『ライシャワー大使日録』(エドウィン・ライシャワー著、講談社、1995年9月10日発行)

 1961年から1966年に日本大使を務めたライシャワー氏の手紙風の日記。後日、こうした形でまとめられることを想定していたようだが、当時の日米関係の一旦、天皇家、大使と首相・外相の付き合いなど良く分かる。

『避けられる戦争 米中危機が招く破滅的な未来』(ケビン・ラッド著、東京堂出版、2024年3月10日発行)

2020年習近平の新時代経済思想が「新発展理念」にまとめられた。これは「自立自強」、「双循環経済」、「共同富裕」の3本柱からなる。

一体一路は陸のシルクロードと海のシルクロードがある。インド洋の周辺では軍事に使える港の整備を進めている。経済的プレゼンスを中心に中東の各国との関与を深めている。イランとの協力関係。米国のこれまでの中東戦略のミスを繰り返さないように注意しているようだ。2017年にはイスラエルとの包括的なイノベーション提携契約を結んだ。ファーウェイは湾岸協力会議(GCC)の全加盟国で営業認可を取得し、中東全域で5Gネットワークを整備している。

中国の中東政策は米国の失敗を学んでいるようだ(p.269)。また途上国への協力は、継続的であり、プロジェクトで失敗しても学んで調整するなど見事なものがある(p.287)。

2014年11月の党中央外事工作会議で習均平は多国間活動主義という新概念を打ち出した。未来の世界秩序を巡る新たな闘争があることを指摘し、その秩序の中で、中国は世界の舞台の中心に近づき、人類により大きな貢献をする時代になるとした。

習近平の世界観によれば、国家社会主義と民主主義的資本主義の間で新たなイデオロギー闘争が起きており、中国はそれに勝利する決意だ。(p.321)

中国共産党の政治的正当性の源泉は三つ。マルクス・レーニン主義イデオロギ―、経済の繁栄、中国のナショナリズム。今後10年を見たときに、ナショナリズムが危険なワイルドカードになる。

 

『ハッキング思考』(ブルース・シュナイアー著、日経BP、2023年10月16日発行)

2020年ロシアの対外情報庁(SVR)はソーラーウィンズ社(SolarWinds: ネットワークソフトウェアメーカー)の所有するアップデートサーバーをハック。オリオン(Orion)に対するアップデートデータにバックドアを仕掛けた。Orionの顧客17,000社以上がアップデートデータをダウンロードしてインストールしたためSVRがシステムに侵入するのを許してしまった。ひとたび侵入されたネットワークは、ゼロから再構築しないと完全なセキュリティを確保できない。

認知に対するハッキングの危険性が増している。2020年ゴーストライターはロシア起源と推定されているが、東ヨーロッパのニュースサイト数社のCMSに侵入してフェイク記事を掲載した。認知に関するハッキングは数世代続く可能性がある。

特化型狭いAI、汎用の広いAI。広いAIは実現に時間がかかるかもしれない。AIの3要素:自律性、自動性、物理的主体性、これを備えたもの。自動運転のような特化型AIはすでに実現されている。機械学習(ML)システムはAIの下部システム。

2016年マイクロソフトTwitter上のチャットボット「ティ(Tay)」は少女の会話パターンをモデルにして、ユーザーとの会話を学習していく予定だったが、匿名掲示板「4Chan」のグループがティへの応答をいじって、ティを人種差別的、女性蔑視的、反ユダヤ的アカウントに変えてしまった。

2015年ディープ・ペイシェントというAIシステムに約70万人の健康・医療データを入力し、疾病予測の実験をした。AIシステムで統合失調症のような精神疾患の発症を高い確度で予測した。しかし、その理由を説明することができなかった。

アマゾンの社内用AI求人システムは過去10年間の採用データでトレーニングされていたが、同社が男性優位なため、AIが自己学習で女性差別的になってしまった。(経営陣が理解してシステムを廃止した。)

AIによってパーソナライズされ、最適化された情報が個別に届けられたら、従来の信用詐欺と大量配信の広告メッセージの融合となる。これにより認知ハックにかかる可能性が大きくなる。

2016年ジョージア大学のロボットに対する人間の信頼に関する研究では、緊急事態では人間がロボットを完全に信頼して行動することが示された。ロボットは人間の信頼をハックできる。

