第16回「ホップ品種おぼえがき」
過去最大のインターバルが開いてしまいました。しかたがないのです。コロナが悪いのです。
あと、新聞の連載やってまして、そっちはほら、ギャランティーが発生するじゃないですか←←←
というわけで、今回はホップ品種についてまとめておこうと思います。醸造上のポイントにフォーカスした内容になりますので、ほぼつくる人にしか役に立ちません。需要の有無はこの際置き去りにしますハッハッハ
【モザイク】
アルファ酸12%前後
コフムロン23%前後
精油量1.9%前後
リナロール0.6%前後
ゲラニオール0.7%前後
南横浜ビール研究所不動のスーパーエース。
精油量が多く、つまり香りのボリュームが大きい。ざっくりカスケードの倍。
複雑なキャラクターを持っていて、単一で使っても単調にならない。ワールプールで使うには最強と思われる。
ゲラニオールがリッチなので、ドライホッピングで使うと生体変換でβシトロネロールが沢山生じる上にゲラニオールも残るので、トロピカルなキャラクターになる。
草っぽさがあるけどロットによる強弱が大きい。CRYOだとほとんどない。
コフムロンはそれほど多くないので、短時間の煮沸なら渋みはさほど多くならない。
シトラよりロットのばらつきが大きい印象。分析値をもらって精油量が多いものを選ぶか、なかったら諦めてシトラを買う
【シトラ】
アルファ酸12%前後
コフムロン22%前後
精油量2.2%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール0.4%前後
これまた当社の絶対エース。あたりまえか
香りのボリュームの大きさはすばらしい。
リナロールが多くゲラニオールが少なめ、というのがモザイクとのキャラクターの違いになっている。
わりとわかりやすく柑橘のキャラクター。
とくにワールプール以前で使うとちょっと単調にも感じる。ところがドライホッピングでは豹変し、グレープのようなニュアンスを伴った複雑な風味を出す。モザイクよりトロピカルが控えめで高貴さを感じる。
モザイクと甲乙つけがたいけれど、ドライホッピングでは僅差でシトラかな?これは醸造長的好みですが
【シムコ】
アルファ酸12.5%前後
コフムロン18%前後
精油量1.5%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール1%前後
南横浜ビール研究所ではビタリング専用機。
コフムロンの少なさが素晴らしく、これでビタリングすると苦味の角が取れる。渋みに悩んでいたらこのホップに変えるだけでほぼ解決するかも。
香りのボリュームは、優秀な精油量からするとやや控えめ。香りの質自体はいいので、アタリのロットならワールプールやドライで使ってもいいと思う。
小規模醸造でIPAを作ろうとすると、たいてい渋みとの戦いになる。いま使ってるコロンバスをシムコに変え、煮沸後半で投入すれば全然ちがった結果が出るかもしれませんぜ?
【ネルソンソーヴィン】
アルファ酸12%前後
コフムロン24%前後
精油量1.1%前後
リナロール不明
ゲラニオール不明
特有の高貴な香気(YoYo)で有名だけど、じつのところそれを出すのが難しい!SVBのオンザクラウドみたいには到底なりません。
精油量が多くないこともあり、香りのボリューム的にはエースより2〜3枚落ちます。
このホップの真髄は、短時間の煮沸で得られるチオール化合物。これは他の香りを押し上げつつトロピカルなキャラクターを付加する働きがあり、少量の使用で効果か得られます。ビール全体に品の良さを加えてくれる感じもある。
チオールはレモンや白ワインに似た香りで、フルーツビールとも相性がいい
【ハラタウブラン】
アルファ酸9%前後
コフムロン24%前後
精油量1.3%前後
リナロール0.3%前後
ゲラニオール不明
ネルソンソーヴィンと似たキャラクター、そして同じ用途。
NSが買えなかった時に代わりで買ってみたものの、ちっとも香りが出ずいらない子扱いになっていた。ところがある日ふと「煮沸したほうが香りが出る」ということに気づき、それってチオール化合物のはずだ、と考えて使いはじめた。
最近読んだサッポロのレポートに、やはりこのホップにもチオール化合物がいると記述あり。やっぱりな!しかも、むしろNSより多いんだとか。
このホップの価値も、やはりチオール化合物にあります。ワールプールやドライホッピングで使っても費用対効果が低すぎるのであきらめ、短時間(20分がベストらしい)の煮沸でチオールを追加するのがいいと思われます
【サブロ 】
アルファ酸15%前後
コフムロン21%前後
精油量2.4%前後
リナロール0.6%前後
ゲラニオール1.2%前後
次世代エースを物色していて選んだホップ。
超ハイアルファで精油量もものすごく、さらにコフムロンもかなり低い。
こいつはいいぜ、と思って使ってみたら…
ソラチエースでした←←←
おそらくソラチエースを特徴づけている香気成分と同じもの(ゲラン酸?)を持っているようで、熱の加わるワールプール以前で使うと少量でもあのキャラがぐっと立ってくる。
好き嫌いが分かれるタイプなので、こりゃ困ったな使い切れるかな、と思っていたら、ドライホッピングだとソラチ感が出ないことに気がついた。
ドライで使うと、成分表通り豊かに香りが出てくれる。特筆すべきはゲラニオールが超リッチなことで(たぶん全ホップ中No. 1)、そこを意識した使い方をしたら面白いぞと考えております。
注意点は、ココナッツっぽさを持っていること。オイリーさを連想させるニュアンスなので、シャープなビールをつくりたい時には避けた方がいいかも
【エキノックス】
アルファ酸14%前後
コフムロン33%前後
精油量3%前後
リナロール0.3%前後
ゲラニオール0.3%前後
オレンジのような重めの柑橘や、トロピカルな香りを持っていて、他のシトラシーなホップと比べてセクシーな感じが出せる。ダブルIPAなんかにはふさわしいキャラクター。
ただ使い方は要注意で、不用意に煮込むとコフムロンの多さからあっという間に渋くエグいビールが出来上がる。
