君の情熱がいつの日か

日々の感じたことなど、主に法律に関するブログです。

民法改正とシステム開発

@CeongSuさんからバトンを受け取りました。

よろしくお願い致します。

 

0.はじめに

今回は民法改正とシステム開発についてざっくりと記事を書いてみました。

 

先日、法務省が改正民法を2020年4月1日に施行すると決め、自民党の法務部会に提示されました。新聞報道によれば、政府は年内にも、施行日を定める政令閣議決定するとのことです。現時点から約2年3か月しかなく、改正民法の勉強会を行ったり、セミナーに参加したりしている方も多いかと思われます。ただ、改正民法をどういう形で契約実務に落とし込んでいくかということについては、表向きではあまり議論がされていないように思われます。それは、改正民法の影響は、各社の自己のビジネスとの関連性がある事項ですし、表では議論しにくい性質だからかもしれません。とはいえ、改正民法による契約実務が変わる部分については、ある程度の理解が共有されないと、相手方の理解不足による契約交渉のコストがかさんだり、相手の理解不足に付け込む形で不利な契約条件を受け入れさせたり、と弊害は少なからず生じるような気がします。そのような事態は、個人的には好ましくないと考えています。2017年の#legalACでも話題になった契約条項の標準化という活動にも私個人としては共感しており[i]、それを具体化する一案として「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」~情報システム・モデル取引・契約書~(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)〈第一版〉(経済産業省商務情報政策局情報処理振興課平成19年4月)http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku/model_keiyakusyo.pdf(以下「モデル契約」という)をベースとして改正法で契約条項をどう変わるか提示したいと思います[ii]。主にシステム企画・要件定義段階の(準)委任契約についての成果完成型と仕様凍結後の開発段階の請負契約についての(契約不適合)担保責任と損害賠償に関して説明をします。ライセンスの使用許諾契約に関する定型約款(改正民法548条の2~)については、また別の機会に投稿しようと思います。

 

1.前提

下記の前提の下での修正となります。

・契約当事者:対等に交渉力のあるユーザ・ベンダを想定

(例) 委託者(ユーザ):民間大手企業、受託者(ベンダ):情報サービス企業

・開発モデル:ウォーターフォールモデル

開発プロセス:システムの企画・要件定義段階、開発段階、運用段階、保守段階による

・対象システム:企業基幹システムの受託開発(一部企画を含む)※保守運用は、

今回は除く。

 

2.システム企画・要件定義段階と(準)委任契約

システム企画・要件定義段階はユーザの漠然とした問題意識や目的意識からスタートします。システムを導入することにより解決した課題を整理して特定し、その課題を解決するうえでシステムに実装すべき機能や性能を取り決めます。あらかじめ定められた仕様に基づく成果を完成させるというより、曖昧なもやもやとしていたユーザの業務やシステムに対するニーズを明らかにしていくということが成果となります。これはユーザの積極的な情報提供や協力なしに完遂することはできません。またその結果の適否はユーザのみが判断しうる性質のものとなります。そうすると、システム企画・要件定義段階においてベンダとして負っている債務の内容は、システム企画書や要件定義書という成果の完成が債務の内容となっているのではなく、システム企画書や要件定義書という成果の完成に向けて事務処理をすることが債務の内容になっているにとどまります(いわゆる手段債務です)。システム企画書や要件定義書は、成果の完成に向けて事務処理をすることで達成された成果という位置づけになります。

現行民法では(準)委任事務の処理の結果として達成された成果に対して報酬が支払われる場合(成果完成型)がありませんでしたが、改正民法648条の2において規律されることになりました。この規律が設けられることにより、「要件定義書の作成は請負」と解釈するような実務上の混乱は収束に向かうものと思われます。

改正民法648条の2は、(準)委任なので、法的責任としては善管注意義務を負うことになります。あくまでも請負契約上の責任とは区別する趣旨で次のように契約条項を設けることがあると思われます。

(要件定義作成支援業務の実施)

第14 条

乙は、第15 条所定の個別契約を締結の上、本件業務として甲が作成した情報システム構想書、システム化計画書等に基づいて、甲による要件定義書の作成作業を支援するサービス(以下「要件定義作成支援業務」という。)を提供する。

