標準ズームがすき

はじめに

この記事は、沼 Advent Calendar 2018 - Adventarの19日目の記事だ。もう25日で申し訳無さが強いが、とにかくそういう形でこの記事を書いている。沼といえばカメラ自転車アウトドアと昨今相場が固まっているように思うが、例に漏れず私もカメラの話をする。標準ズームレンズの話だ。

標準ズームレンズとは

写真用の交換レンズにおいて、標準ズームレンズとは広角域から望遠域の入り口ぐらいまでの焦点距離の幅を持つズームレンズのことを主に言う。具体的な製品の仕様としては、135判では28-70mmとか、24-85mmのズームレンジになる。開放f値は3.5-5.6や4-5.6だったりするものが多い。開放f値がズーム全域で2.8等の製品もあるが、そうしたものは"大口径"標準ズームレンズなどと分けて呼ぶ向きもある。この記事では、「標準ズームレンズ」といえば開放f値が暗い方の製品群を指すものとする。 標準ズームレンズは、カメラとセットで販売されるものが多く、カメラとともにユーザーの手に渡る、そのカメラシステムの最初の一本であるとともに、その一本でさまざまな場面を抑えられるレンズという性格付けがなされる。それ故に、「キットズームの次はこの一本!」のように他のレンズのセールストークのダシにされたり、どんな場面でもそれなりに写るけどそれ以上のものは無いとかここぞというときに不便とか、器用貧乏めいたレビューがなされることがある。そういうのを見ると、そういう役回りなんだから仕方ないとはいえ、なんだか寂しいような気持ちもする。 描写性能が優れたレンズが他にあったり、例えば明るさや最短撮影距離が長いことで軽んじられることはあるにせよ、「最初の一本」というのは、それなりに重い役割ではないかと私は思う。もちろん「このレンズを使いたい!」と決意してカメラを買う人も少なくはないだろうが、キットズームに求められるのはそのポジションではないのだ。標準ズームレンズはカメラとセットで「すぐに写真が始められる」という形で販売され、ユーザーにそのカメラシステムへの信頼とか期待とかを抱かせ、他のレンズも使ってみたいと思わせる、そんな役割を担っているというのは、それほど大げさではないだろうと思っている。そのような役割を、コストのかさむ材料や工程を組み込めない中で実現させるというところに、ある種のメーカーの意志のようなものが見いだせないかとも思う。 今回は、"沼 Advent Calender"の記事ということで、キットズームについて掘り下げてみることを仮に「標準ズーム沼」と呼んでみたい。

標準ズーム沼の浸かり方

もしこれを読んでいるあなたがもうカメラをお持ちなら、まずはその機種のキットレンズと、その前後の世代の標準ズームレンズを揃えてみるといいだろう。現行のレンズ交換式デジタルカメラに適合するものなら、1万円前後で中古の標準ズームレンズが買えるだろう。なおここでは135判フルサイズミラーレス等の話はしていない。APS-C用の18-55/3.5-5.6のようなレンズの話をしている。 もしあなたがまだカメラを持っておらず、奇特にもこの記事を読んで標準ズームレンズで写真を撮ってみようと思ったなら、お近くの「カメラのキタムラ」や「ハードオフ」でボディとレンズを探すといいだろう。お店に並んでいるオートフォーカス一眼レフカメラの中から気に入ったものを選び、それに合う標準ズームレンズを選ぼう。デジタルカメラでもフィルムカメラでも構わない。フィルムなら現像のついでにCDにデータ化して書き込んでくれるサービスもあるので、SNSにアップロードするのも安心だ。*1 それで撮影設定をフルオートにして周りのものを適当に撮ってみよう。どんな場面でもそれなりに写る、標準ズームレンズの素性がわかるはずだ。

実例

ここからは、私の手元にある標準ズームレンズたちを、実際に撮影した写真とともに紹介していきたい。なお、個々のレンズに関する記述は、比較撮影やチャート撮影のような評価によるものではなく、感想を述べているだけであるということを予め断っておく。