煮沸では使わないのが無難。ワールプールでも温度を下げてから。ドライホッピングがいいのだけれど、発酵が残っているうちに投入して3〜4日で引き上げ、酵母に吸着させてきっちり沈殿させたい。
渋みエグみを出さないように気をつけて使ったら、大人っぽいキャラクターが得られます
【カスケード】
アルファ酸7.5%前後
コフムロン33%前後
精油量1.6%前後
リナロール0.4%前後
ゲラニオール0.3%前後
クラフトビールといえばカスケード、というイメージがありますが、近年品種改良が進んで上位互換がいくつも生まれています。
性能的にも3世代前、という感じになってしまいました。
安い、というメリットがありますが、ビターも香りのボリュームもシトラの半分くらいなので、むしろ歩留まり悪化を招きます。
ただ、カスケードにはちょっとフローラルな特有のキャラクターがありますので、そこを好んで使うのはアリかと思います。
とはいえ、当社のような小規模醸造ではホップ投入量に限界があり、たくさん使わないと香りが出ないホップは出番が減ります。IPAなどは、単価は高くてもより現代的なホップを使ったほうが結果コストダウン、ということもあるのです
【 チヌーク】
アルファ酸12%前後
コフムロン30%前後
精油量1.7%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール0.8%前後
ビタリングに使われることが多いですが、コフムロンが多いこともあって使いどころが難しいホップです。
このホップもおそらく何らかのチオール化合物を持っていて、短時間の煮沸で特有の風味と重い苦味が出ます。
なんといいますか、クラシカルなアメリカンIPAの雰囲気が出るのです。
ただ、このホップだけでビタリングすると重渋になってしまうので、アクセントとして少量使う程度に留めるのが吉かと思われます。
ペレットはいい香りなのですが、その香りをつけようとしてもあまり上手くいきません。
ドライホッピングでも重渋が出てしまう恐ろしいホップ(笑)
【ローラル】
アルファ酸15%前後
コフムロン22%前後
精油量2.6%前後
リナロール1%前後
ゲラニオール0.3%前後
コフムロンの少ない、ハイアルファなのを探していてこれを買ってみました。
スーパーノーブルと呼ばれるだけあって、ザーツをパワーアップしたようなキャラクター。
精油量多くリナロールがリッチなのに、フルーティ要素は少ない。フローラル、ハーバルな、品の良い香り。
ハイアルファは、要はIPAに使いたいのだけれども、これだと性格がピルスナーに寄っていこうとするのでやや使いにくい。
ストロングなラガーなんかを作るにはすごく良いのかも
【ポラリス】
アルファ酸21%前後
コフムロン25%前後
精油量4%前後
リナロール0.2%前後
ゲラニオール不明
超苦く、コフムロンが比較的少ないホップを、と選んでみたホップ。
ダブルIPAなどは、苦味を得るだけで設備的ホップ使用限界のけっこうな部分を使ってしまうので、とにかく苦いホップが欲しくなる。
実際苦味は得られるのだけども、このホップはそれ以外の要素が少なすぎる!精油量どえらいのになぜなんだぜ
シムコあたりは苦味と一緒にIPAらしいキャラクターも与えてくれるんだけど、コレはただ苦いホップで香りに寄与せず、結果として香り全体のボリュームが物足りなくなってしまった。要は、IPA向きではなかった。
ミントやメントールのニュアンス、と言われるけれども、言われたらそんな気もする、というレベルで黙って出したら誰も気付いてくれない(笑)
【ギャラクシー】
アルファ酸13.5%前後
コフムロン36%前後
精油量4%前後
リナロール不明
ゲラニオール不明
ギャラクシー香とでも言いたくなる、特有のトロピカル系フルーティが魅力のホップ。
ただし、他のトロピカル系にもありがちな、コフムロンが異常に多いタイプなので注意。
とにかく、煮沸中に投入するとほぼ渋みがでる。ワールプールで65度まで下げて投入しても、ドライホッピングで投入しても、酵母が沈殿し切っていないとあからさまな渋みが残る。
キャラクター的にNEなんかに使いたくなるのはわかるんだけど、よほど注意深く使わないとイガイガピリピリしたビールになっちゃう。
というかですね、ギャラクシー使ってて手放しで美味しかったのはキリンさんのくらいですよまじで(笑)
1袋10キロだったので、ドライホッピングのみで使い切るのに苦労しました。
腕にものすごく自信のあるブルワリー専用ホップだと思います。ウチはもう買わない(笑)
【番外編:CRYOホップ】
要は濃縮タイプのペレットホップで、ざっくり2倍の濃度と思えばだいたいOK。
値段も倍(以上)なので、経済的なメリットはナシ。
ただ、うちのように投入できるホップ量に限界がある場合、使わざるを得ない場合が出てきます。
ニューイングランドに関しては、このホップを使わないと作れません。ホップかすの沈殿量が、ビール取り出し口より上まで来ちゃうのです。
ビタリングでも、CRYOのシムコを使えば少量で済むので、香り付けに使える枠が増えます。
ちなみに、CRYOになるとキャッチーなキャラクターになります。シトラもモザイクも、グラッシーな要素が少なくなり、樹脂っぽい感じも控えめな気がします。
当社のように、クラフトビールを飲み慣れていない地元の人に喜んでもらいたい、なんて場合にはいいと思っています。
ただし、1袋5キロ、つまり通常ペレットホップに換算すると10キロ分なので、使い切るのに時間がかかりそうな場合には避けたほうがいいです。ホップのフレッシュさって、思っている以上にビールの出来を左右するので。
ということで、今回は醸造サイドからのホップレビューでした。
役に立ったら一杯おごってください(笑)
第15回「Brut IPAの正解がわからない件」
あけましておめでとうございます。
ギリギリ1月だからいいのです。
最近イベントなどで「ブログ読んでます」的なことを言われることが増えまして、なんというかモジモジしてしまうのですが、それはまあいいとして「もっと書け」的なことを言われたりもするわけです。
今高らかに言おう。
そんなにネタねえ!
