インフレターゲット2%と日銀についての個人的なメモ
前提
が、
- 日銀は国債その他を大量に買い入れており、総資産がGDPの1.3倍程らしい(総資産が700兆円程。GDPが500兆円超)
- 日銀は国債を買うことで、当面は長期金利を低いままに抑え込もうとしているらしい(日銀が保有する国債は総資産700兆円程のうち500兆円程)
一方で
なんでこんなことをしているのか?
- 異次元緩和(マイナス金利とか、国債その他の買い取りとか)で市中をお金でじゃぶじゃぶにすることで消費や投資を促す
- 資金に余裕が出来た企業が設備投資やM&Aなどを行うことで「稼げる企業」が増える
- また起業も盛んになって新たな産業が興り「(新興国との安売り競争に陥りがちな)製造業が中心の産業構造」から脱却する
- で、景気がよくなってインフレ率2%を達成、としたかった
で、どうなった?これからどうなる?
- インフレ率2%を達成しそうな気配は無い。から、日銀は国債その他の買い入れをまだまだやめられない。
- ということで、日銀の資産だけは異常に増えつづけて、これまでの常識で考えたら非常に危うい状態らしい。
- 日銀としては本来であれば総資産が今ほど膨らむ前にインフレ率2%を達成して、その後、粛々と国債などを売って総資産を縮小させたかった、はず。
- が、総資産がここまで膨らんでしまうと、仮にインフレ率2%を達成したとしても、日銀の財務状況が著しく悪化。
- じゃなくても、何か「長期金利が急上昇するような不測の事態」が発生したら、とたんに危ない状況になる。
- または、海外から「日本もうダメだぞ」と判断されて急激な円安になるだけで危うくなる(物価上昇→金利上昇)。
- 今はまだ海外から「日本はまだまだやれることがあるはずだよね」って思われているからなんとか保ってる状況、かな。
- それと。MMTとか新しい概念もあるらしいけど、何にしても「日本はまだ大丈夫だよね」っていう信用が無くなったら終わってしまう、ということに変わりは無いんじゃないかな。
- 「国債なんて借換すれば良いんだから破綻なんかしないだろ」っていう楽観論も「国際社会がそう思ってくれれば良いですけどね」くらいの希望的観測でしかなさそう。
- 結局、国際社会の認識が「日本はまだ大丈夫だろ」から「日本、危ないね」に変わったら終わるんじゃないかな。
じゃあ何をすれば良いの?
- 異次元緩和だけでは経済が回復しなかったし、産業構造の変化も起こらなかったんだから、何か別の政策が必要なんじゃないの。
- そもそも「金融政策」って、「すでに発生している経済の動き・流れ」を加速or減速させるアクセルやブレーキの役目は果たすんだろうけど、金融政策だけで「新たな経済の動き・流れ」を作ることはできないんじゃないの。
- 日本企業だって、今後、日本がどうなるのか分からないような状況でリスクなんか取りたくないんだから、市中にお金がじゃぶじゃぶでも新たな事業に進出したり、海外の企業を買収したりせずに、内部留保を増やすだけだよね。
- であれば今度は政府が何かをやる番。「企業が積極的にリスクを取りたがるような政策」「産業構造を変えるような政策」を実行しないといけないですね。
- それって「内部留保に税金をかける」なんてセコいことじゃなく、例えば「今後の日本の主力産業は◯◯と△△と□□」って宣言して、それ関係の企業を積極的に支援・優遇する、といったことじゃないと効果が無いんじゃないかなぁ。
- その上で、起業しやすい環境も整備して産業構造の変革を進める、とか出来ることは色々あると思うけど。女性とか有効活用できていないリソースも沢山あるしね。
ただ、
- なんとなくだけど、もたもたしてる間に何かしらの「不測の事態」が発生して金利が急上昇して、経済が回復する前に破綻してしまうような気もする。
「停滞している経済活動を、金融政策だけで動かすのは不可能」ってことはこの9年ほどで証明された気がする。
おわり
大概の問題は移民受け入れで解決する
って記事がSNS上でかなりの非難を浴びているようで。
- 何が言いたいのか分からない
っていう、記事自体に対する批判もあるものの大概は
- 残飯処理、時給1,500円、8時間労働できっちり1時間休憩って高待遇だぞなに文句言ってんだ俺なんか・私なんか老人の下の世話とかもっと悲惨な仕事で、もっと時給は安い
といった「ワガママ言うな」的な内容だった。
ただ。欧米先進国であればそういった仕事は移民がするんだよね。
日本が抱える大概の問題は移民受け入れで解決する
いまの世界は知識労働者が富のほとんどを得る状態になっているので「知的水準の高い人は知識労働をする」「そうじゃない人は頭を使わない単純労働、肉体労働をするしかない」わけで、大学まで出ている人(上記記事の女性も大卒)が残飯処理やトイレ掃除、老人の下の世話なんかしないといけない日本がどうかしている、って考えるべき。
で、これに限らず日本が抱える問題の多くは移民受け入れで解決すると思ってる。
移民を受け入れて単純労働、肉体労働は移民の皆さんにしてもらえば、日本人は知識労働に専念できるんだし、移民が増えることで「人口増」「空き家も埋まる」「不動産価格も上がる」「税収も増える」。メリットが沢山です。
治安が悪化する?
