機械仕掛けの眠り姫

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まささん(https://twitter.com/masaE50_)に書いていただきました。

 

恋愛は拷問あるいは外科手術によく似ている。
シャルル・ボードレール『火箭』

 

1日目

カレリア

 梅雨が来た。
 夏の始まりのようでいて、けれども気持ちのいいカラっとした暑さではなく、ジメジメした高湿度の中にいてはどうしても憂鬱な気分になってしまう。軽い気持ちでランダム戦に出撃したはずだったのだが、カレリアの沼地とこの湿度では今一乗り気になれない。空は薄暗く曇り、熱気と湿気が肌に滑りつき、嫌でも夏の到来を感じさせられていた。
 なんて、今日に限って単なる気候にそんな恨みがましい感想を抱くのは、ボトムマッチに放り込まれた事が嫌だっただけなのだが、こんな天気とマッチングでは文句の一つも言いたくなるというのものだ。
 さて……どうしたものだろうかと思い悩んでいるとこちらのチームのTOPが視界に入った。HTにしては少し小柄で長い砲身が特徴の、Obj277だ。Tier10としては悪くない戦車で期待できるかもしれない。もっとも車両で腕が決まるわけではないのだから今から期待し過ぎるというのもお門違いなんだが。なんにしろ我々ボトムTier8は彼女についていく他選択肢がないのである。彼女が撃破されたら敵のTOPに蹂躙されてしまうから、身を挺しても彼女を守るかして生かさなければならない。私たちの命、それに見合うだけの活躍を期待せざるを得ない。が、一見しただけでは長い長いご立派な130mm砲には優等マークの一つも見つけることはできなかった。……これは、ダメかもしれないな。そうすぐに落ち込んでしまうのはこのクソ暑い気候とぬめぬめしたマップのせいだと言い聞かせて、重い足取りで配置についた。30秒のカウントダウンが始まる。

  ……開始から10分が経過している。戦況は芳しくない。LTはお互いに中央で撃破され、MTは丘へ突撃し撃ち合い、自走砲に焼かれ、最早丘には私以外誰も残ってはいなかった。我らがObj277はTier9を相手に果敢に戦闘を繰り広げ一時はリードを広げるも、調子に乗って自慢の駆け足で突っ込むと途端にTDによって撃破されてしまった。Tier10という尊い犠牲のおかげでTDをスポット出来て撃破に至ったのだからアドバンテージは大きいのだろう。277は優秀だったがこちらのチームは他の戦車たちがダメダメだった。Tier8,9は惨敗。自走砲は何故かスポットされたりカウンターを食らったりして敵味方互いにいなくなり、私が突っ込んできた敵MTを撃破したのを最後に、戦場はとても静かなものへと変化していた。
 私はこのMTが最後だと思い込んでいたので、暫く放心状態で動かないでいたのだが不思議なことに試合が終わらない。敵がまだ残っている?編成表を見てみるととんでもないものがまだ残っていることに気づかされた。いや、私自身気づいていたのかもしれないがそれを隠していたのかもしれない。敵のTierTOPのMAUSがまだ一度もスポットされていなかった。ミニマップを穴が開くほど睨み付けても、MAUSの姿は見当たらない。ということは、MAUSは最初はベースで芋っていてこちらの枚数が少なくなってから、より敵がいなそうな方向へ向かって進軍している予測が立つ。
 非常にまずい。私はカレリアの丘上で考えていたが、どうやらそのような時間はこれぽっちも残されていないようだった。無傷のMAUSが進軍してきているのならば、ボトムの私に対抗できる術はない。金弾を使用したところで正面は抜けるものではないし第一フルHPのMAUSに勝つにはインファイトを仕掛け横にびったりと張り付くことだが、私自身、HPは800しか残っておらずあまり現実的ではない。MAUSなら私の正面どこ撃っても簡単に貫通させることが出来る。撃ち合いは良くない判断だ。
 ならば、勝利するためにはMAUSを避けてCAP勝負を仕掛ける以外ない。幸いにもMAUSは北側を遠回りでゆっくりと進軍してきているはずだから恐らく私の方がタッチダウン自体は早い。多分。そうと決まれば早速行動しなければ。私は急いで丘から中央の沼地へと滑り落ち、敵CAPを目指すことにした。
 ギャギャっと履帯が嫌な音を上げながら坂を下り、沼地へと踏み入れた。クソ暑いから、沼と言えど水を浴びれば少しは涼しくなるかなと思っていたが、生ぬるい泥水を被り車体が泥まみれになっただけで、不快指数が下がるどころか上がる一方だった。尤も今はMAUSより早くCAPに入れるかどうか泥を洗い流せるほどの冷や汗が溢れ出ている。間に合って欲しいと願う気持ちは履帯の回転数と共に一層増していく。
 沼地を抜けてスロープから頭を一つ出した瞬間、私の眼前に映ってはならない、そこにいるはずがないものを突きつけられた。六感が光りミニマップにその名前がポップする。"MAUS"と。最初から北側迂回していたり南側丘当て返しをしてはいなかったのだ。勝利を捨てて私が来るのをずっと待っていた。あからさまな動揺と、混乱と、戸惑いと絶望を織り交ぜて、私の前進は少しずつ崩れていく。
 まるでこの世の終わりのような表情を浮かべていた私だったが、状況を整理すると何かがおかしい。MAUSはこちらに発砲する様子はなく、砲塔は動かず砲身は下を向いたまま、まるでしょんぼりしているかのような態勢で動く様子がない。よくよく考えてみるとあれは出撃地点でそこから1ミリも動いた様子がそもそもなかった。
 なるほど、これはAFKだな。先ほどまで敗北を確信していた私であったが再度前進し始める。まさか今更動き始めないよな?緊張と、不審と、不安と恐怖の混ざった祈るような眼をMAUSに向けて横を通り過ぎとうとうCAPへとたどり着いた。......CAPの進む速度がひどく遅く感じる。しかし私の心配事は杞憂だったようで、無事に勝利へと至った。

 CAPを踏みながら考え事をしていた。AFKのMAUSを撃破しても良かったのだが、弾薬費もかかるし、撃たれたら気づいて動き出すかもしれない。なによりも何らかの重大な理由があってああしている無抵抗な彼女を一方的に撃つ気にはなれなかった。

 試合が終わった後、皆それぞれ撤収をし始めたざわつきがまるで聞こえていないような佇まいのまま、マウスはこれっぽっちも私が横を素通りした場所から動いてはいなかった。まさか空気が腐り落ちるような気候で死んでしまったのだろうか 。まさかね。

「MAUS、起きて!もう試合は終わってみんな帰り始めてるよ。起きて!」
 いくら声をかけても、車体をゆすっても全く反応が無いので一発撃ってやろうかと思い出したころ。その眠れる主から返事があった。
「うあ”……えぇ?」
なんてうめき声なのだろうか。戦車のエンジンの方がまだいい音を出すだろう。
「もうみんな帰っちゃったよ。今日の試合、あなたずっと眠っていたのよ。あんだけドンガバンガ撃ち合いしていてもちっとも起きやしないから死んだんじゃないかって心配して」
「あなた……あなたIS-3じゃない⁉私はあなたを知っているわ!あなたをよく知っているのだわ!」
「え、えぇ……いや私のことより試合……」

 なんだか話がかみ合あわないし、何より試合をすっぽかしたことなんてこれっぽっちも気にしてはいないような雰囲気で。とにかく何か変だ。そう懊悩していると

 「ここはカレリアね!さっきは私、コマリンへ行ってきたの。そんなに活躍はできなかったのだけれども、今度は頑張るわ!あなたは私の味方なのかしら。それにしてはあなた以外の戦車が見当たらないのだけれども、これはどういうことかしら。ああ言わないで分かるわ、みんな先に行ってしまったのね。私遅いからいつも最後尾なの、知ってるわ。試合が始まっているのにまだベースに重戦車が一台いる、それが見てていたたまれなくなったから思わずあなたは帰ってきたのね。優しいのね」
「だからさっきも言ったじゃないか。もう試合は終わったよ。みんなはそれぞれガレージに撤収した。残っているのは私たちだけ。あなたは試合中ずっと眠っていて、味方は呆れて帰っちゃったよ。私たちももうガレージに帰ろうよ」
「えぇ⁉そうだったの……ごめんなさい、私眠っちゃってたのね。でも次は頑張るわ!貴女も一緒に頑張りましょう!プラトーンを組みましょう!そうすれば次は一緒に戦えるわ。もし眠っていてもあなたが起こしてくれるのでしょう?なら安心だわ!」

 どうして私がAFKと一緒にプラトーンを組まなければならないとか、そもそもプラトーンはTier格差があると今は組めないとか、もう疲れてへとへとだからとにかくガレージに帰りたいとか、かといって無視するのも可哀そうだとか、色々な感情が浮かんできて速く眠りたくなってきた私は面倒になりつい快い返事をしてしまった。

「わかったわかった。今日はもう帰ろう。色々精神力を使わされて疲れた」
「約束よ!明日は私とプラトーンを組むの!」

 何故私がこんな事に付き合わなきゃならないんだ。そもそも格差プラは今は組めないだろうに。というかこの女、さっきコマリンへ行ってきたと言っていたな。最早消されたマップを思い出すとは古い夢を見ていたようだ。それを聞いて私も昔を思い出し懐かしい気持ちになってしまった。思えばあの頃は格差プラもコマリンに、もっと変なマップやマッチングがあったっけ……。
 そんな郷愁に心を浸しながら未だに寝ぼけたままの彼女と一緒に、ゆっくりと帰路へと動き出した。その時、ふとMAUSの頭上の名前が視界に入った。
 本来Mausとだけ表記されているはずの所には、今のバージョンより遥か昔の車両HD化以前のものである "MAUS  0.8.11" と表示されていた。成程、それなら彼女が格差プラが出来ないことやコマリンがまだあると信じるのも無理はない。訳の分からない空目をする程にどうやら私は疲れていたいらしく、その日は深く眠れた。

 

7/26
2日目

 昨日は敵のTierTopがAFKのおこぼれのような逆転勝ちを手中にした達成感からか、よく眠れた。ベットで体を起こし、ぐいーっと砲身を伸ばし、脳がゆっくりと深い睡眠から覚醒していく。それにしても昨日の勝利は心が躍るように気持ちがよかった。一日たった今でも思い出すと鼓動が速まるのを感じる。今まで何万戦もしてきた中でも5本の中に入る程の接戦だった。それを私が最後に決めたんだ。ああいう試合があるとまた次の試合も頑張ろうと、無尽蔵のやる気が湧いてきた。さぁカーテンを開け、最高の一日を始めよう。

 ベットから降りてカーテンを開けようと窓際まで行く途中で、自分のガレージがいつもと違う違和感を覚えた。が、まだ寝起きのぼんやりした脳みそではそれを観測することが出来ず、それに気づいたのは実際にそれ自体に躓いてからだった。

(何かにぶつかった……おかしい……部屋は綺麗にしていたはずだけれども……)
 そう不思議に思いながら視線を躓いた物体に目を向けると足元にはマウスが寝転がっている……。マウス?なぜ彼女が私のガレージで寝ているんだ?
 可愛い寝息をスピースピーとたてながら地べたに寝転がっている。状況が理解できずに3秒ほどその場にまるでこのガレージだけ時が止まったような中で、立ち尽くしていた。カフェインを摂取していないのに、薬物の何倍の速度で脳が急速に覚醒していく。……何故マウスが私のガレージにいて、あまつさえ寝ているのか理解できなかったが、ただ一つ理解できたことは、どうやら私の最高の一日はすでに死んでいるようだった。
 まずは状況を整理するには彼女をたたき起こして聞いてみるほかない。カーテンを動揺したままの心で目一杯力を入れてジャっと開けた。太陽の日の光が部屋に差し込んで、明るく照らす。どうやら日光を浴びるとセロトニンという物質が分泌されて精神の安定や安心感、平常心などの効果をもたらす脳内物質の分泌が促されるそうだ。何より長い睡眠開けに浴びるのは一日が始まるようなスイッチが入ったような気持ちになりに気分が良い。
「う゛あ゛……」

 そんな私の朝の気分を妨害してきた原因の張本人が後ろ側からうめき声をあげる。

「マウス起きろ!朝だよ朝!とにかく起きろ!あなたには聞きたいことが山ほどあるんだ」
 彼女の体を砲身でガンガン叩きつけた。
「あ゛あ゛……分かったから起きるから!砲身を私に叩きつけるのを止めて欲しいのだわ!体に響いて朝から頭が痛くなるのよ!」
 朝から頭が痛くなるのはこちらのセリフだ。

「起きたのならやめてあげる。私は食堂に行って朝ごはんをとって来るね。それまでに目と脳を覚ましておくように。あと部屋の中は弄らないでよ!」
 朝からイレギュラーが発生したが、私の一日のルーティンを乱すわけにはいかない。寧ろイレギュラーがあるからこそ疎かにしてはならないのだ。これによって私の心はまだ平穏に保たれている。 
 食堂から朝食のトーストとコーヒーを二人分持ってきて、それを小さなテーブルに置いた。彼女と一緒に食べる。細かいことは食べながら聞くことにしよう。昨日頑張ったせいかお腹が空いた。

 今日も程よく焼けたトーストにバターを塗り頬張る。コーヒーも酸味と苦みのバランスが良いWGブレンドが鼻腔と舌に広がる。

「あなたとても美味しそうに食べるのね」
「……それであなたは何故私の部屋で寝ていたの?昨日は疲れていてあまり記憶がないのだけれども、私は自分のガレージには一人で帰ってきたことまでは覚えている。間違いなく私は一人で寝た。何故あなたがこうしてここにいるのか説明してほしい」
 人が美味しくトーストを食べている姿をいちいち言わなくていいものを。私はそれほどまでに表情に出ていたのだろうか。昨日の達成感からか、いつもと変わらないはずのトーストが美味しかったのは事実なので図星をつかれ少しイラっとしてつい厳しい口調で問いただした。
「あら、確かにこのトースト美味しいわ。あなたが美味しそうに食べる訳も分かるわ。コーヒーも香りが良ければ味も良いのね。こっちの食べ物は美味しいのかしら」
 こいつは会話をする気があるのだろうか。
「それはね、パンはただのダブルソフトなのだけれども、バターはマリノフカ農場で生産されたものだけを使っていて、コーヒーはWGブレンドを食堂で豆を挽いて淹れてくれるの。美味しいでしょ!……で、それは置いといて、なんで私の部屋で寝ていたの」
 彼女が私が美味しそうに食べると言っていた意味が今分かった。マウスも美味しそうにもしゃもしゃとパンを食べている、その表情が嬉しそうに微笑んでいてそれが漏れて伝わってくるのだ。トーストを食べ終わった後に、コーヒーを飲みながら彼女は昨日の出来事を話してくれた。

「あなたとロビーに一緒に帰ってきた後別れたとこまでは良かったのよ。でも、帰りながら周りを見ていて気付いたのだけれども、何か私の知っているロビーやガレージとは雰囲気が違ったの。私のガレージを探しても建物が改築されたようで、何もかもが知っているはずなのに、まるで知らない場所みたいでなんだかだんだん怖くなって……」
「それで私のガレージに忍び込んだというわけ」
「えぇ……建物が違うから自分のガレージの場所が分からなくなって、ほかに行き場がなかったから。それよりも私の知っている世界じゃないようで怖くて逃げだしたくなっちゃったのだけれども、逃げ先なんてなかったから……」
「私のガレージにたどり着いたと」
「外で眠るのは嫌だわ。だからあなたのガレージを見つけた時て起こさないように静かに入ったら安心してしまってそのまま寝てしまったのだわ……」
 どうやら私は迷子のデカネズミに懐かれてしまっているようだった。
 しかしながら彼女に隠し事はないようで、本当に自分のガレージを見つけられなければ、もしかしたら、知らない世界なのかもしれない。相変わらずMaus 0.8.11の表記はハッキリと示している。
 だが私の部屋に置いておいても、この部屋は私のための部屋で2人分の生活スペースはない。つまりはせまいのだ。彼女のガレージを探す必要があるが……そもそも彼女は何者なのかを探らなければ。何故私が世話係のようなことをしなければならいのか、タスクが増え朝から気が重い。

「はぁ……とりあえず昨晩の状況は把握。今日はあなたのガレージを探しに行こう。もしかしたらあなたの言う通り、ここはあなたの知らない世界なのかもしれない。私としても、もしそんな世界で一人だと心細くて泣いてしまいそうだからしばらくは付き合ってあげる。野垂れ死にされても目覚めが悪いからね」
「ほんと!?ありがとうなのだわ!」
「ガレージが見つかるまでだからね。それまでは私の部屋を使ってもいいけれど、見ての通り一人用のスペースしかないから狭いよ」
 さて考えなしに置いておく宣言をしてしまったけれども、どうしたものだろうか。ノープランのまま返事をしてしまったが、恐らくガレージぐらいすぐ見つかるだろう。サポートにいってIDを検索すればすぐ出てくるはずだ。
 その時はそれ程深刻に考えてはいなかったが、数時間後の私はこの判断を恨むようになった。
「食器片付けてくるね。食堂から帰ってきたら出かけよう。歯を磨いておいてね」
「私、自分の歯ブラシ持ってないわ」
「……私の予備をあげる」
 しばらくは出費が増えるな。そう思いながら2人分の食器を持って重い腰を上げると部屋を出た。
 

7/27
「おはよう、オールドレディ」
「やぁ、オールドレディ。今日はどこの戦線に?」
「こないだはあなたのおかげで助かったよ、オールドレディ。今度お礼をさせてくれ」
 ロビーへ向かう途中で戦友たちに声をかけられる。長いこと生きているとこの兵舎の大体の奴らとは一緒の戦場になるので顔も覚えれば、戦いもした。私が知り合いと軽い挨拶を交わしながら廊下を歩いている3歩後ろをマウスが付いて来ている。
「沢山の知り合いがいるのね。それにしてもあなたは何故オールドレディと呼ばれているのかしら。私気になるわ。だってあなたはIS-3でしょ?」
「あぁそれはね、別に隠すようなことでもなくて、私が8年前からずっとIS-3のままでいて気が付いたらそう呼ばれるようになってしまっただけだよ。8年間、次のTierに進まずに同じ車両であり続けて。ただそれだけ」
 私が何故そのように呼ばれるのか、大した理由ではないのだが、私がそう呼ばれていると知った新しくできた知り合いは大体同じような質問を返してくる。何故次のTierに進まないのか、と。
 理由なんて本当に何もなくて、ただこの車体を気に入っているから。それだけで、8年間ダラダラと過ごしているうちに、周りの環境が、世間が、変化していつの間にかTier10に進むのが当たり前のような風潮になり取り残されてしまった。私自身、次のTierに対する興味が全く湧いてこないのだ。クレジットを稼ぐのも、戦闘をするのも、IS-3で完結しているような気がしてわざわざ高いクレジットを払ってT-10になる気がしないだけで。重い理由とかそうしなければならなかった理由は特にない。そんなに同じ戦車であり続けることが珍しいのだろうか。
 また同じようにその質問が来たら答えなければならないと考え始めたら、面倒くさくなってきた。もう何度聞かれたか30を超えたあたりから数えるのはやめた。

「好きなのね、その車体。だってそうでもないと8年もそのままでいることなんて耐えられないわ。お気に入りなのね、その車体。居心地がいいのでしょ、足回りとか主砲とか装甲とか。誇りなのね、その車体。あなたがIS-3に出会えたことが羨ましいわ」
「……随分と小っ恥ずかしいこというんだな。でもそう言ってくれたのはあなたが初めて。そう大好きなのこの車体。まるでぬるま湯につかっているように気持ちが良くて気が緩むから次のTierに進むなんて考えに至らない」
「私は、7も8も9もとても辛かったから早く10になることしか考えていなかったわ。10になれば今までの苦痛も苦労も全て報われるようになるって信じて疑わなかった。でも……たどり着いた所は逃げ場が無くなっただけで、世界が変わるわけではなかったわ。10になるまでに自分に合った車体を見つけるのが世界の仕組みだと気づいた頃にはすべてが終わっていたの。だから私はあなたが羨ましいわ」

 8年間もIS-3で居続けた、というよりも、次のTierになれば今より辛くなるか幸福になるか、その2択しかなくなるのが堪らなく怖かったから、今のままでいることを選んだだけである。その二択、大体は辛くなることの方が多いのを、長い間生きていると他者の経験が嫌でも目に耳に入る。別に前のTierに戻れなくはないが、そもそも次のTierを夢見て車体を開発するのに、その希望が絶望だった時、あまつさえその希望が10だった時、今までの生涯の目的が地の底に叩きのめされた時、果たして正気でいられるのだろうか。私は自分を保てる気がしなかっただけ、前に進むのが怖かっただけの小心者なのかもしれない。
「それにしてもオールドレディ(おばあちゃん)だなんて失礼じゃない?」
「いいんだ、皆嫌味ではなく敬意でそう呼んでいるから。私は嫌などころか、私の欠点を日常の出来事として受け入れられている気がして安心すらする」
「そう……あなたがいいのならいいのだけれども」
 それっきりサポートセンターに着くまでマウスは何も言わなかった。