というわけで久しぶりの投稿となりました。言い訳に費やす行数がどんどん長くなるな
Brut IPAです。
今さら感は否めません。一瞬盛り上がるかと思わせてあっという間に「もいっか」的な空気になってしまいました。
原因は明白でありまして、要は「なんか正解がよくわからない」ということに尽きるかと思います。
アミログルコシターゼという酵素を用いて発酵を極限まで進めてキレッキレのボディをつくり、そこに鮮烈なホップ の香りを乗せて「辛口シャンパーニュ(=Brut)のような」シャープで華麗なビールにする
こう書くとすごく美味しそうなんですよ。
なんですけど、飲んでみると…
「えっと、セッションIPAとどこが違うの???」
みたいな感想になっちゃう。
酵素を用いてとか、最終比重が1.0を切ってるとか、いろいろあるとしても、もっとも重要な「飲んだ感じ」がセッションIPAと大差ないんじゃ、えらい苦労して(するのです)Brutつくる意義は失われます。
ブルワーのモチベーションだって失われます。
そして下火になりつつある。
ブリュットきらい、という声もけっこう聞いたりします。
さあここで「遅れてくるヘソ曲がり」南横浜ビール研究所の出番です。だれも待ってない?知ってます。
ちょっと時計を巻き戻します。
1年半ほど前、キリン&スプリングバレーブルワリーのマスターブルワーTさんにお店に来ていただいた時に、ニューイングランドの話になりました。
「アメリカ人も苦すぎたんだよ」
要は、苦すぎるビールにアメリカ人もちょっと食傷し始めており、そのカウンターとして生まれたのでは、というのがTさんの分析だったのでした。
それを聞いて考えました。
だとしたら、Brutは「ニューイングランドは甘すぎるしくどすぎる!」と感じた人に支持されて広まりつつあるのではあるまいか。
つまり、ニューイングランドの香りは好きだけど、もっときれいでキレたビールが飲みたい、という需要なのだろう、と。
それなら自分も飲んでみたいな、とも思いました。
はい、このときまだブリュット飲んだことなかったのですね(笑)
その後いくつかのブリュットを飲み、むむ、これセッションIPAじゃだめなのか?と混乱してしまったわけです。
なんですけど、じゃあやらんでいいや、とは思わず、よそとはちがうアプローチで別の解にたどり着けるんじゃないか、と考え続けておりました。
そんな時、「秋のけやきひろばビール祭り」でうしとらのKさんとお話しする機会があり、うしとらさんのブリュットを飲ませていただきました。
うしとらさんは、やはり独自のアプローチを試みて、Brutが薄っぺらくなるのを避けていたのでした。その結果、とても美味しい!
ついでに酵素の使い方を教えていただいたこともあり、これはもうやろう、と決めました。
Brutの弱さ、物足りなさは、キレすぎていることによる「薄い」感じがひとつの要因です。
麦芽の使用量は同じでも、発酵が進んでキレているほど味わいは軽くなります。糖分、つまり甘みがボディの厚みに大きく寄与しているので、これがアルコールに置き換わるほどシャバシャバ軽くなっていく。
アルコール7パーとかあるのに薄いと思われるのはこういうことなのですね。
かといって、甘みやモルト感を補ってしまっては、そもそもBrutの意味がありません。
ということで、別のところに「厚み」を持たせることで、味わいの薄っぺらさを補おう、と考えました。
またちょっと戻りますけど、わたしはBrutはNEのカウンターとして発生したと勝手に想像していたわけですね。
ニューイングランドの香りでキレたのが欲しい、という需要だと。
まあこれは違っておりました。だいたいみんなアメリカンエールイーストで醸造されてるようでした。
でも待てよ、と思いました。
最初の想像は、捨てるには早い。もったいない。
サンディエゴスーパーですとか、あのへんのアメリカンエールイーストは、ホップの持つ香りを活かし切る、という観点で用いられる酵母です。
高いβグルコシターゼ活性でホップの香りを引き出しながら、自身はほとんど香りを生成せず、ホップの香りを邪魔しない。
これをチョイスする理由も理解できるのですが、「アッサリした酵母」であるアメリカンエールイーストだから薄く感じる、というのもまた事実。
ニューイングランド用のイーストは、アメリカンエールイーストと同等のβグルコシターゼ活性を持ちつつ、超絶高い生体変換能力でホップの香りをトロピカルなものに作り替え、さらには自身も豊かなエステルを作り出します。
これでBrutをうまく醸造できたら
・ホップ本来の香り
・酵母が変換したホップの香り
この3枚の香りが重なり合い、香りにレイヤー感が出て物足りなさが解消できる、というのが結論でした。
ただ、ひとつ問題があります。
ただ、これにもほんのり勝算ありと考えておりました。
キレない酵母ってのは、つまり分子の大きな糖分を食べるのが苦手なわけで、酵素によって糖を細かく分解しつつ発酵させるBrutのやりかたなら、おそらく問題ない。はず。
失敗したら?
名前変えて出しますよ?←←←
ということで、実際の醸造です。
ビタリングホップ:CRYOシムコ(20分)BU27
ワールプールホップ:CRYOシトラ@65℃ 5g/L
ドライホップ:CRYOシトラ4日目〜8日 4g/L
麦汁は準一番搾り的な濾過でタンニンの溶出を抑え、渋みと濁りを取り除きました。「Brutシャンパーニュのような」感じをめざすなら、モルト感より引っかかりの無さを取るべき、という考えですね。
これで酵母をピッチし、順調に発酵…
と思いきや、き、切れない!!!
スタートは順調でその後もいい感じに発酵が上がっていき、いつも通り落ちてきてさあそろそろかな、と思ったら、ダラダラダラダラと発酵が続くことその後2週間!