2. 乙は、情報処理技術に関する専門的な知識及び経験に基づき、甲の作業が円滑かつ適

切に行われるよう、善良な管理者の注意をもって調査、分析、整理、提案及び助言など

の支援業務を行うものとする。なお、乙の要件定義作成支援業務の実施における責任は、本項の範囲に限られるものとする。

 

3.開発段階と請負契約

開発段階は、要件定義段階、基本設計段階で確定した仕様に基づいて成果を完成させる工程なので、請負契約で実施することが多いと思われます。

現行法は、請負人は仕事の完成義務を負っており、その内容として瑕疵のない完全な仕事をすることが含まれていることから、請負の瑕疵担保責任の規律は債務不履行責任の特則と位置付けられていました。すなわち完成前は債務不履行責任、完成後は瑕疵担保責任と規律が分けられていました。この規律が改正民法では、債務不履行責任に一本化されます(改正民法562条乃至564条、572条が民法559条を介して請負契約にも準用、改正民法636条、637条)[i]

現行民法と改正民法の比較は次のようになります。

(現行民法)

修補の対象は「瑕疵」と定義

債務不履行責任の特則として

・修補(現行民法634条1項)

・損害賠償(現行民法634条2項)

・解除(現行民法635条)

・期間制限は引渡しから1年(現行民法637条)

 

(改正民法)

修補(追完)の対象は「契約の内容に適合しないもの」と定義

「契約の内容に適合しないもの」に対する

・追完請求(改正民法562条、559条)

・追完不能な場合の代金減額請求(改正民法563条、559条)

加えて

債務不履行責任として

・損害賠償請求(改正民法415条)

・解除(改正民法541条、542条)

・期間制限は「不適合知った時」から1年(改正民法637条)、知らなければ10年(改正民法166条1項2号)

 

現行民法の「瑕疵」と改正民法の「契約の内容に適合しないもの」とはほぼ同義であり、これにより実務上の影響はあまりないと思われます。もっとも何が「契約の内容に適合しないもの」なのか、追完請求の対象は明確にすべきだと思います。

問題は、現行民法と比べ改正民法は、追完請求(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しについて、注文主であるユーザに不相当な負担を課さない場合は請負人であるベンダが選択できる(改正民法562条1項ただし書、559条)という点を除き、ベンダには不利な内容となっていることです。例えば、ユーザの検収を受けて合格したシステムを引き渡し、その後10年近く経ってから追完請求を受けてもベンダとしては困りますし、そこまで見込んだ開発費を契約金額とすると莫大な金額となる可能性があり、ユーザ及びベンダにとって必ずしも得策ではないと思われます。システムを導入・運用する観点から便益とコストを比較考量して、一定の範囲内で責任を制限することは合理的な選択肢だと思われます。保守運用契約と組み合わせることにより、ユーザ側も保守運用上の問題を究極的な損害賠償だけで解決するという極端な選択をとる必要はないと思います。ここはベンダもきちんと話をしないといけないところです。

また、実務上揉める可能性があると考えているのが、契約不適合責任の効果の一つである代金減額請求です。代金減額請求は請負人であるベンダの帰責事由なくして請求できます。代金減額請求の減額割合の算定基準時を①契約時とするか、②履行期または③引渡時のいずれとするかが法文上明らかではありません。潮見先生の赤本(262頁~263頁)によれば、引渡時という解釈が示されています。システム開発ではどうでしょうか。システムの価値を機能ごとに算定し、追完不能だったプログラムの本数の割合によって出すのでしょうか。いずれにせよ契約で代金減額請求をすべて不可とし、損害賠償責任のみ追及できるとするのはユーザによって不利な条件だと思われますので、ユーザ・ベンダ間での協議となる事項だと思われます。

上記の内容を踏まえて、契約条項案を示しますと次のとおりとなります。

契約不適合についての瑕疵担保責任)

第29 条

前条の検査完了後、納入物についてシステム仕様書との不一致(バグを含む。以下本条において「契約不適合瑕疵」という。)が発見された場合、甲は乙に対して当該契約不適合瑕疵の修正について請求することができ、乙は、当該契約不適合瑕疵を修正するものとする。但し、乙がかかる修正責任を負うのは、前条の検収完了後12ヶ月以内に甲から通知請求された場合に限るものとする。

