北上姉妹の芸術鑑賞(没ver)
私達は噛み合わない。凸凹ではなく両方凸だからだ。二人の距離は、時間と共に大きく離れてしまったのだろう。あの人は、いつの間にか私の中で遠い存在になっていた。
「おーい、起きろー」
…眠い。一体誰だ?まだ私は寝ていたい。私の頭はきっちり八時間睡眠をとらないと働かないのだ。
「昔と変わらずお寝坊さんだな〜イデちゃんは。」
…そういえばこれは誰の声だ?こいつ、私の部屋に無断で入っているじゃないか!!
「何者だっ!」
パジャマ姿の私がベッドから飛び降りると、ガラ空きの窓にはここ数年見ていない、けれどよく知った顔があった。
「おねえ…様!?」
「久しぶり〜イデちゃん!大きくなったな〜!」
私は北上伊凸。そして私の姉、北上凸亜。彼女は三年前に消息不明になっている。聞くところによると北上家の規則や礼儀作法にウンザリして家出したという話だ。だというのに彼女はここに居る。しかも屋敷の三階の窓から入ってだ。
「お姉様、今まで何をされていたんです!?私はあなたのことが心配で心配で…!」
「まぁまぁ、そういう細かいことは良いから!あのね、今日はイデちゃんに頼みごとがあってここに来たんだ。聞いてくれるか?」
「はい!勿論です…お姉様のお役に立てるなら。」
「そんな堅くならなくても良いのに。俺達、たった2人の姉妹なんだからさ。」
「いえ…私は超能力者としても、人間としてもお姉様を深く尊敬しております。とても対等に話すなんて事は…」
「まあ話しやすいようにしてくれればいいさ。それで頼みごとなんだけど…」
「あっ、少しの間お待ちくださいお姉様!お父様も呼んで参ります。きっと喜ばれるはず…」
部屋から出ようとする私の前に、一瞬の間でお姉様は立ち塞がった。
「ストップ。それはダメだよ。卍郎が俺のことを知ったらなんとしてでも連れ戻そうとするから。それは面倒だ。だから、俺が来た事は俺とイデちゃんだけの秘密。分かった?」
「…はい。承知しました。それで、頼みごとというのは…?」
「俺と一緒に、芸術鑑賞に行かないか?」
こうして、私はお姉様と県内で最大の星野美術館へ行く約束をした。現在開かれているのは「世界のオカルト絵画展」と言うらしい。お姉様は昔からこういったオカルトだとか心霊現象に興味深々だった。待ち合わせの時間が夜七時だというのは多少引っかかるが、あんなに遠い存在だったお姉様と一緒に居られる時間ができたのはとても嬉しい。きっと有意義な時間になるだろう。
さて、待ち合わせの時間、場所にやって来た訳だが。
「お姉様、ここはもう閉館しています。」
「うん。知ってるよ。それじゃ行こうか。」
「お姉様、入り口は閉まっています。」
「そうだよ。だからイデちゃんに壁を破壊してもらうんだ。」
「お姉様、これから何をするのですか?」
「芸術鑑賞だよ。ついでにちょっと展示品を一枚貰っていくけど。」
「お姉様、それは窃盗という犯罪行為です。」
「大丈夫。捕まらなければ犯罪じゃない。」
なんということだ。私は犯罪行為の手伝いをすることになってしまった。いや、しかし尊敬するお姉様の頼みだ。今更断れるはずもなければ断る気もない。私はお姉様の道具で構わない。私は壁を粉砕した。声で物体を破壊する私の能力によるものだ。【粉砕】の文字通り、壁は粉ほどに細かく砕け散る。
美術館の中には外壁から侵入した不審者がふたり。抜き足、差し足、忍び足。チーズを盗み出すネズミの様に、真っ暗闇の中を静かに進んで行く。
お姉様は迷路のような館内のつくり、警備員の巡回ルート、監視カメラの死角を完璧に把握していた。さながら作り話の中に登場する怪盗だ。あとは私が失敗をしなければ良いだけの話なのだが、ああもうなんだってこんな時に鼻がむずむずするのだろう…
「へっくしゅ」
「誰だ!?」
やってしまった。二人組の警備員がこちらへ向かって来る。今は曲がり角に隠れてあちらからは見えないが、それも時間の問題だ。警備員が角を曲がって私達の姿を見ようとした、その時。
