今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

アクション満漢全席の終焉?「ジョン・ウィック/コンセクエンス」(2023)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好き「ジョン・ウィック」シリーズ最新作『ジョン・ウィック コンセクエンス』です。

4作に渡って綴られた殺し屋ジョン・ウィックの物語もついに終焉?

ということで、本作に関してはネタバレしても面白さは1㎜も目減りしないと思うので、今回はネタバレありの感想となります。

気になる方はご注意ください。

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概要

キアヌ・リーヴス演じる伝説の殺し屋ジョン・ウィックの死闘を描くアクションシリーズの第4弾。裏社会のおきてを破ったことで粛清の対象になったジョンが、組織と決着をつけるべく動きだす。監督は前3作と同じくチャド・スタエルスキ。主演のキアヌ、ローレンス・フィッシュバーン、ランス・レディック、イアン・マクシェーンらおなじみのキャストに加え、『イップ・マン』シリーズなどのドニー・イェン、『IT/イット』シリーズなどのビル・スカルスガルド、真田広之、リナ・サワヤマらが新たに出演する。(シネトゥディより引用)

感想

シリーズ最新作は上映時間2時間49分の超大作

1作目は101分、2作目は122分、3作目は131分と、作品を重ねるごとに時間が長くなっている本シリーズですが、本作「ジョン・ウィック/コンセクエンス」はなんと上映時間169分(2時間49分)。ほぼ3時間の超大作となっています。

しかも、ストーリーはもうあってないようなもので、169分のほとんどがアクションシーンで占められているという、まさにアクション満漢全席状態で、観ても見ても終わらないアクションの連続に、観ているこっちの体力と気力が奪われていくというね。

そのアクションもいくつかのシークエンスに分かれていて、その一つ一つが1本の映画のクライマックス2~3本分くらいのボリュームですからね。そりゃもう終盤にはジョン・ウィックも観てるコッチも意識もうろうでした。

 

もちろん、アクションはシークエンスの場所や相手、シチュエーションに合わせ、観客が飽きないよう工夫が凝らさた設計がされているし、アクション自体もそれは物凄いことをしているんです。それはもう、こんなアクション「ジョン・ウィック」でしか出来ないでしょう。

それでも途中意識を失いそうになるのは、本作がストーリー展開で物語を引っ張るのではなく、アクションで物語を引っ張っているからで。アクションシーンってやっぱ観るのに適正な時間があるよなーと、本作を観て改めて思った次第です。

そんな中でも個人的に「おぉっ!!」って興奮したのは、予告でも流れていた凱旋門のシーン。ジョン・ウィックを狙うパリ中のマフィアやギャング、殺し屋がジョンに襲い掛かるいつもの展開ですが、本作では車が何台も凱旋門のロータリー?を回っている中での格闘や銃撃で、ジョン・ウィックも敵も何回も車に撥ねられながら、その車を利用して敵を轢かせたり、車を盾にしたり、車に撥ね飛ばされた敵を銃で撃ったり。

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こんなアクションは初めて観たし、今後もそうそう観る事はないんじゃないかと思いましたよ。

米・日・中アクションスター揃い踏み

そんな本作で、主席連合(殺し屋協会のボス)に狙われたジョン・ウィックが助けを求めるのが、ジョンの親友で大阪コンチネンタルホテル(殺し屋専門ホテル)の支配人シマヅ・コウジ。演じるのはドラマ「SHOGUN」の主演兼プロデューサーとして高い評価を得ている真田広之です。

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対して、愛する娘を人質に取られ、主席連合の幹部ヴィンセント・ビセ・ド・グラモン侯爵の命令でジョン・ウィックの命を狙うのは、二人の親友であり盲目の殺し屋ケイン。演じるのは「イップマン」シリーズや「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」のドニー・イェン

まさに米・日・中のトップアクションスター揃い踏みという豪華な布陣。なんですが、舞台となる大阪コンチネンタルホテルや、真田ほか日本人役のみなさんは、いつも通りのトンデモニホン。

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主席連合の特殊部隊がマシンガンを持って乗り込んでくるのに対し、シマヅ側のメイン武器は弓矢と日本刀ですからね。そんなわけあるかー(。・д・)ノ)´Д`)ビシッっていうw

しかも、テンプレのようにシマヅを守るのがお相撲さんだったりもして、まぁ、僕はハリウッド製トンデモニホンも嫌いじゃない。というか、むしろ好物なので楽しく観られましたが、嫌いな人は嫌いかもしれませんね。あと、真田広之もサクッと殺されちゃいますしね。

あと、トンデモと言えばジョン・ウィックを始めとする殺し屋たちが着用するスーツ。

これ、ケプラー繊維を編み込んだ「防弾チョッキ」ならぬ「防弾スーツ」という設定で、スーツに当たる分には、どんな銃弾を喰らってもノーダメージ(いや、ダメージはあるのかな)という小学生が考えたようなチート設定にも思わず笑っちゃうんだけど、個人的には嫌いじゃないというか、キアヌ・リーブスが大真面目にやってるのも含めて「ジョン・ウィック」の世界観ならアリって思いましたねー。

シリーズ4作振り返り

そんな「ジョン・ウィック」4作を振り返ってみると、2014年公開の第1作は、亡き妻に送られた子犬を殺されブチ切れた伝説の殺し屋ジョン・ウィックが、引退を撤回してロシアンマフィアを皆殺しにするという、比較的規模の小さなアクション映画でしたが、キアヌ・リーブス主演と、「マトリックス」でアクションも担当したチャド・スタエルスキ監督の観たこともないようなアクションが大きな話題を呼びました。

続く「ジョン・ウィック:チャプター2」では、前作のアクションをさらに進化させつつ、“殺し屋たちの世界“を深掘ることで、ある意味マンガチックな面白さが上乗せされ、物語の世界観も広がりました。

