演技で言ったら、その俳優は日本人差別のメッセージを発したことになるの?

 ちょっと違うんじゃないのか、と思うんですけどね。
 それはその仕事を依頼した人たちのメッセージであって、デザインしたり演じたりした人たちのメッセージじゃないですよね。それ言い始めたら、なんだって「自分の表現」になっちゃわないか? 最高裁の判事の一人も、「極端な話だけど、サブウェイでは客にサンドイッチを作るラインの人たちを”アーティスト”って呼んでいる。そのアーティストたちがひとつひとつのサンドイッチは自分たちの表現だから、ゲイ・カップルのためにその表現活動はしたくないとか言い出すこともできるんじゃないの」みたいなこと言ってたな。
 それに、この主張が通ったら、ゲイの人たちだけじゃなくて、今、差別から保護しようとしているあらゆるグループに影響が及んでしまう。つまり、日本人含む少数人種も。とある判事は想定される醜い例として、「スクール・ピクチャーを担当するカメラマンが、撮影は私の表現、私は敬虔なクリスチャンで異人種間の結婚は信条に反する。だから、異人種間結婚の家庭から来ている子供の写真は撮りたくない」、こんなことが起こったらどうすんの、と疑問を呈してましたね。この時代に信じられないことですが、同性婚反対者ほど多くはないとはいえ、異人種間結婚は神の意向に反するとマジで信じている人たちが結構いるんですよ。
 それに、これ宗教が絡まなくても、「私の信条に反します」と言えばなんでもありになるよね、というのは最高裁でも指摘されていました。差別への道が開けてしまう。「私の祖父は第二次世界大戦で日本人に殺されました。日本人とビジネスするな、というのは我が家の家訓です。私は美容師ですが、一つ一つの髪型は私の独自の表現なので、日本人の方のヘアスタイリングはしません。」 こんなのもオッケーになりかねない。

 だがしかし! こんな差別への道を開いちゃうようなウェブデザイナーさんの主張は認めるわけにはいかん、と言いたいところですが、そうも単純にいかんのですよ。ここで、「ロリ―・スミスさん、あんた間違っとる、あんたが心の中でどんな信仰、信条を持ってもそれはまったくの自由、でもみんなにオープンしているビジネスなんだから仕事は仕事」というソトマイヨール判事(リベラル、オバマ指名)のような意見が通ってしまうと、これはこれで醜い展開も予想されるわけです。保守派判事は、「自分の信条に反して、サイエントロジー(のようなカルト)のためのウェブサイトもデザインしろというのか?」と言っていたけれど、本当にその通りで、逆にゲイのウェブ・デザイナーに「最高裁同性婚違憲にしよう!」というキャンペーンのウェブサイトも依頼できちゃうわけです。黒人の画家に白人至上主義者の肖像画を依頼したりとか。

 これって・・・死刑制度の是非のように、恰好のディベートの題材ですよね。正解が無い。あっちを立てればこっちが倒れ、こっちを立てればあっちが倒れる、みたいな。
 
 結論を書きます。アメリカの最高裁では、6-3の多数決でウェブ・デザイナーの主張が認められました。最近、6-3ばっかりですね。保守派判事6人全員がウェブ・デザイナーの主張を支持、リベラル判事3人が反対。

 「Expressive Job=自己の表現と認められる仕事」とは何か? これに関してかなりの議論がなされたようではあるのですが、結局明確な基準等は見いだせずあいまいなまま最終的な判決に至ったようです。どっちに転んでもかなり苦しい判決だけど、今の最高裁は保守派が多いので、ウェブデザイナーの主張に同情的だったというだけ、と解説されていましたね。ゲイ・コミュニティにとっては大きな敗北、大きな後退であることは間違いなく、がっかりしている方も多いと思われます。今後、同様の「ゲイ・カップルお断り」がしやすくなる流れであり、それよりも何よりも、当人や当人のご家族は自分たちが社会から拒絶されたように感じ、傷ついておられることでしょう。難しいよね、やっぱり。今が踏ん張り時かもなあ・・・。

 でもさあ、そのゲイ・カップルもなんでまたこういうゴリゴリのクリスチャンに仕事依頼して、訴えられて負けてゲイ・コミュニティ全体に不利益を及ぼすようなヘタをこいてるわけ? ほかにもウェブ・デザイナーはいっぱいいるでしょうに。まさか「僕らの結婚を神もきっと祝福してくれる!」とかクリスチャンの神経を逆なでするようなメッセージを入れろとか言ってないでしょうね!? 一体どんなゲイ・カップルなわけ?

 などと思っていたら・・・・・・なんと、なんと、このゲイ・カップルは「存在しない」のだそうです。 え?え?え?はあ?ってなりますよね。

 なんでも、今回訴えたウェブ・デザイナーさんは、
「同じ街にゲイの結婚式のためのウェディング・ケーキ作成を断って最高裁で戦ったケーキ職人がいるのを知っている。私はこれからウィディング・ウェブサイトの分野に参入しようと計画しており、将来、ゲイの人たちの依頼を断って州から罰則を受けるのを防ごうと思った」
という考えで、そのケーキ職人の弁護を担当したクリスチャン連盟みたいなところを組んで戦ったそうで・・・。(ちなみにケーキ職人のケースは、その職人が部分的な勝利を勝ち取ってはいるのの、その時は最高裁ははっきりとした判決に至らず終わったそうです。)コロラド州側の弁護士は、「そもそも訴訟するだけの根拠が無いじゃないか」と主張したらしいのですが、そこでウェブ・デザイナー側が持ち出してきたのが、何年も前のたった一通のオンラインフォームからの申し込み。男性名で、
「○○月に×××という男性との結婚を予定しているので、招待客のテーブルに置く名札などのデザインを依頼したいです。ウェブサイト作成も視野に入れています」
という内容で、ロリ―・スミスさんは無視して返信もしなかったそうな(いいのか、プロとして・・・)。
 つまり、実際にクライアントの依頼を拒否して係争状態になったわけでもなんでもなく、「将来そうなるかもしれないから~」というだけで最高裁で争ったという・・・。なんか、最高裁ってそんなもんなの? よくわからなくなってきましたよ、私は。
 しかも、どっかのメディアが、そのオンライン・フォームを送った男性の正体をメールアドレスから突き止めて、直撃取材をしたところ、その男性曰く、
「僕は絶対にそんなのは送ってない、それは僕がやったんじゃない」。男性は、同じ女性と10年以上結婚しているし、「僕自身がデザイナーだから、そんな依頼をほかのデザイナーにするのはありえないんだけど」、だってさ。
 結局、ウェブデザイナー側が「訴訟の根拠」として提出したたったひとつのオンライン・フォームからの申し込みは、なりすましによる荒らしか自作自演かいたずらだったということで、そもそも必要の無い訴訟だったという・・・。「誰もあんたになんか依頼しないよ!」というゲイ・コミュニティからの大合唱が聞こえてきそう。必要の無い訴訟起こされて、負けて、生きづらい立場に追いやられて、ほんとゲイの人たちはつらいところだよね。でも、「大変だからゲイやめるよ」ってわけにいかないんだよ、そうできないことに苦しんでるわけだし。
 
 これ結局、勝者はロリ―・スミスさんでも誰でもなく、割り切って仕事できる人かな。

同性婚でも異性婚でもなんでもお仕事受け付けます! 来るもの拒まず! 私は、白人至上主義者のウェブサイトをデザインした次の週にブラック・ライブズ・マターのウェブサイトのデザインができるデザイナー! ご依頼いただければ、そして金払ってくれるんなら、感情挟まずなんでもデザイン致します! まるでAIのように! 安い速いうまい! 金金金MoneyMoneyMoney$$$¥¥¥!!!」

 こういう人が勝ち組? 一番依頼がたくさん来そう。でもまじめな話、いろいろえり好みしてるとAIに仕事とられちゃうよ、ウェブ・デザイナーさん。

アメリカ人のタイタニック・オブセッション

 先週一週間、アメリカのニュースは海底に沈んだタイタニックを観に行く潜水艇が行方不明になったニュースで盛り上がりに盛り上がった。確か6月18日の日曜日に、潜水艇が連絡を絶ったという一報が報道され、それ以降はもう・・・

「酸素が持つのは木曜午前中まで! 残された時間は〇〇時間!時間との闘い!」
「乗っていた客は大金持ち3人とその息子、操縦士はその潜水艇観光の会社の社長!!」
「客は一人あたり(日本円にして約)2500万円の費用を払っていた!!」
「フランス、カナダ、アメリカの国際チームが国際水域を捜索中!!」
「8時間を切った!!」
「海中から何かを激しく殴打するノイズを検出、その付近を集中捜索!!」

