ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

transient myoclonic stateの症例がEJCRIMにアクセプトいただきました

23年4月に記事にさせていただいた 稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly 
 
EJCRIMに無事アクセプトいただきました
 
おそらく入院中の利尿剤の変更+脱水傾向などが誘因だったのかなと思っています。臨床像をしっておいてないとわからん殺しなところもある疾患で、ERだけでなく、感染症の回復時期やリスペリドン投与後などに報告があるようなので病棟管理をしているのであれば知っておいて損はないかなと思いました。(とはいえ自分も遭遇したときはサッパリわからず同僚の山里先生に教えていただきました)
 
なおこの病名は
 
最初は ‘Transient myoclonic state  with  asterixis  in  elderly  patients"
 
とはいえアステリキシスを伴わないこともあるので "Transient  myoclonic  state  in  the  elderly"
 
ただ、elderlyという言葉にいろいろなニュアンスがあるようなので...
今回の症例報告では in older adults という言葉で投稿しました
 
山里先生、中西先生、仲井先生、御指導いただきありがとうございました!!
 

バリウム虫垂炎の疫学をしらべたLetterがアクセプトされました

A Short Report on Single-Center Survey in Diagnosing of Barium Acute Appendicitis

 

 
バリウム虫垂炎疫学調査、J Epider のLetterにアクセプトいただきました!!
 
背景としては以下の点があります
 
・2019年時点で男性では胃がんががん関連死の第2位、女性では第4位の死因
・2014年以来、胃がんのスクリーニング検査として上部消化管内がスクリーニングにくわわったが、2016年時点では、日本で上部内視鏡よりもバリウム検査が約10倍頻繁に実施され、胃がんのスクリーニングにおいて主要な役割を果たし続けている
・しかし、バリウム検査は1年内の急性虫垂炎のリスクが1.5倍増加し、スクリーニング後の最初の2か月では特に10倍高いリスクと関連している
・日本の都心部の病院で急性バリウム虫垂炎は症例の3%で発生すると報告され、全ての症例においてCT値 3000HU 以上の高吸収域がみられたという報告がある(World J Gastrointest Surg. 2016;8:651–655.)。そして年齢は5-86歳という幅の結果でした。
 
ということで...
 
・(同じ都市部になりますが)他の施設での検証
バリウムの理由
 
を後ろ向きに検証ということで単施設後ろ向き観察研究を行いました
 
結果的には...
 
虫垂炎全体の3%がバリウム虫垂炎だった
バリウム虫垂炎のうち約1/3が40歳未満
(つまり40歳未満にもかかわらず人間ドッグなどの自費で検査をしていた)
 
という興味深い結果でした。
御忙しい中、御指導いただいた和足先生ありがとうございました!!
 
バリウムの合併症で虫垂炎、というのはあまり知られていないのと、手術になった症例も加味するとバリウムのOvertestingによる医原性なのは?と懸念に思える報告でした。
 
 
 

ICU搬送ないし死亡症例における診断エラーの頻度は!?

ICU搬送ないし死亡症例における診断エラーの頻度は!?
 
Diagnostic Errors in Hospitalized Adults Who Died or Were Transferred to Intensive Care
JAMA Intern Med. 2024 Jan 8:e237347
 
ICUに搬送ないし死亡となった患者の診断エラーは23%
介入ポイントは検査関連と評価のところがメイン
 
という内容でした
 
DEERとSafer DXをMethodで使用していました
 
 
■これまでの歴史編
 
Changes in rates of autopsy-detected diagnostic errors over time: a systematic review.
JAMA. 2003;289(21):2849-2856. 
 
剖検において10年で重大なミスは19.4%、クラス1(患者の転帰に影響を及ぼした可能性が高い)エラーは33.4%、減少した
2003年頃の重大エラーは8.4-24.4%、クラス1エラーは4.1-6.7%くらいと推定される
 
Diagnostic errors in the new millennium:a follow-up autopsy study. 
Mod Pathol. 2012;25(6):777-783.
 
