Marketing They Are a-Changin'

都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

二人の孫への"未来への手紙"「気候危機」ブックレビュー

時間が限られているなかでのCO2排出量の大幅削減は、社会・経済・技術の大転換を意味する。これは新たな産業革命と呼んでもいいかもしれない。IPCCの1.5℃特別報告書などの科学的知見を信頼して大転換に乗り出すかどうかが問われているのである。(本書より)

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地球温暖化、気候変動ではなく「気候危機」。

このタイトルが切迫した今の状況を端的に表していると言っていいでしょう。

 

先月出版されたばかりの一般的には気候変動に関する本書。ここ最近のグローバルでの国や自治体等の動きをキャッチアップした出版物としては、恐らく最新刊と言える本書。

 

以下内容で構成される本書ですが、

第1章 革命前夜1ー温暖化の科学と文明の持続可能性

第2章 革命前夜1ー極端気象と気候変動

第3章 革命勃発ー気候ストライキ始まる

第4章 自治体や国家が動くー気候非常事態を宣言し動員計画を立案する

 前半のいかんともしがたい陰鬱な気分の内容から一転、後半の「革命勃発」以降は、世界の国々や自治体の野心的な最新の取組み内容の数々がコンパクトにまとめられています。 

世界各国、自治体等の個別の動きをここで紹介することは控えますが、これでもかと言う程の最新の動きを一通り把握するということでは、最適な一冊と言えるでしょう。

 

そして、改めて感じたのは、ノーベル賞候補にもなったグレタさんの行動が、世界を動かすの大きなきっかけの一つになっていること。スウェーデンでのたったひとりの気候ストライキが、世界に拡がり、第二、第三のグレタさんが各国に登場し、昨年の気候マーチでは、世界で760万人が賛同するうねりにまで発展していることは、誰もが知ることになりました。

 

また、温暖化問題と言えば、IPCCに注目が集まりますが、それ以外にも、様々な主張や宣言に対して、世界中の多くの科学者がそれらに署名し行動していることを知ることになりました。

さらに、以下の海外メディアの動き。

「ガーディアン」紙は、温暖化懐疑論者と従来呼んでいたものを、今後は温暖化科学否定論者と呼ぶことにすると発表している。人為起源温暖化説に今日十分な科学的証拠があるからである。

BBCでも、人為起源温暖化説とその他の説を同じ様に取り上げることは今後行わないと表現している様です。日本も是非見習って欲しいものです。

 

そして、国連の会議では希望したにも関わらず、具体的な政策がないとの理由で発言の機会を与えられなかった日本の気候変動問題での存在感のなさ。

一方で、国内の一筋の光とも言えるが、地方自治体として、2019年9月、日本で初めて「気候非常事態宣言」を出した、長崎県壱岐市の動き。

「壱岐市では温暖化により海水面が上昇し、藻場が減少して漁獲量が70年で半減した。50年に一度の大雨が過去3年間で3回発生している。SDGsのさらなる推進を目指し宣言を決断した」(壱岐市 白川 博一市長)

遡ること約1年前、SDGs未来都市に選定された当時、私が行った壱岐市長のインタビューも併せてお読み下さい。

 

「SDGs未来都市が目指す地域社会」 壱岐市:Social Good な企業とその取り組み 自治体編 #27|コラム|メンバーズ

blog.members.co.jp

 

日本でも有数の環境学者による最新刊。あとがきには、著者の地球の行く末、そして、二人のお孫さんへの思いが綴られていました。

2019年8月、アイスランドで初めて消滅した氷河があった場所に「未来への手紙」とする未来の人々に宛てたプレート設置のエピソードがあとがきに紹介されていましたが、そのアイスランドでの「未来への手紙」になぞらえた、著者のメッセージを最後に紹介しましょう。

筆者には二人の孫がいるが、この書も二人の孫への「未来への手紙」と言えるかも知れない。人類がこれまで通り緩慢で身勝手であれば、1.5℃や2℃目標どころか2060年代にも世界の平均気温の上昇は4℃を突破し、人類は壊滅的な気候崩壊から文明の崩壊に直面することになるだろう。

(中略)

人類がアントロポセン※において一致協力して惑星管理保護責任を果たすことができたかどうかを、二人の孫は知ることになるだろう。

 

※アントロポセンとは? 

www.afpbb.com

 

気候危機 (岩波ブックレット)

気候危機 (岩波ブックレット)

  • 作者:山本 良一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/01/10
  • メディア: 単行本
 
地球温暖化とグリーン経済

地球温暖化とグリーン経済

 

卒化石燃料文明のための大転換:講演会参加記

人類は「化石燃料文明」を今世紀中に卒業しようとしている。(江守氏 講演資料より)

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 約10年振りに訪れた吉祥寺、休日にセミナーに足を運んだ甲斐がありました。

www.greenenergy.jp

 

今回は趣向を変えて、セミナー参加記として、期待値を超える内容だった、江守さんの講演のエッセンスを。

www.nies.go.jp

 

国立環境研究 地球環境研究センター 副センター長で、IPCC報告書の主執筆者でもある江守さん。最近では、テレビでも見掛けることが増えた、言わずと知れた日本を代表する気候変動のエキスパート。

 

今回の講演タイトルは『「気候危機」は止められるのか?』

気候変動ではなくて「気候危機」。最近では、Climate Changeは、Climate crisisと言われることも多く、気候変動問題は、その脅威が深刻化し、より切迫した問題と捉え理解するための表れと言えるでしょう。

 

講演前半は、所謂、産業革命以降の気温や温室効果ガス濃度の上昇や、地球温暖化によるリスク、パリ協定での目標やIPCC「1.5℃」特別報告書やグローバルでのエネルギー源の話。分かりやすい丁寧な解説は、知識の復習として大満足の内容でしたが、講演内容の真骨頂は、後半戦にありました。

 

その後半戦は、

「脱炭素化」はイヤイヤ努力して達成できる目標ではない

→ 社会の「大転換」が起きる必要がある

 のスライドでスタートを切ることになりますが、その「大転換」とは何か?

