私と蝶

不求甚解

ポーランド、ヴロツワフのインダストリアルフェスティバルに行ってきたよ

 

タイトル通りです。大学を休んで五日間ポーランドに行き、今日帰ってきました。ヘルシンキ乗り継ぎ。ワルシャワで一泊、ヴロツワフで二泊、夜行列車(コンパートメントのカウチ席なので、横にはなれない)で一泊、飛行機で一泊(移動で一日使っているので、五泊六日だが実質的な滞在は五日間)。Wroclaw Industrial Festival。インダストリアル、という音楽ジャンルを軸に、ヨーロッパ、アメリカあたりから様々なアーティストをポーランドヴロツワフに集めたフェス。主催者のMacijel(マイケル?) Frettは、自身ジョブカルマ jobkarmaというアーティストとして活動している。忘れないうちにどんなことがあったか、どんな人たちが良かったかを書いておきます。

昔は結構小規模だったみたいだけど、徐々にアーティストも増やしつつ、規模も大きくしつつで、今回は記念すべき15回目。去年は日本からノイズゴッドMerzbowが来たりとか、Test Deptが再結成してTest Dept:Reduxになったりとか、PRURIENTがいたりとか、結構豪華なメンツだったが、今回もそれに負けず劣らず。

 

まずヘッドライナーが、

ノイエ・ドイチェ・ヴェレの申し子的存在、生ける伝説DAF

インダストリアルというジャンルの創始者であるジェネシス・P・オリッジが、TG解散後に作り上げた、疑似新興宗教Temple of Psychic Youth御用達音楽グループPSYCHIC TV!

そのほかにも、UKノイズの大御所RAMLEH、ロシアアンダーグラウンドの重鎮REUTOFF、アメリカ、ウィスコンシン、ダークアンビエントからの刺客BURIAL HEX、ホワイトハウスのWilliam BenettのソロプロジェクトCUT HANDSなどなど、その手の人たちにとっては垂涎もののラインナップなんですが、正直なところ僕は全く詳しくありません。REUTOFFなんて特に予習もしなかったし、名前すら知らない人もいっぱいいたし、ホワイトハウスの人に関しては今名前を調べてる始末です。

こういう分野は、詳しい人はめちゃ詳しいし、詳しくない人は全然詳しくないというニッチなもので、ちょっと語るとすぐに「じゃあ君はレマレマ聞いてんのかい?」とか、「蔵六の奇病も聞かずにノイズを語るのかい?」みたいなアングラクラスタが湧いてくるのですが、もうそもそも死ぬほどアーカイブがある(MERZBOWなんて、全作品聴くの不可能でしょ)し、それなりの歴史もある中で、ちょっと数年前に興味を持ち始めたひよっこじゃ知識の幅に限界があるというものです。じゃあなんでポーランドまで行ったんだよと言われそうですが、それは単純に興味というか、現場を体験せんと分らんこともあるだろう、という…

 

all day ticketを買ったので、4日間ずっと(11/3~11/6)入れたんですが、疲れたり眠くなったり、四日目は行けなかったりして結局半分ぐらいしか見れてません。で、一日目の会場、White Stork Synagogueへ。たまに音楽関係のイベントもやってる、ユダヤの教会。

f:id:baka-ana:20161108005510j:plain

 こんな感じ。

中はこんなん。

f:id:baka-ana:20161108005809j:plain

f:id:baka-ana:20161108005958j:plain

パンフももらえます。

 f:id:baka-ana:20161108005926j:plain

おっかなびっくり入って、たどたどしい英語で名を名乗り、手首に来場者パスを巻いてもらう。paypalで事前にチケットの支払いを済ませ、メールで確認もしているので大丈夫なはずなんだが、本当に入れるかかなり不安だった。一安心。

 

日本でこういうイベントをやると客が男ばっかりなんだけど、ここではかなり女性、しかもアベックが多い。こんなエグい音楽をカップルで聴いていると思うと興奮します。あとみんな服がめちゃくちゃ黒い。僕は薄暗い緑のジャケットだったんだけど、それでもちょっと目立つ。しかも、全日通してアジア系の人が僕だけだったし、かなり緊張してきょろきょろしてたしでずっと変に目立ってた。いや俺だけってことあるかね??