ミノルタ AF 28-105mm/f3.5-4.5

α507siらへんと組み合わされていたらしいレンズである。このレンズについては、奈良の鹿寄せを見に行ったときの写真が印象深い。

azmin.hatenablog.com

中央の鹿が背景から浮いている感じ! 最初の一本のレンズからこんな画が出てきたら、その後長くミノルタを親だと思って過ごすこと間違いない。上記の記事の中で、鹿との距離が近い写真はこのレンズで撮っているはずなので、よかったらご覧いただきたい。

奈良公園

この旅行にはα-70との組み合わせで持っていったのだが、軽いボディとこのレンズはなかなか無敵に思えてよかった。 このレンズが販売されていた同時期にはAF 24−85mm/f3.5-4.5という僅かに広角側に寄ったレンズが存在し、そちらもまた良く写る標準ズームである。が、次に紹介するAF 24-105mm/f3.5-5.6によって2本ともラインナップ上では置き換えられてしまった。

ミノルタ AF 24-105/3.5-4.5

このレンズは、2000年にミノルタα-7とともにリリースされた。単に近い仕様のレンズをリプレースしただけでなく、性能的にも前モデルを超えていこうとしたのがなんとなく感じられる気がする。 AF28-105で見た後ボケもいい。

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以下2枚はどちらも望遠端105mmでの開放。

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先代モデルであるAF 24-85/3.5-4.5 とAF 28-105/3.5-4.5 は、フードのバヨネットが共通で互いのフードを使い回すことができた*2。しかしこのレンズはバヨネット形状が異なるため、先代レンズのフードを使い回すことができない。フード無しで購入したためにこの点は完全にアテが外れた格好になってしまったので、どなたかフード単体で売っているのを見かけたらご一報下さると大変うれしい。

smc PENTAX-F 35-70/3.5-4.5

ペンタックスSFXとともに登場した、ペンタックスFレンズの標準ズーム。小さい軽い簡易マクロ付き、という仕様で、散歩ついでに持っていく分にはとても使いやすい。

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なおこのFレンズ、現代の目からすれば結構尖った意匠をしているので、集めて並べると楽しい。

smc PENTAX-FA 28-105/3.2-5.6 AL IF

ペンタックスの28-105mmのレンズは何本か存在するが、これはフィルム時代の最後のモデル。軽くて小さく、かつズームレンジも十分広いので、散歩ついでに持っていくにはちょうどよい。ただフードを付けるとそれなりに幅を取ってしまうので、いくぶん気軽さが削がれる。 これはNATURA 1600を入れて、夜に散歩したときに撮影したカットだ。標準ズームには厳しい場面かと思われたが、暗所でもまあまあ粘ってトーンが出ているように思われる。

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本所二丁目

このレンズは、K-3でフィルムのデジタル化*3をするときにも使っていて、画角の調整が簡単にできるので重宝している*4

おわりに

印象に残った写真を選んだらなんだか薄暗い写真ばかりになってしまった。今回挙げた4本はどんな場面でもそれなりに押さえられて持ち運びもしやすく、どれも気に入っている。次回(?)までの宿題は、明るめの写真を増やすこととしたい。

*1:でも最近はCDドライブがないPCも多いし一概に安心とは言えないかもな

*2:24-85用のフードに比べて28-105用のフードがわずかに深く作られているのがポイント

*3:デジタルカメラでフィルムの透過画像を撮影することでデジタル画像にしている

*4:フォーカスリングが軽いので撮影している間にピントがズレたりするけど

吊るす話

はじめに

この記事は、feedforce Advent Calendar 2018の9日目の記事です。前日はid:kasei-sanによる退職エントリでした。普段からいろいろとお世話になっているので切ないですね……。