続く「ジョン・ウィック:パラベラム」では、前2作のアクションや世界観を更に拡張・インフレさせるわけですが、個人的には正直観ていて辛くなってきた感じもあったんですよね。というのも、基本のアクションは変わらず物量だけが増えることで、さすがにもうお腹いっぱいになっちゃうというか。

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で、本作では、前作「パラベラム」からさらにアクションをインフレさせるわけですが、ここまでくるともう僕の興味は、この極限まで詰め込みインフレしたアクションをどこに着地させるのかという一点に集約されたわけですが、まさかのジョン・ウィック死亡エンドとはさすがに驚きました。

もちろん、ハッピーエンドも選択肢にはあったと思いますが、シリーズ4作を通して、敵・味方問わずギネス級の死人が出てますしね。

そんな中、ジョン・ウィックだけが最後幸せになる――というオチでは、確かに納得できなかったかもしれません。そして、これはこれで、ジョン・ウィックにとってはある意味ハッピーエンドではありますしね。

と思ったら、続編の噂もあるようですけど、個人的にジョン・ウィックで「これ以上」は望めないと思うし、本作で打ち止めにした方がいいんじゃないかな。とは思いますねー。

とか言って、続編が公開されれば結局観ちゃうんでしょうけども。

興味のある方は是非!!

 

 

ナチスvs絶対死なないジジイ「SISU/シス 不死身の男」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開され映画好きの話題を呼んだ北欧映画『SISU/シス 不死身の男』ですよ!

不死身の爺さんがたった一人でナチの残党を皆殺しにするだけのフィンランド映画

今回はネタバレしても面白さには全く影響しない映画だと思うので、ネタバレ全開で感想を書いていきます。気になる方はご注意ください。

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概要

第2次世界大戦末期のフィンランドを舞台に、一人の老兵がナチスドイツの戦車隊と激闘を繰り広げるバイオレンスアクション。監督を務めたのは『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』などのヤルマリ・ヘランダー。同監督作『レア・エクスポーツ ~囚われのサンタクロース~』などのヨルマ・トンミラが不死身の老兵を演じ、『ヘッドハンター』などのアクセル・ヘニー、『セメタリー・ジャンクション』などのジャック・ドゥーランのほか、ミモサ・ヴィッラモ、オンニ・トンミラらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

翻訳不可能なフィンランド語”シス”の精神でナチスを皆殺しにするジジイ

本作のタイトルでもある「シス」とは日本語への正確な翻訳は難しいフィンランドの言葉で、「すべての希望が失われたときに現れるという不屈の精神」のような意味の言葉なのだとか。

そのタイトル通り第二次世界大戦末期のフィンランドが舞台の本作は、地平線の広がる荒野で一人金掘りをしていた老人アアタミ・コルピが主人公。

つるはし一本で土を掘り続け、ついに大量の金塊を手に入れた彼だったが、たまたま行き会ってしまったブルーノ・ヘルドルフ中尉率いるナチスの残党に金塊と命を狙われるも、実はこの男、故郷に侵攻し妻子を殺したソ連兵をたった一人で300人殺し、“一人殺戮部隊”と敵・味方双方から恐れられる老兵士だったんですね。

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と書くと、ジョン・ウィックイコライザーのマッコールさんのようなチートな強さの殺人マシーンをイメージするかもですが、この爺さんは特別な戦闘技術があるわけでも強靭な肉体があるわけでもなく。ただ、「絶対に死なない」と決めた不屈の精神と諦めない心。そして普通の人間なら絶対考えもつかないような斜め上の攻撃で、ナチの残党たちを次々屠っていくんですね。

対するナチの残党たちは、自軍が戦争に負ける事は確定していてこのまま本部と合流したところで、待っているのは縛り首にされる未来。そんな彼らが生き延びるにはコルピの持つ金塊が絶対必要なのです。

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なので、落としたドッグタグからコルピの恐ろしい正体を知った後も逃げ出すわけにはいかないし、対するコルピも何があっても金塊を渡すつもりはない。本作はたった90分しかないのに、そんな両者の対決が章立てでテンポ良く描かれていくのです。

また、本作はセリフが極端に少なくて、ナチや、彼らに拉致された女性のセリフは最小限。コルピに至っては劇中ほとんどセリフはなし。映像と、彼ら・彼女らの表情や動き、アクションで物語が進んでいきます。しかし、設定自体がシンプルなので、それだけで十分に物語や彼らの心情が伝わるのです。上手い。

もはや大喜利。コルピ爺さん斜め上のサバイブ術

そんなコルピとナチ残党の対決の様子を解説していくと、まずはファーストインパクト。

田舎道で出会ったコルピとナチ軍ですが、ブルーノ中尉は「どうせ後ろの奴らが殺す」とコルピをスルー。そして後方のナチ兵5人はコルピの金塊に気づいて奪おうとします。なにしろ多勢に無勢。ここは大人しく一旦金塊を渡し、一旦やり過ごしたのち奇習を仕掛け金塊を取り返す――って普通なら思うじゃないですか。

しかし、コルピ爺さんは違います。金塊入りのバッグに手をかけたナチ兵の頭をいきなりナイフで串刺しにするのを皮切りに、コルピは5人を次々にナイフで処すと、そのまま馬に乗って逃亡。

その後も敵に地雷を投げつけてる。敵の銃撃には砂金用の鍋を盾にする。

ガソリンを被った自らの身体に火を放ち、敵が怯んだ隙に川に飛び込み。

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自分を追って川に飛び込んだ敵の首を掻っ切って、切り口から出る酸素を吸って生酸素ボンベに。