1972〜1992年のDataと2002年の剖検を比較
重大な診断エラーは過去30年で30%から7%に減少した
 
Diagnostic error in the critically ill: a hidden epidemic? 
Crit Care Clin. 2022; 38(1):11-25. 
ICUにおける診断ミスは5-10%程度

Diagnostic errors in the intensive care unit: a systematic review of autopsy studies
BMJ Qual Saf. 2012 Nov;21(11):894-902
 
ICUにおける診断ミスのレビュー
剖検での1つ以上の誤診は28%
クラス1(患者の転帰に影響を及ぼした可能性が高い)は6.3%で血管と感染症が多い
特に肺塞栓、心筋梗塞、肺炎、アスペルギルス症
 
 
Prevalence of harmful diagnostic errors in hospitalised adults: a systematic review and meta-analysis
BMJ Qual Saf. 2020 Dec;29(12):1008-1018
入院患者において有害な診断エラーは0.7%程度
 
■今回の論文
 
入院患者のうちでも死亡とICU転送なので入院患者の中でも重症/複雑な患者集団を代表した研究になります
 

Diagnostic Errors in Hospitalized Adults Who Died or Were Transferred to Intensive Care
JAMA Intern Med. 2024 Jan 8:e237347

 
ICUに搬送ないし死亡となった患者の診断エラーを検証した研究
29の病院、後ろ向き観察コホート
診断に関しては2人の臨床医によって判断,不一致時は3人目で判定(Safer Dxを使用)
診断プロセスの誤りはDiagnostic Error Evaluation and Research(DEER)分類
 
2428人のうち550人(23.0%)で診断ミスがあり、436人(17.8%)でミスが一時的ないし永久長い、あるいは死亡に関連していた。
1863人の死亡患者のうち、診断ミスが死亡に寄与したと判断になったのは6.6%
 
■診断エラーのaRR
 
病歴 1.71(1.23-2.36)
身体診察 1.86(1.39-2.49)
検査 2.85(2.16-3.76)
患者フロー/モニタ 1.94(1.45-2.60)
紹介/コンサルト 1.54(1.13-2.09)
チームワーク 2.89(1.62-5.16)
評価 2.89(2.23-3.73)
 
診断エラーを減らす機会はadjusted proportion attributable fraction (aPAF)で判断
→検査関連 19.9%
→評価 21.4%
が特に広い割合を占めた。
 
という報告でした。
"評価"...はざっくりしているなぁと思いながらDEERだとまぁそうなるのはしょうがない、、、ということで診断に合わない点や経過があればやはり再評価/調べる、ということなんだと思います。日々のアセスメントの重要さを体感した研究でした。
予測せぬ悪化で痛い目をみることもしばしばですが、診断がラベリングになっていないかどうか大事ですね。
 
 

老年病専門医は取得する?しない?

久しぶりの更新です
タイムマネジメンに変わらず苦慮していますが、臨床は面白く日々楽しんでいます。
今年度もよろしくお願いいたします
 
老年病の専門医ってどうなんですか?と聞かれることがあります
 
老年病メインというよりは急性期病院メインの総合診療医であって、老年病専門医を資格の1つとして所持をしているという立場での見解ですが以下になります。
 
・資格がないと勉強できない領域ではないので必須ではない。
・資格があったからといっておそらく報酬/インセンティブは特につかないでしょう。なのでそれを期待するのであれば微妙。
・老年医学の必要性は明らかで、一個の臓器に特化するよりその汎用性は名実である。
・いろいろな視点と知識がつき、勉強になり臨床の面白さも増えるので、高齢者医療に興味があるならおすすめ。
 
と思っています。
そんな中、少し前にJAMAに2023年に出た老年医学の行き先を憂うような内容のViewpointが出ました。かなりの意訳入りますが主に米国での現状が述べられています。
 

The Paradoxical Decline of Geriatric Medicine as a Profession
JAMA. 2023 Aug 22;330(8):693-694