都合3週間発酵タンクに居座りつづけることとなりました。
だ、大丈夫かいな?
いざ樽詰め。
お、いい香り!色もクリアです。
テイスティングしてみると…
いい!
シャープなキレを感じます。
ニューイングランド用酵母×シトラのドライホップで立ち現れるグレープのような香りによって、本当にスパークリングワインのようなキャラクターも備わってる。
そして…
薄っぺらくない!!!
いやちょっと待て、とあわてて比重を計ると…
0.998ですと?
つまり
大成功!!!
熟成を終えてグラスに注いだこのビールは、きれいにクリアなゴールドで、グッドルッキング。
香りは華やかで、ちょっと高貴な感じすらある。
味わいは辛口を意味するBrutにふさわしいシャープさを備えながら、軽すぎる、薄い、という感じはまったくありません。
お店でも、外販先のビアバーさんでも、非常に好評でした。
個人的にものすごく気に入ってしまい、わりとすぐ次バッチを仕込んでJAPAN BREWERS CUP2020に出品してしまいました。
決勝進出こそ逃したものの、大健闘!
また、いろんなブルワーさんに飲んでいただいて、いい評価をいただきました。
うれしいなー!
ちょっと会心のビールができちゃったもんだから、ブログにしてみました(笑)
ビターレスIPA、ニューイングランドIPAとともに、南横浜ビール研究所の看板にしていきたいな、と思っております。
Brutきらい、と思っているかた!
ちょっとうちの飲んでみて!(←最後は安定のたどたどしいプロモーション)
ではまた
第14回「マルチイースト発酵」
今思いついた造語なのでググっても無駄です←
酵母について色々考えているうちに、ある考えに到達しまして、実際のビール造りで試してみました。
実験台?お客さんですよ?いつもですけど←
ビール用酵母には様々な種類があって、それぞれに特色があります。
で、特色とはなんだ、と考えると、それはつまり得意不得意と言い換えることもできるな、と。
一例をあげますと、度数の高いバーレーワインをつくる場合などがあります。普通の酵母では自ら作り出したアルコールに耐えられずに発酵がストップしたりするので、発酵後半にハイアルコールに強いシャンパン用イーストを追加したりするのです。
麦芽由来の糖分を発酵させるのが得意なビール用酵母に前半を担当させ、ハイアルコールが得意なワイン系酵母に後半を担当させる。
これ、全然違うアプローチもできるはずだ、と考えたのです。そういう変なことばかり考える(笑)
で、やってみました。
だいぶ前ですが(←つまりネタはあったけど書くヒマがなかった)
そういえば、みんな夏にヴァイツェンボックつくらないな、と思った瞬間に「じゃあつくろう」となりました。変なことばかり考える(笑)
もちろんふつうにドス重くつくるんじゃなく、夏ならではの、夏飲むのにふさわしい、そんなヴァイツェンボックだってあっていい、という考えですね。
ヴァイツェンボックらしい香りの豊かさと、爽やかさを同居させたビールにしたい、と思いました。爽やかさは程よいキレとホップのフレーバーに担当してもらうことにします。
キレについては、7%程度のアルコールのベースを全部麦芽に求めるのをやめ、一部ショ糖に置き換えました(←もうこの時点でビール純粋令とサヨナラ)。ショ糖はほとんどキレちゃうので軽さが出ます。
そしてホップ。
爽やかさ重視でシトラをチョイスし、ワールプールとドライホッピングでどーんと投入しちゃいます。
そしてここで問題が生じます。
じつはヴァイツェン用の酵母は、ホップの香りを引き出す能力が残念なくらい低いのです。
βグルコシターゼ活性、というらしいのですが、これが非常に低い。
つまり、ふつうにヴァイツェン用酵母を使って、ホップ を大量に投入しても、そのホップが生かされない。いっぱい入れてるのに香らない、という結果が待っています。
そこで考えました。
「ホップの香りを引き出すのは、得意な酵母に担当して貰えばいいじゃないか」
ホップの香りを引き出す作用は、アルコールをつくる「発酵」とはまた別のメカニズムで進行します。それをヴァイツェン用ではなく、別の酵母にお願いするわけです。
選んだのはニューイングランド用の酵母。アメリカンエール用も同程度のβグルコシターゼ活性を持っているのでそちらでも良かったのですが、あまり色を出さないそれよりも、はっきりと「らしさ」を主張してくるNE用の酵母のほうが効果を確かめやすかろう、と考えました。
というわけで、ヴァイツェンボックらしい香りはヴァイツェン酵母のエステル産生能力に担当してもらい、ホップの香りを引き出すのはニューイングランド用に担当してもらうべく、ヴァイツェン用80%、NE用20%を同時にピッチしました。
酵母は株によって増殖能力も違うはずで、発酵を終えたときにどういう比率になっているかは正直わかりません。割合も確信があって決めたわけではなく「あくまでヴァイツェンボックなんだから主体はヴァイツェン用酵母で」となんとなく決めたにすぎません(笑)
ワクワクソワソワしながら完成を待ちました。
【夏なのにヴァイツェンボック】
ABV7.2% IBU25
HOPS:CRYOシトラ、シムコ
なんとまあ狙い通り!な仕上がり。
淡色につくりましたので、ヴァイツェンらしいバナナ、バニラ、りんごなどの風味が豊か。あくまでもヴァイツェンをベースにしたビールであると主張します。
そして、ホップの香りがきっちり溶け込み、シトラ由来の柑橘フレーバーが爽やかさを演出してくれました。
さらには、NE用酵母が持つ「香り変換能力」が働き、トロピカルに作り替えられたホップの香りが彩りを添えてくれている。
このビールうまいな!だれがつくったんだろう?(←珠玉のギャグ)
結果として非常に好評でありまして、次いつつくるのかとたくさん言われました。うん、気が向いたらね?←
イベントに出そうと出し惜しみしていたら夏が過ぎちゃって、途中から「残暑なのにヴァイツェンボック」に改名しましたが、ブルワーには柔軟性が重要なのでいいのです。
試みは成功した、と言っていいと思います。
次も成功する確証などありませんが、違うアプローチでまたこの「マルチイースト発酵」は試します。
失敗しても飲んでくださいね?