「さ、この端末にあなたのIDを入力して」
 無機質な黒い端末の入力欄を指さした。サポートセンターには人は基本的に寄り付かない。頻繁に利用しているクレーマーは除くが。
「これに入力すればあなたのプレイヤーページに飛べるはず。そうすればガレージがどこにあるか、あなたが何者なのか分かると思う」
 マウスは神妙な顔つきで端末と睨めっこしている。他人の個人情報を覗くのは良くないので調べ終わるまで飲み物でも買ってこようかな、そう考えていると
「ねぇ、IS-3。この端末おかしいわ。私のIDを検索欄に入れてもエラーとしか表示されないのよ」
「ちゃんと合っているか確認した……んだろうな」
「何回も見直して指差し確認までしたわ。でもエラーだわ」
「他人の個人情報を見るのは気が引けるのだけれども、IDを教えてもらえる?私がやる」
「これよ」
 マウスから送られてきたメッセージにIDが記載されている。それをコピーしてペーストして検索にかけるだけ……なのだが確かにエラーが返ってきた。
「変だね」
「変だわ」
 二人で合っているはずなのに延々と間違っていないと主張してくる端末と格闘をして頭を抱えていると
「あら、オールドレディじゃない。あなたがサポートセンターに来るなんて珍しいわね。クレーム?」
 後ろから、背が高く、丸い整った顔つきで、長い金髪のロングヘアーを靡かせながら、Loweが声をかけてきた。彼女とは昔からの長い付き合いで、戦友でライバルだったり、昔からいる同士話が合うからたまにプラトーンを組んだりする所謂腐れ縁。
「なに、ケツブロでもされたの。もしそうなら面白そうだから話聞かせなさいよ」
「それはお前がサポートセンターに来た理由だろ。私は少し擦られたぐらいじゃわざわざ報告に来ないし、そもそもケツブロされるような混雑して狭い場所では戦わない。今日来たのはそんなんじゃないんだ」
「あーやだやだ、これだから高機動HTは嫌なのよ。自分のことだけ考えてまるで一匹狼みたいに戦線をひょこひょこ変える奴は信用できませんわ。あなたも少しは私を見習って、落ち着いて自分の長所を押し付ける戦いをするべきですわ。味方のために戦線を維持することをたまにはやってみてはどうですの」
 いつものように憎まれ口を互いに言い合いたい所だが、今日は相手をしている余裕はない。
「わかったわかった。私は忙しいから構っていられない、さっさと報告してこい」
 ただでさえエラーを吐き続けている端末で頭が痛いのだから。
「それで横にいるデカブツはあなたの知り合いかしら」
 この女はすぐ物事に首を突っ込む。忙しそうにしているんだから少しは遠慮したらどうなんだ。無視するのは可哀想なので、複雑な事情と共に紹介しなければならない。
「……彼女は、その、自分のガレージが分からないって言うから一緒に探してあげている所なんだ」
「ふーん、なんだかマウスにしてはやけにのっぺりして錆びれているわね。そういうスキンかしら」
 初対面の人にも容赦がない。いい加減少しは礼儀を覚えてほしい。マウスは人見知りなのか自分の情報が全く出てこないことにショックを受けているのか表情からは読み取れなかったが、浮かない表情で答えた。
「初めましてなのだわ。lowe」
「初めまして、Maus。以後お見知りおきを」
「Mausとはガレージが見つかるまでの間だけ世話を見てやる約束だ。Tierが異なるから私がそこから先、戦友でいるかどうかは分からないぞ」
「冷たいんだから。マウス、この人はね、味方が怪しくなるとすぐ別の戦線に転進する薄情な性格をしているからあまり信用しちゃだめよ。尤も、私はたとえ不利でもその場で撃破されるまでマウスと一緒に戦ってあげますけれど。だから、もし一緒の戦場で出会えたらこいつより私を信じてくださいな」
「お前は情が厚いんじゃなくて陣地転換する足がないだけだろ。自分がハルダウンできる場所しか考えていないくせによく言う」
 ギャーギャー言い合いながら入力を終えて検索ボタンを押したところ、端末は無慈悲にも10回目のエラーを返してきた。
「やっぱりだめだ。マウス、本当にIDはこれで合っているのか?」
「間違いないわ!そうプレイヤーIDは表示されているもの」
 うーん……どうしたものだろうか。IDが間違っていなくてサポートがエラーを返してくるということは、もしかして彼女は本当にこの世界の住人ではないのではないだろうか。しかしそんなこと言っても頭がおかしい奴扱いされるだけだ。
「なによ、さっきから同じIDを何回も検索しちゃって」
「あぁ、それがガレージを探すためにはIDから個人情報を参照するのが一番確実で手っ取り早いだろ。だから検索をしているんだが何故かエラーしか返ってこないんだ。IDも間違ってないとマウスは言うし……」
「端末のバグでしょ。よくあることよ」
「よくあることのか……」
 そういうものだと納得していいものなのか。重要な個人情報を管理しているのにそのような怠慢は許されないはずだが、バグに関して経験者がよくあることと言うのなら、きっとそういうものなのだろう。知りたくはなかったが意外にも私たちの管理者は雑なようだ。
「そういえばバグで思い出した。lowe、マウスの名前の後ろに何か数字が書いてないか?私が知らないだけで最近の流行なのかと思い、ここに来るまでに色んな奴らの名前をみたのだが皆いつも通り戦車名が浮かんでいるだけだった」
 そう言いながらマウスの頭上を指さした。
「……あなたが何を言っているのかさっぱり理解できないのだけれども」
「だからこいつの名前の後ろに……」
「えぇ、何も表示されていないわ……"Maus"としか私には見えなくてよ」
 どうやら"MAUS 0.8.11"と見えているのは私だけらしい。これもよくあるバグなのだろうか。
「なんだろう、バグかな。変なことを聞いた、忘れてくれ」
「……あまり無理しちゃだめよ。時には休むことも大切なのだからね」
 憐みの目でこちらを見るな。

 loweと別れてサポートセンターを後にした。結局、個人情報を見ることは叶わなかった。だからガレージの場所も分からない、何一つ進展がなかった。唯一分かったことはマウスの名前の後ろの数字は私にしか見えていないということだけ。
 とにかくガレージを探さなければ私の部屋はいつまで経っても広くならない。もういっそのこと新しく買ってしまったほうがいいのではないだろうか。実際いい案なんじゃないか、そうだ新しく買ってしまおう。ガレージを作ってもらうには何日か時間がかかるだろうがそれくらいなら苦ではないし、ホームレスになる心配もないから私の目覚めも悪くなることは無い。数日間なら寧ろ友達が泊まりに来たようで楽しそうじゃないか。
 よし、そうなれば金で解決だ。
「ガレージはないと困るから、新しく買ってしまうのはどうだろう。もし個人情報が参照できるようになって、自分のガレージの場所が分かったら無駄遣いになってしまうけれども、いつ直るかわからない個人情報の参照を待って、それまでずっと私の部屋にいるわけにもいかないだろ」
「……そうね。ガレージっていくらぐらいするのかしら」
 声色に元気がない。自分の情報を見れなかったことは、自分がこの世界でない者としての不安を煽り、余程ショックを受けている。
「多分、300ゴールド。ガレージなんて頻繁に買うものでもないから昔のまま値段が変わってなければ、だけれども」
「……私の手持ちのゴールドじゃ全然足りないわ」
「それぐらいなら私が立て替えてあげる。そのうちゴールドが貯まったら返してくれ。私は迷彩を暇さえあれば変えてきた訳でもないし、ステッカーの類も買ったことは無いから、ゴールドが沢山余っていて使い道を探していたくらい。だから迷惑だとかそんなことは思わないで。私の一方的な押し付けだ」
「私、カレリアで会ってからあなたに迷惑をかけっぱなしね。知らない世界で迷子だったのをあなたに世話してもらってばかりで、感謝の言葉を何度言っても足りないわ」
「これくらい気にするな。困ったときはお互い様だよ」
「ありがとうなのだわ……」
「注文し終わったら昼食にしよう。何か美味しいものでも食べようか」
 まだ午前中だというのに一日の終わりのような、重い、しんみりした空気を纏って二人共浮かない足取りで、ガレージを注文しに行った。値段は300ゴールドから変わりなかったが、予想以上に時間はかかるようで、出来上がるのは一週間後になるらしい。
 そんな気分の時に美味しいものを食べたぐらいで気分が晴れる訳もない。寧ろ哀しい記憶に結び付けられて味さえ分からなくなるものだ。自分で言っておいて、まるで負けが確定した戦局に一人残された時のようなやるせなさで胸がいっぱいになった。

7/30
「私、戦場へいきたいの」
 時刻は13時半、新しいガレージの注文後、昼食を食べ終わり私のガレージに帰ろうと歩いていた。
「戦場へ行くとね、余計なこと考えないで済むから。このままじゃ不安で押しつぶされてしまうってそう思ったのだわ。別のことを考える余裕があるときって、それってつまりは答えに歩み寄っているってことなのよ。本当に何かの真っただ中にいるときは何が何だか分からなくて、考えなくて済むの」
「行きたいなら行くといい。残念だけど一人で行くしかない。私はTier8だからね」
「それでも、この世界に慣れるまではあなたと一緒にいたいわ。せめて私が知っている世界の人が一緒でないと、私の異物感が一層増して、ここにいるべきじゃないって思ってしまうのだわ」
「……一緒に行ってやりたいのは山々なんだが、今は昔と違って格差プラは組めないようになっているんだ。マナーや倫理がどうとかじゃなくて、そういう制限なんだよ」
 格差プラトーンはver 0.9.17で禁止され、同tierでないとそもそもプラトーンを組めないようになった。できれば私だってMausと一緒にいてあげたい。周りは知らない戦車だらけで、知らないマップも多い未来の世界にひとりぼっちだなんて考えるだけでも体調が悪くなる。
「納得できないのなら試してみる?私と本当にプラトーンを組めないか」
「お願いするわ。それでだめなら私も納得するもの。やる前から分かれだなんて無理な話だわ」
「わかった」
 若干呆れ気味にMausにプラトーンへの招待を送る。が、驚いたことに、Mausはすんなりプラトーンへ参加してきてしまったではないか。
「……あなたは酷い噓つきなのだわ」
 私に嘘を言われたと思い込み悲しそうな顔をしている。
「えぇ……。すまない、私は知らない間に噓つきになってしまっていたようだ」
 混乱を隠せない。これもバグなのか、それとも……
「さあ!行きましょう。知らない戦車、知らないマップはあなたが案内してくれるって私信じてるわ。今度は嘘をつかないって」
「はいはい」
 ただ、私には拒否する権利は残されていなかった。

 

 本当に戦場へ格差プラトーンのまま出れてしまった。Teir10のMausとTier8のIS-3が一緒に組むのだからマッチングは357か447の二択になり、ずるなんだろうけれど、周りもまさか現バージョンで格差プラができるとは思っていない。故に何も聞かれはしなかった。傍からはたまたまマッチングしてダイナミック小隊を誘ったぐらいにしか見えない。
 どんなにおためごかしの言葉を並べようともやっていることは、恐らくバグ利用のグリッチだ。WG憲兵に見つかれば即刻処罰は免れない。何か対策を考えなければならない。
 勢いでやってしまった事への罪悪感と後悔を募らせていると、本日の戦闘を終え、洗車してもらい気持ちよさそうな顔をしたMausが出てきた。
「今日は楽しかったわ!ありがとうなのだわ、IS-3」
 そりゃ常にTOPを引けていたんだ、楽しかったろう。付き合わされた私はボトムだったから戦闘は楽しくなかったが、知らないことだらけのマウスに色んなことを教えながらやるのは、ただ長く生きてきただけなのに偉くなったような気分になって悪くはなかった。
「あなたと色んなマップへ行って、知らない戦車をたくさん見て、やっぱりここは私の知らない世界だって確信もしてしまったわ。でもね、あなたが傍にいてくれるなら、私はここで生きていけるような気がするの。嬉しいとか悲しいとか驚きとか、私の感情を受け取ってくれる人がいてくれるなら、新しい環境を受け入れるのに時間はかかるかもしれないけれど、頑張れるって、そう思うの」
 純粋な気持ちをぶつけられて、世界でひとりぼっちの彼女に対して、どうしてグリッチだから明日からは組めないなどと言えようか。心が悪事の正当化を始める。罪悪感と保護欲からなる共感がせめぎ合う。
「明日はもっと知らないマップへ行こう」
 ぎこちない精一杯の微笑みを浮かべながら、彼女へそう呟いた。

3日目

 カーテンの隙間から朝日が差し込み目が覚める。体を起こしてカーテンを開け、纏わりつく眠気を振り払い、陽光を浴びて大きく深呼吸をする。今日も穏やかな天気になりそうだ。一方で、まるで朝日なんて気にしないと主張しながら規則正しい寝息をたてているMausを叩き起こそうと近寄ると、昨日とは違う違和感に気づかされた。違和感は、彼女が私の部屋にいることではなく、上手く言葉で表現することが出来ないが、Mausが昨日よりも綺麗に、解像度が上がっているように見える。
 解像度が上がっているというのは何かの比喩表現ではなく、本当にそう見えるのだ。何か心当たりはないか聞いてみるためにも、砲身を叩きつけた。

「あ゛あ゛、今日も体が響くのだわ……ルインベルグの鐘の音なのかしら!」
「おはよう、マウス。朝食を持ってくるから訳の分からないことを言ってないで目を覚ましておいてね」
「……もっと優しく起こしてほしいのだわ」
 気持ちよさそうに寝ている奴を起こすとき、つい悪戯心が芽生えてしまうのは私の悪い癖だ。

 朝食のメニューは昨日と変わらない。二人して食パンにバターを塗りモソモソと頬張る。
「……ねぇ、マウス。あなた昨日に比べて随分と綺麗になったように見えるのだけれども何かしたの?」
「いきなり褒められると照れるわ。そんなに煽ててもチョコレートはあげないわよ」
「チョコなんていらないよ。嘘じゃなく本当に綺麗になっているんだ。転輪とか砲塔とか、履帯とか、なんというか昨日よりもかきめ細かくなっているよ」
「別に何もしてないわ」
 嬉しそうににやけながら彼女自分の体を眺めている。これだけ見るとナルシストの気持ち悪い奴にも見えなくはない。だが、お世辞などではなく確実に綺麗になっている。本人は嘘をついているようには見えない。
「loweが言っていたスキンとかではないの?それを変えたとか」
「何もしていないわ。けれどもあなたに綺麗と言われて気分がいいから、何か知らないけれども感謝だわ!」
「そう、本当に何もしていないんだ」
 この違和感の正体はいったい何なのだろうか。コーヒーを飲むために顔を少し上げたところで彼女の名前が目に入った。
 そこには"Maus 0.9.0"と表示されている。まだ私は寝ぼけているのだろうかと思い目を擦って再び見てみてもその表示は間違っていないようだった。昨日は0.8.11で今日は0.9.0、見間違いではない。
「なによ人の頭の上をずっと見て。そんなに寝癖が酷いのかしら」
「い、いや、なんでもない。なんでもないんだ」
「そう」
 何でもないと言ったが気にして髪を弄っている。私が気になっているのはもっと上だ。
「今日もプラトーンを組みましょう!」
「午前中に少し用事がある。それが終わってからなら付き合うよ」
「分かったわ。それまで私は時間をつぶしているわね。昨日と同じく昼食を一緒に食べて、そしたら戦場へ向かいましょう」
 私はとにかく調べ物がしたくて、朝食をそそくさと食べ終え、出かける準備を済ませると部屋を後にした。

 ここwot wikiには初心者指南から車両の細かなスペックまであらゆるモノが記されている手引書だ。律儀にも毎バージョンごとの更新内容についても同じく記載されている。
 私の推測が正しいのならば、今日のMausが綺麗になったことと、名前が0.9.0になったことの辻褄が合う。もしかしたらそれだけでなく、これから何がどうなっていくのかも……。
「あった。更新履歴のページだ。えーっとver 0.9.0はっと」
 目的のぺージを探し当て内容を参照する。
「以下の車両がHDモデルに変更。T-54、M103、Tiger1、Maus……」
 やはりそうだ。
 あのMausは何が原因か不明だが、ver 0.8.11から現バージョンまでタイムトラベルして来て、過ごしているうちに急速にアップデートされて行き、名前の後ろに書いてあるバージョンの性能になる、ということなのだろう。どうせバグ。
 名前の後ろの数字の謎は解けたが、何故タイムトラベルして来たのか、アップデートされていく速度の謎は手掛かりがないままだ。
 といっても、テクニカルサポートに「タイムトラベルしてきた戦車がいる」と伝えたところでいたずらか頭の可笑しい奴と思われるだけだろうし、何より私以外の人にはMausの後ろの数字が見えないようなので、他人に相談するのは考えづらい。一人で調べるか考えなければならない。
 アップデートされていくのも謎だ。今は0.9.0だがやがては現バージョンの1.9.1までくるのだろうか。仮にそこまで来たとして、名前の後ろの数字は消えて、そうしたら晴れて現バージョンの住人として生きていくのか?
 原因が不明なことから発生した事象の未来など分かるはずもない。今は名前のバージョンと性能が合致して、その数値が日に日に現バージョンに近づいていることが分かっただけでも良しとしよう。次Mausに変化が起きても取り乱さずに済む。
 Mausの項目について記載されているバージョンのページをコピーして約束の昼食へと向かった。

 

「ぐあー今日は特別に疲れたわ。知らない戦車に知らないマップだらけ、流石に限度ってものがあるはずよ。戦場で浮ついてボコボコにされるのは、なんというか相手と対等な立場で戦えていない気がしてきてつらいわ。自分の無力さに泣きたくなるもの」
 Mausはそう愚痴を吐きながら簡易ベッドへと体を放り投げる。
 午後の戦績は端的に言えば、現環境を牛耳っている戦車たちに為す術もなく、経験値ボックスまたは演習の標的のように一方的に撃たれるものばかりになってしまった。戦場は知識が8割を占める。因みに残りの1割はセンスで1割は運だ。
「大事なのは負けた時にしっかりと学んで、次会う時までに対策を講じておくことだよ。一緒に復習しよう」
「それにしても、あのチーフテンとかいう女、いけ好かないわ。まるで自分が一番強いHTでそれ以外はゴミとでも言いたげな高圧な顔と態度、美人なのが更にムカつくわ」
 正直、tier8の私にはtier10の戦いなんてこれっぽっちも分からなかったから、一緒の感情を得られずむず痒い。そりゃ私もMausの隣で戦っていたのだけれども、突如現れたチーフテンにMausは撃破され、TOPのHTがいなくなったのだから当然隣にいるボトムの私も撃破された。
 文字通り何もできなかったし、正直、復習しても弱点なんてないように思える。そもそものマシンパワーが違うような気がしてならない。
 私の知らないチーフテンとMausの性能差を話し合うよりも、私が知っていて彼女が知らないマップについて煮詰めていったほうがいいだろう。今の私ができる効率のいい反省とはそれぐらいしかない。
チーフテンも考えなければならないけれども……あのね、マウス。パリは中央を突っ込むのはセオリーではないんだ」
「この前、言われた通りJKラインへ行ったけれども何もできずにやられてしまったもの。だから今回はちょっと無理して真ん中行ってみただけよ。ちょっとだけ……」
「無茶するのはやめて」
「……だって少し無茶をしなければ、あなたを守れないじゃない。あなたは私をもっと囮にするべきだわ。前線で、気が付いたら私だけ生き残って、あなたがいなかった思いはもうごめんだもの。あんな歯痒いはもうしたくないわ。私が無茶をして、あなたが生き残るぐらいの方がいいのよ」
 自分の力量が足りないことを悔いているのか、それとも私の動きを批判しているのか、その時の私には判別がつかなかった。
 相変わらずじめじめとした天気と熱気に蒸らされている。真夏を知らせる気候と雲によって覆い隠された夜空が私たちを見下ろしていた。

7/31
8日目

 あれから数日後、新しいガレージが完成する日が来た。
 カーテンを開け、彼女を起こすのは、短い期間ながらも朝のルーチンに組み込まれていた。その時に、マウスのバージョン名を確認する。
「0.9.17......」
 ついにこの日が来た。バージョン9.17、それはマウスの桁外れなバフと、格差プラトーンが禁止されたパッチだった。過去のバージョンがそのまま彼女に適用されるならば、今日からは彼女とプラトーンを組むことはできない。私がtier10にならない限り...…。
 私がtier10になれば彼女とまた一緒に戦場へ行ける。だが今更、この車体を変える気にはならなかった。たった一週間、その覚悟を決めるにはあまりも短く、そして今までの足場が揺らぐには十分な影響を受けていた。
「ほら、マウス。起きて」
 起こすときは、砲身を叩きつけるのではなく、車体を揺らすようになった。揺らすだけでは全く起きてくれないのが難点だが、こうして起こすのも今日が最後だと考えたらなんだかもったいなく感じて、この時間がずっと続いて欲しいと、少しだけそう思ってしまった。
 規則正しい寝息をたてて、そんなに気持ちよく寝ているんだもの、いっそのこと私も一緒に寝てみようかな。私は二度寝なんてしたことないのだけれども、彼女の誘惑に逆らえず、彼女のそばに寝転がって、目を閉じ気を抜いたらあっという間に意識が再び暗闇へ落ちていった。

 ……コーヒーの香りがする。 そうだ、朝食を取りに行く前にマウスを起こさないと。
「IS-3、起きてよ。朝食が冷めてしまうわ」
 誰かが車体を揺らしている。朝日が顔を照らして眩しい。ゆっくりと目を開く。カーテンを開けたところまで記憶はあるのにその後がない。マウスのベットからむくりと体を起こす。
「やっと起きたわね。驚いたわ。起きたらあなたが隣で眠っているのだもの。だから、私が代わりに朝食を持ってきてあげたわ」
 気まずい。いつもは私が起こしているのに、気持ちよさそうに寝ている姿に誘われて一緒のベットで二度寝してしまった時って、どんな会話をすればいいのだろう。
「え、えぇおはよう、マウス。その、これは、つまりね。そう、眠く、て」
 精一杯の言い訳すら上手くできない。
「…ごめんなさい。つい寝てしまった」
「謝ることないわ。寝るのって凄い気持ち良いから仕方ないのよ。睡眠は大切だもの。そのおかげで、あなたの寝顔を見れて、代わりに朝食を取ってきて、起こすこともできたもの。あなたはいつも私より早く起きるから、初めてだらけで嬉しくなっちゃうわ」
 一緒のベットで寝ていたことについて言及しないのは、彼女なりの優しさなのか、それともドン引きされているのか。
「さ、朝食が冷めてしまうわ。早くベットから出てくるのだわ!知ってる?コーヒーって冷めるとあまり美味しくないのよ」
 そもそも気にしていないのか……。あなたがこの部屋で過ごす最後の日だっていうのに。

 

 ベースは洗車場、整備場、研究所、サポートセンター、各種ショップ、食堂、兵舎が立ち並び、新しい彼女のガレージは、私とは違う兵舎で歩いて5分ほどの距離に位置していた。
 新しいガレージは、独特の匂いがする。乾燥した空気のような、埃っぽいような、新鉄の匂いのような。私の昔建てたガレージとは違って、綺麗で機能性は高いらしい。
「ここが私のガレージなのね」
「うん」
「あなたの部屋と違って、広いのね」
「今まで二人で使っていたからね。ベットとテーブル以外の家具を買いに行くなら付き添うけど、どうする?」
 広い部屋なのに、寝具とテーブルだけでは物寂しい。
「……別にいらないわ。私、余分なクレジットはAPCRと修理代に消えてあまり余裕がないのよ。寝られればそれで十分だわ。クローゼットが欲しいところだけれども、暫くは段ボールで我慢するわ」
「あなたがいいのならいいのだけれども」
「それよりも、IS-3。荷物を運びこんだのだから、一緒に戦場へ行きましょう!今日もプラトーンを組むの。昨日考えたハリコフの攻略法を一緒に試すのよ」
 部屋に段ボールを運び込んだだけ、といっても彼女の持ち物は服と化粧品と洗面用具ぐらいなもので荷ほどきに時間はかからなそうだった。プラトーンを組むのが楽しいのだろう。上機嫌な表情で私に話しかけてくる。
「その……そのことなんだけれども、私、もうあなたとはプラトーンを組むことが、多分できない」
「え?」
「もう、一緒に戦えないんだ」
 それまでの快晴の表情は、この間までの暗雲とした雨雲模様のように不安で歪む。
「それって、私と組むのが嫌になったってことなの?」
「違うんだ。私はあなたと一緒に戦いたいさ。でもね、恐らくもう……。試しにプラトーンの招待を送ってあげる」
 百聞は一見に如かず。
「……なによこれ。『プラトーンは同Tierでしか組めない』?今までこんな表示はなかったわ」
「過去から来たあなたは知らないのは当然だし、何故か組めたから私も深くは調べず追求しなかった。今のバージョンではね、格差プラトーンは原則禁止されていて、Tierが異なると組めないんだ。今までは、何故か組むことが出来たけれども、それはあなたが現在に馴染むまでの執行猶予のようなもので、それが切れるときが来たんだと思う。私の部屋から独り立ちして、現バージョンへの手引きはおおよそ終わった。案内人としての役割はもう何も残っていない。そう思うんだ」