 五人の人間が潜水艇に閉じ込められ、薄れゆく酸素の中、出してくれ助けてくれと潜水艇の壁を叩き、それを救いに行く精鋭中の精鋭のヒーロー!! うまくいったら映画化確実だな!! ・・・まるでそんな報道がなされ、SNSは素人リポーターであふれ、あまり進展も無いのに遠い関係者とか過去に同じ潜水艇に乗った人たちとかを引っ張り出してきて、おびただしい数のニュースが無理やり生み出され、そしてあっという間に暇な大衆に消費された。

 実際のところは・・・
 
 海底ではGPSが使えないため、15分おきに現在位置を母艦に知らせることになっていた潜水艇からちょうど海底についたかつかないかくらいの時間(潜水をはじめて2時間~3時間くらい)に位置通知の交信が来なくなって、ちょうどその時間くらいに爆発音が軍かどこかの船のソナーに拾われていたらしい。つまり、捜索チームは潜水艇が水圧に耐え切れず内破したという一瞬の悲劇をほぼ確信していて、生存者がいないであろうことも知っていて、捜索は確実にそうであったという確認をすること、つまり潜水艇の残骸発見に目的を置いていたと思われる。結局、センセーショナルに報道されたいた「殴打ノイズ」は問題の潜水艇と何の関係も無かったし、時間との戦いでもなんでもなかった。

 このニュースが盛り上がれば盛り上がるほど、同時に巨大なクエスチョン・マークも人々の間で漂い始める。

「これって・・・そんなにニュースにするほどのこと? なんでこんなに騒がれてるの・・・?」

 そんなもやもやである。
 ニュースの大原則として、「悲劇は売れる」というのがあるらしい。私が大好きでコレクションしている間抜けなニュースや笑えるニュースみたいなのはうけないということ。まあ、わかる気がするんだけど、でも・・・でも・・・今回の事故って・・・そんなに「悲劇」・・・か・・・? 
 もともとかなり無理のある実験的な潜水艇で、専門家から厳しい警告を受けながらのベンチャービジネスだったというし、乗客も「障害を負ったり、死んだりしても御社を訴えません」的な文書にサインしていたというし。つまり冒険好きな大金持ちたちがリスクを知りながらありあまる金をつかって参加していたわけで・・・。「あの潜水艇はやばいよ、頼むから乗らないでくれ、と真剣に言ったが、彼(乗客の一人のフランス人男性)は笑ってとりあわなかった」と冒険仲間もインタビューで言っていた。悲劇と言えるのは、父親に誘われてこの冒険に出かけた19歳の青年だけじゃないのかな。彼自身はあまり乗り気じゃなかったけれど、父の日だし父親を喜ばせたかったらしい。

 ここで引き合いに出されるのが、ちょうどこの潜水艇事故の前の週に起こったギリシャ沖の移民船沈没事故である。数日違いで起こった海難事故で、犠牲者の数は数百人にのぼるというのに、国際的な救助体制がほんの数時間で稼働を始めたか? ニューヨーク・タイムズで一面で報じて、刻一刻と速報が伝えられたか? TikTokでアクセス数爆上がりだったか? いやもう、ぜーんぜん。そんな船が沈んだことを知っているアメリカ人は、ほとんどいませんね。

 この、報道の不可解なまでの偏り、昨年のギャビー・ペティートさん失踪事件を思い出します。ある日突然、ギャビー・ペティートなる若い白人女性のワイオミングの国立公園での失踪がニューヨーク・タイムズ紙はじめアメリカの主要メディアの見出しを独占するようになり、連日連夜過熱報道が続き、正直なんで彼女の失踪事件がここまでニュースになるのか大衆もわからないけれど、多くの人がニュースをフォローしてしまうという不思議現象が起こった。結局、ペティートさんは彼氏とのいわゆる「痴情のもつれ」で殺害されたと見られご遺体も無事回収されたという事件だったんだけど、先住民の女性もこれまで同じ地域でたくさん行方不明になって来たんだけどねえ・・・黒人女性も毎年毎年あちこちで行方不明になってるんだけど・・・? というやはり巨大なクエスチョンマークも大衆の頭上にもやもやと漂った報道合戦であった。
 ギャビー・ペティートさん事件がアメリカ人の「消えた白人少女オブセッション」を浮き彫りにした事件なら、今回の潜水艇事故は、アメリカ人の「タイタニックオブセッション」を示している事故だと思う。今回の潜水艇事故がここまで騒がれたのって、やっぱりタイタニックが絡んでいるからじゃないのか、と思うわけです。

「海底に残された洞爺丸の船体の一部を観に行った5人戻らず!!」

 ↑↑↑こんなことがあったとして、たとえこの5人にアメリカ人が入っていたとしても、きっとあまり気にしてはもらえまい。国際ニュースの三番目くらいに載るか載らないか・・・くらいだろう。第一、洞爺丸の事故現場を観に行くのに、2500万円払う人はきっといない。洞爺丸だって海難事故史上最悪レベルの大事故なのに。亡くなった祖母がこの事故のことをよく話していましたよ。でも、日本人だってタイタニックのことは知っていても、洞爺丸のことは知らない人、多いよね?

 今回の事故はやはり「他の何物でもない、タイタニックを観に行った」ということが間違いなくニュースの価値を高めた。

 ではなぜ人々は、特にアメリカ人はこんなにもタイタニックにこだわるのか? そこがよくわからないので、私の小さい脳みそで考えてみた。(ちなみに、ジェームズ・キャメロンさんの映画の影響は理由に入れません。なぜなら、鶏が先が卵が先かみたいになるけど、あの映画があるからアメリカ人がタイタニックにこだわるようになったわけではなく、先にキャメロン監督含むタイタニックにとりつかれている人々が多いからあんなすごい予算の映画が作られたわけで・・・。映画の前からある現象だと思うからです。)

タイタニックオブセッションの理由その1:でかくて金がかかった船だったから

 最初は、海難事故史上、最高レベルの犠牲者数(約1500人)を出して事故だからかな、と思ったのですが、そのレベルの事故ってほかにもある。でも、なぜタイタニックだけこれだけ有名なのかというと、やはり船の規模と当時の最新技術を駆使して贅を尽くした造り、そしてそれが一回目の航海すら完了できずに散った・・・そのへんにあるのではないかと思うわけです。その当時のハイ・エンド中のハイ・エンド、大衆のドリーム・シップだったわけで・・・。これが、「貧民をすし詰めにして航行した漁船が沈没、犠牲者2000人」だったら、ここまで後世ギャーギャー言ってもらえません。実際、アメリカではサルタナ号沈没事故という犠牲者ウン千人規模の事故が、タイタニックのだいぶ前の時代に起こっているんだけど、誰も気にしてませんねー。ボロ貨物船じゃ派手に散っても後世に語り継いでもらえないらしいです。

タイタニックオブセッションの理由その2:お金持ちの白人様が乗っていたから

 ここやはり重要です。ジェームズ・キャメロンも『THE TITANIC』は作っても『THE TOUYA-MARU』は作らんでしょう。やはり同胞の悲劇じゃないですから。確か平時の海難事故の犠牲の大きさナンバー1はフィリピンの船のはずなんですけど、残念ながらお金持ちの白人様が乗っていないと悲劇認定されないみたいですね。人間の命って平等じゃないんだな。前述のサルタナ号はアメリカ国内ミシシッピ川で起こった事故だったから、白人様は乗っていたはずだけど、残念ながら「重要な」「お金持ちの」白人様ではなかったんでしょうな。白人は白人でもそのへんの貧民じゃだめで、いいとこの人が乗っていないとニュース性が薄いらしい。今回の潜水艇事故も大金持ちばっかり乗っていたしね・・・。大金持ちの白人様5人>>>>>>>>>>>>>>貧しい移民150人、現代でも人々の関心はこうなのだから、タイタニック号沈没事故が100年を越えて人々をぐっとつかんでいるのも、やはり当時のお金持ちでハイクラスの白人様の乗る船だったから、というのはあるかと。

タイタニックオブセッションの理由その3:ほどよく時間が流れているから

 100年くらい、ということで事故が風化するというより、伝説っぽくなって、フィクションのようになっているところがある。乗船していた方々を直接知っている遺族の方も減り、世代が変わって、傷がある程度癒えるくらいの時間が経った。この事故後の時間の経過が短すぎると、今回の潜水艇のような「観光ツアー」はありえないし、悲劇の事故をロマンチックな悲恋映画に仕立て上げたようなものも作れない。家族の帰りを待っている遺族の方にあまりにも失礼かつ無神経だから。しかし、100年も経つと、1500人の尊い命が無念に失われたという事故の重み自体は薄れ、何か儚い美しいイメージになって人々を魅了している感じ。各地のサイエンス・センターとかでも、よく「タイタニック展」とかやってますからね。でも、「911展」とか「フクイチ展」とかやってお金とることはしないだろうし、できない(ニューヨークの911ミュージアムは開館した時はすごい話題になったけれど、パンデミックなんかの影響もあり現在は閉館、やはり事件から時間があまり経過しておらずあまりに生々しかったのでしょう)。100年経って、観光やエンタメやニュースとして消費していいようなムードになってしまったという・・・。たくさん人が亡くなった事故であるという事実は変わらないのにね。

