つきすみわたる世

日々の記録

2024年5月に読んだ本

エミリア・パルド=バサン 作 大楠栄三 訳『ウリョーアの館』

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19世紀スペインの山間にある村、ウリョーアの貴族邸で巻き起こった騒動を描いた物語です。館の礼拝堂付き司祭が赴任してくるところから話は始まり、当時の政治情勢も絡めながら場面が展開されていきます。

スペインの歴史や政治に詳しければ、その辺りがもっと面白く読めたかもしれないのが心残りです。人物の内面描写が細かく、想像も感情移入もしやすかったのがさすがでした。

それにしても、結末を考えると、救いのある話とはいえない……。

 

ヴィタ・サクヴィル=ウェスト 著 田代泰子 訳『悠久の美 ペルシア紀行』

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「生まれながらの旅人」である著者が、二度ペルシアを旅した記録の本です。個人的な事情や旅の同伴者については記述を省かれ、旅に寄せる著者の思いや現地で見聞きしたものや考えたことが生き生きと語られます。

この本の前に、鏡花の紀行文集やギッシングの『南イタリア周遊記』、ジョージ・エリオットの『回想録』を読んでいました。旅への興味が大いにかき立てられる読書期間でした。

 

大貫恵美子 著『ねじ曲げられた桜 美意識と軍国主義

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戦争に向かう国家がどのように桜を利用したか、特攻隊の隊員たちの手記を詳細に分析していく本です。古代からの桜のイメージや象徴学についても論じられており、非常に多岐に渡る内容だと感じました。戦争という悲劇は二度と引き起こしてはならないということとその記憶を忘れないためにも重要な読書でした。

 

チェンティグローリア公爵 作 大野露井 訳『僕は美しいひとを食べた』

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カニバリズム文学」と紹介にありましたが、まさにその通りでした。「美しいひと」ことイザベルをどのように食べ味わったか、語り手がイザベルの夫に対して延々と語る独白体の小説です。語り口がひたすら美しく、グロテスクな感じはあまりありませんでした。

 

ジョン・ランディス 編 宮﨑真紀 訳『怖い家』

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幽霊屋敷をテーマにしたアンソロジーです。ポーの『アッシャー家の崩壊』といった有名どころから初邦訳となる作品までそろっています。

いちばん不気味で怖かったのは『黄色い壁紙』でしょうか。主人公がだんだんおかしくなっていく様子が真に迫っていてぞっとしました。

ラヴクラフトやワイルドの作品では彼ららしさが出ていて楽しく読めたし、ユーモアのある話もあって楽しかったです。

 

マリアーナ・エンリケス 作 宮﨑真紀 訳『寝煙草の危険』

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スパニッシュ・ホラーという初めてのジャンルでしたが、とても楽しく読めました。現代社会や日常に溶け込む不気味さ、という感じで、いつ自分にも同じようなことが起こるかわからなくなる魅力があります。

 

小川公代 著『ゴシックと身体 想像力と解放の英文学』

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どこまで理解できたかは定かではありません。ただ、私自身も好きなゴシック小説をこんな風に読み解くことができるのか、と驚きを与えてくれた一冊です。

 

楊双子 作 三浦裕子 訳『台湾漫遊鉄道のふたり』

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旅の楽しさ、異国情緒、ご飯の美味しさ。女性への偏見、植民地への偏見、歴史の重み。

こんなにいろんな要素を、時に重く、時に楽しく読ませてくれる小説はなかなかありません。最後まで読んで主人公二人の本音がわかったとき、それぞれの心情を想像しながら読むと、どれだけ楽しめるだろうと思います。稀有な一冊に出会えました。

2024年4月に読んだ本

北村紗衣『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち 近世の観劇と読書』

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この本の著者が注目したのは、近世の女性たちが主体的にシェイクスピア作品を楽しむ活動。文献に残された小さな痕跡からその様子をたどっていくのは、ささやかながら労力がかかり、そしてとても楽しいものでした。彼女たちの営みがあっての私たちの営みだということが実感できます。

 

ジャッキー・コリス・ハーヴィー 著 北田絵里子 訳『赤毛の文化史 マグダラのマリア赤毛のアンからカンバーバッチまで』

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特定のイメージを持たれる赤毛。そのイメージはどこから来たのか? そもそも赤毛の起源とは? 自身も赤い髪を持つ著者がその謎に迫ります。時代とともに変化する赤毛への偏見と、それに抗う人々の様子に胸を打たれました。

 

石島亜由美『妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦の裏面史』

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男性的な価値観で、女性から「正しくない」とジャッジされることに疑問を抱いた筆者。彼女が十年以上かけて行ったのは、「妾」「愛人」と呼ばれる人たちの姿をフェミニズム的視点から分析・考察する研究でした。

