「達人伝」感想(第193話・蕞の気炎)

「達人伝」感想(第193話・蕞の気炎)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は「第193話・蕞(さい)の気炎」です!

<丹の三侠〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜盗跖の血〜 

鍬で墓を掘る邦(バン)。

横たわっているのは,いくつもの首のない死体。

邦は,駆けつけてきた部下たちに,墓掘りと盗跖(とうせき)姉さんの形見を根城に届けてほしいと頼みます。

 

なぜ邦は,盗跖軍が秦軍に襲われたのがわかったのか?

胸騒ぎなどというものではなく,激しく体の奥底から呼ばれたから。

もしかして呼ばれたのは,俺に流れる盗跖の血なのかもしれない,と邦は言います。

 

しかし,まだ止まない胸騒ぎ。

「なんだ この胸騒ぎは!?」

丹の三侠の顔が浮かび,邦は不安に襲われます。

<盗跖の血を引く劉邦漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜血と遺伝〜 

先日,是枝裕和監督の映画「ベイビー・ブローカー」を観てきました。

生まれてきた命の重み,血のつながりを考えさせられる,素晴らしい作品でした。

 

是枝監督作品といえば,「そして父になる」がお気に入り。

生後直後,取り違えて育てられた子供たちが,成長してから真実を知り,どちらの家庭で暮らすべきか親子ともども葛藤する話です。

「産みの親と育ての親,血のつながりと共有時間のつながり,どちらが大切?」という,ある意味で究極の問い。

 

一般的には,「そりゃ,育ての親の方が大事でしょう!」となりそうですが,是枝監督は綺麗事で済まさない。

知的レベルの高い親からは,同じような子供が生まれる可能性が高いし,運動神経が良い親からは,運動音痴の子供が生まれる可能性は低い。

 

才能は遺伝する。

努力より才能の影響の方が大きい。

身も蓋もない話ですが,人々がうすうす気付いているけれども,目を背けている真実ではないでしょうか。

 

もちろん,努力の有用性や育ての親を否定するつもりは,まったくありません。

ただ,現代社会は才能や遺伝の影響を軽視し,努力やGRIT(やり抜く力),レジリエンス(強靭さ)で成功できる!とする風潮が強いように思います。

本人がそうしたいのなら,べつにかまいませんが,世の中それほどあまくない。

まるで才能のない分野でしゃかりきに頑張っても,周囲に認められるような成果を出すのは難しいでしょう。

 

盗跖の血。

強烈な個性,特性を持つ人物の血や遺伝子は,脈々と受け継がれても不思議はありません。

達人伝〜廉頗の帰着〜

廉頗(れんぱ)が函谷関に到着。

感慨に耽る廉頗に,連合軍総司令官・龐煖(ほうけん)は,衛兵が全く配備されておらず関門すら開け放たれていたこと,この先の潼関(どうかん)も同様と話します。

内部へ引き込む秦の策謀だろう,と廉頗。

廉頗は,信陵君の食客だった人々を集めて挙兵した張耳(ちょうじ)を龐煖に紹介します。

 

「いよいよ秦都侵攻か!」と鼻息の荒い趙将・孟梁(もうりょう)も到着。

龐煖は,廉頗の負傷が深いと見てとり,この函谷関で打ち払った敵の反撃に備えてほしいと要請。

廉頗は,承知したと言いつつ,必ずや前線で戦う機を与えてくれるよう,龐煖に釘をさします。

達人伝〜レジェンド廉頗〜

廉頗が登場すると,何とも言えない安定感やカリスマ性,いわゆる華があると感じます。

 

先日,ひろゆき氏の本を読んでいたところ,「優位な立場で仕事を進めたいなら,体を鍛えて大きくしろ」とあり,なるほどと思いました。

しょせん,人間も動物なので,相手が自分より背が大きかったり筋骨隆々だったりすると,本能的に無意識のうちに「こいつには勝てない」「この人は頼りにできそうだ」と感じ,仕事へ如実に影響するという話です。

 

最近だと,ドナルド・トランプが長身で(190cm),その考えや言動はさておき,「力強いリーダーとして我々の利益を守ってくれるだろう」と,無意識のうちに人々を魅了したのではないでしょうか。

もし,トランプの身長が平均より小柄な160cm程度だったりしたら,当選することもなかったのではないか,と想像します。

 

曹操豊臣秀吉,ナポレオンは小柄だったようですが,個の武を本領とする武将系で体格が小さかった人物は,あまり思い浮かびません。

レジェンド廉頗も,おそらく長身だったり,相当マッチョな体格だったことでしょう。

達人伝も最終章,廉頗のさらなる活躍に期待したいと思います!

達人伝〜秦王の弟〜

場面は,秦の蕞(さい)城。

秦王の異母弟・嬴成蟜(えいせいきょう)が,「軍事に内政 あらゆることを細部まで己が意のままにせねば気が済まぬのか!」と,憤然とした表情で兄の秦王との会話を回想します。

 

秦王は,まず「余と似た所が皆無の弟よ」と皮肉。

続いて,蕞での戦闘の狙いは,すぐ西の都の民草を恐怖に追い込むことであり,激戦を演出した後に徐々に攻撃の手を緩め,敵を調子づかせて突破させてやるよう命令。

 

回想から戻った成蟜は,なにが演出だ!戦闘は伎芸ではない!と怒り心頭。

敵が陣を進め始めたとの報告に,「撃破するぞ!」と指示。

そもそも,民に恐怖を強いるなど,王の考えであってはならぬのだ!と固い決意で進軍します。

<秦王の異母弟・嬴成蟜〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜成蟜〜

異母弟の成蟜は,父である前秦王・子楚に似ていますね。

父子なので,似ているのは当たり前ですが,現秦王・嬴政の実父は呂不韋

父も母も異なるこの兄弟が似ていないのは,当然といえば当然でしょう。

 

史実では,成蟜は謀反を起こして死亡することになっています。

兄の秦王への反感と,本気で連合軍を撃退しようとする行為すら,秦王の計算の内という気もしますが,この成蟜の存在が意外と重要な役割を果たしそうな予感がします。

達人伝〜秦に勝つとは?〜

秦軍へ向け,進軍を開始した連合軍・丹の三侠。

無名(ウーミン)と庖丁(ほうてい)が左右から揺さぶりをかけ,荘丹(そうたん)は好機を捉えて中央を衝き,敵指揮官の力量を量る作戦。

 

「秦に勝つとは何だ?」と問う荘丹。

秦以外の国を消し去る野望を粉々に打ち砕くこと,と無名。

二度と中原に攻め出る気が起こらないくらい戦意をぶっこ抜くこと,と庖丁。

 

「勝てるか秦に?」と問う荘丹。

勝ったる!と無名。

勝たにゃならねえ!と庖丁。

 

無名は,秦に勝ったらこの世で一番うまい飯を食わせろよと言い,包丁は,必ず勝って食わせてやると答えます。

 

「勝とう 勝てるぞ 今の秦に白起はいない」と荘丹。

丹の三侠は,命の気炎をまっ赤に燃え盛らせ,秦軍に突っ込んで行きます。

<気炎を上げる荘丹〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜流氓の戦い〜

秦の始皇帝が確立した中央集権独裁体制は,ある意味でもっとも効率の良い政治体制です。

中国は,とにかく人が多い。国土も広い。

貨幣,計量単位,法律などのルールが地域によってバラバラでは,トラブルや非効率的な面もさぞ多かっただろうと想像できます。

 

特に,戦乱,災害,病疫が流行る非常時においては,独裁者のリーダーシップのもと,トップダウンの施策を取った方が有効な結果をもたらす例は,しばしばあります(現在の中国におけるコロナ対策など)。

 

しかし,イギリス元首相チャーチルは言いました。

民主主義は,最悪の政治形態である。これまで試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除いて。

 

つまり,中央集権独裁体制の最大の弱点は,リーダーが誤った対応をした際に,社会が取り返しのつかないダメージを負うこと。

毛沢東がスズメを害虫に指定した結果,人々がスズメを捕まえまくり,それまでスズメが食べていた穀物の害虫が爆発的に増加して数千万人が餓死した事実は,その際たる例といえるでしょう。

 

個性や多様性を尊重し,時間をかけて話し合いを重ね妥協点を見出しながら施策を進めていく民主主義は,きわめてコストのかかる政治体制です。

切迫した非常時には,機能不全に陥ることもしばしば。

しかし,人類が経験してきた中では,一番ましなのでしょう。

 

中央集権独裁体制は,しばしば公権力者(=紳士)が良かれと思って推進したがるもの。

その流れを止めるのは,丹の三侠のように,無名で無数のつながりを持つ流氓(りゅうぼう)しかいないのかもしれません。

<丹の三侠〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜白起の再現〜

丹の三侠が噴き上げる気炎を感じ取る秦王。

成蟜率いる秦軍に襲いかかる,丹の三侠。

秦王は,「うってつけだ」「もっと激しく 上げろ上げろ」「都の民草が感じ取って より戦(おのの)く」「そして一気に鎮めれば さぞかし痛快」。

「楽しみだな 白起がやった生き埋めの再現」と続けます。

<罠を張り待ち構える秦王〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜まとめ〜

秦王の戦略の全容が明らかになりました。

連合軍を油断させて深く引き入た後,強力な異民族軍団で撃破し,生き埋めに追い込む。

白起が長平の戦いで行った趙兵の生き埋め20万人は,残虐でめちゃくちゃエグかった。

あれを再現しようというわけです。

 

現実に,そんなことが可能なのか?

天才的な用兵術を持つ白起以外の者にできるのか?

丹の三侠の運命はどうなる?

次回の展開に乞うご期待です!

 

余談ですが,2019年に達人伝の感想を書き始めて,今回で40回目(たぶん)。

あちこちへ飛ぶ空想夢想に,おつきあいいただいている読者の皆さまには,心より感謝申し上げます。

これまで書き散らかしてきたものをまとめたら,1冊の本にならないか,達人伝の魅力発信に貢献できないかと考えたのですが,ちょっと厳しいですかね(笑)

 

※諸事情により,当面の間,達人伝のレビューは休載とさせていただきます。

体調不良ではなく,他のブログへ引っ越すわけでもありません。

いつも読んでいただいている読者の皆さま,申し訳ございません。

 

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達人伝の魅力をこまかく,マニアックに語り始めるとキリがありません!

