MONOZUKI’s blog

STAP細胞にかかわる特許請求の範囲を読む

ENDING

・STAP(stimulus-triggered acquired pluripotency)は、低pHのような強い外部刺激による体細胞から多能性細胞への運命転換をいい、 得られる細胞をSTAP細胞と呼んでいるので、哺乳類の細胞に限定されない。この点でSTAP細胞の存在に新規性はない。換言すれば、哺乳類のSTAP細胞にのみ新規性がある。

 

特許庁は発明の実体審査において進歩性というファジーな判断ロジックを採用している。

 本件の場合、

(1)生物細胞をストレスに晒すこと

(2)環境刺激への暴露(ストレスの種類)

(3)暴露条件、暴露時間

(4)多能性細胞の選択方法

 などが、当業者のレベルで容易に想到できるかどうかを、審査官が判断することになる。担当審査官は、細胞ストレスに暴露し、生き残った細胞を回収することを含む多能性幹細胞又は多能性画分を生成・単離する方法は公知であるとして、上記(1)の新規性および進歩性を否定するとともに、上記(1)以外の事項について、当業者が適宜設定すべき事項であって、進歩性がないと判断している

 

・起案日平成29年 2月23日付け拒絶理由通知書にて請求項1乃至74に関し、外来遺伝子の導入等なしに細胞を脱分化 させ多能性細胞を生成し得るという発明の技術内容が、発明の詳細な説明において明確かつ十分に記載されていないという、審査官の判断が示されている。 平成29年6月2日と平成29年8月4日に期間延長請求書が提出された。実施可能要件を満たすために、出願人は意見書にて証拠資料を提出可能である。

 

・平成29年9月7日付け手続補正書および意見書が提出され、平成28年4月22日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲における請求項(旧請求項)が、下記のように新請求項に補正された。

 -------------------------------------------------------------------------------

   旧請求項         新請求項

--------------------------------------------------------------------------------

   1-2          1-2

   3(削除)

   4-8          3-7

   9-16(削除)

   17-20        8-11

   21-28(削除)

   29-34        12-17

   35-45(削除)    

   46           18

   47-50(削除)

   51           19

   52-74(削除)    

   -            20、21(追加)

 

・平成30年2月20日に本件は拒絶査定された。

・平成30年6月20日に本件の審判請求が行われた。

 審判請求取下 最終処分日(平30.7.10)

 

・分割出願

 【出願番号】特願2018-117481(P2018-117481)

 【出願日】平成30年6月20日(2018.6.20)

 【分割の表示】 特願2015-509109 (P2015-509109)の分割

 【原出願日】平成25年4月24日(2013.4.24)

 

 【公開番号】特開2018-183145(P2018-183145A)

 【公開日】平成30年11月22日(2018.11.22)

 【発明の名称】多能性細胞のデノボ生成

 

 【要約】      (修正有)
【課題】外来遺伝子材料を導入することなしに、より多能性の状態を細胞にとらせることに関する方法、アッセイ、および組成物に関する。
【解決手段】細胞を、低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.4~5.8のpHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法。細胞塊が外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質の導入なしに、または細胞融合なしに生成される方法。
【選択図】 図5

 

・経過情報

   拒絶理由通知書             

   拒絶理由条文コード (24  第36条)  2019/05/28

   期間延長請求書                   2019/08/28

   期間延長請求書                   2019/10/28

  手続補正書および意見書                2019/11/28

  拒絶査定                                            2020/04/06
  手続補正書                                        2020/07/16
  審判請求書                                        2020/07/16
  審査前置移管                                     2020/07/28
  審査前置移管通知                              2020/07/29
  出願取下書                                         2020/07/30

 

・関連出願
 【公表番号】特表2017-513517(P2017-513517A)

 【公表日】平成29年6月1日(2017.6.1)
 【発明の名称】多能性細胞に関連する方法
 【発明者】
 バカンティ,チャールズ エー.
 コジマ,コウジ
 【要約】
本明細書に記載される技術は、例えば外来遺伝物質を導入せずに、細胞がより高い多能性の状態を呈するようにする方法、アッセイおよび組成物に関するものである。

 