本題

ところで、私はコーヒーが好きだ。職場にも豆を持ち込んで、ペーパードリップで淹れたものをほぼ毎日飲んでいる。コーヒーを淹れるには、ご覧のように豆を保存する瓶、ミル、ドリッパー、替えのフィルターなど、こまごまとしたものが必要になる。 f:id:azmin:20181207174245j:plain これらを机の上に置いておくのも、ただでさえ散らかしがちなデスクがさらにごちゃごちゃするし、使わない間にホコリが積もりそうでちょっと良くなさそう。しかし、給湯室の棚はすでに他の人のマグカップで埋まっており、私の茶道具が押し入る隙間はない。かといって袖机もないし、どこに収納したものか……。数分考えた末に、上野のマルイに入っているニトリに行って、カゴとS字フックを買ってきた。 f:id:azmin:20181207174412j:plain 職場のデスクの天板と側板の間にはわずかな隙間があるので、そこにフックを掛け……、 f:id:azmin:20181207174546j:plain このように茶道具を入れたカゴを吊るす。 f:id:azmin:20181207174655j:plain どうだろう。茶道具はホコリを被ることなく机の下に収まり、コーヒーが飲みたくなったらカゴごと給湯室に持っていけばよくなった。目論見通りだ、素晴らしい!

このように、フックを使えばなんでもない壁に収納スペースを作り出すことができる。ごく当たり前のことを大真面目に言っているようで少しアホらしいが、機械的な要素の組み合わせによって為されること、つまりはあるがままを述べているに過ぎない。

最近、自宅にこのフックを導入した。ネオジム磁石で壁などに固定するタイプのフックだ。

これはただの冷蔵庫の側面だ。もちろんここに磁石フックを1つ付け、レジ袋を吊るしてゴミ箱代わりにすることもできる。 f:id:azmin:20181208120527j:plain だが、ここでは職場の例のように、2つフックを並べてみよう。 f:id:azmin:20181208120625j:plain ほら、100均で売っているカゴが空中収納に化けた! 冷蔵庫の周りにあったら便利なもの――ビニール袋とか、調味料とか、料理しながら飲むビールと一緒に食べるチータラとかを入れることができるし、何なら上下左右にカゴを並べることだってできる。 f:id:azmin:20181208120713j:plain 磁石フックは、なにも冷蔵庫や玄関ドアばかりが仕事場ではない。これはよくあるクロスが貼られた壁だ。 f:id:azmin:20181208120951j:plain このようにゼムクリップをホチキスで壁に留めると……、 f:id:azmin:20181208121011j:plain どうだろう。ゼムクリップによって磁力の効く足場ができ、磁石フックの活動範囲が広がった。 f:id:azmin:20181208121026j:plain

画鋲でもいいではないかと言う向きもあるかもしれないが、特にカレンダーなどを壁に固定する場合、カレンダーを破るときや新年を迎えて貼り換えるときに画鋲が外れて、その刺した穴を再利用していると次第に緩くなって結局カレンダーも吊るせなくなってしまうことはよくあるだろう。磁石フックを用いれば、そのような心配からは開放される。わが家では磁石フックを使って時計を吊るしている。

なお、今回は磁石フックを使いたかったのでゼムクリップを壁に留める形にしたが、フック自体をホチキスで壁に留めてしまう「壁美人」という商品もある。小物を吊るすフックからテレビを固定する金具まで、ラインナップの層が厚いのでぜひチェックされたい。

それでは、良いフックライフを!

1歳児を連れて東海道新幹線を利用して得られた知見

先日、妻と子供と一緒に新幹線を利用する機会があり、いろいろと気づいたことが多くあったので書き留めておく。

前提

  • ベビーカー利用
  • 妻、子供、自分の3人
  • 荷物は1泊分
  • 東京~新大阪の往復

その1 ベビーカー利用なら東京駅より品川駅のほうがいい

東京駅は新幹線と在来線の連絡改札の周辺で細かい段差が多く、ベビーカーだとつらい。

一方品川駅で新幹線と在来線を乗り継ぐ場合には、エレベーターが必要なのはホームと連絡通路の昇降のみで、連絡通路には階段やスロープはない。東京側の発着駅を選べるのであれば、ことベビーカーでの移動に関して言えば品川駅を利用したほうが楽だ。

その2 ベビーカー置き場は別に確保したほうが楽。各車両の一番後ろの列の席を取るか、それが無理なら子供の分の席を取る

足元の広い新幹線といえども、自分の膝の前に畳んだベビーカーを置いてしまうととても窮屈で、それで2時間近く過ごすのはなかなかにつらい。そのうえ放っておくとあちこち動き回る1歳児は、膝の上に抱いておく必要がある。乗車時間のほとんどを、両親の片方は抱っこで、もう片方は窮屈な姿勢で過ごすとなると、目的地に着く前に疲れ果ててしまう。