2. 前項にかかわらず、瑕疵が軽微であって、納入物の修正に過分の費用を要する場合、乙は前項所定の修正責任を負わないものとする。

3. 乙が第1項に基づき修正を実施したにもかかわらず、当該契約不適合の修正ができなかった場合は、引渡時を基準に、甲乙協議の上で当該契約不適合の程度に応じた代金の減額をするものとする。この場合において、甲が代金の減額を超える損害について現実に負担したとき、甲は乙に対して第53条(損害賠償)に基づく損害賠償請求をすることができる。

4. 第1 項の規定は、契約不適合瑕疵が甲の提供した資料等又は甲の与えた指示によって生じたときは適用しない。但し、乙がその資料等又は指示が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りでない。

 

 

1項:

・「契約不適合」にバグを含めるべきかどうかという点については、単なる不具合は、直ちに「瑕疵」にはあたらないとされています(東京地判平成14年4月22日。関連する裁判例として東京地判平成9年2月18日)。保守契約でどの範囲で修補対応を行うのかという点も考慮して、バグを含めるのか検討する必要があります。

・前提で示したとおり「企業基幹システムの受託開発」を想定していることから、追完請求の内容として代替物の引渡しはとることは難しいだろうと考え、追完請求の内容を「修正」だけにとどめています。また、「前条の検査完了後」とあるので、不足分引渡しというのは起こりえないだろうと考えられます。

・期間制限については、「不適合知った時」から1年(改正民法637条)、知らなければ10年(改正民法166条1項2号)という不安定な状況となるので、従来の取引実務を踏襲する形で、一応、検収完了後12ヶ月としました。

・請求ではなく「通知」にしてます(改正民法637条1項)。

2項:

・代金減額請求の減額割合の算定基準時を①契約時とするか、②履行期または③引渡時のいずれとするかが法文上明らかではないというのは前述のとおりです。

・現行民法634条1項ただし書は削除されました。もっとも、契約実務上は、記載をそのまま残しておくほうが賢明だと思われます。改正民法412条の2第1項を適用することにより修補請求(追完請求)の限界は存在すると考えられます。

3項:

瑕疵担保責任に基づく損害賠償(現行民法634条2項)から、改正民法では債務不履行責任に一本化されたことから、一般の債務不履行に基づく損害賠償 (改正民法415条)が適用されます。

追完または代金減額されても別途損害賠償請求は可能となります(改正民法564条、要件を満たせば解除も可能)[i]

このままだと、追完請求したのに賠償請求されるというベンダにとってはつらい状況になりますし、バグが生じようにするとすればテスト段階で相当な工数をかける必要があり開発費用は膨らむので、折り合いとして、まずは修正し、修正できない場合は代金減額、代金減額してもなお別途損害が生じている場合は損害賠償という形に修正しました。

4項:

改正民法636条ただし書のままです。もっとも、システムそのものは複雑な構成をとることがあり、現実的に不具合を調査した結果、ユーザ側の帰責事由があったような場合の修正(追完)費用や調査費用等については本契約で取り決められていません。この点もトラブルとなる可能性があるので、事前に契約で取り決める必要があるように思われます。(規定例としてJISAのモデル契約を参照してください)

 

4.損害賠償

債務不履行に基づく損害賠償(改正民法415条)については、過失責任主義の否定という大きな変更点もありますが、契約実務上は、期間制限のほうも重要です。債務不履行に基づく損害賠償(改正民法415条)は、契約不適合を知った時から1年(改正民法637条1項)、不適合がそのまま判明しなければ10年(改正民法166条1項)となります。あわせて生じ消滅時効5年を定めた商法522条も削除されるので注意が必要です。

(損害賠償)

第53条 

甲及び乙は、本契約及び個別契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、(○○○の損害に限り)損害賠償を請求することができる。但しなお、この請求は、当該損害賠償の請求原因となる当該個別契約に定める納品物の検収完了日又は業務の終了確認日から1年以内に契約不適合を知った旨の通知を行うものとし、当該期間が経過した後は行うことができない。但し、当該損害賠償の請求原因となる当該個別契約に定める納品物の検収完了日又は業務の終了確認日において、乙が契約不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは適用しない。

