八王子長田養蚕におじゃましました。
7月のまだ梅雨の頃、八王子市で養蚕農家を営む、長田養蚕へ念願かなっておじゃまさせて頂きました。
長田養蚕には、町田市立国際版画美術館での、インプリント町田2018 荒木珠奈ー記憶の繭を紡ぐー展で、ご協力頂きました。蚕がくわの葉を食べている音をインスタレーション内で静かに流していましたが、その音は長田養蚕の蚕の飼育室内で録音させて頂いたのでした。そのお礼を兼ねての訪問でした。
長田養蚕は、春、秋合わせて年間140kgの繭を出荷されます。かつて桑都と呼ばれた八王子でも、現存するのはたった2軒。その養蚕農家のひとつです。小学校への出張授業、高校への蚕の出荷なども積極的にされています。ちょうど春繭の出荷が終わったところで、飼育室は空っぽだったのですが、ゆっくりお話しを伺う事ができました。
(空の飼育室)
(蚕が小さい間、この桟にひいた紙の上で桑を食べます。昔ながらの道具)
長田家として12代目、養蚕を始めてからは6代目にあたる長田誠一さん。とにかく明るい、話が面白い!
くわこ(野生の蚕。蚕はくわこを家畜化したもの)が、時々くわの葉にくっついて、飼育室までくるが、くわこは逃げ足が早い!という事。
近所の小学生に、”おさだっち〜”と呼ばれていること。遊びにくる小学生達にお気に入りの大粒こんぺいとうをあげていたら、ある時から新顔の小さい子供までくるようになった。「あのおじさんは、こんぺいとうをくれる」というのが、子供達の間で伝承されていた事。
(長田さん常備のこんぺいとう、いただきました)
飼育室の外に巣を作ったアシナガバチが、器用に肉団子を幼虫にあげている様子を観察、録画した話。
幼少期の子供にはライターを渡す。長田さんの子ども達は、タンポポの綿毛は「フーっ」するものでは無く、火を付けるものと思っていた事。
長男さんの最初のペットは、銀蠅だった。今、その話をすると成長した長男さんが嫌がること。私の最初のペットはナメクジで、名前は「なめくじらちゃん」だった事もお話ししました。
とまあ、こんな感じで生き物に対する興味と愛情に溢れていて、お話しは尽きません。
奥様の晶さんは、草木染めをやられていて、「化学染料を使うのは面倒臭い。その辺に生えてるものを使ったほうが楽…」とおっしゃっていたのが、衝撃的でした。
一時期、お子さんの同級生に、鶏卵、乳牛、梨、米と野菜農家が揃っていたこと。東京でこの状況は、なかなか無いですね。順繰りに見学するだけで、すごい社会科見学でしょう…自然の中でおおらかに育児や工芸をされているようで、羨ましかったです。
昨年の録音に際しては、私が日本に到着してからだと、蚕は繭になってしまっている…という事で、アートコーディネーターの菊池由紀子さんにお世話になりました。
蚕が旺盛に食べる時期を見計らって、一人で真っ暗にした飼育室に特別に入らせていただき、録音したそうです。
そして別れ際、憧れていたけれど見たこともなかった、”くわこ”を頂いてしまいました!
(くわこ)
長田養蚕さん。今後も、大変貴重になってしまった国産の繭の出荷を続けていって、蚕を中心にいのちの面白さ、ありがたさを発信し続けていって頂けたらと思います。
長田さんご夫妻、菊池さんありがとうございました!!