・経過情報 

 拒絶理由通知書 

 拒絶理由条文コード (24  第36条)  2019/05/21

 期間延長請求書            2019/08/14
 手続補正書および 意見書         2019/10/18

 拒絶査定                                               2020/03/17

 手続補正書            2020/07/16
 審判請求書            2020/07/16
 審査前置移管              2020/07/28
 審査前置移管通知            2020/07/29
 出願取下書               2020/07/30

 ・オ ー ス ト ラ リ ア(AU2013251649)では、

 Oct4 を発現する細胞を含む細胞塊を生成する方法が、

 また ロ シ ア(RU2696071)では、

 Oct3/4 を発現する細胞の製造方法が、

 特許されているようである。

 実施可能でないのであれば害はないので、国情によってはあり得る選択かもしれない(国に登録料や維持料が入ってくる。)。

 

 

 

【請求項74】

【請求項74】  多能性細胞が胚性幹細胞に分化する能力を有する、請求項72または73記載の方法。

The method of claim 72 or 73, wherein the pluripotent cell is capable of differentiating into an embryonic stem cell.

 

>>起案日平成29年 2月23日付け拒絶理由通知書で担当審査官は、

 本願の発明の詳細な説明において、仮に、特定の低pH曝露という ストレスのみにより多能性細胞が生成し得ることが示されていたとしても、請求項1-15,17-74に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものといえる、

 と判断している。

【請求項72】 および【請求項73】

【請求項72】  胎盤細胞に分化する能力を有する多能性細胞を産生する方法であって、請求項1~45 のいずれか1項記載の方法によって生成される多能性細胞をFGF4の存在下で培養する 工程を含む、方法。

A method of producing a pluripotent cell capable of differentiating into a placental cell, the method comprising culturing the pluripotent cell generated by the method of any of claims 1-45 in the presence of FGF4.

 

【請求項73】  FGF4の濃度が1nM~1μMである、請求項72記載の方法。

The method of claim 72, wherein the concentration of FGF4 is 1 nM to 1 uM.


>>FGF (線維芽細胞成長因子) について

【図23】図23A~23Cは、FGF4処理がSTAP細胞においていくらかの栄養膜系列特性を誘導することを示す。図23Aは、STAP細胞からTS様(F4I)細胞を 誘導するためのFGF4処理の模式図を示す。図23Bは、マーカー発現のqPCR分析 のグラフを示す。図23Cは、FACS分析による胎盤寄与の定量のグラフを示す。F4 I細胞とは異なり、ES細胞は検出可能なレベルで胎盤組織に寄与しなかった。

[0041] Figures 23A-23C demonstrate that FGF4 treatment induces some trophoblast-lineage character in STAP cells. Figure 23A depicts a schematic of FGF4-treatment to induce TS-like (F4I) cells from STAP cells. Figure 23B depicts a graph of qPCR analysis of marker expression. Figure 23C depicts a graph of quantification of placental contribution by FACS analysis. Unlike F4I cells, ES cells did not contribute to placental tissues at a detectable level.

 

 

【請求項70】および【請求項71】

【請求項70】  細胞治療を必要とする対象における自己細胞治療の方法であって、

a.請求項1~45のいずれか1項に従って細胞から多能性細胞を生成する工程であって 、細胞が対象から得られる、工程、

および

b.多能性細胞またはその分化した子孫を含む組成物を対象に投与する工程、 を含む、方法。

70. A method of autologous cell therapy in a subject in need of cell therapy, comprising

a. generating a pluripotent cell from a cell according to any one of claims 1 to 45, wherein the cell is obtained from the subject, and

b. administering a composition comprising the pluripotent cell or a differentiated progeny thereof to the subject.

【請求項71】  対象に組成物を投与する前に、予め規定された細胞系列に沿って多能性細胞を分化させ る工程をさらに含む、請求項70記載の方法。

71. The method of claim 70, further comprising differentiating the pluripotent cell along a pre-defined cell lineage prior to administering the composition to the subject.

 

>>起案日平成29年 2月23日付け拒絶理由通知書で担当審査官は、

 産業上の利用可能性について請求項70,71に係る発明は、人間を治療する方法に関するものであり、特許法第29条第1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない、と指摘している

【請求項69】

【請求項69】  培養する工程の後に、細胞が、検出可能なレベルの、以下からなる群より選択される幹細胞マーカーを発現する、請求項61~68のいずれか1項記載の方法: Oct3/4;Nanog;Rex1;Klf4;Sox2;Klf2;Esrr-β;  Tbx3;およびKlf5。

The method of any of claims 61-68, wherein after the culturing step, the cell expresses detectable level of a stem cell marker selected from the group consisting of:

Oct3/4; Nanog; Rex1; Klf4; Sox2; Klf2; Esrr-beta; Tbx3; and Klf5.

