Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#933 本が好きと思い始めた頃、そこはただただ魅力に溢れる場所でした~「税金で買った本」

『税金で買った本』ずいの、系山冏 著

みんなの本。

 

この頃どうも読書のテンポが上がらない。じっくり読むべき本が多く、どうしても読書に時間がかかる。そして集中して読む環境がなかなか整わないからだろう。なんでも筋トレに例えるのはどうかと思うが、読書も確かに筋トレ同様、毎日の積み重ねで読書のスピードや本から得る知識や経験が増えるように感じている。

 

なんとなく読書の波に乗れずにいる時、①趣味に関連する短めのエッセイ、②話題の小説、③マンガを読むことでウォーミングアップすることが多い。今、まさにそんなタイミングで本書を読んだ。

 

ずっと気になっていた作品で現在11巻まで出ており、まだまだ続きそうな人気シリーズだ。現在1巻がオンライン上で読めたので、さっそく読んでみた。

 

税金で買った本、即ち図書館の書籍である。石平君はもともと本が好きだった。しかしご両親の離婚や友達の影響からやんちゃな男の子となり、本から遠ざかる日々を送っていた。しかしある日、何か調べたいことがあり図書館を訪れる。

 

きっと読みたい本は見つかったのだろう。早速図書カードを作ろうとするも、小さな頃に借りた本が未返却であることが発覚。

 

この街には、以前、まだ両親が離婚する前に家族で住んでいた。小学生の頃に借りた本は父との思い出にもつながっている。しかし母親と共に暮らすことになった石平君は街を出て引っ越すことになる。きっとその引っ越しの時にでも無くなってしまったのであろう。長い間、そんな本を借りていた事すらすっかり忘れていた。

 

公立の図書館では、利用者が書籍を無くしてしまった場合、金銭で弁償することは原則としてできないそうだ。それと同じ書籍を入手し、図書館に納めなくてはならない。よって石平君は「わくわく☆しりたいどうぶつのなぞ」を入手し、図書館へ返却しなくてはならない。司書との対話に本の楽しみを思い出した石平君は返却することを受け入れ、そして図書カードをゲットした。図書館との関わりが彼に本との生活を取り戻させるきっかけとなっていく。そしてその図書館で出会った図書館司書や彼らの本に関わる様子に次第に惹かれていく。

 

図書館司書の方々との出会いで心を開き始めた石平君。なんと図書館でバイトすることにした。

 

 

図書館の仕事だけでなく、本に関わるお話がとてもリフレッシュになったので、本シリーズ、是非全作読んでみたい。

 

図書館、懐かしいなあ。学生時代はよく学校の図書館を利用していたけれど、大人になってから自分の楽しみのために図書館に行くことが無くなってしまった。昔は吟味に吟味を重ねてお小遣いから本を購入、買った文庫本は何度も読み、いつしかその数もどんどん増えた。大人になるにしたがって書籍購入に出費できる金額も増え、今は未読の本が山積みになっている。

 

本が好きと思えた子供の頃を思い出し、懐かしい気持ちになった。

 

 

 

#932 家で簡単蒸し料理はダイエットにも良いらしい~「やればやせる!」

『やればやせる!』ねこくら りえ著

食べ方を変える。

 

この頃、食べるのが面倒。料理が億劫。そんな日々が続いている。手軽に食べたいけれどしっかり栄養になるものを食べたい。でも結局面倒で食べないorレディーミールの二択で日々を過ごしているので、余計に疲れが増して来た。

 

GWも全く休めず、体力付ける食べ方をしなくてはならないと頭ではわかっている。唯一自分でコントールが可能なのが家で食べる食事で、タイミング的には晩御飯となることが殆どだが、もうその時間帯には気力の欠片も残っていないことが多い。

 

まずいなあ。作れる時に作り置きをと移動中にレシピ本を物色しながら食べたいものを探すことにした。せっかくKindle Unlimitedを利用しているのに全く利用していない月もあるので、まずは関連しそうな書籍を少し見てみることに。

 

そこでチェックしたのが本書である。ダイエット本とあるがメインは食べて痩せることにあるので、簡単に作れそうなものが多かった。

 

著者のビックリはこちら。

1年間で25㎏ものダイエットに成功されたそうだ。グラフに合わせて写真を見るとその努力の過程が伺える。

 

さて、その食事の部分だが他の類似書籍でもよく見かけるオートミールを使ったレシピやサラダチキンなどを使ったものが多い。特徴として挙げられるのは魚レシピが多いことだろうか。その中でも作ってみたいと思ったのがこちら。

 

 