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「達人伝」感想(第192話・無人の関)

「達人伝」感想(第192話・無人の関)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は「第192話・無人の関」です。

<楚将・項燕(こうえん)〜漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜春申君救出〜 

春申君を生け捕り,動くなと項燕に言う秦将・黄壁(こうへき)。

しかし,春申君は「否!わが命はわが掌中にのみある!」

続けて,春申君 黄歇(こうあつ)の天命は,この一戦にて尽くし切ると宣言。

黄壁は,春申君の口舌は何もかもが詐術であり,思うままにはさせないと言います。

 

と,そこへ項燕が突入。

黄壁と楊端和を蹴散らし,春申君を救出します。

 

「大楚(タアチュウ)!」

声高らかに宣言する春申君。

全軍,寿陵(じゅりょう)へ向けて進撃開始。

 

「大楚(タアチュウ)」と大呼し,勢いのついた楚軍は秦軍を突破。

助かったと謝意を表する春申君。

項燕は,敵の追手が現れず,しかも嶢関(ぎょうかん)が無人だったため訝しいと感じ,こちらへ抜けてきたと答えます。

<最後の戦国四君・春申君〜漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜春申君の覚悟〜 

春申君の覚悟は,さすがの一言。

「完璧」の由来となった趙の藺相如(りんしょうじょ)のエピソードを思い出します。

 

天下に轟く趙の国宝「和氏の璧(かしのへき)」という玉(ぎょく)の評判を聞き,15の城との交換を持ちかけた秦王。

藺相如は,秦王は実際に城を渡す気はないと看破。

「じつはその玉には傷がある」と言って秦王の手から取り上げ,「城を渡す気がないなら,この玉と頭を柱に撃ちつけ,粉々にしてやる!」と大激怒(「怒髪天を突く」の由来)。

気迫に驚いた秦王が説得に努めている間,藺相如は玉をこっそり趙へ持ち帰らせます。

秦王が藺相如を殺しても,玉は手に入らない。

ここは趙に恩を売っておこうということで,藺相如は玉を守り切った上で無事帰国できたという話です。

 

この「完璧」と,さらに激しい藺相如と秦王の「澠池(べんち)の会」のエピソードが,達人伝コミック9巻,第49話「完璧の使者」に描かれています。

興味のある方は,ぜひ。

 

「覚悟」といえば,伊達政宗の父・伊達輝宗のエピソードも壮絶です。

伊達家に降伏した二本松城主・畠山義継が,何を血迷ったのか挨拶に来た輝宗を拉致(輝宗は,既に家督政宗に譲っていて引退の身)。

政宗は不在で,家臣たちは何とか傷つけずに輝宗を取り戻そうと追跡。

あと少しで二本松領という地に至り,このま捕虜として敵地に入っては政宗を迷わせると判断した輝宗は「自分を撃て!」

主君の父の命に逡巡しながら,伊達勢は一斉射撃。

その結果,畠山義継,伊達輝宗はじめ二本松勢は全員死亡。

鷹狩り中だった政宗が現場に駆けつけたのは,すべてが終わった後。

輝宗,享年42歳。

子に迷惑をかけまいという,戦国時代の父の凄まじい「覚悟」です。

<春申君〜漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜湖関の王翦

場面は変わり,湖関(こかん)の秦将・王翦(おうせん)。

戦った形跡がまるでなく,衛兵が配備されていなかった様子から,最強の国に関所はいらないという秦王の考えを推察。

難なく湖関を抜いた李牧は,間違いなく櫟陽(れきよう)に兵を進めたはず。

間道を使えば,まだ侵攻を阻むことができると考えます。

 

李牧に射られた頭の傷が痛む王翦

包帯姿の王翦さん,セクシーですね(笑)

 

「目病み女に風邪ひき男」という言葉があります。

目を患っている女はその潤んだ目つきが男心をくすぐり,風邪ひきの男はその鼻にかかった声が女心をくすぐるという意味です。

江戸時代のいわゆる「萌え」「セクシー」を表現した,言い得て妙なことわざです。

 

アメリカのR&B女性グループ・TLCの「Crazy Sexy Cool」というアルバムがあります。

この「クレイジー」「セクシー」「クール」の要素分類は,極めて秀逸と思いませんか?

「クレイジー」とは情熱,「クール」とは冷静さ。

クレイジーな情熱と,クールに振り返る冷静さがないと,何事も成功はおぼつかないでしょう。

そして,「クレイジー」「クール」があれば,おおよそのことはうまくいくと思えますが,意外と見落としがちで重要なのが「セクシー」。

セクシー=性的魅力をイメージしますが,粋(いき),洒脱,エモさ,萌え,センスなどの「数値化や言語化が難しい感覚」といってもいいかもしれません。

 

ここでは,それぞれの言葉の差異はさておき「セクシー」に統一しますが,「セクシー」こそ,意外なところで事の成否を分ける魅力であり,あるいは,コンピューターやAIには代替できない人間に残された「最後のフロンティア」ではないでしょうか。

 

たとえば,この王翦の絵を見て,AIがセクシーさを感知したり,「セクシーさ80%」といった数値化や定量化は困難でしょう。

王欣太先生の絵には,しばしばドキッとするセクシーさを感じます。

達人伝の登場人物だと,女性では朱姫や盗跖姉さん,男性では盗跖(8代目)や李牧が色気ありあり。

 

反対に,絵はとても上手だけど,グッとくるエモさを感じない漫画や,目鼻立ちの整った綺麗な顔立ちだけど,どこかお人形さんのようで現実感が感じられない,すなわち血の通った魅力が感じられない美人やイケメンも,たくさんいます。

 

この差って,何なのでしょう?

かくいう私自身,セクシーとは無縁の人間です。

セクシーは,どうやったら身につけられるのでしょう?(笑)

<秦将・王翦漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜潼関の荘丹〜

潼関(どうかん)の荘丹(そうたん)と無名(ウーミン)。

函谷関に続き,潼関も無人

秦の罠か,計略か。引き込んで迎え撃つ腹か。

いずれにせよ,いよいよ虎狼の腹の中に入る覚悟を決めます。

達人伝〜秦都動揺〜

場面は変わり,秦都・咸陽(かんよう)。

10数万の連合軍が侵攻。総司令官は趙の龐煖。

さらに,李牧,廉頗,春申君,項燕が参戦。

函谷関,潼関,湖関,寿陵の各方面から秦都・咸陽に迫るとの知らせに,動揺する家臣たち。

余裕の表情で,その様子を楽しむ秦王。

 

宰相・呂不韋(りょふい)は,軍の参謀長官・李斯(りし)を詰問。

王命によりすべての関を無人にしたこと,秦王自ら指揮を執ること,秦軍総帥・蒙驁(もうごう)が討たれたことを知り,呂不韋は驚愕します。

達人伝〜時勢を奪う時〜

呂不韋はどうしているのだろう,と話す荘丹と無名。

今までよりずっと汚い謀略を操る秦から,呂不韋の臭いがしてこない。

呂不韋は根っからの商売人であり,人を騙すようなことをしていたら,商売は長く続けられない。

鮮やかに宰相まで上りつめたのに,秦王に牛耳られてしまったのだろうか。

昔,占いのじいさんが,冷たくて青い蛇が虎狼の体に入ってはらませ,とんでもないものが産まれると予言していたのが,やはり秦王・嬴政(えいせい)だったのか。

 

荘丹と無名は,先行して偵察していた庖丁(ほうてい)と合流。

庖丁は,前方の小城から兵が出て陣を敷き始めており,左手の先の平地が広がる辺りが秦都・咸陽であろう,と。

進軍してくる李牧の響きに,春申君と項燕が率いる楚軍の気勢。

 

「ここに 俺たちが まっ赤に燃える炎の渦をぶっ立てると」と無名。

荘丹は「天地の間に達人を求め 天下の経穴を押して巡り やっとここまで来た!」

これまで秦と戦い,失われた無数の魂。

戦・力では,決して消し去ることのできない炎の命。

無数の命を大渦にして,時勢を奪う時が来た!

丹の三侠は,「いざ,秦の底をぶち抜くぞ」と誓います。

<無名(右)と庖丁(左)〜漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜まとめ〜

いよいよ,秦都・咸陽が目前。

思えば,ここまで長い道のりでした。

 

はじめ,荘丹の仕えていた小国が,秦の謀略によって滅亡。

かろうじて生き延びた荘丹は,天下の達人を集め,秦を打倒することを誓います。

庖丁,無名と出会い,「丹の三侠」を結成。

盗跖,朱涯,孟嘗君,平原君,信陵君はじめ,天下の名だたる名士と縁を得て,秦を倒すため奔走。

倒れても,倒れても,決して屈さず,無数の炎の命を連綿と繋いできた丹の三侠。

 

話は飛びますが,先日,映画「トップガン マーヴェリック」を鑑賞。

これが,じつに胸熱で,アドレナリン出まくり。

ドッカーンと脳がシビれるほど感動。

ただ,冷静に考えれば,36年前の前作が伏線として効いているものの,シナリオとして驚くような奇抜な要素は特段なし。

なのですが,「見せ方」「描き方」「持って行き方」がじつにうまい。

あと,やはりトム・クルーズはじめ,キャラクター造形が秀逸ですね。

 

2013年に連載開始した達人伝は,今年2022年で10年目。

着々と蓄えられてきたエネルギーが沸点に達し,クライマックスを迎えようとしています。

王欣太先生の「見せ方」「描き方」「持って行き方」の力量は,間違いなし。

「クレイジー」「セクシー」「クール」の各要素も,ふんだんに盛り込まれてくるでしょう。

 

次回以降の展開に,乞うご期待です!

<丹の三侠〜漫画アクション2022/6/7発売号「達人伝」より〜>

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「達人伝」感想(第191話・独裁者の世に)

「達人伝」感想(第191話・独裁者の世に)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は「第191話・独裁者の世に」です。

戦国四君の最後の生き残り,春申君が熱い!

<秦王・嬴政(えいせい)〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜函谷関制圧〜 

函谷関を突破し,前軍を率いて潼関を攻めるよう丹の三侠(あかしのさんきょう)に指示する,連合軍総司令官・龐煖(ほうけん)。

連合軍本隊は函谷関を完全制圧し,秦都攻撃の本営とする戦略。

 

場面は変わり,秦都・咸陽(かんよう)。

秦軍総帥の副官・蒙武(もうぶ)が帰還。国家緊急事態につき,至急,全武官を招集するよう進言します。

春申君率いる楚軍数万が武関・方面に進軍し,さらに敵は函谷関に迫っていると。

 

しかし,軍参謀事務官の長である長史・李斯(りし)は,「そんなことは疾うに伝わっている」。

「すべての関を無人にし 来る敵を皆引き入れてやれ」「それが王さまのご意向だ」と。

 

敵の侵攻を一切防がないのかと驚く蒙武。

李斯は,「秦の民に侵攻の恐怖を味わわせた後に敵を殲滅する」「政権への民の敬意と信頼を高め 改めて秦国への絶対的忠誠を誓わせるよい機会だ」と続けます。

 

しかし,父である総帥・蒙驁(もうごう)から,「戦況を知るおまえが主となり 都で対応策を講じるのだ!」と指示されていた蒙武は,上奏したい,王さまは今どこにいるのかと質問。

秦王は,郊外で引き入れた敵を皆殺しにするための軍を閲兵中であると,李斯は答えます。

<李斯と蒙武〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜秦王の戦略〜 

秦王の戦略が明らかになりました。

あえて国内に引き入れた上で,殲滅すると。

 

通常であれば,防備に適した関所で防ぐのが最も効率的かつ効果的。

しかし,あえて秦国内へ引き入れることで民に侵攻の恐怖を味わわせ,しかる後に敵を殲滅し,政権への敬意と信頼を高めるという,とんでもない戦略です。

一歩間違えば,首都陥落。

敵を殲滅できる絶対的な自信がなければ,実行できない戦略です。

 