デメリットがそれくらいならメリットの方がはるかに大きいと思いますけどねぇ。
私が特に不思議なのは、すでに家やマンションを買ってしまってるサラリーマン世帯が移民に反対してることです。今のままだと20年後30年後にはほとんど無価値になるその不動産。移民を受け入れることで価値が維持できる・もしかしたら上がるかもしれないんですよ。
バブル以降の日本は「あれは嫌だけど これも嫌」って決断を先延ばししてズルズル沈みつづけて「失われた30年」になってしまったけれども、移民問題もその一つですよね。
日本人って「辺り一面焼け野原」みたいな状況にならないと思いきった決断をしない民族だけど、そろそろ何かやらないとマズいんじゃないかなぁ。。
おわり。
失われた30年
失われた30年
=経済成長後に必ずやってくる停滞期間
=次の飛躍のための準備期間
で、うまく行けばもうすぐ日本は復活するかな、という話です。
----------
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで印象的なシーンの一つは、1955年のドクが「壊れるはずだよ日本製だ」って言ったのに対して1985年のマーティが「何言ってるの?良いものは何でも日本製なんだよ」って返すとこね。
1955年頃のメイド・イン・ジャパンは「粗悪品」の代名詞だったけど、1985年には「高品質・高性能」を意味した、と。
そういえば1985年のマーティが欲しがっているクルマはトヨタ・ハイラックスだった。「あれこそクールだ。最高だ」って。その頃、私はまだ子供だったのでメイド・イン・ジャパンが世界中からクールだと思われているなんてほとんど意識してなかったけど。
その後、バブルとその崩壊があって1990年あたりから日本はずーっと経済が不調で「失われた○○年」が10年から20年になり30年になってもまだまだ回復の兆しも見えない。
一体、何がどうなっているのか色々な人がそれぞれの切り口で説明してるけど実はさっぱり分からない。
「失われた○○年」の途中から社会に出て藻掻きつづける世代の一人として、ここで一旦整理しておかないと気分的に収まりが付かないのでちょっと考察。
■まずは
「失われた30年」の前に
・1955〜1985の「飛躍の30年」
があるわけです。で、
・1986〜1990の「バブル」
があり、
・1991〜現在が「失われた30年」
と。
「失われた30年」を検証する前に、まずは「その前はどんなだったのか?」を見てみる必要があるんじゃないかな。
■飛躍前夜:1945〜1955年
「米国は、第二次世界大戦が終わった段階で人口は世界の6%にすぎなかったが、総生産では約半分を占めるほどの超経済大国になっていた」(猪木武徳「戦後世界経済史」)
「伊勢丹裏の焼野原を、アメリカ兵が大きな車両機械で整地していた。ブルドーザーというものだそうだ。巨大な機械が二台、それに一人ずつ乗って、チューインガムをかみかみ、または煙草を横ぐわえして、ハンドルを握っている。車の通ったあとは黒土が平坦にならされてゆく。チンチクリンの日本人たちが雲集して、口をあけて見物していた」(山田風太郎「戦中派不戦日記」1945年10月28日)
復興のためには製造業の品質向上・生産性向上だ、とうこいうことで、日本科学技術連盟という組織が米国の統計学者ウイリアム・エドワード・デミングさんを招待して1950年6〜8月に「統計的プロセス制御と品質の概念」を講義してもらいます。聴講者は技術者、経営者、学者などなど数百人。これをきっかけに品質管理をベースとしたコスト削減と生産性向上の概念が日本人に浸透します。
デミングさんの教え
詳しくは「デミング 14のポイント 7つの死活問題」か何かで検索すれば色々出てくるけど、簡単にまとめると以下。
1.アメリカ型大量生産方式の「設計→製造→販売」という一方向のフローに「市場調査」を加え、その結果をフィードバックして循環的なサイクルにすることでユーザの要求を商品に反映し続ける。
2.統計的な品質管理。製品一つ一つを綿密に検査するのではなく「ロット」などまとまりで管理し「抜き取り検査法」などでロット内の品質のばらつきを許容範囲内におさめる統計的手法の導入。
3.品質向上・効率化は、(小手先の技術改良などではなく)組織全体に根付く仕組みとして造り込むことで実現する。「リーダーは製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る」「マネジメントは全体を継続的に向上させる」「職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する」「問題を見逃さない」「社員全員が会社のために効率的に作業できるよう不安を取り除く」「部門間の障壁を取り除く」「強健な教育プログラムを実施する」などなどの施策により組織の上から下まで全員参加で効率化・品質向上に努める。
付加情報・時代背景など
- そもそもデミングさんの教えは、米国では主流でもなんでもなかったんだそうだ。その頃、米国は「資本力をベースにした力任せの大量生産」で成功していたわけで、デミングさん的な手法は馴染まなかったんだろね。
- 逆に言うと、組織の上から下まで一人ひとりが当事者意識をもって全員参加で細かい改善を積み上げていくようなやり方が日本人に馴染んだんだと思う。
- それと、敗戦から這い上がるしかなかった日本ではデミングさん的な手法を軍隊式規律で浸透させることで、より早く機能させることが出来た、というのもあったでしょう。
- さらに、1950年に始まった「朝鮮戦争」による特需で日本全体に経済的な余裕もできはじめて設備投資などが可能になったという好条件も重なったんでしょね。
■飛躍の30年:1955〜1985年
「1964年頃、アメリカは日本製のトランジスタラジオで溢れてたんだ。もちろん俺も持ってたよ。学校に隠し持って行ったら女性の数学教師に見つかってね。その先生 ”それ日本製ね” って言うなり俺からそのラジオを取り上げて床に叩きつけて壊したよ」(米国の司会者 Jay Leno の回想)
デミングさんの教えの効果もあって製造業に品質管理の意識が浸透し、高品質・高性能な工業製品を安価に製造できるようになった日本企業は積極的に海外進出します。