 最早、立派に一人で戦っていけると思うし、バグも都合のいいように解釈してしまったけれど、なんとなくそう感じる。きっとこの世界に適用していける知識をつけて、一人でも大丈夫だろう。旅立ちの日が来た。
「何も今生の別れじゃないんだ。私は生きているから、話したいことがあれば部屋に来ればいい。もし戦場で一緒になったら心強い。でも私はTier8だからあなたの傍では、もう、戦えない」
 それに今のあなたは私が見てきたMausの中でも一番強い状態にある。他のTier10と比べても遜色ない。HP3200でDPMも高いMausは環境トップに躍り出るだろう。私がいたのでは逆に足かせになってしまう。
「あなたも私が、一人で戦っていけるってそう思っているの?」
 喉奥から絞り出したようなかすれ声で縋る。
「もちろん。Mausが知らないマップはもうないし、Tier10で知らない戦車もいないだろう。立派に一人で戦っていける」
「……あなたが応援してくれるなら、私頑張れるわ。いえ、あなたが応援していてくれるから、頑張るのよ」
「うん……」
 友達の門出だというのに、互いに涙を浮かべている。人は別れの時に見た顔を、次会う時まで覚えているから、笑って送りだろうとしたのに。
「それじゃあ、また、ね」
 振り返らずに部屋を出た。

8/1
15日目

 あれから一週間経った。昔を思い出しているような懐かしい強いマウスがいる。そんな噂を聞く。
 なんだ大丈夫じゃないか、大丈夫なんだよ。……本来、大丈夫は、相手に言い聞かせ安心させるための言葉なのに、何故自分に言い聞かせているのだろうか。
 広くなった部屋で朝食を取る。彼女が去ってから、部屋は本来の広さを取り戻した一方で、私の心からすっぽりと抜け落ちた寂寥感は未だ埋まりそうにはなかった。
 空を見れば、すっかり梅雨が明けて、それまでの陰鬱とした空気や雨雲は消え去り、どこまでも澄んだ青空や大きな入道雲が浮かんでいる。その中に浮かぶ太陽は、とうとう自分の本当の力を解放したかのように猛威を振るおうとしていた。けれど、私の心の中からは、湿っぽさも、薄暗さも未だに吹き飛んでくれない。
 今まで夏の青空について考えたこともなかったが、よく見てみれば、好きになれそうにない。どこまでも青く、濃い青空はまるですべてを見透かしているかのように、そこへ浮かぶ大きな入道雲は夏の青空とアンマッチで違和感を覚え、太陽が尊大に私からやる気や体力を奪っていく。
 今日の予定は何もない。あれから一人で戦場へ赴いてみたが、彼女がいない戦場はどこか無味乾燥で、楽しくもなければ面白くもない。フィードバックしたり、一緒に傍で戦ったりした記憶に勝る経験は得られず、いつの間にか戦う理由をなくしてしまっていた。
 戦う理由なんてのは人それぞれで、例えば、車両を研究してTier10を目指している、クレジットを稼いでいる、戦闘するのが楽しい、などあるのだが今になってみればどれも陳腐に思えてしまう。というのも、私はフリー経験値やクレジットは最早使いきれないほど溜まり、何千戦も経たからには今更戦闘する楽しさは消え去りルーチンワークのような気だるさが両肩に重くのしかかる。
 彼女といた楽しい時間により、今までのマンネリ化した生活が全くもって魅力的ではなくなってしまった。
 戦わなくなった戦車に価値はなく、毎日を堕落した生活で送っている。ウンコ製造機。このままでは精神だけでなく体まで腐ってしまう。整備だけでもしておこう。

 整備所から出ると、まだ午前中だというのに、一緒にMausも出てくるのが見えた。整備所に行くのは、普通なら一日の戦闘が終了してからで、午前中に行くのは私のように暇している奴か車体の調子がおかしい奴の二択だ。
 Mausは少し落ち込んでいるような顔つきと重い足どりで兵舎の方へ向かっているようだ。
「久しぶり……といっても一週間ぶりだが。……そんな浮かない顔してどうした」
「……IS-3、会いたかったわ。あなたって最高のタイミングで私に会いに来てくれて……」
 うつむきながら嗚咽を堪えている。これじゃまるで私が彼女を泣かしたみたいじゃないか。……実際そうなのかもしれないが。

「助けてほしいの」
「……私の部屋へ行こう」
 顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる彼女を引っ張って、自室へと連れ込んだ。泣いている彼女とは対称に、最低な私の心は賭けに勝った高揚感で舞い上がり、顔はにやついていたかもしれない。

 部屋に連れ込んで、まだ泣いている彼女を落ち着かせるために、コーヒーを手渡す。暫くはお互い無言で、私はずっと窓の外を眺めていた。こんな時はどんな言葉をかけたところで逆効果なんだ。気が済むまで放っておくしかない。何があったか言って来るまでじっと待つ。
 5分が過ぎたあたり、彼女が話を切り出した時には、ぬるいコーヒーは酸味が増してとっくに美味しくなくなっていた。
「…あなたと別れてから、一人で戦ってきたわ。体の調子がよくて、これまでよりも主砲の取り回しも良くなって、沢山弾も弾けるようになって……活躍してきたのよ。でも昨日の戦闘から、なんだか弾が出るのが遅くなって、撃破されるまでの時間も早くなってしまったわ。それで整備所に行ったのだけれども、どこも悪くないって言われてしまって、原因が分からなかったのが怖くて、今までの私も嘘だったんじゃないかって怖くて」
 だろうな。私はそうなるって知っていたから、特段驚きもしなかった。
「それで、これからどうしようかと落ち込んでいたら、あなたが声をかけてくれたのよ。安心してしまってつい取り乱してしまったわ。……ごめんなさい」
「謝らなくていい。誰にだって、急に調子が悪くなったら、そしてどこも悪くなく原因不明の不調なら、混乱して今までの活躍が嘘だったんじゃないかって疑い始めて自信が崩れる。そりゃ泣きたくもなるさ。だから謝らなくていいんだ」
 名前の後ろには"0.9.20"の数字。マウスがナーフされたバージョンだった。DPMとHPが調整され、私たちがよく知る性能のマウスに落ち着く。
 正直、分の悪い賭けだった。ナーフされても気のせいだと思い込み、そのまま環境に適応していくのか、それともこうして私の元へ縋りに来るのか。
 自分の調子を疑うことは難しい。たまたまマップが悪かったり、マッチングが振るわなかったり、明日には直っているだろうと気軽に考え、そのまま自分として受け入れていくからだ。少し調子が悪いからと、その原因を探ろうとすることはほとんど無い。大体において寝て明日には治ると思い込む。
「少し休めば良くなるさ」
 何の根拠もない。励ましてあげたいが、これから先、バフされることはない。きっと良くなるなんて無責任なことは言えない。
 結局は、今の性能を受け入れて付き合っていくしかない。その精神を準備するために少し休めというアドバイスしか今の私にはできない。
「そのこと他の奴には相談しなかったのか?Teir10の戦友くらい新しく出来ただろ」
「誰にも話してないわ。そりゃ知り合いはできたけれども、もしかしたら私の気のせいかもしれないし、だから一度整備所で検査してもらってからでもいいかなって……でもあなたに話してしまったからには他の人に話す必要性はなくなったわ」
 こちらを見ずに、手に持ったコーヒーカップを握り、全く減っていない黒色の液体に視線を落としている。
「そっか……。ねぇ、Tier10の話、Tier8の私が知らない話を聞かせてよ」
「いいわよ、まずEBR105ってのがいてね、Artyが3枚で……」
「……あまり楽しい話じゃないようだね」 
 私がそう苦笑いをすると、彼女は笑っていた。少しだけ元気になったようだ。

「そろそろ昼食の時間だ。一緒に食べに行こう」
「そうするわ!」
「午後はどうするんだ?」
「……今日は休むわ」
「そうか……。それがいい、明日頑張ればいいさ」
 賭けに勝ったんだ。相応の行動にでなければならない。

16日目

 マウスと再会した翌日、彼女が戦場へ赴く前に部屋を訪ねた。訪ねた、と言ってもまだドアの前で踏ん切りがつかずノックできないでいる。このままではただの不審者だ。
 だが、様変わりした姿を見て、私だと気づいてくれるだろうか。もし気づいてもらえなかったら……そんな懊悩は無尽蔵の不安を作り出して、思考を狭めてくる。
 いつまでもドアの前で足踏みしていても前に進めない。意を決してノックノック。
「あのー、マウス?ちょっと話があるんだけれども……」
 ……少しだけ待ってみたが一向に返事は返ってこない。もうすでに戦場へ行ってしまったのだろうか。
「いないのー?」
 ドアノブを回してみると、すんなり扉は開いた。どうやらカギは掛かっていないようだ。部屋を見渡してみると、マウスがベッドで寝息をたててまだ寝ている。なるほどね。私は部屋の主人が寝ているドアの前で、踏ん切りつかずに悩んでいたようだ。恥ずかしさと悪戯心が相合わさり、私の長い130cm砲を彼女の車体へ叩きつけた。
「あ゛あ゛……車体で砲弾を弾いたように響くわ、鋼鉄の壁なのかしら!」
「もう九時半だ。寝坊は叩き起こさないとな」
 寝ぼけた視線を新しい車体で受け止める。
「あなたは……あなたは、オールドレディじゃない!」
「よく私だと気づけたね」
「砲塔側面に入れた"赤いリボンに白くて大きなつば広帽子"のエンブレムを見れば気づくわ!IS-3から……Obj277に進んだのね。ビッグステップだわ!」
 正直、私だと一目見て気づいてくれて彼女を抱きしめたくなるほど嬉しかった。トレードマークのエンブレムを覚えてくれていて……。喜びがコップから溢れる。
 彼女と別れてから昨日までの時間、戦闘には全く出なかったが何もしていなかったわけではない。研究所へ赴き、貯めに貯めこんだフリー経験値を注ぎ込み、Obj277まで開発を終え、いつでも車体を換装できるように準備をしていた。いつでも彼女を助けれるように。
「私はTier10へ進んだ。これからはお前と一緒だ。戦場も反省会も、勝つときも負けるときも、撃ち合いする時も前線を押し上げるときも、お前の傍にいる。だから今日は、私の方からプラトーンに誘いに来たんだ」

 8/4

107日目

 3か月が経った。
 少し肌寒くなり、木々は黄蘗色や紅葉色に染まり、夏の死臭を携えて秋の到来を知らせている。気を抜けばすぐに冬が来る。
 Mausの後ろにあったバージョン名は現バージョンに追いつくとやがては消滅し、すっかりこの世界に馴染んでいるように見える。この3ヶ月で、彼女とは随分と色んな戦場を渡り歩いてきた。CWE、ランク戦、マップも様々、もう知らない要素はないだろう。
 私はObj277になり、Tier10を謳歌している。この車体、足は速いし最低限の装甲はある、砲塔は堅牢で主砲の単発も貫通もいい。欠点と言えば精度が悪いのか絞り切っても暴投をすることがままあることぐらいだ。Mausが撃ち合いを始めるなら盾にして私も傍で加勢する。戦線を維持してくれるのなら、足を生かして私が他へ転戦する。自分でいうのもなんだが、私たちは互いをカバーしあえて試合を動かせる良いペアだ。
 私はかけがえのない親友を手に入れて、Tier8の殻を破り新天地で、新しく胸を弾ませられる生活がこれからも、ただただ続いていく。そう信じていた。

「今日はいつもより何倍も頑張ったわ、疲れがどっしりと履帯に来ているのが分かるもの」
「私がマウスの陰に隠れて、敵の5式がそれに気づかず発砲した瞬間に私が出てきたときの顔、一生忘れないだろうな。やっちまったって顔、写真に撮っておきたかったぐらい」
「T-54が、277がいると思わずに私の側面に張り付いてこようとして、結局ボコボコにされていく姿も私は好きだわ。あれ程無様な姿もないでしょうに」
 一日の戦闘を終え、洗車場から兵舎へ向かって帰る途中、その日の印象に残っている戦闘を話しながら歩くのは私たちの習慣になっていた。
「あーまたアイス食べてる。もう10月も終わるんだぞ、暑いならともかく少し肌寒い。よく美味しそうに食べれるな」
 帰り道の自販機で恐らく買ったのだろう。
「だってアイスが美味しく食べられるのって、寒さと暑さの線引きが曖昧なこの季節が最後じゃない。冬が来たら夏のように食べられなくなってしまうわ。だからアイス納めのために食べているのよ」
 一理ある。生温い気温は今月で終わりかもしれない。
「そう聞くと確かに今が食べ納め時かもな……私も食べたくなってきた」
「明日は一緒に食べながら帰りましょうよ」
 明日まで我慢だな。これからそんな時間は使いきれないほどあるんだ。焦らずゆっくり過ごせばいいさ。
「じゃあ明日はさ……」
 そう彼女の方を振り向き見上げた瞬間だった。彼女の頭上のMausの名前の後ろに1.9.1の数字が浮かび上がっているのが視界に入る。現バージョンは1.10.0、それはつまり彼女だけ幼化されていることを指し示していた。
 何故バージョンが巻き戻っているのか。やっと現バージョンに追いついて、世界に馴染め始めたのに、あれは環境に適応したのを示していたのではなかったのか。
 焦燥感と危機感が極限までボルテージを上げている。
「ん?どうしたのよ、いきなりかたまって……」
 悟られない様に、誤魔化さなくては。
「明日は休みにしよう」
「休みを取ってどこかへ出かけるってこと?」
「いや、私の個人的な用事があるから、一緒には行けない。多分丸一日かかると思う」
「かかると思うって……あまり定まった用事という訳ではなさそうね」
「あまり探らないでくれ。大事な用事なんだ」
「そう……ごめんなさい。今までずっとあなたと一緒だったから、隠し事をされているような気持になって少しだけ気になったのだわ」
「いいんだ、私も今急に思い出したからね。そういう訳で明日は別行動で頼む」
「オッケーよ」
 明日は朝早くから情報収集に出なければならない。せめて調べる忙しさに没頭していれば、さっきからけたたましく鳴っている心の警鐘を少しでも落ち着かせると思ったから。嫌な予感が当たらない様に、未来に及ぼさないように。不安に煽られて今夜は寝付けそうにない。

 不安に押しつぶされそうになり、朝一で情報を集めるためサポートセンターへ赴き、報告されているバグとフィックスされたバグ、バックアップに伴った更新、彼女がこちら側へ来てからのモノは全て調べた。が、Mausの他に同じような症状は一つも報告はされれていない。もちろん、存在しないバグへのフィックスだってない。
 もしかして報告されていないだけで、WGはこのことを把握していて、サイレントフィックスしているのだろうか……流石に深読みし過ぎかな。だが、過去に通告なしにマップの一部が変わったりすることは多々あったから、その可能性は捨てきれない。
 そうだとしてWGにとってMausの存在はバグなのだから修正するのは何も間違っていない。私の方が間違っているだなんてわかっている。それでも私は私を肯定しなければならない。絶対に正しいんだって。
 相談できる人もいない。あの数字は私にしか見えないんだ。他の奴から見たらただのマウスでしかない。かといって一人で調べるのも解決策を考えるのも正直手詰まりだ。数字が現バージョンに近づいてくる分にはよかった、何も危惧することはなかった。だがこれが逆向きになるなら話は変わってくる。このまま放置してMausが最初期のバージョンまで巻き戻った時、どうなるか予想もつかない。
 これは自然の摂理に抗う行為なのかもしれない。太陽が海面を蒸発させ、その水が大気中に蓄えられて氷や雪として山へ、雨として地上へ降り注ぐように。生命を受けたものがいつか死ぬように。そんな当たり前の、ルールのように……。タイムトラベルしてきた奴を元いた世界へ戻すことは、世界の理なのだろう。だとすれば、私には何も出来ない、干渉する術がない。
 ならば必要なのは抗うことではなく受け入れること。受け入れる?彼女が消えることを受け入れろと!馬鹿が!怒りで頭がどうにかなりそうだ。
 クールダウンする為に一度切り上げてコーヒーを飲みに行こう。一服、というよりこのままでは怒りに任せて情報端末を破壊してしまう。

  まだ昼食には速い時間、人がほとんどいないカフェの椅子に体をめいっぱいもたれかけ天井を仰ぐ。現実を受け入れる訳にはいかないが、抗う術もない。残り時間は限られている。八方塞がりだ。それが、あまりにも理不尽で、あまりにも悲しくて、あまりにも悔しくて。
 そう背もたれに伸びていると、逆さまになった世界からよく知った奴がカフェへ入って来るのが見えた。
「あら、オールドレディじゃない。どうしたのこんな時間に、まだ昼食には早いんじゃなくて?私はコールドブリューをお願い」
「loweこそ何故こんな時間にカフェにいる。戦闘はどうした戦闘は。クレジットがぽがぽ稼ぐのに忙しかったんじゃないのか」
 ウェイターに注文を伝えた後、対面に綺麗な奴が座る。loweは研究ツリーに属さない代わりにクレジットを稼ぎやすい体質らしい。金持ちで家柄もよく整った顔立ちなのに、宿命かクレジットを稼ぐこと以外に興味はないらしく暇があれば戦闘に出ている。
 尤も、戦車にとってクレジットが目的であろうと、戦闘を多くこなそうとするのは正しいあり方なので否定できない。私がAPCRや修理(大)救急キット(大)レーションを使えば必ず大赤字になるからAPを使ったりレーションを渋ったりして節約するのに、こいつは上記のフルセットを使ってAPCRをばら撒いても黒字になるのが気に入らない。ただの貧乏の逆恨みなんだが……。
「私はこの間、私の車体を擦ってきた操縦手の覗き穴が溶接されているような奴を通報したら何故か私が謹慎処分を言い渡されて暇なのよ。かといって部屋ですることもないし気分転換に来たのだけれども。今思い出したらまたムカついてきたわ」
「そりゃご愁傷さまだ」
「相手にも頭に来ますけれども、一番は罰を下すべき相手を間違えた能無しのWGに対してよ。かといってお上に逆らう訳にもいかないでしょ。この怒りの矛先はどこに向ければいいのよ」
 ご愁傷様なのは怒りの矛先が全く関係ないのに及びかけている私の方かもしれない。
「それであなたは何故ここにいるの。あれだけ慣れ親しんだIS-3からTier10に進んで多方面の戦場で活躍してるって聞いたわ。なんだかあなたが知らない所へ行ってしまって置いて行かれたようで寂しかったのよ。それで絶賛活躍中のあなたが、いつもなら戦場へいる時間帯にどうしてコーヒー飲んで寛いでいるのかしら」
「息抜きだよ。たまには休まなきゃな」
「それにしては随分と顔色が悪いじゃない。病気でもないのにげっそりした顔色でこんな時間からカフェで伸びているなんて、何かあったか聞いてほしいってオーラが漏れ出しているわ。ほら話してみなさいよ、私は話したわよ」
 そりゃお前が勝手に話しただけだろ、と喉元まで出かかっていた言葉はコーヒーと共に飲み込んだ。どことなくあいつと似ているような口調で、あいつの方がたどたどしい言葉遣いだったが……。八方塞がりの現状と答えがでない心情のために相談してみるのも一つの手だろうか。
「……loweはさ、もし大切な人の寿命があと3ヶ月ぐらいしかないって分かったらさ、どうする?」
「……いきなり重い話が来たわね。そうね、どうするって言われてもその前提なら私には大切な人の死をどうにか避けたりすることはできないのでしょう?なら、せめて私の記憶でいっぱいにしてあげるかしら。私の中の記憶も、大切な人の記憶も。大切な人が死んでしまうまでの時間を私でいっぱいにしてあげたいもの。その人が死んでしまったとしても、決して忘れないように私の中もいっぱいにしたいもの。出来れば何か形あるもの、その人の欠片でもいいわ、その人でたくさんになりたい。人の本当の死っていうのはね、その人のことを忘れてしまった時だから、私がその人がいた風景の重みと手触りを、風の薫りと意味を決して失わないように、名残を抱いて生きていけるようにするわね」
 loweは私よりよほど死を受け入れる覚悟ができているようだ。恐らく彼女が私と同じ状況に陥っても、私のように微かな抵抗を企てず、残された時間を全て使って死の塊を大切に抱いて受け止める。
「どうにかして死を回避しようとか、そういうことは思わない?」
「だって無理なんでしょう?ならどうしようもないじゃない。助かる方法があるなら全力を尽くすのだろうけど……。大事な残り時間を可能性の低い、いやゼロと分かり切っていることに浪費して、死に馬に鍼を刺す結果になってしまったら、自分が情けなくなって酷く後悔することになるでしょうね。嫌よそんなの」
「……仮にloweの言う通り死を受け止めて、その後に大切な人がいなくなってしまったショックで自分も死んでしまおうって」
 鈍い殴打音と共にテーブルが強く叩きつけられ、loweは私を睨み付けて言う。
「馬鹿なこと言わないで!あなた、私が言ったこと何もわかってないわ。後追いしないように、その時の記憶を心の支えにして生きていくの。残りの人生、その人のことを毎日思い出して、忘れないように呪われるのよ。一緒に死んでしまったら誰がそれをするの?誰もしてはくれないわ。私は絶対に忘れない、忘れてやるものですか。私の感情を心を生活を思考をぐちゃぐちゃにしていった奴が、剰え私より先に死ぬなんて許してやるものですか。朝起きて思い、寝るまで思い、忘れてやるものですか。……だからそのために私は思い出を抱えて生きてやるわ」
「loweって強いんだ」
「そうよ。……そうね、もしするなら後追いなんかじゃなく、その人が生きているうちに一緒に死ぬわ。そうすればめでたく2人揃って永遠よ。……戯言のつもりだったけれども案外これも悪くないかもしれないわね……。夜の冬の湖に2人だけで小舟に乗って、頬を寄せ合ってそれでも埋められない隙間に雪が落ちて、今までの思い出や幸せの数を数えて。一緒に身を投げるその瞬間、月と星が回るのが最後に見えるの。沈みながら見る水面には、船が天に昇っていくように見え薄氷越しに月と星が波間に揺れながら点滅していて……いけるわこれ」
「それは共感しかねるな……ちょっと引く」
 思っていたよりもloweは感情が大きい奴だったようだ。朴念仁の私には格別に参考になる。実際残り時間が定められているのに、抗いようのないまるで雲を掴むような月に手を伸ばしているような時間はないんだ。大切な人と自分の中の心を思い出でいっぱいにする。その記憶を、残滓を抱いて生きていく。
「……こんなところで油を売っている余裕はないんじゃないの。あなたの表情、行動、重い相談を聞いてくる限り相当まいっているじゃない」
「……そうだね。そうだな。ありがとう、おかげさまで考えがまとまってきたよ。これからの時間をできる限りのことをして記憶に刻み付ける」
「腰が重たいのと中々自分に素直になれないのあなたの悪い癖よ。そこさえなおせば……」
「なおせば?」
「……なんでもありませんわ。早く行ったらどうですの。あ、私がこれほどアドバイスしてあげたのですからコーヒー代くらい出して欲しいものね」
 悪い方向へ傾倒しかかっていた私の思考を覆して、現実と向き合う覚悟をくれたんだ。コーヒー代とは別に後で何か感謝の気持ちを示さないとな。
「お前、クレジットは使いきれないほど余ってるだろ」
「お金持ちってケチなのよ」