いまわたしの頭の中には「この酵母のこの得意分野と、こっちの酵母の別の得意分野を組み合わせたらこんなビールができるんじゃなかろうか」みたいな考えが渦巻いておりまして、楽しいです。
このやりかたは、ビールづくりの自由度を大きく上げてくれるものなんじゃないか、という気がしているのです。
こうなっちゃうと、ビールのジャンル分けがややこしくなりますな(笑)
第13回「HAZY IPAをまじめに考える」
お久しぶりであります。
さて、何回か前にニューイングランドをつくる、というのを書いたわけなのですが、その後醸造回数を重ね、さらに他所さんのヘイジーもそれなりに飲んできて、ちょっとここらでもう一回書かなければ、とブログ管理画面を開いた次第であります。
センテンス長い
ブルワー4年目の生意気盛り(51だけどな)、ちょっと吠えますが画面閉じないでくださいね?
まずですよ、まず、HAZY IPAという呼び方があまり好きではありません。モヤモヤします。
その呼び方では、つまりHAZY(=濁ってる)に価値があるってことになっちゃう。
HAZYなのは、なめらかな口当たりを実現するために溶け込ませたタンパク質とβグルカンが、ホップや穀被のポリフェノールと結びついた結果です。濁らせようとして濁ってるわけじゃないのです。
HAZYだぜえ、って誇るのはなんか変だ。
むしろね、クリアにつくりたいくらいです。
というわけで、当社ではかたくなに「ニューイングランドIPA」と呼ぶのでした。
こんな風潮になったのには理由がありまして、それはぶっちゃけ「濁ってるほど喜ばれるから」。
結果「故意に、過度に」濁らせたようなビールも見られるようになってしまいました。
なんだかなあ・・・
先日のけやきひろばビール祭りでも、過度に濁ったビールにはいくつか当たりました。
上記の、タンパク質&βグルカン+ポリフェノールの濁りならまだいいのですが(酸化には極端に弱くなるけど)、いくつか酵母で濁ったものがあって、これは正直よろしくありません。
酵母は、ホップの成分を吸着する性質があります。
HAZY IPAでは尋常じゃない量のホップを使用しますから、その中にいる酵母は、語弊を恐れずに言えば「きたない」。
ホップの渋み、エグ味、辛味をまとわりつかせた酵母が浮遊したHAZYは、例のイガイガピリピリした雑な味になってしまうわけですね。
さらにモヤモヤするのはですね、ニューイングランド用の酵母ってのは本来、凝集・沈殿が早いのです。
当社のふつうのサイクルですと主発酵7日目にドライホッピングし、4日で引き上げ、その2日後にケグ詰めします。都合13日。
この時点でほぼ酵母は落ちきって、ポリフェノール由来のかすみはあるけれど粒子状の濁りは消えてます。そして、そこから冷蔵庫で1週間も熟成させればさらに沈殿して「きれいに濁った」ビールができあがります。
いったい何日で詰めたらあんな酵母まみれのビールになるんだよ!!!
フンスフンス(←鼻息)
とにかくホップたくさん突っ込んどけば喜ぶんだろお前ら、みたいな、お客さんをナメたようなビールは本当にいやです。
以前も書きましたが、マニアのみなさんは優しいのです。多少のことは「こういうのもまあアリだよね」と許してくれちゃう。
そういう気風があるからこそ、ブルワーはとんがったビールに挑戦することができるわけで、ある意味恩があるんですよ。
恩人には誠意で応えたいものです。
おっと、大事なことを忘れてた。
HAZY、もとい、ニューイングランドIPAもちゃんときれいにつくれます。
みなさんご存知イセカドさんのネコさん、とてもきれいですよね?イガイガザラザラピリピリなんてどこにもいない。
かけるべき手間と時間を惜しんでいない証だと思います。
当社的には、イガイガの元となるミルセンなどの成分を飛ばすため、得意の「ワールプール65℃ホッピング」で最大量のホップ、しかもシトラなどの「きれいな」ホップを投入します。相対的にドライホッピングの量を加減することで、まずはイガイガ成分自体があまりビールに溶け込まないようにするわけです。
なおかつ、ホップ成分を吸着してイガイガになった酵母をきちんと沈殿させれば、炸裂するホップフレーバーときれいさ(=ドリンカビリティ)を両立させたビールになります。
あ、もうひとつ大事なこと。
NEにはシトラ・モザイクなどの「きれいな」ホップだけを使うのが吉です。
エクアノット、ギャラクシー、エルドラドのような「エグい」ホップは避ける、あるいはドライホッピングに限定してごく少量にとどめるようにしないと、すぐエグエグになっちゃうのです。
きれいなホップとそうじゃないホップの違いと使い方の注意点については、またどこかで書きますね。
こういうこと書くからどこ行ってもアウェーになっちゃうのかなあ(←じつは小鹿)
第12回「ビアラボはSMaSHをやらない」
ここ最近よく見るようになったSMaSH 。
Single Malt Single Hopの略ですね。
1種類の麦芽と1種類のホップだけを使って仕込んだビールのことです。
深掘り命のビアラボ的には、いかにもやりそうなジャンルかなとも思えますが、じつはやる気ありません。
なぜか?