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37540519/
 
 
・老年医学は一つの医学的状態を超えた要素、多慢性疾患、ポリファーマシー、機能、認知などを含む要素に魅力を感じる医師にとって魅力的な分野で高齢の複雑な患者のためのチームケアと、家族の介護者のニーズに特に重点を置いている領域
・35年前に専門分野となった
・老年医は2000年の1万人から2022年には7-8千人に減少している。更新を選択しない医師や、初期の医師が退職したこと、プログラムの失敗などが原因。
・老年のフェローシップは専門分野の中でもマッチ率が低い
・支援の枠組みは減少しており、教育の認定機関からもあまり評価されていない
・財政的なアドバンテージはなく、保険会社や医療提供機関からはあまり求められていない
・老年医の報酬もあまり高くなく、内科医やHospitalistより低い。しかし、報酬の低さは小児科も同じ状況なので報酬だけが原因ではない。高齢者に対する社会の評価やレジデントの評価も関連している。(正気の沙汰ではないみたいな自虐も...)
・老年医学の重要性と老年医の必要性は明らかだが、医療機関教育機関の選択の結果である
・老年医学の衰退の方向性を変更することは困難でしょう
 
といような内容でした。。。
 
まぁ確かに、日本でもシステム的に、外来で頑張ってCGAをするより、検査を適度にいれ3分診療を繰り返してなにかあればすぐ紹介状、のほうが...という悲しい現状もあります。入院設定では特に股関節骨折などで老年医評価はエビデンスもありますが、そもそも日本の診療報酬システムは質の評価をする仕組みになっていないので、システム側/経営者側は在院日数以外で評価はされないことが多いでしょう。
 
その一方で、ヨーロッパではいろいろな取り組みが始まっているという前向きなEditorialもでています。
 
European and worldwide geriatric medicine is blooming
Eur Geriatr Med. 2023 Dec;14(6):1187-1189.
 
JAMAのView Pointでもいわれているように高齢者をよりよくみる診療の必要性は言うまでもないですし、一個の臓器に特化するよりその汎用性は言うまでもないと思います。なので、個人的には学びたい人は学べば良いと思っています。
 
実際に老年病専門医を取得し、関連項目を学んで、いろいろな視野は広がりましたし、今自分がいる設定における診療のClinical QuestionはほとんどがHospitalist関連かGeriatric関連になるので自分自身としては取得したことは大きな学びになったと思っています。
 
ということで、自施設では老年病プログラムはまだ未実装ですし、しがない1専門医にすぎない身分ですが、老年医学を勉強したい/興味ある人、というのはつねに歓迎ですし、興味がある人はいつでもお声がけください。
 

【骨折後のBP製剤投与は1年以内の非癒合リスクと関連していない(J Bone Joint Surg Am. 2023;105(7):549-555.)】

脆弱性骨折の既往はあるが骨粗鬆症の治療はされていない...というのはよくみかけるのではないでしょうか。

 
脆弱性骨折の既往のある患者は2倍のリスクでさらなる骨折のリスクがあると言われています(J Bone Miner Res. 2010;15(4):721-39)しかし、日本において二次予防における治療の頻度は17%(その中でBP製剤で開始となったのは半分程度)(Osteoporos Int. 2021;32(6):1245-1246.)とも言われています。
 
脆弱性骨折の二次予防のためのビスフォスフォネート製剤の治療必要数(NNT)は
 
脆弱性骨折の既往があれば10(Clin Interv Aging. 2020 Mar 26;15:485-491)
脆弱性骨折が 2 回あった患者では 4 (Archives of Internal Medicine. 1997;157(22):2617-24)
脆弱性骨折が 1 回あった患者では 16 (Archives of Internal Medicine. 1997;157(22):2617-24)
 
ともいわれ非常に重要になります。欧米では減少している股関節骨折が日本では増加傾向( Lancet. 2019;393(10169):364-376.)という悲しい報告もあり、脆弱性骨折をみつけたら見逃さずに導入をしておきたいと考えます。
 
二次予防の弊害になっているのがBP製剤の機序から骨融合に影響があるのでは? という懸念および、その懸念から急性期に導入されず...そのまま...という症例も多くあると考えられます。
 