で、一日目のメンツ。始まる前に開会式アリ。主催者のマイケルと、知らないおじさんと、マイケルの奥さん三人が順番子にしゃべるも、奥さん以外の二人がポーランド語でしゃべるのでほぼ訳が分からず。あと後ろのスクリーンにおもっきしwindows media playerの操作画面(もう一度再生する、のボタンとか)が出てて笑う。個人運営の感じがしたから、そういうトラブルはつきものだろうとは思っていたけど、スタッフの仕事がずっと雑だった。そもそもそういう仕事をまともにできない人たちがやってる音楽だし…

7JK

さっそく主催のマイケルと、ジーベン Sieben(ドイツ語で7の意)の二人組、7JK登場。マイケルがキーボードとマニピュレーション、ジーベンがバイオリンとボーカル。曲調は、よくあるダークアンビエント、ネオクラシック(パンフより。ネオクラシック??)。リズム・トラックはインダストリアルっぽい。もともとジーベンがネオアコとか出身で、マイケル(ジョブカルマ)がエレクトロニック出身だから、そこが合わさってるらしい。最初はバイオリンの音が鬱っぽく躁っぽくエロく響いてるし、ジーベンの動きも変だから楽しかったけど、ずっと似たような感じだからすぐ飽きたし、結局かなりクソだった。これくらい誰でもできるじゃん。僕以外の客も飽きてたらしく、終わった後かなりの人数飯食いに出ていった(途中入退場可)。空気もスベッてた。おい。評価3/10。僕もお腹がすいたので外出。

OWLS

有名な人らしい。最後の三分間だけ見た。これもエモ・ゴシック・テクノ・アンビエントみたいな。ジャンルに名前あんのかな?三人組。歌だけ聞いてると楽しいんだけど、真ん中の人がめちゃくちゃ自分に酔ってる歌い方しててキモくて引いた。左端の太ったおじさんはいい声出してた。評価5/10。

REUTOFF

ロシアのテクノ・ユニット。一日目のヤマ。二人とも完全にロシア人風のいでたち(一人は丸刈り髭面の釣り鐘型大男、もう一人は中肉中背なんだけどロシアの血が肩幅と体幹をやせさせることを許さない、といった印象の茶髪前髪おじさん)で、期待高まる。衣装、おそろいの黒いセーターだし。

で、これが良かった。ノイズ寄りのパワー・テクノ・アンビエント。激しくもなく、かといって心地よくもないだるいノイズがホールの中に爆音で響き渡る。震える重低音の上に、シンセのか細い音や青白い音が重なっていく。後ろのスクリーンでは、グロ系の記録映像(豚の屠殺とか)や、昔のホラー映画のエグいシーンとかが、黒や青を基調にした冷たい色使いでかわるがわる反復される。そしてテクノでミニマルなリズムフレーズ。ノイズ=不和とサウンド=調和のブレンドがむちゃくちゃ上手いし、とにかくノイズが良い。音がでかいし、メッセージが明確。ただ音を出してるだけじゃない、ノイズへのこだわりが、聞いてすぐにわかる。素晴らしい…と感動していたが、開始10分、15分経って、疲れと酒による強烈な眠気に襲われ、以降半分寝ながらの鑑賞となる。でもまあある意味それでいいのかも…と思えるくらい、心地よくだるく、心地よく不快な60分だった。最高。最後はシンセでちゃんとした和音で終わらせる、構成もよかった。ある意味ノイズをシンセの調和の演出として使っていて、そういう態度は純粋なノイズ派からは嫌がられるんだろうけど、そこはまあいいんじゃないでしょうか。評価9/10。

ライブと映像だとだいぶ印象ちがう。もっと激しいノイズだったイメージ。

 

一日目は眠かったのでこれで退散。二日目へ。帰り際に中古のCDとフェスのTシャツを買う。このTシャツを持ってるのは日本で俺だけということですね。ふふ。CDはSteve PittisのAmerican Psycho。適当に買ったけど割と当たりです。暴力温泉芸者とかみたいな、ミュージック・コンクレーテの要素があるノイズ。うーん不快!サイコ!たまらん!