稲妻が走った。
感電した警備員は音も無く床に倒れこむ。北上凸亜の両腕からは紫に光るプラズマが迸っていた。
「す、すみませんでした…!お姉様の静電気増幅能力、相変わらず素晴らしき腕前です…」
「手荒な真似はしたくなかったんだけどね。さあ、脱がすの手伝って。」
「へ?」
「こいつらの制服を頂戴するのさ。この暗がりなら充分な変装になる。」
「は、はぁ…」
そうしてサイズの合わない警備服を着ることになった。私は全身ダボダボ、お姉様は逆に胸元辺りが窮屈そうだ。しかし変装の効果は意外にも大きかった。何度か他の警備員に見られたが、ある程度離れていれば怪しまれることはない。そうして私達は目的の絵画の前に到着した。
絵の内容は、1人の少年と少女の形をした人形が窓の手前に立って居るというもの。だが窓からは無数の手が伸びていて、なんとも気味の悪い絵だった。
「ビルストーンハムの呪いの絵画。正式名称はハンズ・レジスト・ヒム。この絵の持ち主は皆不可解な死を遂げている。見た者全てを呪い殺すとも言われている。」
呪い…黒田霊園での幽霊退治を思い出す。私は形のない不安に襲われた。
「…だけど、そんなのは全部真っ赤なウソ。これはオークションで出品者が値段を吊り上げるためにでっち上げた作り話さ。実際、これには百万円以上のプレミア価格が付いてるからね。」
良かった。この前の黒田霊園の様な危ない目にお姉様を巻き込む訳にはいかない。
「イデちゃんを呼んだのはこの為だ。強化ガラスを壊せる手段といえばイデちゃんの能力くらいしか思いつかなかったからね。さ、やっちゃって!」
…ああ。やっぱり。お姉様が必要としていたのは私じゃなくて私の能力だけだった。お姉様との距離が縮まっただなんて浮かれていた自分が恥ずかしい。ううん、それで良いんだ。私の能力がお姉様のお役に立てるならそれで幸せだ。私はお姉様の道具として居ればそれで良い。
ガラスは砕け散った。そして剥き出しになった芸術品を両手でそっと抱える…つもりだったのだが。
「イデちゃんそれから離れて!!…クソ、間に合わなかったか!」
私はとっさに距離を置いたそれに、あり得ないような光景を見せられた。
絵画の中から少年と少女人形が這い出てきている。屏風の中の虎ではあるまいし、そんな事が起こりうるのか?
「お姉様、これは…!?」
「呪いの絵画は作り話だった。それは本当さ。だけど人々に信じ込まれたその作り話は、いつの日か本物になってしまったんだ。」
眼前にはふたつの人型が佇んでいた。真紅に輝く双眸から放たれる視線からは、剥き出しの殺気が痛いほどに伝わってくる。
先に動いたのは少女人形。非現実的な跳躍力でこちらへ飛びかかって来た。私は大きく息を吸い込み、
「Aaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
また大きく声を上げる。人形の材質は木であると推測した。それに対応する周波数の音波を放ち、そして破壊する。あと残るは少年のみだ。
少年は不気味な笑みを浮かべ、小さく手を上げた。すると人形の欠片は、まるで時間が逆行したかのように元どおりに復元した。
「人形をやってもすぐに直されちまう…まずは男のガキからだ!」
お姉様の指から放たれた電流の束。それは一直線に少年へ向かって行く。稲光は標的の体を貫いた。
だが効き目がない。霊体には現世のいかなる攻撃も通用しないのだ。少年はこちらの番だと言わんばかりにお姉様目がけて突進して来た。
お姉様が危ない。せめて私が盾にならなくては…!私は少年霊の前に立ち塞がった。
「ぐっ…!」
肩の肉が抉られる。敵の攻撃方法は噛み付きという原初的なものだった。そんなことよりお姉様に怪我はないだろうか…
「おい、お前…」
「お姉様、ご無事です…か?」
「俺の可愛い妹になにしてくれてんだテメエエエエエエ!!!」
「え…!?」
あんなに怒ったお姉様は初めて見る。お姉様はポケットから何かが入った容器を取り出した。あれは塩…だろうか?