敵を自国の奥深くまで引き入れて殲滅を図った戦争といえば,ロシア。

ヨーロッパ最強を誇ったナポレオンもヒトラーも,首都モスクワを目前にしてロシア侵攻に失敗しました。

ただ,私の理解では,ロシアがはじめから意図的に自国引き入れ殲滅戦略を採用したというよりは,結果的にそうなった,という方が真実に近いのではないかと。

かつ,ロシア特有の「冬将軍」という地理的条件がなければ,撤退には至らなかったでしょう。

 

冬将軍といえば,こんなジョークがあります。

かつて,エジプトのナセル大統領は,イスラエルと交戦。

エジプトと親しかったソ連は軍事顧問団を派遣し,酷暑のエジプトに極寒のシベリア仕様の塹壕や戦車を配備。

戦況が思わしくないナセルに,ソ連の軍事顧問団は言った。

「絶望しちゃいけません。待つことです。耐えることです。やがて冬が来る。冬が来れば雪が降る。雪が降れば,我々は経験豊富です!」

 

ちなみに,独ソ戦の死者数は,ソ連軍が約1500万人,ドイツ軍が約400万人。

民間人を入れると,ソ連は約2000〜3000万人,ドイツは約600〜1000万人。

当時のソ連の人口が約1億9000万人なので,国民の約10〜15%が死亡した計算です。

第2次世界大戦における日本(人口約7000万人)の死者数(民間人を含む)約300万人(約4%)と比べても,桁違いの凄まじさが伝わります。

それくらい,国内に引き入れて戦うのは,多くの犠牲を伴うのが通常でしょう。

 

さて,冬将軍ではなく,異民族軍団あたりを活用するのではないかと考えられますが,秦王の殲滅戦略とは,具体的にどのようなものなのでしょうか?

達人伝〜追撃の秦軍〜

場面は変わり,武関方面。

連合軍の春申君を追う秦将・黄壁(こうへき),桓齮(かんき),楊端和(ようたんわ)。

黄壁は2人に言います。

「麃公将軍に嘱望された君たちは 必ずや将軍職を掴まねばならない!」「以後は各各 将軍のごとく考え振るまい戦うのだ!」

 

敵情は常に自身で思い描くこと,敵の動きを地形,大気,鳥獣など,あらゆるものから推し量り続けるよう言われた桓齮と楊端和は,数万もの進軍なのに山間に砂塵が上がっていないことから,連合軍に停滞はなく,武関は既に抜かれたと推測。

さらに,細く伸びきった状態で進軍していること,進軍は遅いが追いついても追撃は難しいことを予想。

 

黄壁は,「そのまま策を考えよ」。

汗をかきかき考え抜いた2人は,武関の向こうへ回り込むしかない!と結論づけます。

3人は,猟師しか使わなくなった古道を行き,春申君の先回りを図ります。


<桓齮と楊端和を指導する秦将・黄壁〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜後進の育成〜

後進の育成は難しいもの。

特に,麃公(ひょうこう)のような天才タイプだと,ミスターこと長嶋茂雄氏のように「スーッと来た球をガーンと打つ」など直感的かつ抽象的な表現で,凡人には理解しがたい指導になってしまいがち。

その点,黄壁は秀才タイプと思われ,自身が悩み,考えてきたポイントや勘所を的確に伝えられそうです。

 

しかし,その場合でも重要なのは,一から十まで「答え」を教えないこと。

なるべく,自分の考える「答え」は控え,あくまで「考え方」「心構え」を説くこと。

自分の「答え」を押しつけると,「自分の頭で考える力」が育たず,自身の劣化コピーを作るだけでしょう。

 

方向性を示し,答えは言わない。

じっと待つ。

答えを言ってしまった方が簡単で早いものの,この「待つ」「耐える」という姿勢こそ,後進の育成の肝ではないでしょうか。

優秀な人材であれば,今回の桓齮や楊端和のように,自身では思いかない斬新で素晴らしいアイデアが出てきたりするもの。

個人の能力を最大限に活かし,組織の多様化,活性化を図る意味でも,「聴くこと」「待つこと」「尊重すること」は大事ですね。

達人伝〜春申君の危機〜

楚国宰相・春申君が率いる楚軍約5万。

無人の武関を抜き,両側に山が迫る細い道を進軍しながら,春申君は「秦は格段に気味の悪い国になった」。

人質として居た頃も,どんよりと息苦しい国であったが,今の秦国内の押し殺した呻き,すべては今の王の性質が要因であろうと。

呂不韋の才覚をもってしても制御できず,荘丹が予見していたとおり,あの秦王こそが天下を奪い,暗黒の世を生むのではないかと。

 

と,そこへ,山の両側から落石と共に桓齮率いる秦軍が襲いかかり,春申君の背後が塞がれます。

続いて,楊端和率いる秦軍が前方に現れ,春申君を護衛する将兵たちが瞬殺。

ひとり、取り残された春申君。

「抵抗すりゃ 春申君をぶっ殺すぞ!」と,楚軍を牽制する桓齮。

 

5万の大軍を率いていたのに,春申君,一瞬で詰んだ!?

<春申君に襲いかかる桓齮〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜最後の戦国四君

春申君の前に登場した秦将・黄壁。

上策の捻出と遂行を果たした桓齮と楊端和を労います。

「あなたには人質になっていただきます」「確か 秦の人質となるのは二度目でしたか」という黄壁に,「黄壁か その言葉遣い 中原の人間だな」と答える春申君。

 

次の瞬間,春申君はベーっと舌を出します。

気を呑まれる黄壁。

故国を捨てたのは先々のためであろう,しかし子や孫を秦という国に託せると本気で考えているのか?と問う春申君。

民草をひとりの王の専有物としていいのか?

秦王の独裁に加担し,さらにまだ天下を独裁者のものにするため戦うのか!?

おまえの子孫は,独裁のあげくの世を生きねばならぬのだぞ!と詰め寄られ,黄壁は激しく動揺します。

<舌戦を開始する春申君〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜春申君の激情〜

春申君の激情が爆発。

最初に舌をべーっと出すポーズ。

これは,以前にも登場したシーンですが,「俺はこの戦国の世を,剣ではなく舌で生きる者だ!」と強烈な自負と矜持を象徴するようで,いいですね。

ひとり包囲され,状況的には完全に詰み。

なのに,動揺をまったく感じさせない肝の太さは,さすが戦国四君最後の生き残り。

 

怒り。

春申君の激情の源は,「怒り」でしょう。

民草を酷使する独裁者のために働く愚かさ,むなしさ。

激しい怒りをぶっ放す春申君のこの絵,熱量が凄まじい。

天を指さす左手の絶妙な形と憤激の表情に,自身が問い詰められているようで,ハッと胸を突かれます。

<激する春申君〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜子々孫々の未来〜

春申君の激情は,そのまま,作者の王欣太先生の激情のように感じられます。

そうでなければ,このようなエネルギッシュな絵や台詞は描けないのではないでしょうか?

 

いつの時代も,人は食わねば生きていけない。

日々,食べていくことができ,子孫にとっても明るい未来が描ける社会であること。

これは誰もが願うことでしょうが,矛盾をはらむケースもしばしばあります。

 

たとえば,前回の190話で紹介された秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

蒙驁は,子孫のため,身を粉にして秦のために働き続け,子孫たちも出世して栄華を極めましたが,宦官の嫉妬から一族は滅亡。

これを,単なる権力闘争の結果と見ることもできますが,最近感じるのが,社会や組織が醸成する「雰囲気」の重要性。

 

「内向き」「下向き」「後ろ向き」の「暗い組織」は,ダメ。

「外向き」「上向き」「前向き」の「明るい組織」は,たとえ一時は厳しい状況でも,やがて好転していくことでしょう。

 

友人から聞いた話ですが,昨今の新型コロナ対応のため残業が月100時間,200時間を超える会社で,「必要とされているんだ!みんなで乗り越えよう!」と明るい「雰囲気」の職場はうまく回り,そうでない職場はバタバタ倒れていったとのこと。

 

秦は,優秀であれば他国からの人材登用にも積極的で,「外向き」ではあった。

法治国家として信賞必罰を明確にし,合理的な施策を打ち出し,おそらく「上向き」でもあったでしょう。

 

が,はたして「前向き」で「明るい雰囲気」だったのか?

秦王の「天下統一」という目標は,いわば号令というか,独裁者の権力欲に過ぎません。

天下統一の先に何があるのか?

そこに,人々が安心・安全に暮らせる豊かな暮らしや幸せはあるのか?

 

その具体のイメージがなければ,天下統一は統一のための統一にすぎません。

天下統一や統治継続だけが目的であれば,個性や特色を無視した効率重視の大量生産的,最大公約数的,画一的な施策が主となることでしょう。

それこそ,個人や個性の活力を削ぎ,「暗い雰囲気の社会」を生む原因となりかねません。

秦は,たった15年で滅亡。

おそらく,前向きで明るい雰囲気の社会ではなかったのでしょう。

 

翻って,現代の日本社会はどうでしょう?

残念ながら,「外向き」「上向き」「前向き」の「明るい雰囲気の社会」とは,個人的にはあまり思えません。

社会の雰囲気を醸成することは,リーダーの重要な役割のひとつと考えられ,やれ首相が悪い,やれ与党が悪い,やれ政治家が悪いと批判するのは簡単です。

 

しかし,彼ら,彼女ら政治家を選んでいるのは,他ならぬ私たちというのも事実。

まして,10代以下で選挙権のない子供や若者ならまだしも,20代以上の私たちは,現在の社会状況に何らかの責任があると考えるのが自然でしょう。

批判するのは,もちろん自由です。

ただ,現実を変えるため自身は何も行動せず,他人事のように批判するだけとしたら,無責任で美しくない態度と思います。

 

自分自身がリーダー的立場にいるなら,いや,たとえリーダー的立場でなくても,どのように考え,発信し,行動するのか?

ジョン・F・ケネディは,大統領就任演説で言いました。

「国家が諸君のために何ができるかを問わないで欲しい。諸君が国家のために何ができるのかを問うて欲しい」

 

春申君の怒りは,現代社会に対するアーティストとしてのゴンタ先生自身の「怒り」の発露かもしれません。

<激する春申君〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜大楚〜

黄壁率いる秦軍の背後から迫ってくる「大楚(タアチュウ)」の声。

楚の項燕が来援しました。

秦軍は,春申君の軍と項燕の軍に挟撃される形になりますが,春申君は両軍のど真ん中。

春申君と項燕,そして黄壁,桓齮,楊端和はどう対応するのか?

次回に乞うご期待です!

<来援した項燕〜漫画アクション2022/5/2発売号「達人伝」より〜>

 

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「達人伝」感想(第190話・蒙氏一族)

「達人伝」感想(第190話・蒙氏一族)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は「第190話・蒙氏一族」です!