縛り首で吊るされたると、吊るされた柱から突き出たボルトを足の傷口にぶっ刺すことで生き延び、つるはし一本で空飛ぶ飛行機にぶら下がり、墜落した飛行機からも生還。

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と、「いや、そうはならんやろ」というコッチのツッコミもなんのその。次々に斜め上?のサバイバル大喜利と根性で生き延びつつ、最後にはブルーノ率いるナチの残党を全滅させるのです。

モデルはランボーと伝説の狙撃兵

そんな本作を手掛けたヤルマリ・ヘランダー監督によれば、本作の主人公コルピは、シルベスター・スタローンランボーとスコープなしのライフルで500人超のソ連兵を葬り「白い死神」と恐れられフィンランド伝説の狙撃兵シモ・ヘイヘをモデルにしたのだそう。最終的に自身も狙撃で顎を撃ち抜かれる重症を負うも生き延び、96歳の天寿を全うしたシモ・ヘイヘの生命力は、確かにコルピに通じるものがあると思いましたねー。

映画ってこれでいいんだよね

本作はコンセプトも内容も完全にナチスプロイテーションのエンタメに振り切っていて、その奥に何某かの社会的メッセージなどは一切入っていません。

また91分という上映時間も、昨今、2時間30分越えが普通で下手をすれば3時間超の映画も珍しくない昨今の映画事情に逆行しているとも言えるわけですが、でも、僕はこの作品を観て「映画ってこれでいいんだよね」って思ったんですよね。

そりゃぁたまには3時間越えの作品や、鉛を飲み込んだような重い社会的メッセージが込められた映画もいいですけど、長尺で社会的メッセージを盛り込んだ作品ばっかりじゃぁ、観てて疲れちゃいますしね。

やっぱ、映画はこういう90分くらいのキャッキャ楽しめるのがいいなって改めて思いました。

興味のある方は是非!!

 

 

 

 

 

マシュー・ヴォーンの大人気シリーズ最新作「ARGYLLE/アーガイル」(2024)

ぷらすです。

先日、マシュー・ヴォーン監督の「キングスマン」シリーズ最新作『ARGYLLE/アーガイル』を観てきました。

”最新作”とは言ってはみたものの、内容もキャラクターもキングスマン3作と直接の関連はないっぽいので番外編的な感じなのかもしれませんが、「本作は前三部作の始まりを意図している」との情報もあるし、何にせよマシュー・ヴォーンユニバースの中の1作品なのは間違いないと思います。

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概要

キングスマン』シリーズなどのマシュー・ヴォーン監督によるスパイアクション。小説の内容が現実のスパイ組織の行動を言い当てていたことから、その作者が命を狙われる。キャストには『コードネーム U.N.C.L.E.』などのヘンリー・カヴィル、『ジュラシック・ワールド』シリーズなどのブライス・ダラス・ハワード、オスカー俳優のサム・ロックウェルのほか、ブライアン・クランストン、デュア・リパ、サミュエル・L・ジャクソンらが集結する。(シネマトゥディより引用)

感想

キングスマンとは

キングスマン」シリーズは、どこの国、組織にも属しない独立した諜報機関キングスマン」の活躍を描くアクション・コメディ映画です。

2012年マーベル・コミックから発売された、マーク・ミラーとデイヴ・ギボンズによる同名のコミックを原作とし、「キック・アス」や「X-MEN/ファーストジェネレーション」で知られるマシュー・ヴォーンが監督し、これまで2015年公開の第1作、2017年公開の続編「キングスマン:ゴールデン・サークル」、2021年公開の前日単「キングスマン:ファースト・エージェント」が製作・公開されている大人気スパイアクションシリーズなんですね。

このシリーズが公開される前には、「ボーンシリーズ」や「ブリッジ・オブ・スパイ」「裏切りのサーカス」、ダニエル・クレイグの007シリーズなど、比較的シリアスで真面目?なスパイものが主流でしたが、対するキングスマンは初期ショーン・コネリーロジャー・ムーア時代の荒唐無稽なスパイものの流れをアップデートしたことで、それまでの真面目なスパイものに食傷気味だったファンの熱狂的な支持を得たんですね。

そしてこの3月1日、そんなキングスマンシリーズ最新作となる本作「ARGYLLE/アーガイル」が公開されたのです。

ハッタリも効いてるし面白いのだが

まず、先にお伝えしておきたいのは、この作品メッチャ面白いですし、さすがのマシュー・ヴォーン監督だけあって、いわゆるエンタメ映画としてかなりレベルは高く、僕もメッチャ楽しみました。

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なんですが、観ている最中、何故かストーリーがスッと頭に入ってこないんですよね。

別に、そんなに複雑で入り組んだ物語ではないんですが、途中、何度か引っかかってしまうというか。

それが何故なのか、観終わった後色々考えてみたんですが、多分、内容がすんなり頭に入ってこない要因の一つとして、「詰め込みすぎ」があるのかなと思いました。

ちなみに、本作のストーリーをザックリ説明すると、大人気スパイ小説シリーズ「ARGYLLE/アーガイル」の著者エリー・コンウェイは、実家への帰省中スパイを名乗る男エイデン・ワイルドから、自身が悪の秘密組織に狙われている事を知らされ、エイデンとの逃亡劇を繰り広げるうち、自身の秘密に迫っていく――という物語。

ストーリー自体は、これまで100万回擦られ続けたよくある内容ですが、そこはマシュー・ヴォーンだけあってハッタリが効いたスタイリッシュなアクションや、軽妙でテンポのいい会話、荒唐無稽なギャグなどで、とても楽しい映画に仕上げていると思うんです。

ただ、ワンシーンの中に、アクションとギャグと会話と状況説明と伏線が何重にもレイヤーで重ねられていて、それらの情報を脳内で消化するまえに次のシーンに進んでしまうみたいな。

