第3節 COVID-19による入院が必要な小児患者におけるCOVID-19の治療
COVID-19による小児入院患者の評価
提言3.1:
COVID-19以外の理由で入院し、呼吸サポートを必要としない患者については、外来患者に推奨されるアプローチを適用することを提案する。
コメント
COVID-19と診断された小児で、無症状か、ベースライン以上の呼吸サポートを必要としない軽度〜中等度の症状のみで入院することがある。このような患者に対しては、外来患者に推奨されている方針を用いることをパネルは提案する。
提言3.2:
COVID-19で入院している患者の治療計画を立てる場合、以下の要因を考慮すべきである:年齢、重症度、ワクチン接種状況、COVID-19の既往歴、罹病期間、重症化危険因子の有無。
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COVID-19で入院した小児の治療方針の決定において以下の目標を考慮すべきである:1)重症化や死亡を防ぐ、2)入院期間を最短にする、3)治療に伴う副作用を避ける、4)費用対効果が高い治療を提供する。年齢、重症度、ワクチンの接種状況、COVID-19の既往歴、罹病期間、重症COVID-19に進行する危険因子の有無は、重要な因子である。
COVID-19による入院小児患者の評価の根拠とエビデンスの要約
年齢
FDAはレムデシビルを生後28日以上で体重3kg以上の乳幼児・小児に使用することを承認している。重症COVID-19で入院している2歳以上の小児に対してトシリズマブとバリシチニブのEUAを発行している。しかし、利用可能な治療薬の小児に特異的な有効性データは限られている。小児におけるこれらの治療薬の使用を支持するデータは、現在のところ小規模な観察デー
タセットしかない。
利用可能な文献の限界は承知の上であるが、現在の
エビデンスによると、重症化の危険因子を持たない年少児は、年長児や青年に比べて重症化、特に高度な呼吸補助や集中治療を必要とする可能性が低く、治療の恩恵を受ける可能性も低い。
先行感染と積極的・消極的ワクチン接種
ウイルスの変異によるブレークスルー感染の発生率が上昇しているが、予防接種または既往感染により、入院のリスクは減少する。
COVID-19で入院した小児は、過去のCOVID-19感染およびCOVID-19ワクチン接種の時期を確認すべきである。2つの理由から時期は重要である:1) 免疫反応の動態(中和抗体価のピークは数週間以内に観察され、時間の経過とともに低下する)、2) 以前に感染した変異株に対する免疫が現在流行している株に対して有効である可能性。
罹病期間
臨床研究では、抗ウイルス療法を早期に開始することが、COVID-19に有効であることが示唆されている。
SARS-
CoV-2陽性で、COVID-19肺炎とは一致しない炎症性症候群を呈する患者については、小児の多系統炎症症候群(MIS-C)の可能性も含めて、別の診断を考慮すべきである。このような症例では、COVID-19を対象とした治療が有益である可能性は低い。
リスク因子
COVID-19で入院した小児の多くは、基礎疾患を有している。高リスクの可能性のある病態を評価することは、治療を決定する上で重要である。一般に、高リスク因子が複数存在する場合、治療開始の
閾値は低くなる。
重症度
COVID-19の重症度は、主にベースラインを超える呼吸補助の必要性によって定義される。1) 入院しているがベースライン以上の酸素投与を必要としない、2) 入院しており、鼻
カニューレによる酸素投与を必要とする、3) 入院しており、高流量鼻
カニューレ(HFNC)またはBiPAPなどの非侵襲的換気(NIV)による酸素投与を必要とする、4) 人工呼吸器(MV)またはECMO。
酸素投与またはそれ以上の呼吸サポートを必要とする患者に対しては、抗ウイルス療法と抗炎症療法が有効である可能性は高い。抗ウイルス療法は、酸素を必要とするが、HFNC、NIV、MVなどの高度な呼吸補助を必要とするまでに進行していない患者に最も有効であることが示されている。抗炎症療法は、より高度な呼吸器サポートを必要とする患者に対して最も有益であるとされている。