 
「はーい今出るわ!」
 loweに諭された後、私はMausの部屋の扉をノックしていた。
「あら、あなただったらわざわざノックなんてしなくてもいいのに……って何よその荷物!」
 数日間は泊まれるだけの荷物と一緒に。
「私、これからしばらくの間お前の部屋で世話になろうと思って……」
 唖然としながらも私の異様な雰囲気からただ事ではないことを悟ったのか、すんなり部屋へ入れてくれた。
 大きなキャリーバッグをその辺に放置してソファーへ腰を下ろすと隣にマウスも座る。気まずい少々の沈黙の後、先に口を開いたのは彼女の方からだった。
「え、何、家出なのかしら。でもあなた一人ぐらしよね。……完全に理解したわ。きっと部屋が自走砲の誤射で吹き飛んだのね」
 私の奇々怪々な行動に支離滅裂な推理を展開している。
「そんなところ。だからしばらく居候させてもらえるかな」
 いつからだろうか。嫌っていたのに、息をするように嘘をつけるようになったのは。
「……嘘ばっかり言うんだから。部屋が吹き飛んだにしろ、家出したにしろ、あなたが私の部屋で過ごすことは全然構わない、むしろ嬉しいもの!これで夜、話していたらいつの間にか消灯時間を過ぎて、怒られることもなくなるし……何より私があなたの部屋に住まわせてもらっていた時の恩を返せるのだから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
 相変わらず私の部屋と比べると、こっちは広い。二倍ほど差があるように見える。私も古いガレージ引き払って新しいのにするべきかもしれない。
 広い部屋にあるのは、クローゼットとテーブルにソファーに、随分と大きなベット。せっかく広いのにやけに簡素だ。生活に必要の無いものは買わない主義。
「相変わらずお前の部屋は広いな。私の部屋の倍はある」
「それは、多分あなたの部屋と比べて家具が少ないからよ。整理や掃除が得意ではないから必要最小限のものがあればいいかなって思ったの。あ、でもこれを見て欲しいのだわ!」
 そう言ってマウスはベットへ飛び込む。
「私、大きなベットが大好きだったから、つい奮発しちゃってクイーンサイズのベットを買っちゃったの。見てこれ、寝転がっても全然落ちないのよ!」
「それにしてもデカすぎないかこのベット」
「それがいいんじゃない。それはそうとあなた寝床はどうするの?」
「簡易ベットを借りるつもり」
「どうせなら一緒にこのベットで寝ましょうよ!大きいから余裕で2人分の広さがあるのよ!……そうすればあなたと寝るまで話をできるわ」
「えぇ……」
 友達と一緒のベットで寝るなんて経験は今までで一度も無かったから、反射的に躊躇してしまった。
「……嫌ならいいのよ。床で寝るといいのだわ」
 私は何を迷っているのだろうか、loweに言われ覚悟をして来たのに今更何に怖気づく。見ろ、彼女が拗ねてしまっている。
「……ん分かった。お前がいいのなら今日から一緒のベットで寝させてもらう」
「そうよ!」
 嬉しそうにコロコロと笑う。
 Mausの数字を確認すると、1.9.0。昨日からまた一つバージョンが巻き戻っていた。私に時間が無いことを無慈悲に告げてくる。たじろいだり退いている暇はない。
「あなた、用事は丸一日かかるって言っていたけれども、もう済んだの?」
「大体は済んだ。解決はしていない」
「……はっきりしないわね。でもこうして私の部屋を訪れたってことは今日の分は終わったのでしょ?じゃあ戦場へ行きましょうよ!」
「たまには何も考えずにゴロゴロするのも悪くはない」
「せっかく誘ってあげたのに連れないわね。ゴロゴロして……ゴロゴロしながら話をして一日が終わってそれで終わりなの。あっけないとは思わない?戦友がいて、戦場で話をする以上の経験ができて、勝利と敗北、緊迫感と安心感、喜びと悲しみを言葉のやり取り以上に肌や心で敏感に感じれる。そっちの方がドキドキして楽しいじゃない!」
 気が付けば彼女は戦場の空気を脳で楽しめるようになっていた。バーサーカーのようなチープな言葉で表現されるものではない。戦うことが楽しい、一緒に阿吽の呼吸をするのが気持ち良い、目線を合わせるだけで会話ができる距離、いつしか私の中から消え去ってしまったものを今、享受している。ふさぎ込んでいても何も進展はしないのなら、いっそのこと彼女の空気に充てられよう。
「そうだな。そっちの方が楽しいし、楽しいことをするために生きているんだから、そうしようか。どうやら余計なことを考えて基本的で大事なことを忘れてしまっていたよ」
 Mausがベットから手を伸ばす。引っ張って欲しいサイン。答えるように腕が取れる程の力を込めて起こす。今度は彼女が部屋を出るために私の腕を引っ張る。
「レッツバトル、なのだわ!」
 澄んだ声が車体に木霊した。

8/6
128日目

 彼女の部屋で寝泊まりするようになってから早いもので2週間が経過した。12月に入り外はすっかり寒くなり、夕方と言えば薄暗くなり頬を切りつけるような冷たい空気と枯れた木々、初雪はまだこない。
 Mausのバージョンは"0.9.3"まで巻き戻っている。残り時間は長くても一週間あるかないか。恐らく今年は越せない。いつ何が起こってもいいように覚悟をしながら、毎日を彼女と共に戦場で過ごしている。
 一緒のベットで寝ているMausの頭上の数字を睨み付ける。私の大切な人を奪おうとする許せない奴。
「277……?まだ起きていたの?」
 眠っていたはずのMausから声がする。
「……ちょっと眠れなくてね」
「何故私の頭の上をそんなに怖い顔で睨み付けていたのかしら」
「……眠れなくてイライラしていたんだ」
「嘘。あなたは気づいていないでしょうけれど、嘘つくとき目線が私の鼻を見ているもの」
 嘘をつくのは苦手なんだ。もし目を合わせたまま嘘をついてしまったら、その人に一生後ろめたい気持ちを抱いて底無しの自己嫌悪に陥ってしまうから。
「ねぇ教えてよ。あなたが睨み付ける程何に対して怒っていたのよ」
 医者は末期の患者に死期をピンポイントで教えることはしないという。なんでも、例えば一週間後にきっかり死ぬと言われれば患者や親族がどのような行動にでるか分からないから。
 だが、何も知らずに消えてしまうのはMausを酷く悔やませてしまう。残り時間は一週間もない。避けられないならすべてを教えてしまったほうが互いのためではないだろうか。
 彼女が私の腕を握るのと同時に、ズイっと目線を逸らせれないほど近くへ寄ってくる。長いウェーブのかかった髪が靡いて私の顔を少しだけ覆う。長い艶やかな髪が私の頬を撫でて、鼻腔に届く涼やかな香り。顔にかかる熱い吐息。腕に込められた、ちょっと遠慮気ぎみの力。Mausを象るすべてが、私の五感を刺激する。
「……分かったよ。どうせ残り時間はほとんど無いんだ。隠していたこと全部話そう」
 今まで欺いてきた罪悪感、もう隠し事をする後ろめたさからの解放感。
 Mausと出会った時から名前の後ろに謎の数字"0.8.11"が表示されていたこと、その数字が日を追うごとに増えていったこと、それがバージョン名でその仕様がMausに反映されていたこと、現行バージョンにまで追いついたら表示が消えたこと、そして再び数字が表示されバージョンが逆行していること、私が知る限りのことを伝えた。
「……そう。そうだったのね。だからあなたはここ最近、ずっと焦っているようにも、時より見せる悲しそうな表情も、私の頭上を恨めしそうに睨んだりも、そういう理由だったのね」
「今まで黙っていてすまなかった」
「それで今の私のバージョンはいくつなの?」
「0.9.3」
「……もう少しであなたが言っていた最初の0.8.11ね。その時が来たら私、多分元の世界に戻ることになると思うわ。根拠はない、何となくだけどそう思うのだわ。短い時間だったけれども夢のように楽しかったもの」
 全てを知ってなお彼女は取り乱さない。
「それにしても、あなたは酷い噓つきなのだわ。言わなければならないことを言わないのも立派な噓つきよ」
「そうだな。言い訳はしないよ」
「……っぐ……ぅぇ……ふぇぇぇ……ぇぅっ…ぅ……」
 涙をいっぱいに溜めた瞳が、熱がこもった甘い吐息が、それらと共に私の全身が小刻みに震えている。私が震えているのか、彼女の震えが伝わっているのか。それとも、その両方が重なっているのか。もはや私たちには判別がつかなくなっていた。

 抱き合って泣いてからどれほど時間が経ったろうか。首筋に熱い吐息がかかる。その吐息には灼けるような想いを未だに乗せて。
「……マウスにちょっと早いけれどクリスマスプレゼントがあるんだ。受け取ってくれる?」
「もちろんよ」
 真っ赤に泣きはらした目を擦りながら、上ずった声で、承諾してくれた。
「じゃあ砲塔側面をこちらへ向けて」
 マウスは起き上がり黙って横を向く。私はカバンから筆とペンキを持ち出し彼女の砲塔へ愛しく撫でるように塗る。今までの思い出も、嬉しさも、悔しさも、切なさも、最後に懐かしさを込めて。
「できたよ」
 彼女を全身鏡の前に立たせて、後ろから手鏡で反射させる。
「これ……あなたのトレードマークのオールドレディじゃない!"赤いリボンに白くて大きなつば広帽子"のエンブレム……だってこれはあなたがあなたであることの証ではないの?もらってしまっても……」
「私にとってマウスは、もう半身のように大切な人だからね。喜んでくれたならうれしい」
「私をこれ以上、あなたなしでいられなくしないでほしいのだわ……」
 また泣き出してしまった。今度のはさっきのとは異なる嬉しい涙。
「もし向うの世界に戻ってしまっても、こちらの世界での記憶が無くなってしまっても、このエンブレムを見て繋ぎとめて。私も、きっと繋ぎとめる」
 昔から誰かが泣いていると落ち着かなかった。それが大切な人なら特にそうだ。私はこの先ずっとこうして彼女を心配しながら過ごすのだろうか。それで本当に幸せなのだろうか。この素晴らしい人を、私はもうすぐ失うのだ。
「このエンブレム、私の誇りだわ。記憶は失ってしまうかもしれないけれど、帰ったとしても誇りと思い出を"オールドレディ"に結び付けて絶対に忘れない。忘れてはやらないわ」
「……うん。私も戦場でマウスを探す。探しながらずっと待っているから。あなたが私に帰ってくるのをずっと待っているから」
 二人でまた抱き合い、誓う。
「もうすぐお別れで逢えなくなってしまうのに、すぐにまた逢えるような気もする」
 始まったときは別々の戦線に行ってしまったのに、終盤に敵のcap付近で再開できるような感覚。互いに顔を確認できなくとも、そこにいるのは伝わってくる。
「さよならは言わないわ。だってそれはお別れの挨拶だもの。だから、またねって……そう送り出すのよ」
 二人共泣きつかれて泥のように大きなベットで抱き合う。大切な陽だまりを失くさないように抱きしめる。柔らかくて温かくて、触れている肌が熱を帯びている。体温を肌で感じながら、マウスの手が私の頬を撫でる。今までのことを走馬灯のように思い出しながら、安心して意識は眠りに落ちていった。

 風に靡いて揺れているカーテンの隙間から朝日が私へ差し込む。瞼を閉じていても明るさが伝わってくる。冬の日差しは夏ほどぎらついていないので、ほんのりと優しい。ゆっくりと体を起こし、マウスを起こそうと横を見たが、ベットはもぬけの殻だった。どこかへ出かけた後なのか、それなら私のことも起こしてくれればいいのに。
 まさかと胸騒ぎと悪い予感が思考をよぎる。辺りを見たところ着替えた様子はない。着替えずにどこかへ出かけたならすぐに帰ってくるはずだ。私は、音の消えた部屋で心をざわつかせながら待つことにした。
 一人で部屋にいると3分が15分のように長く感じられる。冷たい張り詰めた空気が体を包む。凍える指に息を吐きかけると、白く染まりまるで溜息と紛らう。今まで人と一緒にいた分、ひとりぼっちになるとなんだか自分が酷くみじめな存在になってしまったようで、寂しくて寒くて時間の感覚が分からなくなってしまって、布団に包まり過ぎるのを待つ。
 もうひと眠りしよう。起きた時には必ず帰ってきているはず。それまで眠るだけ。今までマウスが寝ていた方へ移動してタオルケットに包まれた。まだほんのりと温もりを持っていて、冬の寒さから救われた気分になる。その暖かさを握りしめながら早く帰ってくることを願い再び視界を閉じた。

 

308日目

 半年が経った。ついにマウスは部屋へ帰ってこなかった。あの日、彼女は元いた世界へ帰ってしまった。以来、彼女を探すためにTier10を彷徨っていたが、それらしい情報は得られず、彼女の欠落と好みでないtierの戦闘を繰り返すことが心身ともに辛く感じてしまった私は、再びIS-3に戻っていた。
 私の半年にも渡る長い夢は終わりを告げた。目が覚め一人に戻った空虚な現実の中で、彼女はもういないのだと今日も思い出す。戦場に出るたびにマウスを確認しに行くが、ことごとく私の知る彼女ではなかった。もしかしたらと期待して、違って、そのたびに落ち込んで……繰り返していたら頭がおかしくなってしまいそうで、最近は確認すらしなくなった。

 マウスがいなくなり、夢のような時間から醒めてちょうど半年。そういえば彼女と出会ったのも去年の梅雨の時期だった。あの時のように高湿度により空気が肌に滑りく。相変わらず嫌な季節だと悪態をついていると、戦闘開始の30カウントダウンが私のことを急かすように鳴る。
 マップはカレリア、447マッチのボトム。味方の10HTは何だろうかと視線を巡らせると、鋼鉄のドレスを纏い、報酬迷彩を塗り、三優等を砲身へ飾り、気高いマウスが堂々と立っていた。私の探しているマウスではないのは一目瞭然。だってあいつは車体に塗装なんて塗らずに素材の味を活かした無機質な灰色で、どこか抜けていてそれが彼女の魅力で、優等だって取れる程強くもなく、自分を取り繕うことすらしようとしない自堕落で不完全な奴で……今更ながらどうして私は、自分にとって重荷でしかない女を拾って、そんな彼女に惹かれていたのだろう。
 戦闘開始15秒前。去年と同じくセオリー通り南へ向かうのに、初期配置が北側に寄っていたので最後尾になる。貧乏くじ。
 戦闘が始まる。皆それぞれのポジションへ向かい始めている中、味方のマウスは微動だにしていない。戦闘前には立派に見えたマウスだったが、トラブルだろうか。どうせ通り道だ、ついでに声をかけて行こう。

「ねえ、戦闘はもう始まっているよ。いつまで寝ているんだ」
 車体を砲身で小突く。
「う゛あ゛……えぇ……」
 なんて声をあげるんだ。まるで……
「……車体が響くのだわ……祝福の鐘の音なのかしら!」
 砲塔横に"赤いリボンに白くて大きなつば広帽子"のエンブレム。私と彼女を繋ぐトレードマーク。
 じっと私を見つめて、ほとんど叫ぶように言う。
「あなた……私はあなたを知っているわ!あなたをよく知っているのだわ!」
 そう言われて、懐かしい声で泣きそうな嬉しさが胸を突き上げる。
 現実で見た彼女の笑顔は、夢で見ていたような不思議な既視感を覚えたが、「夢にまで見た」なんてそんな言葉がくすむぐらい輝っていた。

サムチャイ戦車教導隊

はじめに

 前回記事(https://sovietshisyamo.hatenadiary.jp/entry/2020/06/15/053715)で紹介した高tierにおける勝率重視のプラトーンについての記事になります。まだの方はそちらを参照ください。

 プラトーン/小隊

 小隊をする人の目的は多様で、例えば、友達と戦車することを目的として、8課金金策として、ミッションクリアを目的として、勝率だけを求める、などなど…
 今回紹介するのはその勝率だけをストイックに高tierで求めるプレイスタイルとは一体どのようなものか、についてです。

 ストジャンキの一般的な展開としては

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 このようなどの戦線も押せなく、いつの間にか味方が溶けていく試合が多い。普通のプラトーンで参加してもとりあえず敵が出てくるのを待つかK5ラインに突っ込むかをするが、Kラインは枚数確定後の当て返しがあったり右下が最後まで見えずに失敗することも……。

サムチャイプラトーン

youtu.be

 今回は膠着を嫌ったので比較的枚数が少ない代わりに遮蔽物がなく一般的には詰めづらいとされる北を攻略しました。

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 まずA6をスポットして後ろの907と自走砲から支援をもらい追い払います。

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 目標エリアを定めて、敵の枚数がある程度判明した瞬間に一気にラッシュします。A8まで2枚張り付き、その後ろから907を回します。その際後ろから回す907はB0のチェックも同時に行います。ここまでくれば勝利はすぐそこですね。残党を掃討して終了です。

 このようなラッシュをプラトーンで行うには、意思疎通のとれるプラトーンメンバーが必要となる上ににしょぼちんしてしまうリスクを恐れない、ダメージを気にしないことが求められます。一周回ってユニカムにこれを求めるのは戦績にこだわりがある以上難しくなります、そりゃできないことはないですが……。
 その代わりにラッシュが成功した時は、脳内麻薬ドバドバが出るほどWoTが楽しく、ストジャンキに対してマップをどのように確保すれば勝ちに大きく近寄れるか、勝利の方程式を学ぶことができます。

 プラトーンでぶらぶら好きなところへ散らばるのも良いですが、上記のようになにか目標を決めて勝つためにまとまって動くのも楽しいので是非試してみてください。907*3プラ、チーフテン*3プラ、あほほど勝てるのでおすすめです。

おわりに

 ATLUSではこれらの活動をMid1s_KING_Samchaiが主導で毎日2100~2400までプラトーンにおいて活動をしています。ここではWoTのマップアドバンテージによる勝ち方を教えています。もし興味があれば僕かサムチャイにご連絡ください。

 ダメージをたくさん取った結果としての勝利を求める人、つまりは「WoTなんて4000ダメ以上平均で出していれば勝率6割出る」と言っている人になりたい場合は、別アプローチをする必要があるのでそれはそこら辺にいるユニカムに聞くなりしてください。

進撃戦が嫌い

はじめに

 僕は進撃戦が嫌いです。報酬車両しかいないとか最初から編成が見えているとかまぁ上げたらキリがないんですが、一番嫌いな点は、15vs15の集団戦を何マップも短い時間でやらされるからです。進撃戦への文句をだらだら書いていこうと思います。CWの問題点もありますが全部無視しています。文句しか書いてなく何も良いことはないので、ためになる記事を求めている人はここで読むことを止めるのを推奨します。

報酬車両しかいない

 CWのように戦場の霧が無いので突飛な車両はほぼ採用されません。趣味戦車出すと怒られます。相手も一緒でどこ見てもチーフテンと907とEBRと279eだらけです。崖だとSTBがたまにいるかも。同じ車両ばかりなのは飽きますね。

対戦相手がいつものメンツ

 進撃戦はCWと違って平均PRでマッチするそうなので相手になるのは大体いつものメンバーです。PR似てるやつら大体友達。まーたこいつらだよとなること多いので同じ相手に同じタクは二度は通用しないから色々考えなければならないです。クラントナメ上位でマッチングする可能性があるなら尚更タクは隠さなければなりません。進撃戦もクラントナメもこいつらとしか当たらないのですが…どこでタクの試行をすればいいのでしょうか。
 CWなら相手はGM上で決まるので色んなクランと戦えました、少なくとも進撃戦よりは。同じクラン相手に同じマップ同じ車両得られるものは使い道のない工業資源、虚無ですね。
 こういうこと言うと怒られそうで嫌なんですけれど、PRマッチな以上トップ層はトップ層でメタがぐるぐる回り、中層などはそれらと対峙するのがCWEのぶっつけ本番環境になってしまうのでそりゃ勝てるわけないよねって話もしょうもなくて嫌です。CWなら勝てるかは置いといて格上クランに挑みタクや打ち合いを学ぶ機会がありますけれども、進撃戦だと個人がようつべで見るしかなく実際にクランメンバー15人で実体験(打ち合いマップアドバンテージの駆け引き)はできはしません。
 腕の差があるクラン同士がマッチングするのを極端に嫌がる人もいますが、僕はもっと色んなクランと当たりたいです。もう中国人とレインボーの相手は嫌です。

1戦あたりの戦闘時間は短いが、コンテンツの実行時間は長い

 CWの最大の問題点は待機時間だったので、それがない進撃戦神ゲーじゃん!そう思ってたのは最初だけでした。
 CWの流れは、
戦闘ポップ→15分待機(事前にマップ攻防と遭遇が決まっているのでこの間にタクを説明したり確認することが出来る)→戦闘(戦場の霧があるが15分なのでゆっくり戦術を考えれる)→最初に戻るor終わり→GMや報酬で自分達の成果を確認できる

 に対し進撃戦は
2145から建て始める(15分待機)→戦闘(最初のマップはランダム、時間は10分)→2分で次マップ(攻防あり)→2分で次マップ→2分で次マップ→2250あたりまで→最初に戻る→日曜日だけwargameでゴールドをもらえる

 が流れになり参加時間が長く戦闘時間は10分と短いです。タクを確認する時間は2分だけで難しいタクティクスではミスが多発します(小難しいタクができないのでタク発展はあまり望めない)。様々なマップをプレイするので指揮官は忙しく集中力が低下します。1マップで攻防が決まっているなら指揮してみよっかなという人は沢山いるでしょうが、これらが新しい指揮官の登場を妨げています。10分で攻防ありなので自走砲の撃てる数が少ないのに使わざるを得ません。そしてそれが1時間(または2時間)続くので、CWのように仕事で疲れたけど一戦だけ参加しよと気軽にはできません。などなど嫌な点をあげ始めたらキリがないです。先ほども書きましたが工業資源が余り過ぎて成果はもはや分かりません。
やる意味ある?