「お前の弱点は知ってるんだ、こいつだろ!?塩分は霊体を固形化するからな…そら、くらいな!」
振り撒かれた塩は少年に見事命中。そして次の瞬間、その体は今度こそ稲妻に貫かれていた。
少年霊が倒されると同時に少女人形もその姿を消滅させた。呪いの絵画を踏み砕いたお姉様はすぐ私に駆け寄る。
「おいイデちゃん、大丈夫かよ…!?」
「はい、この程度の傷なら大した事はありません。それよりもお姉様にご心配をかけさせてしまって、本当に…!」
「そんな事気にしなくていい!なあイデちゃん、お前は俺にとって世界でたった一人の大切な姉妹なんだよ…!イデちゃんが傷付くのは見たくないんだ…」
「私の…事が…大切?」
「そうさ。三年間も離れてたけどさ、俺はイデちゃんの事を愛してる。」
「…!!」
「だからさ、こんな堅苦しい関係はやめにしよう。これからはお姉様、じゃなくてお姉ちゃんって呼んでくれ。敬語もナシだ。いいかな?」
「はい…!お姉さ…じゃなくて、お、お姉ちゃん!」
「うんうん、やっぱりそっちの方が良いよ。それじゃ帰ろうか!」
「…帰るって?」
「気が変わった。これからはイデちゃんと一緒に暮らすことにするよ。ちょっとずつで良い、これから仲良くなっていきたいんだ。」
私達は噛み合わない。凸凹ではなく両方凸だからだ。失われた時間と距離はとても大きい。それなら、これから少しずつ取り戻していけば良いんだ。どんな時も、二人は心の何処かで繋がっていたはずだから。
北上姉妹の芸術鑑賞
私達は噛み合わない。凸と凹ではなく両方凸だからだ。心の出っ張った部分ばかりぶつかり合って、すり減ってしまった。何処かへ行ってしまったあの人と、また逢えたとしてもきっと二人が噛み合う事はないだろう。
「おーい、起きろー」
…眠い。一体誰だ?まだ私は寝ていたい。私の頭はきっちり八時間睡眠をとらないと働かないのだ。
「昔と変わらずお寝坊さんだな〜イデちゃんは。」
…そういえばこれは誰の声だ?こいつ、私の部屋に無断で入っているじゃないか!!
「何者だっ!」
パジャマ姿の私がベッドから飛び降りると、ガラ空きの窓にはここ数年見ていない、けれどよく知った顔があった。
「な…お前…!?」
「久しぶり〜イデちゃん!大きくなったな〜!」
私は北上伊凸。そして私の姉、北上凸亜。彼女は三年前に消息不明になっている。聞くところによると北上家の規則や礼儀作法にウンザリして家出したという話だ。とんでもない不良娘。だというのに彼女はここに居る。しかも屋敷の三階の窓から入ってだ。
「貴様、今日この日までどこで何をしていたんだ!?北上家の超能力を悪用したりしてないだろうな!?」
「まあまあ、そんな事どうでも良いじゃん?」
「どうでも言い訳あるかっ!ここで待ってろ、お父様を呼んで来る!」
部屋から出ようとする私の前に、一瞬の間で彼女は立ち塞がった。
「ストップ。それはダメだ。卍郎が俺のことを知ったらなんとしてでも連れ戻そうとするから。もし告げ口したら…どうなっても知らないぞ?」
「ぐ…北上家の恥晒しめ!何をしに来た?」
「イデちゃんと行きたい所があるんだよ〜。一緒に行こうぜ。"芸術鑑賞"に!」
あの女は待ち合わせ場所と時間を一方的に指定して立ち去っていった。県内最大の美術館、星野美術館に午後七時にやって来いという話だが…怪しい。怪しすぎる。普通に考えたら行くわけがない。しかしあの問題児を放っておいたら何をするか分かったものじゃない!私は渋々、星野美術館へ赴くことにした。
「凸亜、ここはもう閉館しているじゃないか。」
「うん。知ってるよ。それじゃ行こうか。」
「凸亜、入り口は閉まっているじゃないか。」
「そうだよ。だからイデちゃんに壁を破壊してもらうんだ。」
「凸亜、これから何をするつもりだ?」
「芸術鑑賞だよ。ついでにちょっと展示品を一枚貰っていくけど。」
「凸亜、それは窃盗という犯罪行為じゃないか。」
「大丈夫。捕まらなければ犯罪じゃない。」
なんということだ。こいつ、やはりろくな事を考えていなかった。
「冗談じゃない、私は帰るぞ!」
「ちょちょ、ちょっと待てって!別に訳もなく盗み出す訳じゃないからな?一旦話を聞いてくれ!」
私は振り向かずに立ち止まる。またくだらない事を喋るようだったらすぐに帰るつもりだ。
