あとは自分は政治制度の中でも執政制度に特に関心があるので、先生がStanfordで教えられている大統領に特化した授業(学部生向け)についても伺った。その中のトピックである大統領の単独行動に関してはWilliam Howell著のPower without Persuasionがあまりに有名だが、この本は大統領の単独行動の有効性を誇張し過ぎているきらいがあり、近年は単に有権者に対するPosition takingに過ぎないのではないかと主張する研究もあるそうである。いずれにせよ、サブスタンスには「確立した知見」が少ないので、メソッドよりも教えるのが難しい(情報過多で混乱しないよう教科書ベースで学習するのが望ましい学部生相手にはとりわけ)という事を改めて感じた。
Jean Tiroleがロチェスターにやってきた。Tirole教授は規制政策に関する業績で2014年にノーベル経済学賞を受賞しており、今回も「デジタル時代のプライバシー」と題した企業や政府によるデータ利用への規制についての講演だった。規制を行うのは政府なので、(とりわけ権威主義体制における)政府自身のデータ利用をどう制限するかという問題に興味があったのだが、これについて決定的な解答は無いようだった。
開催地であるPalmer House a Holton Hotelの第一印象は、「スクリーンが小さい…」である。ホテル開催の学会は学会割で安くホテルに泊まれたり空き時間に部屋に戻って休憩できたりとメリットも多いのだが、大学の教室にあるような大きなスクリーンがないので、オーディエンスはこじんまりしたスクリーンを凝視する事を求められる。
メンターはDavid Fosterさんという、Berkeley PhDで現在はLSEでポスドク、今年の秋からFlorida State UniversityでAssistant Professorになられる数理政治学者&アメリカ政治学者である。主に数理政治学の就活事情やパブリケーション事情について伺ったが、やはり数理政治学のジョブマーケットは厳しく、Fosterさんは結局数理政治学での就活を諦め実証研究をJob Market Paperとしてアメリカ政治学で就活する事を選ばれたそうである。FosterさんはJOPに単著が1本、若手同士の共著でもう1本(いずれも理論研究)というトップスクールに就職してもおかしくない業績を持っておられるが、それだけ数理政治学のジョブマーケットは他分野と比べて厳しいという事だろう。ロチェスターの先輩でFosterさん以上の業績を持つにもかかわらずアカデミア就職が叶わなかった人がいるので予想はしていたが、実際の経験者から話を聴く事で過酷な現実をより実感する事ができた。
あとは数理政治学のジャーナルの序列について、自分の認識では他の分野と同様APSR、AJPS、JOPが続いた後に、QJPS、PSRMがサブフィールドトップ的な位置づけで、最後にJournal of Theoretical PoliticsやJournal of Political Institutions and Political Economyが来るという認識だったのだが、Fosterさんも同じ認識である事を確認できた。
今週のPolitical Economy Seminarの講演者であるAvidit Acharya教授はStanfordの数理政治学者で、かつてロチェスターでも教鞭をとられていた方である。講演内容は「選挙キャンペーンの予算を2人の候補者が戦略的に消費した時、最適な消費スケジュールはどのようなものか」という論文についてだった。一見非常に複雑なDynamic gameだが、いくつかの仮定の下でこの問題はキャンペーン開始時のStaticな最適化問題に単純化(つまりDynamic→Static、Game theory→Decision theoryと二重に単純化)する事ができ、その下で出される答えは「各候補者の残り予算に対する消費の比率が毎期候補者間で同じになるように消費していく」というものである。選挙研究で言う中位投票者への収束のような対称性のある解であり、答え自体は直観的に納得のいくものである。ただ複雑な問いをあまりにも単純化する事に成功しているので、それらの仮定がどれだけ制約的なものでないかがこの論文の評価の分かれ目だと思われるが、実はこの論文は既にJournal of the European Economic Associationというトップジャーナルにアクセプトされているので、素晴らしい論文なのだと思う。
前半はCarothers (2000) Real AnalysisのPart1を教科書としてOpen/Closed Sets, Continuous Functions, Connectedness, Completeness, Compactnessといった位相数学の概念を学び、後半はConvexity/Separating Hyperplane Theorem, Correspondences/Theorem of the Maximum/Fixed Point Theory, Infinite Dimensional Spaces/Dynamic Programming, Function Spacesといったトピックを学習した。
Midwest Political Science Association(MPSA)という、AJPSの発行元でありAPSAに次いでアメリカで2番目に大きな政治学会に論文(単著)が初採択された。これまで日本でも学会報告の経験はなかったので、今回が初学会報告という事になる。つい2か月前の投稿で「そこまで焦って大きな学会に参加を始めずともよいのではないかと思う」と言っていたにもかかわらず白々しくMPSAに応募したのには、3つ理由がある。
Ian Turner先生はFormal TheoryとAmerican Politicsを専攻するYaleの助教授で、主に官僚制とMoney Politicsの研究をしている方である。Turner先生は自分と近い研究関心を持つ研究者のお一人で何本も論文を読んだ事もあったので、VisitorとしてRochesterに1週間滞在するという情報を聞きつけ、ここぞとばかりにミーティングを申し込んだ。