二日目からは、教会の建物の中にある音楽バーみたいなところと、古い修道院の中で交互にライブ。音楽バーはまあクラブみたいなとこなのでそこまで広くない。修道院はかなり広い。両方とも二階がある。

f:id:baka-ana:20161108014103j:plain

修道院。クソみたいな写真しかない… ケータイだし、うまくとれてません。

 二日目レポ。

INSTINCT PRIMAL

ちっちゃい方のステージからスタート。音響派?エクスペリメンタル・アンビエント的な?ポストインダストリアル的な?サウンド。ジャンル分けできない。鉄のペラペラの板にマイク付けて叩いたり、やすりみたいなシートに石を叩き付けたりして音を出す。まあいいんだけど、地味。よくある。評価5/10。

AGHATRIAS

何て読むの?なチェコの二人組。パンフレットのアー写が覆面被ってたので、覆面パワー・エレクトロニクスを期待したら、一人はもう覆面を外して出てくるし、開始3分でもう一人も覆面外しちゃって幻滅。音楽的にはパワエレ系、直径ノイズ・インダストリアル。結構いい瞬間、ツボな瞬間あったんだけど、中だるみした。ノイズ系は曲の切れ目がないから60分間ずっとやらなきゃいけなくて、そうすると客もやる方もかなり集中しなきゃなんだけど、そこまでの魅力はなかった。まあでもそこそこなので評価6/10。甘いかな?

BLACKWOOD

ネオフォーク、ノイズ・ドローン的なアプローチ。映像も薄暗いし、おじいさんだし、結構いいなとは思ったけど僕の好みではないのでいったん外出。評価6/10。

SIGILLUM S

イタリアのインダストリアルの大御所(らしい)。職人風のヒゲジジイ、オタク風のメガネ、あと一人は顔が思い出せない。かなりパワエレっぽい破壊的マシーン・ビート。まさにインダストリアルって感じ。映像も悪くない。途中でowlsの人らが参加して歌ったりしてた。こういうの、あんまりビート刻んでダンスになってもよくないし、かといって地味にミニマルすぎるのもよくないから難しいんだけど、割といいビートだった。ただ凡庸。個性を出すのは難しい。でも飽きずに聴けたし楽しかったので評価7/10。こんぐらいで充分でしょ。

CODEX EMPIRE

初めて聞いたけど思ってたより全然よかった。ダンスミュージックの基礎であるキック、これを破壊的なまでにデカくして他の要素を押しつぶし、テンポも遅く単純にして踊れなくして、変な音のシーケンスを重ねつつ軽いハイハットだけおまけ程度に入れとく、というかなり攻めたスタイル。だと思って聞いてたけど、youtubeとかで聞いてみるとそこまでキックデカくないので、会場のPAがアホだっただけかもしれない。でもとにかくそのミニマルで憂鬱な、ひねくれたサウンドはだいぶ好ましかったです。でももうかなり疲れてきてたので会談に座って寝ながら鑑賞。評価7/10。

DAF

真打登場!映像での予習の時は、「ああ、昔ニューウェーブ系でちやほやされてとがったことやってたけど、今は自分のことロックスターかなんかと勘違いしてダサくなっちゃったパターンのおっさんニューウェーバーか」とか思ってたけど全然違った。でもそういうパターンよくあるんだよな。。。その勘違いがニューウェーブを作ってたと思えばまあ納得いくのかもしれないけど。小川直人も、自分のこと福山雅治だと思っていっつもライブやってるって言ってたし。

だってこれが、

こうだもんなあ・・・水とかまいちゃってるし。おいおい…とか思ってましたよ、生で見るまでは。

DAFは78年デビュー。ドイツのパンク以降のバンドたち、つまりノイエ・ドイチェ・ヴェレ世代のスター。始めたばっかの頃は四人くらいいたらしいけど、80年代初めくらいからデルガド=ロペスとロベルト・ゲアルのデュオに。解散と再結成を繰り返し現在も活動中。KorgMS-20で作ったミニマルな不協和音のメロディがひたすら単調に繰り返される中、ゲアルのエモーショナルドラムとロペスのナルシスティックでハードゲイな声が乗っかり、ある種空回りともとれるような、もう精子でないのにずっとシコってますみたいな、そんな音楽、それがDAF(これ合ってる???)。歌詞は結構政治的だったり示唆的だったりするが、その辺とドイツの風土との関連については勉強中。EBMの開祖。ある意味パンクスよりパンク。