ソニー
トランジスタ開発の成功に始まるソニーの躍進はこの時代の日本企業を象徴しています。
- 1953年、ウエスタン・エレクトリック(WE)社とトランジスタのライセンス契約を締結。通産省は「トランジスタの開発は無理」と外貨の割当を拒否(WE社はソニーの技術力を信頼して支払い猶予期間を設けてくれた)。WE社からは「ラジオは止めておけ」と勧告を受けたがラジオ用トランジスタの開発を開始。
- 1955年、日本初のトランジスタ携帯ラジオを発売(TR-55)。当初、トラジスタは個体ごとに特性・品質のばらつきが大きく量産は不可能でほぼ手作り状態だったが、江崎玲於奈など優秀な研究者の試行錯誤で改良が進み、歩留まり90%を達成して量産化が可能に。
- 1957年、トランジスタラジオ「TR-63」をポータブルより小さいポケッタブルラジオとして米国で販売開始。輸出が間に合わない程の人気に。
- 1960年、ソニーアメリカ設立。
- 1962年、ニューヨーク五番街にショールーム開設。5インチ型マイクロテレビ「TV5-303」が大ヒット。
- 1970年、NY証券取引所に上場。
- 1979年、携帯型カセットテーププレイヤー「ウォークマン」発売。
- 1982年、フィリップス社と共同でCDを開発。
鉄鋼
それとこの時代の日米経済競争で何があったのか、分かりやすい例が鉄鋼業界。
- 鉄鋼業界では1950年代に「酸素上吹転炉法」「連続鋳造法」の開発という技術革新があった。
- が、米国の製鉄会社は旧来方法にこだわり続け、1960年代までこれらの新技術を導入しなかった。というのも、すでに平炉に高額な設備投資をしていたために躊躇したのと、資金調達がうまくいかなかったため。
- 日本は1956年頃から平炉を廃棄し連続処理が可能な転炉の建設を始めた。これにより日本は低価格で良質な鉄鋼の輸出が可能になった。
- 一方、米国の製鉄会社は、自分たちが技術的劣位にあることに気づかず、日本の粗鋼が低賃金労働、ダンピング、不公正貿易慣行で市場を脅かしていると主張。政府に保護政策を求め、そのロビー活動に執心して経営がおろそかに。
- 結局、米国では多くの製鉄工場が閉鎖されることに(1980年代に60万人ほどいた鉄鋼関係労働者は1990年代には28万人、2010年代には14万人以下まで減少:いわゆる「ラストベルト:赤錆地帯」)。
ホンダ(二輪車)
1959年にアメリカ・ホンダ・モーターをロサンゼルスに設立。大型バイクが好まれる米国では苦戦したものの、意外にもそこそこ売れたのがラインナップの中で一番小さいスーパーカブ。キャンプなどの際にピックアップトラックに積んで目的地で足代わりに使ったり、学生が大学キャンパス内の移動に使ったりと「ホビー」や「短距離移動」で使われていることがわかり、販路をスポーツショップや釣具店にまで拡げて大成功。それまで米国には無かった「ホビー用・短距離移動用小型バイクの市場開拓」というブルーオーシャン戦略の成功事例としてビジネススクールで取り上げられるほどに。<YOU MEET THE NICEST PEOPLE ON A HONDA>のコピーが有名。なにしろあのビーチボーイズのブライアン・ウイルソンが「Little Honda」って曲まで書いたくらいですからね。
クルマ
自動車関係だと、この期間に日本で以下の技術開発や製造工程の改善などが行われています。
- プレス工程の自動化
- 材料の在庫管理方法の改善と生産ラインの組み換え
- 排ガス規制・騒音問題への対応
- NC工作機械、自動検査機の導入
- 溶接、鋳造、鍛造、塗装工程のロボット化
これらにより、故障が少なく燃費が良くて、環境基準を満たしたクルマを安価に製造することが可能になりました。
ちなみに米国における自動車の輸出・輸入の金額変化は以下です。
・1960年代:輸出が12億ドル。輸入が 6億ドル
・1970年代:輸出が36億ドル。輸入が60億ドル(多くは日本車)
米国では、インフレの進行(1965年〜1982年)、マスキー法の制定(1970年)、オイルショック(1973年、1979年)などの影響で安価で小型で燃費の良いクルマが好まれ始めた、といった追い風もあったようです。
まとめ・付加情報・時代背景など
- 日本企業は、統計的品質管理手法や新技術の導入で高性能、高品質、安価な製品が製造可能になり積極的に海外に進出。
- 米国は1965年あたりからインフレで苦しみだし(ジョンソン大統領のヘッドスタート計画とベトナム戦争が直接の原因らしいですが)実質賃金の減少で「安い輸入品」が好まれはじめたという幸運もあった。
- ニクソンショック、ドルの変動相場制移行、プラザ合意による円高や、オイルショックなどの苦境も国が一丸となって耐え、被害最小限で乗り切ることができた(いわゆる「日本株式会社」とか「持ち合い」とか「系列」とか)。
- なにより、敗戦から這い上がるしかないので、経営者が積極的にリスクを取った。
- さらに、この期間の日本はいわゆる人口ボーナス期なので内需も旺盛で「作れば売れる」状態だった。
■バブル:1986〜1990年
「DEAL IS EXPECTED FOR SONY TO BUY COLUMBIA PICTURES:ソニー、コロンビア・ピクチャーズを買収」(1989年9月26日 ニューヨーク・タイムズ)
「Japanese Buy New York Cachet With Deal for Rockefeller Center:日本人 ニューヨークの象徴 ロックフェラーセンターを買収」(1989年10月31日 ニューヨーク・タイムズ)
普通に理性のある日本人ならバブル時代のことは思い出したくもないもんですが、以下、簡単に。
- 日米間の貿易摩擦が問題になり、1985年のプラザ合意で円高に誘導(1年で1ドル240円→150円。輸出に頼る中小製造業者に倒産が相次ぐ)。
- 中曽根内閣が貿易摩擦解消のため国内需要の拡大を国際公約。公定歩合の引き下げその他の金融緩和を実施したことで土地や株式への投機が発生。国際公約なので簡単に取り下げられないはずとの思惑もあって株価や不動産価格が急騰。
- 1990年1月、株価の下落がはじまる。