 

講演では、「大転換」の事例を「分煙」を例に、社会の常識の変化が起きたこと解説していました。

必ずしも技術革新やイノベーションありきではなく、人々の倫理観や制度の整備等により、大転換が起こるというもの。そのプロセスは、

科学→倫理→制度→経済→技術

であるとしています。

 

〈分煙と気候変動の大転換プロセス(抜粋)〉

・分煙の倫理観:受動喫煙被害者への配慮

・気候変動の倫理観:将来世代、途上国等の被害者への配慮

 ↓

・分煙の制度:健康増進法

・気候変動の制度:気候変動枠組条約、パリ協定

 

 社会の大転換と言えば、AI、ロボティクス、5GやIoT等、高度な技術革新を誰もが想像するはずです。もちろん、再エネ発電や蓄電池、スマートグリッド等による技術革新が社会の大転換を後押しする事は間違いないでしょう。

しかし、50年前に今の日本の分煙社会を誰が予測できたか?つまり、倫理感や制度整備により、社会にも「大転換」が起きた、そして、起こせるということです。

 

そして「気候危機」を止めるために、私たちは、個人として何をすればよいか?

講演の最後に挙げられた7つのポイントは

・関心を持つ。世界で何が起きているかを知る。

・周りの人と話す。発信する。

・無駄なエネルギーは使わない。

・家庭を「エコハウス」にする。

・気候変動対策に積極的な企業を応援する。

・政治家に気候変動対策について質問する。

・地域の気候変動対策に参加する。

 

政治に関するポイントが一つ挙げられていますが、諸外国とは異なり、気候変動や地球温暖化が全く選挙の争点にはなり得ない日本。この辺りは、アメリカの大統領選を見習いたいものです。

 

それにしても、多くの若者で活気溢れる吉祥寺の街とは全く異なり、来場者の年齢層の高さが突出していた講演会場。

世界を席巻する気候マーチの主役であり次世代を担う若者たちも、悲しいかな、日本ではまだまだマイノリティの様です。

 

地球温暖化はどれくらい「怖い」か? ~温暖化リスクの全体像を探る

地球温暖化はどれくらい「怖い」か? ~温暖化リスクの全体像を探る

 
地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

  • 作者:江守 正多
  • 出版社/メーカー: 化学同人
  • 発売日: 2008/11/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

入口はアート思考から「右脳思考」ブックレビュー

結局、人間を動かすのはそれが正しいか、間違っているか、あるいはやるべきかどうかという理屈、すなわちロジックではない。やりたいとか、面白うそうとか、やらないとまずいなといった気持ち、すなわち感情である。

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ボスコンの日本代表を経て、早稲田大学ビジネススクール 教授を務める著者による右脳を働かせることの重要性を問う本書。

世の中に溢れる「右脳」のキーワードが含まれるビジネス書の中で手に取ったは、左脳やロジカルシンキングの本流であり権化の様な著者が著していることに興味を持ったから。

 

 

本書では触れられてはいませんが、右脳思考の起点と終点では、「アート思考」が重要であること、そして、右脳思考を育むためには、「VTS(Visual Thinking Strategies)」「対話鑑賞」が有効な手段の一つとして確信できたことがこの年末最大の収穫となりました。

 

●右脳をどこで活用するか?

論理立てて整理され腹落ちしたのは、仕事のプロセスにおいて、どのフェーズで右脳を使うことが重要かの解説をしている箇所。

 

以下プロセスにおいて、インプットとアウトプットでは、右脳が情報に重要であるとしています。

 

●第1ステージ~インプット

情報収集して課題を見つけること、仮説を立てること

 

●第2ステージ~検討・分析

課題を特定、整理、分析し、解決策を見つけること

 

●第3ステージ~アウトプット

解決策から意思決定を行い、実行すること

 

まずは、インプットのプロセスでなぜ右脳を働かせることが重要なのか?

それは現場や人の行動を観察して疑問を感じて課題を発見することが重要だから。このステージの右脳思考とは、ヒューリスティックス分析であり、デザインシンキングそのものと言えそうです。

左脳:ロジカルシンキング、右脳:デザインシンキング に置き換えれば、それぞれの優位性や両者を行ったり来たりすることの重要性が良く理解できるでしょう。

 

また、アウトプットのステージでは、なぜ右脳が必要かと言えば、人は理屈よりも、感情で動くから。そして、相手がどう思っているのかを理解する必要があり、まさにそれは、右脳を働かせる必要があるとしています。

 

●右脳に訴え「感情」を動かすファクターとは?

では、ロジカルな考え方は、ビジネスの基本として必要であることに加えて、実行に移すための説得材料として、右脳思考による感情に訴え、人を動かすファクターとは何か?