2. 前項の損害賠償の累計総額は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、当該損害発生の直接帰責事由の原因となった個別契約に定める○○○の金額を限度とする。

3. 前項は、損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づく場合には適用しないものとする。

1項:

・「履行」を削除したのは、完成の前後を問わず、債務不履行責任の規律が適用(改正民法415条)されるためです。

・なお書き、ただし書きは、改正民法637条のとおりです。

2項:

不法行為にも契約(約款)の賠償限度額が適用されるとする判例もありますが、あれは宅配便の利便性と公共インフラとしての性格を考慮したものであり、システム開発において常に妥当するとは思われません。したがって、契約責任に限定しています。

3項:

この規定に関しては、東京地判平成26年1月23日(SQLインジェクション)を参照してください。権利侵害の結果について故意を有する場合や重過失がある場合まで損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは著しく衡平を害するものであって、当事者の通常の意思に合致しないということで、故意又は重大な過失がある場合は契約に定められていた賠償上限額の規定が適用されないとしました。

 

5.まとめ

契約実務に生かすという観点をもって改正民法を勉強するとかなり力がつくのではないでしょうか。契約実務に生かすとなると、やはり本質的な理解が必要となることに気が付きます。そういった本物の実力をつけていくことが、これからの時代を生き抜く一つの力になると思われます。(また、契約の全体的な整合性をとるにさらに著作権法特許法不正競争防止法、税法、(場合によっては独占禁止法、下請法、労働法)の理解が必要)

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

次はしょぼんぬさん(@pnt_law22) です。

よろしくお願い致します。

 

*1

 

[i] もっとも、何をもって公平かという問題もあります。契約条項の標準化と同時に契約交渉においては「当事者双方の正当な要望を可能な限り満足させ、対立する利害を公平に調整し、時間がたっても効力を失わず、また社会の利益を考慮に入れた解決」(ロジャー・フィッシャー他『新版 ハーバード流交渉術』阪急コミュニケーションズ、1998年6頁)がなされているかというプロセスも重要です。

[ii] なお、本件投稿は、専ら私個人の見解であり、私の所属する企業・団体等の見解ではありません。

[i] 新法による債務不履行責任の一元化は法理論の転換というより取引社会の変化が大きな要因とされています。①特定物中心の社会から産業革命を経て不特定物中心の社会となったこと、②取引がグローバル化したこと、③売主による追完が容易になったことが指摘されています。

[i] このあたりの解説は潮見先生の赤本263頁~265頁が詳しいです。

 

*1:ここに脚注を書きます

グループ企業間の法律事務の取り扱いと弁護士法72条について

‪@jun_k00 さんからバトンを受け取りました。マイニチぱみゅぱみゅです。

 

今回初めて、法務系 Advent Calendar 2016 - Adventarに参加させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

私自身のテーマは、グループ企業間の法律事務の取り扱いと弁護士法72条についてです。

 

近年、会社が事業統合するに当たり、純粋持株会社を設立し、本社機能はすべて子会社に移管するようなケースや、グローバル案件やM&A案件等を取り扱う法務機能は親会社に残しつつ、その他の法務機能を移管しようとするケースがあります。

 

親会社から子会社への法律事務の取り扱いについては、平成28年6月に法務省が公表した親子会社間の法律事務の取扱いについて(弁護士法第72条関係) にて一定程度許容される可能性が広がりましたが、法務機能を移管した子会社から親会社に対して有償で法務サービスを提供する場合や、親会社を同じくする他の子会社に対して法務サービスを提供する場合については、指針が示されておらず、弁護士法72条との関係でどの程度許容されうるのかわかりません。

 

そこで、指針が示されていない子会社による親会社または親会社を同じする子会社に対する法務サービスの提供がどの程度許容されるのか、「親子会社間の法律事務の取扱いについて(弁護士法第72条関係) 」を参考に考えてみた次第です。(なお、本記事にて示された見解は私個人の見解であって、官公庁および裁判所による見解ではありません。)

 