- 1990年3月、大蔵省が不動産への投機熱を下げるために「不動産融資総量規制」(「不動産向け融資の伸び率」を「総貸出の伸び率」以下に抑えること)を全国の金融機関に通達。
- その他、公定歩合の引き上げ、地価税の導入、固定資産税の課税強化などの急激な金融引き締め策によりバブル崩壊。
バブルの最大の教訓は
- 日本人も持ちなれない大金を持つとロクなことに使わない
ということでしょう。世界中に恥をさらしていいクスリになったんじゃないでしょうか。
■失われた30年:1991〜
「私は勧めないな。だってこんなクルマじゃパーティーに行けないだろ、恥ずかしくて」(Jeremy Clarkson「トップ・ギア」にて日本のある高級スポーツカーについて)
液晶のシャープ
シャープの液晶テレビでの失敗が色々なことを象徴していると思うんです。
- 2000年代に亀山工場を建設。「亀山ブランド」の液晶テレビが国内で人気に。
- 2008年頃からリーマンショックの影響もあり需要が減少
- 2009年、大阪府堺市に大型液晶パネル用の工場が完成。が、同工場で製造する60インチの液晶テレビは売れず財務状況が悪化。
- 2012年、台湾の鴻海精密工業と資本業務提携。
- その後、同社の液晶事業はスマートフォンやタブレット向けにシフトするが先行他社に比べ技術的劣位にある上に財務状況の悪化もあり十分な設備投資もできず。
- 2016年、シャープは鴻海の子会社へ。
まったくマーケットが読めてないので、いままでの成功体験に縋るしかなく「高性能・高品質な製品は売れてほしい」という希望的観測だけで進めてしまった、ということでしょうかね、冷たい言い方になるけど。
2000年代後半に東南アジアのある国で、家電量販店の液晶テレビ売り場を覗いたことがありますが、日本製だけが際立って画質が良かったけど価格も飛び抜けて高かった。で、店員に聞いてみたら売れるのは「画質はそこそこ・価格もそこそこの韓国製中型サイズ」ってことでしたよ。日本人にとってテレビはリビングの主役だから高画質が好まれるけど(にしても当時60インチがバンバン売れるとは思えなかった)、海外では画質なんてそこそこで良かったんですよ。
というように、なにかにつけて「品質が良いのは分かるけど/機能が多いのは分かるけど、これじゃないんだよね」ってものが多かったように思う、あの頃の日本製品は。
ソニー
いつの間にか「ゲーム」「金融」「エンタメ」「エレクトロニクス」などの複合企業になっていました。
鉄鋼
好調だった日本の製鉄業も「中国の粗鋼増産による価格低下」「鉄鉱石、石炭価格の高騰」「電炉(原料=スクラップ鉄)の比率が他国に比べて低い30%以下」ということで競争力が低下。業界再編が進んでいるとのこと。
クルマ
自動車の製造過程で排出するカーボンに課税されることになると、日本の自動車メーカーは厳しい状況になるようですね。というのも、原発再稼働が難しい日本では電気自動車用のバッテリー製造に使用する電力を化石燃料由来のものに頼らざるを得ず、電気自動車を安価に製造するのは難しくなるので。ちなみにVWグループはバッテリーを電力の非化石化率が高いスウェーデンで製造するらしいし、ロビー活動(内燃機関の廃止とEV化推進)も活発に行っているようです。
IT関係
AppleのiPhoneは禅の思想を取り入れたデザインだそうですが、日本では2000年代までケータイ電話のデザインなどの主導権を通信事業者が握っていたのもあって、ああいったデザインは逆立ちしても出て来ませんでした。
また、SNSやクラウドに関しても日本から世界的なサービスがほとんど出てこないのはご存知の通り。「出来は中途半端でも良いからとにかく早くリリースして、できるだけ多くのユーザをできるだけ早く獲得し、走りながら機能追加・修正をしていく」なんてやり方は日本の大企業にできるわけがない。
日本はすっかり取り残されてしまいました。
■考察
景気は拡大期と後退期を繰り返す循環的なもので、細かく見ると神武景気(’54〜’57)、なべ底不況(’57〜’58)、岩戸景気(’58〜’61)などなど短い周期で好・不況を繰り返しているようですが、基本的に日本は1945年〜1955年までは不景気(実際は「朝鮮特需」で50年代前半にはかなり景気がよくなっていたらしいですが)、1955年〜1985年は好景気、バブルを挟んで、1990年〜現在までが不景気、と考えて良いのではないかな。
それと、米国と日本の関係を見ると「米国が好景気なら日本は不景気、日本が好景気なら米国は不景気」に見える。今後はここに中国なども加わるのでもっと複雑なことになりそうですが。
で、「失われた30年」も基本は循環的なものでしょう。
- 1955〜1990:日本企業は経営者が積極的にリスクを取り新製品の開発に注力した。製造業では新技術の導入、品質管理の徹底、工程の効率化・自動化・ロボットの導入などで高品質・高性能かつ安価な製品を次々に生み出し、米国から製造業の主権を奪い取った
- 1990〜:日本企業は円高や人件費高騰のため工場を東南アジア、東アジア、東欧など人件費の安い国に移した(製造工程の規格化、自動化、ロボット化により可能になった)。さらに、それら新興国の企業が独自に製造業に参入してきた。米国は70年代80年代に起業した若い企業(Microsoft、Appleなど)が新たな市場を開拓。90年代00年代には特にIT関係で起業が相次ぎ世界的な大企業に成長するケースが続出。一方で日本からはIT関係で世界的な製品・サービスがなかなか出てこない。
ただ、
- 日本はいわゆる「人口ボーナス期」が終わり、人口そのものも減少しはじめ、内需が縮小し続けている
- なので製造業以外であってもマーケットを海外に拡げずに国内だけで商売をしている企業は、小さくなっていくパイの奪い合いで疲弊。
といった特殊事情があるのは確かだけども、それなら積極的に海外に進出すれば良いだけです。
ではこの「失われた○○年」はいつまで続くのか。以下は産業の主役の変遷図。
- 一つの産業が衰退しはじめてから完全に終わるまでは大体30年程度かかるとすると(世代交代が終了するまで大体30年)、日本でも、「特に高い知識やスキルが求められない製造業」はそろそろ終了し、代わりに何か別の領域(おそらく知識集約型産業)で新たなイノベーションが起こって日本経済は見事に復活する、というのが最も楽観的な考え方。