まずゲアルが舞台に上がり、DJミキサーにCDを入れて再生。これ以降、ロペスはボーカル、ゲアルはドラムしかやらず、誰もミキサーに触らないので、実質ドラムのあるカラオケである。そのあと黒いシャツ、黒いズボンのロペスが登場。眉を切りそろえ、五分刈りで、色男といった感じのロペスが客席に笑みを振りまく。水をまいたり、水を体にかけたりしながら、シャツの前を徐々に開けて胸毛をチラ見せしつつエロティックに歌うロペスに観客は完全に夢中。僕のいた前列のあたりでモッシュが起き、危険なので退避。日本のモッシュはやせた人が多いけど、外国のモッシュはムキムキの人が多いのでシャレにならん。

序盤からVerschwende deine jugend や Der Mussoliniで飛ばしに飛ばす。それでも中だるみしないのすごい。

ドラムの音が結構キレッキレで驚く。アッパーな曲はハイハットの裏打ちになるんだけど、音のキレに反してグルーヴをそこまでつけないのかっこいい。

あまりに盛り上がったので、フェスなのにアンコール。泥棒と王子、alles sind guteをやって終わり。いや半端なかった。辞め時を失ったニューウェーバーとして舐めてた自分を恥じた。ここまで迷いなく澄んだ瞳で、空振りテクノやられたら感服するほかない。確かに、冷静に考えたら、若い時ハードゲイやってたミュージシャンが、年とってナルシストダンディになるの納得な気がするし。スモークたかれてほぼ何も見えない会場で、スッカスカのテクノサウンドに、上半身裸になりながら酔いしれる観客も大変良かったです。評価10/10。三日目についてはまた明日か明後日に。

小川直人いいなあ。

 

テンプル・オブ・サイキック・ユース、ザ・ヘイターズとか

ずっとT.O.P.Y、テンプル・オブ・サイキック・ユースが気になっている。まったく詳しくないし、信者になるとかそういう気もないのだけれど、アート・プロジェクトもしくはポップ(アングラ?)・カルチャーの一環としての宗教、アーティストの自己主張の方法としての宗教、そうしたものの持つ精神性に興味がある。ノイズ・インダストリアルのミュージシャンが悪魔信仰・ファシズムといった「忌むべき信仰」に傾倒していく、その志向はどこから来るのか?

 

テンプル・オブ・サイキック・ユース T.O.P.Yとは、インダストリアル・ミュージックの文字通り「生みの親」であるスロッビング・グリッスル(Throbbing Gristle、日本語で「脈打つ軟骨(男根の隠語)」)のリーダーとして名声を挙げたジェネシス・ブレイヤー・P・オリッジGenesis Brayer P-Orridgeが作り出した疑似宗教団体。下の映像はTOPYのスポークスマンの演説。ジェネシスではない。

TGの解散後に彼が結成したサイキックTV Psychic TV は、その宗教団体の音楽部門という位置づけで活動を開始し、彼らの二枚組ファーストアルバム Force thee hand of chanceはうち一枚が教団の儀礼用音楽として作成された。僕の手元にあるのは、CDとしてTempus Recordsから発売された当アルバムのリマスター版Force thee hand of chants(なぜchanceではなくchants?)。これも2枚組だが、本来儀礼用音楽が入るはずの2枚目はライブ盤だし、さらに1枚目も元のアルバムには入ってない曲がいっぱい入ってるし、そもそもレコード会社もファーストイシューのSome Bizarreと違う会社だし、まあいろいろと権利を巡るいざこざがあったことが伺えますな。もともとの収録に新たに加えられたいくつかの曲は、新しく録音されたものもあるっぽい。日本で現在発売されてるForce the~ chanceのCD版も、Force the~ chantsの1枚目と同じ曲構成のようだ。しかしこっちのバージョンでも、かつて二枚目に収録された儀礼用音楽 Themesは、聞くことができない。しかしもちろん天下のYoutubeでは、聞くことができる。そもそもファーストイシューのうちでも初版500枚にしかThemesは収録されていなかったらしいですよ。