これまでにはざまざまな報告がありますが一般的には骨折後の急性期のBP製剤の導入は問題ないとは言われています(Osteoporos Int. 2011;22(8):2329-36.  J Bone Joint Surg Br. 2012;94(7):956. JAMA Surg. 2016;151(11):e162775. N Engl J Med. 2007;357(18):1799-809.)。過去に骨粗鬆症治療薬が融合不全のリスクと報告する大規模研究もあるがこの集団は65歳未満であり一般的な脆弱性骨折の患者層とは違います(JAMA Surg. 2016 Nov 16;151(11):e162775.)。
 
癒合不全は比較的まれな出来事であり、継続的なフォローが必要なのもあり、今回は後ろ向きの大規模データーを使用して検証しようという研究になります(この研究はSERMに関しても調査していますがここでは割愛します)
 
No Increased Risk of Nonunion with Bisphosphonate Use in a Medicare Claims Cohort Following Operatively Treated Long-Bone Fractures
J Bone Joint Surg Am. 2023 Apr 5;105(7):549-555.
 
■論文の概要
 
2016年から2019年のメディケア請求データーを後ろ向きに評価し骨折後1年のデーターを収集した。年齢、性別、人種、併存疾患(チャールトン併存疾患指数)、骨折の種類、で多変数ロジスティック回帰モデルを評価した。
 
111343件の骨折のうち9.4%で1年以内の癒合不全が生じていた。
非癒合群は若め,白人,併存疾患がある(チャールトン併存疾患指数が2以上)で多かった
BP製剤は癒合群では11.4%,非癒合群で12.2%使用されていた
非癒合はBP製剤非使用者では9.3%、BP製剤使用者では9.7%で発生した(NNH=250)
 
非癒合リスクに関して人種、年齢、性別、および CCI を調整するとBP製剤の使用は非癒合に関連していなかった(OR 1.06 [95%CI 0.99-1.12])
BP製剤使用率も非癒合群で高かったが (12.2% 対 11.4%)、年齢、性別、人種、併存疾患、および骨折の種類で調整すると、この差は有意ではなかった.
 
ということで手術が行われた骨折症例においてBP製剤の使用は1年以内の非癒合リスクと関連していないという結果でした

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly



これまで認識できていなかったかも...ですが先日遭遇することがあったため学んでみました

最初に1992年、橋本らが数日間続いた全身性ミオクローヌスとアステリクシスの急性同時発生を発症した7人の高齢の日本人患者を "Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome" として報告した (J Neurol Sci. 1992;109(2):1)

 
“transient myoclonic state with asterixis”
 “benign transient shuddering-like involuntary movement”
 “isolated transient myoclonus”
"transient myoclonic state in the elderly"
 
などの名称でも報告がありますが、多くは日本からの報告という症例です
 
■主な臨床像は

・不規則で反復的な数秒のミオクローヌス
ミオクローヌスの発症部位は顔面と頸部と上肢がほとんどの症例で発症し、下肢にも出るのは1/3〜1/2程度。片側性のことはない。
・アステリキシスを伴うことがある(必須ではない,1/3〜1/2)
意識障害や健忘や麻痺はなく、指示動作も可能
感染症罹患後に発症する症例もある
・安静時に発症、姿勢や動作で増悪することもある、睡眠中は改善
・血糖,電解質,NH3は基本的に正常
・数日間で改善する一過性の病態だが,半数程度で再発の報告がある

① Clinical characteristics and etiology of transient myoclonic state in the elderly
Clin Neurol Neurosurg. 2015 Dec;139:192-8

ミオクローヌスをふくむ病名で診断された5089人中のうち26人の「transient myoclonic state in the elderly」の報告
男性16人,女性10人
年齢は56歳から96歳(79.7±9.9歳)
26例のうち2例が発症数日前にリスペリドンとレボフロキサシンを投与されていた
制御不可能な不随意運動で立ったり話したりすることが困難なため救急搬送される症例が多い