- 一方で、日本では(70年代に米国でMicrosoftやAppleが、90年代にAmazonやSalesforceが出てきたような)イノベーションの芽が育っているようには見えないし、育つような環境すら無さそうだし、さらに人口減少で内需も減ってるし、移民を受け入れることもなさそうなので、「売れない→投資できない→イノベーション起こらない」という負のスパイラルに入ってこのまま復活することなく国全体が衰退していく、というのが最も悲観的な見通し。
以上、整理すると
- 1955年〜1985年の飛躍の30年は日本にとって、先進国になるための「キャッチアップの時代」だった。
- 「キャッチアップの時代」は国民が一丸になりやすいし人件費も通貨も安いので、(ある程度、個人の自由度を制限して)軍隊式規律で鍛えて海外に進出すれば上手くいく。
- ところが、一旦、キャッチアップを成し遂げてみるとこれまでの成功体験がことごとく機能しなくなり失敗事例が多発する。
- こうなる前に、これまでとは異なる領域から新たな企業が続々と出てくれば良いけど、硬直化した日本社会ではなかなかそうはならない。
- しばらく停滞している間に世代交代が進み「過去の成功体験が忘れられない世代」や「その後に発生した数々の失敗の責任を取りたくない世代」がいなくなって、ようやく新たな挑戦が可能になり、上手く行ったら、また飛躍の時代がやってくる。
ということで、
失われた30年
=キャッチアップ後の停滞期間
=次の飛躍の準備期間
と考えれば良いんじゃないでしょうか。
で、「失われた○○年」は、ボーッとしてると「過去の成功体験が忘れられない世代」と「その後に発生した数々の失敗の責任を取りたくない世代」が引退するまで続く、ということでしょう。このままだと、おそらく今の40代が役職定年になるまで、つまり、あと10年ちょっとは続くでしょうね。
「失われた○○年」の間に社会に出た我々は、ネガティブな表現だと「敗戦処理世代」、ポジティブにとらえても「次の飛躍のための地ならし世代」ということでしょう。
ただ、日本がこのままさらに10年以上沈みつづけたら、飛躍も浮上も不可能な取り返しのつかない状態になっているかもしれませんが。
■ではどうすれば良いの
さっきの「産業の主役の変遷図」の文言を修正。
衣食住が満たされ社会も安定している先進国では教育水準も向上し、産業構造の主体が肉体労働や単純労働から知識労働へと移行していきます。個人個人の考え方も多様化するため軍隊式規律でまとめることも困難になります。
また、先進国は社会保証制度やインフラの維持などにお金がかかる状態になってしまっているため立ち止まることも後戻りも許されず、常にイノベーションを起こして「稼げる企業」が次々に生まれる仕組みを整備しなければいけません。
ということで、日本が次に飛躍を目指すべき領域は「知識集約型産業」。
具体的には何なのか、ITなのか宇宙開発なのか、医療なのか金融なのか、それとも他の何かなのか、とにかく日本人の強みや特性に馴染みやすく、これからの時代を先取りした領域を選ぶべきですが、それが何なのか?はっきりしないし何の兆しも見えないのが閉塞感の原因かな。
何をするにしても基本は「製品・サービスのアイディアを考えるのが日本人(知識労働)・製造や開発は人件費の安い海外(単純労働)」としたほうがよい。どうしても国内で製造業をやりたいなら、マーケット分析をしっかり行った上で、日本でしか製造できない付加価値の高いもの(高度な知識やスキルやセンスが求められるもの。ターゲットは富裕層とか)に絞るべき。
間違っても「単純労働をベースとした製造業の国内回帰」といった後戻りはしちゃいけない。結局、新興国との安売り競争になって賃金は新興国並みに下げるしか無くなるから。いや、賃金も社会保証制度もインフラも、なにもかも60年代の水準に戻して三丁目の夕日を楽しみたいなら別ですけど。
やるべきことは割とはっきりしている
「社会全体の新陳代謝のスピードを上げる」こと「若者の自由な発想を邪魔しない」こと。たとえば以下。
- 企業はもっとリスクを取る。
- 企業は積極的に海外に進出する。
- 企業は組織の原則(命令一元化、権限責任の一致、統制範囲、専門性)を守り、しくじった人には速やかに退場してもらい、若者にチャンスを提供する。
- 若者はパワハラなど理不尽なことがあったらさっさと転職する。パワハラしないといけないような会社はもう終わってるんです。
- 若者は「あ、これ敗戦処理の仕事だな」と気付いたらさっさと転職する。
- 若者は「この仕事から学ぶことは何もないな」と気付いたらさっさと転職する。
- 若者は「自分の能力に見合った報酬じゃないな」と気付いたらさっさと転職する。
- 若者は「社内政治に巻き込まれかけてるな」と気付いたらさっさと転職する。
- 若者が起業しやすい環境を作る。
- 若者ももっと海外に目を向ける。
若者には「知識労働」に専念してもらって、おじさん連中は敗戦処理や事務仕事をやれば良いんです。たまたま停滞期に社会に出てしまったのは残念だけど、これも運命と思って次の世代が働きやすい環境を整備することに専念して、これまでの社会経験で得た知識・スキルは全て若者たちのために使えば良い。
「では、どういった領域に日本復活のチャンスがあるのか?」についてはまた別の機会にでも考察してみたいと思います。
自分たちが気付いていないだけで「クールだ。最高だ」ってものが既にあるんですよおそらく。
おわり。
FIRE:1億円貯めたら嫌な仕事はしなくても良くなるのか?
FIRE(Financial Independence, Retire Early)って言葉を初めて聞いたのは2015年前後だったかな。「ミニマムな生活をして、30代前半までに100万ドル(1億円ほど)貯めたら、以降は運用益だけで生活可能なので、もう一生、嫌な仕事をしなくて済む」って聞いて、直感的に
・そんなこと可能なのかな?
って思った。ということで在宅勤務で時間があるので
・30代前半までに1億円を貯めることは可能か?
・1億円貯めたらその運用益で生活することは可能か?
を調べてみました。
■30代前半までに1億円を貯めることは可能か?