誤解を覚悟で言いますと、美味しくないからです。
より詳しく言うなら、より美味しいものを、というアプローチとはベクトルが異なっているからです。
モルトには種類によって異なる味わい、性質が備わっています。
単一のモルトで仕込むと、その特質だけが突出し、他の要素が不足あるいは欠落します。
ホップにも同様に、品種によって異なる性質が備わっています。苦味をつけるのに適したもの、煮沸で香りをつけるといい感じのやつ、ドライホッピングで素晴らしい品種といった感じで得意分野があり、全てが最高という品種はありません。
つまりSMaSH は、「宿命的に最高に美味しいビールはつくることができない」のです。
それでも、今日もSMaSH はつくられ、飲まれています。
そのモルト、そのホップの品種の特徴をつかむことができる(と思われている)からでしょう。
そのことに価値があるのは事実だと思います。しかし、その価値を必要としているのは、ブルワーと一部のマニアだけなんじゃなかろうか、とも思ってしまうのです。
わたしたちブルワーは、飲んでもらったビールに対価を支払ってもらいます。お金をもらうのです。
そこを軽く考えてはいけない、と常に思うようにしています。
20年以上ものづくりに携わってきて、心の中に培われてきた思いがありまして、それはごくあたりまえのことなのですが、「よりよいものをめざして、製品をつくる」ということです。あたりまえすぎるな(笑)
できたものは、結果として最高のものではないかもしれません。いや、最高のものなんて一生に一度つくることができるかどうかさえわかりません。
だけど、最高のものを、前回よりもっと良いものを、と考え、工夫し、努力してつくったものには、相応の価値が宿ると思うのです。
そう考えると、どうしてもSMaSH には手が伸びません。
たとえば、CITRAは今日のクラフトビール文化になくてはならないとても優秀なホップですが、その優秀さはアロマ・フレーバーによるものです。対して苦味の質については「かなりいいが、最高というわけではない」という感じです。
ホップが持つ苦味の質を決定づける大きな要因のひとつに「α酸におけるコフムロン含有率の低さ」があります。
荒く重い苦味、渋みの元となるのがコフムロンで、CITRAだと含有率は20〜25%。一方、当社が主力としているビタリングホップSIMCOEは16〜20%で、このわずかに思える差がじっさいにビールになると大きな違いとなります。
ちなみにCASCADEでは35%くらい、GALAXYに至っては40%以上も含まれており、これはもう1秒たりとも煮込みたくないレベル(笑)。
ないとは思いますが、GALAXYのシングルホップとかあったら敬遠するか、あるいは覚悟して飲んでください←
脱線しました。
この「良質な苦味を得る」という一点において、シングルホップはイマイチなのです。
どうしても、というなら、CITRA、MOSAIC、そして使ったことはないのですが、成分表を見た限りではSABROなどは比較的いいんじゃないかと思います。
そうそう、もちろんSIMCOEもいいんですけど、香りのボリュームという点では上記のホップより1〜2ランク落ちますので、量が必要になります。ホップ投入量に設備的限界がある当社ではちと厳しい。
まあなんといいますか、ブルワーの性格的に「そこに超イイとわかっているシムコがあるのに、シングルホップにしたいためだけに他のホップでビタリングする」のが無理なのです(笑)
より良い結果になるように、ホップの種類と配合はもちろん、投入タイミングや投入時の温度などを組み立てるのがスジだ、と頑なに信じているのでした。異論は認めない(笑)
あとですね、ことホップに関しては、ビタリングはたとえばシムコに固定しといて、そこ以外に使うホップを単一にすれば「擬似シングルホップ」になります。
シムコ+シトラを飲み、シムコ+モザイクを飲めば、その差分がシトラとモザイクの違いとしてきちんと把握できちゃうのです。
そうそう、シングルとは逆に、むやみやたらといろんなホップをブレンドするのもちょっとアレです。
以前も書きましたが、ホップの個性とは持っている芳香成分の凸凹によって生じますから、色々混ぜても出てくるのはただの平均値です。混ぜれば混ぜるほど無個性になっていくわけです。
シングルも気に入らない。ブレンドしすぎも気に入らない。めんどくさいブルワーですねえ(笑)
なんと言いますか、このご時世、製品にはすべからく情報がひっついており、この情報も含めて「価値」というものが生じることは認めざるを得ません。
SMaSH には、このモルト、このホップはこういう味わいだ、という情報が価値として添えられています。
しかし、「飲み物としての美味しさという価値」>>>>>「付属する情報の価値」という図式は絶対に覆ることがありません。
なんの予備知識もなく口に入れて「こりゃうめえ!」と思ってもらえることこそが、ブルワーとしての最高の喜びなんじゃないかなあと思っています。
わたしは、ブルワリーにはそれぞれ異なる「役割」というものがあるんじゃないか、なんて考えています。
たとえば、業界を、そしてファンをマニアックな方向に導き啓蒙するブルワリーがあってもいい。
そういうブルワリーがSMaSH をやることには一定の意味があると思います。
しかし、金沢文庫という横浜のはずれの一住宅地に立地する、ぼくら南横浜ビール研究所の役割はちがいます。
「より多くの人にクラフトビールに触れてもらい、好きになってもらうこと」こそが自分たちが担うべきだと思って日々醸造に勤しんでいます。
どこの誰に飲んでもらうのか。
そこ大事ですよね。
ごほん
ブルワーの自己満足にお客さんを付き合わせるのはダサいんだぜ?(また敵増やすー)
第11回「新しいスタイルを世に問う:ビターレスIPA」
お久しぶりであります。(こればっか)
この冬は、例年より忙しく過ごしておりました。
ジャパンブルワーズカップがありましたし、あとそうだ、JAPAN GREATBEER AWARDS2019にもIPAを出品しまして、銀賞をもらってきたんですよ。
