- エミリア・パルド=バサン 作 大楠栄三 訳『ウリョーアの館』
- ヴィタ・サクヴィル=ウェスト 著 田代泰子 訳『悠久の美 ペルシア紀行』
- 大貫恵美子 著『ねじ曲げられた桜 美意識と軍国主義』
- チェンティグローリア公爵 作 大野露井 訳『僕は美しいひとを食べた』
- ジョン・ランディス 編 宮﨑真紀 訳『怖い家』
- マリアーナ・エンリケス 作 宮﨑真紀 訳『寝煙草の危険』
- 小川公代 著『ゴシックと身体 想像力と解放の英文学』
- 楊双子 作 三浦裕子 訳『台湾漫遊鉄道のふたり』
エミリア・パルド=バサン 作 大楠栄三 訳『ウリョーアの館』
19世紀スペインの山間にある村、ウリョーアの貴族邸で巻き起こった騒動を描いた物語です。館の礼拝堂付き司祭が赴任してくるところから話は始まり、当時の政治情勢も絡めながら場面が展開されていきます。
スペインの歴史や政治に詳しければ、その辺りがもっと面白く読めたかもしれないのが心残りです。人物の内面描写が細かく、想像も感情移入もしやすかったのがさすがでした。
それにしても、結末を考えると、救いのある話とはいえない……。
ヴィタ・サクヴィル=ウェスト 著 田代泰子 訳『悠久の美 ペルシア紀行』
「生まれながらの旅人」である著者が、二度ペルシアを旅した記録の本です。個人的な事情や旅の同伴者については記述を省かれ、旅に寄せる著者の思いや現地で見聞きしたものや考えたことが生き生きと語られます。
この本の前に、鏡花の紀行文集やギッシングの『南イタリア周遊記』、ジョージ・エリオットの『回想録』を読んでいました。旅への興味が大いにかき立てられる読書期間でした。
大貫恵美子 著『ねじ曲げられた桜 美意識と軍国主義』
戦争に向かう国家がどのように桜を利用したか、特攻隊の隊員たちの手記を詳細に分析していく本です。古代からの桜のイメージや象徴学についても論じられており、非常に多岐に渡る内容だと感じました。戦争という悲劇は二度と引き起こしてはならないということとその記憶を忘れないためにも重要な読書でした。
チェンティグローリア公爵 作 大野露井 訳『僕は美しいひとを食べた』
「カニバリズム文学」と紹介にありましたが、まさにその通りでした。「美しいひと」ことイザベルをどのように食べ味わったか、語り手がイザベルの夫に対して延々と語る独白体の小説です。語り口がひたすら美しく、グロテスクな感じはあまりありませんでした。
ジョン・ランディス 編 宮﨑真紀 訳『怖い家』
幽霊屋敷をテーマにしたアンソロジーです。ポーの『アッシャー家の崩壊』といった有名どころから初邦訳となる作品までそろっています。
いちばん不気味で怖かったのは『黄色い壁紙』でしょうか。主人公がだんだんおかしくなっていく様子が真に迫っていてぞっとしました。
ラヴクラフトやワイルドの作品では彼ららしさが出ていて楽しく読めたし、ユーモアのある話もあって楽しかったです。
マリアーナ・エンリケス 作 宮﨑真紀 訳『寝煙草の危険』
スパニッシュ・ホラーという初めてのジャンルでしたが、とても楽しく読めました。現代社会や日常に溶け込む不気味さ、という感じで、いつ自分にも同じようなことが起こるかわからなくなる魅力があります。
小川公代 著『ゴシックと身体 想像力と解放の英文学』
どこまで理解できたかは定かではありません。ただ、私自身も好きなゴシック小説をこんな風に読み解くことができるのか、と驚きを与えてくれた一冊です。
楊双子 作 三浦裕子 訳『台湾漫遊鉄道のふたり』
旅の楽しさ、異国情緒、ご飯の美味しさ。女性への偏見、植民地への偏見、歴史の重み。
こんなにいろんな要素を、時に重く、時に楽しく読ませてくれる小説はなかなかありません。最後まで読んで主人公二人の本音がわかったとき、それぞれの心情を想像しながら読むと、どれだけ楽しめるだろうと思います。稀有な一冊に出会えました。