そこで、ベビーカーを置く場所を親の席とは別に確保しておくといくぶん気が楽になる。今回、行きは子供の分の指定席を取る方法で、帰りは車両の最後列の席を取る方法で、それぞれベビーカー置き場を確保した。

未就学児が新幹線の指定席を利用するには、小児料金の乗車券・指定席特急券が必要になるが、それでもベビーカーを置く場所が作れるのはありがたい。ABCの並びで取れないと、ベビーカーを置いた席の隣の人の出入りがベビーカーで塞がれる形になってしまうが、そのような場合は事情を説明して理解してもらうほかない。ベビーカーのほかに座席に荷物を置いてもいいし、隣の人の荷物置き場として使ってもらってもいい。

また、各車両の最後列の座席を取ることができたら、背もたれと壁の隙間にベビーカーを置いておくことができる。これなら席は親の分だけで済むのでお財布に優しい。指定席を取る際には、最後列の座席をまず狙っていきたい。

その3 11号車とその前後はおむつ交換台が近くて安心

東海道新幹線の車内には、おむつ交換台を備えた多機能トイレや授乳に使える多目的室がある。しかしそれらの設備は11号車にしか存在しない。したがって、おむつの交換や授乳が必要になる乳幼児を連れている場合は、11号車やその前後に席を確保できると安心できる。

多目的室の利用には乗務員への声掛けが必要で、乗務員室は8号車にあるということを覚えておくと利用がスムーズになる。近くに乗務員が見当たらないからといって、間違っても緊急通報装置を利用してはいけない。

総評

車内で見ているとうちの子供より大きい子はもちろん、もっと月齢の小さそうな子も新幹線で移動していたし、子連れでも結構遠くに行けるんだという自信になった。

coとthunkifyで書いていた非同期処理のフローをasync/awaitで書き換える

要約

タイトルの通りasync/awaitで書き換え可能だしAsync Functionはアロー関数でも定義できるしいい感じです。

coとthunkifyではどうだったか

Node.jsアプリケーションを書いていて、非同期処理の逐次実行が必要なとき、今まではcoとthunkifyを使って書いていた。 具体的にどんな場面だったかというと、requestモジュールを使ってAPIを叩き、その結果を使って別のAPIを叩き……みたいな状況だ。 従来は、Node.jsでの非同期処理を、coとthunkifyを使って幸せに書こうを参考に、以下のようなコードを書いていた。

const co = require('co');
const thunkify = require('thunkify');
const request = thunkify(require('request'));

function doSomething() {
    const headers = { 'Content-Type': 'Application/json' }
    co(function* (){
        const option1 = { headers, url: 'http://example.com/api/first' };
        const reqponse1 = yield request(option1);
        
        const option2 = {
            headers,
            url: 'http://example.com/api/second',
            method: 'POST',
            body: JSON.stringify({ state: response1[1].state })
        };
        const response2 = yield request(option2);
    }).catch((err) => console.log(err));
}

thunkifyによってthunkに変換されたrequestをcoがPromiseに変換し、ジェネレータとの組み合わせによってAPIリクエストのレスポンスを待つことができるようになっている。 このように言語化するとthunkifyやcoのやっていることが余計に感じられ、素のgeneratorとPromiseでもいいじゃんと思われた。そこで、せっかくなのでES2017で追加されたasync/awaitを使って書き直してみた。

async/awaitによる書き換え

const request = require('request-promise-native');

async function doSomething() {
    const headers = { 'Content-Type': 'Application/json' };
    try {
        const option1 = { headers, url: 'http://example.com/api/first' };
        const responseBody1 = await request(option1);
        
        const option2 = {
            headers,
            url: 'http://example.com/api/second',
            method: 'post',
            body: JSON.stringify({ state: responseBody1.state })
        };
        const responseBody2 = await request(option2);
    } catch (err) {
        console.log(err);
    }
}

requestの代わりにrequest-promise-nativeを使う。request-promise-nativeのrequest()はPromiseを返し、await式によってPromiseがresolveされるまでdoSomething()の実行は停止される。Promiseがrejectされたら外のtry-catchで捕捉できる。 多少見通しがよくなったぞと思って改めてMDNのAsync Function の解説を見ると、

async/await 関数の目的は、 promise を同期的に使用する動作を簡素化し、 Promise のグループに対して何らかの動作を実行することです。 Promise が構造化コールバックに似ているのと同様に、 async/await はジェネレータと promise を組み合わせたものに似ています。