可能だった。条件はあるけど。
- 大学卒業したら、即、結婚して共働き
- 夫婦とも給料は手取り400万円でスタートし、毎年、25万円ずつ増える想定
- 生活費は年300万円
だと、以下の通り、35歳で1億円貯まります。
表1:生活費以外は全額貯蓄(金額の単位は万円)
年齢 |
夫手取 |
妻手取り |
貯蓄額 |
23 |
400 |
400 |
500 |
24 |
425 |
425 |
1,050 |
25 |
450 |
450 |
1,650 |
26 |
475 |
475 |
2,300 |
27 |
500 |
500 |
3,000 |
28 |
525 |
525 |
3,750 |
29 |
550 |
550 |
4,550 |
30 |
575 |
575 |
5,400 |
31 |
600 |
600 |
6,300 |
32 |
625 |
625 |
7,250 |
33 |
650 |
650 |
8,250 |
34 |
675 |
675 |
9,300 |
35 |
700 |
700 |
10,400 |
また、
4. 年利7%で運用
という条件を付けると表2のようになります。
表2:年利7%で運用(金額の単位は万円)
年齢 |
夫手取 |
妻手取 |
金融資産 |
23 |
400 |
400 |
500.00 |
24 |
425 |
425 |
1,085.00 |
25 |
450 |
450 |
1,760.95 |
26 |
475 |
475 |
2,534.22 |
27 |
500 |
500 |
3,411.61 |
28 |
525 |
525 |
4,400.42 |
29 |
550 |
550 |
5,508.45 |
30 |
575 |
575 |
6,744.05 |
31 |
600 |
600 |
8,116.13 |
32 |
625 |
625 |
9,634.26 |
33 |
650 |
650 |
11,308.66 |
33歳で1億円達成。
年300万円で夫婦二人が生活できるのか、っていうと。
- 家賃7万円/月だとすると年84万で残りが216万円
- 旅行などが年30万円とすると残りが186万円
- 月々の食費・水道光熱費・通信費その他が、186万円/12ヶ月=15.5万円/月
まぁ、贅沢しなければ不可能ではなさそうですね。
ちなみに、ネットの記事などで「収入の2割は貯蓄しましょう」といった意見をよく見ますが。
上記1、2の条件(1.大学を出たら、即、結婚。2.夫婦とも手取り400万円からスタートし毎年25万円増える)で収入の2割を貯蓄した場合、貯蓄額が1億円になるのは54歳です。ただし「手取りが毎年25万円増える」という条件があるため、54歳だと夫も妻も手取りが1,175万円となり、ちょっと現実的とは言えないですかね。「4.年利7%で運用」を加えると43歳で達成可能です。
■1億円貯めたらその運用益で生活することは可能か?
4%ルールっていうのがあって「1億円貯めたら、それを運用して毎年4%を引き出して生活する」ってことなんですが、この考え方の元になった論文
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable : AAII Journal—February 1998, Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz
では、1926〜1995年の期間で、株(S&P500)と債権(長期優良社債)を様々な比率で運用した場合、毎年、何%を引き出すことができるのか?を検証しています。
結果は「株の比率が50%以上(=債権の比率が50%以下)であれば、毎年4%を引き出しても95%以上の確率で30年間は生活可能」でした(1926〜1955の30年間、1927〜1956の30年間、1928〜1958の30年間、、、って1年ずつずらして検証したら95%以上で「資金が枯渇することが無かった」ということ)。
S&P500など株価に連動するインデックスファンドに50%以上・残りを優良な社債 or 国債で運用すれば、30年間は毎年4%を引出しても95%の確率で生き残れる、ってことですね。
* ちなみに、上記論文の検証によると、引出し比率を4%以上にした場合、30年未満で破綻する可能性が急激に上がります。また、債権の比率を50%以上に上げる(=株の比率を50%以下に下げる)と30年未満で破綻する可能性が緩やかに上昇します。
ということで、1億円貯めるまでにすでにミニマムな生活は身についてるでしょうから4%で生活するのは不可能ではなさそうですね。
ただし、上記論文は「60歳あたりでリタイアした後の残りの人生を、経済的に破綻することなく過ごすにはどうしたら良いのか?」という視点で検証されているので、「30代前半でリタイアし、50〜60年生活することは可能か?」ということは誰も分からない、というのが実態です。
■何がしたいんだっけ?
30代前半に1億円貯めたとして、残りの人生を夫婦二人で400万円/年で生活をするっていうのはちょっと侘しい気もしますね。「子供が生まれたらどうするの?」とか「不測の事態(災害や、かつて無い規模の経済危機や、病気・事故など)が発生して、その戦略が継続不可能になったらどうするの?」とかも気になるし。
FIREのそもそもは「100万ドル(1億円)貯めたら嫌な仕事はしなくても良くなる」ってことだったので、本来、達成したいのは「嫌な仕事をしない。死ぬまで経済破綻しない」ということでしょう。
1億円貯めたらいきなりピタッと全ての仕事を辞めて運用益だけで生活する、というのもどうなんだろ、って気もするし、もっと現実的な生き方がありそうです。それはまた別の機会にでも考えてみようと思います。
おわり。
UR都市再生機構の賃貸物件と在宅勤務
勤務先が突然、「10月から在宅勤務は月○日まで」とか言い出した(○の部分は、一応、二桁です)。
在宅勤務がメインになるなら地方移住しようと思ってたけど、なんだか雲行きがあやしくなってきたので、当面はいまの賃貸物件に住み続けることにしました。
■いまの賃貸物件とは?