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<荘丹vs秦軍総帥・蒙驁〜漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜蒙驁討死〜 

荘丹に斬り付けられ,馬上から飛び落ちる秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

荘丹は通常モードに戻っており,蒙驁はドジャッと音を立てて地面に落ちます。

「敵の戦意を奪い取り全軍に号令願います!」と連合軍総司令官・龐煖(ほうけん)を促す荘丹。

龐煖は,「秦の総帥蒙驁を討ち取ったーっ!」「函谷関に次ぎ潼関を攻め抜く!」「然るのちに狙い定めるは 史上に例なき秦都侵攻!!」「全軍全速前進!」と檄を飛ばします。

函谷関へ撤退しながら,動揺が走る秦軍。

喚声を上げ,秦軍を追撃する連合軍。

 

いやはや,荘丹が蒙驁を討ち取ってしまいました。

と言っても,この後すぐ,蒙驁が絶命していないことは明らかになるのですが,勝負に関しては完全に荘丹の勝ち。

秦軍は先に麃公を失い,さらに大黒柱の蒙驁まで失っては,潰走するほかないのではないでしょうか?

龐煖の宣言どおり,連合軍の勢いはいやまし,秦都侵攻が現実味を帯びてきます。

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<斬撃を受け吹き飛ぶ蒙驁〜漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜蒙驁覚醒〜 

気絶から目を覚ました蒙驁。

部下は,戦況が落ち着いて治療のできる場所へ移動するまで動かないよう伝えますが,「ここで私が 戦場を離れるわけにはいかぬ」と起き上がろうとします。

 

蒙驁は続けます。

「私は戦い続けねばならぬ」「秦の戦場に立ち続けねばならぬのだ!」

祖国・斉を捨て,秦という国を選んだ蒙驁は,一族が末末までもその生を全うできるよう,礎を築かねばならないと考えています。

 

武よ!恬よ!毅よ!

わが一族よ!

この翌年,蒙驁は戦場において死ぬ,と記されています。

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<不屈の蒙驁〜漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜蒙氏一族〜

蒙驁の子・蒙武(もうぶ)は,将軍王翦(おうせん)の副将どまりで終わったものの,孫の蒙恬(もうてん)と蒙毅(もうき)は戦闘と内政の双方で才腕をふるい,始皇帝に重用されます。

しかし,ふたりの声望が秦で無比の高みに上りつめていたため,始皇帝の死後,時の権力者・趙高に恐れられ,蒙氏一族は皆殺しにされた,とあります。

 

これは,深く考えさせられる話です。

蒙驁が一族の行く末を案じたのは,人として当然のことであり,種の存続・繁栄を願う生物の本能でしょう。

しかし,なまじその子孫が優秀であったため,嫉妬と恐怖から皆殺しの憂き目にあったとなれば,歴史の皮肉を感じざるを得ず,ではどうすれば一族が滅亡せずに済んだのか?と考えたくなります。

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<最後まで戦い続けた蒙驁〜漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜真田一族〜

明日をも知れぬ戦乱の世で,一族の命を見事に繋いだ例として思い浮かぶのは,真田一族です。

信州の小豪族であった真田氏は,一族滅亡を避けるため,その時々で,あえて一族が敵味方に分かれる戦略を採用。

一族郎党が片方に肩入れして負けたら,一族が滅亡するためです。

 

たとえば,関ヶ原の戦いでは,幸村と父・昌幸は西軍,幸村の兄・信之は東軍,大坂の陣では,幸村は豊臣側,信之は徳川側につきました。

大坂の陣はまず勝負の帰趨は見えていましたが,関ヶ原の戦いは,両軍の陣立てを見たドイツの軍事家クレメンス・メッケルが「この布陣なら,西軍の勝利」と言ったエピソードもあるほど,どちらが勝っても不思議ではない戦でした。

 

「一族を敵味方に分かれさせて,存続を図る」と,言葉で言うのは簡単。

が,現実には身を引き裂かれるような苦しみがあり,いっそのこと,一族全員でどちらかに全賭けした方が,精神的には楽だったのではないでしょうか?

そのようなギャンブルをよしとせず,あくまで冷静に,クレバーな対応を続けた真田一族の対応は,驚異的というほかありません。

 

ちなみに,大坂夏の陣で,敗色濃厚な豊臣側についた真田幸村も,ただでは滅びません。

幸村は,伊達政宗軍の「鬼の小十郎」こと片倉小十郎重綱と対戦。

伊達の騎馬鉄砲隊は有名で,片倉小十郎は大坂方の猛将・後藤又兵衛を討ち取っていました。

片倉と激闘を繰り広げた幸村はその武勇に惚れ込み,ひそかに自身の娘・阿梅(12)と息子・大八(4)を託します。

 

その後,幸村は戦死。

片倉は幸村の期待に応え,危険を犯しながら幸村の子供たちを徳川幕府の詮索からかくまい続けます。

そして,大坂の陣から約100年後,大八の息子が「真田家」を名乗り,復活。

令和の現在も,片倉の居城(白石城)のあった宮城県白石市近辺に「仙台真田氏」は存続しており,真田の血脈は見事に受け継がれています。

あっぱれ,真田一族!

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<蒙氏一族〜漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜偶有性と多様性〜

さて,蒙氏一族はどうすれば滅亡を避けられたのでしょうか?

真田氏の例は,どちらが勝つかわからない拮抗する勢力間での生存戦略

これを,そのまま蒙氏一族に当てはめるのは難しいでしょう。

たとえば,蒙氏一族の何人かを対立する趙高などの宦官側に送り込んでいれば,皆殺しを回避できたかもしれません。

しかし,そんなことは,歴史の結果を知っている者の「後知恵」に過ぎません。

 

ただ,ここで考えたいのは,一族の存続と繁栄を考えた場合,子孫が同じ属性に集中するのはリスクがあるということ。

アリやハチなど生き物の世界においては時々見られる現象ですが,まじめな働きアリや働きバチは,平時は貴重な戦力として役立つものの,大きな変化が起きた際には,一気に全滅する可能性があります。

そのような非常時に役立つのは,ふだんはあまり働かず,なまけていたりするイレギュラーな存在だったりします。

これは,ある意味で当たり前。

生き物は,その能力を進化あるいは退化させることで,環境への適応を図るものであり,環境そのものが変化したら,変化前の環境に最適化していた個体は,新たな環境へすぐに適応できるわけがありません。

 

これを蒙氏一族の例になぞらえるならば,一族全員が時の政権で権力を振るう「紳士」として出世・活躍することにこだわらず,たとえば権力とは距離を置く自由な存在の「流氓(りゅうぼう)」として生きる道などを許容したなら,あるいは一族滅亡を避けることができたかもしれません。

 

これはおそらく,一族に限らず,あらゆる組織の興亡においてもいえること。

世界は偶有性に満ちており,変化の激しい時代こそ均一化,同質化を避け,多様な人材や価値観を尊重することが,時代の潮流に対応して生き残る鍵となるのではないでしょうか。

達人伝〜王翦vs李牧〜

場面は変わり,湖関(こかん)方面。
連合軍を追う秦将・王翦(おうせん)。
隘路に入る際を狙い,連合軍最後尾の3人が同時に騎射して,秦軍を次々と倒します。
 
再び,3人の一斉騎射の後,ひときわ鋭い矢が王翦の左肩に命中。
弓の名手・李牧の矢。
さらに間髪をいれず,正確無比な3人の射手が今度は王翦のみを狙い,王翦は馬首を立てて盾とすることで,これを回避。
射抜かれた馬を捨て,徒歩となった王翦に迫る李牧。
王翦は,なんと姿勢を低くして体を丸め,肩で馬に体当たりすることで李牧の斬撃を防御。
「この秦将 並はずれて体が強い!」と驚く李牧。
「剣でやり合わない方がいい」と,再び騎射を命じます。
 
いや,この王翦と李牧の戦いは面白いですね。
早く連合軍に追いついて攻撃したい王翦にとって,最後尾からの騎射はうっとうしくて仕方がない存在。
しかも,避けようがない隘路において,正確無比の一斉騎射をされたのでは,状況的に詰んでいます。
が,臨機応変の対応で,しぶとく、あきらめずに追う王翦
 
その王翦を支える強さのひとつが,体の強さ。
これ,よく理解できます。
史実ではこの後,王翦は秦を代表する将軍として長く活躍します。
軍人が活躍する条件は様々あるでしょうが,その必要条件のひとつは「体の強さ」でしょう。
暑さ,寒さ,雨,風,雪,虫などにさらされ,睡眠も食事も休憩も十分に取れない不安定かつ不衛生でストレスフルな戦場。
そこで生き残るには,「生まれついての体の強さ」が必須。
 
具体的に言うと,「骨格」と「内臓」の強さではないでしょうか?
いわゆる骨太の頑丈な「骨格」で,なんでもモリモリ食べて筋肉がつきやすく,あまりお腹をこわすこともないような「内臓」を持つ人って,いますよね。
私など,どちらかといえば骨細で胃腸も弱い方ですが,たいした運動もしていないのに肩幅が広く首も太くガッチリとした筋肉質の友人や,「ほぼほぼ,下痢をした記憶がない」と鉄の胃腸を誇る友人もいます(笑)
 
筋肉は,後天的に鍛えることはできますが,「骨格」と「内臓」は先天的な要素がかなり大きく,王翦がこれに人並はずれて恵まれていたのではないかと言われると,なるほど!と大いに納得です。
しかし,言われないと気づかないものであり,目から鱗でした。
 
そういえば,春秋戦国時代の伝説の将・廉頗(れんぱ)も,老将となってからも米一斗(米10升=15キロ!?),肉十斤(2〜5キロ!?)ほど食べ,重い鎧を身につけて俊敏に馬に乗ったといいます。
まあ,中国は白髪三千丈(=9キロ)など盛りまくる文化なので,実際は10分の1くらいとしても,米1.5キロ(=10合),肉200〜500グラム。
鎧の重さも,10〜20キロはあったのでないでしょうか。
やはり,廉頗も,骨格や内臓が人並はずれて強かったのでしょう。

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<李牧の馬に体当たりをする王翦漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜追撃の王翦

馬を射られて徒歩となり,頭髪を結ぶ布を李牧に斬られても戦意を失わず,「追撃だ!」「馬をひけい!」と叫ぶ王翦

李牧は,「王翦か…若い将だが戦う度に武も将器も積み増すことができている様子」「成長の早い将は早く殺しておくべきだ」と,王翦を殺す決意をします。

王翦はざんばら髪となり,「相当引き離されたか…」「李牧め」と射られた矢を左肩から抜きながら追撃。

そこへ,断崖上から矢の雨が降り注ぎます。

 

さらに,一騎だけ姿を現し,追いつけるものなら追いついてみろとばかりに,王翦へ矢を射掛けて挑発する李牧。

頭から射抜かれる秦軍兵士。

「あいつにとって 秦の地は初めてのはず」

「にもかかわらず 先の隘路といい この断崖といい まるでこの地形を熟知しているかのように 地の利を操り 秦の者をあざ笑うがように!」と怒りながら追撃する王翦

 

隘路の曲がり角を抜けた瞬間,李牧の矢が王翦の頭をガシュンとかすめ,連合軍が湖関とおぼしき関所へ突入しているところで,第190話は終わります。

いや,このアングル,この描き方はハッとさせられて,エグいですね!

王翦,大丈夫でしょうか!?

