資本主義の溝に落ちた

タダより高い物はない、ということをdアニメストアに教えられた話。

 

 2019年8月某日。私はその日の深夜、無性にアニメが見たくなった。もう何年も前に深夜放送されていた謎の紙芝居百合アニメだ。実はDVDボックスも持っているのだが、実家に置いたままにしていたため手元にない。

 まずは登録中のアマゾンプライムで検索。しかし有料。配信しているサービスはないかとネットで検索をすると、どうやらd……ストアで配信中とのこと。他の動画サービス同様に、初回30日間無料とあったので、私はあまり考えずに、登録を始めた。

 

 自分で言うと説得力がないが、警戒心は強い方と自負していた。クレジットカードの登録をしないといけない場面では、いつもであれば躊躇う。それでもそのとき、躊躇いなく登録をしてしまったのは、それまでに利用したサービスがちゃんとしていたから。

 もともとネットフリックスユーザーだった過去もあり、アマプラは継続中。Hulu、U-NEXT、Paraviの無料体験も経験済みで、そのどのサービスでも、支払い関係の不具合は起きたことがなかった。登録も退会も楽々だった。ログインできないのに請求とかなかった。だからまさか天下のd……ストアでこんなことが起きるなんて夢にも思っていなかったのだ。

 私はキーワード検索から公式の登録ページにアクセスし、求められるまま必要事項を入力した。そして、その登録内容で、d……ストアにログインしようとしたのだが、最初の異変はここで起きた。

 なんと「アカウントがない」と跳ね返されてしまったのだ。

 流石に焦った。だってこっちはクレジットカード情報を登録したのだ。もしかしてアカウント作成が別に必要なのかと思いたち、d……ストアに登録したアドレスでdアカウントを作成、しかし連携は確認できなかった。しかし、もう一度d……ストアへの登録を試みると、そのアドレスは使用済みと出る。ログインを試みると、登録されていないと出る……。グーグルアカウントを確認すると、確かにドコモからの請求と紐づけされている。しかしログインはできない。

 私は問い合わせ先を探した。いや、見つからないこと何の如し?は?ドコモユーザーでなかったのが不幸だった。ドコモユーザー向けのヘルプしかねぇ。

 しばらく探すと、ようやく問い合わせのメールアドレスを見つけることができたので、そこから上記の現状を連絡した。深夜だったので、朝返事が来ることを期待した。

 翌朝、もやもやとする私の気持ちに反して、帰ってきた返事は簡素なものだった。

ドコモショップで解約して」

 まず最初の過ちは、これを信じたことだった。

 

 こういうことに対して待てができないタイプの私は、仕事の休憩中、職場近くのショップに解約に行った。私用したクレジットカードを提示し、処理を済ませた。店員さんが、「解約手続きに時間がかかるから、初回の請求はいくかも」みたいな話をしたので「30日無料のサービスも受けられてないんですけど」みたいなことを言った記憶はあるが、はぐらかされたような気がする。ただ、「心配だったら一か月後くらいに連絡くれれば解約の確認しますよ」というお返事をもらったのは確かだ。

 今思えば、ここでも私は過ちを犯していた。まぁ無料だし解約しとけばええやろ、と軽い気持ちでいたのが間違いだったのだ。

 メールの返信を信じるべきではなかった。解約の手続きを、するべきではなかったのだ。

 私がすべきだったのは、”どうしてもd……ストアでアニメが見たい!”とゴネて、クレカと連携したアドレスでログインして、30日間無料のサービスを提供されておかなければならなかったのだ。その理由は後述する。

 

 一か月後のことである。なんと、d……ストアからの請求が来たのだ。ログインすらできていないサービスに対する請求だ。クレジットカードに付属している利用メールでそのことに気が付いた私は、すぐにショップに電話をした。

 ショップ店員の言うには「解約手続きに時間がかかるからその支払いは止むを得ん、登録はされていないから、解約は済んだ」というような感じだった。めっちゃイライラしてた。(くだらないことで電話してくんなこっちは忙しいんじゃボケ)という罵詈雑言が聞こえて来るような心地だった。小心者の私は、まぁ少額だし、もう請求来ないならいいや、と少ししょんぼりしながら、も二度とドコモの世話にはなりたくないな、と思いながら電話を切った。

しかし、この言葉も、信じてはいけなかったのだ。

 

 それはクリスマス目前の12月半ば。もうdアニメストアのことなんて忘れていた。なのに、請求が……!!?!???え……何……?世界バグった???