いいなあ、白身魚。結局作り置きよりも具沢山レシピに惹かれてしまう。私はあまりレンジを使用しないので、これは蒸し器で作ってみたい。きのこたくさん入れて、野菜もたっぷり入れて作ればかなり美味しそうだ。黒酢だれというのもそそられる。

 

蒸し料理はその間に別のことができるのが大変ありがたいレシピのうちの一つだ。レンジの場合でも7分くらいは自由時間が取れるので、その間に片付けたりお風呂の準備したりと逆に時間が限定されることでさくっと動けるような気がしてきた。

 

著者はダイエットのために食事のコントロールをし、日頃自宅でトレーニングを重ねることで体重を落としたとのことだ。大抵が動画などで学んだエクササイズで、それでもこれだけの効果が出ているのだからかなりの努力家でいらっしゃるのだろう。巻末にはエクササイズにおススメのYoutube動画なども掲載されており、これも試してみたいかも。

 

食で体調を整え、どうにか自律神経系のトラブルが軽減するような体作りをしたいので、GW明けたらライフスタイルを見直すための時間を取りたい。

 

 

 

#931 コンパクトなワードローブを目指す前に~「大人の着こなし入門」

『大人の着こなし入門』杉山律子 著

何を着るべきか。

 

コロナ禍以降、手持ちの服がどんどん似合わなくなった。というか、盛大に太ったので着れなくなった、というのが正解。そしてオンとオフに着たい服、欲しい服が変わり始めた。これもトレンドに従っての部分も否めないが、オフィスで着る服が少しカジュアルに寄り、オンとオフに愕然の違いが見えなくなったことが大きい。在宅勤務が容認される世の中となり、ライフスタイルの多様化が進んだように見えるが、全てのビジネスパーソンが在宅勤務のシステムを享受できているわけではない。業務の内容によっては絶対に無理という場合もあるし、会社側の対応が整って初めて実施されることなので、そもそもの対策を打ってくれない!となると在宅勤務なんて夢の世界だ。

 

私の勤める会社は病気や特別な事情がある場合に限って、上司に許可を取り実施することができる。でもあまり多くの人が盛んに利用するわけではなく、私もどうしても集中して作業がしたい時などは有給使って在宅勤務することがある。

 

とにかく、世に在宅勤務という概念が出来たことで、自宅での服は少しきれいめに底上げされ、出勤用の服はカジュアルに近づいたというのが個人的に感じている世の変化だ。さすがにくたくたのTシャツで自宅からオンライン会議には参加できない。そこで楽だけどちょっとおしゃれな服が世に増えた。そしてその着心地の良さに加え「きちんと見える」ことからオフィス着としても問題なし。スーツは基本的には消耗品で、作業着よりも生地も作りも弱く、そう長く着られるものではない。結構な値段なので長く着たい気持ちもあるが、3年も着ると痛みが目立つ。しかしこのカジュアルラインだとありがたいことに多くのファーストファッションで揃えることができるのでお財布にも優しい。それがスーツ一辺倒だったオフィス着をカジュアルに寄せたいと思う様になった原因である。

 

さて、著者の作品は今まで全て読んでいる。初期の頃の2作はこちらにメモしてはいないが、直近のではこちらがあった。


着こなしについて問う指南書は数多いが、私が著者の作品を好んで読み実践している理由は、単に「実現可能」で「やってみたい」が多いから。ハイブランドも中には出てくるが、それもバッグやシューズで、がんばれば手に届くものが多い。軽自動車より高価なバッグや、年収の数年分に相当するアクセサリーなどは出てこないので、安心してお手本にできる。

 

そしてこちらの様にシンプルで真似しやすいというのが最強のポイントだ。

シンプルにはじめる大人の着こなし入門: プロが教えるセオリー&アイデア [書籍]

 

目を凝らせばブランドのロゴやタグが見えるのでそのまま真似するも良し、近くのファーストファッションに行って似たようなデザインや色合いを探すもよし。

 

ところでファッションやコスメの話となるとパーソナルカラーの話が出てくる。私は自己診断で何度かやってみたが毎回違う結果になるのできっと何かがおかしいのだろう。いつかどこかでプロに見てもらいたいが、本書ではそこは基本としているのか、色というより「どうなりたいか」に重きを置いている。

 

種類は8つに分類されており、そのどのタイプに合わせていくかを決めた上で読み進むと、似合うもの+似合わないものがイラストで紹介されている。

シンプルにはじめる大人の着こなし入門: プロが教えるセオリー&アイデア [書籍]