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<李牧の矢を受ける王翦漫画アクション2022/4/5発売号「達人伝」より〜>

 

李牧の地の利を生かした用兵と,スナイパーのような弓矢はヤバい。

なぜ,趙の将である李牧が,敵地である秦の隘路や断崖の地形を熟知しているかのように行動できるのでしょうか。

地形を観察し,即座に戦術を立てる才能が李牧に備わっているため?

何らかの方法で事前に地形情報を入手していたため?

今のところ,理由は謎です。

 

そして,李牧の弓矢は,本当に脅威。

戦いでベストなのは,打たせずに打つこと。

つまり,相手の攻撃は届かないが,自分の攻撃は届くという状態が理想。

これは弓矢だろうが,ボクシングだろうが,核ミサイルだろうが変わらない戦いの基本原理のひとつで,距離を支配する者が勝負を支配します。

 

作者のゴンタ先生は弓矢が好きと思われ,「蒼天航路」でも弓矢の印象的な戦闘シーンがあります。

とりわけ私が好きなのは,魏の夏侯淵(かこうえん)が,劉備張飛馬超に一斉騎射する場面(コミック32巻「その360 煌めく軌跡」)。

夏侯淵は,弓を水平に寝かせ,握った左手の拳のくぼみに3本の矢を添え,ギリギリと引き絞って一斉に発射。

矢は同時に劉備張飛馬超に向かい,張飛馬超劉備に来た矢を払い,自らは少々傷を負います。

 

夏侯淵,控えめに言って神。

最低でも神技。

いや,現実にこのような技は無理として(たぶん無理でしょう),この3本一斉発射という発想と,正面からのアングルを描き切ったゴンタ先生が神。

完全に,心を射抜かれました(笑)

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<夏侯淵〜「蒼天航路」コミック32巻「その360 煌めく軌跡」より〜>

 

さあ,李牧vs王翦の行方はどうなるのでしょうか?

李牧も,夏侯淵並みの神技を披露したりするのでしょうか?

次回をお楽しみに!!

 

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「達人伝」感想(第189話・天籟)

「達人伝」感想(第189話・天籟)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回の「第189話・天籟」は,よもやよもやの展開です! 

【目次】

達人伝〜天籟〜 

まず,タイトルの「天籟」(てんらい)。

ふつうに「籟」(らい)が読めませんでした。

 

白川静先生の字通で調べたところ,3つの穴がある竹管楽器のふえ。

大きいふえは笙(しょう),小さいふえは葯(やく),そして中くらいのふえが籟(らい)。

「天籟」についても記載がありました。

自然の吹き起こす音,すぐれた楽音や天の啓示をいうのだそうです。

 

まさに,扉絵の「天の声を聞け!!」とあるとおりですね。

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<荘丹〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜荘子の天籟〜 

さらに,荘子・斉物論には「人籟は則ち比竹是のみ」の記載があります。

全文は以下のとおり。

 

子游(しゆう)曰わく,地籟(ちらい)は則ち衆竅(しゅうききょう)これのみ。人籟(じんらい)は則ち比竹是れのみ。敢えて天籟(てんらい)を問う。


子綦(しき)曰わく,夫(そ)れ吹くこと万(よろず)にして同じからざれども,而(しか)も其れをして己(おのれ)に自(したが)わしむ。咸(ことごと)く其れ自(み)ずから取るなり。怒(おと)たてしむる者は,其れ誰ぞや。

意味は,以下のとおりです。

子游が「地籟(地のふえ)とは,様々な穴のこと,人籟(人のふえ)とは竹管のことですね。天籟(天のふえ)とは何なのでしょう?」と尋ねた。

子綦は,「穴や竹管など、音を立てるものは様々で同じではないが,それぞれ自分の音を出している。それぞれ自身の原理によって,響きをなす。響きを起こす,何かが存在するのであろう」と答えた。

 

ちょっと難しいですが,以下は私なりの解釈です。

天とは,地や人を超越する,神秘的で不可解な神がかったものではない。

地が地であり,人が人であること。

すなわち,天とは,天然自然のあるがままのリズム,法則のようなものである。

 

何やら雲をつかむような話です。

深くは理解できていないのですが,おおむね荘子は上記のようなことを言いたかったのではないでしょうか。

 

そして,この内容は,今回の達人伝「天籟」とも関わってきます。

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<荘丹vs麃公〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜荘丹vs麃公〜 

さて,物語の紹介です。

丹の三侠のひとり,無名(ウーミン)。

 

秦将・麃公(ひょうこう)に剣を飛ばされたものの突撃。

すれ違う間際,馬を飛び降りながら,麃公の馬首を蹴飛ばします。

かわいそうに,麃公の剣で首を斬り飛ばされる無名の馬……

 

さらに,麃公の馬首を,拳で下から突き上げる庖丁(ほうてい)。

麃公は,鞍から体が飛び上がった状態。

 

荘丹(そうたん)は,「無名 庖丁と調和し」と,秘剣モードで麃公に向かいます。

「三位一体だ!?」「所詮 すでに見切った武にすぎん」と待ち構える麃公。

「天の籟(ふえ)の音(ね)と響き合う」と荘丹。

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<麃公vs荘丹〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

 

右手で斬撃を振り下ろすと見せかけ,ノーモーションから左手で剣の突きを繰り出す麃公。

が,荘丹に見切られ,「え!?」となります。

さらに,左から右へを薙ぎ払い,返す刀で麃公の首を斬り飛ばす荘丹。

 

派手に血を噴き出す麃公の体。

空高く舞い上がる首。

眼下に見える函谷関の景色。

 

「ああ おおっ」「ただ今 帰ったぞ」「俺の楽園 函谷関」

麃公は,幸せな夢を見ながら逝ったのかもしれません。

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<楽園へ旅立った麃公〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜天地人の籟〜

衝撃の展開!

ホームである「俺の函谷関」で丹の三侠を手玉に取り,無双状態だった麃公を,荘丹が討ち取ってしまいました。

 

前回,秘剣モードの無敵状態に入った荘丹ですら,麃公は一蹴。

なぜ,荘丹は麃公に勝つことができたのか?

 

ヒントとなるのが,先に紹介した地の籟,人の籟,天の籟。

中国では古来より,この「天地人」という考え方(物事の捉え方=フレームワークといってもいいかもしれません)があります。

 

私が「天地人」をはじめて知ったのは,三国志

「天の時を得た曹操,地の利を得た孫権に対し,劉備は人の和をもって対抗すべし。すなわち天下三分!」と説いた諸葛亮孔明)を,「天才だな!」と感嘆したものです。

 

厳密には,天地人と天下三分は別物でしょう。

諸葛亮が主張したのは天下三分だけかもしれません。

いや,天下三分すら,諸葛亮のオリジナルアイデアではないでしょう。

当時の知識人なら,「曹操孫権は強すぎて倒せない。残りのニッチなところを狙うしかない」と論理的に考えたら帰結する常識的な戦略であると。

 

しかし,です。

古今東西の歴史を俯瞰すれば,誰も彼もが当たり前のように天下統一を目指すなかで,「無理に統一しなくていい」「天下を三分しよう」と構想し,結果的にそのとおりになった(もちろん,諸葛亮の力だけで実現したわけではなく,偶然の要素の方が大きいですが)という1点において,諸葛亮は評価されてしかるべき人物ではないか,と思います。

 

余談ですが,諸葛亮の評価は分かれています。

三国志演義を読むと,超人的な活躍をする天才軍師として描かれており,巷の人気は圧倒的に高い。

一方,政治家や発明家としては優秀だったけれど戦争は弱かったという評価や,出口治明さんなどは,諸葛亮は後世の歴史の評価を重視して無茶な北伐を繰り返し蜀の滅亡を早めた,民にとっては負担ばかり強いるひどい為政者だった,と辛口です。

 

ゴンタ先生も,諸葛亮のことはあまり高く評価していないように思います。

蒼天航路」で描かれた諸葛亮は,ぶっ飛んだキャラクターですが,それ以上に驚きの事実が記されています。

すなわち,正史・武帝紀(曹操伝)には,「諸葛亮孔明」の名前はいっさい登場しない,と。

 

これは,本当に驚きの事実で,目から鱗の解釈です。

もちろん,曹操諸葛亮の存在を知ってはいたでしょう。

しかし,曹操自身の伝記にその名が登場しないということは,曹操諸葛亮について直接的に評価したことや言及したことはない。

つまり,曹操の眼中にはなかったことを示唆するであろうと。

 

諸葛亮ファンの人からすれば,びっくり仰天。

吉川英治氏の三国志などでは,曹操は「諸葛亮さえいなければ……」と相当に悔しがった様子が描かれています。

事実は,どうだったのでしょう?

 

もし,「曹操は,諸葛亮を目の上のたんこぶと思っていた」というのが事実なら,強烈に意識していたからこそ,曹操諸葛亮を無視してあえて言及することはなかった,とも考えられます。

 

ただ,曹操は,関羽のようにたとえ敵であろうと,才ある者は広く受け入れる度量の人物。

しかも,曹操の配下には,荀彧,荀攸郭嘉賈詡司馬懿はじめ優秀な軍師・参謀が揃っていたことを考えると,やはり曹操の基準では,諸葛亮は「劉備の家臣トップ20のうちのひとり」くらいの認識だったのかもしれません。

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<諸葛亮孔明蒼天航路コミック24巻その276「赤き壁ー昇華ー」より〜>

 

余談ついでに。

個人的には,諸葛亮の大きな功績のひとつに,劉備を「漢中王」としたことがあると思います。

詳しくは,「蒼天航路」コミック34巻を読んでいただけるとよく理解できるのですが,当時は漢朝と帝が存在しており,曹操は帝から「魏王」に任じられていました。

それに対して,劉備が勝手に「曹操が魏王なら,おれは蜀王だ!」とか自称したら,帝に正式に認められたわけでもないため,ただの謀反扱いでしょう。

 

ところが,ここで効いてくるのが,「漢中王」という称号。

もともと,中原を追われた漢の高祖・劉邦が反転攻勢を開始し,やがて項羽を破って覇者となる始まりの地が,漢中。

つまり,漢中こそ,漢王朝の聖地。

 

「漢中王」という言葉は,そのような「漢の起源」を人々に思い起こさせるもの。

「漢朝を復興させる」と唱える劉備が「漢中王」を名乗ることで,漢朝に対する謀反どころか大義が備わる。

不義どころか,義の中心に鎮座したまま,天子を超える王となる。

天下の人々は,ふたりの劉氏をひとつに結ぶ。

さらに,曹操項羽のような悪者に見えてくる,という算段です。

 

キャッチコピーの天才・諸葛亮

これには,さすがの曹操もたまげたことでしょう。

そして,当時の人々が受けたであろう衝撃を,あざやかに解釈して現代に蘇らせたゴンタ先生の手腕には唸るほかありません。

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<漢中王の称号に衝撃を受ける曹操〜「画伝・蒼天航路より〜>

達人伝〜天地人の普遍性〜

さて,脱線が長くなりましたが,「天地人」の考え方は,ゴンタ先生の「蒼天航路」にも登場します(黄巾の乱)。

また,「天地人」は現代にも通用する考え方です。

 

天の時。

すなわち,タイミングを得なければ,遅いのはもちろん,半歩先を行くくらいの機会をつかまないと,早すぎても成功できない。

地の利。

すなわち,場所によるハンディやメリット・デメリットは,インターネットが世界中を繋ぎフラット化してきているとはいえ,地政学のような形で厳然と存在します。

人の和。

すなわち,優秀な人材がいても協力体制がなければ組織の力は発揮できず,クーデター等により内側から崩壊することもあるでしょう。

 

荘丹は,無名と庖丁が作ってくれた「人の籟」を活かし,「天の籟」と響き合い,「地の籟」を聞いた。

その不思議な力により,無双状態の麃公を破ることができたのでしょう。

達人伝〜函谷関制圧〜

無名は入関を指揮,庖丁は先陣を潼関に向けて進発するよう指示を出す荘丹。

荘丹は,「秦本隊のすべての戦意を奪い取る」と言います。

 

麃公を討ち取り,その首を城頭で掲げ,函谷関を制圧したと宣言する無名。

連合軍の士気は否が応にも盛り上がり,秦軍には動揺が広がります。

 

さあ,難攻不落の函谷関が抜かれました!