UR都市再生機構の賃貸集合住宅です。昔でいうところの「公団の団地」です。
立地の特徴は「最寄り駅まで徒歩10分程度」「最寄り駅から都心までの乗車時間は30分程度」「古くからの団地なので目の前に始発のバス停があり、乗車時間30分程度で都内のJRのターミナル駅まで行ける」です。
その他、物件の特徴は「築10年ちょっと」「床暖房付き」「風呂は追焚き機能付き」です。
■UR賃貸物件の良い点
一般に言われているのが
①保証人不要
②更新料不要
③礼金なし・敷金は家賃の2ヶ月分程度
④退去時に敷金のほぼ全額が返却される
⑤入居審査の基準が明確
⑥敷地が広く緑が多い
⑦子育て割、U35割などの割引制度がある
といったところでしょうか。
①保証人不要
は老人やボッチに優しい制度。
②更新料不要
③礼金なし・敷金は家賃の2ヶ月分程度
④退去時に敷金のほぼ全額が返却される
は懐に優しい制度。
⑤入居審査の基準が明確
は「年収が規定額以上」または「口座残高が家賃の100ヶ月分以上」または「家賃の先払い可能(1年以上10年以内で1年単位で選択可能)」であれば入居可能です。 普通の企業・組織に勤務してるなら基準はパスするでしょう。また、退職後もまとまったお金さえあれば入居可能なので「老人になったら賃貸物件は借りられない」なんて心配も無用。
個人的に気に入っているのは
⑥敷地が広く緑が多い
今、住んでる団地は昭和30年代に造成されたもので、21世紀に入ってから、それまでは低層の建物(3階建て程度)がズラーッと並んでいたのを中層(6〜12階建て)の建物数棟に建て替えて敷地に余裕ができたので建物間の幅が広く、駐車場を作ってもまだ余ったようで、芝生や樹木を植えた広場や子供用の遊具場・運動場などがあります。民間のマンションではちょっとありえないような贅沢な環境です。
⑦子育て割、U35割などの割引制度がある
「子育て世帯」や「35歳以下」を対象にした家賃割引対象の物件もあります。
■UR賃貸物件のちょっとどうなんだろ?と思う点
①設備のグレード
②家賃は決して安くはない
③自治会活動
①設備のグレード
は、たとえば私の住む団地だと「建物のエントランスに認証装置が無いので誰でも自由に入ってこられる」「玄関のドアはオートロックじゃない」「トイレにウォシュレットがついていない」「風呂はありふれたユニットバス」「キッチン台はステンレス製」「ガスコンロは別(自前で購入する必要あり)」「クローゼットの扉は薄い金属製の板なので開け閉てで”ガラガラ”と音が出る」などかな。
②家賃は決して安くはない
こんな感じで見方によっては民間の賃貸物件より劣る設備でありながら家賃は相場並です。
③自治会活動
私の住む団地には自治会があって、その活動や行事(夏祭りや運動会)が、正直、ちょっと煩わしい。自治委員は住人の持ち回りなので、数年に一度、担当することになるんですが、自治委員になると「月一回の自治会に出席」「各戸への書類などの配布」「夏祭りや運動会の運営」といったことをします。
■今の物件の気に入ってる点
①床・壁の作りがしっかりしているので、周囲の物音がほとんど聞こえない
②床暖房・追焚き機能
③始発のバス停が目の前
①床・壁の作りがしっかりしているので、周囲の物音がほとんど聞こえない
URの物件でも、築40年・50年のものだとそうでもないでしょうが、うちみたいに21世紀に入ってから建て替えられた物件だと作りがしっかりしているので、上下左右の部屋の物音はほとんど聞こえません。
②床暖房・追焚き機能
これが一番気に入ってるかもしれない。リビングダイニングには床暖房が入っているんですが凄く快適。暖房はそれだけで十分です。エアコンみたいに風は来ないし「上は温かいけど足元は寒い」なんてことも無い。というかリビングダイニングは日当たりも良いので寒いと思ったことは一度も無い(ちなみに寝室はデロンギだけで十分に暖まります。断熱性が高いのか、夏もリビングのエアコン1台で1LDKの全体が涼しくなります)。それと風呂好きなので追い炊き機能は重宝してます。
③始発のバス停が目の前
については、天気が悪くても濡れずに移動できるのが良いですね。雨が降ったら駅まで歩くのが面倒なのでバスにしてます。それと、バスに乗ってしまえば成田や羽田まで1.5時間で移動できるので海外出張などのときは凄くラク。「大きなスーツケースを持ってバスに乗ってしまえば2回乗り換えたら機上の人」ですから。バスはJRの駅前に着くので乗り換えもラクだし。
■在宅勤務と意外と相性が良いのでは?
月〜金曜で毎日会社に行かないといけないなら駅近物件が良いんだろうけど、週に1,2度出社すれば良いんだったら駅に近いかどうかはそんなに重要じゃないんですよね。
と考えると、うちみたいに「目の前のバス停からバスに乗って1,2回乗り換えれば会社に行ける環境」って割と良いんですよ。多少、通勤に時間がかかるとしても「まぁ週に1,2度だし」って割り切ることができる人には向いてると思う。
うちはたまたま最寄り駅にも徒歩で行けるけど、物件によっては「”○○団地”っていうバス停が目の前にあるけど駅は近くない」ってものも多くて、そういった物件はかつては敬遠されたでしょうが、いまは逆に狙い目かもしれないですね。
それと、URはファミリー向けの2LDK、3LDK、4LDKの物件も多いんですよね。「夫婦二人で2LDK」「夫婦に子供一人で3LDK」など間取りに余裕のある物件を借りてみて、「余った部屋は在宅勤務用に使う」といったことも可能です。「子育て割」「U35割」を上手に使って試してみるのも良いかもしれません。
これからしばらくは、世の中や会社の制度がどうなるのか不透明でしょうから「とりあえずURの賃貸物件に住んで様子を見て、ある程度、落ち着いたところでマンションor一戸建てを買うのか、それともずっと賃貸で行くのか判断をする」っていう選択肢も一考の価値があるかもしれませんよ。
おわり
となりの億万長者
「となりの億万長者」(初出:1996年)という本は、これまでで最も衝撃を受けた一冊です。三十代でこの本を知ったとき「もうちょっと早く出会いたかったなぁ」って後悔したけど、「いや、こっからっす」と切り替えて、まぁなんとか今があるといった感じです億万長者ではないけど。
若干、扇情的なタイトルからは眉唾な印象もうけますが、アメリカの大学で教鞭をとっていた著者二人が20年以上お金持ちを調査し、さらに、この本を書くために500名にインタビュー・11,000名にアンケート調査を実施して得られた情報を元にして書かれた至って真面目な本です。