入院小児患者におけるレムデシビル
提言3.3:
COVID-19で入院し、ベースライン以上の酸素投与または非侵襲的人工呼吸を必要とする12歳以上の小児患者に対しては、レムデシビルの使用を提案する。
コメント
上記のように、12歳以上の小児患者は重症化リスクが高い。この年齢層の患者がCOVID-19のためにベースライン以上の呼吸サポートを必要とする場合、レムデシビルを投与することを提案する。
提言3.4:
COVID-19で入院している12歳未満の小児患者で、ベースライン以上の酸素投与または非侵襲的人工呼吸を必要とし、COVID-19が重症化リスクがない場合は、レムデシビルの投与を考慮する。
コメント
重症化するリスクは、年少児の方が低い。12歳未満で、重症であるが危険因子がない場合、レムデシビル投与を考慮してもよい。
提言3.5:
COVID-19で入院している12歳未満の小児患者で、ベースライン以上の酸素または非侵襲的人工呼吸の補助が必要であり、重症化リスクが中等度または高いか、呼吸が急速に悪化している場合、レムデシビル投与を提案する。
コメント
12歳未満に対するレムデシビルの有益性の
エビデンスは不十分である。急速に進行している、重症化リスクが高い年少児に対しては、レムデシビルの
潜在的な有益性はおそらくリスクを上回る。
提言3.6:
人工呼吸器またはECMOを必要とする患者には、レムデシビルの投与を考慮する。
コメント
レムデシビルは、人工呼吸器またはECMOを必要とする成人患者を対象とした
臨床試験では有益性が示されていない。
世界保健機関(WHO)、米国
国立衛生研究所(NIH)、米国
感染症学会(IDSA)の
ガイドラインでは、この重症度の患者にはレムデシビルを使用しないことを推奨している。人工呼吸器またはECMOを必要とする小児に関して、レムデシビルを推奨する質の高い
エビデンスは得られていない。
COVID-19で入院が必要な小児患者における抗炎症および免疫調節療法
重症COVID-19の成人に実施された無作為化試験で、副腎皮質
ステロイドによる死亡率の減少が実証されている。WHO、NIH、IDSA
ガイドラインでは、重症または
重篤な基礎疾患を有する一部の患者において、副腎皮質
ステロイドの使用が推奨されている。
研究のほとんどは、
デキサメタゾンを使用している。パネルでは、他のコルチ
コステロイドよりも
デキサメタゾンの使用を推奨している。無作為化
臨床試験では、入院中の成人患者を対象に、高用量
デキサメタゾン(1日20mg×5日間、その後1日10mg×5日間)と通常治療(最も多いのは1日6mgの
デキサメタゾン)の影響が評価された。低流量酸素療法を受けている患者のうち、
デキサメタゾンの高用量投与群では死亡率が高かった。上記の
エビデンスに基づき、体重40kg以上の患者に対する推奨用量は1日6mgである。体重40kg未満の患者に対する推奨用量は1日0.15mg/kgである。
デキサメタゾンは、最大10日間静脈内または経口投与できる。
COVID-19で著明な炎症が認められる成人に対しては、
ステロイド療法にトシリズマブなどのインターロイキン(IL)-6阻害薬やバリシチニブなどの
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬を追加することで、優れた
転帰が得られるとされている。しかし、小児患者におけるこれらの治療法の使用に関する報告は極めて限られている。
COVID-19治療のための副腎皮質ステロイド薬
提言3.7:
酸素療法を必要とし、呼吸状態が悪化している患者には、
デキサメタゾンの投与を考慮する。
コメント
RECOVERY試験では、入院中の成人6424人を、
デキサメタゾン6mg/日、最大10日間投与する群と標準治療のみを行う群に無作為に割り付けた。
プラセボ群と比較して、
デキサメタゾン群では28日死亡率が有意に減少した(22.9% vs 25.7%、RR:0.83、95%CI:0.75-0.93、
P<0.001)。