はて,函谷関を巡って,秦と合従連衡軍が激戦を交わした記憶はありますが,史実では,函谷関が抜かれたことはあったのでしょうか?

前回の188話では,じわじわと連合軍の不安要素が出てきて,てっきり函谷関は抜けないものと考えていました。

 

函谷関へ向かう連合軍や秦軍とは,反対方向へ向かう荘丹。

その向かう先は?

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<函谷関を出る荘丹〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜龐煖vs蒙驁〜

「ま まさか…麃公が!?…」と驚く秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

「函谷関を知り尽くしておるあの麃公が!?…」「いや!馴れこそは変事への対応を妨げる元凶か!」

 

勝手知ったる函谷関だから大丈夫という安心感こそが,想定外の事態への対応を誤らせる原因となったのかと,蒙驁は喝破します。

「函谷関を奪われてはならん!万が一にも函谷関を奪われるようなことがあってはならん!」と急ぐ蒙驁を追撃する連合軍総帥・龐煖(ほうけん)。

 

左後方から迫る龐煖に,左手の剣で応じる蒙驁。

続いて,龐煖は右後方から斬撃を仕掛けるも,蒙驁は右手に剣を持ち替えて対応。

2人の間に秦兵が介入。

攻撃がかすり,一瞬ひやりとする龐煖。

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<龐煖vs蒙驁〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

 

これまで,将の一騎打ちに兵が介入することはあまりなかったように思いますが,実際当時はどうだったのでしょう?

名のある将軍同士の一騎打ちに兵は介入しない,という不問律があったのでしょうか?

私は,基本は乱戦で,たまに将同士の一騎打ちが見られるくらいだったのではないか,と想像します。

 

なぜなら,戦場では,数的優位に持ち込んだ方が圧倒的に有利。

兵は,隙あらば手柄首を狙うのが常で,「兵が将同士の一騎打ちを邪魔するな!」ということはなかったのではないでしょうか?

 

日本は,少々異なったかもしれません。

名と礼儀を重んじ,たとえば元寇の際に鎌倉武士が「やあやあ,我こそは…」と悠長に名乗っている間に元軍の兵士に討たれた,という笑い話があります。

戦国時代には,そのような風潮もなくなったようですが。

 

ちなみに,猛者といわれる武将は,一度の戦でどれくらいの人数を倒したのでしょう?

可児才蔵(かにさいぞう)。

戦国最強武将といわれた才蔵は,関ヶ原の戦いで20個の首級を挙げ,家康に賞賛されたエピソードがあります。

 

一騎当千という言葉や,100人斬りみたいな伝説もありますが、現実には10人,20人も倒せば凄いのだな,とわかる話です。

達人伝〜荘丹vs蒙驁

蒙驁と龐煖が五分の一騎打ちを演じているところに,荘丹が参戦。

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<荘丹vs蒙驁〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

 

駆けつけた勢いのまま,蒙驁に斬りかかる荘丹。

荘丹の剣は,蒙驁の腹部と馬首を切り裂きます。

馬上で仰向けにのけぞる蒙驁。

 

なんと荘丹は,麃公に続き,秦軍総帥の蒙驁まで一刀の下に斬り伏せてしまいました。

蒙驁さんは,連合軍の将たちと戦いまくり,満身創痍でボロボロ。

だとしても,荘丹の無双状態は刮目すべし。

秦軍の要となる蒙驁と麃公を欠いた秦軍は,もはや函谷関も抜かれ潰走するほかない?

 

いよいよ,連合軍の緒戦勝利は目前!?

次回の展開をお楽しみに!

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<荘丹vs蒙驁〜漫画アクション2022/3/1発売号「達人伝」より〜>

 

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達人伝の魅力をこまかく,マニアックに語り始めるとキリがありません!

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王欣太先生の「蒼天航路」などの絵をリアルで観て購入できる唯一の場所=ギャラリー・クオーレ。

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「達人伝」感想(第188話・絶望の入り口)

「達人伝」感想(第188話・絶望の入り口)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第188話・絶望の入り口」です! 

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<信陵君の思いを受け継ぐ張耳〜漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜張耳の挙兵〜 

信陵君が亡くなって2年。

魏都・大梁(たいりょう)で,信陵君の食客だった人々の縁をたどり,張耳(ちょうじ)が挙兵にこぎつけます。

「私財を投げうち 信陵君のご遺志を継ぐとは至高の道義心!」「我ら一同 胸を打たれて馳せ参じましたぞーっ」と張耳を称える人々。

 

そこに,ひときわ若い少年の姿があり,「君は?」と張耳が尋ねます。

少年の名は,陳余(ちんよ)。

「天の与える機を見過ごせば いずれ天の咎を受けることになりますゆえ」と,戦死した父の代わりに参加。

人々は感嘆し,張耳もよく参加してくれたと歓迎します。

 

ここで,「この後の戦乱の世にあって 張耳と陳余 ふたりの間柄はひと際熱く激しく そして残酷である」とト書きがあります。

達人伝や王欣太先生の作品では,このようなナレーションはあまり見られないもの。

あまり知識がなかったので,ざっと調べてみたところ,たしかにこの2人の関係は熱く,激しく,残酷なものでした。

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<張耳と陳余〜漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜張耳と陳余〜 

張耳と陳余。

2人は,秦末期から楚漢戦争までの歴史と密接に関係しており,けっこうややこしいです。

おおざっばな内容を以下に紹介しますが,かなり長いので興味のない方は読み飛ばしてください。

 

張耳と陳余は魏の出身。まるで父子のような関係。

かつての廉頗(れんぱ)と藺相如(りんしょうじょ)に倣い,お互いの首を斬られてもかまわないという「刎頸の交わり」を結んでいた。

魏が秦に滅ぼされると,魏の名士だった2人は命を狙われたため,名を変えて,村の門番として過ごしていた。

ある日,陳余が村役人に因縁をつけられ袋叩きにあうが,「将来のために,つまらないことで命を落とすべきではない」と張耳は慰め,2人は支え合います。

 

紀元前209年,陳勝(ちんしょう)が蜂起。

張耳と陳余は陳勝のもとに馳せ参じ,秦の支配下にある趙を攻めたいと進言。

了承した陳勝は,武臣(ぶしん)を総大将に任命し,張耳と陳余はその補佐として趙を侵攻。

 

武臣は,趙を制圧。

張耳らは,「いま陳勝は疑心暗鬼にある。このまま帰ったら命が危ない。ここで,趙王になるべきである」と進言。

陳勝は激怒。

しかし,武臣に離反されたら困るので,しぶしぶ了承。

この功績により,張耳は右丞相,陳余は上将軍に出世します。

 

ここまではまあ順調ですが,この後,2人の関係は暗転していきます。

 

しぶしぶ趙王に認められたと分かっていた武臣は,地盤を固めるため部下を各地へ派遣。

部下のひとり,元秦軍の李良(りりょう)は秦軍に苦戦していたため,援軍を要請しようと趙都・邯鄲(かんたん)へ戻ります。

そこで,趙王・武臣の姉の行列に出会い,李良は平伏。

が,武臣の姉は酔っ払っていたため,李良のことがわからず,礼を失した行動を取ります。

激怒した李良は,武臣の姉を殺害。

その勢いのまま,李良は趙都・邯鄲へ乗り込み,趙王・武臣まで殺します。

 

「武臣の姉はどんだけ酔っ払ってたの?」「礼を失した行動ってなに?」「李良のキレっぷりというか開き直りヤバいな」などツッコミどころ満載ですが,話を先に進めます。

 

張耳と陳余は,間一髪のところで邯鄲を脱出。

かつて趙の公子だった人物を趙王として擁立し,信都を新たな都と定めます。

李良は信都を攻めるも撃退され,秦の章邯(しょうかん)の下へ逃亡。

章邯は堅城である邯鄲を破壊し,住民を強制移住させ,30万の大軍を信都へ侵攻させます。

張耳は,趙王と共に鉅鹿(きょろく)に籠城し,陳余は兵を集めることに。

 

章邯に糧道を断たれ,飢えながら鉅鹿で待つ張耳。

やがて陳余の援軍が到着したが,秦の大軍を見て,容易に手が出せないと見守るのみ。

いっこうに攻めない陳余に激怒した張耳。

使者として,自身と陳余の親族を陳余へ送り,「刎頸の交わりを交わした間柄ではないか!なぜ数万の軍を擁しながら攻めないのか?共に戦って死のうではないか!」との手紙を託します。

 

それでも,「ここで死んでは秦が得をするだけ。趙のためにならない」と動かない陳余。

張耳と陳余の親族は,「張耳と趙王のため,共に死にましょう!」と食い下がり,やむをえず陳余は5千の軍を与える。

が,あえなく秦軍に敗れて全滅。張耳と陳余の親族も戦死。

もはや,落城は時間の問題。

その時,項羽軍が来援して秦軍を撃退(鉅鹿の戦い)。

 

鉅鹿に入城した陳余を張耳はなじり,怒った陳余は将軍を辞職すると言って便所へ。

はじめ,張耳は陳余の辞職を認めるつもりはなかったが,食客の勧めで気が変わる。

便所から戻った陳余は,辞職を引き止めない張耳を恨み,数百の部下を引き連れ黄河のほとりで漁師として隠遁生活を始めます。

 

「陳余が便所に行かなかったら…」とか「食客がいらんこと言わなければ…」とか思うところはいろいろありますが,話はまだ続きます。

 

秦が滅亡。

項羽は論功行賞を行い,張耳は分割された趙の一部を与えられ,常山王に。

一方の陳余は,項羽に従って秦に攻め入らなかったため,三県を与えられたのみ。

「私と張耳の功績は同じなのに,王より格下の候とはあまりに不公平だ!」と激怒した陳余は,項羽と敵対していた斉王に兵を借り受けて張耳を攻め,その一族を皆殺しに。

そして,かつての趙王を,再び趙王に即位させました。

 

命からがら敗走した張耳。

自分を引き立てた項羽に頼るべきところ,占星術師が「後日,漢王劉邦の天下が来る」と旧知の劉邦を頼るよう勧めたため,漢中に落ち延び劉邦に仕えることに。

 

楚漢戦争が勃発。

項羽を包囲するため各国と同盟を結ぶ戦略の漢王劉邦は,趙と同盟を結ぶには実力者の陳余の承諾が必要だった。

陳余は同盟の条件に,張耳の首を要求。

劉邦は,張耳と似た囚人を処刑してその首を送り,漢と趙は同盟。

が,その後,張耳が生存していることが露見し,激怒した陳余は同盟を破棄。

 

その後,張耳は劉邦の部下・韓信の副将として,魏・代を滅亡させます。

趙に迫った漢軍3万は,20万の軍を率いる陳余と対峙(井脛(せいけい)の戦い)。

韓信の「背水の陣」の計により漢軍が勝利。捕虜となった陳余は処刑。

鎮撫のため,張耳を趙王とするよう韓信劉邦に進言し,張耳は趙王として即位します。

達人伝〜運命の皮肉〜

張耳と陳余のあらましは以上です。

いかがでしたでしょうか?