本書では、

1:論理性

2:ストーリー

3:ワクワク・どきどき

4:自信・安心を与える

 の4点を挙げています。

さらに、最も重要であるとする、2つ目のストーリーを豊かにする方法としては、

立体感:イメージできる

現実感:実現できそう

安心感:やってみたい、自分でもやれそう

を3つのポイントとしています。

私はビジネスでもます「やりたい!」から考えることがあってもよいと思う。人間誰でも、自分で好きなことや自分が思いついたことは一所懸命やるが、人から言われたことやどうしてもやらなくてはいけないことには力が入らない。

 つまり、起点となる課題発見と実行へ移すそのタイミングは、右脳思考に加えて、まさにアート思考が重要というわけです。つまり、自身の信念や信条、企業に置き換えれば、パーパス経営と合致するものと言えます。

前述の第1から第3のステージに至るビジネスのプロセスになぞれば、第1ステージの入口と第3ステージの出口では、本当にやりたいと言える個人の想いが感情を動かし実行に移すことが出来る言えるでしょう。

 

●右脳を働かせるために?

本書後半では、右脳を働かせるための3つのポイントが、

観察する・感じ取る・勘を働かせる:「観・感・勘」

が重要としています。

本書では、普段の生活の中でのこうした行動をどう意識して鍛えるのかが解説されていますが、こうした能力を育むためには、美術作品を題材にグループで対話を行う 「VTS」(Visual Thinking Strategies)や「対話鑑賞」が最適であると改めて確信しました。

 

私が所属する会社でも、デンマークのデザインシンキングの手法を取り入れたワークショップを数多く開催していますが、最近スタートのが、ある美術館との協力により、ワークショップの前半にこの「対話鑑賞」を組み込んだプログラムを提供する試み。

「観・感・勘」の3つのポイントを働かせ右脳を活性化させるための「対話鑑賞」は有効な手段の一つと言えるでしょう。

美術館での「対話鑑賞」を取り入れたデンマーク流デザインシンキング・ワークショップ。興味を持たれた方は是非、お声掛け下さい。

 

なぜロジカルシンキング一辺倒ではダメで右脳を働かせる必要があるのか?

平易で分かりやすく、そしてロジカルにまとめられた一冊でした。

 

※本書では「ネスカフェ・アンバサダー」のビジネス立上げに関する著者の予測が述べられていました。アンバサダーの仕組みは、以前に私がネスレの方へインタビューを実施しています。そのビジネス立上げのきっかけは東日本大震災と社内のビジネスコンテスト。こちらもご参照下さい。

blog.members.co.jp

 

右脳思考

右脳思考

  • 作者:内田和成
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2018/12/26
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

最大の脅威は気候変動「ビッグ・クエスチョン」ブックレビュー

地球温暖化は、みなで引き起こしたことだ。私たちは車をほしがり、旅行をしたがり、生活水準を向上させたいと願う。問題は、人びとがいま起こりつつあることに気づいたときには、すでに手遅れかもしれないということだ。

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 ビッグ・クエスチョンとは、人類が問い続けてきた根源的な問い、人類の未来や存続に関わる課題等、人類にとって重大かつ難問な問いのこと。そうした10の問いにホーキング博士が答えることでまとめられたのが本書。

亡くなる2年前の2016年11月には、1,000年後、そして、翌年にはその予測を大幅に短縮して、100年後に人類が滅亡するとコメントしたホーキング博士。

その手掛かりやヒントを探ろうと手にした本書。地球温暖化や気候変動への脅威とクリーンなエネルギーへの夢が語られていました。

 

本書で取り上げられた10のビッグ・クエスチョンとは、

  1. 神は存在するのか?
  2. 宇宙はどのように始まったのか?
  3. 宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?
  4. 未来を予言できることはできるのか?
  5. ブラックホールの内部には何があるのか?
  6. タイムトラベルは可能なのか?
  7. 人間は地球で生きていくべきなのか?
  8. 宇宙に植民地を建設するべきなのか?
  9. 人口知能は人間より賢くなるのか?
  10. より良い未来のために何ができるのか?

 

●地球温暖化は地球最大の脅威

 ホーキング博士が私たちが住む惑星、地球最大の脅威として挙げるのが、7つ目の問いで語られる核戦争と地球温暖化。既に手遅れかもしれない地球に住み続けることは、人類絶滅の道を歩むかもしれないという衝撃的な内容でした。

 

小惑星の衝突が6,600年前に起こり恐竜が絶滅したことを踏まえ、

より差し迫った危機は、制御不能になった気候変動です。海洋の水温が上がれば氷冠が解け、大量の二酸化炭素が放出されるでしょう。どちらの(小惑星衝突と気候変動)現象も、地球の気候を金星のような気候 ー 摂氏462℃ととてつもない高温 ー にしかねません。

 

では、住めなくなる地球をどうするのか?

大航海時代にコロンブスが新大陸を目指した様に、地球がこの様な事態に陥っているのではあれば、人類は宇宙に飛び出し、新しい惑星を目指すべき、そして、人類が住む地球が一つの鳥かごであるとすれば、一つの鳥かごに卵を盛っておくべきではないとしています。

 

地球を見捨てるのかと思われそうですが、その反論には、以下のメッセージが私たちに投げかけられます。

 私たちは、1997年に採択された国際的合意である京都議定書を超えてその先に進み、いますぐ炭素の放出量を削減しなければならない。そのためのテクノロジーはある。必要なのは政治的な意思だけなのだ。

世界じゅうのすべての人が、健康で安全な生活を送れるように機会を与えられ、愛に満たされるように力を合わせよう。人はみな、未来に向かってともに旅するタイムトラベラーだ。私たちが向かう未来を、誰も行きたいと思うようなあ未来にするために、力を合わせようではないか。