とあり、あっハイその通りですといった記載があった。

Async FunctionをExpressのルーティングに使う

Async FunctionをExpressのルーティングのハンドラーに使うと、リクエストを起点に非同期処理を順番に実行するといったコードがシンプルになる。 これは上記のdoSomething()のようにAPIを順番に叩く例。

const express = require('express');
const router = express.Router();
const request = require('request-promise-native');

router.get('/something', async (req, res) => {
    const headers = { 'Content-Type': 'Application/json' }
    try {
        const option1 = { headers, url: 'http://example.com/api/first' };
        const responseBody1 = await request(option1);
        
        const option2 = {
            headers,
            url: 'http://example.com/api/second',
            method: 'post',
            body: JSON.stringify({ state: responseBody1.state })
        };
        const responseBody2 = await request(option2);
        res.send();
    } catch (err) {
        console.log(err);
        res.status(500).send();
    }
});

アロー関数を使ってasync () => {}とも書けるのがいい。

東上野三丁目「シスター」のベーコンと刻み高菜のスパ

下を向いてばかり歩いていたら虹を見逃してしまうよ、と朝ドラの主題歌でミスチルが唄っているが、昼メシを探すのもどこか似ている。路面店ばかり見ていては、地下や空中階にあるいい感じの店に気づけなくなってしまう。まあこれは個人的な経験則で、好みの店がそんなロケーションにあることが多いのと、路面店の様子を見るのも下ばかり見ていたらできない。やっぱりあんまり似ていなかった、ごめん。

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「シスター」は永寿総合病院の斜め向かいのビルの3階にある。上野駅からこの病院の前を通る道は頻繁に通るのだが、この店の存在に気づいたのはごく最近のことだ。1階は病院の近くにはよくある調剤薬局だし、店の入口は脇の路地の方に開いているしで、ただ歩いているだけではまったく気に留めることがなかった。きっかけはよく覚えていないけれど、病院の前でふと目線を上げたら、通りに面した窓に「コーヒー&ダイニング」と書かれているのが目に入ってきたのだった。 f:id:azmin:20170316130952j:plain 立て看板が日焼けしていていい味出している。ホワイトボードに書いてある今週のお弁当(とは言いながら重箱で出されるイートインメニューだ)がいい感じだ。鶏むね肉のごまだれっていわゆる棒々鶏? それにアジフライ、なんだか不思議な組み合わせだけどいいじゃない。これにしよう。「エレベータをご利用ください」との案内に従ってエレベータを呼んでみると、なんとホームエレベータだ。 f:id:azmin:20170316131108j:plain なかなか見ることのない操作盤にアガる。閉めるボタンがない。 f:id:azmin:20170316131117j:plain

3階に着いてドアが開くと、エントランスなどはなくいきなり店内である。窓が南向きなので店内はとても明るい。エレベータは厨房からは死角になっている上、出入りするときにチャイムが鳴ったりとかはなさそうなので、一応店主に一声かけてから席についた。今週のお弁当を頼むつもりでいたが、メニューも目を通しておこう。 f:id:azmin:20170316131310j:plain ベーコンと刻み高菜のスパ。いや、こっちの方が断然気になる。確かに高菜ってラーメンに乗せたりするし(博多のアレは辛子高菜だけど)チャーハンにもするからいけるかもしれないけど、高菜をスパゲティに、か。ちょっと想像つかないしこっちにしよう。