ゴンタ先生が,「この後の戦乱の世にあって 張耳と陳余 ふたりの間柄はひと際熱く激しく そして残酷である」と書かれるのも,理解できるのではないでしょうか?

 

刎頸の交わりを交わした2人が,やがて敵対する関係となり,最終的にはかたや王となり,かたや敗戦の将として処刑。

2人の分水嶺は,間違いなく「鉅鹿」でした。

秦の大軍に突っ込めばまず間違いなく死ぬという状況で,自分が陳余の立場なら,どのように行動するか?

 

「ここで死んでは秦が得をするだけ。趙のためにならない」という陳余の主張は,まったく正しい。

一方で,「刎頸の交わりを交わした間柄ではないか!どうせ負けるのなら,共に戦って死のうではないか!」という張耳の主張も,まったく正しい。

 

「ええい,ままよ!」と秦軍に突っ込んだ陳余が戦死し,その後,張耳も秦軍に敗れて死ぬとか,どちらかが死ぬ,あるいは2人とも死ぬ展開が,可能性としては一番高かった。

そうなれば,2人の関係は刎頸の交わりよろしく,後世に残る美談となっていた。

 

ところが,起こりそうにもないことが起きるのが現実。

項羽が爆速で来援し,秦の大軍を破ってくれたものだから,2人とも生き残ってしまった。

その結果,お互いを恨み殺し合う,残酷な関係になってしまった。

歴史は,運命は,何とも皮肉ですね。

 

ちなみに,項羽が秦軍を破った「鉅鹿の戦い」は,秦軍30万に対して項羽軍5〜10万。

項羽は,3日分の食糧を残して渡河の船や料理の鍋をすべて黄河に捨てさせ,決死の勢いで秦軍を撃破したというのですから(破釜沈舟),凄まじい話です。

その後も,項羽は「彭城の戦い」で,3万の軍で56万の劉邦軍を撃ち破るなど,まさに鬼神の活躍。

中華史上,項羽ほど「覇王」という呼称が似合う人物はいないのではないでしょうか?

 

達人伝では,項羽の祖父・項燕(こうえん)が登場しますが,ゴンタ先生が描く「項羽と劉邦」をいつか読んでみたい気がします。

達人伝〜劉邦の叫び〜

さて,達人伝の紹介に戻ります。

首のない数々の死体にカラスが群がる中,茫然と立ち尽くす劉邦

その中のひとつに,盗跖(とうせき)の遺体を発見。

怒髪天を突く劉邦に驚き,飛び去るカラスたち。

 

志を同じくする流氓(りゅうぼう)として,共に戦ってきた盗跖姉さんを失った劉邦の怒り,悲しみは,想像に余りあります。

今回のタイトルは「絶望の入り口」。

これが「入り口」ということは,今後さらなる絶望が訪れるのでしょうか?

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<劉邦漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜麃公の天賦の才〜

函谷関に撤退する秦将・麃公(ひょうこう)を追う荘丹(そうたん)。

麃公は「一度交戦すれば 見切れぬ武はない!」と鋭い一撃を繰り出し,頬から出血した荘丹は途端に秘剣モードが解けます。

 

右側から迫る庖丁(ほうてい)。

これに対しても,麃公は馬首を庖丁の馬に激突させながら右手の戟を振り下ろし,間髪を入れず,左手の剣で荘丹の腹をなで切り。

 

そこへ突如現れ,一撃,二撃と繰り出す無名(ウーミン)。

しかし,数手先を見通す能力を持つ無名の攻撃に対しても,麃公は「ん!?ほう だがその眼の能力も 以後は通用しない!」と斬りあげて一蹴。

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<麃公vs丹の三侠〜漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

 

いや,麃公さん強すぎです。

「一度交戦すれば 見切れぬ武はない!」とは,学習能力が高すぎる。

しかし,想像するに,これは戦場で生き残る「必須能力」なのかもしれません。

敵と対戦するとき,もっとも怖いことは何か?

それは,「相手がどのような手を繰り出してくるかわからないとき」ではないでしょうか?

 

その一例として,ゴンタ先生の「蒼天航路」で印象深い戦闘シーンがあります(コミック27巻 その306「半世紀の武人」)。

曹操軍・張郃(ちょうこう)vs馬超軍・李堪(りかん)。

李堪は,張郃が右手に長刀を持って疾駆して来るのを見て,当然,その攻撃を予想。

「そのいじけた構えで この李堪を斬ろうてかッ!」と迎撃しますが,じつは張郃は左手に長槍を隠し持っており,一撃で体を貫かれ死亡。

 

李堪からすれば,張郃は右手の長刀で「1,2!」のタイミングで斬りつけてくると思っていたところ,隠し持っていた左手のより攻撃レンジの長い長槍で「1!」のタイミングで突き出された。

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<張郃vs李堪〜「蒼天航路」コミック27巻その306「半世紀の武人」より〜>

 

ことほどさように,何を繰り出してくるかわからない初見の敵は,恐ろしい。

このように,不確実性の高い戦場では,「初見の相手が繰り出す攻撃を,ある程度予想して,しのぐこと」「1度交戦した敵や同じようなパターンの敵の攻撃に,2度目以降は対応できること」が,生き残る条件ではないでしょうか?

 

同じ失敗を繰り返したら,命がないわけですから。

「半世紀の武人」張郃のような歴戦の武将は,予測力,学習力,対応力が並外れて高かったのでしょう。

しかし,口で言うは易し,行うは難し。

麃公の言うとおり,「天賦の才」がなければ実現できないことでしょう。

達人伝〜三位一体〜

「おまえ達!雑魚扱いをして悪かったな!」「大いに褒め立ててやろう!」と言う麃公。

「まったくよく戦い よくここまで来た!」「だが 俺の函谷関がおまえ達の死に場所だ!」と続けます。

「いや 函谷関は絶対に抜く!」と斬りかかる荘丹。

「名乗るがいい!」と聞く麃公に,「丹の三侠」と背後から迫る3人。

麃公は,庖丁と無名の剣を跳ね飛ばします。

 

「三人で一人前ということか!」と言う麃公に,「三位一体と言うこっちゃ!」と返す無名。

「何!?おいおい 素手で来るのか!?」「自棄糞(やけくそ)か!?」と言われながら,無名は斬撃を避けつつ麃公の馬を蹴飛ばし,庖丁は自分の馬を麃公にぶつけ,馬を飛び降りて麃公の馬首を拳で突き上げます。

 

馬が突き上げられ,鞍から飛び上がった状態の麃公。

そこに襲いかかる荘丹。

まさに,三位一体の息の合った攻撃。

はたして,麃公を止めることはできるのでしょうか?

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<麃公vs丹の三侠〜漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜まとめ〜

函谷関を前にした麃公の躍動感が,半端ありません。

麃公が繰り返し「俺の函谷関」と言うので,罠か伏兵でもあるのかと考えていましたが,単純に城門を閉めてしまえば追撃は困難なんですよね。

 

状況的に,麃公に追いすがっている連合軍は,丹の三侠はじめ少数。

これをある程度蹴散らし,撤退して来る秦軍を収容して城門を閉じれば,秦軍は一息つけます。

野戦から攻城戦となれば時間がかかり,一気呵成の勢いで函谷関をぶち抜きたい連合軍の戦略は,齟齬をきたすことになります。

函谷関は「絶望の入り口」となるのでしょうか?

 

ところで今回,見開き2ページのコマの上下に,1ページごとのコマがあるミックス型が見られました(上記掲載)。

このようなコマ割りは初めてでしょうか?

 

ゴンタ先生は,コミック最新刊(31巻)の見開きで,「自宅で立ち読み」を解説。

テーマを設定し,コーナーを作ると本棚の血流が上がり,新しい発想が湧いてきたりもする。

本棚リミックス!電子書籍ではおよそ味わえぬ楽しさ!と紹介されています。

 

見開き2ページのコマ割りも,電子書籍では味わえない楽しさですよね。

次回,第189話をお楽しみに!

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<麃公vs荘丹〜漫画アクション2022/2/1発売号「達人伝」より〜>

 

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「達人伝」感想(第187話・函谷関迫る!)

「達人伝」感想(第187話・函谷関迫る!)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第187話・函谷関迫る!」です! 

 

作家の丸谷才一いわく,文章を書く心構えは「景気よく,威勢よく,書くんです」。

今回の第187話は,いつもに増して,景気のよさ,威勢のよさを感じます!

 

扉絵の「俺の楽園はどこだ!!」という秦将・麃公(ひょうこう)も,いかにも自由を愛する麃公らしくていいですね!

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<秦将・麃公〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜王翦の決意〜 

王翦よ おまえはその才知としぶとさで 秦の軍を生き抜き 頂(てっぺん)に立て!」と麃公の言葉を思い出す秦将・王翦(おうせん)。

王翦は,「麃公どの!あなたこそは 軍の頂に立つに十分な器量を備えている人だ!」

 

しかし,麃公は元来,信賞必罰のガチガチの法治国家で能力を絞り尽くす秦とは性が合わず,栄達にはまるで関心がない。

これからも,自身の才能と力は,気儘に暮らすためだけに注いで生きてゆくのだろう。

麃公には学ぶ所はまだまだあるし,憧れもある。だが,袂を分かつ時がきたのだ。

 

「秦がこの先 いかに苛酷な国になろうとも この王翦必ずや上り詰めてみせます!しぶとく!用心深く!」と王翦は誓います。

 

紳士と流氓(りゅうぼう)。

公権力のスタンスで生きていくのが紳士,自由のスタンスで生きていくのが流氓。

歴史に名が残るのが紳士,残らないのが流氓。

これは人生に対する考え方,価値観の違いであって,どちらが正しいというものではありません。

 

呂不韋(りょふい)のように,もともと商人という流氓の立場から,秦の宰相という紳士へ転身する人もいます。

あるいは,以前,達人伝に登場した秦将・王齕(おうこつ)は,最後は流氓になりたいと願って逝き,廉頗(れんぱ)も趙国の大将軍という紳士の地位を捨て,魏国へ去ります。

 

人類の歴史を考えれば,もともと国家や権力などなかったので紳士は存在せず,いわば全員が流氓。

やがて集団で暮らすようになり,農耕生活が始まり,組織として生きていく中で,全体のために貢献する役割を果たす人間=紳士が現れた。

 

現代において,紳士が存在しない社会は原始時代に戻ることと同じであり,ちょっと想像できません。

しかし,あらゆる人々が国家の枠組みの中に高度に組み込まれ逃れられない印象もあり,自由気ままに生きたい人々は息苦しさを感じていることでしょう。

 

前述のように,紳士から流氓へ転身することもあり,その逆もまたしかり。

ひとりの人間の中に,「紳士成分」「流氓成分」の双方が混じっています。

王翦は紳士度が高く,麃公は流氓度が高い。

自分の紳士度,流氓度の割合を考えてみるのも,面白いかもしれません。

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<秦将・王翦漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜王翦vs李牧〜

湖関(こかん)を目指して進撃する連合軍右軍の李牧(りぼく)。

李牧は考えます。

 

未だかつて,秦はこれほど幾重もの戦略によって攻め立てられたことはないだろう。

何より五関攻め!

