映画の感想 「FAKE」 監督:森 達也
森達也監督が、事件後の佐村河内守夫妻を追ったドキュメンタリー「FAKE」を観た。
とても気持ち悪い映画だった。それは、結局何が本当なのかははっきり明かされないような作り方に対しての気持ち悪さで、森さんが人間のいやらしさや欺瞞にフォーカスしているから。
私には、夫妻の間の愛が確かに感じ取れて、強く心を打たれた。 けれども、再生や更生の物語として観たいのに、一番気持ち悪いところで終わらせる手腕によって、自分の心の底にある欺瞞の澱がぬるっと浮き立つような感覚を覚えた。
これはもう、新垣氏サイドの「共犯者」としての続編を作って欲しいと切に願うけれど、これはこれで恐ろしく後味が悪い作品になるに違いないだろう…と思う。真実を突き止めるためのドキュメンタリーではないから、きっとまた気持ち悪い仕掛けをしてくるんだろう。
私は誰を信じて生きていこうか…ということ、信じていた人のこと、これから信じたいと思っている人のことを考えた。いま付き合っている(ちょっと微妙なんだけど)人への誠意について考えた。 FAKEは内向的な思考を仕掛けすぎる映画だ。ドキュメンタリーとしてベタもベタ。観て良かった。
おまけ(熊の甘露煮)
鍋に入りきらなかった熊を、溢れそうになった煮汁をベースにして甘露煮に。
一晩おいて冷まして、飴色に。
醤油を濃いめに入れて、三温糖をうすあまく。これだけ。写真よりも少し濃く醤油を入れる。
くつくつ弱火で長めに煮て、でも肉が固くならない程度で火を止めると…。
晩酌のつまみに最高!やはり日本酒かな。脂身ばかりの部分をまとめて煮た。この煮汁が脂身にしみると、べたつかず溶ける脂からしみ出る醤油の香りが最高なのだ。
燻製はワインやウイスキーの洋酒に合ったけれど、日本的な料理は日本酒に合うようだ。
つくって食べて熊鍋集会の夜2(夜話編)
熊鍋をつつきながら出た話は、ほとんどが森のことと狩猟のことばかりだった。
その場にいた半数が林業に携わっており、現場や森林管理のこと、森林計画など幅広く精通しているメンバーだったからである。
林業に携わる女性から、熊が好んで実を食べに来ている、大きな松ぼっくりを着けるチョウセンゴヨウマツの話を聞いたりしたのが楽しかった。その木の周りを間伐する計画があり、ますます実を食べに来やすくなった熊が、来年太って小熊をもたらすことなどを夢想して楽しんだ。
頭数が増えてクマハギで樹が傷む被害がひどくなる前に、再来年に撃ってみんなで食べよう!などと、熊を育てて、そして恵みをもらうような話に収束していった。
森林管理、頭数調査からつながっていき、最後は「食べる」というところへ向かっていく、この仲間達の発想がたまらなく愛おしいと思える。
一般的に現代なら「駆除だ!危険だ!」という方向に向かうのだろう。でも、人と獣は駆除でつながってきたわけじゃない。食べたり、食べられたりしながら、人間も獣もここまで生きてきたのだと思う。人にとっては熊を食べたり、作物を食べられたりだったけれど、熊にとっては人や作物を食べたり、自分を食べられたりなんだから大変だろう。
お互いの領域を侵しあいながら、せめぎ合いながら、それでも人間の立場としては、獣に感謝して美味しくいただいてきた。それは古くからの里山の暮らしに、矛盾していない。
山を愛する視点がある人が林業に携わっていることはとてもありがたいことだ。
そして、山の恵みに感謝できる人と一緒に食べる山肉は、やっぱり一人の食事より百倍美味しかった。
せっかくの山肉だから、みんなと食べたい。美味しい物を食べて喜んでもらいたい。それで自分が嬉しいのだから、狩猟民宿をやりたいのだと思う。
自分の地の暮らしに合った仕事をずっとしたいと思っていたから、これは何とか叶えたい夢だ。そういう思いを一層強くした夜になった。
機会をくれた仲間と、熊と、熊をくれた猟友会の会長さんに深く感謝します。
…猟期前の減量は、これですっっかり水の泡に…なりましたけどね!!
ごちそうさま!
