ソングライン

夜の原宿、猫が車に轢かれるように、 
自転車を漕ぐ僕はこの世から消えた。 

 

イヤホンでソングラインを聴いていた。 
なにひとつ不自由のない、どろどろと緩い、夜。  

 

誰も乗ってない、セキュリティ会社の車。 

エンジンが付けっ放しで、車内には機械の光 

 

この前まで立ち読みできた漫画雑誌がもう読めないようにされていた 

コンビニを出たとき 
顔の整った女(ひと)が横切った。 
気持ちが少しフワッとする。 
人間の腐った臭いのする部分が自分の内側にあるような、 
煙が揺れて消える前の、歪みのようなものが、気持ち悪く、うざったい 

 

自転車を強く漕いだ。 

 

明かりだけ付いているマンションの玄関。 

 

がちゃがちゃとうるさい工事をしてる大通り。 

 

いまこの街で動いているのは工事の音と、手を抜いた蕎麦屋だけ。 
無精髭を生やした大人が一人蕎麦を啜る、土ぼこりで汚れた作業服と大きなカバン。 

 

スクラップとビルディングを繰り返す、 
ここはもうこれ以上膨張できないのに。 
あんなふうに働かなかくても人はもう十分豊かに生きていける、なのに街は朝も昼も夜みたいに呼吸さえしない。 
この街はもうこれ以上呼吸できない。 
どこかでみんな感じてるのに、身体を休めないからどんどん苦しくなって破裂しそうだ。 

 

僕たちはどこへゆくのだろう、 

もうどうでもよくなって目一杯ペダルを漕いでいた。 

 

 

夜がどんなに生暖かくても、 
いつも冷たい朝が来る。