四肢にでたのは7/26
アステリキシスを伴ったのは8/26

24/26がADL自立している人で発症している
電解質,ブドウ糖,NH3は基本的に正常
脳波は正常

ジアゼパム 2.5-5mgのIVで改善するケースあり
クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で10/22で1時間以内に消失
1日で2-3回クロナゼパム 0.25-0.5mgを投与すれば消失する

 病態生理には、加齢に伴う動脈硬化の変化を背景とした何らかの代謝異常などが考えられている
数日間で改善する一過性の病態


■鑑別診断

代謝性脳症様やてんかんのようにみえるが、意識は正常なので臨床像を知っていれば鑑別は可能

とくに臨床像が類似しているのは良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんと家族性皮質ミオクローヌス振戦てんかんだが家族歴,発症年齢,ミオクローヌスの分布,症候性発作の有無,安静時の繰り返す短時間のミオクローヌス発作などが鑑別ポイント

② Isolated transient myoclonus in the elderly: an under-recognized condition?
Clin Neurol Neurosurg. 2014 Feb;117:51-54

・平均年齢75歳(54-89)の6人の男性と5人の女性
・家族歴がある人はいなかった
・10人の患者は高血圧などの慢性疾患を患っていた
・11人中5人に感染症があり,回復期ないし急性期にミオクローヌスを発症した
・10/11が頭頸部,11/11が上肢,6/11が下肢,2/11が体幹
・片側性の症例はなかった

電解質,血糖,肝機能はすべての患者で正常
・Crは0.5-1.5mg/dlの範囲NH3は9人で評価され全員正常
・CTやMRIでは4/11の陳旧性脳梗塞があった
EEGではてんかん波や三相波の所見はなかった。5/9が正常、4/9で非特異的な軽度の所見があった
・ミオクローヌスはBZOが投与されたかどうかに関係なく1-4日以内に完全に回復し、維持療法は不要だった
・5/11で2-19ヶ月以内に再発した
・1人は初回と二回目も肺炎後に発症した
・アステリキシスは初回発症時は6/11で確認された
・同じ患者でもアステリキシスが出たり消えたりすることがある
 
主な特徴は以下
1. アスタリスクを伴う/伴わないtransient myoclonic state in the elderlyは、上肢、肩、または頭/首でみられやすい
2. ケースによってはミオクローヌスは行動や姿勢によって増強されましたが、睡眠中には減少しました。
3. 患者はしばしば高血圧などの慢性疾患を患っていた。
4. 発症前の感染症の病歴が時々記録された。
5.  意識の変化、発作、またはその他の臨床的徴候の徴候がない;
6. ベンゾジアゼピン (ジアゼパムまたはクロナゼパム) が有効な場合もありますが、数日以内に自然に解消する
7. 再発することがある(この論文では5/11)


 
...ということで、実際に遭遇した場合は
 
ジアゼパム 2.5-5mgのIV or クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で症状を止める
・意識や神経学的な異常がないことを確認する
・血糖,電解質,NH3はチェックする
・数日以内に改善する疾患であることを説明する(短期間でクロナゼパムを処方してもよい)
・再発しうることを説明する
 
初見はわからん殺しのような疾患ですが、知っておくと落ち着いて対応できるかも?、という疾患のイメージです
 
 
 

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly



これまで認識できていなかったかも...ですが先日遭遇することがあったため学んでみました

最初に1992年、橋本らが数日間続いた全身性ミオクローヌスとアステリクシスの急性同時発生を発症した7人の高齢の日本人患者を "Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome" として報告した (J Neurol Sci. 1992;109(2):1)

 
“transient myoclonic state with asterixis”
 “benign transient shuddering-like involuntary movement”
 “isolated transient myoclonus”
"transient myoclonic state in the elderly"
 
などの名称でも報告がありますが、多くは日本からの報告という症例です
 
■主な臨床像は

・不規則で反復的な数秒のミオクローヌス
ミオクローヌスの発症部位は顔面と頸部と上肢がほとんどの症例で発症し、下肢にも出るのは1/3〜1/2程度。片側性のことはない。
・アステリキシスを伴うことがある(必須ではない,1/3〜1/2)
意識障害や健忘や麻痺はなく、指示動作も可能
感染症罹患後に発症する症例もある
・安静時に発症、姿勢や動作で増悪することもある、睡眠中は改善
・血糖,電解質,NH3は基本的に正常
・数日間で改善する一過性の病態だが,半数程度で再発の報告がある