著者の作品はトレンドに流されることなく個性を生かし、更に「似合う」を自力で探していく人には必読。今回もシューズのタイプの部分を読み、早速まだ捨てるにはもったいないが、ここ1年で一度も履いてない靴を処分した。

 

今はまず体も服も断捨離を進めることにしているので、3カ月は新しい服を買わないと決めている。早く自分らしさに気付けるワードローブを作りたい。

 

#930 食の伝統について知ろうと考えるようになったキッカケがこちらです~「おいしいもんには理由がある」

『おいしいもんには理由がある』土井善晴 著

日本の美味。

 

近所の書店でみかけた一冊。そういえばこの頃書店のリモデリング等の工事に当たることが多く、これは書店が息を吹き返そうとしているからだ!と期待を抱いている。地方都市では読書を楽しむ人々が減ったことや、電子書籍愛用者が増えるなどの理由で街の本屋さんが無くなり始めたという話を聞くようになって久しい。

 

大きな書店もきっとその影響は受けているはずで、以前よりも仕入れの数を減らすなどの工夫を凝らしていることだろう。あとはこの頃のインバウンドの影響でマンガ本などを充実させたり、文房具を取扱うスペースを増設するなどの変化もある。

 

ちらっと立ち寄った本屋さんで何か読みたいと思える本に出会える幸せはネット書店でのそれとはまた異なる。表紙のインパクト、本の大きさや重さ、そして紙の素材でカラーページの様子も異なる。

 

本書はまさにそれらの利点に一気に捉えられたような一冊だった。写真の美しさや文章と写真のバランスなど、これは紙で読むべき作品です。

 

さて、本書は土井先生が日本各地の「おいしいもん」を探りに生産者のもとへ足を運ぶという紀行文にもなっている。しかしフォーカスがあたっているのは食べ物で、きっと一般人では立ち入れないだろうなあと思われる老舗名店にも訪問しておられる貴重な一冊だ。

 

訪問された地域は数多く、日本各地の20地域にも及ぶ。北海道えりも町の昆布から始まり、最後は長崎の洋菓子で終わる。基本となるのは食材だが、大阪の吉兆や伊勢の赤福などすでに広く知られる所も紹介されており、多種のおいしいがここにあった。

 

一番驚いたのは和三盆だ。和三盆の生産地は香川県徳島県だが、今回は香川の生産者を訪問しておられる。和三盆と聞くと、お砂糖そのものの場合と落雁のように美しく固められたものの二つを想像する。四国に行く度にその固められたものを購入する。最初は見た目の美しさに惹かれてなんとなく買ってみた程度だったのだが、口の中にさっと溶ける甘さは私にとっては「滋養」そのものであった。一つ食べるだけでもかなり元気になれるスーパースイーツと言っても過言ではない。

 

その和三盆、こんな風に木型で作られるのですね。なんと美しい。

おいしいもんには理由がある | 土井善晴 |本 | 通販 | Amazon

きっと同じ様に考える人が多いのだろう。Amazonでも和三盆のページが紹介されている。

 

本書で紹介されている名品は、名品であるだけに後継者に恵まれている。家を継ぐ意思を持たれ、帰省し家業を繋ぐ。一方で同様に伝統を有し日本人に愛されていた食であっても、時代の流れと共に消費が減り、後継者問題に苦しむ事業も多い。

 

土井先生に限らず、こうして日本古来の「おいしいもん」を守るべく私たちの食を紹介してくれる書籍は多く、この頃はこういった書籍をもっと読むべき、学ぶべきと考え進んで購入している。全て紙の書籍で長く保管しながら大切に読む予定だ。土井先生の文章には食べることへの愛と作る方への感謝に溢れており、読んでいると豊かな気分になれる。そしてああ、和食って素晴らしい!と心がすっと澄む感じ。

 

これは読む食育です。

 

#929 ものすごく珍しい留学記~「赤と青のガウン オックスフォード留学記」

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』彬子女王 著

博士課程。

 

円高が進み、なかなか簡単に海外旅行に行ける状況ではなくなった。毎日円高記録更新のニュースを見ているような気がするが、これだけ多くの外国人がやってくる様子に円高を実感している。海外出張がぐっと減る一方で、海外からやってくる方の頻度が増えた。

 

休みを取れるのはかなり先のことになりそうだが、今年こそ台湾行きたい!イギリス行きたい!アイルランドに行きたい!と次の休みについての希望だけは山ほどある。為替次第なところもあるが、夏にはパリのオリンピックで周辺国まで混雑することが予想される。本当は避けたいところなのだが、でも一番行きたいのはやはり夏のイギリス。イギリス行きたいなあ。

 

そんなことを考えていたらこの記事が目に入った。

 