 画像はTOPYのマーク。サイキック・クロスを額に冠した頭骨を中心に、右下には不吉な数字、悪魔の数字とされる23(ジェネシスは個人的にウィリアム・バロウズと親しい関係にあり、バロウズは23という数の持つ悪魔性に固執していたので、おそらくその影響)、左下にはEのアルファベット(意味不詳。EvilのE?)。もうここから怪しい匂いがプンプンするわけですけど、聞いてみると音楽はものすごくいいですね。一曲目のピアノは、なんとなく背徳感のある美しさ。二曲目のTibetan Human Thigh Bonesは、チベット仏教の儀式で使われる、人間の太ももの骨から作ったトランペットで演奏されていて、これが何となく死の匂いを醸し出して最高。それ以降の楽曲も、密教的世界観も維持しつつ、なんとなく近寄りがたい崇高な美を体現しており、たまんねえー。

で、公式サイト。

TOPY: Thee Temple ov Psychick Youth

あと、教義をまとめた個人サイト。

T.O.P.Y. Manifesto

読めばわかるけど、「多元的自己の開放」とか「真の欲求の追求」とか、普通の自己啓発セミナーみたいなことを言いつつ、ところどころに悪魔信仰的な要素を含んでいる。しかも入会には、自分の髪の毛と体液を送らなきゃいけない(今はプロジェクト自体終了しているので、信者が運営するメーリングリストが残っているくらい、もしかしたらその他にも信者になればなんかあるのかも)とかだったらしく、ほとんどオカルトの領域。

TOPYは信者宛ての通信Transmissionと題して映像を作り、イギリスのケーブルテレビで深夜帯に流してたんだけど、その実質はほとんどただのSMスナッフフィルムで、教祖のジェネシスはそのせいでイギリス政府に目をつけられ、アメリカに9か月間くらい追放されたらしいです。ちなみにこれもYoutubeで見れます。すごいなー最近は。

 やっぱりただのSMビデオですね。でも彼らにとってはこれをTVで流すということ自体に意味があったのかも。さっきのシンボルマークや演説の映像にあったサイキック・クロスだって、三位一体といった概念のほかにテレビのアンテナを想起させるものとして作成されているし、サイキックTVという名前も、マス・メディアによって構築されたバーチャルな世界から真理を取り戻す、つまりTVに対抗する意味でのTVというところから来ているし(その意味では平沢進も亜種音TVをやってますね)。

ジェネシスに関しては、豊胸をはじめとする全身整形を行って、恋人レディ・ジェイLady Jayeと身体的に同一化し、フィジカル・オーガズムを追求しよう、というパンドロジェニー pandrogenyというプロジェクトも行ってますが、それに関してはまた。(レディ・ジェイはプロジェクト半ばで死去。ジェネシスはそれ以降も体は女のままで、英語版の彼の代名詞はheでもsheでもなくs/heとなっている。)

 

あと、ザ・ヘイターズthe hatersかっこいい。今度のヴロツワフ来ないかな。

 ノイズの洪水の中、レコードに手動パンチで穴をあけて客席に投げるだけというパフォーマンス。

日本だと、こういう覆面インダストリアル・スカムってWUUUNとかになるんだろうけど(もちろんメタルジャンクなら山塚アイがいる)、どうしても黒子感、雑魚キャラ感が出ませんか。

あ、これはこれで…

 

 

放送禁止CM、マジカル・パワー・マコ、平沢進

youtubeの放送禁止CM集。

ゲテモノネタ、不謹慎ネタを期待して見始めたが、思ったより「なぜこれが放送禁止に?」と思うような、いたって普通のCMが多く、それぞれに字幕で「なぜ放送禁止になったのか」の解説がついている。この解説がおもしろい。

例えば、ログハウスが出てくるCMは、『「木に釘を打ちこむのは不謹慎」というクレームが入り、』という大喜利「ログハウスをけなしてください」でもやってんのかという理由で放送禁止になっていたり、焼き肉のたれのシリーズもののCMは「女優がベジタリアンであることが発覚し途中で役者差し替えに」というコントみたいな展開で放送禁止になっていたりする。そうした理由が淡々と語られるので、どうしても笑ってしまう。

また、車に乗った井上陽水が「皆さんお元気ですか?失礼します」と言って通り過ぎるだけ、という放送禁止とかそういう以前にCMとしてどうなんだ、みたいな代物もあるので、飽きずに見ることができる。

 

これは導入で、関係ない話をします。

 