① Clinical characteristics and etiology of transient myoclonic state in the elderly
Clin Neurol Neurosurg. 2015 Dec;139:192-8

ミオクローヌスをふくむ病名で診断された5089人中のうち26人の「transient myoclonic state in the elderly」の報告
男性16人,女性10人
年齢は56歳から96歳(79.7±9.9歳)
26例のうち2例が発症数日前にリスペリドンとレボフロキサシンを投与されていた
制御不可能な不随意運動で立ったり話したりすることが困難なため救急搬送される症例が多い

四肢にでたのは7/26
アステリキシスを伴ったのは8/26

24/26がADL自立している人で発症している
電解質,ブドウ糖,NH3は基本的に正常
脳波は正常

ジアゼパム 2.5-5mgのIVで改善するケースあり
クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で10/22で1時間以内に消失
1日で2-3回クロナゼパム 0.25-0.5mgを投与すれば消失する

 病態生理には、加齢に伴う動脈硬化の変化を背景とした何らかの代謝異常などが考えられている
数日間で改善する一過性の病態


■鑑別診断

代謝性脳症様やてんかんのようにみえるが、意識は正常なので臨床像を知っていれば鑑別は可能

とくに臨床像が類似しているのは良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんと家族性皮質ミオクローヌス振戦てんかんだが家族歴,発症年齢,ミオクローヌスの分布,症候性発作の有無,安静時の繰り返す短時間のミオクローヌス発作などが鑑別ポイント

② Isolated transient myoclonus in the elderly: an under-recognized condition?
Clin Neurol Neurosurg. 2014 Feb;117:51-54

・平均年齢75歳(54-89)の6人の男性と5人の女性
・家族歴がある人はいなかった
・10人の患者は高血圧などの慢性疾患を患っていた
・11人中5人に感染症があり,回復期ないし急性期にミオクローヌスを発症した
・10/11が頭頸部,11/11が上肢,6/11が下肢,2/11が体幹
・片側性の症例はなかった

電解質,血糖,肝機能はすべての患者で正常
・Crは0.5-1.5mg/dlの範囲NH3は9人で評価され全員正常
・CTやMRIでは4/11の陳旧性脳梗塞があった
EEGではてんかん波や三相波の所見はなかった。5/9が正常、4/9で非特異的な軽度の所見があった
・ミオクローヌスはBZOが投与されたかどうかに関係なく1-4日以内に完全に回復し、維持療法は不要だった
・5/11で2-19ヶ月以内に再発した
・1人は初回と二回目も肺炎後に発症した
・アステリキシスは初回発症時は6/11で確認された
・同じ患者でもアステリキシスが出たり消えたりすることがある
 
主な特徴は以下
1. アスタリスクを伴う/伴わないtransient myoclonic state in the elderlyは、上肢、肩、または頭/首でみられやすい
2. ケースによってはミオクローヌスは行動や姿勢によって増強されましたが、睡眠中には減少しました。
3. 患者はしばしば高血圧などの慢性疾患を患っていた。
4. 発症前の感染症の病歴が時々記録された。
5.  意識の変化、発作、またはその他の臨床的徴候の徴候がない;
6. ベンゾジアゼピン (ジアゼパムまたはクロナゼパム) が有効な場合もありますが、数日以内に自然に解消する
7. 再発することがある(この論文では5/11)


 
...ということで、実際に遭遇した場合は
 
ジアゼパム 2.5-5mgのIV or クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で症状を止める
・意識や神経学的な異常がないことを確認する
・血糖,電解質,NH3はチェックする
・数日以内に改善する疾患であることを説明する(短期間でクロナゼパムを処方してもよい)
・再発しうることを説明する
 
初見はわからん殺しのような疾患ですが、知っておくと落ち着いて対応できるかも?、という疾患のイメージです