彬子女王殿下の留学生活の思い出「エリザベス女王陛下とのアフタヌーン・ティー」 | PHPオンライン|PHP研究所

 

何かを検索していた時にふと出て来た記事なのだが、これがものすごくおもしろかった。SNSでバズった結果、重版となり文庫として再登場した故の記事だったと思うのだが、PHPでは試し読みというには結構な量を公開しているのでぜひご一読を。それが全て読み応えのある内容だったので早速Kindle版を購入する。

 

まず、彬子女王殿下とはどなた?なのだが、女王という称号はきっとヨーロッパの王室のようにとてもとても上のお立場に違いないと早速検索してみた。私が分かる限りのざっくり説明で言えば、昭和天皇彬子女王殿下のおじい様とご兄弟、平成天皇彬子女王殿下のお父様はいとこ、そして今上天皇とははとこ、と言うご関係らしい。

 

本書の楽しみ方は2つ。まず日本のプリンセスというお立場から出てくる一般人では知りえないロイヤルな世界が垣間見えること。もう一つはプリンセスのお立場でありながらオックスフォードでガチで勉学に励み、博士の学位を取得するまでの留学記としての読み方である。オックスフォードについての説明もかなり具体的なのでこれから留学を控える方にも参考になるだろう。

 

まずは華やかなロイヤルのお話がおもしろい。上のPHPの記事にもあるがなんとエリザベス女王にお会いしているそうだ。バッキンガム宮殿にご招待を受けた日本人なんてほんの一握りに違いない。このエピソードは著者がプリンセスであるからこそのお話であり、他の留学記では絶対に読めない内容だ。そして日本の皇室の日常についても垣間見ることができる。日々護衛の方がいらっしゃる生活はさぞ窮屈かと想像するが、逆にいつも人に囲まれている生活が当たり前だったので、留学生活で経験する「一人」に寂しさを覚えたことなど、確かに一般ではない生活がそこにある。

 

そして留学のお話がかなり読みごたえがあった。ご研究分野は日本の美術史で、明治時代に日本から持ち出された美術品がどのような意図で収集されたかを調べるとのことだった。ロイヤルであるがために、トップクラスの教授陣に迎えられるという点ではやはり特別待遇であるのかもしれないが、そのトップクラスのレベルに合わせて学業を修めるというのは大変なことだろう。遊ぼうと思えば遊べるだろうが、周囲の目もある中で5年も海外で遊び暮らすというのは難しいことであろう。むしろストレスで胃炎になるほどに学業に専念された姿に読み手のモチベーションもあがる。留学記を読むとモチベアップにつながることが多々あるが、本書もそんな一冊だった。

 

そして周囲の学生もみな優秀な人ばかりで、そこで友人を作ることができるのはお人柄だけではなく、周囲の会話に合わせられるほどの専門知識があり研究者として認められたからであろう。学問の話になると、優秀な学生の留学記と変わりなくすっかりロイヤルであることを忘れて没頭してしまうのだが、たまに出てくるロイヤルエピソードで「ああ、そうだプリンセスだった!」と思い出す。

 

留学は決して誰もが行けるものではない。金銭的負担も大きいし、何より学校側が迎え入れてくれなくては成立しない。真に優秀であれば奨学金を得るなどの方法があるが、どんなに行きたくても多くの人が断念せざるを得ない。ロイヤルの方であればその学費や生活費の出元を鑑み面倒なことを言う人がいたかもしれないが、著者に至っては今のお姿を拝見しても、日本の美術史の研究家として大いに国益となる活動をなさっておられる。

 

とにかく文章が素晴らしく、内容自体が面白い。きっと気さくなお人柄なんだろうなと日本のロイヤルに対する好感度がかなり上がる。というか、彬子女王のお話、もっと聞きたい!

 

#928 大阪は京橋~「グランドシャトー」

『グランドシャトー』高殿 円 著

昭和の大阪。

 

今、2台のKindleを愛用している。普段持ち歩いているのはPaper White、大き目画面のScribeはマンガや洋書を読む時に利用中。そろそろScribe内の整理もせねばとあれこれチェックしていたところ、なぜか本書がマンガの並びに紛れ込んでいた。恐らく表紙の絵にマンガだと錯覚したのかも。まあ、せっかくだからと読み始めた。

 

まず、グランドシャトーは戦後に大阪でスタートしたキャバレーだ。キャバレーとは、フランスのムーランルージュのように舞台があってショーが披露されるのが特徴である。日本の場合も同様に広がっていったそうなのだが、本書によると大阪がスタートとのことだ。

 