タイタニックオブセッションの理由その4:みんなが知ってるから

 実はこれが真の理由なんじゃないかという・・・。タイタニックは、その悲劇の内容や歴史へのインパクトのレベルではなく、「世界中のみんな知っているということで知られている海難事故」、これが知名度の理由になってしまってないか。つまり、キム・カダーシアンのように「なんで有名になったのか誰もわからないのに有名なことで有名」、こうなっているような気がする。もっと歴史を変えた事件やもっと悲惨な事故はあるのに、そっちよりもタイタニックのことをみんなが知っているのは、みんなが知っているから知っていないとおかしい、みたいな現象なんでは。

 
 以上が、私がぼんやりと推測するタイタニックオブセッションの理由です。まあ、オブセッションと言うのは「理不尽なまでにひとつのことにこだわってしまう」というような心の状態だと思うので、理由を解析しても無駄なのかもしれないけれど。

 今回、潜水艇で亡くなった方の中に、なんとこれまでに30回を越える回数、海底にあるタイタニックの残骸を観に行ったという人がいるんですよ。もしかしてその人は、
タイタニックのあのフォルム・・・あのカーブがたまらないっ、10歳の時に写真で見て以来、もうとりこだ・・・何度観ても飽きない、ああ、もう3か月も至近距離で観ていない・・・体調が悪くなってきた・・・タイタニックよ、今週末また会いに行くからねーーーーー!!!」
みたいなフェティッシュな偏愛を持っていて、タイタニックが大好きで大好きでたまらない人だったのかもしれないし、そうだったら大好きなタイタニックのそばで永遠の眠りについてそれはそれで幸せだったのかもな、と思えるんだけど、そうだったらいいなと思うんだけど、他の人たちが「理由4」で乗船していないことを祈ります。つまり、お金あり余っててどう使っていいのかわからない人が「世界の誰もが知っているに違いないタイタニックを特権階級しか行けない海底ツアーで観に行くぜ!」みたいなんだったら悲しいよね。
 過酷な自然の前にあっさり散ったタイタニック号事故の犠牲者たちも、観光や冒険や探索の目標にされることは望んでないと思うよ。どうか自分たちのような犠牲が再び出ませんように、みんな、大自然に充分な敬意と注意をはらうことを忘れないでね、って言ってると思うんだけどねえ・・・。

WBC、悲しいくらいアメリカで盛り上がってない


Image by Gillian Callison from Pixabay

 日本チーム、WBC優勝おめでとうございます!!

 試合はまったく観ていないけれど、日本のニュースが連日それ一色、ソーシャルメディアもその話題でもちきりなので、おそらくワールドカップ以上の騒ぎになっていることでしょう。 羨ましい、じつに羨ましい。祭りに参加できないこの寂しさよ・・・アメリカで開催されている大会だというのに!!
 アメリカでやってるんだし、アメリカチームだって強いんだから、もっとWBC自体がアメリカのメディアで取り上げられて大騒ぎされてもいいと思うんですけどね。私は、日本でいう所の「中規模の地方都市」という感じのところに住んでいるわけですが、おそらく私の居住地域のアメリカ人のほとんどはWBCの存在自体を知らず、今夜が決勝だったことすら知らないと思います。野球やってる人とか野球のファンなら知ってるでしょうが、そういう人たちが本当に少ない。これって、日本人がイメージする「アメリカ」、つまりカリフォルニアとかニューヨークとかハワイとかそういう有名大都市近辺に行けば違うんだろうか。

 でも、私、アメリカのニュースメディアがその日の注目ニュースを紹介してくれる毎日更新のポッドキャストを数種類聞いてるんですけど、それらでもやっぱりWBCが日本のようにはニュースになっていない。最近のスポーツの話題と言えば、春の大学バスケの話題ばかりなんです。日本で言うと甲子園みたいな感じで、皆さん自分の出身校とか故郷の大学を熱烈に応援したり職場でお金賭けたりして盛り上がる、アメリカ人の春の大注目スポーツイベントなんですけど、それと今回のWBCがばっちりかぶってまして。ニュース系のポッドキャスト聴きながら、WBCの話題は無いんかい、と虚しさが募りました。
 そして昨日、やっとUSA Todayのその日の5大ニュースを教えてくれるポッドキャストで、「アメリカチームがWBCの決勝進出を決めました」というニュースが。おおついにWBCの話題がニュースに来たぜ!と思ったら、アメリカチームに関してはほとんど触れず、「対戦相手はメキシコを破った日本です」と日本の話題になり、
「日本では準決勝戦の視聴率が48%、なんとこれはこの間のスーパーボウル(アメフトのリーグ頂上決戦の試合)のアメリカ国内の視聴率より高かったということになります。どれほど日本で盛り上がっているかおわかりでしょう。それでは、決勝進出が決まった瞬間の日本の試合の実況の音声をどうぞ!」
という流れに。そして、サヨナラ弾に狂喜する観客と日本の実況の方々の音声が流れ、「ワーオ、すごいですね」みたいな感じで終わってしまった・・・。おいおい、USA Todayさんよ、アメリカチームが決勝行ったことより、日本での異様な盛り上がりのほうにニュース性あるってことかい? 
 なんかほんとにね・・・どうして野球はアメリカでこんなに人気無くなっちゃったの? 野球、好きだから、MLBとかWBCとかがもっと盛り上がってくれないと、みんなの大好きなオオタニさんがいくら頑張っても彼の素晴らしさは伝わらないのよ。あと・・・、野球不人気だけがWBC不完全燃焼の原因じゃなく、アメリカ人って、なんかあんまり世界に目を向けないところがある感じがする。WBCだけじゃなくて、オリンピックとかサッカーのワールドカップの視聴率も関心度も低い。日本みたいに盛り上がらない。アメリカが世界。自分の住んでいる州が国。アメリカという世界が大き過ぎてその外のことまで考えていられないってか? それともなんだかんだで自分の国がナンバー1だから、その中でわちゃわちゃナンバー1競うようなスーパーボウルとかワールド・シリーズみたいなイベント以外はどうでもいいってか? なんか・・・ヤな感じ!!
 しかしまあ、そうした国民性は置いといて、今回WBCの日本における熱狂みたいなのがアメリカで全然無かった背景に、アメリカ国内の野球人気の下降があるのは確か。特に、若ければ若いほどその傾向は顕著で、野球がブーマー世代の過去の遺物になりつつある。つまりおじさんおばさん、おじいさんおばあさんの娯楽になっちゃっているということ。MLB、さすがに無くなりはしないだろうけど、そろそろ若い世代の敏腕改革者とか雇って頑張らないとまずいと思う。

 人気低下の原因は、いろいろあるんだけど、だいたい以下のような感じ。

1)昔は野球くらいしか人気スポーツが無かったが、他にもいろいろ選択肢が出て来た

 これにつきるのでは、という意見も多い。おじいちゃんおばあちゃんの時代は、近所の子供たちで野球して遊んでいて、試合のルールを知らない子はいなかったのに、テレビ文化の発展で、アメリカン・フットボールやらバスケットボールやら、最近ではサッカーも子供たちの知るところに。現在の動画配信チャンネルの競合もそうだけど、人々の限られたテレビ視聴の時間をそれらのほかのスポーツと競って奪い合う中で、野球がかつてほどの圧倒的な人気を保てなくなった、ということ。

2)若い世代のアテンション・スパンの短さに合っていない

 では、なぜほかのスポーツとの視聴競争に勝てなかったのかと言うと、現代人の忙しいライフスタイルに合っていないというのも一因。確かに、アメフト、バスケ、サッカー、ライバルである他のスポーツはすべてカチッと時間が決まっている。ハーフタイムや審判が時計を止める時間を含めても、だいたい2時間以内には終わります。しかし野球は確か平均3時間。延長にもなりうる。「とにかく試合が長い」というのはよく聞きます。しかし、私は野球やテニスのような終わりがわからないスポーツは、「最後の1アウト(テニスの場合は最後の1ポイント)まで理論上はどちらが勝つかはわからない」という面白さがあると思うんですけどね。時間で区切られてしまうスポーツはそれゆえのドラマもありますが、残り時間から考えると逆転は無理だと途中で分かってしまう白ける試合も多いじゃないですか。そんなスポーツばっかりでもねえ。終わりがわからないのが野球のいいところなのに。しかしまあ、私のようなヤツは若い世代にはいないようです。あと、試合だけではなく、シーズン自体もダラダラと長い、試合数も多い、これもウケない理由らしい。確かにバスケ、アメフトはシーズン短いですね。

3)試合が退屈

 止まってる時間が多い、エキサイティングな動きがあまり無い、ということらしい。これからは野球選手には、つねに飛んだり跳ねたり踊ったり、ちょっとのことで乱闘騒ぎしてもらうしかないな。真面目な話、年間本塁打記録が長い間破られなかったことからもわかる通り、今のMLBが完全に「守備優位」つまり「ピッチャー優位」になってしまっている、ピッチングの進化に対してバッティングの進化が遅れて三振ショーが多くなってしまった、というところがどうやら「退屈」ととられるようです。つまり、豪快に投げて豪快に打って華麗にスライディング、華麗に守備、とにかく激しさが欲しいということらしい。これは・・・もうボールを大きくするしかないか?