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この感じどっかで経験したなーと思ったら、マイケル・ベイの「トランスフォーマー」を観た時の感覚に似てました。飲み込む暇なく矢継ぎ早に情報を詰め込まれるあの感じ。

だからと言って、観ていて内容が分からなくなるっていうわけではなくて、前述したように物語自体はそこまで複雑ではないから、大まかな展開は普通に理解できるんですよ。ただ、細部の情報を取りこぼしてしまう感じなんですよね。

スタイリッシュ・不謹慎・虐殺

で、まぁ色々あってクライマックスのアクションシーンになるわけですが、ここはもう、ザ・マシューヴォーンというか、お得意の「スタイリッシュ・不謹慎・虐殺」シーンが展開。冒頭のフリをクライマックスで回収するなど、細かい仕掛けも上手いと思ったし、重油の上でスケートするシーンは思わず笑っちゃうけど、その発想には感心しちゃいますよね。

ただ、このアクションシーンも、手癖感が増してるというか、割とディテールが雑な感じで「あれ?何か飽きちゃったのかな?」って思ったりしました。

大きくなってる?

で、そんな本作で個人的に一番気になったのは、主演のエリー役を務めるブライス・ダラス・ハワード。彼女はドラマ監督としても活躍してて、「マンダロリアン」のシリーズ作品も手掛けている人です。

冒頭のシーンからちょっと気になってはいたんですが、本作での彼女は結構ぽっちゃり体形なんですよね。

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まぁ、それも小説家という時間が職業や不安症気味で内気な性格という設定を考えれば、その体型自体に説得力はあるとも思うんですが、なんだかストーリーが進むごとに大きくなってるような……?

前半部分ではちょっとダボついたパンツにシャツ姿である程度隠されていた体形が、後半体にフィットしたドレス姿になることで開放されたからなのか、それとも服装による目の錯覚なのか、なんだか最初よりかなり大きくなっているように見えちゃうのが気になってしまいました。

ヘンリー・カヴィルジョン・シナの競演

あと、僕みたいなヒーロー映画オタク的に嬉しかったのは、エリーが書く小説「アーガイル」の主人公アーガイル役をあのヘンリー・カヴィルが。相棒のワイアット役をジョン・シナが演じているんですよね。

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ヘンリー・カヴィルはDC映画でスーパーマン役だったし、ジョン・シナは「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」の人気キャラ・ピースメイカーですからね。

そんな二人が、全く別の映画とはいえ共演するのは、個人的にかなりワクワクしたし、DCでは不遇な扱いを受けたヘンリー・カヴィルが楽しそうに演じていて、なんか観ているこっちも嬉しかったですねー。

ともあれ、結構文句めいた事も書きましたが、前述したようにこの作品はエンタメ映画としてメッチャ面白かったので、映画館で観て損はないと思います。

興味のある方は是非!!

 

本国アメリカでは酷評の嵐だが――「マダム・ウェブ」(2024)

ぷらすです。

先日2月23日にソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)4作目となる『マダム・ウェブ』を観てきました。

当日は3連休初日であり、「ハイキュー」や「ガンダムSEED」などの話題作公開とも重なって、映画館はとても混んでいましたよ。

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概要

マーベルコミックに登場するキャラクター、マダム・ウェブを主役に、未来予知の能力を持つ彼女の誕生物語を描くサスペンス。監督を務めたのはドラマ「Marvel ジェシカ・ジョーンズ」などのS・J・クラークソン。主人公を『サスペリア』などのダコタ・ジョンソンが演じ、『リアリティ』などのシドニー・スウィーニー、『ザ・スイッチ』などのセレスト・オコナーのほか、イザベラ・メルセド、タハール・ラヒムらが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

本国アメリカでは酷評の嵐だが

本作は、ヴェノム2作・モービウスに続くSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の第4作として製作・公開された作品なんですが、本国アメリカでは大酷評の嵐でして。曰く「悪夢の2時間」とか「モービウスの方がマシ」とか、それはもう、かなり非道い言われ様だとの情報を事前にキャッチしていたので、僕も時間とお金を無駄にする覚悟で観に行ったんですが――――――

え、普通に面白いんだけど?

というのが正直な感想でした。

もしかしたら事前にハードルが下がった状態で観たからかとも思ったし、実際、じゃぁ大絶賛するような名作なのかと聞かれれば決してそんな事はないわけですが。とはいえ、目くじら立てて酷評するほどは悪くないってのが、正直なところ。

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まぁ正直、かなり無理のある展開やご都合主義的な部分もあるし、映像的にもコレ!っていう目新しさや驚きもなく、中盤で明かされる主人公のキャシーの出生の秘密も予想通りでベタっちゃぁベタなんですが。

とはいえ、前半・後半での伏線と回収は単純に上手くやってるなと唸る部分も結構あったし、クライマックスの展開は「どうせこうなるんでしょ?」と思った通りだったけど、思わずグッときてしまいましたよ。

ただ「マーベル初のミステリー・サスペンス」という煽り文句はで、ミステリー要素は全くなかったです。あえてジャンル分けするならサスペンス・スリラーって感じ。

未来視の能力を得た主人公が、ある事情からヴィランに狙われる3人の少女を、能力を使って助ける。というのが本作のざっくりしたあらすじ。

ヒーローアクションもほぼないので、そこを期待している人は退屈しちゃうかもですが、ただこの作品の主人公マダム・ウェブは、ヒーローというより未来視で他のキャラクターをサポートする立ち位置のキャラでそもそも戦闘向きではなく、また、本作に登場する3人の少女も、後にスパイダー・ウーマンになるけど、本作の時点では何の力もない普通の少女なので、アクションらしいアクションがないのはむしろリアルと言えるんですよね。