 速攻でショップに電話をした。解約したはずのものに請求が来たと。しかし土日はクレジットカードの情報を取り扱う部署がお休みのため、請求関係の問い合わせを受けられない、平日にショップに来いとのことだった。はぁ?

 私のクリスマスに、ドコモショップでのパーティという予定が入った。

 

 当日、ドコモショップに向かった。改めての解約手続きをして、返金の話になったが、その時点ではっきりした返事はもらえなかった。何故請求が止まらないのか調べます、分かったら連絡します、と追い返された。しかしショップを出た3分後、駅のホームで電車を待つ私の元に電話が来た。えぇ……。

 結論を言うと返金は無し。担当者はどんな質問をしても「俺は悪くない」をめちゃ丁寧にした感じでめちゃ喋ってきた。要約すると「俺は悪くない」「金は返さない」としか言っていなかったと思う。

 それでも何とか私が(言語として)理解できたのは

・初回30日無料の特典が適用されないまま解約の手続きをしてしまったので、私が支払いをしている、という事実がシステムに上がっていない?(私のカードにはバッチリ請求来てましたけどね)

・請求しているという事実がシステムに上がっていないので、8月に解約手続きをした際に、”そのカードは支払いをしていないので、解約もなにもない”と跳ね返された(この連絡、私には来ませんでしたけどね)

・ショップでの(マニュアル)対応は間違いではなかったから、返金する理由がない。

 

 ということだった。その電話口で担当者は「手続きが無事済んだ場合は連絡はしない。不都合があれば再度連絡をする」と言って話を終わらせた。私の質問に対する、納得のいく返事は到底期待できなかった。謝罪は無かったと思う。

 泣いた。誇張表現ではなく、帰りの電車で俯いてずっと泣いていた。金額は大したことないのだけれど(2000円くらいかな)、損をしたのが悔しいんじゃなかった。

 悔しかった。こういう時、ちゃんと自分の権利を主張できる力がない自分にがっかりした。通信会社の複雑なシステムについてもっと理解できていたら、と自分を責めた。きっと裁判しても負けるんだろうなとかそんなことを考えた。

 12月までの請求は諦めろと電話口で要領を得ない説明をされ、私は泣き寝入りした。その後不運は続きカードを紛失、カード会社に連絡をしてカードの停止と再発行をした。

 なのに……。

 先ほど、新しいカード番号宛に1月分の請求が来た。なんで……なんで…。えっ……カード利用の変更手続きは自分でやってってカード会社の人言ってたじゃん……。多分、再発行後のデータが自動的に提供されたのだろうが……。

 とにかく、忘れかけていたところに請求が来たというショックで、この記事を作った。

 あわててショップに電話をすると、「解約手続きに時間がかかるからその支払いは止むを得ん、登録はされていないから、解約は済んだ。2月の請求はいかない」というどこかで聞いたようなお返事をいただいた。正直まだ、信じることはできない。

 あんまりショックだったので笑いながら母親に電話をし、同じ目に合う人がいませんようにという願いを込めてこの記事を書いている。

 

 例え少額でも、利用できないサービスに対する請求は怖い。その上、解約後、クレジットカードを変えても追いかけて来る請求は怖い。

 私に損失を与えた側に悪意はないと思う(そんな金額じゃない)し、ショップの対応も理解はできる。業種は違うが、私も支局のようなところにいて、返金しろという客と、返金できないと言い張る本部の板挟み……みたいな状況は容易に想像できるからだ。私を傷つけたのは、誠意が一切なかったことだったのだと、今になると思う。

 相手に落ち度がなかったとしても、私が提供されないサービス料を請求され続けたことは事実だ。簡単に無料でできるという部分に目を眩まされて、”契約”してしまうと、こういうことになる。

 資本主義の溝に落ちたな、とひとり反省している。