4)年俸のキャップが無いため、金満球団ばかり勝つ

 アメフトやバスケのリーグと違って、MLBだけが選手のサラリーに上限を設けていない。ということは、金を持っている球団がいい選手をとる時に圧倒的に有利になってしまう。弱小球団は勝ち目から遠ざかることになってしまい、そうなるとファンの足も関心も遠のき、ますます経営が悪化し、良い選手がとれなくなり・・・といった悪循環に陥るわけです。これは、弱小球団の地元での野球人気を低下させ、野球人気の底辺を縮小している原因のひとつ。

5)スター不在

 アメフトやバスケを普段熱心に観ない人でも、この間引退したトム・ブレイディやレブロン・ジェームスが誰だかアメリカにいる人ならだいたいみんな知っているものです。ゴルフやらないけどタイガー・ウッズは知ってるしマキロイとか聞いたことあるよ、という人も多いでしょう。そういう格のスターがMLBからもう何年も出ていない。大谷さんがいるじゃないか、と言いたいけれどまあ彼はアメリカ人からすると外国人だし、ちょっと規格外ということで置いといて、今のMLBアメリカ人スターというとマイク・トラウトさんとかになると思うんですけど、トラウトの写真を見せられても名前を聞いても大半のアメリカ人はピンと来ないはず。MLBにとって10年に一人のスターであっても、「数年に一度」レベルのアメフトのクオーター・バックに知名度で負けている。どうやらMLBも売り方が下手なようで、MLBのスタープレイヤーで、他のプロスポーツリーグの選手のようにSNSを使ったプロモーションに成功している人が少ないらしい。確かに、トラウトやブライス・ハーパーさんやオオタニさんがインスタでバズっているところとか想像できない。なぜだろう。優秀な「中の人」を雇って、SNSでも頑張ったほうがいいのかもしれない。野球ってなに?って人も試合を観てみようかしら、というような個性をSNSで発揮できるような発信力のある選手がいてもいいのかも。炎上商法担当選手を作るとか。

6)外国人選手が多い

 これは5)にも関係する難しい問題。外国人が集まってくるということは、世界最高のレベルのリーグということでそれ自体にはなんら問題は無く、MLBファンも外国人がたくさん来て誇らしい、と考えている人も多い。でもどうしても言葉の壁があって、外国人選手がスター選手の場合、その選手をプロモートするのが難しい。つまり、外国人選手と言うと、テレビのトークショーなんかに出てバンバン自分の言葉で話してくれたり、少年少女たちに「たくさん練習しろよ、一緒にプレーする日を楽しみにしてるからな!」と肩を叩いてあげるような自然なファンサービスをするのが難しい。やはり「英語が話せる人のほうがいいなあ」になるわけです。野球選手なんだからプレーで人気とればいいじゃない、と言われるとそれは確かに真実なんだけど、ほかのスポーツと競って人気集めないといけないとなるとそうも言っていられないというか。外国人選手は、どうしてもファンとの間に少し距離ができてしまうのですよね。しかし、それ言ったらヨーロッパのサッカーリーグとかもいろんな国の選手の寄せ集めなわけで、言葉の問題はあるはずだけど、外国人でもスターはスターなわけで・・・。どうして「外国人だとスターになれない問題」がサッカーでは起こらないんだろう? それとも、サッカー選手は日本の相撲界で活躍している外国人力士さんたち並みにみんなそのチームのある国の言葉が流暢なのか。テニス選手でも英語に困ってるプロ選手ってあんまり見たことないし、MLBだけ外国人選手の英語普及率が低いのか? MLBは外国人選手の英語教育に資金つぎ込んだらどうだろう。

 以上、あまりにもアメリカでWBCの扱いが小さいので、アメリカでの野球不人気をちょっと考察してみました。2)と3)の「試合が長くて退屈」に関しては、どうやらMLBは今シーズンから大改革するらしく、投球までの時間とか打席に入るまでの時間とかを制限して試合をスピーディーにしようとしているみたいですね。ちょっと楽しみ。そうそう、いろいろやってみたらいいと思う。あと、プレー以外でも個性的で面白い選手がもっと出てくるといいなあ。あと、怪我を少なくするような何か・・・怪我で離脱もがっかりだし、それも何か対策してほしいですね。

 とにかく、日本チーム、おめでとう! 日本の皆さん、思い切り喜んではじけちゃってくださーい!!

抗精神病薬「エビリファイ(アリピプラゾール)」を息子が飲んだ体験記

「私は何者かに拉致誘拐された。
常に目隠しされ、手錠され、あちこち連れ回される。
必死に場所や状況を理解しようとするが、何が起こっているのかさっぱりわからない。
やつらの話している言語も、まったく未知の言語で意味をなさない。
やつらが何か私にひどいことをしようとしている感じがする。
不安だ。とにかく恐ろしい。怒りも感じる。
なぜ私をこんな目にあわせるのだ!
私は、絶対にやつらの思い通りにはならない。絶対に。」

 上記は、私が想像する息子の内面です。

 私の息子は重度の自閉症で、もう12歳になるのに1歳くらいのコミュニケーション能力しかないので、実際のところは本人にしかわかりませんが、おそらく上記のような感じだと思います。
 10歳くらいまでは、ぼんやりとおとなしく、人に手をあげるなんて考えられない子だったのだけど、ここ一年くらいは常に不機嫌で怒ってる感じ。自傷・他害行為もひどく、手がつけられないほど暴れるようになってしまった。でも、おそらく本人は「何もわからない、何もできない」という自分の状況に怒り・不安・恐怖心を真剣に感じていて、必死に暴れているのだと思う。

人の皮膚に爪を立てる。お世話の時、手袋は必需品。

 一緒に暮らしてお世話している私は、傷だらけ・あざだらけなんだけど、しんどい時は、前述したように「知らん国のテロリストに誘拐されて殺されるかも」という状況に自分がいることを想像する。そりゃあ暴れるよなあ・・・と息子に対して、少しやさしい気持ちになれるから。

 しかし、私や夫は親だから仕方ないとして、ほかの子供たち、つまりきょうだいたちにも暴力をふるうのはやはり許せず、気持ちの持って行き場が無いです。

「私の子供に暴力をふるって傷つけるなんて絶対許さない・・・あれ、でも暴力ふるってんのも私の子か・・・うーん・・・」

みたいな・・・。

 そして、学校で先生や補助の方に噛みついたり掴みかかったりしているというのも耐えられない。

「薬は飲ませないんですか?」

 本当は、そういうことは言ってはいけないはずの立場の学校側までがそう言って来た。

 で、昨年の夏、本当にあまりにも息子の状態がひどく、このまま一緒に暮らすのはもう無理という段階に達したと感じた。ついに、「我が子を精神科に連れて行って抗精神病薬を飲ませる」という親であれば一番したくないことの一つをすることに踏み切った。

 もうね・・・ホラーでしたよ。薬を飲ませ始めた直後は。

 前の日まで手がつけられないくらい元気に襲い掛かって来ていた息子が、ぼけーーーーーーーとソファに座って動かない。口は半開き。よだれ。目はうつろ。ご飯も食べない。起きていることができないのか、すぐ横になって眠ってしまう。廃人・・・その言葉が頭をよぎりました。抗精神病薬ってすごいんだな、本当に人間をこういうふうに変えられるんだな、とあまりの激烈な変化にぞっとし、そしてそんな薬を飲まされているということすらおそらく知る由も無い我が子に勝手に薬を盛っている(クッキーにはさんで食べさせていた)自分への嫌悪に苦しみました。医者に電話をかけて、「もうできません、あんな息子は見てられません、やっぱり私には無理です」と泣きついたっけ。