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マダム・ウェブことキャシーを含めた4人は、それぞれ家族に問題やトラウマを抱えていて、エゼキエルというヴィランとの対決を通じて、それらの問題を乗り越えて疑似家族になり、そして後にヒーローになる。本作はその始まりの物語なのです。

何故酷評されるのか

そんな本作、なぜ本国アメリカではそこまで酷評されているのかを考えてみたんですが、例えば世界的に大ヒットした「ゴジラ-1.0」は日本では賛否両論でしたよね。
それは俳優のオーバーアクトだったり、キャラ造形の粗さ、構成の不味さなど、同じ日本人だからこそ感じる作劇や演出の粗が外国人には分からず、良い部分だけが伝わるみたいな現象があったと思うんですが、本作でも起きているのかな?なんて思ったり。
つまり本国では日本人はスルーしてしまう粗やセンスの悪さみたいなところが批判を呼んでいる的な。

もしくは作品の出来とは関係なく、今、西洋諸国で問題になっている行き過ぎたポリコレや多様性の押し付けの流れに対する反発や分断という流れが、本作の評価にも何かしらの影響を及ぼしているとか。

じゃなければ、人々はスパイダーマンの映画を待ち望んでいるのに、周辺の知らないキャラの映画ばっかり公開されることへのガッカリ感とか。

それとも、やっぱり単純に作品の出来が悪さで評価が低くて、僕がヒーロー映画に対してチョロいだけなのか。

何にせよ、映画の良し悪しなんて人によって変わるので、少しでも気になる人は劇場に観に行って自分の目で判断するのが一番いいと思います。

というわけでここからは、内容のネタバレを含むので気になる方はご注意ください。

 

気になったところ

そんな感じで、個人的にはかなり楽しんだ本作ですが、全てが良かったというわけではなく気になるところも。

個人的に一番気になったのは、ヴィランに狙われる3人の少女をNYに残して、主人公のキャシーがペルーにいくところでしょうか。

いや、それなら3人も一緒に連れてったれよっていう。

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っていうか、敵は大富豪で、しかもめっちゃ高性能の顔認証装置で彼女らが公共機関を使ったり街の防犯カメラに映ればすぐバレるという設定だったハズで、しかも、その時点でキャシーの顔や素性も敵にはバレているハズなので、飛行機を使ったら即バレると思うけど、それはまったくないんですよね。

そして、自分のルーツを探しペルーについたキャシーは、そこでスパイダーマンの始祖みたいな人に迎えられるんですね。

彼は、キャシーの母親が探していた新種のクモの毒を摂取することでスパイダーマン的な能力を持つ部族の男らしいんですけど、見た目が普通に白人で、しかも最初の登場ではスパイダースーツアマゾンバージョンみたいなのを着てたのに、キャシーの前では普通の洋服着て普通に「やぁ」って登場するので、なんかこう、色々混乱してしまうんですよね。まぁ、彼らも未来予知の力があるらしいので、予めキャシーが来るのを知っていたんでしょうけど。

それにしたって諸々、いくらなんでも展開に無理があり過ぎるとは思いました。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」

あと、個人的に一番引っかかったところ。

アマゾンでスパイダーマンの始祖的な人がキャシーに「あなたが責任を引き受けたとき、大きな力が生まれる」というセリフを言うんですけど、これはスパイダーマンのベンおじさんがいまわの際でピーターに言う「大いなる力には大いなる責任が伴う」の言い換えなんですね。

「大いなる力には~」はスパイダーマンファンなら誰もが知る名セリフであり、スパイダーマンというキャラクターの根幹に関わる重要な言葉。
そんなファンにとっても大切なセリフの変更。しかも言い換え自体に物語的意味はほぼなくて、別にそのまま使ったって物語的には問題ないという。

しかもこの二つのセリフ。意味合いとしては同じに聞こえるかもですが、文脈的に真逆の意味になってしまうんですよね。

もちろん制作陣は何らかの意図をもってセリフを変更したんでしょうが、僕はスパイダーマンファンの一人としてこの変更には、かなり複雑な気持ちになってしまいました。

他にもキャシーが序盤で盗んだタクシーを自分の車みたいにずっと乗り回すとか、色々気になるところはあるけど、前述したように、その分良いところもありますしね。

褒めポイント

逆に、本作の――というか「SSU」作品の褒めポイントとしては、基本的にどの作品もちゃんと完結している。ってのがあると思います。

まぁ、ベノムと続編は2本でワンセットですけど、モービウスも本作も、基本一本の作品として完結しているので、MCUみたいにアレもコレも観ないと内容が分からない。みたいなことはないんですよね。

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あと、DCやMCUに比べて物語の規模が小さいというのもポイントで、「それマイナスだろ」って思うかもですが、MCUやDCに比べて低予算な分、物語や悪役の規模がインフレしないというか、銀河だの宇宙を巻き込むような大ごとにはならない。これは親愛なる隣人であるスパイダーマンのユニバースならではだと思うんですね。

そして基本上映時間も短いので、それこそポップコーンムービーとして気軽に楽しめるっていうのはあると思うんです。80年代のジャンル映画的っていうか。

色んな映画が大作化して3時間も当たり前になっている昨今、こういう小さな規模で、サクサク観られてそこそこ面白いエンタメ映画は大切にしていきたいって思うし、個人的にソニーには、今後もこの位の規模の作品をコンスタントに作って欲しいって思うのでした。

興味のある方は是非!!