子会社から親会社・親会社を同じする子会社に対して契約審査業務を、法務サービスとして提供する場合を例に考えてみたいと思います。

親子会社間の法律事務の取扱いについて(弁護士法第72条関係) 」に記載されている例では、「子会社の通常の業務に伴う契約について,法的問題点を調査検討の上,契約書や約款のひな形を提供し,子会社が作成したものをチェックし,契約条項や約款の一般的な解釈等,一般的な法的意見を述べること」とあります。

これを要素分解してみると次の①~③に大まかに分けられると思います。

①通常の業務に伴う契約であること⇒事件性がなく、かつ、定型的なその会社のサービスや取引に関する契約の範囲に限る

②子会社が作成したものをチェック⇒あくまでも契約主体となる当事者性が求められている

③契約条項や約款の一般的な解釈等,一般的な法的意見を述べる⇒損害賠償の範囲が一切となっていた場合、賠償額が高額になるおそれがあるといった契約に関する一般的な知識で対応できるもの等

 

上記の①から③で抜き出した要素が、子会社から親会社、子会社から親会社を同じする子会社に対して法務サービスとして提供する契約審査業務として提供した場合でも踏まえられていれば、実質的には自社内の契約審査と変わらず、自社内の契約審査フローを法務機能を移管した子会社に切り出して行わせてるに過ぎないと思われます。

 

他方、親会社や他の子会社の事業部門(契約主体)の代理人として、顧客と契約交渉を行うというような法務サービスは、弁護士法72条に違反するように思われます。自社内の契約審査フローのように閉じた範囲での法律事務ではなく、契約主体である親会社や他の子会社と相手方たる顧客との間に入っていくものなので、弁護士法の72条の趣旨(最大判46年7月14日刑集25巻5号690頁)及ぶ可能性が高いからです。

 

この問題についてはもう少し自分の中で掘り下げていきたいなと思い、また他社事例等を研究したいと思います。

 

次は、kanegoontaさんです!

よろしくお願いします! 

 

 

 

 

 

 

 

個人的メモ:平成21年度(新)司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)

お久しぶりです。

今日は平成21年度(新)司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)を検討していきたいと思います。

 

第1 設問1

1 捜索・差押えに伴う写真撮影の適法性について

(1)本件写真撮影は、「強制の処分」(刑訴法197条ただし書)にあたる。

(2)本件写真撮影は「検証」であるから、検証許可状が原則として必要。もっとも、本件における写真撮影に伴うプライバシー侵害は、捜索差押許可状において許容されているのではないか。

 捜索差押許可状は、場所に対するプライバシー及び財産的侵害を許容するものであるの。写真撮影に伴うプライバシー侵害は、捜査対象者の生活態様等個人のプライバシーを半永久的に侵害し続ける。原則として、写真撮影に伴うプライバシー侵害は、捜索差押許可状において許容されるものではない。しかし、①令状の執行状況、②証拠の保全等は、捜査の適法性を明らかにする上で相当な手段であるから、適法。また、③証拠収集手段を写真撮影に代えることが、財産的侵害することなくより制限的でない手段と認められる場合は、捜査比例の原則から適法。

2 写真撮影①乃至④の適法性について

 「犯罪捜査のための必要」(218条)とは、犯罪の態様、軽重、証拠価値と捜索差押により不利益を受ける者との比較衡量のうえ決する。

(1)写真撮影①

 差し押さえる物件の内、「メモ」にあたる。

 証拠収集手段を写真撮影に代えることが、財産的侵害することなくより制限的でない手段と認められる場合にあたり、捜査比例の原則から適法。

 証拠価値→甲の証言の信用性を補強するもの

(2)写真撮影②

 鉛筆で書き込み→改ざんのおそれ→②証拠の保全のため適法

 証拠価値→甲が乙から30万円の報酬を受け取ったことを裏付けるもの

(3)写真撮影③

 証拠保全。適法

 証拠価値→X銀行の通帳のみが犯罪に供されたものということを強調するため

(4)写真撮影④

 証拠保全。適法

 証拠価値→乙のパスポートとともに置かれていたことから、X銀行の通帳が乙の支配化にあった、実質的に乙のものであることを立証するため

 