 息子に処方された薬は、大塚製薬さんが開発した「エビリファイ」のジェネリック「アリピプラゾール」という薬です。実は、この薬の前に3種類くらいほかの薬も試していました。最初は、トラゾドン(眠くなるだけで効果無し)→リスパダール(廃人症状にビビッて3日でやめてしまった)→コンサータ(かつてないくらい暴力的になった)、そしてアリピプラゾールにたどりついたわけです。まさに人体実験のようのですが、息子は無発語で、薬がどう効いているのかを言葉にする能力がないため、いろんな薬を与えて反応を見るしかないわけです。そして、上記の通り、いろんな薬を親の私がきちんと続けられていないという事で、今度という今度はちゃんとしどうした通りに投薬しなかったらもう薬は処方できない、と医者に警告まで受けていました。ちゃんとやらないとお医者さんに見放されてしまう。だから、廃人と化した息子を前に、エビリファイもほかの薬同様やめてしまおうかと思ったけれど、結局医者に相談して量を調整してもらって続けたわけです。

 で、その後どうなったかというと・・・

 その頃のブログの下書きには、「向精神薬よありがとう、大塚製薬すごい、さすが日本の製薬会社」みたいなエントリが残ってます。そうなんですよ、廃人と化していた2週間くらいを過ぎて、素晴らしく息子が穏やかになったんです。無事、中学校にも通い始めた(私の住む学区は日本で言う所の小6から中学校)。すべて順調で、私は突然暇になり、パートの仕事まで始められて、やっと未来に希望が持てるようになりました。夫と「こんなに効くなら、もっと早くに始めればよかったね」と喜びあったことを覚えています。彼も、すごく辛かったと思うから。

 しかし。しかしです。

 そんなうまい話があるわけない。

 それだったら、世界の自閉症の人みんなエビリファイ使うって。

 いやー、あのブログの下書き、公開しなくて本当によかったよ。

 二転三転して残念なんだけど・・・。
 
 昨年8月に服薬を始めた息子ですが、約9か月経った今、一番ひどかった時期の状態に徐々に徐々に戻って行っています。順調だったのは、最初の2か月くらいだけかな。年が明けて2022年になった頃からはっきりと、薬の効き目がどんどん弱くなってきているのを感じるように。体重も服薬後の3か月くらいで9キロも増えて、体が動かしづらそうだし、常にお腹がすいていて好きなだけ食べ物にアクセスさせてもらえないことで、ストレスでまた当たり散らす。こうなってくると、薬の効能より副作用(空腹感、体重増加、倦怠感)のほうがでかいんじゃないかと思ってしまう。

「もう効き目は無いと思います。自傷行為も他害行為もひどいです。この薬をやめるか、他の薬にすることはできませんか。こういう薬を勝手にやめるのは危険と聞いたので、減らす方法を知りたいです。」

と医者に言っても、効きてないなら量を増やしましょうとどんどん量を増やされる。もう、もう本当に怖いです。アメリカって、ほんと簡単に薬に頼るから。

 というわけで、私自身が飲んでいるわけではないですが、我が子がエビリファイ(アリピプラゾール)を服用した体験をまとめると、

「大変優秀な薬。だけど副作用も強い。一時的に短期間だけ症状を緩和するにはいいかもしれない。」

という感じです。もし、「どうしてもどうしても暴力をふるわれる状況からのお休みが欲しい」という状況の自閉症者のご家族をお持ちの方は、もしかした緊急使用的な使い方ができるかも。

 ただ、この手の薬って、本当に人が違えば効果も変わってくるから、こんな体験記に意味は無いのか??

 もっと根本的に他害行為や自傷行為のある自閉症者のOQLを向上させる医学的な方法は無いものか・・・。とにかく、息子が幸せそうに見えないのが辛い。どんなに知的に遅れがあってもなんでもいいから、もう少し幸福感が感じられる時間を増やしてあげたい、それだけなんだけど・・・。

 もう・・・やっぱ医療用マリファナ? せっかくアメリカにいるんだし。医療用マリファナ合法州に住んでるんだし。色々調べて医者にもプッシュしてみよう。うまくいったら、またここに書きます。

 自閉症者と共に生きる皆さん、ご自身の心身の健康を大切に、お互い少しでも楽しいことを探してぼちぼちやっていきましょう~

親切のポイントがちょっとずれてる、はてなブログさん

はてなブログさんから来たメール。ほかに言うことがあるだろう・・・

 びっくりした。

 私は、このブログのほかにもう一つ、結構前から読書に関するブログをはてなブログさんで続けていました。ここ半年くらいは諸事情により更新できていなかったとは言え、一日に数十~数百アクセスがあったんですよ。それが、先日ある日を境にパタリと0~5アクセスくらいに!!

 あれ? あれれれれ? これはなんかはてなさんで障害でもあったのかしらん・・・と身内の不幸で約3年ぶりの緊急日本帰国をしていた私は、詳しく調べることもできず放置。そのうちもとに戻るだろうと思ったいたら、その状態が何日も何日も・・・!!! 

 なんか悪いことしたんだろうか。落ち着いたらちゃんと更新するつもりだったんだけどな・・・更新しないとこんなにも検索で冷遇されるもんなの? しょぼーん・・・

 とか思っていたら、Googleさんから、

「あなたが買ったドメインの年会費を更新しようとしたら、あなたのクレジットカードにアクセスできないんです!! このままだと大変ですよ? ドメイン使えなくなっちゃいますよ? さあ、急いで、支払い方法を変えましょう、今すぐ!!」

ざっくり和訳すると上記のようなメールが来ました。ちなみに私はブログに使う独自ドメインGoogleさんから買っています。そういや少し前にクレジットカードを不正利用されて、カードを廃止にしたんだったっけ。まったくもう、謎のたった30セント(日本円で約30円)の何者かによる不正利用のせいで、何年も使っていたカードを止める羽目になって、その余波が大きい事大きい事。
 
 Googleさんから警告が来た直前直後に、今まで購読していたサービスやら、自動支払いを設定していたサービスやら、いろんなところから「カードが使えなくなっているよ!」と同じような警告が来ました。あのクレジットカードでいろんなサービスを便利に買ってたんだな、依存していたんだな、買ってたサービスを整理するいい機会だなあ・・・でもまあ原因もわかって一件落着。これでブログのアクセスももとに戻るだろう、などと思ってたんですけどね。

 いやー、待てど暮らせど、アクセスがゼロ付近を漂ったまま。Googleさんからは、「クロールしているんだけど、あんたんとこの以下のURL、見つけられないんだよね。エラーを修正しなよ」というメールが数回来たり。修正ってなにをどう修正すれば・・・?

 ドメインのお金払ったら、元通りに使えるようになるって、あんたそういったじゃないの、Googleさん。私、今、いろいろ調べてる時間無いのよ~と放置することしばし。そして、ある日、久しぶりに自分のはてなブログダッシュボードをぼんやりと見ている時、気がついた。

 あれ・・・? 私のブログのURLってこんなだっけ・・・?

 はっ! これははてなブログ無料版のアドレスじゃないかーーー!!!

 そうなんですよ、なんて間抜けなんでしょうか。
 はてなブログ有料版の支払いを年払いにしていたんですけど、例の廃止したクレジットカードをそれに使ってたんですよね。

年払いの日が来て、はてなさんが私のカードからお金をとろうとした
→しかしカードにアクセスできない
→なんだこいつ払わないなら無料版に降格ね
→有料版の機能停止
→無料版は独自ドメイン使えないから勝手にはてなでURL割り振るぜ

ということで、はてなブログの世界では一応無料版として存在するものの、検索サービスや今までブックマークして下さっていた方からは突然消え失せたことに。はてなの管理画面では今まで通り何事も無かったかのようにブログが存在するから気がつかなかった・・・。

 いやあ~はてなにお金払ってたこと、すっかり忘れてたよ!!ハハハ!!