ファン待望の続編!「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開の『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』ですよ。

女の子の殺し屋のゆるい日常とキレッキレのアクションで話題を呼んだ阪元裕吾監督の「ベイビーわるきゅーれ」続編です。

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概要

殺し屋女子二人組が社会になじもうと奮闘する『ベイビーわるきゅーれ』の続編。何をするにもお金が必要な社会を生きる彼女たちに、新たな敵が立ちはだかる。前作同様、『グリーンバレット』などの阪元裕吾がメガホンを取り、『マンハント』などの園村健介がアクション監督を担当。『とおいらいめい』などの高石あかりと『オカムロさん』などの伊澤彩織が殺し屋コンビ役で続投し、阪元監督作『黄龍の村』などの水石亜飛夢、『琉球バトルロワイアル』などの丞威、『ウルトラマンジード』シリーズなどの濱田龍臣らが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「ベイビーわるきゅーれ」とは

「ハングマンズ・ノット」「ファミリー☆ウォーズ」「最強殺し屋伝説国岡」「ある用務員」など、主にアクションやバイオレンス映画を製作。独自の世界観や作りこまれた設定でカルト的人気を誇る阪元裕吾監督の代表作です。

社会に適合できない女子高生殺し屋コンビのゆるゆるな日常パートと、スタントパフォーマーでもある伊澤彩織のキレッキレのアクションの融合という、実写映画というよりはマンガ的世界観で多くの映画好きを唸らせた本作。

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高校卒業を間近に控えた殺し屋コンビ、深川まひろと杉本ちさとは、卒業後、組織の方針で二人暮らしをしながら、社会人としての”表の顔”を持つべくアルバイト探しを始めるのだが――という物語。

この作品では表立ってはいないものの、殺し屋が我々の日常に溶け込む形で存在。協会があり、殺し屋をサポートする事務方や、死体の始末屋や武器屋などが普通に存在するある意味「ジョンウィック」的な世界観なんですね。

この設定は阪本監督の「最強殺し屋伝説国岡」や「ある用務員」などとも通底していて、「ある用務員」で二人は女子高生の殺し屋コンビとして登場もしている。いわゆる阪本ユニバースが形成されているんですね。

「ベイビー~」は、コミュ障のまひろと明るく社交的だけどガサツで暴力的なちさとが表の仕事探しに苦労する日常コメディーとして描かれる一方で、戦闘シーンのアクションは女の子二人の体格に合わせたスピード重視&ジャッキー映画や「イップマン」の詠春拳を彷彿とさせるアクション設計を、女優でありスタントパフォーマーでもある伊澤彩織が見事に表現しているんですね。

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また、他の作品でも言えることだと思いますが、阪本監督の作劇はキャラクター重視のマンガ的な作劇なので、観ているこっちが主人公に感情移入しやすいという魅力もあるのだと思います。

仁義なき戦い」的続編

そんなこんなで多くの映画ファンに支持された「ベイビーわるきゅーれ」待望の続編として昨年公開された本作「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」

普通、続編となれば前作よりもスケールアップした物語を――と誰もが期待するところですが、阪本監督が選んだのは物語や世界観をインフレさせるのではなく、主人公二人の立ち位置はそのまま新キャラを投入。新キャラの方にドラマを持たせるという方法でした。

協会の下請けである非所属の殺し屋兄弟、神村ゆうりとまことは、彼らの仲介役・赤木とのし上がる事を夢見ていたが現実は厳しく。そんなある日、赤木が聞いたという「正規の殺し屋を殺せば、空いた枠に繰り上がりになる」という噂を信じ、まひろとちさとを倒して正規殺し屋枠を狙うのだが――というのが本作のあらすじ。

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まぁ、敵キャラとしては実質前作よりもスケールダウンしているんですが、この殺し屋兄弟の方を物語の中心にすることで、作品の世界観を広げているんですね。

この感じ、個人的には「仁義なき戦い」の続編「仁義なき戦い 広島死闘篇」を思い出しました。まぁ、「~広島死闘篇」の方は続編に原作が追い付かないので急遽舞台と主人公を変えて番外編的に制作したんですけどね。

対して、相変わらずゆるゆる殺し屋ライフを満喫していたするまひろ&ちさとコンビは、ある事情で謹慎を言い渡され、借金返済と当座の生活費を稼ぐためアルバイトをすることになるわけだけど、中盤の見せ場となる二人のアクション。特にまひろのアクションは前作以上にキレッキレで、アクションのアイデアも盛り込まれていて見ごたえがありましたねー。

そして、そんな両者が雌雄を決するクライマックスのアクションもまた前作以上に見ごたえがあり、さらに前半でのまひろのトレーニング描写がフリになっていて、それをこのクライマックスで回収する構成もアクション映画的な快感があって素晴らしかったと思います。

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そしてラストは「そりゃ当然こうなるよね」っていう予想通りのオチなんだけど、そこに至るまでの展開で「あれ、もしかして?」と一瞬思わせることで、両者に感情移入した観客を突き放すのも良かったですね。

個人的には、中盤のまひろとちさとの日常パートはやや冗長な感じはしたけれど、トータルでは十分すぎるほど面白かったし、続編が公開されたら絶対に見たいと思いましたねー。

興味のある方は是非!!

水上勉の料理エッセイを原案に描くヒューマンドラマ「土を喰らう十二ヵ月」(2022)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介する映画は、ベストセラー作家水上勉の料理エッセイを中江裕司監督が脚本化し沢田研二主演で制作された『土を喰らう十二ヵ月』です。

僕はこの作品を全く知らなかったんですが、先日レンタルビデオ屋に行った時に見つけてパッケージに惹かれてレンタルしました。

で、今回は2022年公開の作品でもあるので、ややネタバレしながら感想を書いていきますので、気になる方はご注意ください。

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概要

水上勉のエッセイ「土を喰う日々-わが精進十二ヵ月-」などを原案に描くヒューマンドラマ。歳の離れた恋人がおり、長野の自然に囲まれた生活を送る作家の日々が映し出される。監督と脚本を担当するのは『ナビィの恋』などの中江裕司。ミュージシャンで俳優の沢田研二、『ラストレター』などの松たか子、『青葉家のテーブル』などの西田尚美のほか、尾美としのり瀧川鯉八檀ふみらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