 

●人口知能が進化する未来の人間の役割

AIが進化する未来の社会に対しては、当然ながら正負両側面を持ち合わせているを指摘しています。その未来で人間が果たす役割とは、私たちが、AIはいかにあるべきかという議論の先に学習を進め、私たちがAIをどの様にするのか、確実に私たち人間が計画するようにしなければならないとしています。

火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人口知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。

 

博士の力強いメッセージを伝えるために、引用が多くなりましたが、知的好奇心を揺さぶる一冊となりました。地球温暖化問題、AIの進化、両者に共有して言えることは、未来のこの惑星の行く末の鍵は、今地球に住む私たち世代が握っているということ。

 

最後に、PC開発の父と呼ばれるアラン・ケイ氏のメッセージを。

「未来は予測するものではない。発明するものだ。」

 

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう

 

 

米国の進化論支持者は2割!?「ルポ 人は科学が苦手」ブックレビュー

地球温暖化や進化論など科学者の間ではほぼ合意に達していることでも、社会では論争が続く。これはある意味、不思議なことだ。科学者が言っているのだから、素直に認めればいいじゃないかと素朴に思うことがある。しかし、政治的だったり宗教的だったりする個人の思いが強いと、科学の理解が人々の間に広まっていかず、対立が続く。

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 出版される本やYoutubeの動画、ブログの記事等、改めて思うのは、地球温暖化の問題に対して、懐疑論者のコンテンツが容易にしかも大量に見つかること。つまり、地球温暖化はその原因が人間活動によるものではないこと。なぜ、懐疑論がこれまで拡がっているのか?その理由を知りたくて手にとったのが本書。

「温暖化はでっち上げ」という発言の候補者が大統領に選ばれるアメリカ。そのアメリカの「科学不信」の現場を伝え、それら反科学論者に対する情報の伝え方やコミュニケーションあり方までを伝える本書。おススメの一冊です。

 

●意思決定の判断基準は?

まずは、アメリカのギャラップ社による、アメリカ人を対象にした様々な調査結果の驚愕の内容を紹介しましょう。

 

・神が過去1万年前のある時に人類を創造した(創造論)を支持:38%

・神の関与なしに人類は数百万年にわたり進化した(進化論)を支持:19%

・地球温暖化は「人間活動が原因」と考える:64%

温暖化に関する設問の支持政党別の結果は、共和党支持者:35%、民主党支持者:89%

 

ノーベル賞受賞者を世界で最も輩出(トップのアメリカが271人に対して、2位のイギリスは87人、3位のドイツは82人、日本は6位で26人)し、個人的には、合理主義で科学万能主義と思われたアメリカ。

その結果は、科学的に既に決着した内容でも、それを信じるかどうかは、個人の知識量よりも支持政党や信仰する宗教によって決定される傾向にあること。そして、知識が豊富な人の方が、支持する情報を集め考え方が偏るためその傾向は強く、また、人は自身が考えているよりも理性的でないという事実

さらに、反権威主義の傾向が強い国民性により、反科学論は進化しているとの事。

 

「人が何かを決める時に科学的な知識に頼ることは実際に少なく、仲間の意見や自分の価値観が重要な決め手になっている」

 

●科学不信の現場とは?

タイトルにルポの文字が含まれている通り、本書の特徴は、アメリカの科学不信の現場に、筆者自らが足を運び、インタビューをしていること。

「なぜ科学者は地球温暖化に同意していないのか」という小冊子を発行(全米に30万部を無料配布、財源は全て寄付でかけた費用は1億1千万円!)するシカゴ郊外のハートランド研究所 所長や、聖書の内容に基づき、全長155メートルのノアの箱舟を110億円をかけて再現した、ケンタッキー州の創造博物舘 広報担当者への取材。

博物館来場者へのインタビュー等も掲載されていますが、ファンタジー、オカルトであり、まさに奇々怪々といった内容である意味注目です。

 

さらに、本書が素晴らしいのは、こうした事実を紹介することで終わらせずに、こうした対立する意見を相互に理解するためのコミュニケーションのあり方にまで触れていること。

 

例え相手が科学的に誤っていることを主張していたとしても、事実やデータや上から目線で伝えるのではなく、相互の共感と敬意が重要であること。

ビジネスの現場でも大いに参考になりそうです。

 

そんな中、次期アメリカ大統領選の民主党候補の一人に、元ニューヨーク市長のブルーンムバーグ氏が名乗りを上げました。

パリ協定脱退を決めたアメリカ。地球温暖化解決の観点から大いに期待です。


 

ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から (光文社新書)

ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から (光文社新書)

 
HOPE 都市・企業・市民による気候変動総力戦

HOPE 都市・企業・市民による気候変動総力戦

  • 作者: マイケル・ブルームバーグ,カール・ポープ,国谷裕子,大里真理子
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/10/18
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
 

 

 

管理された衰退か、自然任せの崩壊か、望まない未来「2052 今後40年のグローバル予測」ブックレビュー

最後にもうひと言、言わせてほしい。
どうか私の予測が当たらないよう、力を貸してほしい。
力を合わせれば、はるかにすばらしい世界を築くことができるはずだ。

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本書が日本で発売されたのは、2013年1月、そして、発売から既に6年以上の月日が経過しているにも関わらず、一向に改善されない地球温暖化問題。示される予測が的中するなら、私たち人類は、絶望的な未来を迎えることになりそうです。

本書の著者は、ローマクラブによる「成長の限界」(1972年)著者の一人。その「成長の限界」から40年後を予測したのが、本書となります。

 