「ここに展示されてる一枚の絵を知ってるか?ビルストーンハムが描いた呪いの絵画。正式名称はハンズ・レジスト・ヒム。この絵の持ち主は皆不可解な死を遂げていてね、見た者全てを呪い殺すとも言われている。」
ほら始まった。凸亜の怪談話。私の姉は昔からオカルトだとか心霊現象だとかいったものに興味津々だった。私も小さい頃よく怪談話を聞かされてトイレに一人で行けなくなった苦い思い出がある。
「あ、信じてないな?ついこの間幽霊退治をして来たんだからちょっとは非科学的な力を信じてみても良いんじゃないか?」
…なんでその事を知っているんだ。しかし私がわりと最近超常現象に遭遇したのも事実。呪いの絵画とやらが作り話だと断定するのは難しい。
「まあそれは作り話なんだけどな。」
「…は?」
「話題作りのための嘘だよ。呪いの絵画として有名になったその絵は、オークションで数百万円の値段がつけられたんだ。そんな絵を盗み出すことに成功したらさ、そりゃもう…」
「帰る。」
「冗談だよ、冗談!嘘も百回言えば真実になるって聞いたことないか?たくさんの人々に信じ込まれた呪いは、いつしか形を得て本物になってしまったんだよ!」
「ええい、結局呪いは本当なのか嘘なのか、どっちなんだ!!」
「本当だ。早ければ明日にでも美術館の人を襲うだろうな。俺の目的は被害が出る前にその絵画を回収、もしくは破壊すること。だからイデちゃんを呼んだのさ。」
うーむ…半信半疑だが仕方あるまい。私は壁を粉砕した。声で物体を破壊する私の能力によるものだ。【粉砕】の文字通り、壁は粉ほどに細かく砕け散る。
美術館の中には外壁から侵入した不審者がふたり。抜き足、差し足、忍び足。チーズを盗み出すネズミの様に、真っ暗闇の中を静かに進んで行く。
凸亜は迷路のような館内のつくり、警備員の巡回ルート、監視カメラの死角を完璧に把握していた。さながら作り話の中に登場する怪盗だ。あとは私が失敗をしなければ良いだけの話なのだが、ああもうなんだってこんな時に鼻がむずむずするのだろう…
「へっくしゅ」
「誰だ!?」
やってしまった。二人組の警備員がこちらへ向かって来る。今は曲がり角に隠れてあちらからは見えないが、それも時間の問題だ。警備員が角を曲がって私達の姿を確認しようとする…
その時、稲妻が走った。
感電した警備員は音も無く床に倒れこむ。北上凸亜の両腕からは紫に光るプラズマが迸っていた。
「す、すまない…相変わらず衰えていないな、貴様の静電気増幅能力は。」
「手荒な真似はしたくなかったんだけどね。さあ、脱がすの手伝って。」
「へ?」
「こいつらの制服を頂戴するのさ。この暗がりなら充分な変装になる。」
「は、はぁ…」
そうしてサイズの合わない警備服を着ることになった。私は全身ダボダボ、凸亜は逆に胸元辺りが窮屈そうだ。しかし変装の効果は意外にも大きかった。何度か他の警備員に見られたが、ある程度離れていれば怪しまれることはない。そうして私達は強化ガラスに包まれた目的の絵画の前に到着したのだった。
絵の内容は、1人の少年と少女の形をした人形が窓の手前に立って居るというもの。だが窓からは無数の手が伸びていて、なんとも気味の悪い絵だった。
「さあイデちゃん、強化ガラスを壊せるのは君だけなんだ。やっちゃってくれ!」
「その前に聞いておきたい事がある。この絵画を回収すると言っていたな?何のためにだ、ここで破壊してはいけないのか。」
「うーん、別に壊しても良いんだけどさ。どうせなら俺の"恐怖!世界のオカルトアイテムコレクション"に加えたいとか思ってたり思ってなかったり…」
「貴様、やっぱり私利私欲のためにこれを盗むつもりだな!?」
「違う!これは世のため人のため正義のためで…」
「黙れ不良娘!絵画はここで破壊する!」
「わー!!やめろ!!このカタブツ!くそまじめ!そんなんだから女の子らしくないって言われるんだ!」
「何ぃ!?女性らしさを欠いているのは貴様の方だろうが!」
私と凸亜で取っ組み合いの喧嘩が始まろうとしていた時だった。
突然、ガラスが砕け散った。
「イデちゃんそれから離れろ!!…クソ、間に合わなかったか!」
私はとっさに距離を置いたそれに、あり得ないような光景を見せられた。
絵画の中から少年と少女人形が這い出てきている。屏風の中の虎ではあるまいし、そんな事が起こりうるのか?