「町田市ゆかりの美術家たち」和光大学のウェブサイトで紹介されました
真綿とクリスマスのニューヨーク
町田市立国際版画美術館でのインプリントまちだ2018展の間、(まちサポ)という近隣在住のボランティアさん達に、作品の監視で大変お世話になりました。
そのボランティアさん達と、会場でお話しさせていただく機会がありました。
「作者です、どうぞよろしくお願いします。」と名乗りでると、
「えっこんなにお若い先生だとは思いませんでした〜」と驚かれましたが、先生でも無いですし、そんなに若くも無いです…と恐縮しました。
作品の感想や、お客さんの反応などを教えていただきました。
そして「アメリカのどちらにお住まいですか?」「ニューヨーク市です。」という会話から、そのボランティアさんが以前にした、ニューヨーク旅行のお話しに。
「当時ニューヨークに住んでいたお友達が、クリスマス前のニューヨークはキラキラしていてとっても素敵なので遊びにきたら、というので行ってきたんです。
でも、冬のニューヨークは凄く寒いという事で、どうしようかと思っていたら、近所のお布団屋さんから、真綿を使えばと言われました。その真綿を中に挟んだガーゼの背当てを自分で作って、リュックみたいに背負えるようにして、服の下につけて行きました。」と。私が住んでいる街の話から、真綿へ…おぉ、そこにつながるか!と静かに感動してしまいました。
クリスマスから年末年始まで、キラキラ感が増すニューヨーク市の街(2017年の写真)
インプリントまちだ2018展のインスタレーション作品「繭」では、真綿も素材に使いました。
真綿とは、生糸が取れない品質の繭を、アルカリ系の薬品で精錬した後、水中で手で徐々に伸ばして作ります。約30cm四方に四角く伸ばしたものは「角真綿」と呼ばれています。昔から座布団やわた布団の表面に伸ばしてかぶせ、綿が動いて片寄らないようにしたり、防寒用具としても使われてきました。真綿には独特の粘りというか、物にひっかかる感じがあるので、綿の上に薄く伸ばしておくだけで、綿が動かなくなるようです。真綿は触るだけで、ものすごく柔らかく、暖かいものですが、私のように銅版画の制作で手指が荒れている人には、ひっかかる感覚が軽く恐怖でもあります…
婚礼の綿帽子のルーツも、真綿にあるそうです。
真綿の作り方(日本真綿協会サイトより借用)
ボランティアさんからは他にも、「嫁ぎ先の親戚が百貫(375kg)の繭を出荷する養蚕家で、毎年手伝いに行っていた。最初は、蚕を触るのが怖くしてし方がなかったけれど、今でも蚕をつまんだときの冷たい感触を覚えています」等、貴重なお話しを聞かせていただきました。作品の監視もして頂いた方々から、養蚕の記憶のお話しを聞くとは思っていなかったので、感激しました。
⭐︎2018年6/30~9/2「インプリントまちだ展2018」荒木珠奈 記憶の繭を紡ぐ 町田市立国際版画美術館 終了しました。ありがとうございました!
真綿については、日本真綿協会(http://mawata.or.jp/)のサイトが詳しく、真綿作りの講習会もされています。
版画芸術と、学芸員トーク(8/18・土)
版画芸術180号のフォーカス・アイに掲載していただいています。
版画作品の画像12点と、2012年のインスタレーション作品「見えない」の画像と、テキストで6ページにわたり掲載されています。
「生(き)の感覚、生(せい)のマチエール」と題した原稿を書いたのは、町田市国際版画美術館の学芸員、藤村拓也さんです。今回の「インプリント町田2018 記憶の繭を紡ぐ」展の担当です。素敵なテキストですので、作品と合わせてぜひ読んでいただきたいです。
版画芸術は、アマゾンやこちらのサイトでも注文できます。
そして、町田市国際版画美術館では、藤村拓也さんによる「担当学芸員によるギャラリートーク」が、8月18日(土)14時から開催されます。藤村さんのお話を聞きながら、展覧会を観てまわれるチャンスです。
ぜひ、ご参加ください!(要観覧券、申し込み不要)
⭐︎2018年6/30~9/2「インプリントまちだ展2018」荒木珠奈 記憶の繭を紡ぐ 町田市立国際版画美術館にて開催中!
”記憶の繭(まゆ)をつくる” ワークショップ 町田市立第三小学校編
7月4日に町田市立第三小学校にて、”記憶の繭(まゆ)をつくる” ワークショップ をしました。参加してくれたのは3年生の54人、2学期に蚕を育てた学年です。
まずは、画像を見せながら、ニューヨークで蚕を育てた事や、私の過去の作品についてお話ししました。作品についても、興味深く見てくれました。そして「虹蛇」という作品について説明している時、男の子が大きな声で「よく、考えられた作品だ‼︎」と言ったのが、個人的に面白かったです。ありがとうございます。笑
次は、みんなが持ってきた「大切にしていたもの」について、短い文章を紙に書きました。いつ、どんな、だれと…思い出しながら書きました。
制作の手順を説明した後は、実際の制作です。まず、思い出の品を薄紙で包んだ後に、白い様々な素材の毛糸やリボンを選び、巻いていきました。
ほどけないように巻いていくのは、意外と難しいもので、みんな無心になります。
最後には54個の、白くてコロコロした繭ができあがりました。
中身が見えなくなった繭を見て、みんなはどんな事を感じたのでしょうか。また、毛糸をほどいて「大切にしていたもの」と再会した時、どんな気持ちになるのでしょうか。
このワークショップで出来上がった作品たちは、町田市立国際版画美術館の2階のロビーで展示されています(9/2まで)
まぶし(蚕が繭をつくるための枠)に入った繭のように展示してあります。まぶしに入れたいというのは私のアイデアでしたが、それを実現するために学芸員さんがちょうど良い棚を探し出し、テグスで浮くように工夫、まるで本当に蚕が繭を作ったかのようになっています。窓の外の緑にも映え、素敵な空間になっています。
展覧会をご覧の際は、こちらもぜひご覧ください!