一番嫌いな理由はミスの軽視

 上記の点も非常に嫌なんですけれども、一番は指摘すべき致命的なミスを2分のインターバルしかないので詰めれずに次のマップへ行ってしまうことですね。人間だれしもミスをします。そこで大切なのはミスを修正することとそれを周知し無くすことなんです。(ろくろを回すポーズ)
 例えば、誰かがミスをしたとしてCWならそもそも事前に打ち合わせを綿密に行うので初動ミスは勿論、同時上げタイミングミスなどは起きづらいのですけれども、それでも起きてしまうことはあります。それを反省会でどこどこがダメだったねと指摘し次はこういったミスしないよう頑張ろうと(分からないならトレモにいって確認でもいい)摺合せができます。つまり1戦に重きを置くことができるんですね。
 それが進撃戦では次マップまで2分しかなく、多少のミスは勿論、致命的なミスも次のマップの説明のために蔑ろにされてしまします。あーだこーだ言っても指揮官が困るだけなので次行きましょといった雰囲気になります。
 終わった後に全部指摘するからとミサワみたいなことすればいいじゃんと言う人もいるかもしれませんが、5戦ほどしてすでに忘れてしまいがち解散しがち次の戦闘まで10分しかないorもう00時で、そういう雰囲気ではないです。一応終わった後に指摘はしますが即やらなければ効果が薄れます。さっきのミスは次の戦闘のもっと酷いミスによってかき消されたので問題ありません。
 それでミスを放置したまま次マップへ行き、負けて再度同じマップをやったときに仮に同じミスをまたやったとします。たまりませんね、もう言葉がでません。やるのもう嫌だなという黒いもやもやが心を占めます。悪いのはミスではなく、それを修正する猶予がないシステムだと心ではわかっているので口には出しませんが、怒りの矛先を向ける先もなく、「嫌ならやるな」が首筋に鎌をヒタリを当ててきます。
 1時間過ぎ去った後には皆お疲れで解散、すぐやらない反省会は効率的とは言えません。そもそもそういった背景から進撃戦の反省会なんて現状ではタクの確認ぐらいしかやらないんですが。個人個人の下手くそなミスはそのまま次の進撃戦へと持ち越されます。頭が痛い。

 ミスなんだから指摘して直せばいいのに、それがシステムと時間の関係上軽視されそのまま放置される。次もまた同じミスを繰り返す。成長もなく成果もない。地獄かな。
 アジアサーバーだけCWがないので、仕方なく進撃戦をする。しかし皆が渇望しているのはどうやらCWEのようで、基本戦線ならそもそも10vs10だしそれ以外ならタンクロックや戦場の霧があったり15分だったり、フォーマットが異なるのに練習になるとほざいてる層が一定数存在していたりしていて意味が分からない。ルールが違うんだぞ、砲兵もあって霧があって時間が異なる、なんの練習になるのでしょうか。霧ありでのコールの内容やタイミングが異なってくるので、声出しの内容の練習にもならない。そりゃ通常CWがあればいい練習場になるんですが……。

 ミスの軽視をせざるを得ない環境、僕にとっては最悪です。集団戦の良いところって改善していける所じゃなかったのか。数をこなす方のも大事だけど、1戦を煮詰めることはそれ以上に大切だと思います。ちなみに下手くそなミスの例はハルダウンしてと指示したチーフテンが爆発する(何故か撃ち上げられて死んでいるのでハルダウンから教えなければならない)、HP計算ができない、黙って真ん中を突っ込み死ぬEBR、不利な場所で撃ち合うHT、ああもう気が狂う。

 この現象が一番ダメだと思っているので僕は進撃戦が嫌いです。指揮官でも沢山やれるからいいという人と、1マップを煮込みたい人で好みは分かれるんじゃないでしょうか。僕は後者です。

 前まではクラントナメが唯一進撃戦に似ていましたが、今ではこちらも霧を導入し始めました。

おわりに
 CWEのためにやっているならCWで練習すればいいじゃん。でもないじゃん。上記理由より嫌々進撃戦はしたくないのでランダム戦やるしかないじゃんEBR2ジッソ3おいすー^^えなんで君進撃戦こないの?みんなCWEに向けて練習してるよ?

 馬鹿がよ。別ゲーしよ。

向上心の在り方

はじめに

 昔とあるプレイヤーに「この戦車ってどう乗ればいいんですか?」と質問されたとき、僕は意地悪な性格なので「WASDとマウスだが」と答えたことをふと思い出した。今思い返せばもうちょっと優しく答えてあげるべきだったかなと少し後悔したが、また同じことを聞かれれば同じく返すだろう。面倒くさいので・・・

 だけれどもブログという長文が許される方法を手に入れたからには、今回口頭では伝えるのが面倒くさいほど長いことをまとめて書いていこうと思う。

目標設定

  「WoTを上手くなりたい!」意気込みは結構、ただそのまま言われただけでは何をどう伝えればいいのかさっぱり分からないので具体的な目標を定めていこう。どんな上手いプレイヤーになりたい?3つ例を用意した。

1.ユニカム!

2.高Tierの優等をとる!

3.勝ちに貢献できるプレイヤー!

 順々にそれらへのなり方を説明していく。
 その前に、ゲームなのでなによりも楽しむことが第一であるが、我々には1日24時間しか与えられておらず、仕事や学業で10時間、睡眠が7時間、風呂飯で2時間と割り振るとなんとプライベートの時間はわずか5時間しか残らない。このクソ短い時間制限が1年あるとして土日の休日を考えないと1825時間、土日が約104日あるので1825時間から土日にかかっている520時間を引き、休日Wotについて活動する可能であるギリギリの時間を15時間と仮定し104日分(1560時間)を加算する。結果として毎日同じサイクルかつ土日の時間すべてをつぎ込むと2865時間との結果が出てきた。

 2865時間。平日5時間、土日15時間の計算でやっと約3000時間。我々は1年でこれほどの時間しか与えられない。先ほども言ったように楽しむことは趣味をする上で非常に大切な条件であるが、時間がないので最大効率でそれになるために歩み寄らなければ中途半端な結果に終わってしまうだろう。一般プレイヤーと同じことをしていても一般プレイヤーにしかなれないから、彼らの上を目指すのであれば歪んだ方法をとらざるを得ない。それが社会人の金なのか学生の時間なのか。

ユニカム

 上記3例の中で一番簡単で、というのもTier制限がなければ皆さんおなじみパディングが可能であるからである。

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Wot-newsより引用

  つまりWot-news基準でwn8 3268以上をとり続ければよく、その際にWN8基準値の低い車両でのプレイが可能になる。基準ってなんだよって人向けにWoTlabs.netよりWn Rating Rxpected Tank Values Tableを引用した。

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https://wotlabs.net/sea/wnTableより引用

 左から順に車両名、国籍、車両タイプ、Tier、1戦当たりのキル、ダメージ、スポット、Cap切りポイント、勝率(勝率はWN8に影響しないので参考程度)が並んでいる。「中で最も注目すべきはダメージなんだろう」と考えた人はもれなく一般人で、キル比に目が行った人は恐らくrecent寒色が多くなるのではないだろうか。

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 一番最初に見るべきはキル比である。今回Tiger2とproge46を比較したがTiger2はキル比0.833/ダメージ 1235に比べprogeは1.014/1365と高い数値を出している。キル比が1を超えている戦車は基本的にパディング効率はクソ悪いので乗ってはいけない車両にカテゴライズされる。一戦当たり要求最低キル1と1に行かなくてもいいのでは、実際の戦闘で2、3キルしたときに伸びるWN8の数値に大きく差ができる。細かい計算式とかは何の役にも立たないのでとにかくキル比が1超えているのはWN8効率がゴミということだけ覚えておいて欲しい。それらを避け、尚且つ要求ダメが低い戦車に乗るのはが効率自体はいい(強い車両ではない)のでそこに注意して稼ごう。

 progeがキル比1で分かりやすいので参考にすると、基準値通りに1キル1365ダメージ1.29スポットcap切りポイント0.7で得られる数値はWN8 1400である。スポットは必ずするだろうし何故か自走砲をスポットしたときに得られる数値は2だったはずなので無視し、cap切りポイントにも注目してほしい。cap切りする時は、大体60とかそこら辺の数値になることはないだろうか。一戦での要求数値は0.7、それに60の多すぎる数値、WN8は万遍なくとることが求められるが1キルに対しての6キルつまりトップガンと、要求数値のなん10倍もののcap切りポイントでは比較にならず、いくらまんべんなくと言ってもこれほど大きな数値を得られたときはWN8は跳ね上がるので、敵がcapを踏みそうになったらある程度稼がせてからキルことが求められる。パディングのオススメはAMX1375と59式とT-44シリーズ、59ならそこそこ弾いてお金も稼げる。間違ってもAP弾で稼げる駆逐戦車に乗ってはいけない、見ればわかるが要求ダメージ値が高い。

高Tierの優等をとるプレイヤー

 仮にT-54の三優等の取得を目標とした場合平均スコア3500が必要とされる。

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DISCORD WoT Asiaより引用

 「平均3500かー無理だよ」と最初は考えるかもしれない。が、優等システムの内訳として皆さんご存知ダメージ+観測/キャタアシが計算されるのでそこまで悲観的にならなくてもいい。

 クソタイヤが跋扈している現状、味方頼りの観測アシストに頼ることを止めて与ダメージを大切に稼いでいくことが取得への歩み寄り方である。自分より下手くそな奴らの支援射撃なんて信じないほうが無難。

 つまり平均ダメージ2500くらいを維持しつつ残党狩りで率先して先陣を行き平均観測1000(与ダメにより変化)を目標にプレイしていればいずれとれるであろう。T-54のHPは1650なので自分のHP+3発を最低でも取ることを意識しよう。それまでHPをむやみに使いダメージ交換は避けるように。与ダメという下地を積み上げていけば優等へは近くなっていく。逆に観測ダメ頼りだと安定しないので一進一退の状況に追い込まれてしまう。

その2500ダメージが難しくて悩んでいるんだが?

 その疑問御尤も。それではT-54の3優等への環境作りからまず始めよう。

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 まず主砲はD10T2S(DPM砲)フルボンズ(スタビ換気扇ラマー)AP/HEAT/HE 4/42/4消耗品は救急大修理大レーションディレクティブは速射、スキルはxvmが現行版がまだ出ていないので画像がないが

車長:戦友+六感+偵察+修理+カモ+消火
砲手:戦友+速射+指定された目標+修理+カモ+消火
操縦手:戦友+オフロード+スムーズな運転+修理+カモ+消火
装填手:戦友+弾薬庫保護+状況判断+修理+カモ+消火

 いずれも消火は100%である必要はないがそれ以外は欲しいので乗員スキルが育ってない人は教本を使って育ててからプレイしよう。リアルマネーで解決だ!
 消火器積まないの?被膜付けないの?といったご意見があると思われるが仮にレーション換気扇外して消火器被膜にすると、DPM砲の収束がよりガバくなり収束をまったり命中率が下がるせいでDPMは一発分より下がるだろう。被膜を生かすための茂みなどを覚えるよりも前線で殴ったほうが簡単なので安定する。弾が当たるほうがいい。
 我々には1年で3000時間しか用意されていないので、その内育ってからのろう~とかボンズはオークション用にためておこうとかお金貯めてから…などの軟弱で保守的な行動をとっている暇はない。現金をぶち込んでボンズは自分のプレイに投資しひたすら前向きに行くしかないのだ。
 最低限環境が整っていないのに三優等をとろうとする非効率的な行動はとるべきではなく、大人しく別のことをしよう。上手いやつの形を真似てそこから始めていこう。なぜロシアンユニカムがギリギリを詰めているのにそれより下手くそな人たちが妥協された環境で挑むことができようか。

 あとはプレイする前に上手い人のプレイを解読し、447トップだからそこへ行ったとか、LTが少なく足の速いMTが相手にいないから強気にプッシュしたとか、HTのしゃぶれる位置とタイミングの研究に時間をかけたほうが建設的である。そうすれば目標の2500ダメージに近づいていけるはずだ。それらについては省略する。

勝ちに貢献できるプレイヤー

 たまに聞くプレイヤーであるが、ダメージをたくさん取った結果としての勝利なのかマップアドバンテージを強引に取りに行って有利な状況を作り出したことによる勝利なのかしっかり分別する必要がある。前者は優等チャレンジ等に繋がり、後者はプラトーンを組むことが要求される。今回は後者のマップアドバンテージによる勝利を目的としたプレイヤーについて述べる。

 勝率を求めるならば、まず3プラが絶対条件となり、それらが連携をとれる行動をするのが要求される。具体的にどういうのかと言えば、鉱山の丘上にMT三枚で突撃したり、カレリアの丘に行ったり・・・味方が来てれば勝ってたんだが!?!?!?とキレることがなくなる上に、マップのどこに枚数をかければ勝てるのかの勝利のパターンを学ぶことが出来る。

 問題点と言えば上記2例(戦績を求める)とは共存できないことぐらいで、プラメンと話しながら前線に三枚で突っ込むのは面白いので精神に非常に良い。

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 このように引き目でやり結局街側敗北して何もできなかった…とうなだれる戦闘は誰もが経験したことはあるだろう。味方が一緒に来てくれるならいいが、勿論ついてこないので仕方がない。

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 一方でチーフテン3プラなら0lineを詰めれるし、それを見た味方がずいずい詰めてきてくれる確率が高いので当然勝率も高く、敵をプラメンとぼこぼこにして終わる戦闘が多くなる。やっぱり勝利は楽しい。一人で黙々と稼げても負けは面白くない。
 たまにプラトーンを組んで別々の場所へ戦いに行く人たちを見かけるが、上手いの3人でない限りスタンドプレーから生じるチームワークは発生しないので、大人しく一緒の戦線でなるべく戦うようにしよう。

 戦績的な問題点は先ほど指摘した、しかし追従する問題として自身と同等かより上手く同じ目標を共有してくれるプラトーンメンバーを探すことが生じる。一番どうにもならない問題ではある。
 そこでATLUSではMid1s_KING_Samchai(サムチャイ)が率先して上記のような強く詰めるやり方を指導してくれるサムチャイ戦車教導隊を設立しており活動をしている。もし興味があれば私かサムチャイに連絡してほしい。活動動画を張る予定だったがアプデにより再生できなくなったので後日張っておく。

おわりに

 以上3例は飽くまでも私がぽっと思いついた初心者が思う上手いプレイヤーの例であり他にも様々な上手いプレイヤーの理想像は存在するだろう。ランダム戦スコアラーや集団戦のトップシーンに出場しているプレイヤーなどなど他にもあるが別記事で触れていこうと思う。これから何かを目指すならばがむしゃらにプレイすることも大切だが、成長する過程で自分の憧れているプレイヤーがどのような分類になるのか研究することが求められている。

ユニカム100人クランが存在しない理由

ユニカムが100人いるクランがあればアジア最強を名乗れるのに何故存在しないのだろうか

 World of Tanksをプレイしている人なら一度は考える。しかしながら現実として存在はしていない。理由なぞ少し考えればちらほら浮かび上がってくるものだが、今回はそれらの点について整理、定義を行いたいと考える。

 

そもそもユニカムとは?

 一般的にはXVM表記においてWn8紫色以上のプレイヤー達を指す。

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Wot-newsより引用

 総合でWn8が3268以上なければならない。各stats参照サイトによって色が分かれる。

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Wotlabs

 Labsは比較的低めの設定になっており、基準値も変動しているようには見受けられない。恐らく定期的に色の基準の更新が入っているWot-newsのが正確であろう。
 よって、総合wn8 3268以上のプレイヤーを100人集めなければならなくなった訳だがアジアサーバーでしかも日本語話者に限定するととてもじゃないが現実的ではない。すでにこの時点においてタイトルが崩壊しているが仕方がない、青色以上で妥協してみようか。それでも最低2416必要となる。ランダム戦において青色を見かける機会はたまにしか存在しない。

仮に100人青以上を集めたとする

 クランの主目的、特に上手な人たちを大多数集め何を行うかであるが・・・イベント、例えばCWEにおいてのトップ獲得によるバッチ等報酬の獲得がまず初めに思いつき、CWがあるならば高額プロヴィンスの維持のためなどがあげられる。

 皆さんご存知、これらのイベントに大人数で参加するには戦闘を起こすための管理する人間が必要とされる。ランダム戦のようにバトルボタンをぽちっとするだけで勝手にマッチングして戦闘させてくれるわけではない。

 誰が管理する?そりゃクランにいる誰かだろ・・・皆そう思いながら自分じゃないなと思っている。ここで誰かが名乗り出なければ、強いメンバーを集めたものの戦闘が立たずに戦わずして負ける烏合の衆と化す。だが集めた基準を考えてみてほしい、wotが上手なだけであってそのようなゲームの範囲外の管理分野で強い訳ではない。管理者用に別に人を募ったほうが、現集団よりも効率良く集まるだろう。

 それは置いておくとして今は都合よく仮に現状のメンバーから出てくるとする。としたいがそれも現実的ではない。妥協して3人まで管理者としてレート制限を撤廃する(仮に緑とする)。今のクランは97人の青以上と3人の緑である。
 さてこれで戦えるだけの環境は整ったはず。CWEに参加し今回はその内の1戦に焦点を当てる。

 さて戦闘を終えたようだ。しかしどうしたことだろうか勝敗は敗北。おかしい、上手なのをだけ揃えたはずなのに負けてしまうなんて、おまけに負けた相手は自身らより格下の相手のようだ。そうなれば勿論日本人大好き反省会の始まり、誰が悪人だったのか探し出すゲームへと移行する。

 指揮官?全力で走っていたのに運悪く当てられたEBR?相手のは貫通したのにこちらのは微ダメしか出せなかった自走砲?capをきれなかったまたは戻らなかったMT?とにかく誰が悪いか糾弾するのは勿論、下手くそと口には出さずとも心の中で誰もが思う。

 けれども皆青以上はあるはずで、ここら辺になるとそれなりのプライドが心には生まれている。たまたま失敗しただけなのにそこまで攻められる筋合いはない、うぜぇなはーあイラつくコミュニティだな。上手いのは「下手くそと一緒にやりたくねえ」と、コミュニティにおける底辺(とは言っても青)は「たまたまのミスでそこまで言われるのは腹が立つ。ここまでくればイベント終ったらこんなとこいられっか、別のクラン行こう」そう思うのは報酬がストレスに見合ってないならばごく自然な事である。今のWoTの報酬から考えるにイベントでトップをとったとしてもクラン員は恐らく75人程まで減ることが予想できる。

次の戦いへ向けて

 さて、クラン順位上位を目指すうえで人数が多いのに越したことはない。ここで分岐点が発生する。次のイベントもトップを狙うのか、それとも身の丈に合った人数で狙える順位と報酬で妥協するのか、この2派にクラン上層部は分かれる。つまりは青以上の基準を緩和して100人に戻すのか、それとも今のまま高レベルプレイヤーだけで70人程度の少数精鋭による10位以上の入賞(ボンズ係数が高い、クラントーナメントに出れる、報酬はバッチ以外もらえる)のを目指すのか。悩ましい。

 だが少し考えればわかることで、後者を目指すなら一生トップをとることは難しい。というのも、次のイベントは70人で行えたとしても次のイベントのときには更に人数は減少しているからからだ。誰だって楽にトップを狙える大型クランに高レートで入ればちやほやされる。そのほうが気持ちがいい、間違いなく。勿論新しい加入希望者もいるだろうが、その数は極少数になるだろう。新しい加入希望者は10人来たとして、トップをとったからとダメ元で申請してくる緑色が8人、青以上の基準を満たした者が2人、アジアサーバーならその程度が現実である。結局のところ流出量のが上回ってしまう穴の開いたバケツ状態に陥る。

 ならば基準を緩和し緑色を少しずつ入れて100人体制に戻し強いプレイヤーを軸にトップを狙っていくほうが、希望とか未来があるように思える。しかし、そもそも青以上でクランを作った理由は下手くそと一緒にプレイしたくないから足切りラインを設けたわけであって・・・我々はどこかで妥協点を見つけなければならず、そうすべきなのは明白でもある。強いメンバーでハイレベルな戦闘を少なくこなすのか、レベルを下げてトップを目指すのか。穴の開いたバケツか、漏れる量より多くの多少不純な水を注ぐのか・・・。

暖色にとってのディストピア、寒色にとってのユートピア

 はたして青以上のみとの共存は不可能で、緑とのそれは可能なのか。

 ここに2つのタイドプール(潮溜まり)を用意した。海岸にある岩のくぼみに海水がたまり、普段満潮になると海になるが、干潮になると海水が窪みに残る。つまり陸に取り残された海の欠片ができあがる。

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  そして一週間に一度、様子を観察し片方のタイドプールからヒトデは完全排除する。もう片方は完全放置、つまり自然のままの状態にする。なぜヒトデを排除するのか?ヒトデがこのタイドプールの中で食物連鎖の頂点に位置するのがヒトデであるからである。ヒトデの主食は貝。

 さて、最高捕食者を排除した環境ではどのような変化が起こるであろうか。最初に思い浮かべるのは、被捕食者達の成長だ。まずは自然状態に放置した(ヒトデを排さなかった)方を見てみる。ゴーグル越しに見えるのは、普通の貝の形をしたマツバガイ、イシダタミガイ、ダンゴムシみたいな形をしたヒザラガイやカサガイなど、様々な種類の貝が生息していることが分かる。

 一方で、ヒトデを排した、つまり最高捕食者がいなくなったタイドプールを見てみる。どうだろうか、マツバガイしか生息していない。岩にびっしり同じ種類の貝が住み着いている。

 この実験で何を言いたいのかというと、つまり、最高位の捕食者がいることで生態系のバランスはとれているのではないか?ということ。どの生物も子孫を大量に残したい、というのが生きる目的となっている。そして増えたいと思っている所に、ヒトデがやってくる。増えた種は当然目立つからヒトデのえさになる可能性が高い。結果として増えたやつから順番に捕食されていく。そういうわけでヒトデのおかげでいろんな種が同時に存在できるタイドプールが出来上がっていることになる。だがヒトデがいなくなると、このタイドプールの環境に最も適した種だけがどんどん増えて、生存競争の勝者になってしまう。なので、仮設としてヒトデがいるおかげで、勝者の存在しない多くの種が暮らせる世界が作られている、というのが言える。

 ここで話題を変える。アメリカのイエローストーン国立公園に、オオカミが再導入された。オオカミがいなくなってアメリカエルクという巨大なシカが増えすぎて、生態系のバランスが崩れたからである。導入から結果が出るまで長い時間がかかると思われていた導入は意外なことに、オオカミを最初に入れた時からすぐに生態系の回復の兆しが見え始めた。あ~今までライバルがいない状態にあったアメリカエルクをオオカミがたくさん食べたんだろうな、と最初に推察する。

 しかしこれはどうもおかしくて、オオカミが食べるアメリカエルクの数はおおよその予想がつき、それに見合っていない、というのだ。オオカミが大量に蓄える習慣を持っているわけではないので、お腹がすいていないのに狩りをしたりはしない。羊なんかを面白半分に殺すことはあるらしいが、それは逃げるのが下手な動物だからで、巨大なアメリカエルクを面白半分には殺せないはずだ。

 つまり生態系のバランスが回復するような数のオオカミはいなかったのに回復したことになる。オオカミが食べる以上のアメリカエルクの減少が見られた。オオカミが伝染病か何かを持ち込んだのだろうか?