第2 設問2

1 本件実況見分調書自体の証拠能力について

(1)本件実況見分調書→320条1項にあたる

(2)伝聞例外を検討→321条3項で証拠能力を付与

2 甲の発言部分の証拠能力について

(1)要証事実

 検察官:「被告人が本件車両を海中へ沈めることができたこと」

 弁護人:「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」

原則として当事者が設定した立証趣旨に拘束されるべき。∵当事者主義

ただし、当事者の設定した立証趣旨が意味をなさないとき、または伝聞法則の潜脱にあたるときは、実質的な要証事実との関係で伝聞証拠にあたるかどうか検討。

 

(2)伝聞証拠に当たるかどうかの検討

 伝聞証拠とは、「公判期日外の供述を内容とする証拠であって、公判期日外の供述の内容の真実性を立証するために使用・提出される証拠」である。要証事実との関係で相対的に決まる。

 検察官:「被告人が本件車両を海中へ沈めることができたこと」を要証事実としたとき、甲の供述調書のうち本件事件についての自白の信用性を裏付けるものとして意味をなす。そして、被告人甲において海中に車を沈めることが物理的に可能であったことは、公判期日外の供述の内容の真実性を立証するために使用・提出される証拠にはあたらない。

(3)結論

 よって、甲の供述部分についても証拠能力あり。

 

ざっくりとした答案構成ですが、まず設問1から検討していきましょう。

設問1は、写真撮影に伴うプライバシー侵害は、捜索差押許可状が許容しているプライバシー侵害とは別個のものではないか?捜索差押許可状ではカバーできないのではないか?という点がまず問題になります。憲法35条1項は、物理的空間への侵入・捜索、有体物の押収を対象としていますが、現在では通信傍受であったり、写真撮影等による証拠収集も可能ですので、広くプライバシー侵害を含む証拠収集について令状主義を定めたものと解するべきでしょう。もっとも、捜索差押許可状では財産的侵害と捜索対象となった場所のプライバシー侵害を許容しているに過ぎませんので、あらたなプライバシー侵害が生じる場合は、別途検証令状が必要だと思われます。ここでは、捜索押収に伴う写真撮影によるプライバシー侵害が、捜索差押許可状の許容している範囲内であることを論じなければなりません。そこで、『①令状の執行状況、②証拠の保全等は、捜査の適法性を明らかにする上で相当な手段であるから、適法。また、③証拠収集手段を写真撮影に代えることが、財産的侵害することなくより制限的でない手段と認められる場合は、捜査比例の原則から適法。』という形で、捜索押収に伴う写真撮影によるプライバシー侵害が、捜索差押許可状の許容している範囲内であることを論じます。

 あとは、写真撮影①乃至④について、上記①乃至③にあたるかという点と、これらの写真撮影(による証拠)が被告人甲の犯罪を立証する上でどういう証拠価値があるかという点を論証できればいいのではないでしょうか。一つ一つについての検討は割愛しますが、ここはかなり点がふられていると思います。事実評価を丁寧に行いましょう。

 

次に設問2です。

平成17年決定との違いをまず考えましょう。

平成17年決定の事案では、

①検察官の設定した立証趣旨が、それ自体を要証事実とするのは無意味で、実質的には犯罪事実の立証するためのものであり伝聞法則の潜脱にあたること

→だから、裁判所は、実質的な要証事実を前提とした

実況見分調書は321条3項の要件を満たす必要があることはもとより、被告人及び被害者の供述には、322条1項又は324条2項の要件を満たす必要があるとしました。

※被告人供述について再伝聞としなかった理由については、刑訴の最決H17・9・27刑集集59巻7号753頁について、再現者の供述部分が再伝聞に当たらないのはなぜ?を参照

 

では本件との違いはというと、

①検察官:「被告人が本件車両を海中へ沈めることができたこと」という立証趣旨をそのまま要証事実としたとき、甲の供述調書のうち本件事件についての自白の信用性を裏付けるものとして意味をなすという点で違いがあります。甲の供述調書の自白を補強するものとなっている点に気がつくことが大事です。

②甲が海中に車を沈めることが物理的に可能であったことは、供述内容の真実性を立証するものではないので、実況見分調書は321条3項の要件を満たすことによりクリアーできます。