デキサメタゾンの使用は、ベースライン以上の酸素投与が必要な入院患者、またはより高いレベルの呼吸器サポートが必要な入院患者への使用に限定されている。
提言3.8:
COVID-19で入院し、ベースライン以上の高流量酸素療法、非侵襲的換気補助、
機械的換気を必要とする患者には、
デキサメタゾンを投与することを提案する。
COVID-19の治療における他の免疫調節薬の使用
提言3.9:
COVID-19で入院している患者のうち、非侵襲的陽圧換気、
機械的換気、ECMOを必要とする患者、悪化している患者、著明な炎症が認められる患者には、他の治療に加えてトシリズマブまたはバリシチニブを考慮する。
コメント
18歳未満の患者における免疫調整薬の使用を支持する証拠はきわめて限られている。しかし、COVID-19による重症の小児患者で、非侵襲的換気、
機械的換気、ECMOを必要とし、悪化傾向、著しい炎症が認められると定義された患者には、免疫調節薬の追加投与が考慮される。このような患者には、上記のように
デキサメタゾンも投与すべきである。
成人で最もよく研究されている抗炎症薬には、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬トシリズマブと
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬バリシチニブである。JAK阻害薬とIL-6阻害薬は併用してはならない。
バリシチニブ
バリシチニブは関節リウマチおよび
円形脱毛症の治療薬として承認されているJAK阻害剤である。COVID-19で入院した成人8156人を対象とした無作為化非盲検
臨床試験において、死亡率を低下させた。2022年、バリシチニブは、酸素投与、非侵襲的または侵襲的人工呼吸、ECMOを必要とする成人におけるCOVID-19の治療薬として
FDAに承認された。米国では、この薬剤は2歳から18歳未満の患者を対象としたEUAでのみ使用可能である。2歳以上9歳未満の小児に対するEUA推奨用量は1日1回2mgであり、9歳以上の小児に対する推奨用量は1日1回4mgである。バリシチニブは錠剤のみ入手可能である。
非侵襲的人工呼吸、
機械的人工呼吸、またはECMOを必要とする小児患者において、
デキサメタゾンに加えてバリシチニブの使用を検討することは妥当である。
トシリズマブ
トシリズマブは炎症性サイトカインIL-6の受容体を阻害するmAbである。大規模ランダム化
臨床試験では、
重篤なCOVID-19の成人患者、およびC反応性蛋白(
CRP)値が75mg/L以上で酸素投与を必要とした成人患者において、トシリズマブの投与は
プラセボと比較して死亡リスクが低く、回復がより早いことが明らかになった。
トシリズマブは、全身性
ステロイドと呼吸補助を受けている成人患者におけるCOVID-19の治療薬として
FDAにより承認されている。また、JIAなどで2歳以上の患者への使用も承認されている。米国における小児患者のCOVID-19の治療では、トシリズマブはEUAの下でのみ入手可能である。体重30kg未満の患者に対するEUA推奨用量は12mg/kgであり、体重30kg以上の患者に対する推奨用量は8mg/kgである。トシリズマブは単回静脈内投与される。
提言3.10:
COVID-19で入院が必要な患者に対しては、mAb療法や回復期
血漿をルーチンで使用しないことを提案する。慎重に選択された患者に対しては、ケースバイケースで考慮してもよい。
コメント
COVID-19回復期
血漿(CCP)またはmAbsは、
パンデミックの初期に治療戦略として登場した。mAbsは予防薬として、初期の軽症から中等症に対する治療薬として有効性を示した。入院中の成人患者を対象とした大規模なランダム化比較試験では、mAbを投与された患者の
転帰は改善しなかった。mAbはCOVID-19の入院小児患者への使用は推奨されない。
CCPは、
パンデミックの初期に入院患者に広く使用された。しかし、ランダム化比較試験で、COVID-19成人患者には効果がないことが示された。CCPは入院中の小児患者への使用は推奨されない。