 環境が変わるが、近年、北海道では増えすぎたエゾシカのせいで農作物が荒らされたり、冬場に木の皮を食べちゃうので森林が破壊されていったり、列車との衝突事故も頻発するようになった。その対策として鉄道会社の人は、動物園からヒグマやライオンの糞をもらってきて水に溶いて線路に撒いておく。ヒグマはまだ理解できるが、北海道にライオンが生息していることなど無かったにも関わらず効果が出た。肉食動物に食われる恐怖というのが本能に染みついているのだろうか。従って、エゾシカは匂いだけで怖がって逃げ出した訳だが、文字通り存在を匂わすだけで逃げ出す効果があり、その匂いの元が山の中を歩き回っていたら、シカにとってどれだけのストレスを与えていたであろうか。

 アメリカエルクはオオカミがいるぞ、というストレスだけで出産数が減った、元の状態に戻ったことになる。結果として肉食獣は存在しているだけで、生態系のバランスを守る役割を果たしている。よって自然界の多様性を保つには肉食獣が必要であることが導かれる。

 少し話を戻して、ではこのまま何十万年もダブルタイドプールの実験を続けるとどうなるだろうか。もし環境が安定しているなら何万年たってもマツバガイのユートピアが続く、満潮のたびに餌が外部から運ばれてくるし、外敵は存在しない。・・・同じ安定した環境が続くと生物は進化を起こす。進化には目的は存在しない、というのも、例えば象の鼻が長いのは目的があって鼻が長くなったのではなく、鼻が伸びるという突然変異が草を食べるのに都合がよかったから、その個体がより多くの子孫を残したに過ぎない。

 このプールではどういう進化が起こるか、つまりどのような突然変異が発生するかであるが、想像するのは難しい。

 まずあの環境の中で普通マツバガイよりも生きるのに都合のいい進化とは何かを考える。周りは全部マツバガイで・・・。食べるものは微生物なわけだから、周りのマツバガイより多くの微生物を捕えなければならない。周りはマツバガイだらけ・・・だらけ・・・。マツバガイを食べるマツバガイが生まれるのではないだろうか?マツバガイを始まりとして多様な生物が生まれるのではないか。ウミウシみたしに貝殻を捨てたり、魚みたいに泳ぎだしたりするような。

 ユニカムを頂点として、青色が脱退する。
 マツバガイがタイドプールで進化を続けたらどうなる。
 肉食獣が存在するだけで草食獣は生息数を減らす。
 減少の原因。
 進化の思考実験。
 生態系の問題。

 脱退、ユニカムがいるだけで青は居心地が悪くなる。つまり直接的な脅威じゃなくても、ストレスを感じる。周囲のストレスで脱退に至る。
 進化、自身より下手な者を沙汰させるような進化だとすれば、自身と同じ種を残しやすくなる?
 生態系、他者との関係性、食べる食べられるの関係性。同じ種だけが残ったとしても多様性は生まれるかもしれない。つまり単純化された生態系は、複雑化に向かう傾向がある?

 ここまで読んでもらった皆さんもお気づきのように、ユニカム内でもヒエラルキーが存在する。この話題、触れるとヤバイ物なので多くは語らないが、あの人上手いよね~ランダム戦は(TB崇拝者)、あの人上手いと思うよTier8以下は(高Tier過激派)、上手いけどあまりダメージは出さないよね(与ダメ至上主義者)、嫌でも耳に入ってくる。これらが良いものかどうかはさて置き、ユニカムは単一の種ではなく中で様々な多様性を持っていることが分かる。ユニカムの上位存在ユニカムを作り出すには、少人数で同じ目的を持ち限定された環境下で育成される必要があり、その最も効率的な手法はTBのような12人程度のチームによって構成され同レベルと戦える環境であったと考える。私は別にTB崇拝者ではありませんが・・・

生態ピラミッド

 ユニカムが無意識のうちに青を攻撃し、青もプライドがある以上必ずストレスを抱えてしまうならば、ストレスを抱えない存在を持つという選択肢が現れる。勝負をしている以上負けたなら反省点から誰かを攻撃せずにはいられず、言葉や言い方が優しいとしてもその本質は変わらない。であるから、青色より攻撃してもストレスだと思われず、意思疎通ができて、wotの腕もまあまあな部分である、緑色に帰結する。
 私の個人的な経験で申し訳ないが、緑色はユニカムが何を言っても「ユニカムが言ってるんだし正しいのだろう」と鵜呑みにする傾向があるし私自身そうでもあった。だから「お前の(戻る、打ち合い、つめる)判断が下手くそだから負けた」と言われ、こうすべきだったと言われたときに全肯定してしまう。そりゃユニカムが言うんだし俺が思った疑問なぞより黙って従ったほうがいいんだろうと思わされる。なぜか?ユニカムになりたい憧れ、つまり崇拝しているから何も疑問を持たない。怒られても自分が下手だから仕方ないと、ストレスを青色よりは感じない。ユニカム相手に緑色が持つプライドなんてないからだ。ストレスよりも気づきによる成長が与える幸福分泌物の方が多い。勿論皆が皆そうではなくストレスを感じる緑色がいることは間違いないことだが、そのような人はそうなると分かっている環境を避けるか自身によって排他されるだろう。

 従って100人という他のゲームでは類を見ない大人数を形成する上で最高捕食者であるユニカムと被捕食者であり被捕食者であることに疑問を持たない緑色が共存することで、青色も同時に存在することができる環境が作り上げられる。こうして上位クランの生態ピラミッドが誕生する。

 初期の段階では、多様性を持つタイドプールはランダム戦を、マツバガイのタイドプールを青以上のクランと捉えたが、最終的にはマツバガイのタイドプールでは共食いが発生し大量絶滅が起こって残るのは少数の生物で、そこでは多様性、つまり青を底辺として寒色を食べる上位存在のユニカムが生まれていく厳しい世界でしかなく、今のwotにそれは不必要なものである。ユニカムを底辺として構成される生態ピラミッドは人口が多いサーバーで環境を整えれば生まれるかもしれないがそれが可能なのはEUロシアサーバーが確率が高く、尤もロシアトップクランでも寒色同士のいざこざは絶えないわけだが・・・。アジアサーバーでは一時的に結成できたとしても長持ちはしない。

 だからといって自分より色が低い人を攻撃していいという理由にはならず、今の環境を維持したいと思っているならば我々が進んで保護すべきである。一緒の環境にいる場合、集団戦の個人レベルの失敗は彼らに集中し怒られているので落ち込みがちだからだ。そこに寒色の人格や高圧的な態度が重なればいくら強靭なメンタルと言えど折れてしまい各々個人的にもクラン的にも良い事はない。暖色がいなければユニカムは頂点にならず、今回のクランを参照した時のように緑色がいなければ生態系は寒色が底辺となるものに収縮するので、存在に感謝しなければならない。

 最初から分かっていたことがこれらの考え方は寒色選民思想が強く表れており、それは後半になればなるほど増しているように思えて嫌になってきたのとキーストーン種の話をできて満足したので、ここで筆を置くことにする。

 

参考文献
渡辺僚一著『なつくもゆるる』すみっこそふと、2014/01/31

NA戦、EU戦を終えて

『届かぬ夢』

きっとみんなの
ほんとうのさいわいをさがしに行く。
どこまでもどこまでも
僕たち一緒に進んで行こう。

宮沢賢治銀河鉄道の夜

1章
「私、ねえさんみたいになりたいの」

 World of Tanks イギリスツリー家に産まれConquerorにまですくすくと育った彼女はそう私に告げた。
「なんども言ってるでしょ。あなたじゃ私にはなれないし、私のような思いをするのはこれ以上増やすわけにはいかない。貴方達のために今、最前線にいるって」
 低Tierの小さな頃から見てきた彼女達は皆、口々に憧れるが、ここは思っているような居心地の良い場所でもなければ、決して到達することが出来ない領域でもある。

 犠牲にしたものは、血統と誇り、そして半身。得たものは、強さ。

 失ったものが多すぎる。引き換えに最後に残った強さだけは誰にも譲れない。譲ってしまったのなら私は義姉のようになってしまう。同時にイギリスの栄光すら沈むことになる。それだけは、防がねば・・・Tier10は9以下の希望でなければ・・・彼女達の育つ意味だけは守らねばならない。
「私はね、私の弱い部分だけを妹に押し付けて、本来彼女が持つべきだった強い部分だけを奪ってここにいる。それにね、この半身はイギリス製ではないの。義姉さんたちが普段、野蛮な慎みを忘れた避けるべき同族とバカにしているアメリカ製だから。」

 私の強さは通常ツリーから抜けて、妹から奪って、弱点を押し付けた上に立っている。こんなこと言っても肝心なところを暈してしまっているので、何を言っているのか理解できないだろうが…

「だからってそれらを避けて二番手は嫌。確かに誇りはFV215b姉さまとScon姉さまが築いてきたものかもしれない。でも今の誇りを張っていれて、私達が目指すべきは、チーフテン姉さま、あなたでしょう?このままScon姉さまのようになっても・・・」
「やめなさい」

 それ以上は言ってはいけない。いや、そんなことを言わせてしまうのは私が義姉さんたちから戦場を簒奪したからなのだろう。当然の報いとはいえ、罪悪感が心に重くのしかかる。奪ってしまったから、私は義姉さんたちと顔を合わせることはできない。

 215b姉さんの豊富なHPからくる包んでくれるような優しさも、正統な血筋で一時はHTの完成系と呼ばれランダム戦からCWまで一世を風靡したScon姉さまの頼りがいのあるスペックや気高さも、今となっては最前線に立つにはどちらも足りない。

 なぜならば相手するHTは私か、279だからだ。形振り構わず手に入れた小さな卑しい体と速力、強固な砲塔に俯角、単発440、全てが今までのHTを過去にし新しい区分"MBT"の地位を手にした。279を相手にするには正面からでは敵わない。足と地形適正を生かすしかないが、姉たちでは足りない。
「あなたは真っ当に育ってScon姉さんになるの。車体正面に増加装甲を、側面には空間装甲をつけてね。二番手でもやりようがあるわ。CWならタンクロックもあるから出番は幾らでも・・・」
 失言だった。CWはもうアジアサーバーではなくなるのだ。

「・・・・・・なくなるんでしょ?CW。マッテオさんが言ってたよ。だからこれからは進撃戦やwargame、ランク戦がエンドコンテンツになっていくって。それじゃ二番手どころかFV姉様と一緒にガレージから出ることはなくなってしまうわ。だからなんとしてでも、私はチーフテン姉さまにならないといけない。姉さまのようにイギリスツリーの誇りを守りたいの。HTもLTもTDも息をしていないわ、みんな寂しそうにガレージから出ずにいつもお茶会をしている。貴方達のプライドは、チーフテン姉さまが守ってくれているのに、それを忘れて胡坐をかいている。血統とか誇りとかプロホロフカの12ラインに置き忘れてきちゃったんでしょうね。Scon姉さまも頑張ってはいるけれど、昔のようにはいかず厳しいことも一緒の戦場で何度も見てきたわ。」

 まずいことを言ってしまったと後悔する暇も無く、義妹は現実を告げてくる。今まで目を背けて、前線に向かっていたから、その言葉がずっしりと心に圧し掛かる。
「どうしてもあなたになりたいの。私だけに教えてよ、なりかた。」

 向かい合った彼女の体は、標準的なHTより小さく華奢な体の私より一回り大きくて、屈むように砲身を下げ私の砲塔横に添え、囁いてくる。こんなやり方どこで覚えてきたのだろうか。魅力的な誘いを拒絶するのは難しかったが、私にはなりかただけは教えることができない。
「・・・分かったわ。でも今はだめ。貴方が経験地を沢山溜めてScon姉さんになれるぐらいになったら教えてあげる。それまでは秘密よ。」

 普段は稜線から見下ろす私が今は、見上げて彼女の耳元に砲身を捧げている。これではどちらが姉かわからないな。
「約束よ。それを信じてランダム戦に行ってくるわ。Tier9じゃ私はまだまだトップ層なんだから。そんなのすぐよ。だから待っていてね。」
「よく知ってるよ。経験地リザーブを忘れないようにね。それじゃあいってらっしゃい。」
 意気揚々と嬉しさと楽しみにしていることを隠しきれない顔を私に向けて、ランダム戦にインキューをした。
「行ってきます。チーフテン姉さま。」

 ごめんね。私はあなたに嘘をついてしまったわ。Sconになれるぐらいの経験地がたまった時点であなたはその道に進むしかないの。私にはなれないのよ。

 私が生まれると、同時に妹が生まれる。私は"T95/FV4202 Chieftain"、妹は"Chieftain/T95"。彼女が貧弱なのは私が奪ってしまったから。二台用意して半身を入れ替える。私はアメリカとの混血なのよ。だから私にはイギリスの正統な血統もなければ、半身をアメリカ製にして妹に押し付けたから誇りも無く、そんな車両が最前線のHTの地位を奪ってしまったので姉さんたちに向ける顔も無い。強さと引き換えにこんな思いをするのは私と妹だけで十分だわ。あなたはどうか、自分に誇りを持って好きになる、そんな生き方をして欲しい。

 私は自分のことを好きになることができない。妹は「どうか気にしないで、あなたが強く賞賛されているのを見ると元気が出るから大丈夫」と言っていたがやせ我慢なのは家族なのだから透けて見える。戦うための車両として生まれ、姉に体を捧げて、その結果として出撃する機会が全くないのになにが大丈夫なものか。

 義姉も妹とも、向かい合ったとき胸を張って顔を真っ直ぐに見ることは出来ない。孤独の中で最前線に立ち続けなければ、奪っていった者達すら冒涜してしまう。それだけは、私の中の誇りが許さない。だからこれ以上私と妹のような境遇の子を作り出してはならないんだ。どうか分かってくれ。

 自身すら嫌いで孤独だった私に憧れて、私の唯一の味方になってくれた愛しき義妹Conqueror、あなたの純粋な気持ちはどんな戦績や賞賛よりも嬉しかったわ。

 約束、守って上げられなくてごめんなさい。この秘密はイギリスのプライドを守るため、口外することは決して出来ないの。いつかナーフされて最前線から離れてしまったときなら、話してあげられるわ。

 経験地をためて嬉しさと期待に満ちた顔をして報告にくるのだろうな、やっぱり約束を守れない秘密を教えられないと告げたとき、どのような顔にさせてしまうのだろうか。私の唯一の味方だった牙を向くだろう。彼女が泣き叫ぶだろうか、呆れ返るだろうか、その全てを受け入れよう。受け入れたあと、今まで孤独だった私が一度知ってしまった好意を失ったときの心のダメージはいかほどだろうか。考えるだけで眩暈がする。

 最前線での強さのみを求めていた、そんなどこかで、こんな境遇の私に好意を持ってくれる子を探していた。どうか主よ、彼女の好意を失わずに事実を伝える、ハッピーエンドをお教えください。

 冬のCWEも終わり、春が来た、ランク戦season2が始まる。
 3月も中盤になり暖かい。空は青く、濃く、高くそびえ、桜たちが咲き乱れる準備をはじめている。別れと出会いの季節。
 けれど・・・わたしの世界の中からは、湿っぽさも、薄暗さも未だ吹き飛んでくれてはいない。まだ冬に閉じ込められている。


2章
「らしくないじゃない。貴方にも不調の日があるものなのね」

 ・・・どうやらそうらしい。私としたことが得意なハルダウンをやり損ねて車体を晒してしまっていた。気づいたときにはキャタピラを切られどうにも射線を切れる位置に戻るのは間に合わなかった。機動性もよく車体が小さいゆえ、被弾率もハウダウンの容易さも他の戦車に比べたら簡単だというのに。

 あれ以来コンカラーになんて言い訳しようか考えてばかりいる。どう伝えれば彼女を傷つけずにすむのだろうか。気持ちを言葉に出来ない、喉下まで来ているのに表現できないもどかしさに囚われている。無理なものは無理なのだからそう言うしかないのに。問題は伝え方なんだ、優しい言葉が見つからない。
「貴方からハルダウンを取ってしまったら何も残らないんだからしっかりしろよ。それとも、私が話しかけているのは実はObj277だったりする?」
 いつになく厳しいことをここぞとばかりに遠慮なく言ってくるなこの女は。
「私にだって調子が悪い日ぐらいあるわ。あなたにもあるくせに、まるで鬼の首を取ったように煽り立てる下品なことはやめて。」
「・・・分かりやすいんだ。いつもならこれぐらいの軽口、受け流すか貴方も一緒に笑っている。普段の耐えて誇っている顔が見れないからどうかしたのかと心配していたけど、調子が悪いのは身体ではなく心の方だったとはね。私と貴方の仲でしょ、何かあったなら話してみなよ。力になれるかもしれない」

 どうやらまんまと見抜かれてしまっている様だ。彼女の言うとおり心が不調なのは間違いない。戦いとは別のことを考えてばかりでミニマップを見れていない。さらにその上、身体が覚えているはずの自分の得意ポジションすら戦場の中で見失っている。
 おまけに冗談にも対応することが出来ないほど心の余裕が思っているよりない。まいったな、彼女は私が戦場に出る前から支配者であって、今では私達がいる戦場が当たり前になっている。戦いの中でエリア確保のためのタイミングを合わせることなんて呼吸を合わせるのと変わらない関係、つまるところ、彼女は私の大先輩で戦友でいつのまにか親友になっていた。
 そんな奴に隠し事なぞ、どこの茂みに隠したって見つけてくるだろう。不安定な心境を誤魔化すなど通用するわけが無い。


「いつになく感が良いのね。新しい拡張装備はボンズ換気扇ではなくボンズ皮膜でも選んだの?」
「誤魔化そうとするな。私は貴方が抱えている問題がどんなものか知らなければ興味もない、ましてや関わろうとするお節介な性格でもない。けどな、私情を戦場に持ち込んで私の足を引っ張るようなら見過ごすことは出来ない、先輩なら猶更だ。・・・因みに新しい拡張品はボンズ換気扇にディレクティブスタビよ。」

 少しだけ気張ってみたが、全然ダメだ。どうやら逃がしてくれそうにも無い。一瞬、彼女なら何か良い解決策を知っているんじゃないかと望んでしまったが、そう自分の中で考え決着をつけずに縋ってしまうのは一人では答えが出せない八方塞であるサインでもある。それなら戦場での互いの役割のように精々利用させてもらうしかない、結局のところ私達の関係なんてそこに帰結する。

 しかし彼女に理解できるのだろうか。血統とか誇りとか・・・私の半身が外国製だから生まれるコンプレックスとか、同時に弱い妹を持つこととか。それと、なりたいものになれないとつげなければならない苦しさ、とか。
「さぁ、詳しい話はいつもの場所で聞かせてもらおうかしら。チーフテン
 男っぽいというか姉っぽいというか、年上で面倒見がよく、まるでこんな悩みは今まで幾らでも聞いてきたと言わんばかりのなんの不安も感じさせない顔で彼女は私の腕を引く。
「お手柔らかに頼むわ。907」
 消え入りそうな声で、その名を呼んだ。

 ヒメルズドルフの一角にある重く閉ざされたバーの扉を開けた。
 まだ夕方でディナーにはちょっと早い時間、集団戦を早めに切り上げたので、客は私達の他には居ないし暫くは誰も来ないだろう。開店したてのバーは空気が澄んでいて好きだ。

 いつもならウキウキで飲むところだが、いつもに増して今日の気分はよろしくない。
 常連である私達には最早オーダーを取らない。毎度同じのを飲んでいるうちに、席に着くなり勝手に作り、出してくるようになってから私達ももう注文を言わなくなった。裏返せば注文するのは何かあった日でもある。
バーテンダーさん、私、今日はスコッチをロックでダブルでお願い」
 普段、彼女はウォッカとレンドリースオイルのカクテルを、私はジンと105オクタンガソリンのを飲む。
「貴方、抱えている問題相当重いのね」
「そういう気分なのよ」
「どうだか。オーダーで語らないで、チーフテンの口から聞きたいな」
 どこから話したものか。そもそもこんなセンシティブな内容、いくら親しいとはいえ他人に話すのは気が引ける。スコッチをまずは一杯、飲み干して線引きを考えていた。
 喉をすべり出ていく言葉と、それとは逆に、喉を灼きながら流れ込む酒が、お互いを癒してくれてそのちぐはぐが気持ちいい。
「同じのをもう一つ。・・・907はさ、後輩からあなたのようになりたい。って憧れをぶつけられる事ってあった?」
 結局、彼女の経験から聞き出す、一歩引いたハルダウンが好きな私らしい切り口。
「そりゃもう、沢山ね。沢山聞かれて、全部にあなたにはなれない。生まれが異なれば私は通常ツリーに存在しない。つまりMTなら140か62Aか430Uで諦めろ。そうはっきりと、沢山、伝えたわ。・・・なるほどね、悩みはこれかあ」
「伝えるの辛くない・・・わけないか」
「辛かった、けどね、中途半端に答えて、なれないものの前で足踏みしているのを見ている方がよほど辛い。それならスパッと言ってあげた方が優しいでしょ。そう伝えると、最初、みんな何を言っているか分からないって顔をする。泣きもしなければ嘘と糾弾して怒るわけでもなく、自分の耳を信じられないのかもう一度言って欲しそうに、え?とだけ呟く。だから私は「あなたじゃ私になれない」、そう二回言うはめになる」

