雨の日に(1)
部屋の中でじっと外の音を聞いている。
雨の日は好きだった。何もせずにじっとただひたすらじっと雨音を聞いていたかった。
今。聞いている。じっと聞いている。
どうせ終わってしまうなら。
このまま世界が終わればいいのに。
瑞樹(2)
河川敷を歩いている。いつもは自転車の方が多いけど、今日は何となく歩いている。
朝から雨がちだったから気温もそんなに高くない。ただ、随分と草の匂いがする。
宣告の前から、時々こんな風に、仕事帰りとか休みの日に散歩をしていた。
運動というのもあったけど、本当はやることがなかっただけ。
前と違うのは、ランニングする人にあまり会わなくなったことくらい。
さすがにもう頑張って健康を維持しても仕方ないからなぁ。。
ああでも日課だったら「代理人」が代わりに走るのかな。だとすると気のせいかな。
雲間に夕焼けが見える。この時間はいつも何か寂しい。
世界の終りが近づいているということが、余計そんな風に感じさせる。
少し、焦燥感。
でも、それ以上に、ただただ寂しい。
瑞樹(1)
世界の終りが告げられてから今日で半年。
いつも通りといえばいつも通りの夏。
僕は今日も家でぼーっと考え事をしていた。ニュースを見ながら。
宣告後になってはじめてテレビを買ったやつなんて僕だけかもしれない。
政府が終末法の骨子をまとめ、来週にも具体案に着手するそうだ。
お盆前だというのに頑張ってるなぁ。。
いつもは政治になんて全然興味がないから、
この時期オエライサンが仕事をしているのが普通なのかどうか、わからなかった。
海の向こうでは、大統領はバカンスに出かけている。
もっともこちらは「代理人」なので、本物が今どこで何をしているかは誰も知らない。
「代理人」的にはバカンスもいつものパターンなのだというのはちょっと笑ったけど。
さすがにウチの政府は本人様だよなぁ。。随分やる気があるみたいだし。
空港はいつも以上に混んでいる。まあ当然といえば当然。
ただ最近では、宣告があってすぐに残りの余生を楽しもうと飛び出したはいいが、
飽きて帰って来たとかいう話もチラホラあるそうな。
まあそうだよなぁ。。さすがに猶予がありすぎて、旅しててもそのうちダレるよな。。
未だにやること見つからない僕が言える筋はないけどさ。
世間はいつも通り回っている。
そのうちどれくらいが「代理人」かはわからないけど、
どちらにしても(盆休みも含めて)例年通りのパターンにはなってるはずだし、
実際そうなってる。
僕の「代理人」も僕の代わりに仕事に行って、僕の代わりに買い物して、
対外的には普通の生活をしているはずだ。家にいる限りさっぱりわからないけど。
盆休みになったら僕の「代理人」はしばらく消えたままなんだろうか。
実家には伝えたから、少なくとも「代理人」が実家に帰ることはないはず。
まあそのかわり親から盆は帰ってこいってうるさいけどさ。。
僕は残りの時間、何をすればいいんだろう。何をするんだろう。
こうやってぼんやり考えたまま終わるのもアリかもしれないが、
なんだかそれはそれでもったいない気もする。
宣告があった当初は色々考えもしたけど、
どれもこれもそれで満足できるかって言われると微妙な感じ。
想像力のなさにあきれつつ、今日も僕はぼんやり一日を過ごす。