金賞は該当なし、同じ銀賞に伊勢角さんや横浜ビールさん、そんでもって得点的には最高得点(なぜならあと1点で金賞だから)でした。
激戦のアメリカンIPA部門ということを考えると、ナイスファイト、だったのではありますまいか?(笑)
そんな日々を送りつつ、うちの美人ブルワーななこちゃんにひとつ宿題を出しておりました。
「女性ならではの感覚で、いま『ビアラボがつくるべき』ビールを考えてみてほしい」
というものです。簡単じゃないと思います。
かなりの熟考のすえ、彼女が提案してきたのは「ビターレスIPA」。
いわく「苦いのは苦手だけど、ホップの香りは好き、という人は少なからずいるはずで、そんな人にホップを思い切り楽しんでもらえるビールはあっていいと思う」。
なるほど、と思いました。
いまのクラフトビールブームを牽引しているひとつの大きな要素が「IPA」というビールであるのは間違いない。
だけど、IPAの持つその苦さが、じつはハードルになっているのも事実だと思うのです。
近年流行のニューイングランドスタイルIPAは、苦すぎた旧来のIPAに対するカウンターとして生まれたようにも思えます。
甘くトロピカルでジューシー、苦味は控えめ。
なんですけど、そこはアメリカ、ウエストコーストIPAの反動ということもあり、さまざまな要素が「過剰」なんですよ。
NEパイント1杯飲んだら、永遠にホップが戻ってきますもんね?(笑)
つまり、NE-IPAも結局のところマニア目線で生まれたジャンルだと思うのです。
前回も同じようなことを書きましたが、われわれがいま作らなければならないのは、マニアを喜ばせるものよりも新たなクラフトビール好きを誘うもの、のはずです。
奥の細道よりハイウエイ、アングラ映画よりハリウッド、秘宝館よりディズニーランド。
そう考えると、ななこちゃんの提案は「ジャンルとして新しいビール」の、大きな可能性を秘めている、ど思いました。
ということで、ななこちゃんにレシピを設計してもらいました。
・ホップはばーんと効いている
・でも過剰なのはダメ
・レジナス(樹脂っぽい)のもだめ
・甘さはほしい
・度数は高すぎなくていい
・全力で苦くない
これを実現するために、多少のアドバイスはしたものの、ほぼ彼女が独力で書き上げたレシピです。
アルコール度数は5%台前半を狙いました。
IBUは15、これは、ホップの防腐作用の最少限度と考えて設定した数字です。常温でホップを投入するドライホッピングには雑菌混入のリスクが伴いますから、これ以上下げるのは難しいと判断しました。
苦味づけのホップには、渋み成分コフムロンが最少の「シムコ」のみ使用。
優しい甘みを加えるため、ラクトース(乳糖)を2kg/150L投入しています。
ホップ投入量は、ウエストコーストとニューイングランドの中間くらい。ワールプールで65℃まで下げたタイミングに最大量の「モザイク」を、ドライホッピングには「シトラ」を樹脂っぽさが出過ぎないぎりぎりの量を狙って投入。
酵母はニューイングランド用を使用して、ホップの香りをトロピカルなものに変換してもらうことにしました。
さて、完成しています。
じつは、当店より先に横浜のJINGLEさんで開栓されまして、女性に非常に好評だったとのことです。
狙いどおり!(←ななこ談)
ほのかに甘く優しい味わいの中に、マンゴーや桃のようなトロピカルフレーバーがたっぷり。
甘さやモルト感に隠れて、苦味はとても低く感じます。
あらたなビール好きをクラフトビールのも世界に招き入れるのに、とてもふさわしいビールになったと思います。
やったぜななこちゃん!
ただの大酒飲みじゃなか(ゴスッ
さあ、ここに、日本発のあらたなビアスタイルとして「ビターレスIPA」を提案したいと思います!
どうよ!!!
追記
その後数バッチを醸造しつつ、マイナーチェンジを繰り返してきました。
まずは、さらなるビターレス化を進めるためにIBUを8まで下げました。
IBU8のIPA(笑)。IBU150のトリプルIPAよりむしろクレイジーです。
IBU8では、常温でホップを投入するドライホッピングは微生物汚染のリスクが高すぎます。
ということでドライホッピングはやめて、ワールプールを65℃まで下げてからホップを大量に投入することにしました。
このやりかたには利点があり、樹脂っぽい香りの源であるミルセンがほとんど揮発するのです。
これにより、ビターレスIPAの「フルーティでトロピカル、そして角がなくてスルスルと飲みやすい」という美点をさらに高めることができました。
つくるごとに完成度は高まり、ビアバーやイベントでの評価も高まっている実感があります。
ホップを大量に投入し、ホップの心地よいフレーバーをふんだんに備えながら、ホップの持つネガティブな要素が取り除かれた「ビターレスIPA」には、やはり新たなジャンルを形づくるだけの可能性があると思います。新たなビールファンを獲得する可能性があると思うのです。
ぜひ、他のブルワリーでも醸造されるようになればいいな、と考えています。
第10回「イベントでムキになる理由」
お久しぶりであります。
ビール屋の秋ってのはなかなかいそがしいのです、イベント重なったりとか(春も夏も言ってた気がする)
さて、われら南横浜ビール研究所は、じつは、イベントでビールがよく売れるブルワリーだったりします。
売れる、ではないな、売る、です。
つまり必死なのです。だいたいどのイベントでもいちばん必死で声を張り上げて売ってます(笑)
とにかく目を三角にして、ムキになってます。なんというか、そうするのがスジだ、と思うんですよね。
今回は、ちょっと醸造をはなれてそのあたりを語らせていただきます。
右も左もわからずオープンしてからしばらくは、とにかくビールを作るのに必死で、あまり外向きのことをする余裕がありませんでした。
そんな時期を過ぎ、冬を前に忙しさも一段落した2017年1月、JAPAN BREWERS CUPのコンペに出品しました。IPAを2種類。
結果は、それぞれ1回戦を1位と3位で通過しましたが、2回戦を突破して決勝の6本に残ることはできませんでした。
これがイベントデビュー。
今思えば、経験ゼロからブルワリーを立ち上げ、開業一年未満だったのですから、上出来といっても良かったのかもしれません。