⭐︎2018年6/30~9/2「インプリントまちだ展2018」荒木珠奈 記憶の繭を紡ぐ 町田市立国際版画美術館にて開催中!
蚕と昔話
[7/25・水] 美術館でおはなし会―絵本と語りの時間
@町田市立国際版画美術館
蚕にまつわる昔話、伝説を選んで読み聞かせと紙芝居の両方でしてくれるそうです!
「おはなし はすの実」の方々とご挨拶しましたが、私も初めて聞く昔話や、地元のお話を準備してくださっていました。
また、展示室内、インスタレーション作品の側でのお話会で、貴重な機会ですので是非ご参加ください。
インプリントまちだ展2018
荒木珠奈ー記憶の繭を紡ぐー展@町田市立国際版画美術館
語り手:おはなし はすの実
7月25日(水)、8月25日(土) 各日14:00から30分程度
会場:企画展示室2
※定員15名(申込不要)
※本展観覧券をご用意のうえ、企画展示室2の入口にお集まりください。
写真は、蚕の昔話として代表的なもののひとつ、遠野の「おしらさま」。
"おしらさま"(東北・遠野の民話)菊池敬一・文 丸木俊・絵 小峰書店
白い馬と娘の悲しい恋の顛末が、人々に蚕をもたらし、馬型と人型の神様「おしらさま」が生まれたというお話です。
余談ですが、この絵本はアマゾンで購入したのですが、なんと「原爆の図」で有名な丸木俊さん(絵)のサイン本でした!
”記憶の繭(まゆ)をつくる” プレワークショップご報告
インプリントまちだ展2018の関連企画で、3/30にプレ・ワークショップを開催しました。
「記憶の繭(まゆ)をつくる」
2018年3月30日(金)午後1:30~4:00 町田市国際版画美術館講堂
「絹糸を吐き出し繭をつくる蚕にならって、思い出のつまった繭を作ります。」
という内容で、5歳〜小学6年生とそのお母さん達が参加してくれました。
最初にこれまでの荒木の作品紹介、そして昨夏に蚕を飼った記録などを見てもらい、実物の繭や蚕蛾、繭からひいた糸も触って見てもらいました。
次に、美術館スタッフから町田市で数年前まで養蚕をしていた農家さんへ見学に行った時の写真や、昔の写真などを見せてもらいました。日本で養蚕がとても盛んで、蚕が人々の生活に身近だった頃のお話を聞きました。
休憩を挟んだ後は、さっそく制作です。
手のひらで包めるサイズの、思い出のある物を家から持ってきてもらいました。
それぞれに、どんな思い出があるのか気になります。
どんな思い出がある物なのか、短い文章を書いてもらいました。
包む材料は、毛糸やリボンなど。日本とアメリカで集めた毛糸やリボンなどで、色は白〜生成りでした。
違う種類の毛糸やリボンを選び、それらを結んでつなげる事、角度を変えながら全体を巻いていく事を工夫しながら…結構、無心になります。
完成しました!
コロンと丸っこい「記憶の繭」になった物たちが、より愛おしく見えます。
糸をほどいてみたいのはいつ?と聞いたら「10年後」とか「来週!」とか、それぞれで面白かったです。
ご参加ありがとうございました!
出来上がった作品たちは、美術館でお預かりしています。美術館のどこかに展示される予定ですので、展示されたらぜひまた見に来ていただきたいです。
⭐︎2018年6/30~9/2「インプリントまちだ展2018」荒木珠奈 記憶の繭を紡ぐ 町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