仙台に再開発の波、100億投じる市のプロジェクトの行方は - 朝日新聞デジタル(2023年7月26日)
JR仙台駅から西に約700メートル。仙台市中心部を南北に走る東二番丁通を歩くと、建設中の真新しいオフィスビルが目に入る。11月に完成予定の「アーバンネット仙台中央ビル」だ。
地上19階・地下1階建てで低層階にはコワーキングスペースもできる。再開発を手がけるNTT都市開発(東京)は「仙台都心部のさらなる活性化に向けた、新たな魅力やにぎわいの創出を図ることをめざす」とアピールする。
そこから約900メートル離れた国分町では、12月に完成予定のオフィスビル「ウッドライズ仙台」の建設が進む。地上10階・地下1階建てで、木造と鉄骨を組み合わせた構造が特徴だ。さらに仙台駅そばではオフィスビル「T―PLUS仙台」が来年1月の完成を予定。地上12階・地下1階建てで、屋上テラスもあるという。
100万人を超える人口を擁し、東北の中心地・仙台市ではいま、再開発の動きが本格化している。
不動産サービス大手CBRE仙台支店によると、市中心部でのオフィスビルの新規供給は2003~22年は年平均約4700坪(1坪=3・3平方メートル)。08~10年の3年間では計5万坪を超える大量供給があったが、その後の新規供給は低水準に。だが23年4月からの1年間では一転し、約1・6万坪の供給が予定されている。
大型の再開発はその後も続く。ランドマークの一つとして長年親しまれてきた「電力ビル」は、周辺一帯も含めて2棟の高層ビルに生まれ変わる。25年度をめどに着工し、約10年かけてオフィスや商業施設、多目的ホールを備えた大型複合施設になるという。
市中心部で再開発が相次ぐ背景には、市が19年に打ち出した「せんだい都心再構築プロジェクト」による後押しがある。容積率の緩和やテナント退去費用の助成などをするもので、期間は30年度まで。市は全体で100億円を超える支援額を見込む。
目的は、市が抱える構造的な課題の解決だ。市によると、市中心部のオフィスビルは旧耐震基準のビルが4割を超える。一方、東北大学がある仙台には東北地方などから学生が集まるが、就職のため首都圏に多くが「流出」する現実がある。
高機能オフィスへの建て替えを促して企業を呼び込むことで、若者の雇用の受け皿を仙台市につくれないか――。市はそんな好循環をもくろむ。
25日までにプロジェクトに認定された再開発は「アーバンネット仙台中央ビル」や「ウッドライズ仙台」、「T―PLUS仙台」、電力ビルの再開発など5件だ。
一方、プロジェクトをめぐる課題も指摘される。
認定された再開発は大手企業による計画ばかりで、地元中小が手がける案件はない。不動産関係者によると、資材や人件費の高騰で建築費が上昇する中、地元の中小が再開発に踏み出すのは難しく、支援策があっても活用しづらいという。
「市の発信力が課題だ」との声もある。不動産業界で「札仙広福(さっせんひろふく)」と呼ばれる札幌、仙台、広島、福岡は目下、大規模な再開発が盛んだ。しかし、福岡の「天神ビッグバン」や札幌の「大札新」と比べると、「仙台の発信力の差は明らかだ」と、ある不動産関係者は指摘する。
「再開発でどんな企業を呼び、どんな産業の裾野を広げたいのか。市の施策からはその思想が伝わってこない。それでは『支店経済』を超えてプラスアルファの産業を育てるのは難しいのではないか」
市自らも、市役所本庁舎の建て替えや勾当台公園の再整備といった計画を進める。JR仙台駅直結の複合商業ビル「ヨドバシ仙台第1ビル」は6月開業し、にぎわいを生んでいる。
変化の機運が高まる仙台市だが、大規模な再開発の後にどのような姿に変貌(へんぼう)を遂げられるのか。市政のかじ取りが問われる。(中島嘉克)
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