 それにしても、はてなさん。
 Googleさんとかほかの商売の方々は、私からお金取れなくなった途端に「金!金!カード情報更新して!!」とうるさく言ってきたよ? もっと用心深いところは「二週間以内に年会費更新デーがありますけど、やっちゃっていいね?カードの準備はオーケーね?」とか言って来たよ?
 そういう催促しないなんて、はてなさんったらさ・す・がシャイで控えめな日本人。お金をせびるようなプライドのないことはしない、誇り高い大和魂
 
 でもさー・・・ちょっと・・・言ってほしかったかな・・・正直・・・。

 一年前の思い出を振り返るメールとかくれるのは嬉しいんだけど、それより、一言「今日からあなたは無料版になります、ブックマークされたURL等からはアクセスできませんのでご注意を」とかさ。一応、一応、ちょっとばかり時間と手間をかけたブログだったからさ、残念だよ。

 というわけで、はてな有料版の年払いを選んだ皆さん。私のような間抜けなことにならないよう、気を付けて下さい。有料版をやめようとか思っている人は、はてなから支払い日の通知等が来ることは当てにしてはいけません。自分で次の支払い日の前に解約するよう予定するとか、支払い日を自分で管理しないと知らないうちにお金とられちゃいますよ。

 さて・・・私は今回のことでいろいろと自分のブログ運営(というほどのものでもないけど)に思う所があり、ここでさっさと新しいクレジットカードを登録してはてなさんにお金を払って元のURLを復活させちゃえばいいだけなのに、なんだかそんな気になれず、ちょっともたもたしております。

 ただ、こちらのブログは閉めず、これまで読ませていただいていた皆さんのブログも時間を作ってまた読んでいこう、とは思っています。はてなブログさん、私はこれからもユーザーですので、よろしく。一年前の思い出ブログメール、待ってますよ。それになんの意味があるのかよくわかんないけど。

アメリカの給食のおばさんになってしまった・・・ダメだ完全に迷走している

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日本に帰りたいよう 山が恋しいよう

 ここのところ、いろいろあり過ぎて何をどこから書いていいのかわからない。ネタがある時に限って書く時間が無い。気力も無い。

 記事タイトルの通り、私はここ一か月、アメリカの公立校で給食のおばさんをやっています。なぜどうしてこうなったんだ? 自分でもいまだに呆然。 

  最初は、障害児クラスの補助要員の予定だったのに、人事に呼び出されて、

「給食部の人員が足りません。やってくれますか?」

と切り出された。

「いやです!それは私の希望している仕事ではありません!」

とか言えないお人好しの私・・・。

 答えが決められない時の必殺技、質問攻めで時間を稼いだんだけど・・・。

「あの・・・あの・・・私、アメリカの給食のこと全然知らないんです。日本はまったく違うシステムだし、アメリカの学校のカフェテリアに入ったことすら無いし、食べたこともないし・・・あの・・・何を・・・何をやるんですか」

「ええと・・・そんなに人が足りないのは、なぜなんですか? みんなやめちゃったんですか? コロナのせい? 仕事を辞めたり転職したりする人が増えているってニュースで観ましたけど・・・」

「私、週に何回か、まさにランチの時間のまっただなかに子供を学校から連れ出してセラピーに送らないといけないんです。重い障害のある子で、既に学校側ともクリニック側とも話がついていて、送迎は責任を持ってやらないといけないんです。私は、給食部の求めるスケジュールにあっていないと思うんですが・・・」

 完全におろおろしている私に、おばちゃん世代の女性二人が親切にひとつひとつ答えてくれる。

給食無償化政策のせいで、家からランチを持ってくる子が減り、給食を食べる子が増えた事。
昨年までオンライン授業を選択していた子も対面授業に戻って来て、一気に給食部がさばく数が増えた事。
市に転入して来る家族が増え、生徒数がどんどん増えていること。
たとえ毎日じゃなくても、働ける日に仕事してくれるだけでも助かること。

そして、私の目を見ずに申し訳なさそうに言う。

「食器を洗ったり、テーブルを拭いたり、キャッシュレジスターを担当したり・・・そういう仕事なんです。やってくれますか? いやですか?」

あなたがやりたい仕事じゃないことはわかっているのよ、こんな仕事を頼んでごめんなさいね、そんな空気がありありと・・・。

まったく冷静に考えられなかった。

正直、

「やっぱり私はそういう一番簡単(?)な仕事に回されちゃうのか・・・移民なのね・・・日本での学歴や職歴なんてどうでもいいのね・・・」

というような、おこがましい落胆もあったし。

でも、なんとなく本能が強烈に、

「やれ!引き受けろ!今は与えられた仕事を頑張るべきだ」

と後押ししているように感じ、結局、にっこり最高の笑顔で、

「やってみます!やらせてください!」

と答えてしまいました。

 で、あれよあれよと言う間に怒涛のように市の複数の小学校や中学校の給食室に放り込まれ、毎日毎日給食のおばさんしている。

 しかし、給食のおばさんと言っても、日本の給食のおばさんとは絶対かなり違う。日本の給食のおばさんのように「調理」という高度な仕事は一切無い。
 
 来る日も来る日も、給食のトレイをひたすら食洗器にかけ、空いた時間は、ひたすら鉄板に冷凍食品を並べている。 おいおい、アメリカの給食部、君たち、冷凍食品をオーブンであっためて出しているだけだね? 料理なんてしてないじゃないかー! さすがアメリカ。

 しかし、頑張ってみようと自分で決めたことなのに、オムレツを380枚とか鉄板にひたすら黙々と並べている時など、やはりあまりの暇さと単調さに辛くなることがある。

私は一体こんなところでなにをやっているのか?
アメリカに何しに来たんだっけ?
これをずーっと続けるのか?
残りの一生、こういう仕事をしていくのか?
私はスカリーなのに!FBIの捜査官なのに!(←違う)

 何か自分の中の何か、創造的な部分とか楽しい部分とかが擦り切れていくようにも感じる。あのスティーヴン・キング先生ですら、生活のためにフルタイムで高校の国語教師を始めた時、初めて小説が書けなくなった、と自伝で書いていたっけ。その気持ちがなんとなくわかる気もする。

 まあ、ずーっとアメリカで主婦していて、10年以上働いていなかったんだから、消耗して当たり前なのかも。そのうち、またいろんな意欲が戻ってくるのかな。

 そして大げさな話じゃなく、私は日本を背負っていると感じる。いや、正確に言うと「ここらへんの人たちの日本への評価」を背負っている、かな。

 だってまじで、私、「珍獣」「珍しい種の昆虫」扱いなんですよ! もう10年以上アメリカに暮らしているのに、彼らにとっては「日本人」。私を形容する言葉は、「女性」でも「○○ちゃんのお母さん」でも「新入りの給食のおねえさん」でもなく「日本人」です! 

 日本人が少ない地域で、しかも給食部で仕事した初の日本人なわけで、とにかく珍しがられます。珍獣と何を話していいのかわからないんでしょうか、頓珍漢な質問ばかり聞かれます。

 おそらく私より10歳以上若いと思われる男が上司なのですが、そいつの面接官のような質問攻めとちっとも噛み合わずはずまない会話が辛い。()内は私の心の声です。

上司「○○(←私の名前ね。やたら名前を呼ばれる)、ここで暮らしていて幸せ? 日本のほうがいい?」
私「(そんなもん正直に言えるわけないじゃない、余計なお世話だよ)とっても幸せです!」
上司「そう・・・(シーン)」

上司「○○、料理はするの? 何を食べているの?寿司は食べるの?肉は食べるの?魚は食べるの?」
私「(そんなん聞いてどうすんだよ、普通の人間なんだからあんたたちとおなじようなもん食べてるよ)イエス、イエス、イエス、イエス、イエス、ベジタリアンとかではありませんね」
上司「そうか・・・(シーン)」

上司「うちの5歳と2歳はラーメン・ヌードルが好きなんだ」
私「(あんまり幼児に食べさせないほうがいいんじゃないの)そうですか~」
上司「(シーン)」

上司「○○、レストランは行く?日本食のレストラン行く?この間△△△に行ったんだけど、あなたも行ったりする?」
私「(もっとおいしい日本食を私が調理できるし、そんなナンチャッテ日本食レストラン行くわけないじゃない)あまり知りません。多分オーナーは日本人じゃなくて韓国人とか中国人ですね!」
上司「・・・オーケー。(シーン)」

ほかにも、
「日本とアメリカと何が一番違う?」
「ハズバンドは何をしている人?どこでどんな仕事?」
「トーフって食べる?どうやって料理するの?」
「日本にもホームレスはいる?」
「日本って生活の質はここと同じくらい?あんまり変わらない?」

・・・エンドレス質問攻めです。

 ねえねえ、どうしてオータニとかオーサカのことは聞いてくれないの? やっぱり彼らを知っている人なんて都会限定なのね。この州で生まれて一生地元で暮らす人ばっかりだからなあ。住んでいる州が「国」みたいな感じで、外のことにあまり関心ないと言うか・・・。

 なんか・・・大変です・・・。

 「私は余裕が無いの、話しかけないで」というオーラを発して黙々と仕事をしているうちにあまり話しかけられなくなったんだけど、でももしかしたらこのままだと、

「日本人はつまらない奴らだ。仕事ばかりしている。一緒に働いていてまったく楽しくない。」

とか思われちゃうかもしれない!!! 私=日本人、みたいにほんとに思ってるっぽいから。

「私は日本人の中でも変人です、普通の日本人はこんなんじゃないです」

とユニフォームにでかでかと書きたいところだけど、そういうわけにもいかないし。

 で、今は、毎日、

「歌って踊れて楽しくお話してくれる、一緒にお仕事していて楽しい給食部一の美しいお姉さん」

を目指して日々精進している。

 ほんとこんなに働ける時間が少ないのに、その中で働かせてくれるだけラッキーだと思うし、まだ肉体労働(?)ができることに感謝しなくちゃいけないし、なんか仕事始めてから健康になった気もするし、体力もついた気もするし、本当に良い事だけ見て頑張ろうと思っています。

 でもでも、このままじゃ絶対いけないような気もするし。ほんと複雑な心境・・・。スカリーよ、お前は一体どこへ行く?? 