平沢進、ここ数年かなり流行ってるみたいですね。

 僕もファンクラブに入るほどには好きなので、人気のおかげでライブ会場がどんどんでかくなり、ライブ自体のクオリティも上がっているのはとてもうれしいんだが、本来平沢進って東京ドームシティホールでライブやるような人ではなかった、つまりは本人も自称するように、『「な~に~?この音楽、きもちわるい」とか、そういう類』の音楽を扱う、「マイナー」ミュージシャンだったはず。この↑曲だって、そんなに一般受けするような曲調ではないし、僕も学校でサッカー部の男子に彼の音楽を聞かせたら、「お前、宇宙とかに興味あるの?」と半笑いで言われたことがある。

名前から分かるように、平沢進は「けいおん!」の主人公、平沢唯の元ネタとなった人物である。平沢進は自身のミュージシャンデビュー30周年を記念したセルフカバーイベント「還弦主義8760時間」の一環として始めたtwitterで、急にフォロワーが増えたことに動揺し、「私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。」というツイートを投稿する。するとそのツイートが非常な反響を呼び、「マイナー」を自称するはずの平沢のフォロワーはさらに増えていく。これをきっかけとして、「平沢進」という名前はアニオタを中心としたtwitterユーザーの間でかなりのポピュラリティを獲得することとなる。

この事件が、彼の今に至る人気の発端であったように思える。いや当然、80年代初頭にP-MODELにおいて発揮される平沢のカリスマ性は、その後30年間の間数多くの人々の尊敬と感嘆のまなざしを集めてきており、その点においては彼はマイナーというほどマイナーでもないのだが、こうした事件がない限りは、現時点でのような人気を得ることはなかっただろう。ちなみに2016年4月3日現在、彼のフォロワーは83,000人を突破している。どのレーベル、プロダクションにも所属していないミュージシャンとしてはけっこうな数ではないでしょうか(彼のCDは現在、自身の設立した会社ケイオスユニオンから配給されている)。知らんけど。

ここで「昔好きだったインディーズミュージシャン、人気出たとたんになんか悔しくなる説」を検証する訳ではないですよ。平沢の独自の音楽性、電波的・中二的世界観、ツンデレ的キャラ、ビジュアル(女子高におけるおじいさん教師モテ現象に似たところがある)、どれもアニオタに受けそうな印象があるので、人気については納得できるのだが、僕が気になっているのは彼の別の側面、つまり思想である。

例えば、以下のまとめ。

こういったいかにもな思想は、通常、人を遠ざける。具体的には、本人も言うように、フォロワー数の減少として現れる。アジアン・カンフー・ジェネレーションのボーカルが、twitterで政治的な主張を行い、ファンをはじめとするフォロワーの間で議論が起こったことがあったけれど、普通ミュージシャンが特定の思想・信条を主張すると、インターネットでは否定的なリアクションが多数を占める。インターネットは、文化が政治性を持つことを、異常に否定したがる。しかし平沢の場合は、あんまりそれがない。おそらく内容が「大手メディア批判」という、インターネットのマジョリティが支持するタイプの言説である、というのがこれを批判する人の少ない第一の理由でしょうが(彼には「崇めよ我はTVなり」という名曲がある)、平沢進はこれ以外にも、かなり過激な主張を行うことがある。

以上のリンクでは、平沢進のブログphantom notesにおける、物質Xと呼ばれる健康薬品を巡る記述について、否定的な考察がなされている。筆者曰く、平沢が服用する物質Xで病気が治るといった主張は、ホメオパシーのような疑似科学、スピリチュアルの類に過ぎない、と言う。実際そうなんだろう。(また、彼はヴィーガン(菜食主義者)であり、これ以外にも様々な独自の健康法を実践している。二酸化炭素吸引、とかやってなかったっけ?)さらに彼は、大手製薬企業による既得権益の保持、市場の寡占が、難病治療に本当に有効な薬品の流通を疎外しているという、典型的な陰謀論を展開しているわけだが、これも疑わしい話というか、東日本大震災はアメリカの地震兵器HAARPによる攻撃である、という主張にも感じ取れる、「圧倒的な力を持つ悪者、それに立ち向かうワタシ」という構図を見て取ることができる。実際平沢なら、こんなこと言ってそうだ。反米だし。そもそも「既存の権力・権威・構造に立ち向かう」というのは、彼のソロ・プロジェクト、核P-MODELのコンセプトでもある。

