エフェメラの胎動

おまじない

灰青の空僕が燃す煤煙

 


僕の心は僕から見える少し遠い場所にある
そこまで歩いて、捲り上げて中を覗いてみる
ゆっくり、ひとつずつ拾い上げて
これじゃない、それでもないとひとつずつ
元の場所に戻していく
形のないもの 色のないもの
見えないもの 光らないもの
たくさんの塊がそこかしこに散らばっている
時々、今日探していたものが急に見つかる
でも光は溶けていて、もう虹にもなれない
墓標を立てて歩いていく
古い思い出をひとつずつ燃やしていく
燃やしたものの灰が足元で蠢いている
何を燃した灰か、もうわからないから
記録だけが残っていく
遥か彼方遠くの空には
誰かの虹が輝いている
僕は此処に墓標を立てていく

 

 

ブリリアント・ブラー

 

一体どんな御伽話を書き上げたとしても

書いた人物を知る人が読めばそれはもう

万全のフィクションではなくなってしまう

そんな恐ろしいことが赦されている

一体いくつの無駄な段落が葬られてきただろう

僕の言葉は僕の願いではない

僕はいつも嘘の話をしている

純正の与太話、負け損いの書物

腫れ上った指の青い方の糸を

読みかけの栞にするから抜いて欲しい

先が綻びた弱い紐を整える仕草にしか

発現しない祈りがあると思っていた

傷のついた書物の表紙を撫でていて

たまにこちらを見遣る僕がいる

紙に文字を書くと本になるんだ

お前は知らないだろうけど

 

洞不全

 

譫言が如く滑り落ちるあかさたな

話したことを何も覚えていない朝

 

全部欲しいけど、全部を欲しがるくらいなら

何一つ必要ないのだ 君の皮のにおい

 

水脹れ

蚯蚓腫れ

巻爪

 

汚い夢を見て、初めて、

窓の外を美しいと思う

 

大切な話をしたいなら

部屋の明かりを消して

すべての音を止めて

ぼくをひとりにして

 

 

Lament , Filament , Bewitchment .

 

憂鬱な振りをしていつも怒っている

白い吐息と一緒に魂の繊維も吐き出せたら良い

青く煤けた身体の真ん中の辺りが時折萎む

此処にはいつも何も無い

破けた切手の端の色が褪せていって

用無しのレターセットの底で僕を呼んでいる

寄せて返る波が無くて返す言葉も無い

思い出せないアルバムの所在を知らないまま

群れから逸れた一枚の写真の所在が無い

先日の強風で折れた花を助けたい

後向きに列車に乗ると落下しているみたい

終わったのに何も始まっていない

天国に居たら地獄のこと愛せない

 

晩夏回想

 

夏空に向けて蝉の羽掲げれば

透き通る雲に窓辺が視える

 

鉄板の如き地面に垂れ落ちる

自意識割れて火花が落ちて

 

束の間の涼しげ

余った素麺の破片が出てくる彼岸のキッチン

 

進め夏、破滅を瞼に貼り付けて

犬死を待つような寝姿

 

白波を泳ぐ鴎の群衆よ

戻りゆく波は何処かの岸へ

 

過ぎ去った暦を捲る白い手の晩夏回想

二度と会わない