2052年を迎えるまでに、全世界での人口増加はピークを越えCO2排出量も低減に加え、再生可能エネルギーの進展等により、環境への負荷は将来軽減されますが、地球温暖化、生物多様性の側面からは、もはや手遅れ。そして本書の最後に「自らの予測が当たらない様、手を貸して欲しい」という読者へのメッセージで締める、望まない未来が描かれています。

 

近視眼的民主主義の弊害

地球環境の危機が分かっているのなぜ、人類は理性的な判断を下すことができないのか、その要因の一つが、短期的にウケる政策が支持される民主主義によるものとしています。

また、全体を通して、説得力を持ち公平中立な内容と思わせるのが、各章の内容に合わせて、様々な分野の多くの専門家が、20ものコラムを寄せていること。その内容とは、人口や消費、エネルギーやCO2排出、食料等、多岐の分野で40年後の世界が示されていますが、ほぼ全てその見解は一致していると言っていいでしょう。

そして、唯一とも言える、著者と専門家で相違があるのが、原子力発電。両者の意見は以下の通り。

専門家:2052年時点で原子力発電を継続して稼働しているのは、中国とフランスのみ。その2国とも、2065年までに全廃。

著者:2052年時点で、原子力発電が過去の遺物となっているとは思えない。相変わらず新興国では使われ続けるが、再エネの進展により、原子力発電が占める割合は、現在の1/2程度。

 

●修正資本主義とCSR2.0

本書では、望まない、そして不都合な未来が全編を通して展開されるわけですが、その中でも一筋の光明は、資本主義やCSRの変化。

資本主義や今後40年間、変わらず存続するとは考えていない。名前は残るが、大きな二つの変化があるだろう。ひとつは、投資の流れを決めるのが、利益だけではなくなるということだ。もうひとつは、企業が、財務実績だけでなく、自社の活動の環境や社会への影響を報告しなければならなくなることだ。

また「選択の編集」という考え方が浸透するという見解。

選択の編集とは、環境や社会に損害や負荷を与える製品やサービスを、消費者が選択する機会がにないようにする活動のこと。エコマークと呼ばれる、FSCやMSC、RSPO等の認証マーク付き商品が、今では特別なものとして捉えれがちですが、消費者が選択を委ねるのではなく、企業はその基準に沿った製品を提供するというもの。

 

そして、CSRに関しては、これまでの反省の意を込めて、これまでのCSRをCSR1.0と定義し、以下4つのタイプに分類しています。

・防御的CSR:コンプライアンス主導、リスクベース

・慈善的CSR:利他主義主導、慈善行為ベース

・販売促進CSR:イメージ主導、PRベース

・戦略的CSR:製品主導、規約ベース

 さらに、少し長くなりますが、今風に言えば、パーパス経営を言える、興味深く賛同できた箇所をそのまま紹介しましょう。

CSR1.0の失敗には三つの根本的な原因がある。社会、環境の改善に付加的なアプローチをしてきたこと、大半の企業において重要視されていないこと、顧客と市場が責任ある持続可能な企業行動に十分報いようとせず、また無責任で持続可能性のことを考えない企業を罰しようともしなかったことである。

そういうわけで、必要とされる、そしてちょうど現れようとしているのは、CSRへの新たなアプローチ、私が「組織のCSR」と呼ぶCSR2.0である。これは、目的主導、原則ベースのアプローチで、これによって企業は、ビジネスモデルや製法、製品、サービスを大幅に改革し国内外の進歩的な政策の実現を呼びかけ、現在の持続可能性と無責任の根本的な原因を特定し、それに立ち向かおうとする。(ウェイン・ヴィセル氏:CSRインターナショナル創始者、ケンブリッジ大学非常勤講師)

 

●私たちへの20のアドバイス

では、絶望的な未来に向けて、私たちは個人として今後どうするのか?本書最後に著者からの、自虐的とも言える20のアドバイスが掲載されています。

次世代にどうバトンを渡し、未来を託すのか? 目の前にあるのは、行き場のない閉塞感でした。

1:収入より満足に目を向ける
2:やがて消えていく物に興味を持たない
3:最新の電子エンターテイメントに投資し、それを好きになろう
4:子どもたちに無垢の自然を愛することを教えない
5:生物多様性に興味があるなら、今のうちに行って見ておこう
6:大勢の人に荒らされる前に世界中の魅力あるものを見ておこう
7:気候変動の影響が少ない場所に住みなさい
8:決定を下すことのできる国に引っ越しさい
9:あなたの生活水準を脅かす持続不可能性について知ろう
10:サービス業や介護の仕事が嫌なら、省エネ関連か再生可能エネルギーの分野で働きなさい
11:子どもたちに北京語を習うよう勧めなさい
12:成長は良いことだという考えから脱却する
13:化石を基にした資産は、ある日突然、その価値を失うことを忘れないように
14:社会不安に敏感でないものに投資しよう
15:相応の義務以上のことをしよう。将来後ろめたい思いをしなくてすむように
16:現在の持続不可能性の中にビジネスの可能性を探ろう
17:ビジネスで、高い成長性と利益率を混同しないように
18:選挙で再選を望むなら、短期的に結果が出る公約を掲げよう
19:未来の政治は物理限界に左右されることを覚えておこう
20:政治において、限りある資源の平等な入手は、言論の自由に勝ることを認めよう

 