「戦闘開始だイデちゃん、気を引き締めろよ!」
眼前にはふたつの人型が佇んでいた。真紅に輝く双眸から放たれる視線からは、剥き出しの殺気が痛いほどに伝わってくる。
先に動いたのは少女人形。非現実的な跳躍力でこちらへ飛びかかって来た。私は大きく息を吸い込み、
「Aaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
また大きく声を上げる。人形の材質は木であると推測した。それに対応する周波数の音波を放ち、そして破壊する。あと残るは少年のみだ。
少年は不気味な笑みを浮かべ、小さく手を上げた。すると人形の欠片は、まるで時間が逆行したかのように元どおりに復元した。
「人形をやってもすぐに直されちまう…まずは男のガキからだ!」
凸亜の指から放たれた電流の束。それは一直線に少年へ向かって行く。稲光は標的の体を貫いた。
だが効き目がない。霊体には現世のいかなる攻撃も通用しないのだ。少年はこちらの番だと言わんばかりに凸亜目がけて突進して来る。それをひらりと躱した彼女だが、その背後には少女人形の影が…!
「凸亜、危ない!」
咄嗟に凸亜を突き飛ばす。しかし、代わりに私が人形の拳を受けることになってしまった。
「ぐっ…!!」
「伊凸!?」
硬く、そして重い一撃を土手っ腹に食らってしまった。その痛みに思わず膝をつく。
「おい…」
「俺の可愛い妹になにしてくれてんだテメエエエエエエ!!!」
「…!?」
あんなに怒った凸亜は初めて見る。彼女はポケットから何かが入った容器を取り出した。あれは塩…だろうか?
「お前の弱点は知ってるんだ、こいつだろ!?塩分は霊体を固形化するからな…そら、くらいな!」
振り撒かれた塩は少年に見事命中。
「俺の大切なもんに手ぇ出したらどうなるか、その身で味わえ…!!」
そして次の瞬間、その体は今度こそ稲妻に貫かれていた。
少年霊が倒されると同時に少女人形もその姿を消滅させた。凸亜はすぐ私に駆け寄る。
「おいイデちゃん、大丈夫かよ…!?」
「この程度ならなんともない…それよりなんだ。貴様、私の事をそんな風に思ってくれていたのか。」
「な、なんだよ…お前は俺にとって世界でたった一人の姉妹だろ、悪いかよ…」
「フッ、そうか。あの鮮やかな戦闘といい、多少見直したぞ。」
気まずくなったのか、凸亜は私からは目を逸らして例の絵画を取りに行ってしまった。
…ん?絵画を取りに行った?ちょっと待て!!
「おい、もう呪いを倒したんだからそれを回収する必要はないだろう!」
「やだな、これは報酬であり戦利品だよイデちゃん!」
「この犯罪者!おい待て、逃げるんじゃない!」
「ここの壁を壊した時点でイデちゃんも器物破損の罪に問われるもんね〜!!」
「貴様あああああああ!!!」
私達は噛み合わない。凸凹ではなく両方凸だからだ。やっぱり二人の間は摩擦ばかり。それでも何処かで繋がっていると信じたい。世界でたった一人の、大切なもの同士だから。
北上伊凸の幽霊退治
「一体なんだ、この不味い飯は!!」
とある地方のファミリーレストランに、小さな子どもの怒鳴り声が響き渡る。
「お、お嬢ちゃんどうしたのかな?」
異変を察したウェイトレスが駆け寄る。
窓際のテーブル席を一人で独占しているのは、藍色の髪をした小学生くらいの少女だった。
「どうしただと?この阿呆めが!素材は安物、調理は雑、味は最低で食感は最悪!これほどに酷いオムライスはこれが初めてだ!店長を呼んでこい!今すぐにだ!」
別にこの店の料理は悪質という訳ではない。この小さなモンスタークレーマーが一級品の食事に慣れてしまっているだけなのだ。
「ね、ねぇお嬢ちゃん、今一人なの?パパかママはどこか知らない?」
「餓鬼の扱いをするんじゃあないぞ!今貴様が話しているのが誰だか知っているのか!