ちなみに、弁護人の考えた要証事実によると、甲の供述は伝聞証拠となります。それは、甲の供述は「公判期日外の供述であって」、海中に車を沈めて死体を遺棄したという内容を事実として認定する場合には、甲の尋問を経て「公判期日外の供述の内容の真実性」を確認しなければならないからです。要は、捜査官Pが現場で甲からとった自白内容を公判廷で犯罪事実認定の証拠に使われるのは、おかしいでしょ?って話です。

 

法的三段論法の小前提は「事実」と説明されますが、これは「証拠→事実」と考えるのが適切であると思います。「証拠と証明すべき事実との関係(これが立証趣旨)」(規則189条1項)の条文の意味と証拠構造を意識することで伝聞の問題を得意にしたいものです。そうでないと実務家としてやっていけませんしね^^;

 

 

 

 

 

 

 

 

リーガルライティング基礎編「CREAC」というツール

お久しぶりです。

 

今日はリーガルライティング基礎編「CREAC」について記事を書こうと思います。

 

先月の法的三段論法の記事に関連していますがより具体的に書いていこうと思います。

 

巷では、問題提起→規範定立→あてはめ→結論というIRACが主流だと思います。しかし、IRACを意識した答案は、意味のない問題提起(「~という請求ができるか。」という問題文に対し、『~が請求できるか。』というもの)や、一方当事者からの主張なのに問題提起をしている不自然なもの、が多数見受けられます。

 

このようなIRACの様式しか書けないと、「結論と理由を述べよ」という新司法試験民事系の問いや、原告訴訟代理人の立場、被告の立場から検討を求める公法系の問いの形式に合致した解答ができないことになります(採点者の印象も悪いと思います。)。

 

そこで、CREAC;Conclusion(結論)→Rule(規範)→Explanation of Rule(規範の理由付け)→Application (適用)→Conclusion(結論)

がおススメです。

「~という請求ができるか。」という問題文に対し、

Conclusion(結論)『~が請求できる。』

Rule(規範) (条文上の)要件

Explanation of Rule(規範の理由付け) 要件解釈の理由

Application (適用) 事実→法的評価(事実の要件該当性の説明)→「要件」

Conclusion(結論)よって、『~が請求できる。』

という感じで、問題提起しなくともきちんと法的三段論法にのっとった形式かつ問いの形式に沿った答案が書けます。

 

法的三段論法についてのフレームワークは、@igakiさんの法律フレームワーク講座 がおすすめです。http://t.co/kgq1hsgk レジュメはこちらからどうぞ。 http://t.co/bA3rpgFI

 

次回は、法的三段論法を実践したうえで、どのような答案になるかブログ上で示したいと思います。

 

 

 

法的三段論法とは何か。

 少し前だったと思いますが、リーガルライティングに関するtweetがかなり反響を呼んだことや、合格者や教員は「法的三段論法が大事!」ということはありますが、それは何故か?ということはほとんど語られることはないです。その不満に応えるべく、今日はリーガルライティングの基本というか、法的思考のアウトラインである法的三段論法を中心に記事を書いていきたいと思います。

 

 法的三段論法は、証拠から認定された事実を法に適用し法的効果を導くものです。図式で書くと(証拠)→事実→要件→効果となります。このような形式的に法適用する意義はなんでしょうか?

 

 形式的な法適用、すなわち「実定法規範に拘束され物事を処理する仕組みは、実力行使や力関係による不当な決着のつけ方を抑止し、国家権力の恣意的な行使を規制することによって、法的安定性を確保し、人々の活動に予測可能な安定した枠組みと指針を提供することを目指している」(田中成明『法学入門』190頁(有斐閣、2005))のです。これが形式的な法適用の意義です。人による支配から、法による支配を目指し、平等の確保を目指すのは、法律家としての基本中の基本といえるでしょう。なので、事例問題を処理する際に、形式的な法適用(事実→要件→効果)の過程が示されていないことは、それだけで法曹不適格とみなされるから、「法的三段論法が大事!」ということになるのです。

 

 もっとも、ある事例を処理する際に、形式的な法適用をすればいいというわけではありません。証拠から事実を導きだす正確な事実認定という小前提の確定と、要件の正確な解釈という大前提の確定がきちんと行われてはじめて、法的効果につき正当化ができるからです。

 

 (新)司法試験の場合は、証拠から事実の確定という事実認定の基礎的な処理ができることが要求されていますが(例えば、伝聞の要証事実の確定)、それ以外の論文試験では、ある事実が要件に該当するかどうかの要件該当性が問われています。「事実を法にあてはめ、法的効果を導く」という法適用の意義をおさえていれば、法曹不適格とみなされる答案を書くことはなくなると思います。

 

 

 

刑訴の最決H17・9・27刑集集59巻7号753頁について、再現者の供述部分が再伝聞に当たらないのはなぜ?