他にも、彼のファンクラブ会報green nerveでは、自律訓練法という一種の自己催眠の紹介が、彼自身の成功体験を交えて書いてある。昨日は、自身の誕生日を記念して、平沢が「スワイショウ」と呼ばれる気功を実践するときに流す自作のBGMを配信していたが、どうやらその「スワイショウ」も、一種の自己催眠と関係しているようだ。普通の人は寄り付かないようなオカルト・スピリチュアルな要素は、平沢進というアーティストと密接不可分なのである。

こうした平沢の、疑似科学やスピリチュアルに傾倒し、そうした姿勢を反権力の文脈で語る、という「痛い」態度は、上のはてなのリンクのコメントにもあるように、ファンから冷たい目で見られることもあるようだが、基本的にそれが原因でファンをやめるだとか、炎上するだとか、そういったことが起きることはなさそうである。それはひとえに音楽の良さのおかげである、よかったね、で終わらせることもできるけれど、むしろ僕はこの彼の、リアルへの志向、つまり「騙されていることに気付く(灰野敬二)」ことにすべての神経を使う生き方に、平沢の「マイナー」を読み取りたい。それが彼の一番の魅力だと思うんすけど…。バーチャルな生に抗おうとする一方で、いや抗うからこそ、バーチャルなものへの好奇心を失わない、という皮肉も、彼のそうした側面を強調している。いやもっと言うなら、「新興宗教」と形容されることもある彼のライブ、ただその一体感に陶酔するだけなら誰でもできるわけで、きっと平沢がオーディエンスに求めているのはそれではない。騙されてはいけない。

で、本当に書きたいのは平沢についてじゃなくて、最近改めて聞き直してるマジカル・パワー・マコについてで、彼も平沢に通じるものがあるんです。

マジカル・パワー・マコについては、まあ調べてほしいんだけど、はじめは平沢とは全く違う音楽性、かなりアヴァンギャルドでエクスペリメンタル。灰野敬二とか、武満徹とかともかかわりがあったようです。

 で、しばらくするとテクノポップに入り始めて、MSXという、ファミコンみたいな8bitパソコン一台で音楽を作ったりする。新しい物好きで、ストイックという意味では、ミュージシャンとしてのスタンスは平沢に似ていなくもない。マコも平沢と同じで、コモドール社のパソコンを使っていたらしいですね。

で、最近は、なんと反原発SNS「アンドロメダ」を立ち上げ、放射能から逃れる移住コンサルタントをやりながら、人ひとりが一生暮らすことのできる分のエネルギーや食糧を生産できるバイオハウスの研究などに関わっているらしい。どこまでほんとか知らないが、以下のリンク参照。

マジカルパワーマコ × 音楽とオルガスムス

いやーたまりませんな、このトンデモな感じが。地震兵器ガチで信じてるし。彼の信じることが真実か虚偽かは全くどうでもよくて、こう自分の生をしっかりと生きられてしまったら、僕らからは何も言えないでしょう。完敗です。こうなると、なんとなく、平沢の「負」の部分、つまり社会から受け入れられにくい部分を肥大化させたミュージシャンがマコであって、二人は表裏一体な気がしてくるわけですよね。実際マコのアルバム「welcome to the earth」の帯には、平沢の名前が出てきます。

 

ちなみに灰野敬二はヴィ―ガンです。おわり。

 

 

 

ベルリン、トップガン、ゲルニカ

bloggerで同じタイトルのブログをやっていたのだが、編集がわかりづらいし、日本語にうまく対応してないし、いいテンプレもないので引っ越した。これからはできるだけ更新していく。自分が見つけた、面白いもの(音楽やマンガ、本が中心になるが、そういうものを「教養」とか呼ぶのはダサいので避ける)について書く。対して真面目にやる気はないけれど。

 

まず書きたいのはアメリカの「ベルリン Berlin」というバンド。この間まで漠然とイギリスっぽいな、と思ってた。いきなりいっぱい国の名前が出てきて訳分からんくなってる。

一番有名な曲がこれ。

 トムクル主演、「トップガン」の主題歌らしいすね、自分でも見たことないのがふしぎだけど見てない。

なんかこのメロディどこかで…と思ったら「天使にラブ・ソングを」のI will follow himの頭と同じメロディ?もちろん頭だけ…で、調べると、「天使にラブ・ソングを」が92年、「トップガン」が86年。I will follow him自体は一番最初の発表が61年、インストゥメンタルとして発表されたのを63年ペギー・マーチが歌詞をつけてカバーし、日本に入ってきた、と。パクリではないですけど、どうしてもtake my breath awayのイントロ、あの修道女たちを思い出さずにはいられない…