私は北上伊凸!北上家三十四代目当主、北上卍郎の娘であるぞ!!」
日が沈み、空気も静まり返った午後七時頃、山の中の墓地には二人の人影があった。
「まったく、こんな山奥まで遠出させおって…」
「あ、あの。イデコさん。怖くないんですかい?お化けとか。」
「私は幽霊やら呪いやらの類いは信じない事にしている。もっとも、私がここに呼ばれた原因がその幽霊な訳だがな。」
人影の片方は目つきの悪い緑眼の少女、北上伊凸。
もう片方は黒いスーツを身に纏った初老の男。名前を黒田正吉という。民営の霊園であるこの黒田霊園の管理人である。
「ここで間違いないな?」
二人が足を止めた辺りの墓石には、こびり付いて落ちなくなった血痕がある。
この場所では4日前とその翌日、人間が殺された。いや、殺し合ったと言うべきか。前者は民間人によるもの、後者は警察官によるものである。
「はい。ここで死んだ人間はいきなり発狂して殺し合いを始めたと聞きます…悪霊が取り憑いたという噂もちらほらと…」
「フン、にわかには信じがたいな。怪談話としても三流だ。それで警察にも負えなくなったから北上家を頼ったという訳か。」
「へぇ、あっしの知り合いが北上さんを紹介して下さったんです…」
「だいたいこういうのは坊主やら陰陽師の仕事だろうに…おい、布か何かで口元を覆っておけ。お前も発狂するぞ?」
「え?」
伊凸はマスクを着けた後、しばらくの間何かを探し回っていた。そして、ひとつの墓石の裏に探し物を見つける。
「こいつか」
彼女が地面から引き抜いたもの、それは純白のアサガオだった。
「原因を見つけたぞ。ぱっと見、チョウセンアサガオの一種だろう。麻薬の原料にも使われていてだな、こいつを摂取すると脳神経に異常をきたす。」
「それじゃあ原因はそのアサガオで…」
「いや、こいつは花粉にまで麻薬物質を持っている。空気を吸うだけで人を狂わせるなど本来ならあり得ない事だ。これは人為的に作られた植物だな。しかし誰がこんな事を…?」
ーーーーーーーーーーーい
「あ、あぁあ、あ…!」
「おい、どうした?花粉を吸ってしまったか。少量なら病院へ行けば…」
ーーーーーーーーーーわい
「ち、違う。あれ!あ、れ…!」
「は?」
正吉が指差したその先には、この上なく奇怪なものが居た。
「こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」
眼球と歯を全て失ったヒトの顔。宙に浮いたその集合体が怖い、怖いと言葉を呟いている。無数の人面は融合と分裂を繰り返していた。
正吉は声にならない悲鳴を上げている。伊凸はというと、
「まさか本当に居たとはな。どれ、幽霊。私の言葉は通じるか?」
「こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」
「駄目か。しかも体が全く動かんな。これが金縛りと言うやつか。おい、落ち着け。私は貴様に危害を加えない。」
四肢の自由を封じられながらも彼女は冷静沈着だった。しかし、目の前の怪異は不安定な殺気を放っている。
「こ わ い」
すると突然、墓石の一つが空中に浮かび上がった。紛れもない怪異からの攻撃である。伊凸目掛けて放たれる質量の塊。なす術を失った少女は小さく息を吸って、
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaーーーーーー!!!!!!」
歌うように絶叫した。次の瞬間、その小さな体は跡形もなく飛び散った。
…はずだった。不思議な事に、その叫び声は飛んでくる墓石を粉々に砕いたのだ。
「どうだ、貴様の攻撃は通じないと言う事を理解したか?」
「い、イデコさん…!?今のは…」
「私は声で物体を破壊できる。北上家は超能力者の血筋だというのは知っているだろう?」
北上家。平安時代から続く貴族の家系で、その遺伝子を持つ者は全員が特殊な技能を保持している。現代では超能力を生かした裏社会の便利屋として活動しているのだ。
亡霊は口を開く。
「あ なた は ころ さない ?」
「そうだと言っているだろう。だいたい幽霊の殺し方なぞ分かるはずもない。で、貴様の目的は何だ?」
「あ あぁ…」
この世の物とは思えない怪異とあの子供は対等に会話している。その光景を正吉は黙って見ていることしかできなかった。