『暴君誕生』(マット・タイービ著、ダイヤモンド社、2017年12月20日発行)

「礼儀だの正義だのといった堅苦しいルールは無視して、自分の考えを率直に表現する勇気をもとう」というトランプのメッセージに、日頃アメリカの現状に不満を募らせてきた人々の多くが、魅力を感じた。(p.46)

「何でもかんでもファックだ。移民も、移民の子供のファックだ。それが嫌ならお前もファックだ。」がトランプの唯一のメッセージ。(p.51)

「テレビを唯一の情報源としている今日の有権者の大半は、どんなに複雑な問題でも、必ず番組の枠内で解決されることを期待しているため、ひとつひとつのニュースに長い時間を費やしている余裕がない。」トランプはテレビ狂。

ブッシュの知能レベルの低さ。しかし、ブッシュは操れた。ブッシュに大統領職を8年も務めさせたのはロバにベートーベンのピアノソナタ21番を教えるよりも難しかったはずだ。

若者たちがヒラリーを見限った理由。ヒラリーは何が正しいかではなく、その時々で自分のとって最も特になる選択をしてきたために、何が正しいかがわからなくなっていた。(p.189)

民主党はサンダースの善戦の意味を理解できていなかった。

 

 

『南海トラフ地震の真実』(小沢 慧一著、東京新聞、2023年8月31日)

南海トラフ地震の発生確率は、時間予測モデルで計算されている。その考え方は、隆起量に基づく。2013年に30年以内に発生する確率が60%~70%とされた。2018年70%~80%に改定される。

2013年当時の地震調査研究推進本部の海溝型分科会の委員は、科学的に疑義があると指摘した。他の地域で使用している単純平均モデルだと20%程度となる。

しかし、防災関係者に受け入れられず。

時間予測モデルの依拠データは高知の室津港の海面からの深さの計測データを使っているが、計測した方法などが不明である。また、室津港地震の度に隆起するので掘削を繰り返している。このためデータの信頼性が低い。

こうしたことを検証せずに計算し、防災的な観点から高い数字を採用し、多額の防災予算をつぎ込んできた。

実際には、地震は想定外の場所でばかり発生している。南海トラフの高確率が注目を集めて、他の地域に油断が生まれるている。

ファクトチェックが甘い。特に政府が絡んでくると危ない。

『オホーツク核要塞 歴史と衛星画像で読み解くロシアの極東軍事戦略』(小泉 悠著、朝日新書、2024年2月28日発行)

オホーツク海は大陸とカムチャッカ半島とサハリン、千島列島に囲まれた領域。

ソ連時代:ソ連太平洋艦隊と潜水艦部隊(結局何の役にも立たなかった?)が極東に配置されていた。ベトナムカムラン湾にも1979年頃から配置。空母ミンスク。インド洋にも展開。外堀(外洋で米海軍と戦う能力)、内堀(アクセス路の制限、縦深防御、いざというとき逃げ込める)

ソ連崩壊後:1990年代は惨憺たる状態だった。最新鋭潜水艦艦長が極貧で暮らす。

ロシア復活:2000年代後半~2010年は米露が一種のパートナー関係にあった。

2014年ウクライナに対する軍事介入で西側との関係が悪化。

太平洋艦隊の潜水艦部隊は幾らか再強化されたが、陸上兵力・防衛ミサイルなどはウクライナ戦争にだいぶ配転されたようだ。

『日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか』(上阪 欣史著、日経BP、2024年1月22日発行)

日本製鉄はいま一番熱い、攻めてる会社じゃないだろうか。会社はリーダー次第だが、橋本英二社長こそその典型例だ。

キーワードが多い

・価格は売り手が決める

・論理と数字がすべて

・事上磨錬(王陽明

マーケティング営業

・トラブル減少による経験不足、トラブルが起きた時スムースに復旧できない

M&A・合併企業の運営

国際法

技術的・資源要素

・AI高炉

・高級鋼(ハイテン、など)、結晶構造

・脱炭素(水素還元製鉄)、試験と実用化、水素の確保

・対ギガキャスト

資源メジャーによる寡占化

市場

・グローバル展開対各国内で調達の波

・日本国内市場の縮小とコストアップ対策

などなど