注文して待つこと数分、果たしてベーコンと刻み高菜のスパゲティは目の前にやってきた。

ベーコンと高菜がちゃんと麺に絡むようにして口に運ぶ。これは……確かにベーコンと高菜だ……。ベーコンと炒めてちょっと出てくるラード、高菜、スパゲティ、なんというかそれぞれに飾りがない。醤油はたぶん入ってないし、ニンニクも入っていない。これだけで成立している。温めた高菜の野菜らしい甘みがある。なんだこれ、すごいぞ。うまい。 スパゲティは喫茶店メシでよくあるもっちりしたものではなく、標準茹で時間で上げたばかりという感じの硬さ。店主が「中で固まってるかもしれないんでよく振ってくださいね〜」とパルメザンチーズとタバスコを置いていったが、「これチーズ要るか……? いらなくない……?」と考えているうちに、結局チーズを使わないまま食べ終わってしまった。

せっかくなので、プラス200円のコーヒーもいただいていくことにした。コーヒーは一杯ずつハンドドリップで淹れてくれる。カップの脇に、ミルク、砂糖、そしてコアラのマーチが1つ添えられているのが心憎い。

店内を見渡すと、自分含め近所で働いている風の人と病院帰りのばあちゃんでおよそ半々である。目の前に座ったスーツの男性二人組の片方がiQOSを取り出して吸っているそばで、その隣のテーブルの短く刈り込んだ白髪にピンクのメッシュが鮮やかなばあちゃんが、セブンスターの煙をうまそうに吐き出している。おのおのがその人生に満足しているかは外からは分からないけど、その対比を見ていると、安直だけど人生楽しんだもん勝ちだよな、としみじみ思われた。時刻は14時前。壁にかかったテレビから「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」のジングルが聞こえてきてすぐ、店主がチャンネルを日テレに変えた。大学生の頃、学校に行こうか行くまいかぐずぐずして迎えた午後、おれもまったく同じ視聴行動だった。その気持ちはよくわかる。

台東四丁目「山海楼」の生馬麺と半チャーハン

昼時、春日通りから竹町幼稚園の前を通る道に入ってすぐの角に、ランチメニューの看板だけが唐突に現れる。この日は風が強くて、看板を畳んで建物に立てかけてあるだけにしている。それが路地の陰から頭だけ出しているようで心を惹かれる。

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「ボ」がくっついてしまって「ぎ」と読めなくもないのが目を引くが、リストを眺めて「なまうま麺……? 何マー麺……?」と立ち止まってしまったのでDセットの生馬麺と半チャーハンに決めた(後述するがこれをサンマーメンと読むことは後で調べてわかった)。

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店はランチメニューの看板の角を曲がって2棟先にある。とても文字情報の多い外観だ。「横浜名店」「美味しく・楽しく・健康である」「翁さんのお店」……一つ一つ目で追っていくと、説明過剰でそれだけで満足した気になってしまいそうだ(実際初めて入るまでに何度かスルーしている)。

こういう怪しい日本語めいた雰囲気が好きな向きもあるだろう。その時の昼飯の気分に合うかどうかは別にして、自分も好きな方だ。外壁に二列に取り付けられた室外機もそんなムードを高めてくれる。ドレン排水管が一本に束ねられていくさまが美しい。屋上から植木の蔓が垂れてきているのもポイントが高い。

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外観から受ける印象と比べると意外なほど、店内は真面目な?中華料理屋風だ。4つくらい円卓があるし、椅子のカバーも金の刺繍入り。壁の張り紙を見るとWi-Fiが使えるらしい。Wordで作ったのか、A4一枚に「当店使えるWi-Fi」という見出しの下にSSIDとパスワードが書いてある。

前回この店に入ったのは一月の終わりだった。ちょうど春節に入る頃で、ホールのお姉さんが「みんな中国帰っちゃって私一人で大変だよ」と言って慌ただしそうにしていた。その時もDセットにしようと思い、「『ディー』セットで」と伝えたら、「Bですか?」と聞き返されたのだった。周りの席を見ると中高年が多い。だからここは「ディー」ではなく「デー」と発声するのが正解だったのかもしれないな、と考えて、今日はそのお姉さんに「『デー』セットで」と言ってみた。

