簡単な書評

自分が見返すためだけの読書感想文

貫井徳郎『乱反射』

 私たちはだれしも小さな罪を抱えて生きている。

ゴミのポイ捨てや公共施設における騒音、駐車場における健常者の障碍者専用スペースの利用etc...

それは犯罪とも呼べないルール違反かもしれないし、モラルに悖ってはいるが気にも留めない程度の悪さかもしれない。

人はその行為に疚しさを感じつつも大した事はないと、そうせざるを得ないのだからと自己を正当化する。

しかしながらその行為によって苦しむ人は確実にいる。

些細なことなので当人の加害者意識は少ないのかもしれないが、人間は社会の中で生きている生き物であるかぎり、それらの行為には必ず不利益を被る被害者がつきまとうのである。

そしてそれは必ずしも被害者にとっては軽い苦痛では済まないかもしれない。

 

この小説では何人かの登場人物のモラルの欠如からくる身勝手な行いによって、悲惨な「事件」が起きる。

強風で街路樹が倒れ、側を歩いていた女性が押していたベビーカーに直撃し、2歳の子供が亡くなるのである。

それは一見すると事故のようだが、実は少しずつのモラルのない身勝手な行動が不幸の原因を作っていった結果だったことが判明する。

病院の患者のたらい回し、軽い風邪程度で夜間救急を利用する若者たち、ある病気により街路樹の診断を怠ってしまった業者、街路樹の伐採に反対し診断業者を追い返した主婦たち、プライドから犬のフンの片付けを途中で切り上げた市役所の職員、犬のフンを片付けなかった老人。

子供の父親で新聞記者でもある加山は謝罪を求めて、彼らに取材を試みるが、診断を怠った業者を除いて他の人々は皆一様に「自分は悪くない」と口にするのだった。

彼らは自分のしたことが人を殺めることになろうとは予見しようがないし、自分のしたことの小ささに反比例してその重すぎる事実を背負うことができないのだとして謝罪することを拒否する。

加山は事件の責任を追及したいが、その行き場がないことに愕然とする。

しかし加山もまた犯した違反を思い出したことで、自分もまた子供を殺した加害者の一人だったんだと気づき、苦悩する。 

 

 これは小説の中だけの問題ではなく、現実に生きる私たちの身近にある問題ではないだろうか。