それぞれの章・節に読み応えがあり、「妾」「愛人」の二つのキーワードから見えてくる一夫一婦制の抱える矛盾やその中で生きる女性たちの直面してきた壁がありありと感じられます。

 

アヌシェイ・フセイン 著 堀越英美 訳『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』

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なぜ、ミレーナの挿入手術は麻酔ありの場合に保険適用外になるのか。

なぜ、乳がんの検査は胸部をガラス板で強力に挟むという方法なのか。

なぜ、無痛分娩がなかなか普及しないのか。

これらの疑問のすべてに寄り添い、答えと解決策を教えてくれるのがこの本です。「痛みが無視されるって、ほんとにそんなことある?」と思う人。この本を読めば、いかに多くの女性がそんな目に遭ってきたかが分かります。これは多くの女性の実体験と確かなデータを元に、論理的に書かれたフェミニズムの本です。

個人の体験したエピソードの部分は、読んでいて胸が痛みます。それでも声をあげることの大切さが訴えられていること、理不尽な現状を打開するために行動している人や団体が紹介されていることで、とても勇気づけられました。大切な一冊です。

 

エリザベス・ボウエン 作 太田良子 訳『リトル・ガールズ』

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初めて読む文体で少し戸惑いましたが、情景描写が独特で好きになり、どんどん読み進めてしまいました。映画にしたらどんな感じかなと想像がふくらみます。

谷根千さんぽ

連休初日、谷根千の界隈をぶらついてきました。

商店街で食べ歩きを、と本当は思っていたのですが、あまりに暑くて断念。でも楽しい一日になりました。

お昼に生パスタを食べ、

アラビアータ(奥)・ほうれん草とベーコンのペペロンチーノ(手前)

古本屋さん(本の感想は後々ブログにアップします)に寄り、

森鴎外記念館にも足を運び、

おやつにはアップルティとチーズケーキを。

美味しかったです

秋ごろになってから食べ歩きにチャレンジしたいと思います。

2024年3月に読んだ本

スザンヌ・フェイジェンス・クーパー著 安達まみ訳『エフィー・グレイ ラスキン・ミレイと生きた情熱の日々』

これはヴィクトリア朝期を生きた一人の女性の評伝です。彼女の人生は映画化もされているため、タイトルの名前を知っている方もいるでしょう。社交界にスキャンダルをもたらした彼女の人生を、変に誇張せず、書き残された膨大な記録から描いている点がとてもよかったです。

注目したいのは、エフィーやその娘たち、妹たちを通して見えてくる、当時の女性が置かれていた環境とその変化。女性史においてエフィーが果たした役割が、小さいながらも説得力を持って書かれていました。

2024年2月に読んだ本

マーシャ・ライス『ユリの文化誌』

エリザベス・ディケンソン『ベリーの文化誌』

筒井淳也『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』

これら三冊、読んだのがけっこう前で感想を忘れてしまいました。

 

ショーニン・マグワイア『不思議の国の少女たち』

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この一冊はかなり気に入りました。別世界へ行ってから現実へ帰ってきたものの、再び別世界へ帰りたいと望む少女少年たちの物語です。個性的なキャラクターが集まっていて、シリーズすべて読みたくなるお話でした。

 

海野弘『366日 絵のなかの部屋をめぐる旅』

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室内画好きにはもってこいの画集です。以前展覧会に行って以来、ハマスホイの絵が好きになりました。カール・ラーションの作風も好みです。

 

カレン・M・マクマナス『誰かが嘘をついている

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タイトルだけだとサスペンスっぽいですが、青春群像劇といったほうが合っている気がします。ある事件の容疑者となった四人の高校生が、事件の真相を探りながら成長する物語。ドラマや映画映えする話でした。

 

ケイト・ミルフォード『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』

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クリスマスシーズンに、温かいチョコレートやココアを飲みながら読みたい一冊。凄惨な事件は起きないので、ファンタジー要素のある優しいミステリがいい!というときにぴったりでした。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を観た

映画館にて、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を観てきました。前作はYouTubeの総集編でざっと確認したのみです。以前観た『閃光のハサウェイ』でバトルシーンの迫力が気に入ったので、今回も。

寝不足と疲労のせいで、前半はあまり集中できませんでした。ですが敵の狙いが明らかになり反撃の態勢が整ってからはぐっと引き込まれ、宇宙での戦闘に魅了されました。人間の生きる価値を問うメッセージも心に残るものです。

個人的には、デスティニー・プランが実行された世界では生きたくないです。自分の遺伝子の情報には興味があるし得意不得意がはっきりしたら役立てられそうだけれど、生き方がそこに縛りつけられては窮屈だから。あるべき姿を定められて生まれてきた存在だからこそ、デスティニー・プランに理想を見出すのかもしれません。

面白い映画でしたが、カップルできすぎ…とは思いました。でもガンダムシリーズを貫く大きな軸のひとつに愛があるようだからしかたないのかな。