すると、「Aですか?」と聞き返された。慌てて「あ、すみません、『ディー』です」と言い直すと、お姉さんは照れたように笑って「すみません、Dですね」と伝票を書き直した。

変な日本語でWi-Fiパスワードが貼ってあったり、オーダーが一発で通らなかったり、なんだかブレードランナーっぽいな、と思った。

壁に掛かったTVに映る「ひるおび!」で金正男暗殺事件のニュースを眺めていたら生馬麺はすぐに出てきた。

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醤油スープのラーメンにもやし炒めのあんが乗っている。半チャーハン、サラダ、杏仁豆腐付き。もやしそばからそんなに日が空いてないのにまたあんかけ麺にしてしまった。この手の麺の出来たては熱いことをもやしそばで学んだので慎重に行こう。もやし炒めだけを取って食べる。やっぱり熱い。ここまではいい。もやしに芯が残っているので、もやしが口の端に当たって熱い。これは想定外だった。でもシャキシャキしててうまい。

もやしの他には、ニラ、人参、細切りの豚肉。豚肉は細切りだけど厚みがあっていい。家でやるなら生姜焼き用の豚肉を使えばいいのかなあ。チャーハンは卵が細かくなっているのがプロの技を感じさせる。ミックスベジタブルがお茶目。

食後のコーヒーまでが定食のセットだ。ホットかアイスかを選べる(ホットコーヒーは切れているときもある)。一息ついて周りを見ると、同じ職場ですという風なスーツの男性のグループが多い。大体がタバコを片手に何か喋っている。昼メシ食った後にコーヒー飲んで一服するのは職場の休憩室でもできるだろうけど、何かが決定的に違うんだよな。わかるよ。

店を出てから「生馬麺」とは何なのか調べてみたところ、「サンマーメン」だということがわかった。サンマーメンなら聞いたことがある。でも横浜ローカルのアレだということは知っていても食べたことがなかった。そうか、あれがサンマーメンだったのか。だとすると、看板に書いてあった「横浜名店」というのも全然信じてなかったけど本当なのかもしれない。

本当に横浜に本店があります

東上野二丁目「中国料理 天水」のもやしそば

 上野駅から永寿総合病院に行く道の、病院の少し先にその店はある。パッと見では薄暗くて営業しているかどうか分からないが、昼時に行くとちゃんと開いている。のぼりと店構えのテンションがまるでかみ合っていないのがとてもチャーミングだ。

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 おすすめはハンチャンラーメンともやしそば。今日はもやしそばを食べることにする。

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 この暖簾である。父親がこんな柄のトランクスをはいていたような気がする。

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 中に入ると、一列のカウンターにスツールが8脚くらい並んでいる。カウンター背後の板張りの壁に窓はあるが、隣の建物が近すぎて外の光はほとんど入らない。先客は4人。みんなスーツ姿か会社の名前入りの作業着かで、この辺りで仕事しているのだろう。

 厨房にはおじいちゃんと呼ぶのがよさそうな店主が一人。椅子を引きながら「もやしそばお願いします」と言うと、「はいもやしそば一丁」と声をかけた。厨房に他に誰がいるわけでもないが、これがルーチンなのだろう。

 厨房の奥の角に置かれた液晶テレビに映るNHK総合を見ながら待つこと数分、もやしそばが出てきた。 f:id:azmin:20170217123534j:plain

 醤油スープの上に炒め野菜のあんが乗っている。うまそう! いただきます! と勢いづいて麺をすすると、あんがとても熱い。慎重にいかないと火傷する。ここでお水がセルフであることに気づく。

 もやしそばに肉は入っていない。もやし、キャベツ、人参、きくらげ、あとは細めの麺ばかりである。鶏ガラのクラシックな醤油スープと合わさって優しい味になる。しかも野菜炒めにとろみがついているせいか冷めにくいので、食べているうちにだんだん汗ばんでくる。

 食べ終わる頃にはすっかり体が温まり、「上着は着なくていいか」とコートを抱えて席を立った。ごちそうさま、と店主にお代を渡すと、「すいませんね、どうもね!」と店主は応じた。すいません、なんて言われるようなことは無かったと思うんだけど、言わずにはいられないんだろうなあ。