海外ドラマ「ブレイキング・バッド」のススメ
先日、米ドラマの「ブレイキング・バッド」を観終わったので、是非まだ観ていない方に観てもらいたくて、この文章を書きます。
どこのレンタル屋さんにも置いてなかったり、1巻目がレンタル中だったら、公式サイトにいくと、今なら1話目を無料で観られます。またhuluでなら、2週間なら無料で全話観られるかもしれません(確認はしていません)。
ただ、どんなに面白いドラマでも、観る前にハードルが高くなると、期待バズレになったりしてしまうことは、よくあることかと思います。
「ブレイキング・バッド」はエミー賞を何部門も受賞したとか、有名人が絶賛していたりとかありますが、もともとはケーブルTV用のドラマですので、他の有名ドラマのようなものを期待すると、拍子抜けするかもしれません。
ですので、観る前にハードルを下げる必要があるかと思います。
というわけで、これから「ブレイキング・バッド」のネガティブな点を中心に感想を書こうかと思います。
1 シーズン1は不完全燃焼
「ブレイキング・バッド」は全5シーズン、62話のドラマです。
シーズン1が7話、シーズン2から4までが13話で、シーズン5が16話ですが、シーズン5は実際は2年がかりで放送されていて、実質、全部で6シーズンになるといえるかもしれません。
1話あたりの制作費が3億というわけなので、ケーブルTV用ドラマとしてはかなりお金がかかっているらしいのですが、シーズン1はこじんまりとした印象を受けました。英語のできない私が普段観て来たアメリカのドラマといえば、「24」や「LOST」などの大作が多く、それらと比較すると、少し見劣りする部分もあります。
2 面白くなるのはシーズン2くらいからかも
シーズン1はややスケールの小さい話になっています。
鑑賞眼の優れたひとならば、シーズン1の冒頭から、「こいつはすごいドラマだ!」とか思うのかもしれませんが、シリーズの冒頭はやや退屈に思う視聴者もいるかと思います。また連続ドラマでは仕方のないことなのか、シーズン1の中盤はやや物語の進行がスローダウンします。(ちなみに、シーズン1は本当は9話だったのが、2008年の脚本家ストライキの影響で7話に短縮されました。そのせいかストーリーが不完全燃焼な感もあります。)
私の感想では、シーズン1はまだドラマのスタイルが試行錯誤の最中で、シーズン1の終わりからシーズン2の冒頭にかけて、それが花開き始めたように思います。
3 ブラック・コメディ
基本的にはクライム・サスペンスというジャンルのドラマだとは思いますが、やはりコメディというのは根底にあると思います。リアルなヒューマンドラマだと思って観ると、リアリティの部分で説得力を失うかもしれません。ストーリーに突っ込みどころはいくつかありますが、もともとがバカバカしい話なら、それも許せるというか、むしろ当然なのかもしれません。また「ブレイキング・バッド」は、時に、マジメなシーンに見えて、本当は笑うところだったりするドラマです。
ただユーモアの好みは、人によってかなりギャップがあるし、なかにはコミカルというだけで受け付けないひともいるように思います。
また、シリーズの中盤からは、逆にシリアスな部分が増え始めます。今度はおバカな映画が好みというひとが、逆に白けてしまうこともあるかもしれません。
4 ものすごく斬新というわけではない
テレビドラマの賞をいくつも受賞したりとか、「これまでにないドラマだ!」と絶賛されたりとかありますが、あくまで「テレビドラマとしては」という話だと思います。劇場用映画にはすでに似たようなスタイルの作品や、高い完成度に達したものがあると思いますし、そういったものを私たちは、もうかなり接してきていると思います。よくわかりませんが、私にはコーエン兄弟の映画(「ファーゴ」「ノーカントリー」)に似たものを感じました。ただ、それらの映画の面白さを、テレビドラマに変換するには、また違う才能が必要だろうし、「ブレイキング・バッド」のクリエーターはやはり優れた仕事をしていると思います。
5 回によってバラツキがある