(熊鍋集会 完)
つくって食べて熊鍋集会の夜1(食べ物編)
この連休、久しぶりに熊を煮る機会を得られた。
群馬県の北西端、六合(くに)山岳会の若手メンバーを中心に、山肉を囲む会を楽しんだ。山岳会で自然を楽しむのはもちろんのこと、林業に従事したり、自然写真を撮ったり、狩猟したり、山の恵みを様々に受け取っている我々は、もちろん山の美味しい物も食べたいタチなのである。
真空パックされ、T夫妻の冷凍庫に眠っていた小熊を揺り起こし、美味しい熊鍋にしてやるのが今回の私の使命だ。山肉料理の腕前を振るうために、大きいアルミ鍋にこだわりの味噌、調味料などの道具一式を持参して、まるで料理のケータリング屋のような大荷物で、T夫妻のおうちにお邪魔した。
14時に集合して、まずは前日に燻した「野生の豚と養殖の豚食べ比ベーコン」をつまみに発泡酒でカンパイする。
左がイノシシ、右が豚。
まず、豚バラ肉のベーコンを口に放り込む。意外と美味しい。ポン酢と粉がらしをつけて香りの抜けを楽しむ。
次にイノシシのベーコン…これは後ろ足のたっぷり良い肉が付いているところなのだが…なんという深い味だろう。まだ脂肪がつく前の初秋のイノシシで、サッパリとしていて美味い。ハーブの香りと獣の臭みが調和して、もはや臭みではなく風味としての格調を備えている。一口放り込むたびに幸せが訪れる。驚異。
H子さんのおみやげ、群馬の名産おかいこさんチョコレートもたべた。外の桑の葉を持ってきて、そこに乗せて撮影会も楽しんだり。
各々掴みを取ったところで、みんなで熊鍋づくりに。「ぜひ作り方も知りたい!」というリクエストだったので、肉の取り方から野菜の切り方、味付けまで余すことなく全部オープンにした。これをもとに、各人のアレンジで美味しい熊鍋を編み出してもらえたら嬉しい。
まず材料
野菜類:大根、じゃがいも、ごぼう、しめじ(好みのきのこ類)、ねぎ、にんじん
肉:熊
具:こんにゃく、とうふ
味付け:味噌、醤油、粉末だし(あごだし、こぶだし。ほんだしでも構わない)
さいしょに、ネギ以外の野菜を大きめに切って、鍋にがっつり入れる。大根とにんじんを大きい乱切りに、ゴボウを厚みのあるささがきにするのがポイント。
こんにゃくも先入れ。出汁がでる。こんな感じで、ぎっしりいっぺんに入れてしまうのもコツ。
次に熊肉を取る。
今回は冬の小熊でたっぷりと脂がのり、とてもやわらかい肉で非常にうまい肉だといえる。この最高の肉をしっかり美味しく食べるため、肉の切り方にもこだわる。
やわらかさと脂の香りを楽しむため、赤身と脂身を剥がさないように、肉の繊維に対して直角に、脂身側から刃を入れていく。厚みは刺身ぐらい。縮みがすくなく、やわらかい歯ごたえを楽しめるし、口に含んだときにとろける脂肪のあとに、赤身を噛みしめるととても幸せになれる。
鍋に焦げ付かない程度に半量ほど水を入れ、一番上に熊を乗せる。出汁を振り入れて中火で煮込み、途中に醤油を塩気がつかない程度に入れて具材全体の臭みを取る。芋に火が通るまでビールとワインを飲んで待つ。
芋にさっと火が通ったら、味噌を少しずつ加えてコクをだし、これだ!という味になったらネギと豆腐を加える。ここで、なんとなく足りないかな?と思っていた甘みが十分に引き出され、熊の脂にも甘みがのる。
ネギがまだ青く、しかしよく火が通っているところまで来たら火をとめ、最後の香り付けに醤油を少量たらす。
これで完成だ。あとはストーブの上にでも置いて、あたためながら皆でどんどん食べれば、30cmの大鍋が一つ空になっているだろう。
もうこのあとは6時間飲んだり食べたり話したり。最高の団らんの時間を楽しんだ。
むかごご飯も炊いてもらい、お椀によそって熊鍋をかけてかきこむのもめちゃくちゃおいしい。熊鍋は饂飩より米が合うと思っている。
あんなに食べたのに、H子さんのシフォンケーキと、私のカボチャプリンでデザートも食べたし…。
一晩で熊1.5キロほどを平らげた5人衆の感想は、嬉しい物ばかりだった。
「熊鍋はもっと味が濃くて、甘かったりしょっぱかったり固いという感覚しかなかったけれど、薄味で美味しくまとまっているからいくらでも入る…」と全員が喜んでくれたので、私は感無量だ。
熊鍋集会の夜2 へつづきます。
おわび
体調不良につきお休みしていました。後日まとめて更新します。