 

明細書段落【0017】に、本請求項のコピーがある。

 培養する工程の後に、細胞は、検出可能なレベルの、以下からなる群より選択される幹細胞マーカーを発現する: Oct3/4;Nanog;Rex1;Klf4;Sox2;Klf2;Esrr-β; Tbx3;およびKlf5。

 

 

>>起案日平成29年 2月23日付け拒絶理由通知書で担当審査官は、

請求項64-69に係る発明は、引用文献1及び3 、または引用文献2及び3の記載に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとし、進歩性がないと判断している

 

【請求項66】~【請求項68】

【請求項66】  細胞が、ACTH、2iまたは3i培地の存在下で少なくとも3日間培養される、請求項61~65のいずれか1項記載の方法。

66. The method of any of claims 61-65, wherein the cell is cultured in the presence of ACTH, 2i or 3i medium for at least 3 days.

【請求項67】  細胞が、ACTH、2iまたは3i培地の存在下で少なくとも5日間培養される、請求項61~66のいずれか1項記載の方法。

67. The method of any of claims 61-66, wherein the cell is cultured in the presence of ACTH, 2i or 3i medium for at least 5 days.

【請求項68】  細胞が、ACTH、2iまたは3i培地の存在下で少なくとも7日間培養される、請求項61~67のいずれか1項記載の方法。

68. The method of any of claims 61-67, wherein the cell is cultured in the presence of ACTH, 2i or 3i medium for at least 7 days.


明細書段落【0140】  

いくつかの実施態様において、培養工程は少なくとも3日間、例えば、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、またはより長く進行し得る。培養工程の後に、本明細書において他所に記載するように多能性細胞を維持するために適切な条件下で細胞を維持し得る。

[00164] In some embodiments, the culturing step can proceed for at least 3 days, e.g. at least 3 days, at least 4 days, at least 5 days, at least 6 days, at least 7 days, or longer. After the culturing step, the cells can be maintained under conditions suitable for maintaining pluripotent cells as described elsewhere herein.

 

 >>培養期間の臨界値3日間、5日間、7日間は根拠不明であり、4日間、6日間、8日間でも構わないようである。

【請求項64】 および【請求項65】

【請求項64】  細胞が請求項1~45のいずれか1項記載の方法によって生成される細胞である、請求項61~63のいずれか1項記載の方法。

64. The method of any of claims 61-63, wherein the cell is a cell generated by the method of any of claims 1-45.

【請求項65】  細胞が全能性細胞である、請求項61~64のいずれか1項記載の方法。

65. The method of any of claims 61-64, wherein the cell is a totipotent cell.

 

>>全能性の定義は以下のとおり。

 

【0050】  用語「全能性」は、身体中の任意の組織または細胞型を生じることができる幹細胞を指 す。「多能性」幹細胞は、生殖系列細胞以外の身体中の任意の型の細胞を生じることがで きる。より少ないかまたは限定された数の異なる細胞型を生じることができる幹細胞を、 一般に「複能性」と称する。従って、全能性細胞は、胎児発生に必要な組織の大部分(全 部ではない)を生じることができる多能性細胞に分化する。多能性細胞は、特定の機能を 有する細胞を生じるように方向付けられている複能性細胞へのさらなる分化を経る。例え ば、複能性造血幹細胞は、血液中の赤血球、白血球および血小板を生じる。

 

[0074] The term "totipotent" refers to a stem cell that can give rise to any tissue or cell type in the body. "Pluripotent" stem cells can give rise to any type of cell in the body except germ line cells. Stem cells that can give rise to a smaller or limited number of different cell types are generally termed "multipotent." Thus, totipotent cells differentiate into pluripotent cells that can give rise to most, but not all, of the tissues necessary for fetal development. Pluripotent cells undergo further differentiation into multipotent cells that are committed to give rise to cells that have a particular function. For example, multipotent hematopoietic stem cells give rise to the red blood cells, white blood cells and platelets in the blood.