 

タイトルから分かるように80年代的ロマンチシズムバリバリなラブソングだが(邦題は「愛は吐息のように」!)、I will follow him抜きにしても滑り出しでずっこけた人は多いのでは。いきなりボヨーンとしたシンセ、チープなドラムマシン、大げさにエコーがかったストリングス。グルーヴとかそういうものは全くないが(もちろん、僕がこの曲より一つ下の世代の感受性を持っているからってのもある。でも正直youtubeのコメントにThis is the third most romantic song EVER!!とかあんのは謎)、聞いてるうちに癖になってくるから不思議。

世間からはこの曲で爆発的に売れて、そのあとしょんぼりしちゃった一発屋として認識されている、らしい。その証拠に、この曲が入ったアルバム、Count Three & Payを出した直後に解散する。一応1987年にDancing in Berlinというアルバムを出してはいますが、ほとんど情報がないので、多分売れなかったし、メンバー間のいざこざで権利の所在もうやむやになった系かな。

 

その後1997年に再結成し、2013年にはニューアルバムも出した。でも、

ださくね?

ババア版倖田來未という感じ?80年代の感性で現代のダンス、EDM文化を理解するとこうなる、みたいな。あと、

 これも、整形しすぎてて、清水アキラ研ナオコのモノマネみたいになってる。

 

まあこういう、昔良かったのに今は。。。みたいのはよくあるのでおいとくとして、気になってるのはこの人たちが売れる前。めちゃくちゃ面白いのは、デビューアルバムのInformation(1980)です。

 

一曲目 "Mind Control"から、プラスチックス?と見まごうほどの(そこまでスカスカではないけど)ゴリゴリニューウェーブテクノポップ。二曲目"Modern city"なんて、まさに踊れるゲルニカ。ボーカルのテリー・ナン Terri Nunnと並んでバンドの中心人物だったジョン・クロウフォード John Crawfordが書いた八曲目"A Matter of Time"も、ハルメンズを派手にしたみたいでいいですね。日本の80年代テクノポップの空気をなぜか彷彿とさせる面白いアルバムだと思います。

今ボーカルがテリー・ナンと書きましたが、このアルバム作成時はテリーは一時的に脱退しており、代わりを務めこのアルバムで歌っているのがヴァージニア・マコリーノ嬢 Virginia Macolinoです。彼女の、イメージとかそういうものから飛び出そうとしつつ色気も忘れない歌は、コンセプチュアルでもありエモーショナルでもあり。実際テリーより才能があると思うけど、これじゃ売れないだろ。

実際、このアルバムのようなニューウェイビーなセンスを持ったクロウフォードは、バンドのメンバーではなくプロデューサーのジョルジオ・モルダーが作曲した"take my breath away"の成功をそんなに良く思っておらず、これもまた良しとしたナン嬢と衝突し、その結果バンド解散、という事情があるようです。ナン嬢も、一時期ベルリンを脱退したのは「女優…あたい…スターになりたいんやで…!!」的な動機だったとのことで、そうした女性が整形ババアになってしまうのも仕方のないことではないでしょうか。でも昔のライブ自体はいいんだよなあ…

 

 超かっこいいし、踊れますね。シンセの音もいいし、脅迫的なベースも近未来的。両脇のシンセプレイヤーが機械的な動きに徹するのもかっこいい。スパークスの変態性も保ちつつ、踊れるポップさが彼らのいいところ。

 

一方のマコリーノ嬢ですが、このアルバムを録音したらさっさと脱退し、自分自身の個性を求めてBeast of Beastというこれまたコテコテパンクバンド(アルバムタイトルは"Sex, Drug and Noise")を結成します。これもどことなく日本っぽいんだよなあ…80年代アングラのミュージシャンが彼らの曲を聴いていないとは言えませんが、彼らがベルリンやマコリーノ嬢の影響を受けてあの音楽を作ったとは、僕はどうしても思えなくて、どちらかというと同時代的な現象としてたまたま雰囲気が似てしまった、という感じがするのです。恐るべし、マコリーノ嬢。