日本語版の本書は、500ページを超える大著。ダイジェスト版を発売して、そのエッセンスを多くの人に知って欲しい、そう思わせる全人類必読の一冊。おススメです。

2052 今後40年のグローバル予測

2052 今後40年のグローバル予測

 

 

 

 

機会か?淘汰か?「ギグ・エコノミー襲来」ブックレビュー

企業経営者が「どうすれば組織をもっと良くできるか」を追求してきたのだとするなら、私たちは早急に「どうすれ自分たちの仕事をもっと良くできるか」を追求していく必要がある。

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2000年代初頭に日本でも出版された「フリーエージェント社会の到来」が新しい働き方を予見する書であるとすれば、今回紹介する本書は、クラウド・コンピューティングやシェアリング・エコノミーが進展した今、新しい社会における働き方と生き方を提案する解説書であり実践書と言えるものと言えるでしょう。しかし、残念ながら、その内容はモヤモヤ満載の読後感となりました。

 

●ギグ・ワーカー、ギグ・エコノミーとは?

アメリカでは、フリーランサーや個人事業主等の「ギグ・ワーカー」は、すでに4,000万人、自由度や柔軟性を重んじるミレニアル世代がその働き方を志向するケースが急増しているとのこと。

 

「ギグ・ワーカー」がフリーランサーや個人事業主であるとすれば、タイトルにもある「ギグ・エコノミー」とは何か? 本書によれば、

従来の雇用とは異なる一時的な仕事を不定期でする人々が増えるようになったことから生まれる経済的価値

との事。つまり、ギグ・ワーカーを支えるために進化した、企業やビジネス、そして社会の仕組みのことであるとしています。

 

そして、アメリカで、ギグ・ワーカーと呼ばれる層が増えた背景には、技術が急速に進展することでビジネスのサイクルも縮まり、企業や市場が求める人材が不足してきたから。そして、

・社会やビジネスの変化に対して迅速に対応する必要があること

・専門的な人材の確保が求めれること

・社外の第三者の意見が重要になっていること

により、企業がオンデマンド型の人材を求めていることが背景にあるとしています。

 

 

●企業のサプライチェーンから人材のサプライチェーンへ

冒頭で本書は実践書であると述べましたが、それは、ギグ・ワーカーが個人事業主として成立するための心構えや自己のブランディング、報酬の設定やビジネス開拓に関することまでがアドバイスされているから。

また、一般的にハリウッド型と呼ばれるプロジェクト単位でギグ・ワーカーが活躍する場を整備するには、人材のサプライチェーンが重要となり、それを支えるためのソリューションやギグ・ワーカー人材のD/Bやプラットフォームを提供する企業も重要な役割を果たすことが述べられています。

本書の最後に、60社以上の主要や人材紹介会社とプラットフォーム企業が一覧で掲載されていますが、各社がネットワークする人材の規模や事業内容をざっと目を通せたことが、本書の一番の収穫だったかもしれません。

 

●個人的にはオススメしません

個人の専門スキルを磨き、個としての能力をオンデマンド人材として社会に活かすこと、そして、以下の「新しい労働者のパラダイム」の箇所は共感できたものの・・

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オンデマンド・ワーキングと言えば聞こえはいいですが、企業側の視点に立てば、必要な時にだけ必要な人材を確保できるということ。今、日本でも社会課題の一つに挙げられる、非正規雇用や有期雇用の従業員同様、ギグ・ワークスタイル化の促進は、結局、企業にとって都合の良い駒としての労働力確保に拍車が掛かるのでは、また、専門性の高いギグ・ワーカーとして成立する人材がどこまでいるのか? モヤっとした違和感を覚えたというのが率直な感想でした。

 

最終章には、ギグ・エコノミーの未来と称して、成功するギグ・ワーカーの特性として、13項目が挙げられています。しかし、ギグ・ワーカーに限らず、こうした特性を持っていれば、ビジネス・パーソンとしてはもちろん、どんな分野でも成功が約束される、そんな代物でした。

 

今回は消化不良の一冊となりました。残念 (T_T)

ギグ・エコノミー襲来 新しい市場・人材・ビジネスモデル

ギグ・エコノミー襲来 新しい市場・人材・ビジネスモデル

  • 作者: マリオン・マクガバン,斉藤裕一
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方

フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方

 

 

挑まない・比較しない「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」ブックレビュー

他社との比較がマーケティングの出発点であるとしたら、お客様に喜んで頂けるマーケティングなど展開できない。そんなマーケティングはおぞましいとすら思いました。だから自社の歴史、文化、伝統を生かして、ミッション(使命)に忠実に、夢の実現を通してカスタマー(顧客)を魅了し、HDJの生存を維持していくために、原点からマーケティングを考えることが大切だと信じました。

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本書を手に取ったきっかけは、以前にアップした、よなよなエールで有名なヤッホーブルーイング社長の著書ブックレビューでも触れましたが、経営戦略を考える上で徹底的に研究したのが、バイクメーカーのハーレーダビットソンであることを知ったこと。

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ヤッホーブルーイングにとっての巨象が、アサヒやキリン、サントリーであるとすれば、ハレーダビットソンジャパン(以下、HDJ)の巨象は、ホンダやヤマハのこと。

本書は、トヨタ自動車から、1990年、HDJの代表取締役に就任、2008年に退任するまでの19年間、社長を務めた奥井氏によるもの。

奥井氏のHDJの主な実績は、長期低落を続ける日本のバイク市場で、一貫して成長を続けたこと、また、2001年以降、アメリカ製自動車(GM、フォード、クライスラー)と比較しても輸入登録台数でNo.1の座を維持したこと等、華々しい実績を残しています。