「おい黒田。ここに埋葬されているのはどういった者たちなんだ?」
「え?そ、それは…」
「何を隠している?全て話せ!!」
「くっ…だ、黙れえぇ!!」
正吉は服の中に隠し持っていた拳銃を構えた。
「糞、発狂事件の原因が分かったならもうあんたは要らねえ!!そこの化け物の仲間にしてやりやすよ!」
「下郎がッッ!!!」
伊凸の一喝により拳銃は木っ端微塵となった。逆上した男は少女に殴りかかるが、
「ぐっ…動かねえ…!?」
男の体は既に金縛りを受けていた。
「さあ話せ。北上の人間に銃口を向けたその罪は万死に値するが、貴様が知っている事を全て吐き出せば見逃してやらんこともないぞ?」
「あっしは何も知らねえよ!」
「ではここで死ね。」
拳銃を奪い取り、それを正吉の口の中に突っ込む。
「待て待て待て!!分かった、分かった!!…実験だ。ヤクザ共の手で実験が行われたんだ。チョウセンアサガオを使った新種の合成麻薬。それの効き目を確かめるための人体実験には、誘拐された子供が使われた。当然たくさんの子供が死んだよな。そんで連中、都合のいい死体遺棄場としてこの霊園を作っちまった!木を隠すなら森にって言うでしょ。死体を隠すなら墓場ってことよ。驚くほどバレないんだよなぁこれが。ハハハッ。ここに埋まってるのはみんなそういう人知れず死んじまった奴らなのさ。その管理をしてるあっしはヤクザの下っ端さ…」
「この霊たちは今の話に出てきた子供たちか。さっきの白い朝顔は貴様らの作った麻薬だな?なぜあんな所に咲いていた。」
「い、一回転んで持ってた種をぶちまけた事が、あって…」
「手のつけようがない阿呆だな。貴様の蒔いた種なら、人間が発狂した時点でその原因には気がつくはずだろうに。」
「怖かったんだよぉ!!毎日、夢を見るんだ…!ここに眠ってる子供たちが、あっしを殺しに来る夢!いつかバチが当たるに違いないって思った。突然人がイカれちまった時はさ、絶対に幽霊の仕業だって勘違いしちまってさ。ハハハ。それで?あっしはこれからどうなるんで?」
「貴様の身柄は北上家で預かる。その後の処分次第では死ぬより辛い目に合わされるかもしれんが、運命だと思って諦めろ。
…さて、幽霊。まだ未練は残っているか?」
霊の姿が薄くなっている。現世から消えようとしているのだろう。
「そうか。達者でな。」
「さ よう な ら」
かくして、憐れむべき少年少女の霊魂は成仏した。しばらくした後、伊凸の連絡でやって来た北上家の高級車に正吉は連れ込まれる。
「はぁ、あっしの人生ももうおしまいか…北上伊凸、せっかくだしあんたを末代まで呪ってやることにするかね?」
「好きにしろ。私は幽霊は信じることにしたが、呪いとかそういった類いのものは信じないことにしているのでな」
終
ついったーでボカロについて話したんで参考リンクまとめ
VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた ‐ ニコニコ動画:GINZA
【初音ミク】恋スルVOC@LOID (修正版)【オリジナル曲】 ‐ ニコニコ動画:GINZA
あなたの歌姫/初音ミク_fullver. ‐ ニコニコ動画:GINZA
【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】 ‐ ニコニコ動画:GINZA
初音ミクオリジナル『えれくとりっく・えんじぇぅ』Full ver. ‐ ニコニコ動画:GINZA
初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」 ‐ ニコニコ動画:GINZA
VOCALOID(ボーカロイド)の歴史を紐解いてみる – スタートはDTMだった | ボーカロイドを巡る「FREE(フリーミアム)」の法則 – Vocal of FREE (ボカロフリー)
いろいろ
カラーでガイア 擬人化は目が黄色だったりする
オリ異形、名前はじろう
デジタルむずいっす!練習
友人に送りつけた年賀状
新年、餅つき
オチも忘れずに
身長差約30cm、企画の2人
「UNDERTALE」からマフェット、トリエル、アンダイン。
このゲーム舐めてかかってたら見事にはまってしまった。
くえーさー
双子。ややリアル寄り?描くたびにこいつらが双子かどうか疑ってしまう原作者であった。 今回はここまで!!