 なれないものの前で足踏みしているのを見ている方がよほど辛い・・か。Tier1から始まってTier5になるあたりにはある程度の将来像が確立し始まる。なるようにしかなれない。だとするならば、そのツリー外にいる私たちはいったい何なのだろうか。

「私達の国は【精神的に個々が強くあれ、さすれば国家が強大になる】そんな教えをしているから、みんな隠れて泣いたり認められなくてずっとT-54から進まない子だっていた。どこかで感じるんだろう、自分じゃ907になれないって。だから壊れたスピーカーみたいに何度も聞きに来るのはいなかった」
 すでに2杯目を飲み干し空になったグラスの中で氷が少しずつ溶けている。なれない酒と体調の悪さが合わさり、状況判断はまともにできない。スタンをずっと食らっているような気分で少し気持ち悪いが、アルコールが思考を緩くさせてくれないとまともに話せる内容ではない。
「ずっとT-54って・・・足踏みしているのいるじゃん」
 こんなことを言いたいわけじゃないのにすねたように揚げ足をとってしまう。
「私は彼女達への誠実を果たした、言わないでいるのと黙っているのでは罪悪感の有無が異なる。伝えるべき事実を黙っているのは嘘つきと変わらないし、そんなことしていたら自分のことすらも嫌いになる。他人に最後まで誠実を貫こうとすればするほど、自分への誠実を見失う。そうなってしまったら生きていくのが苦痛でしかたない、そうは思わない?」
「両方が幸せになれる言い方はないのかな」
「あるかもしれない。けれど、それを探し出すまでに自分が壊れてしまわない自信は私にはない」
 そうだよなぁと半分納得しながら3杯目を頼もうとした。
「・・・引き上げるぞ。貴方、顔色程々に悪いわ。月並みなアドバイスしかできなかったお詫びに今日は驕るよ」
「・・・うん」
 気がつけば子供みたいな返事を返していた、相当きているようで。

 店から出でると夜風が吹いていて酔った身体には涼しく気持ちがいい。桜は満開で月に照らされさざめいている。私とコンカラーの関係は桜を照らす月と同じようなものなのかもしれない。私からは彼女を照らすことしか、彼女は私を見上げるしかない。そういった・・・

三章
「あともう少し」

 ランダム戦がマッチングするまでの数十秒間は私の心を落ち着かせざるを得ない環境で、待たされているのに割りと嫌いにはなれなかった。
 出撃すると意気込んだ何秒か前、戦場に着くまでの緊張と高揚感の相対する鬩ぎ合いはどうしてか心地よい。
 (自走三枚いたらいやだな...)とか(ボトムだったらどこに行こう)と心配する傍ら、(tierTOPだったらどの有利ポジションで戦おうかな、それならMバッチだって夢じゃない)と期待している。
 不安とは、成功してほしいことへの期待が大きければ大きいほどそれに比例すると言ったのは誰だったであろうか。

「...よし!」
 Scon姉さまへの経験地はあと残り僅か、一週間もあれば足りるだろう。そうしたらチーフテン義姉さんになる方法を教えてもらえると約束をした。経験地を貯めることは勿論、よりよい成績を残せば褒めてくれるだろうか。
 そう妄想しているとマッチングしたようで待機所へと移る。
 マッチングはtier9TOP、敵のtier9HTはM103やT-10なのを確認した。自走砲はなし。マップはウェストフィールド、つまり私は稜線で得意のハルダウンをしていればいい。そう頭の中で戦闘をシュミレーションしていると、ふと味方にチーフテン義姉さまの妹であるChieftain/T95が味方にいることに気づいた。
 彼女が戦場にいるのは珍しい。生まれつき病弱でガレージから出ることはほぼないと聞かされていた。今日は調子がよいのだろうか、バフされた等の情報は聞いてはいないが・・・。
 待機所の中ではそれぞれ仲のいい者同士が初動どこへいくか、敵の戦車がどうこう、最近のWGは渋いだの環境が良くないだの世間話に興じている。
そんな中で彼女は一人寂しそうに佇んでいた。戦闘開始までまだ時間はある、同じ国であれば尊敬する人の妹でもある。話しかけてみようか。

「こんにちはChieftain/T95。一緒のチームね、頑張りましょう」
 彼女とは行く戦線が異なる、恐らくは逆側を抑えてもらう形になるだろう。気軽に声をかけたつもりだったが、向こうは話しかけられるとは思いもしなかったのかビクッと砲身を動かし挨拶に答えた。
「え?・・・こっこんにちはconqurer姉さま、すみません、話しかけられると思っていなくてびっくりしてしまいました。私では姉さまの逆側を守るのに力不足でしょうけれど一生懸命やらせていただきます!」
 そんなに驚かせてしまっただろうか、もしかして私の話しかけ方が怖かった?そんなことはないと思うのだけれども・・・
 ふと周りと彼女の状況を照らし合わせてやっと合点がいった。Chieftain/T95は車体はHT、砲等はMTのアンバランスな戦車だから、足が遅ければ主砲も弱く装甲が厚いわけでもない。だから戦える場所が限定されすぎていて戦線仲間がいないんだ。
 仲がいいのは同じ戦線の仲間同士、どこ行くか話したり、戦術について話が弾む。それがグループを形成しコミュニケーションを作り出す。だとすると彼女は話す相手がいなく自然と孤立してしまうのだろう。
 こんな環境が毎回続いていけばガレージから出たくなくなる。私がカーナボンだった頃同じマッチングだったセンチュリオンmk1も今思い返すとそうだった。こういう場面で気の利いた言葉をかければいいのだが。
「任せて頂戴。丘上は私の領域、稜線があって自走砲がいないのならば敵無しよ。イギリス重戦車の名前をそちらの戦線まで響かせてあげる。」
「私は攻勢には参加できませんから・・・conqueror姉さんのこと信じて待っています。」
 気軽に励ましてあげるつもりが、逆に落ち込ませてしまったように思える。
 そういえば彼女の名前はChieftain/T95、もしかしたらチーフテン義姉さまになる方法を知っているかもしれない。それを尋ねることは約束を破るわけでもないし話を変えるのに丁度いい。
「こんなことあまり親しいわけでもないあなたにいきなり聞くのは失礼にあたるのかもしれないけど・・・私は将来、チーフテン義姉さまになりたいの。でも義姉さまは中々教えてくれないし、Sconq姉さんも隠してくる。勿論通常ツリーにはいない。妹のあなたは何か知っていて?なんでもいいから情報がほしいわ」
「・・・姉さんはまだ話していないのね。それなら姉さんが整備所に行くのを見てみるといいわ。」
「整備所?そこになり方のヒントがあるの?」
「ヒントというより核心に近いでしょうけれど・・・」
 相変わらずChieftain/T95は俯きがちに答える。
 話しているうちに開始30秒のカウントダウンが鳴り響いた。戦闘が始まる。
「ありがとう。みんな隠すんだもの、気になってしょうがないわ。これで尻尾を掴めるかもしれない。」
「いえ、感謝されることなのかはわからないです。ただ」
「ただ?」
「全てを知った後でも、今まで通り私達と接してくださいますか?」
「え、ええ・・・もちろん。約束するわ。祖国に誓ってね。」
 俯くのを止め私に真っ直ぐに向けられた視界は、今度は不安に満ちていた。
 彼女のセリフはどこか罠気味で、今一彼女が伝えたいことの本質を把握することが出来なかった私の猜疑心を生み出していた。
「あなたが何を心配しているか分からないけれど、私があなたたち姉妹を、同じ国の憧れのHTとその妹を、嫌いになるわけないでしょう?さぁ戦闘が始まるわ」
「約束ですからね!conqurer姉さまのこと信じてますからね!」
「心配性ね。丘上の戦況もあなたとの約束もどちらも守ってあげるわ。ではリザルトで会いましょう」

「整備所になにがあるって言うのよ・・・」
 言われたとおりチーフテン義姉さまの後をカニ目を開きスポットしていた。
 イギリス戦車らしく、イギリスの整備所へと入っていく姿を確認したのが10分前の出来事。
 紅茶を飲みながらのんびりと出てくるのを待っていた。
「秘密兵器でも積んでいるのかしら。まさかね」
脳内ではあの車体や主砲、砲塔性能のパラメータを維持するために様々な改良がなされているんだろうななどと妄想をしていた。
しばらく待っているとチーフテン義姉さまが整備所から出てきた。
「メンテナンスは終わったようね。この後はガレージに帰って集団戦に備えるのかしら」
そんな私の予測とは裏腹に彼女はそのまま隣のアメリカの整備所へと入っていった。
アメリカ?何の用があるのかしら。ここからじゃ中の様子が見えないわ。直接ばれないように行くしかないようね。」
 早足でconqurerは動き出した。

「うあー今日も疲れたわオイル良いのでお願い。それと車体旋回の速度が今一、なんとかならない?え?乗り手側の問題でクラッチの名手がないせい?」
 いつも通りイギリス整備所では砲塔を、アメリカ整備所では車体をメンテナンスを行っている。
 今日は一際疲れた。優等マークを取るのにここのところは嵌ってしまっているのでいろいろな所にガタが着てあちこち悲鳴を上げている。
 戦って何か目標を定め没頭していると、conqurerになんて伝えればいいかそのことを考えなくてすむ。ただ逃げているだけなんだけれども、こうして強制的に休む時間ができてしまうとどうしても考えざるをえない。
「はぁ」
 と大きなため息をついしがちである。どうすれば優しく伝えられるのだろうか。そんなものはないと907は言っていた。だからって私もそれに倣う必要はない、が良い案は浮かんでこない。どうしたものだろうか。
 そう休むべき時間でナイーブになってしまうのも精神上よろしくないなと考えているときであった。
 唐突に第六感が反応し頭上に電球が浮かんだ。
「・・・誰かに見られている。」
 しかし今はメンテナンス中、体を動かすことはできない。だがこのままでは私がイギリス戦車がアメリカの整備所で整備されている、つまりハーフであることが誰かにばれてしまう。
 じたばたしてもしょうがない動けないことには変わりない。終わった後、犯人を探す。
 私がハーフでアメリカの整備所を使用するのを知っているのは妹とSconqとFV215bと907だけのはず。整備所を使う妹が様子を見に来ただけならいいのだが・・・。

 メンテナンスが終わり、整備所から出た。周りに誰もいない。もやもやしたものを心に残しつつ取り合えずガレージへ戻ろうとしていたらconqurerと鉢合わせた。
「お疲れ様ですチーフテン義姉さま。よかったらこれからティーブレイクはいかがですか?良い茶葉が入ったんですの。」
 やけに機嫌がいい、もうSconへの経験地がたまったのだろうか。確かに今日は少し疲れた。紅茶を飲んで一息落ち着きたい。
「ええ喜んで。イギリスガレージの近くにあるテラスで良いかしら」
「はい。一緒に参りましょう。」
「あら貴方も一緒にきたら誰が紅茶を入れるんですの?」
「実はもう一人既に呼んでいるんですの。彼女が用意してくれてますわ。誰かは着くまでの秘密です」
 声は喜んでいるものの、表情は明るくはない。この茶会、嫌な予感がする。例えるなら、完璧なハルダウンを決めていたと思っていたらジャガイモド田舎国家の百駆のHEATに正面から抜かれるような、そんな。

 席には私の正面にconqurerが座った。もう一人の参加者とはいったい誰なのだろうか。いつになく不安だ。
「紅茶が来るまでにまずは私はチーフテン義姉さまに謝らねばならないことがあります。お気づきかもしれませんが、先ほどアメリカ整備所を覗いていたのは私です」
「そう・・・あの視線はあなただったのね。よく気づいたわね、私が他の国の整備所に行っていることなんて。」
「教えてくれたのは・・・チーフテン義姉さまの妹さんでした。そして今回のもう一人の参加者です。」
 そう予想外なメンバーからの誘導だったんだなと放心し呆然を脳内を空白にしていく。いつのまにか、Chieftain/T95が紅茶セットを持って来ていた。
 そのまま気まずい空間の中で紅茶を配り終わったChieftain/T95が間に座った。
「あなたが教えたのね。」
「ええ、姉さんがいつまでたっても言い出せないだろうなと思って」
 そうか・・・何もかもばれてしまったか。
 conqurerは軽蔑するだろうか。糾弾するだろうか。悔しくて泣いてしまうだろうか。それとも、私になる方法を教えてあげるだなんて果たせない約束をした私を許さないだろうか。
「私は、チーフテン義姉さまには何をしてもなれないのね。」
「・・・えぇそうなの。ごめんなさい、私貴方に嘘をついてしまったわ」
 これから私は彼女に対して誠実に贖罪をしていかなければならない。
「貴方は車体はアメリカ製で砲塔はイギリス製、主砲も単発440と私たちの規格が異なる。私たちSconツリーには存在しないイレギュラーな存在。ここまで間違いないでしょうか」
「ええ何も」
 冷たく対応したいわけじゃない。けれど果たせない約束をして騙した私が何を行っても言い訳にしかならない。それは誠実とは言い難い。
「そして、チーフテン義姉さまが生まれると、チーフテンの妹さんと弱点部分を交換し、強さをえて現在の性能を手に入れることができる。のもですか?」
「間違いありません」
Chieftain/T95が病弱な彼女からは想像できないハッキリとした断定をもって答える。
「・・・そっか。私じゃ義姉さんには絶対になれないんですね」
 泣いているのか車体が心なしか震えているように見える。あんなに大きい車体が今では一回り小さく見える。
「私のことは軽蔑してもらって構わないわ。半身を妹から奪い、アメリカ製で、プライドも血筋も無ければ嘘つきの最低だと。」
「そんなことは気にしてないわ。泣いているのは、私じゃ今のイギリスの強さを誇示することに貢献できないと分かってしてしまったから。Sconじゃ戦場でも集団戦でも二番手、こんな惨めな気持ちはじめてだわ。・・・これから何を目標に戦えばいいのよ」
 やはりこうなってしまった。907の言った通りもっと早く正直に伝えるべきだったのだろうか。現実を突きつけ尚且つ彼女の気持ちを優しく鎮める、両方が幸せになる選択肢は、本来求めてはならぬ不俱戴天の敵同士で、傲慢がすぎた。
 美辞麗句をどれほど並べようとも、私は噓つきだからどう見繕ったって癒してあげることはできない。
「やりようはあるわよ。必ずあるわ。必ず・・・」
 まるで自分に言い聞かせる様に呟く。とっくに意味を失った言葉があきらめの悪い亡霊のように空を揺らす。

「conqurer姉さん、忍耐力はありますか?」
 今まで静かに紅茶を飲んでいた妹が意外な言葉を紡いだ。
「本当に現実となるかは分かりません。確立で言ってしまえばかなり低くいつ実装されるかも分かりません。でももしかしたら・・・」
「Chieftain/T95、何でも構わないわ。少しでも可能性があるのなら私はそれに対し全力で挑む。その私は覚悟がある。教えて頂戴」
 憶測だけでは、また失意の中に沈めてしまう。一体何を言おうとしているのだろうか。conqurerだけでなく私もすがろうと。
「もしかしたら、もしかしたらですけれど、WGがScon姉さまの他にChieftain Mk.6を実装する可能性があるかもしれないって噂を聞いたことがあります。これが通常ツリーから派生するならconqurer姉さまだってイギリスのいえ戦場の主力になることができる。だけれども、そのためには来るか分からない戦車のために今のままConqurerで留まっておく必要があります。」
 Conqurerは、その希望が何を意味しているのか分からないようで、困惑しているがその表情は喜びの波長を発しているのがこちらにも伝わってくる。
 重い、まるで水中かのような雰囲気だった茶会はいつの間にか、いつ来るのかどのような性能になるのかの妄想で溢れていた。
「私、Conqurer姉さんに姉さんについて聞かれたときから色々調べていたの。可能性は5%あるかすら分からない。でも賭けるならこれしかない」
「いくらでも耐えて見せるわ。私はマリノフカの自走砲三枚にだって幾度も耐えてきた。味方が芋ってたり数が圧倒的に負けて詰んでいるわけじゃない。僅かな可能性でも生きる希望が得られた、そうすれば私はまだまだ戦える。いつの日かくるChieftain Mk.6を信じて、それにのってチーフテン姉さまと一緒に戦える光景を夢見て生きていけるわ。」
 なんだ、私の妹は私よりずっと後輩思いだったんだ。妹は戦う能力は低くても、誰かのことを考え僅かな確率でも前に進もうとする意志で私は完敗だ。私は現状においてどう正しくあるべきかを考えていたが、それは自身が納得できる理由しか見ていなく、彼女の気持ちは思っているようで無視していた。もしかしたら、車体を交換したときに私は強さを得たけれど、同時に他人の立場に立って考えることを妹に渡してしまっていたのかもしれない。
 やっぱり私たちは姉妹だけどまったくの別車だったんだね。戦闘やプライドよりも欠けてはならない唯一のモノを失ってしまっていた。一方で彼女は思いやりや他者への配慮を。

「ありがとう。チーフテン義姉さまからは強さと憧れを、義妹さんからは希望と夢をいただけました。これ以上の幸せはありません。」
 4月も終わりに近づき、若々しい晴れた青空を背に翠緑の葉がさざめいている。その下では弾けるような笑顔で未来への期待に3人が花を咲かせる。

 T95/FV4201 ChieftainとChieftain Mk.6が一緒に肩を並べ、快速重戦車の上を行くMBTのカテゴリーで戦場を支配する、遠い未来の話に。

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総務さん(@So_Mu3)に描いていただきました!ありがとうございます。



愛しい敵車の殺めかた


はじめに

 略称"いとてき"、電〇文庫から好評発売中です。よろしくお願いします。

 wotのギアさん主催によるアドベントカレンダー23日目の記事になりますが、アドバイスのような内容にはなっておりません。そういうのは他の方が上手くまとめてくれていると思うのでそちらをご覧ください。

https://adventar.org/calendars/4725

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 今回のテーマは、プレイヤーである私(Kapelana)にPVPにおける心情について再度問いかける禅問答になります。これを読んでくださる人の何人が共有していただけるか分かりませんが最後まで読んでいただければ幸いです。

愛しい敵車

 ある日のE-50に乗ってランダムで稼ぎ試合終盤に差し掛かったあたり、残っている敵はスーパーパーシング(以下スパパ)だった。締りのない空虚な思考によるプレイでとりあえずとダメージをとることしか考えていない私は、いつものようにマウスを滑らしスパパのキューポラをエイムする。するとその視線に気づいたのか、彼は主砲を上に向けふりふりし始めた。なんとかわいらしい光景だろうか。APCRにその手法は意味無いのに、必死に一発でも多く弾こうと頑張っている。

 キューポラはめんどうだから今度は砲塔脇のほっぺにエイムを置くかと考えていたが、フリフリするせいで左右に動いているそれは当たり所が悪ければ弾かれる可能性が出てくる。そう思ったら自然と狙いは車体下部へと移っていた。そう、何もキューポラや砲塔をわざわざ狙わなくとも最初から車体下部は抜ける。ここは平地だから角度がきついわけでもない。つまるところ彼は私のE-50と出会った瞬間から抜かれるのは確定していた。

 下部にエイムを合わせても砲塔と主砲の動きは変わらない。相変わらず必死にキューポラを守っていて主砲真下の弱点を晒しぬかれる場所を増やしている。どうやら狙いを変更したことに気づいていないようだった。

 これから俺が貫通させて撃破するのは、スパパであり、ふりふりしてキューポラを守ろうとしている一生懸命な初心者の意思そのものでもある。ゲームをプレイする行為では上級者から初心者まで何かを目指して意思を持ち行動している、その愛しい敵車のプレイヤーの意思を俺が今から殺すのだ。

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 だがはたして俺は彼ほど懸命に真剣に意思を持ってプレイをしているのだろうか。自分に覚悟があるならいい、勝ちたい撃破したいより高いダメージを出したいと目標があるのなら餌食としてしまうのは上達するルールの上なので正当化される。しかし、真摯な彼の命と意思を、何も考えていない俺が奪う行為は果たして許されることなのであろうか。こんなにも愛しいスパパを、彼だってもっと弾いて撃ちたかったろうに。俺の堕落したAPCRなんかより・・・一瞬、クリックするのを躊躇った。

独白

 私はPVP歴としてガンダム動物園やボーダーブレイク(以下BB)、World of Tanks等プレイしてきました。これらのゲームは当然ではありますが敵を倒すことが勝利目標になり、そのためにより強い武器や機体から戦車、マップ戦術や連携を研磨します。

 「ゲームをプレイする」といっても意味は多岐に渡り、勝利するのが、敵を倒すのが、オンラインで顔の見えない相手と文字(声)だけでコミュニケーションをとれ連携したりコミュニティを形成するのが、機体や戦車が動いているのが、楽しいなどがあります。

 勿論一つだけの目的のために最初からプレイする人は少数派であり、というのもどれも幾許かの期間をプレイした後にやっと理解する、気づくのができる感情です。私の周りにはたびたび最初からそのゲームで勝利することのみを考える人がいたのは確かですが・・・

 私は最初は機体や戦車が動いているだけで楽しいと思う派、つまりキャラゲー派でしたので勝ち負けなどどうでもよく、戦車が動く!キャタピラが回って主砲が撃てる!おまけに敵が中に人がいて撃ち合いの競争もさせてくれるのか?なんていいゲームなんだ!がWotとの出会った時の心境でした。

 段々試合数を重ねる内にそのゲームで上手くなりたい(この時は沢山勝ちたい)と思うようになります。その過程で上手い人とコミュニケーションを取ってもらったり教えてもらう中でコミュニティを形成し、試合の中での連携を通して楽しいや嬉しい悲しいなどの感情を共有する。オンラインゲームという名の底のない沼の中で貴重な人生の時間を溶かすのは、ある意味で共犯者的だなと今更ながら思う。ストックホルム症候群っぽい。

 戦車を初めて1年半あたりで敵を撃破するのが堪らなく楽しくなってきた。連携して敵を突破し「勝利」するのが楽しかったのが、連携し「敵を撃つ」のが楽しく気持ちが良いんだと気づいた。確かにガンダムでもBBでも撃破するのが結果として勝利といったひとつの結果で現れるだけで、最初から私は敵を撃つのが気持ちよいと感じるプレイヤーだったのだ。

 自身の方向性を理解できたならフォーカスを当てる。やりたい事とやるべき事が重なったならばそれを実行するだけ。

 雑魚を延々と刈り取るために戦場で最大効率を求めるのも中々楽しかったのだが特に新しい発見は無く、敵を撃破するのよりマップや編成ごとにルーティンを研ぎ澄ますのが主な作業であった。そう、快感が作業にまで墜ちてきていた。最早現状ではここまで研磨された自信を打ち砕くような衝撃に出会うことはここではないと考えた結果、WGL(以下トーナメント)に繋がる。

 とりあえずWN8を高めWGLチームを立て参加し優等をとり上手いプレイヤーになる最低条件を満たしていく為に必要とされる行為は、私が考えるに敵を倒し続けるといった行動から生まれた幾つもの結果でしかなかった。

反芻

 自己研磨において満足するレベルや目標に達したとき、リアルや趣味、人間関係や他の事にも当てはまるが、今まで丁寧に丁寧に積み上げてきた積み木をぶち壊す破滅願望を実行する、これほどにまで痛快な事はない。ただしリアルにおいては自我に対し抑圧が働くので妄想レベルに留まる。

 これはオンラインゲームではどのように作用するのか。例えば、私が何かの三優等チャレンジ、いやダメージのスコアアタックの方が適切だろうか、をしている時、自走砲ゼッコロケツブロなどによってショボ沈してしまうとする。この瞬間目標を3000dmgとしていたとき0ダメで死んだなら取り返すのには3000以上の試合を数回または6000を取らなければ巻き返すことは出来ない。

 やってしまったと思う一方で開放されたと思う自分もいるのは確かだ。今までマップと編成と味方の動きをにらめっこして大事に育ててきた目標と自身の意思を打ち砕く。スコアを出してツイッターで自慢して自己満足に浸るのも、積み上げてきた意思を砕くのもどちらも同じくらい気持ちのよいのだと、その時知る。

 この気持ちを坂口安吾著『堕落論』では次のように表現している。

 

 昔、四十七士の助命 を排して処刑を断行した理由の一つは、彼等が生きながらえて生き恥をさらし折角の名を汚す者が現れてはいけないという老婆心であったそうな。現代の法律にこんな人情は存在しない。けれども人の心情には多分にこの傾向が残っており、美しいものを美しいままで終らせたいということは一般的な心情の一つのようだ。十数年前だかに童貞処女のまま愛の一生を終らせようと大磯のどこかで心中した学生と娘があったが世人の同情は大きかったし、私自身も、数年前に私と極めて親しかった姪の一人が二十一の年に自殺したとき、美しいうちに死んでくれて良かったような気がした。一見清楚な娘であったが、壊れそうな危なさがあり真逆様に地獄へ 堕ちる不安を感じさせるところがあって、その一生を正視するに堪えないような気がしていたからであった。

坂口 安吾. 堕落論・日本文化私観 他22篇 (岩波文庫) (Kindle の位置No.3546-3559). . Kindle 版.