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本書より

●凡事の徹底が非凡を生む

本書で繰り返し述べられるキーワードは「凡事」。凡事とは、当たり前、ありきたりなこと。そして、その「凡事を非凡なレベルにまで徹底すること」、そして、その「凡事」で構成されるきめ細かさが大きな格差を生むということ。

  • マーケティングにおける凡事
  • セリングにおける凡事
  • 顧客政策における凡事
  • CSにおける凡事
  • チャネル政策における凡事
  • 社内コミュニケーションにおける凡事
  • ワークスタイルにおける凡事

 が各章で展開されています。

 

●マーケティングにおける凡事とは

日本製のバイクと比べて圧倒的に高価格で、燃費も悪い、重いし扱いにくく、広告や販売促進にかける予算も限られるといった状況の中で、HDJがとった戦略は、実用よりも趣味としての価値を訴求すること。

ハーレーの存在意義を改めてはっきりと認識して、その存在意義をさらに広く、深めていくことが日本でのハーレーのマーケティングを展開する上で大切なこと。この存在価値の確認はHDJにとって極めて重要でした。

存在価値を確認すること、これはサイモン・シネックのゴールデン・サークルの事ですね。

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そして、ヤッホーブルーイングがHDJの研究を通した成果として実践していると思われる、奥井氏が言うところの「ライフスタイル マーケティング」。

乗る楽しみ、知る楽しみ、出会う楽しみ等、10の楽しみをイベント等を通して、モノ軸からコト軸として、感動体験として顧客に提供していくというもの、まさにヤッホーブルーイングの戦略そのものでした。

 

そして、HDJが目指したのは、実用よりも趣味としての価値を徹底的に提供しようというもの。

これは、まさにこちらの「ニュータイプの時代」にも述べられていることにも合致することでした。

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こちらの本では、「役にたつ」と「意味がある」のマトリックスにより、自動車メーカーを分析していましたが、ニュータイプの時代で示される、フェラーリやランボルギーニ、つまり、意味があるカテゴリーキラーがハレーであると言えるでしょう。

 

本書が発行されたのは、今から9年前。ビジネス書としては古いものですが、その内容は、ここ最近ブックレビューでアップした様々なブックレビューのエッセンスが散りばめられていました。過去のレビューコンテンツが思い出される、古くても内容は色褪せない、そんな一冊でした。

 

巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念

巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念

 

 

野心的目標は空絵事か?「精神論抜きの地球温暖化対策」ブックレビュー

日本の環境NGOは、しばしば石炭火力新設プロジェクトに反対する一方で、原子力発電所の再稼働にも反対するが、石炭火力新設のニーズと原子力発電所の再稼働との相関関係の認識を欠いていると云わざるを得ない。環境大臣も環境アセスメントを通じて石炭火力新設プロジェクトに物言いをつけているが、それならば地球温暖化防止責任官庁として原子力発電所の再稼働の必要性をもっと国民に訴えるべきではないか。

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パリ協定で合意された約束を守り、地球温暖化問題を解決するためには?

今回紹介するのは、過去のCOP(気候変動枠組条約締約国会議)に10回以上参加のキャリアを持ち、環境・エネルギー分野のスペシャリストである著者の一冊。

 

●本書の構成

本書全体の構成は、全12章。前半は、2015年のパリ協定(COP21)合意の背景や、合意に至るプロセス、何が決められて、合意事項に対して著者なりの評価が述べられています。

先進国も途上国も全ての国の合意が得られ、日本の長期目標は、2013年比で2030年のCO2削減目標が26%等、こうした概略から、より一層理解を深めたいと思っている人には最適な一冊となるでしょう。

京都議定書の採択から約20年、コペンハーゲンの失敗を踏まえて、パリに引き継がれ成功に導いたフランス政府の意地やソフトパワーがあったこと、また、パリ協定の主な条文の対訳等、COP21を一般のビジネスパーソンにも分かりやすく解説しています。

そして、本書後半はその合意事項を実現するための解決策や求められる長期目標設定の立て方、そして、炭素税への私見が展開されています。

 

●そもそも「精神論」とは?

著者が述べる、地球温暖化問題の解決策紹介の前に、本書タイトルのキーワード「精神論」とは何か?

コトバンクによれば、

①物質的なものよりも精神的なものに重きを置く立場の考えや論。
②俗に、精神を強調しすぎて現実離れする考え方を揶揄(やゆ)していう。精神主義。

また、あるWebでは、

精神論は、これまでの自分の経験や「頑張ればできる」という考え方に固執していることが特徴です。

 との記述もありました。

 

では、著者が考える、温暖化対策を進めるための解決策は何か?

それは、原子力発電の再稼働・継続運転と新設、そしてイノベーション環境の整備。

CO2排出削減のためには、CO2排出量が少ない原子力発電の稼働が必須であること。EU各国の様に、系統が接続されていない日本で、再生可能エネルギーに頼るのは今のインフラや環境では非現実的であり、低コストの電力供給ということでは、火力発電の稼働もやむなしというもの。

今の技術やエネルギー環境に照らし合わせれば、確かにそれも一理あるかも知れませんが・・。

 

●温暖化対策に求められるムーンショットとライフスタイルの変革

解決策の一つとして挙げられる原子力発電の推進も、グローバルの潮流、国内の世論等、再稼働や新設が簡単ではないことを著者自身も理解し、COP21の目標達成のための様々なシナリオを挙げています。

しかし、全体を通して感じたのは、その考え方が積み上げ式であり、野心的、革新的な考え方が欠如していること。

著者に言わせれば、そうした考え方がまさに精神主義で青臭いという事でしょうが、こうした状況だからこそ、ケネディ大統領の様な、アポロ計画の際のムーンショットが求められるのではないでしょうか?