 刑訴の最決H17・9・27刑集59巻7号753頁について、再現者の供述部分が再伝聞に当たらないのはなぜ? という問題提起がtwitter上でありましたので、その点について述べたいと思います。

 

 判旨は、「このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合に は,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同 法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。」としています。

 

 再現者の供述部分が再伝聞とする処理は、実況見分調書自体を321条3項で伝聞過程を解除→実況見分調書を「被告人以外の者の公判(準備)期日における供述」(324条1項)とし再現者供述部分を「被告人の供述をその内容とするもの」(同条1項)→322条準用というものです。しかし、再伝聞とする処理は、署名若しくは押印がいらないということになり、伝聞過程を除去できないまま「証拠」(320条)となり事実認定を誤らせるという危険がある点で妥当ではありません。具体的事例としては、被疑者被告人を事件現場等につれていき実況見分調書とともに自白をとった場合、再伝聞説によれば、実態としては自白の供述録取書なのに被告人の署名若しくは押印がいらないことになり伝聞過程の除去ができないまま証拠となる場合が考えられます。

 

 そこで、本来ならば別の証拠である実況見分調書(321条3項)と供述録取書(322条1項)とが並存しているという説に立ち、署名若しくは押印が必要となると解するべきです(322条1項)。この説によれば、再伝聞説の処理方法である署名若しくは押印がいらないという伝聞過程を除去できないまま「証拠」(320条)となり事実認定を誤らせてしまうという危険を回避することができます。判例はこの立場に立っていると考えられます。再伝聞説は厳格な証明を求める法の趣旨(317条)からも許容されないのでは、と考えています(これは僕の私見)。

 

 判例は「このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については・・・同法321条3項所定の要件を満たす必要があることは『もとより』、再現者の供述の録取部分及び写真については,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要」がある としています。この判旨のうち、『もとより』という部分が並存説の根拠になっているそうです。すなわち、『もとより』とは、「初めから。以前から。もともと。」という意味や、「言うまでもなく。もちろん。」という意味があります。このことから、実況見分調書と供述録取書は、『もとより』別個のものであるという理解が判旨の上で示されているそうです。

 

 

 

 

 

予備試験短答合格者数は増え、司法試験短答合格者数は減る?

予備試験短答合格者数は増え、司法試験短答合格者数は減る?

 

H23年司法試験短答合格者数(5654人)+H23年予備試験短答合格者数(1339人)=6993人が論文試験採点対象者。

 

H24年司法試験短答合格者(5339人)+H24年予備試験短答合格者(1711人)=7050人が論文試験採点対象者。

 

試験委員の採点能力からしておよそ7000人が限界ということなのでしょうか。

 

予備試験は司法試験と同じレベル内容の法律科目について7割の得点(147点)が要求されており、一般教養は3割の得点(18点)をとって、合格点165点となります。

 

司法試験に関しても7割(245点)はないと最終合格には厳しいといわれています。

 

これは憶測ですが、去年と今年の予備試験、司法試験の短答合格者数の推移を見ていると、司法試験委員会は司法試験・予備試験の法律科目に関しては共通して7割の得点を取ることを要求しており、予備試験合格者(法律科目7割、一般教養3割)が増えるにつれて司法試験短答合格のボーダーが上がり、司法試験短答受験者下位層が切り捨てられることを意味しているのではないでしょうか。

 

予備試験はおそらく去年の短答に合格した人は今年も受験しているはずなので、去年最終合格をした人を除くと、500人程度合格者が増えているのではないでしょうか。

 

予備試験短答合格は簡単ではないですが、かといって乗り越えられない壁ではないと思います。予備短答合格できないのは司法試験短答も落ちるということですから、早い段階で予備短答に合格するほうが司法試験合格率を高めるものだと思います、