みんなGoogleの奴隷! 同じような文章に同じような構成・・・もう飽きた

アメリカの美しい秋空
アメリカの美しい秋空 画像は本文とまったく関係ありません(こういうのがGoogleさんに嫌われる)

 突然ですが、少し前に私は「Webライター」なる仕事を始めました。アメリカでかれこれ半年以上仕事を探していて、あまりにも箸にも棒にもかからない状態だったからです。

 家から出て、働きたい。

 たったこれだけのことが、アメリカで「移民」の私にはとてつもなく難しい。いや、ただ「移民」というだけではなく、ことを一番複雑にしているのは私の家庭環境です。

「小学生~中学生の子供たちの学業、課外活動、そしてフルタイムでアメリカで会社員している夫の仕事に支障が出ない範囲でできるパートタイムの仕事がしたいです。重度の自閉症児に何かあったら・・・まあ結構しょっちゅう何かあるんですけど、すぐ迎えに行かなくちゃいけないから、その時は仕事抜けますね! それと週に3回は日中にその子をセラピーの施設に送迎するために必ず仕事を抜けたいです。そして夏の間は学校が無いから、その子の面倒を見るために家にいないといけなくて3か月働けません。あ、あと毎週土曜日も子供たちが日本語補習校に行くので、終日働けません。」

 こんな状態で、しかも「ワタシ エイゴ ベンキョウシテマス! スグ シャベレルヨウニナルヨー!」レベルの人を採用してくれる仕事がどこにある? いくら私が、永遠の25歳で頭脳明晰で素晴らしい人格の持ち主だとしても、この条件に当てはまる仕事がまず無い。美貌と才能の持ち腐れなんですよね~ああ~もったいない。(すいません、ストレス溜まってるんで勝手に言わしといてください)

 こういう人は私の周りにはたくさんいる。私が鼻クソに見えるくらい、頭も良く人格も備わっていてこの人仕事したらすごく仕事ができるだろうな、という人が家庭にこもって家族のサポートのために生きている。これもまた誰かがしなくちゃいけない無償の仕事なんだけど、ほんと、世の中はどうにもできないことがたくさんありますね。

 しかし、そんな私に救いの手が差し伸べられた!!
 上記のような融通の利かない勤務時間でも採用してもいいという職場があったのです。面接してもらっただけでも嬉しかったのに、とんとん拍子に話が進んで、これはもういけるな、あとはペーパーワークだけ、という進展があったんですよ!!

 ・・・と思ったら、誕生日の日にメール一通で「他に良い候補者が見つかりました。お時間とお手数ありがとうございました」という既に過去に何度も受け取っている類のコピペ定型メールが・・・。

 もう打ちのめされて、しばらくは立ち直れず。

 その衝撃で、もう私は「外で働く」は諦めて、クラウドソーシングのサイトで仕事を探し始めたわけです。本当にお金にならない、自給100円くらいだ、というのは聞いていたけれど、そういう仕事しかできないんですもの。

 ふと立ち寄った某ブログの著者さんのプロフィールが「Webライター」で、失礼だけど、「この程度で!? ライター!?」というレベルだったので、私も「Webライター」なるものに挑戦してもよかろうと思ってやってみたんですけど・・・。

 なんか・・・聞きしに勝る虚しい仕事ですね・・・あれはあれで・・・。

「Webライター=Googleに媚を売るお仕事」

じゃないですかーーーーーー!!!

 いや、Webライターだけではない。ネット上に溢れる文章と言う文章のすべてがGoogleさんにこびへつらって、Googleさんの奴隷になっている!! 以前から、なんでこんな同じようなフォーマットのブログやウェブサイトが多いんだろう?と思っていたけれど、ほんっとみんな・・・

Googleに好かれたいんですね!!!!!!

原稿用紙3-4枚の内容なのに、ながーい目次。

前置きの文章で不自然に繰り返されるタイトルとキーワード(「最近、すべてのブログがGoogleの奴隷だと言われ始めています。本当に、ブログやウェブサイトはGoogleの奴隷になってしまったんでしょうか? 今回は、どれくらいのブログがGoogleの奴隷になっているかを調べました。-目次ー・・・」)

5-10おきに見出し。(「ブログがGoogleの奴隷である理由その1」「ブログがGoogleの奴隷である理由その2」「ブログがGoogleの奴隷である理由その3」・・・以下省略)

なぜか突然文中に登場するキャラと吹き出し。(「やっぱりGoogleの奴隷になるのは仕方ないよね」「うーん、なんとかならないのかな?」)

まとめで「いかがでしたか?」

もう・・・もう・・・飽きたーーーーー!!!!!

 そんな感じのいわゆるSEO対策がなされている文章って、そんなにいいですかね? 読みやすいですかね? 新聞の文章だってそんなに頻繁に見出し入れないでしょ。そんなに目次は付けないでしょ。書籍レベルの分量の文章のまとまりなら、目次欲しいですけど。

 だいたい「良いブログは誰かの悩みを解決するブログ」みたいに言うけれど、まあそれは真実なんだけど、「読んでいてただただ楽しい」とか、「悩みは解決しないけれど知的好奇心が満たされたよ、なるほど~」みたいなブログだってすごく人を助けているでしょ? 

 なにをもってGoogleさんは、定型フォーマットに従って、ハウ・ツー系の情報ばっかりを書いた記事を「優良」と決めたわけ? そのおかげで誰もかれもそういう書き方しかしなくなっちゃったじゃないかー!! Googleさんにはいつも助けてもらっているし、深く感謝しているんですけどね。Googleさんの責任は重大ですよ? 文章の文化を変えましたね? わけわからん方向に。

 私は、上記の法則に従っていない、Googleなんてどうでもいいよという文章が読みたいです。でも、そういう文章をほかでもないGoogleで探しているというこの矛盾!! バカなのか?私は。

 でも、私が何年も読み続けているサイトって、多分Googleで検索しても上がってこないと思います。Google様の奴隷になっていないから。結局、そういう文章って読まれない。読まれないと存在の意義が無くなってしまう。結局、文章を書いて誰かに読んでもらいたい人は、Google様の奴隷になって靴舐めるしかないというこの切ない現実よ・・・。

 私、Webライターの仕事をいくつかやって、もう少しGoogleの靴舐めなくていい仕事に挑戦できないかな、と思って探したんですよ。別にネットに載らないような、依頼主さんにだけ提出する「調査とリポート」みたいな文章でもいいし、わかりやすく英語圏の情報を調べてまとめて文章にする仕事とかないかなと思って。

 そうしたらあるにはあったし、定期的にそういう案件も目にするんですけど、募集要項がこんな感じなんです・・・。

「ご自身のブログやウェブサイトのリンクをお知らせください。また、サイトの紹介、PVを必ず書いて下さい。

 つまり、どれだけGoogleさんのご機嫌がとれる人かが知りたいんですね? そこが足切りポイントなわけですね? 

 自分のブログのPV・・・? そんなもの書けない。ほとんど無いから・・・。

 一瞬「10万PV達成」とか嘘を書いてもバレないんじゃないかという邪念がよぎったけれど、虚しいのでやめました。

 でも、かなり心に迷いが出てしまいました。

 これまで2年とちょっとブログというものを書いてきて、私は、SEO対策とか全然真剣に考えたことありませんでした。なぜなら、私、一切、広告を入れていないからです。このブログじゃなくて、もう一つの本や読書に関するブログでも。アマゾンのリンクをよく貼っているけれど、アフィリエイトもやっていません。純粋に、記事内の本の情報を読んで下さった方がもっと知りたいと思った時のために、アマゾンを観に行ってほしいと思ってリンクしているだけ。

 広告費で稼ごうとか思っていないから、「SEO対策してたくさんの人に読みに来てもらって、うっかり広告をクリックしてもらわなくちゃいけない」という発想に至らなかったというか。いや、逆かもしれない。こんなに知られていないブログに広告入れても意味が無い、と思って広告を入れなかったとも言えます。

 でも、そうやって、

「私はブログで稼ごうとか思ってないし~好きなこと書き散らしたいだけ~」

という姿勢を続けたせいで、時間を注いだ割にはなんの実績にもならず、仕事のチャンスをつかむ糧にもならない文章が積み重なってしまった。もっとGoogle様に従順にお仕えしていれば、もっと好きな文章を書いてお金をもらうチャンスもあったのかもしれない。

 これからも、あまりGoogle様に完全降伏することは無いと思うのですが、もうちょっと「きちんとした」サイトを作ったほうがいいのかなと、考えさせられました。

 なんのために書くのか。本当にわからなくなりますね。

いかがでしたか?