原作は水上勉のエッセイ

本作は「飢餓海峡」などで知られる水上勉が、少年時代に京都の禅寺で精進料理を学んだ経験を基に、軽井沢の山荘で食事を作り続けた1年間の料理について綴った味覚エッセイ「土を喰ふ日々わが精進十二ヶ月」を原案に、「ナビィの恋」の中江裕司監督が脚本・監督、ジュリーこと沢田研二主演で制作された作品です。

ざっくりストーリー紹介

沢田研二演じる主人公ツトムは9歳の頃に禅寺へ奉公に出され精進料理を学んだ経験から、自ら長野の山荘で野菜を育て、里山で山菜やキノコを採っては料理をして、そんな日々の生活を原稿に書く老作家。奥さんは13年前に亡くなっていて、ツトムは未だ納骨が出来ずにいるのです。

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そんな彼の元には担当編集者で若い恋人の真知子が時折訪れ、ツトムは真知子や同じ集落に住む人々に作った料理を振舞い、交流をしながら、自然に囲まれた環境で淡々と日々を過ごす。本作はツトムの作る料理と独白を交えながら、彼の生活を春夏秋冬を通して描いていくんですね。

田舎での生活と料理を通して、主人公を描く作品と言えば、五十嵐大介原作のマンガを実写化した映画「リトル・フォレスト」を思い出しますが、本作はまさに”老人版“リトル・フォレストといった感じでしょうか。

いや、もしかしたら五十嵐大介さんが本作の原案となった水上勉のエッセイにインスピレーションを受けて「リトル・フォレスト」を描いた可能性もありますけども。

そんな本作、序盤から中盤は畑から採った野菜や山菜でツトムの作る料理を真知子やご近所の大工さんなどと食べる日々が描かれ、その合間に独白を通してツトムの人生が少しずつ詳らかになっていくという構成。

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畑を耕し、山菜を採り、料理して食べるというのはつまり「生」を描いていて、ツトムや真知子がもりもり食べる食事シーンは生命力に溢れていますし、ツトムは真知子に一緒に暮らさないかと誘ったりもします。

前半は「生」後半は「死」

そんな映画のトーンが一変するのは、ツトムが心筋梗塞で倒れる中盤から。

奇跡的に命を繋ぎ止めたツトムでしたが、この一件で彼は、老境に差し掛かった自分のすぐ後ろに死の影が近づいている事を実感してしまうんですね。

ここから物語のトーンは一変。父親が棺桶を作る大工で寺に奉公に出されていたことから「自分は死に近い場所にいた」と回想していたツトムですが、それはやはりどこか他人事で、いざ実感として我が身に死の影を感じると冷静ではいられず。

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また、この時ツトムの身を案じた真知子は同居を申し出るんですが、ツトムはその申し出を断ってしまいます。何故なら真知子の言葉に自身を男ではなく、老人として見るニュアンスを感じ取りプライドを傷つけられたというのと、二人の関係が近い将来男と女から老人と介護者になると気づいたツトムが、愛する恋人を自分のために縛るのはいけないという両方の気持ちからなのだと思います。

そして一人になったツトムは「死神と仲良くなる方法」、つまり死を受けいれる為の心構えを作るため、様々な試行錯誤をしていくのです。

まぁ、僕も世間的には中高年と呼ばれる年齢だし、何かの折に老いを感じることも増えてきたし、昔はぼんやり他人事だった「死」が、実感を持って近くに迫っていると感じる瞬間もあったりするお年頃ですからね。

10年前の僕なら物語自体は理解できても本作の核の部分までは解らなかったと思うけど、今は全部ではないけど、何となくは解るようになった気がします。

(野菜を)育てて、収穫して、分けて貰った自然の恵みと、料理して、食べる。

そんなツトムの当たり前で淡々とした日常やその中で感じる心情が、土井善晴先生の作る素朴で滋味溢れる料理も相まって、しみじみと染みてくるんですよね。

気になったところ

とはいえ、じゃぁ100点満点で文句のつけようがない名作かというとそうでもなくて、気になってしまうところもチラホラ。

まず最初に気になったのが選曲で、うーん、なんていうか、劇中たまに入ってくるBGMがビックリするくらいダサいのです。いや、ダサいというより、古臭いって言った方がいいのかな。微妙にジャズっぽいようなフュージョンっぽいような、今や懐かしカッコイイって言うわけでもなく、ただ、中途半端に古臭いっていう。

むしろアレなら、いっそ音楽使わない方が良かったのでは?って思いました。

あと、もう一つ気になったのが、ツトムと真理子の関係というか距離感というか。

ツトムが娘にするみたいに作った料理を甲斐甲斐しく食べさせて、真知子の方も娘のように振舞っていたかと思うと、急にツトムが真知子を誘うような仕草をする。それをそれとなくいなす真知子。みたいな恋の駆け引きが繰り広げられ、そこだけトーンが変わって妙に生々しいというか。

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そもそも、ツトムは13年も納骨せず、いまだ部屋に奥さんの遺骨を置いているくらい想っているはずなのに、その遺骨のある部屋で若い恋人に色気を出すってのがどうにもしっくりこないし、それ抜きにしてもツトムと真知子の関係は「島耕作」的というか、お爺ちゃんの勘違い妄想みたいで、正直ちょっと気持ち悪いって思ってしまいました。

いや、まぁその展開があるから後半の真知子の申し出を断る展開に繋がっていく訳ですけど…うーん。

個人的にツトムと真知子の関係を掘るより、料理と田舎の生活に軸足を置いた散文的な物語の方が良かったかもって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

白石晃士が撮る純愛と解放の物語「愛してる!」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で製作された作品の一つで、Jホラー界のトップランナーの一人・白石晃士監督の『愛してる!』ですよ。