何も「ブレイキング・バッド」に限った話ではなく、洋邦含めた大抵の連続ドラマは、すべての回が素晴らしいなんてことはありません。なかには明らかな「捨て回」みたいなものがあるドラマも多いかと思います。
ただ「ブレイキング・バッド」は、「一話完結ドラマ」ではなく、「続きもののドラマ」です。またアメリカのドラマは連続ものといっても、実際は一話完結のストーリーと平行して物語が進むという形式が多いように思います。
「ブレイキング・バッド」はかなりささいなシーンまで、すべて連続したドラマになっています。
「ブレイキング・バッド」はヴィンス・ギリガンというクリエーターが中心となって作った作品で、ストーリーやキャラクターの整合性にかなり気を使っているように思いますが、それでもやや質の低い回もあったように思います。
これは私の感想ですが、各話の担当者によって得手不得手があるように思えました。回によって、サスペンスや犯罪の仕掛けが少し陳腐だったり、セリフや人物描写が他の回に比べてあまり上手くないと感じることがありました。とはいえ私が観てきたほかのアメリカのドラマの中では、やはりクオリティの高いシリーズだったように思います。
6 ヴィンス・ギリガン
前述したヴィンス・ギリガンは、このシリーズの企画者であり、総監督で、脚本も多くの回で自らがクレジットされています。
大変才能にあふれた方だと思いますが、どうもこのひとが脚本を担当した回は、先の展開が読めることが多かった気がします。人をだますのが、そんなに得意ではないひとに思えます。
私の邪推ですが、ギリガン氏は割とマジメな作家なんではないかと思いました。また、そのマジメさがもともとはブラック・コメディだったシリーズを、少しヘビィにしているように思います。娯楽作品としては好みが分かれる要素になるかもしれません。
7 「ウォーキング・デッド」と比べてどうか
最近の同様に面白い米ドラマといえば、「ウォーキング・デッド」ではないかと思います。「ブレイキング・バッド」はそれより2年近く前にスタートし、去年の2013年の夏に最終シーズンを迎えました。
少なくとも、「新しさ」と「過激さ」という点では、前者に分があるかもしれません。ちなみに「ブレイキング・バッド」と「ウォーキング・デッド」は、同じAMCというケーブルTV局が放送したそうです。
他にも、気になるところがいろいろあったように思いますが、いまのところ浮かびません。
「ブレイキング・バッド」は私がこれまで観てきたドラマでは、最高の部類に入るドラマだったので、本当は良いところをいろいろ書きたかったのですが、そういう情報はこれから観るひとの楽しみを奪うので、書きません。
ただ、どうしても挙げたいことがあります。
8 ちゃんと終る
米ドラマの、どうしても嫌な点は、ちゃんとした最終回を迎えるものが少ないというところです。シーズンの最終話に大事件が起きて、来年につづく…、というような「引き」をしたにもかかわらず、そのままシリーズが打ち切られたり、シリーズを通じてさんざん引っ張ってきた謎が、最終回でも、もやもやとした曖昧なものだったり、なんてことがよくあります。あったように思います。
「ブレイキング・バッド」は、ちゃんとシーズン5で終ります。
9 字幕
「ブレイキング・バッド」の字幕はなかなか良かったように思います。
私は洋画は吹き替え派ですが、コメディは字幕で観るというこだわりがあります。理由はすごく長くなるので書きませんが、吹き替え派の方も、できれば字幕で鑑賞することをおすすめします。
コラム:『ブレイキング・バッド』字幕翻訳者に突撃インタビュー! | 海外ドラマNAVI
私は英語ができないので、「ブレイキング・バッド」の翻訳が正確だったかどうかわかりませんが、字幕を担当された方は、非常に気を使われて仕事をなさったように思いました。
映画の翻訳で一番大事なことは、正確さよりも、「どれだけ面白さを損ねないか」だと、個人的には考えています。字幕担当者の方は、そういう点を、非常に大事にされていたように感じました。
ただ、吹き替え版が悪かった、という意味では決してありません。