 

 私は血を見ることが非常に嫌いで、いつか私の眼前で自動車が衝突したとき、私はクルリと振向いて逃げだしていた。けれども私は偉大な破壊が好きであった。私は爆弾や焼夷弾に戦きながら、狂暴な破壊に劇しく亢奮していたが、それにも拘らず、このときほど人間を愛しなつかしんでいた時はないような思いがする。

坂口 安吾. 堕落論・日本文化私観 他22篇 (岩波文庫) (Kindle の位置No.3662-3668). . Kindle 版.

  引用元によればこの自滅願望のようなものは一般的な心情であり、難しい目標は一種の綱渡り的な性質を持っているのが理解できる。渡り終えたとしても途中で落ちてもどちらもよく、有終の美と緩慢な死どちらがどちらなのか誤謬させられてしまう。正直これについての判別はランダム戦において考えていても分別が付かないので一旦環境を変える事にする。

 有終の美と緩慢な死、どちらが正解かはライフスタイルにおいて存在していないあるいはしている。そう想ったのはWGL(APACリーグや個別大会等)に参加して暫く経ってからだった。今更ながら人の昔話ほど退屈なものはないのだが、私が所属していたBGにおいてそれを感じ実際に目にすることが多かった。

 初期の段階においては敵チームを倒し勝利するのが一番であり嬉しく、そこには淀みの無いメンバーの意思統一が存在し昵懇な間柄の、ましてや不純物的意図が入る隙間などは無かった。私はそれこそが求めていた物でここでそれを感じることこそが居場所と信じ当時は疑いもしなかったが、人間だからこそ堕ちるのであり、生きているだけで堕ちる者でもある。そう、半年あたりから快楽が堕落を始める。

 初期の崇高なる設計をメンバーの入れ替えで大きく外れ始めると(今想えば抜けた彼らはそれをより早く察していたのかもしれない)人間関係にひびが入る。ひびと言っても何も喧嘩や険悪な雰囲気になったりお互いを避けたりするといった決裂ではなく、なんとなく一緒に目標に向かう気持ちの方向性がずれていたり阿吽の呼吸が出来ず連携に間違いが発生したり、究極的には日常的な会話が致命的に合わなかったりする、居心地が悪くなる。しかし、WGLはサラリー制度が発足し割のいいアルバイト程度の収入が発生して尚且つ大会の賞金もあるので抜けるかどうかをそもそも天秤に掛けること自体ありえない。

 ここで発生するのが終わり方の選択である。有終の美と緩慢な死、皆が望むのは前者のような大会で優勝や、または難しい戦車で自分の定めた目標を達成したりCWEで満足いく結果を出しそれを機にスパッとやめる。

 が、これを実行できる人間は極少数であり、大半の人間は有終の美を求めながら緩慢な死を迎えてしまう。そこにあるのは肥大化したプライドか。

 ゆえに私はBGの最後、名前を変えて最底辺で構わないから賞金(といっても新入社員の一か月分の手取りほど)を取りにいかないかと誘われた時、哀惜と憐憫の念を覚えながら辞退した。尊大な自尊心が私にはまだ残っていた、あるいは臆病な羞恥心か。何よりも一度は確かにあったチームの志がここまで墜ちて、加えて死を認めるのではなく名前を変えてごまかそうとする、神聖でないものを自分たちの中では神聖たらしめようとした行為を許すことができなかった。

清貧でかまわない 笑われても仕方ないが金のためだけなら俺は戦わない

誇り高きカス野郎 社会のためになりたい やるしかない 迷うならやめちまいな

27才のリアル / 輪入道

  こうして(なんやかんやありトナメはWGにより爆破された)野武士へと帰ってきた訳であるが、ランダム戦は相変わらずで、やはり少数戦が刺激的だと感じる心を忘れ去ずにいた。

コミュニティ

 少数戦やCWの楽しさの正体とは一体何なのであろうか。それは今までランダム戦で培ったポジションや動きの根本的常識であるテンプレートを覆す、そこにコミュニケーションを加えて起こる、何万戦としてきたであろう自身の破壊にある。破壊と言っても破滅的意味ではなく知識を生かしたゲームシステムの昇華であり、言わばWoTアップデートである。

 ここからは各々の感性によるが、CW(15vs15)と少数戦(7vs7)では好き嫌いが大きく分かれる。前者は良くも悪くも一人あたりに求められるスキルが少ない、一方で後者においてはプレイヤースキルは勿論だが一発が勝敗を左右し試合開始から何秒でリポジションするかなど繊細さが勝負を分ける。

 少人戦は自分のクリックで勝敗が変化すると考えたら堪らなく興奮する。相手も自身と同じ、ランダム戦の奴らとは異なった、勝つといった覚悟を持った人間だ。その高尚なる意思を殺すのもチームメンバーの意思を生かすのも私の指に託されている。これ程、正正堂堂が合う瞬間を私は他に知らない。

 CWでは15vs15で残念ながらこの感情が薄れてしまう。それを行えるのは、タクティクス同士の戦いをする指揮官だけで、兵士はやる気があるのからないのまで玉石混交な環境になる。これに関してはほぼ毎回と言って間違いない。仮に2人のプレイヤースキルが拮抗していると仮定して、キレるのを正当化する訳ではないがそれほどまでに熱く真剣に取り組んでいる男と、それを避けたり馬鹿にしたりする男、明確にCWに対する熱量に差異がある。これらが同居してしまう事ほど不幸なことはない。ゆえに私はあまり好きではないのだが今現在はこれしかない。なので自身の熱量を調節し口と思考を慎み、我慢する。楽しいのだろうか。不幸になるのは私だけなので社会性を持ちコミュニティルールに則るのは正解であるが、内なる意思の堕落はとどまるところを知らない。

敵って誰だよ

 自己紹介は十分書いたので敵について分類していく。

この辺の敵

  1. 敵プレイヤー
  2. マップとオブジェクト
  3. 茂み
  4. ケツブロ
  5. 自走砲
  6. わけわからんLT

1.敵プレイヤー

 敵プレイヤーは主語が大きすぎるので厄介なのだけピックアップしていくと、まず挙がるのは上手い奴ら(wn8 2500~等)の中戦車と快速HTである。彼らを放置しておくと味方の黄色以下がしゃぶられ戦線が崩壊しダメージを稼ぐゲームメイクをすることができない。

対抗策として

A.彼らが溶かすのと同じかより速く敵の弱いプレイヤーを溶かす

B.彼らと対峙する

の二択がある。自走砲がいなければAをとる価値はあるが、もし2枚以上いるならば即座に飛んでくるのでアクティブに動けず困る展開が多い(ex.マリノフカ北)

 Bに関しては非常にリスクが高いが、もし同じtierで彼らを倒せたなら残りをしゃぶり放題のボーナスタイムが発生する場合が多い。私の周りの大体のプレイヤーはソロの場合でAを、プラトーンならBを選択する。のが3,4年前のセオリーだった。

 現在はプレイヤーが勝率よりもダメージと優等を重視する傾向にあり、Aをプラトーンで選択した場合における結果としての勝利が多く見られる。アノニマイザーも実装された以上こちらの方が適応しているように思える。私はソロ専なのでプラトーンの動きは詳しくありませんが・・・

 

ex.想像通りの試合とはちゃめちゃな試合

 試合の中で対峙する相手と最近のランダム戦における戦闘リズム

  • 序盤は存在するならばトコトコ族を撃ち通行料を得たりHTがポジションに着く前にすでにエイムを置いておき一発いれる
  • 中盤にはある程度腕のあるプレイヤー(程々に削れている)との対峙
  • 終盤に残っているのは死にぞこなった黄色以下のプレイヤー

 これが想定通りの試合の流れであり、この状況で稼いだスコアは予想される範囲の嬉しさと満足さが得られる。サプライズは特にない。ルーチンワーク的には面白いが対人的には面白さを失ってしまっている。AIと戦っているみたい。

 はちゃめちゃな戦闘こそ対人ゲームにおける醍醐味であると考えられる。(省略)

 

2.マップとオブジェクト

 まともに撃ち合いをさせてもらえなかったりする苦手マップはBANマップとして対策をするのが今でこそ可能となったが、それでも嫌なマップは数多く存在する。例えば湖の村だったりストジャンキもやだしマリノフカの北や崖の北も苦手でミンスクはもちろん漁師の港も敵だ。それに加えて微妙にオブジェクト判定がバグっている岩や地面、滑る岩、謎の柵(ex.ムロヴァンカ中央、崖飛行場の遺跡や飛行機)、などがあり楽しさやモチベーションを削ってくる天敵である。

 マップの飽きもモチベーションの敵で最早要望になってしまうが、HDマップは存在してもいいのだれけどもそれ以前のマップも残し共存の道を取ってほしい。というのも例えば旧エーレンと現エーレンどちらも存在したり、コマリンや湿地もそのまま残したり、聖なる谷も修正前と後で2パターンあれば糞マップ共ではあるが、動きや配置のテンプレート化がされにくくなり飽きるのに今以上に時間がかかる。WGには何も期待していませんが・・・

3.茂み

 これは自身の知識との戦いである。二重か、どこまでばれないか、このタイミングならいつも使えない茂みが有効になるのではないか、隠蔽率的に200mまでなら15mルールを使えば視界460ぐらいの奴にはばれないかなど状況判断力と思考の回転率との戦い。私自身もまだまだなので多くを語ることはできないが詳細な事前知識を要求される。

4.ケツブロ

 アムロカミーユに「後ろにも目をつけるんだ」とアドバイスするセリフがある。劇中においては正面の敵と戦いながら戦況全体を見渡し見えていない後ろの状況を予測し把握することで、一歩先の行動をとるのを意味している。

 wotにおいては稜線内側などで稼ぎすぎると俺も俺もとずいずい味方が来る際にこの言葉を思い出す。後ろから感じるのだ、ケツブロの視線を。脳内でニュータイプの例の音が響く。はっと後ろを見ると味方のVK100pが真っ直ぐケツに向かってくる、あいつは間違いなくケツブロだと決め付け、稼ぐだけ稼いだらリポジションを私は考える。私のブログの読者の中にはこの感覚を知っている人も少なくは無いだろう。

 稼ぎすぎはよくないな、と思わなければならないこのゲームは一体なんなのだろうか。 味方が敵なのか、他人の分まで食べてしまおうとする強欲な自分がいけないのか。

 

5.自走砲

 最早言葉は不要か。

 功利主義者的思想であるが昔の仕様でも今仕様のでもいいからさっさと一枚制限にして欲しい。一枚なら時間管理ができるので撃たれてもなんとも思わないが、これが三枚になると誰がいつ撃ったのかもはや把握するのが不可能になる。(一部)自走砲ユーザーも一枚制限の方がいいと要望しているのに何を頑なにクレームの元を修正しないのか甚だ疑問。HTは正面の敵と側面の敵の射線を考えてクロスファイアポジションにならないよう動いているのに、そこに第三の射線を複数作るのは本当に勘弁して欲しい。

 お偉いさんにゲームをプレゼンして実際にプレイしてもらう場合にHTだとボコボコにされ何が面白いのか分からないので自走砲に乗せざるをえず、その時に一枚制限だとマッチ時間が長くて不満を持たれてしまったり、「重戦車や中戦車はすぐやられてしまうが、この自走砲って車種は一方的に撃てていいね!」のような評価をもらってしまい、が故に枚数制限も自走砲nerfも出来ずに現在の状況に至ったのではないかといった妄想をしている。(WG性善説

 もしくはWG自身は本当に自走砲の現枚数が正しいと思っている。(WG性悪説

6.わけわからんLT

 ガンレイ積んで後ろで芋ってる152mm積んだT49とシェリダン、お前らだよ。相手はEBRなんだが・・・(六感の音が鳴り響く)

撃つべき敵

   戦いと勇気は、隣人愛よりももっと多くの大きな事をなしとげた。あなたがたの同情ではなくて、あなたがたの勇敢さこそこれまで不幸な目にあった人たちを救った。
 「善い、とは何か?」とあなたがたはたずねる。勇敢であることが善いことである。小娘たちに言わせておくがいい、「善いこととは、優しい感動にみちたこと」と。
 人々はあなたがたを無情だと言う。しかしあなたがたの愛情こそほんものである。そしてわたしはあなたがたの愛情をあらわす際の羞恥感が好きだ。あなたがたはあなたがたの満ち潮を恥じ、他の人々はかれらの引き潮を恥じる。
 あなたがたは醜いだろうか? よし、わが兄弟たちよ!それなら醜い者のつけるべき外套、すなわち崇高さを身にまとうがいい!
 しかしあなたがたの魂が偉大になると、あなたがたの魂は傲りはじめる。あなたがたの崇高さのなかに、悪意が宿る。わたしはあなたがたをよく知っている。
 悪意という点で、傲り高ぶる者と弱者が仲良しになることがある。かれらはおたがいを誤解しているのだ。わたしはあなたがたをよく知っている。
 あなたがたは、憎むべき敵をのみ、持つべきである。軽蔑すべき敵を持ってはならない。あなたがたはあなたがたの敵を誇りとしなければならない。そのときはあなたがたの敵の成功が、あなたがたの成功ともなる。

ニーチェ; 氷上 英廣. ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫) (Kindle の位置No.1009-1023). . Kindle 版.

 『ツァラトゥストラはこう言った』"戦争と戦士"からの引用です。いい本なので一度是非読んでみてください。基本的にツァラトゥストラが説教する内容ですが、全方位について述べているので、読んで刺さる章がその時の自身の状況によって変化します。おすすめです。

 PVPにおける敵、ルール上の敵ではなく、打倒すべき対峙する敵または好敵手とは一体誰のことを指すのであろうか。wotであれば「味方すら敵なので15vs15ではなく1vs29である」と高らかに述べる人を度々目にする。しかし私はそうは想わない。最終的な敵とは結局のところ自分自身であり「1vs1」である。

 ランダム戦での目標(例えば自分が定めた要求ダメージ)に達すまでイモだろうが扇動だろうが使える手をすべて使ってどこまで非情になれるか。そこに味方の妨害が加わろうともそれすらも予測しカバーする想像力を持つ。

 ケツブロされて自走に撃たれてしょぼちんしてしまうなどで味方を恨んだところで仕方がない、仕返しにケツブロし返したところで失ったHPは戻ってこないし粘着される要因にもなる。黙って引くことが要求されている物に対し最も誠実な回答である。

 ここで憎むべき敵とは味方やライバルではなく、目標を定めた自分自身なのだ。他のプレイヤーはこちらの意図なぞ知る由もなく目標も違えば考えている内容の根本(戦車が動けばいい、無課金でストックから開発するなど)が異なるので、間違っても味方のせいにしてはいけないし、敵のゼッコロに文句を言うべきではない。軽蔑すべき憎むべき敵を外に作ってはならない。恐れるべき敵は定めた目標に対する驕った自身の意思である。

  最初に述べたスパパを撃つときに生まれた迷いは、私の驕りを示している。そのおかげで、愛しい敵を捕らえることができた。ではいかにして殺そうか。

殺めかた

 tier10の5Aに乗り357or447を引いたとき、まずはどのように、どこでなら、格下と撃ち合えるかを考える。撃ちたいのはIS-3、3発正面から抜いて上振れば撃破できる。だが、そこに同格が来ては興ざめなので最前線を選ばなければならない。初手は前線の一歩後ろの茂みで様子を見るか、そもそも同格の戦車が弱いなら全員倒すの心意気でいくのもあり。

 それの意思を殺すやり方は複数あり、近距離で車体を乗り上げ最大俯角で行うハルダウンによる射撃、中距離の有利な地点から相手の多少硬い部分を抜く射撃、そして遠距離からのクロス。自走砲とポジションの関係から推測する。

 ステップ北で自走砲がいないなら最前線でもいいし後ろの二連木でもいい。ルイン南ならG1で有利ポジションでハルダウンや街のEF2まで張り付いてもいいし、EF9も熱い。

ルイン南

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 ルイン南(357)を例にするならば優等かダメ―ジか勝率かで行く場所が異なるのがわかるだろうか。ダメージならG1一択だし、優等なら真ん中を観測しクロス組めながら撃ち合えるEF2、勝率だけを求め味方を信じるならEF9もなしではない。

 目標を定める。今回やりたいことはIS-3を撃つなので街中に行きたい。なぜならば俺が奴を殺すから、他の誰にも取られたくはない。最終的な統計スコアが安定するのは間違いなくG1であるが味方を信じるといった博打要素を自分から孕んでまで、IS-3を殺したい。塗装も無く主砲は初期砲の彼を誰にとらせてなるものか。

 試合が始まったが街中の味方がなんだか心もとない。仕方がない、今回はG1で甘んじるか。この瞬間、私の意思が捻じ曲がる。G1平原どちらでもいいが後手に回り結果的に5000ダメージを稼いでも心地よい気分にはならないだろう。

 目標から逸脱し始めている、がショボチンは受け入れられない。脳内の予測と殺意がせめぎ合う。試合の終盤に確かにGHJKラインを行き来して稼ぎIS-3を殺したが、嫌な予感通りベコベコに減った彼を最後に倒しただけで当初思い描いていた正面から3発ではなかった。

 試合を終えリザルトを開いてみれば、後手後手で爽快ではなかったがダメージは5000に達し平均ダメと優等が上がる結果となり満足はした。しかしどうだろうか、この5000は辛いポジション(G1K2)にて堪え難きを耐えたもので、マップアドバンテージも無ければ、相手の布陣を受け流し塹壕の中で嵐が過ぎるのを待っていたような辛さがある。求めていた彼の意思を手にかけることができなかった消化不良の喪失感が心に沈む。

 端的に言えば、結果を目標にするのか、試合内容を目標にするのか、不倶戴天の敵同士両者を求めてしまった故に選分けられなかった事実へのもやもやが心を占める。

 未だにこれらについて私自身どうすれば答えが出るのか分からない。今はただ、どんな敵に対しても煽りなどではなく、嬉しいといった感情を持って敵を撃ち続けている。

おわりに

技術のみを追求すればセンスの壁に阻まれる。センスを追求して感覚を磨けば、やがて時間の積み重ねという厚みに潰される。

月に寄りそう乙女の作法2

 この一文はプレイする前に常に私の心の中で反復され続けられている。ランダム戦でいくら稼ごうが磨こうが少数集団戦における敗北時の満足感やロシアンスパユニ(環境が違うのは重々承知だが)との差に、一方で集団戦に籠ってしまえばランダム戦(プラトーン、戦績、勝率、ダメージ優等etc)が疎かになりwotの本質と乖離していく。両立することが可能ならばいいのだが二足の草鞋は履けない。

 終着点として、強い意思のぶつかり合いである集団戦に長く居すぎたせいか敵の心情を読み取る余裕がランダム戦では生まれてしまった、などと偉そうな態度へ堕ちてゆく驕った思考。対峙した初心者の初々しい意思を殺す、それらから発生する対人ゲームを楽しいと思える感受性の堕落を恐れているだけの唯の臆病な人間でしかない。

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 そう際限なく気分を沈めながら、スーパーパーシングの下部へ向け、優柔不断な人差し指に添えられた左クリックを深く押し込んだ。

 

 

  

P.S.

冷戦時代の兵器(61式からM1A2エイブラムスなど)をつかって遊べるRTS Wargame: Red Dragonが今ならSTEAMで80%オフ、596円!夕飯一食我慢しろ!

https://store.steampowered.com/app/251060/Wargame_Red_Dragon/?l=japanese

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17(DLC除く)の国家から1450以上のユニットが登場!この中から自分でデッキをくみ上げるシステムで奥が深くオススメです。

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発売から数年経っていますが人はANZ鯖くらいいます(多分)。SteelDivision2は嫌いダメえうげん君は今すぐwargameの新作開発に着手しろ。

1vs1,2vs2,3vs3,4vs4,10vs10まで1試合あたり20~40分と軽くプレイ出来るのでこの機会に友達と一緒に買ってやってみてください。ATLUS民または知り合いには投げつけていますが他にもやりたくなってみた人がいたら連絡ください。僕はいつまでも待っています。

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護送されるLVPT君

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かっこいいスホーイ

起承転結なし、生の感情、昔話、雑然とした文章で一万字を越えてしまい反省しております。ここまで読んでくださりありがとうございます。