ずっと気になっていた作品ですが、今回、やっと観る事ができました。

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概要

日活ロマンポルノの50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第2弾となる作品で、SMの世界に足を踏み入れる地下アイドルの姿を描いたドラマ。ドキュメンタリーの密着取材を受けている地下アイドルが、SMの女王様と出会う。監督は『貞子vs伽椰子』や『不能犯』などの白石晃士。俳優の高嶋政宏が企画監修と出演を兼ねるほか、川瀬知佐子や鳥之海凪紗、乙葉あいなどが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の一本として製作された本作は、SMクラブのオーナーにスカウトされた元女子プロレスラーで、売れない地下アイドルの主人公・ミサとお店の先輩で女王さまのカノンの純愛を描く物語です。

日活ロマンポルノ作品だしSMを題材にしているのでR-18作品ですが、公開時、映画ファンから高い評価を受けていたこともあって、僕もかなり気になっていた作品なんですよね。

で、実際に観てみたら思った以上に面白くて、僕が観た白石監督作品の中でも1・2を争う名作だと思いましたよ。

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日活ロマンポルノとは

ちなみに、もしかしたら「日活ロマンポルノ」が何か知らない世代の人もいるかもなので、ざっくり説明すると、元々東映東宝・松竹・大映と並ぶ五大映画製作会社の一角だった日活は、小林旭宍戸錠といったスターを抱え、多くのヒット作を生み出して映画黄金時代を支えましたが、1971年、ワンマン社長であった堀久作による放漫経営などの結果業績が悪化。

同年、社長の電撃退陣や幹部の追放後も業績の悪化は止まらず、対立を続けていた会社と労働組合が手を携え「映像委員会」を設置。その時、営業担当の役員から提案されたのがポルノ映画の製作・配給だったんですね。

まだ、AVもない時代、成人映画レーベルへの転換によって業績は回復。また、ノルマ(裸とか性行為のシーンとか)さえクリアできれば比較的自由に映画を作れるという条件は後の有名映画監督を生み出し、女優・俳優の登竜門的な役割も担っていたのです。

やがて、AVなどの台頭もあって1988年4月14日、にっかつはロマンポルノの制作を中止するわけですが、日本映画史においてロマンポルノは戦後日本カルチャーの一角を担っていたのです。

そんな日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトとして、「アフロ田中」などの松居大悟、「平成ガメラシリーズ」の金子修介、そして本作を監督した白石晃士がそれぞれ作品を手掛けることになり、白石監督が題材として選んだのはずばりSMでした。

女子プロレスラー崩れで売れない地下アイドルのミサは、SMクラブ「変態紳士」のオーナーに素質を見込まれ、女王さま見習いとして働くことに。

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ただし、女王さまになるには奴隷の気持ちが分からないといけないというオーナーの意向で、研修として先輩女王さまのカノンの奴隷になるわけですが、カノンに実も心も調教されたミサはやがて――という物語です。

リアルとファンタジーが交差する”純愛”物語

本作の主役ミサを演じるのは、撮影時には実際に地下アイドルをしていたという川瀬知佐子。彼女の独特な体育会系?的な雰囲気と女王様・カレン役の鳥之海凪紗のお人形のような冷めた雰囲気は対照的で、それぞれの演じるキャラクターともリンクしているんですね。

カノンの調教でイキ倒していたミサが、その後の密着取材に「めっちゃ気持ちよかったっす!」と話すシーンや、SM体験に興奮したことを恥じらいなく無邪気に明かす姿は逆にリアルというか、ミサのキャラクターならきっとこんな感じだろうと思わせるリアリティーがあったと思いました。

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対するカレンは、決して感情的にならず何を考えているのか分からない。ある意味でサブカル的というか、もっと言うとメンヘラっぽさもあって、そこが演じる鳥之海凪紗のビジュアルとも相まって、こちらは逆にどこか現実離れしている感じなんですよね。そんな対照的な二人が惹かれ合って、愛し合い、やがてお互いの解放に繋がっていく展開は、ある意味ベタではあるけど、キャスティングの妙もあって嘘くささは感じませんでした。

ただ、2人とも演技経験はほぼないようで演技自体も決して上手いとは言えず、正直、この2人では映画のクオリティーとしてはやや心もとない。しかし、そこにベテラン俳優の高嶋政宏が加わることで、映画としてのグレードが上がっているわけです。

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著作「変態紳士」を参考にした映画を作りたいという話を受け、ステレオタイプのSMが描かれることを懸念した高嶋さんは、ショーとしてSMを見せることと、愛好家が集まる店は違うことなどを実際の店舗を案内しながらプレゼンしたのだそう。

役者としてもベテランであり”変態紳士”でもある高嶋政宏が本人役として本作に出演したことで、本物にしか出せない空気感が、寓話的に描かれる本作の物語にリアリズムを与え、逆にSMラウンジのオーナー役・ryuchellの存在はファンタジーとしての本作を象徴する存在感を発揮していて鏡合わせの配役になっていると感じたし、リアルとファンタジーが交じり合いその境が曖昧になることで、主役2人の拙さすら作品の持ち味にしていると感じましたねー。

そんなミサとカノンがついに相対するクライマックスの怒涛の展開は、デイミアン・チャゼルの「セッション」的な熱量すら感じましたよ。

ただ、あえて気になるところを1つ挙げるとすれば、本作も白石監督の代名詞であるフェイクドキュメンタリー形式で撮られているのですが、個人的には、本作は普通に劇映画として撮影した方が良かったのでは?と感じました。

R-18ということ、SMという題材や描写に対して、もしかしたら拒否感を感じる人もいるかもですが、いわゆる「ポルノ」では割り切れない魅力が爆発している作品だと思いました。

興味のある方は是非!!