グランドシャトーは大阪の京橋にある。戦後、日本人の生活は困窮していた。例え商いの町、大阪であってもそれは同じことで、グランドシャトーのある京橋付近は爆撃により跡形もなくなったらしい。戦後、グランドシャトーは遠目には豪華客船にも見える明るいネオンと大きな佇まいで大阪でも知る人のいないキャバレーとなる。

 

このキャバレーに流れ着いたのがルーだ。ルーの本名を知る者は誰もいない。ただ、悲しい過去があるというのみが知られている。大阪に出たルーはなかなか仕事も得られず、キャバレーで働き出すもうまくいかなかった。気性が激しく、すぐに争ってしまうのだ。そんなある日、グランドシャトーの前で出会った不思議な女性に引き込まれ、その建物へと足を向ける。

 

出会った女性は真珠と言い、グランドシャトーのナンバー1だった。真珠は大企業の管理職の月給以上を一日で稼ぐほどの人気であった。最初ルーはグランドシャトーの寮で暮らしていたのだが、喧嘩で寮を追い出された。そして真珠と二人での長屋暮らしが始まる。

 

本書の時代設定は昭和20年代から平成10年くらいまでだろうか。その情景が浮かぶような暮らしに関する描写がなんとも切ない。水商売というだけではなく、戦争を乗り越えてすぐの人々の心の様子が明るくふるまう中でも、ふと寂しさとして読者の心にも影を落とす。決して知りえない戦後の日本の様子なのに、気が付くとまるで自分の過去に触れるかのように感情移入していた。

 

高度経済成長期の日本の様子、バブルがはじけた頃の様子、それがルーの目を通して描かれている。負けず嫌いで、サバサバした大阪のおばちゃん風なルーではあるが、真珠を守ろうとする姿、故郷が無い者への行き場所を作ろうと思う優しさが交互に見えてくるところが本書の魅力。そして、この小説をもし英語に翻訳するならば、フェミニズム小説として分類することもありうるなと思えてきた。戦後の混乱の中で、女性がどのように生き抜くか。性と生のゆらぎに立たされている側の気持ちはストレートには語られていない。しかし登場人物はキャバレーで暮らす源氏名で生きる人々で、自分の本名を名乗っていた頃の辛さを隠蔽するかのように、最後まで正体がよくわからない。そのグレーさがフェミニズムとも言えるような気がしている。日本語で読むと、テンポの良い大阪弁がコミカルに読めてしまうが、多言語に置き換えることを考えると「女性の生き様」はもしかすると別のメッセージを含むかもしれない。

 

なんだろう、成功モノではないけれど、大阪舞台の朝ドラ見たような気分になったかな。もう少し読みたいと思わせるところも似ているかも。

 

#927 マンガでも深みを知れる建築のお話~「一級建築士矩子の設計思考 2~3」

一級建築士矩子の設計思考 2~3』

亀戸。

 

この間読んで面白かったマンガの続き。

 


2巻目と3巻目は素人目にはより建築に近い内容となっており、1ページあたりの情報量がとにかく多い!下地の白さがめったに見えないほどにぎゅっと内容が詰まっている。

 

建築士になるには国家試験を受けねばならず、独学でがんばる人もいるが多くは学校で学ぶことを選択するようだ。大学の学部にも建築学科はあるしね。しかも試験は2度行われ、座学と実技に分かれている。実技というのは実際に図面を引くもので、この段階で落ちてしまう人もいる。

 

1級建築士ともなるとその倍率も非常に高く、しかも実地経験が伴って初めて「一級建築士」を名乗ることができる。

 

最初は「いつか家を持つときのための予備知識を得たい」くらいの気持ちで読みはじめたが、2~3巻は圧倒的に建築の知識を持っているor日々建築に熱く思いを寄せている人こそ読んで楽しい内容だろう。

 

たとえば、マンションのリモデリング管理の問題。消防関連の決まり。家を建てる時の法律などなど。マンガでありながらも結構なエリアまで突っ込んだ内容となっているので、1冊読むにも時間がかかるし得るものも大きい。

 

矩子は亀戸に事務所を構えているのだが、このエリアでの食べ歩きの情報もなかなか興味深い。亀戸は時代小説での登場も控えめというか、あまり舞台として選ばれることが無かったように感じるが(私がそういった作品を読んでいないだけの確率も大)、今の亀戸は本書を通してみる限りお酒好きの方なら楽しめるエリアと言えそうだ。東京にもクラフトビールがこんなにあるとは知らなかった。

 

少しずつ読んだ本の内容を記録したいのだがなかなか進まないのでGWに一気に書き残す作戦に出ようと計画中。