 

以前の記事、シンギュラリティ大学によるMTP(野心的な革新目標)も思い出されます。

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希望の光は、本書後半で挙げられる、次世代の水素発電や太陽光発電技術、CO2の分離・回収や、AI、ビッグデータ、IoTを活用したエネルギーシステムのネットワーク化や電力変換の際のロス削減や新しいセンシングの技術等。

さらに、そうした革新的な技術開発への予算確保や国際連携の必要性に加え、こうした技術の社会への実装と平行し、社会システムやライフスタイルの変革も求められていることに言及しています。

社会システムやライフスタイル分野での定量的・定性的目標

エネルギー政策と併せて、今後、日本がどんな国を目指すのかを考える上で、重要な論点になりそうです。

 

エネルギー政策の考えには賛同できませんが、COP21を知り、地球温暖化対策、エネルギー政策のシナリオの一つを考える上で読み応えのある一冊でした。

精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後

精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後

 

 

 

 

 

ネスレ 受け継がれる創業の精神「すべてはミルクから始まった」ブックレビュー

全社員が何に価値を見出すか、これを支えるものとして考えられるのが、その企業の精神的支柱となる経営理念や創業の精神である。ネスレはロゴマークにもあるように、雛鳥を親鳥が優しく包む愛の精神をもとに、健康事業分野において発展してきた。(中略)2000年代に入ってからは社会的価値と経済的価値を両立させる共有価値、つまりCSV経営を主眼に置いている。

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マイケル・ポーター教授の提唱から遡ること5年前にその経営戦略を標榜した元祖CSV企業で、 世界最大の食品会社ネスレ。前任のピーター・ブラベック氏が掲げた、食品メーカーから「栄養・健康・ウェルネス企業」としての事業の再定義。

今回は、ネスレの企業経営を解説する今月発売の新刊「すべてはミルクから始まった」。

ビジネス書に見かける売らんかな主義とは対極をなす、歴史を丁寧に辿り、事実を誠実に伝える一冊でした。

 

●事業拡大の歴史はM&Aの歴史

全世界で32万人を擁する世界最大の食品会社、世界最大とはいっても、なかなかその全貌がつかみにくいグローバル企業。本書に記される日本の売上上位5社と比較したネスレの売上規模(いずれも2017年時点)は以下の通り。

  • ネスレ:10兆3,270億円
  • 明治:1兆2,408億円
  • サントリー:1兆2,340億円
  • アサヒ:1兆8,574億円
  • キリン:1兆8,637億円
  • JT:1兆1,397億円

国内でもおなじみのネスカフェやキットカット等のブランドはなんと1,000にも上るそう。そして、本書を読んで知ったのは、グローバル企業としての成長は、M&Aの歴史でもあったということでした。

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本書より

創業当時、自社よりも大規模なコンデンスミルクメーカーの買収から始まり、ペリエやキットカット、最近では、ブルーボトルコーヒーもネスレ傘下なんですね。

 

●なぜスイス発のグローバル企業か?

スイスの主なグローバル企業として、本書ではノバルティス、スウォッチ・グループ、チューリッヒ、アデコ等も紹介されていましたが、 なぜ、これほどまでの巨大グローバル企業がスイスから生まれているのか?

筆者の考察として、

・永世中立国であったため国にをまたぐM&Aが比較的やりやすかったこと

・スイスの人口850万人のうち、200万人以上が海外からの移民であること

・スイス人の傭兵が歴史的に周辺の国々を警護していること(フランス革命のルイ16世の時代から、今もバチカンの傭兵もスイス人との事)

等が挙げられています。興味深い見解が展開される詳細は是非、本書をご覧下さい。

 

 ●老舗企業のイノベーションの源泉

老舗企業にも関わらず、イノベーションの源泉となっているのが、ネスレ日本が社内で取り組む、新規アイデア創出を実践する「イノベーションアワード」の取り組み。

以前に、当時のステークホルダーリレーションズ室 冨田室長にインタビューの機会を頂きましたが、驚いたのは社内募集で集まるその件数。2018年当時のインタビューで、昨年は4,800件もの応募があったとのコメントがありました。

本書では、スタート当初からの応募件数がグラフで掲載されていました。

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本書より

そして、本書ではあまり触れられていませんでしたが、テレビCM等でもおなじみのネスカフェ・アンバサダーもイノベーション・アワードの成果との事。今では、20万人ものアンバサダーが存在し売上にも多大な貢献をしている様です。

当時のインタビューは是非、こちらからご覧下さい。

 

blog.members.co.jp

他にも、多様性や透明性を重視する経営、グローバルでネスレ日本の成長は、ジャパン・ミラクルと呼ばれていること、ネスレが2007年に定めた「行動規範」は、「考働規範」と定義していること、そして、もちろん元祖CSV企業として、フィリピンでのコーヒー豆栽培やインドでもミルク事業にも触れられていました。

 

グローバルでミネラル・ウォーター事業の覇権を握るネスレ、将来予測される世界的な水不足をCSVとしてどう解決するのか、期待してます。

 

すべてはミルクから始まった 世界最大の食品・飲料会社「ネスレ」の経営すべてはミルクから始まった 世界最大の食品・飲料会社「ネスレ」の経営