障害者って面白いよね! 差別ネタで有名な『メリーに首ったけ』『Mr.ダマー』のファレリー兄弟、表彰される

 ここ二年くらい読み続けているねこたまさん(id:puyomari1029)のブログに、自閉症の息子さんがご自宅で、パニック状態になった時のことが詳細に書かれていた。

dakkimaru.hatenablog.com

 いつもながら、愚痴っぽい言葉が少なく、「次はこうしてみよう」という感じでさらっと終わっていることに尊敬の念を感じずにはいられない。これって、まさに心を削られるようなストレスの時間だと思うから。特に、周りにほかの家族がおらず自分とパニック当事者だけの時とか、焦りとプレッシャーで冷静さが吹っ飛び、もう何年もやってきていることなのに適切な対処が思い浮かばず、こっちまで一緒にパニックになってしまいそうになる。

早く終われ・・・早く終われ・・・早く終われ・・・・・・!!!

と、心で念じるだけでおろおろしてしまったり・・・。おさまった時には、何も手につかないくらいに、いつも疲れる。

 しかし、これって5歩くらい引いて見てみると、なんというか、ほんとこんなこと言うの申し訳ないんですけど・・・

笑えます・・・。

笑ってしまいます・・・。

本でも一緒に読んでパニックをなだめようと、必死の思いで「好きな本を持っておいで」という母親に、「ほん」とひらがなで書いた封筒を渡す息子。
本がダメなら歌でなんとか!と、半ばやけくそで嫌々『100%勇気』を熱唱する母親・・・。

 どことなくコメディ入ってるというか・・・。

 これが、ご近所へのご迷惑とかそういうことを気にしなくていい環境であれば、もっとおやりなさいと言いたくなるおかしさがあると思う。

 ねこたまさんはじめ、自閉症児・自閉症者のお世話をしている方々、どうか悪くとらないで下さいね。バカにして笑っているのではありません。

 でも、おもしろいなって思ってしまうこと、ありませんか?
 
 たとえば、だいぶ前の我が家での出来事なんだけど・・・。

 ある日、夕方、浴室のほうから、あんたは麻酔無しで手術でもされてんのかというような苦悶の絶叫と号泣が聞こえてきたことがあった。まあ、そういうことはよくある。夫が入浴の介助をしてくれていたし、すぐ落ち着かせてくれるだろうと思ったのに、阿鼻叫喚の沙汰はなかなか終わらない。さすがに様子を観に行ったら、夫は浴室にすらおらず、付近で別のことをやっているではないか。

「だいじょうぶだよ、ほっとけよ。どうすることもできねーよ、だってさあ、風呂に浸かりながらさー、お湯に浮かべたボールが動く、ちゃんと静止しない、浮かんだボールがきちんと並ばないからなんとかしろってギャーギャー騒いでるんだよ、できるわけねーよ。頭に来たからもう風呂水ぬいてやったよ」

 我が子よ、物理法則に挑戦してどうする。そのうち、「木から林檎が落ちたー!!上に行かないで下に落ちたー!!うおおおおぉぉぉぉ~」とパニックになってのたうり回ったりするんだろうか。

 浴室からの絶叫が静まった頃、様子を見に行くと、全裸で空になった浴槽に座り込み、ボールを三つ並べ、思いをとげて勝ち誇った笑顔で悦に入っている我が子がいた。

 叫んでる君も疲れたろうけど、聴いてるこっちもぐったりだよ。しかし、これはうまい作家が書けばコメディーの一場面だよなあ、とその時に苦笑したことを覚えている。

 そう、自閉症児を育てていると、渦中にいる時はそれどころじゃないけれど、過ぎてしまって振り返ると、滑稽と言うかこれもう笑うしかないでしょ、という瞬間が結構ある。

 そんな自閉症者たちの笑うには微妙だけどなんかおかしい姿、それを本当にコメディーにしてしまった人たちがいた。ピーター・ファレリーとボビー・ファレリーのファレリー兄弟である。
 彼らは、兄弟で、あるいはバラバラで、映画やテレビの脚本を書き、監督・プロデュースをやってウン十年の人たちで、作品のほとんどすべてにこれでもかこれでもかと障害者を出してくる。自閉症だけじゃなくて、いろんな障害の人が出てくる。
 例えば、兄弟の代表作のひとつ、『メリーに首ったけ』。
youtu.be

 もう20年以上も前の映画だけど、本当に世界的に流行ったおバカお下劣低俗ラブコメだった。当時、人気絶頂で美貌のピークだったキャメロン・ディアズがヒロインのメリー役で、彼女はいわゆる「きょうだい児」、弟が知的障碍者という設定だった。彼は手をひらひらさせたり、パニックになるとイヤー・マフをしていたので、作中では明言されないものの自閉症だろうと思う。

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ヘッドフォンしてボール持って・・・うちの子だ・・・

 このメリーの弟の描かれ方が微妙で・・・。うへーとか言いながらわけのわからないことを言ったりしたりして、メリーと結ばれたい一心の主人公(ベン・スティラー)を悪意は無いながらもサディスティックなまでにいたぶったりする。コメディのネタ提供役というか。

 彼らのやり方は、「障碍者をバカにしているのか、それともこれは愛ある笑いなのか」という、どちらともとれるものすごく微妙なラインの上にあって、観る人によって受け取り方はどちらにもなったように思う。差別だという抗議も多かった。日本の批評家や映画愛好家の間でも、「これいいの?」という困惑はあったように思う。

 私は、当時、その微妙なセンを実現しているところにファレリー兄弟のすごさを感じ、しびれた。これ以上やるとやり過ぎで差別になるし、だからと言って障碍者をよくある「無垢な天使、いい人」のように描くとそれはそれで白々しいし。
 あれだけ議論を呼んでも抗議されても、まるで何かに挑戦するかのように、障碍者を出し続けているという事は、この兄弟はもしかして障害者が好きなのではないかな、と思っていた。もちろん自閉症の子も育てておらず、障害のある家族もおらず、当事者からかなり遠いところにいた時だったので、差別を感じられなかっただけかもしれないけど。

 まあ、いつもそんな議論の的だったファレリー兄弟。

 先日、彼らに関するVaraiety誌の記事を読んで、嬉しくなった。

「ファレリー兄弟、インクルージョンと社会活動で賞賛される」

variety.com
 
 ファレリー兄弟が、長年に渡る障碍者の映画への起用・裏方への雇用を評価されて、障碍者のインクルージョン推進のための慈善団体に表彰されたという記事。

 まだファレリー兄弟がデビュー作『Mr.ダマ―』でやっと成功していた頃、その映画を長年の友人(車いすが必要な方だそうです)に見せたところ、
「自分のような人間は出ていないんだね、それどころかどの障害者も出ていない」
と指摘され、それからは必ず障害のある人を映画に出すことを誓ったという。

「障碍者のコミュニティにはどんなものを与えたって、もっと多くのものを返してくれるんだ。」
“Whatever we’ve given to the disability community, they’ve given us a lot more back.”

 これはボビー・ファレリーの言葉。ピーター・ファレリーはこう言っている。

「障碍者は、仕事を遅くするし金がかかるっていう説、どちらも逆だよ」
“That they will slow you down and cost you money. It’s just the opposite,”

 彼らはいつも一番準備してきてくれる人たちだ、とのこと。ファレリー兄弟はこうも言っています。

「真実を語るために映画で障害のある人たちを起用している。現実の世界に関する物語を語りたいなら、すべての人が入っていなかったら、それは現実とは言えない。」
“We use people with disabilities in our films to tell the truth. If you want to tell stories about the real world, and it’s not real unless you include everyone.”

「ショー・ビジネスには、ほかのどの業界よりも人々の考え方を変える力がある。」
“Show business has the power to change public perception like no other industry.”

 やっぱり障害者をバカにしてたんじゃなくて、きちんとした覚悟の上でやってたんですね。障碍者の映画内での描写がうまくいっておらず、差別ととる人もいたかもしれない。それでも、何かを変えたいと考えて実際に行動し続けたわけで、こんな人たちがいるんだと思うだけでなんというか元気が出ます。
 すごいな!ファレリー兄弟。常々、バカにバカ映画・バカ小説は書けないとは思っていたけれど、あんな下品な映画で映画史に名前残した人たちが、実際はこんな人格者だったとは。そのギャップがクール。

 最近は、年齢相応(60代半ば)に『グリーン・ブック』とかまとも(?)な映画を大成功させているけれど、また低俗コメディ撮ってほしいな。
 
 障碍者の困りごとぜーんぶ、笑い飛ばしちゃってほしいです!!