しかし、わたしとオーナーはめっこり凹んで店に戻ったのでした・・・
その後、フェス的なイベントにもいくつか出店し、毎回ムキになりつつ経験を積みながら、イベントで売るにはどうすればいいのか、そしてイベントに参加する意味とは、と自問し続けました。
なんとなく、答えみたいなものも見えてきている気がします。
ひとつには「ひとりよがりに陥らないこと」というのが挙げられるかもしれません。
ビールは、設計して、仕込んで、そして飲んでもらってはじめて完結する製品です。
手に取ってもらって、飲んでもらって、美味しいと思ってもらって、ふたたび手に取ってもらう。
このサイクルをめざしてつくられるべきものだと思うのです。
どんなものが興味をもたれ、手に取られ、飲んでもらえるのか。そして、美味しいと思ってもらえるのか。つねにその点を意識してつくっているつもりですが、それがうまく回っているのかが如実にあらわれるのがイベントなのだ、と実感するようになりました。
ビアラボの店舗は横浜のはずれ、京浜急行金沢文庫駅近くにあります。
ここは商業地、繁華街の規模は小さく、住宅地としてさまざまな世代・嗜好の人々が住む街です。
クラフトビールマニアの人たちだけを相手に商売できるような土地ではありませんし、またそういう方向性は考えていませんでした。
地元のビールメーカーとして、地元の人たちに愛され、その土地に根をはる。
ちいさなクラフトビールメーカーの、それがひとつの理想のかたちだと思ってスタートしたのです。
おのずと、ビールの方向性も定まります。
「飲みやすくわかりやすい美味しさを備えている」
これに尽きると思っています。
たまにヘンテコなビールもつくりますし、ヘンテコなつくりかたを編み出したりしていますが、それらもすべて「普遍的な美味しさ」をめざしたものです。
そこを外れたことはありません。
いまや、もうクセみたいなもので、新たにレシピを構築するときも、気づくと飲みやすさわかりやすさを意識したつくりになっちゃってます。
これがブルワーとしてのわたしの特性だとしたら、まあそれも悪くない、と思うことにしています(笑)
そして、それを意識しながら、あるいは無意識に続けてきたことが、じつはイベントでの強さにつながっているんじゃないか、と最近思うようになりました。
ビールのイベントには、さまざまな人たちが訪れます。マニアばかりではありません。
むしろ、マニアは少数派だと感じます。
なにか楽しそうなイベントやってるな、と来てくれる老若男女、地元の人、遠くの人、海外の人。そんな人たちに、飲んでもらう。
そこでは、飲みやすさわかりやすさは有効な武器になります。
わかりやすさの重要な要素には、名前もあります。
「エクステンディッドセンシズスルーザナイトXYZ」みたいな名前をつけてみたい気もしますが、求められているのは「あざやかホップの小麦エール」のほうだと思うのです。
昨今はクラフトビールブームなんて言われますが、その実まだまだだと感じます。「IPA」はどこでも通じる一般名詞にはまだなっていないのが現実です。読みかた聞かれますもん、今でもお店で。
なので、おしゃれなネーミングに憧れつつも、わたしたちは敷居を下げる方向で名前を考えます。
マニア御用達的な空気が出ていたら、イベントでは少なからずマイナスのような気がしてしまうのです。
味わいにも同じことが言えると思っています。
マニアのみなさんは、じつは優しいので、ちょっとクセの強すぎるビールができたとしても「こういうのもアリだよね」と許してくれがちです。
マニアではない、ライトユーザーのかたが同じビールを飲んで「クセ強い、飲みにくい」という感想をくれたとき、大切にすべきなのはどちらの言葉でしょうか?
もし「これの良さがわからないのか素人め」と思っちゃったら、そこはもうブルワリーとして終ってるんじゃないか、と思うのです。
エクストリームなビールを否定する気はありません。
けれど、エクストリームであることと、普遍的な、だれにでもわかる美味しさを備えていることは相反しません。両立できる要素のはずです。
ストーンのIPAも、ファイアストーンのユニオンジャックも、うしとらさんのウエストグリーンIPAも、伊勢角さんのNEKONIHIKIも、どれもエクストリームでありながら何のエクスキューズも必要ない美味しさを持っています。
それらは、個性を標榜して極端さだけに走ったビールとは志の高さが違う、とても価値の高いビールたちだと思います。
南横浜ビール研究所がめざすのは、そういったビールをつくるブルワリーです。
いつ、だれが、どれを飲んできちんと美味しい。
マイクロだけど、ニッチではない。
変化球よりも直球。
IPAもヴァイツェンもポーターもベルジャンもやる当ブルワリーとしてはなかなか簡単ではないことだと思いますが、でもめざします。
ビールイベントは、そういったスタンスがちゃんとうまくいっているかを確認することができる貴重な機会です。
というのも、「同じ場所で出店しているブルワリーの中での相対的な位置がわかる」からなのです。
多くのイベントでは、1日ごとに売り上げを集計し、それがブルワリーに知らされます。
どこがどれだけ売ったか、自分たちは何位なのか、わかっちゃうのです。
これは、お店では得られない、イベントという場だからこそ手に入る、言い訳の効かない成績表だなーと思います。
これはもう真剣になるしかないじゃないですか!
ま、競争に無駄に燃えるバブル世代とゆーのもありますけども(笑)
さあ、少しずつ書いているうちにJAPAN BREWERS CUP 2019が間近になってしまいました。
もちろん燃えてます。
IPA部門に2、新設のペールエール部門に1、小麦部門に2、濃色部門に1、エントリーしました。
渾身のコンテスト仕様です(笑)。
もちろん勝つつもりで出ますよ!
真剣勝負の場、そのくらい気合い入れてつくった、自信のあるビールを出さなきゃ失礼ですから!
そしてもちろん、必死に売りますよ!
売れないと悲しいですし(笑)
いやあ楽しみです。楽しみすぎます。
ではみなさん、大桟橋ホールでお会いしましょう!