それに対応せざるを得なくなった秦の動揺ははかりしれず,そしてじきに秦都咸陽(かんよう)は初めて戦の恐怖を味わうことになる!

暴戻なる虎狼の国秦は,天下の義心が放つ攻撃に震え戦くことになる!と。

 

さあ,秦軍・王翦vs連合軍・李牧。

漫画キングダムでもしばしば対決する王翦と李牧ですが,達人伝ではどのような展開が描かれるのでしょう?どちらに軍配が上がるのでしょう?

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<趙将・李牧〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜黄壁vs春申君〜

秦軍前左軍を率いる秦将・黄壁(こうへき)。

黄壁は,桓齮(かんき)と楊端和(ようたんわ)に伝えます。

 

麃公という人は見た目は怪し気だが,信を置くに足る人物と見た!

それゆえ私も君たちの力量を信じることにする!と。

 

「はあ…」と戸惑う桓齮。

楊端和が「うむ?」「項燕を追うのでないのですか?」と黄壁に尋ねます。

「武関に向かう」「春申君を捕らえれば 項燕は動けなくなる」と答える黄壁。

さらに,「君たちの手柄はこの黄壁が保証しよう」と続けます。

 

おっと,これは連合軍にとって誤算ではないでしょうか。

1つは,秦軍は,項燕と春申君それぞれに軍を分けて差し向けると思っていたのに,春申君のみに軍を集中させること。

さらに,将軍格ではないとはいえ,黄壁の下には桓齮,楊端和という麃公子飼いの実力者が揃っています。

 

もう1つは,黄壁の傲慢と思えるほどの自信。

以前,黄壁は秘剣・絶界を発動した荘丹(そうたん)に軍へ突っ込まれたり,李牧と一騎打ちしたことがありましたが,神がかった用兵や超絶武技を発揮したわけではありません。

 

が,ここまで言うからには,相当の自信があるのでしょう。

たしかに,「黄壁vs項燕」ではなく「黄壁vs春申君」の構図に持ち込んだ時点で,黄壁の「技あり」。

春申君は全体の指揮は優れていても,局地戦や個の武が秀でているわけではないので,危ういような気がします。

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<秦将・黄壁〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜龐煖の懸念〜

連合軍本隊を指揮する総司令官・龐煖(ほうけん)。

迫る函谷関を前に,龐煖は考えます。

 

信陵君から託された者たちが,戦いの炎を繋いでここまで来た。

そして,ここからだ!

秦軍総帥・蒙驁(もうごう)よ,満身創痍でありながら,よくぞ後軍を強固に整えた。

だが,もはやその手腕ひとつで御し得る戦ではない。

函谷関は必ず抜く!

この戦はそこから始まるのだ!

 

ただ,気懸りは,まだこの本隊に戻ってこない廉頗将軍と盗跖軍…

それに,邦(バン=劉邦)の姿もみえん!と。

 

で,ページをめくると,劉邦の前に衝撃の光景が広がります。

ことごとく首を刈り取られた盗跖軍の惨状を前に,劉邦は呆然とします。

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<呆然とする劉邦漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

 

右側の胸から上が裸の遺体,これ,盗跖一家の背がひときわ高く,顔の長い,あの人物ですよね。

両胸の刺青を見て,ハッと気づきました。

「魁(かい)の兄貴」はわかるのですが,この方の名前はコミックを遡って調べても見つけられず,なんだか申し訳ない……

おそらく,気はやさしくて力持ちの不器用なタイプと思われます。

 

ふと思い出したのが,映画「007 ムーンレイカー」に登場するジョーズという悪役(リチャード・キール)。

主役のジェームズ・ボンドロジャー・ムーア=186cm )が子供に見えるほどの巨漢で,それもそのはず身長2m18cm,体重143kg。

 

巨体を活かした怪力無双ぶりに加え,鋼鉄でできた銀色の歯を持ち,ワイヤーだって鎖だって噛み切り,襲ってきたサメも噛み殺して返り討ち。

列車から投げ出されようが,車ごと崖から落ちようが,不死身。

何度でもターミネーターのように甦り,幾度もボンドの行手を阻みます。

 

ところが,このジョーズ,意外とおっちょこちょいで憎めない。

動きが緩慢なためボンドにみすみす逃げられたり,「やれやれ,逃げられちまったぜ」と持ち上げた岩を落としたら足に直撃してイタタ!となったり。

 

そして,ジョーズは少女と出会って恋に落ちます。

終盤,目の前のボンドを殺すよう命じられるも,彼女と目線を交わし,命令を拒否。

悪役が,まさかの愛による改心。

 

女たらしのボンドが,なんだかんだありながらミッション達成するのは007シリーズのお決まりなので,作品全体の感想はハイハイという感じですが(なかなかツッコミどころ満載で楽しめます),このジョーズの改心シーンはちょっと感動しました。

このようなストーリー展開になった理由は,ジョーズ役のリチャード・キールの人柄があるかもしれません。

 

ボンド役のロジャー・ムーアや監督はじめ,制作スタッフが口を揃えて語っていたのは,「彼ほどやさしい人はいない」。

だからこそ,このような「救い」が描かれたのかもしれません。

 

ちなみに,同じ殺し屋が2作品連続で登場し,かつ,ボンドに殺されなかったのは後にも先にもキールのみだそうです。さて,盗跖一味の刺青の大柄な人物も,キールと同じように「不器用でやさしい愛されキャラ」だったのではないでしょうか。

 

義のために,名もなく死ぬ。

それこそ,歴史に名を残さぬ「流氓の本懐」といえるかもしれません……

達人伝〜俺の函谷関〜

秦軍本体の先鋒を行く麃公。

後方から連合軍が追ってくるはずなのに,気配がしない。

いや,そうでもない。

気を潜めて狙っておるな!どっちからくる!?

右!いや左もか!と,連合軍の庖丁(ほうてい)と無名(ウーミン)を迎え撃ちます。

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<庖丁と無名を迎え撃つ麃公〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

 

剣を向けられると鼻や口から血を噴き出す庖丁の秘剣により鼻血を噴き出しつつ,麃公は「うはっ」「わははっ」と楽しそうに迎撃。

左右両方から同時に迫る攻撃に,一歩も引けを取りません。

 

「うむ?おおっ 覚えておるぞ 一度剣を交えたな!」という麃公に,「ああーやっぱり,強いな麃公!」と返す無名。

気を通じ合わせ,再び攻撃を仕掛けようとする二人に,麃公は「おまえ達は見違えたぞ」と言いながら,機先を制する斬撃を繰り出します。

 

「これほどの腕前だったか 褒めてやろう ふたりともたいした武だ」「だが 他の地ならば抜けたかもしれんが ここは無理だぞ」「なぜならここは 俺の函谷関!」

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<函谷関目前の麃公〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

 

が,ここで麃公は,背後に不穏な気配を感じ取ります。

荘丹(そうたん)が秘剣を発動させ,静かに真後ろから迫っていました!

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<荘丹を待ち受ける麃公〜漫画アクション2022/1/4発売号「達人伝」より〜>

 

前回,秘剣・絶界を披露した荘丹に,完膚なきまでに敗れた麃公。

しかも荘丹は,秘剣・絶界のさらに上を行く秘技をマスターし,あの秦軍総帥・蒙驁すら手玉に取りました。

はたして麃公は,荘丹と互角以上に戦えるのでしょうか?

 

たしかに,地の利は麃公にあるでしょう。

ただ,函谷関まであと数百メートルという地点まで来ており,左右両側に崖が迫っているものの,戦場から撤退してきた状況的に,伏兵や落石や一発逆転の罠があるとは考えにくい。

しかも,麃公が守っていた頃とは異なり,函谷関の守備兵は少ないはず。

 

函谷関には,何かとんでもない一撃必殺の「陥穽の罠」があるのでしょうか?

あるいは,「俺の函谷関!」と言うとおり,「ホームだから負けるわけにはいかねえ!」という気合いの問題なのでしょうか?

達人伝〜まとめ〜

今回の第187話は,なんと見開き2ページが3つもありました。

それ以外にも,1ページを丸々1コマで使ったり,2コマ程度にしか分割しなかったり,1コマを大きく使っていると感じました。

 

絵心ゼロの私ですが,漫画週刊誌を毎週5誌程度,作品数にして毎週25〜30作品ほどを並行して20年以上読んでおり,厳密な比較分析をしたわけではありませんが,これほど贅沢なコマ割りをする作品は珍しいと思います。

他に,贅沢なコマ割りをする漫画でパッと浮かぶところでは,宮下英樹先生の「センゴク」,板垣恵介先生の「範馬刃牙」,三田紀房先生の「アルキメデスの大戦」あたり。

 

まず,画力に自信がなければ,1コマあたりのサイズは小さい方が無難。

また,ともするとあれもこれも詰め込みたくなり,1コマのサイズは小さくなりがち。

 

しかし,王欣太先生の作品は,物語の展開や情報量はしっかり担保しつつ,大胆なコマ割りでインパクトを与え,「論理」と「感性」のバランスレベルが非常に高いと感じます。

 

これは,私自身が陥りがちなワナですが,他者に対してアウトプットする際は決して「論理」一辺倒ではダメ。

一見,「論理」重視だと,筋道立っており,正しくて,何も問題なさそうですが,「論理だけ」だと,まるでつまらなくて,肝心の大事なことが伝わらない。

 

一流の達人は,しっかり「論理」は抑えていますが,あるところから「飛ぶ」んですね。

その「飛躍」の仕方にこそ,作者の「感性」すなわち「センス」の妙味が現れるものであり,楽しみがい,学びがいがあります。

と,また,論理的でつまらないことを書いてしまいました……

 

さあ,次回は,王翦vs李牧,黄壁vs春申君,麃公vs荘丹の戦いが描かれるのでしょうか?

乞うご期待です!!

 

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王欣太先生の「蒼天航路」などの絵をリアルで観て購入できる唯一の場所=ギャラリー・クオーレ。

ファン必見の聖地でしたが、2020年末にリアル店舗は閉じ、現在はオンラインショップを展開されています!

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