多分、二十代でこの本に出会っていたら、付き合う女性に「引かれない」タイミングで「読んでみて」って渡して、共感できる人だったら結婚を考える・できない人ならちょっと無理、って使い方をしたと思う。お金に関する考え方が合わない人と一緒になっても、結局、皆が不幸になるだけですから。
■発端
この本は信託銀行から「富裕層向けの商品を開発したい。ついては富裕層とはどんな人達なのか、何を求めているのか知りたい」という依頼を受けて調査をするところからはじまります。
とりあえず1,000万ドル以上の資産を持つ10名にインタビューをするんですが「高級車に乗り高級スーツに見を包んだ堂々とした紳士達が来るだろう」といった予想に反してやって来たのは「ありふれた国産車に乗ったヨレヨレスーツのどこにでもいるおじさん」みたいな人達ばかり。いったいどうなってるんだ、というのが発端となりお金持ちの定義から考え直すことになります。
■お金持ちの定義
億万長者(原題ではMillionaire)っていうくらいですから「日本円で言うと1億円以上、米ドルなら100万ドル以上の資産をもつ人」なんですが、その中から信託銀行が求める「新たな商品にお金を出す余裕がある人」という条件で絞り込むと、「高級住宅街の豪邸に住み、高級車に乗り、高価なスーツで身を包み、年二回は家族で海外旅行」といった、いわゆる「金ピカのお金持ち」が入ってこないわけです。なぜなら「金ピカのお金持ち」は収入も多いけど支出も多く余裕がないから。
そこで新たに「期待資産額」という指標を考えます。
期待資産額=年収×年齢÷10
たとえば、40歳で年収700万円なら
700万円×40÷10=2,800万円
が期待資産額です。
「資産から遺産相続額を引いた値が期待資産額より上か下か」で蓄財能力を評価します。資産が期待資産額の2倍以上なら特に優秀な「蓄財優等生」、半分以下ならかなり劣っている「蓄財劣等生」です。まぁ、アメリカではほとんどの会社で日本のような退職金制度が無いらしいので(そもそも定年退職も無い)、日本の会社員にとっては若干厳しい指標のような気はしますが。
■倹約・倹約・倹約
世の中に出ているお金に関する本の主張は、だいたい、以下の三種類に分類されます。
①収入を増やしましょう
②支出を減らしましょう
③残ったお金を運用で増やしましょう
この「となりの億万長者」ではその全てに触れていますが、最も重点を置いているのが「②支出を減らしましょう」です。
著者二人の長年の調査から、お金持ちの特徴を3つあげるとすれば「倹約、倹約、倹約」とのこと。マスコミなどの影響もあってか「お金持ち=普通の人よりも多くのお金を使える人」という印象を持ちがちですが、使ってしまったらお金は残らないわけですからね。
大概の人は収入が増えると、良い家に住んだり、良いものを食べたり、良い服を着たりと生活水準を上げてしまいがちですが、億万長者はそういったことはせず、いままで通りの生活を貫くそうです。
■億万長者の平均像
では倹約意外にどういった特徴があるのか、以下、この本で列挙されている億万長者の平均像です(1996年にアメリカで出版された本なので現在の日本から見ると、若干、違和感のあるものも含まれていますが、本質的な部分は現在と共通するものが多いと思います)。
- 57歳男性既婚、子供は三人
- 仕事は極ありふれたもので「溶接の下請業」「競売人」「米作農業」「移動住宅(トレーラーハウス)専用駐車場の経営」「害虫駆除」「コイン・切手のディーラー」「舗装下請け業」など
- 共働きは2割。妻の職業で一番多いのは教師
- 平均所得は24.7万ドル(2,500万円ほど)。所得分布で最も多いのは13.1万ドル(1,300万円ほど)。
- 平均資産額は370万ドル(3.7億円ほど)。資産額分布で最も多いのは160万ドル(1.6億円ほど)。
- 平均すると年収は資産の7%以下
- 最低でも年収の15%を貯蓄
- 8割は親からの遺産相続無し(つまり自力で資産を築いた)
- 自家用車は国産のありふれた車
- 自宅の所在地は、庶民的な、昔ながらの住宅街
- 97%が持ち家。50%は同じ家に20年以上居住。
- 配偶者も倹約家
- 最終学歴は大卒以上が8割
- 投資には熱心。ただし投資の判断は必ず自分で行う
この中で特に注目すべきなのは「平均すると年収は資産の7%以下」という部分でしょう。要するに明日から収入が無くなっても、14年程度は生活水準を落とすことなく生きていける、ということです(実際は年収よりも少ない額で生活ができているので14年以上です)。逆に「金ピカのお金持ち」の場合、収入は多いもののそれに比べて資産が少ないので、収入が断たれると、即、生活に困ることになるわけです。たとえば、貯蓄が1億円あったとしても、年間の生活費が5,000万円なら、2年で生活が破綻してしまうわけですから。こういう人は億万長者ではあっても蓄財劣等生、というわけです。
また、インタビューの中である億万長者が、
「牛を一頭も持っていないくせに、大きなカウボーイハットをかぶって、見かけだけは一丁前の牧場経営者、ってヤツがいるんだよね」
と言ったそうです。要するに見栄っ張りは金持ちになれないし、みっともない、ということでしょう。
■私見:どう生きるのが心地良いのか?という問題
結局は生き方の選択の問題なんですよね。「フローよりもストック重視で、収入が断たれてもしばらくは困らないだけの貯蓄をしておく」か「ストックよりもフロー重視で、貯えはそれほど多くなくても良いから収入に見合った生活を楽しみたい」か。
どっちが心地良いのかはその人の性格にもよるでしょうが、どっちにしても「自覚して選択しているかどうか」がポイントで、かつての私は無自覚なまま周りに流されるように「収入に合わせた生活」をしていました。本当はストック重視の生き方に心地良さを感じる性格なのにフロー重視の生活をしていたので、何とも居心地が悪く常に不安だった気がします。今の日本では、社会全体があの手この手でとにかくお金を使わせようとしてきますから、意識していないとそうなってしまうんですよね。
それと、日本の会社にとっても「フロー重視」の社員は好都合なんです。十分な貯えの無い社員は会社にしがみつくしかなくなるので好きなように使えるから。日本の会社では自宅を購入した途端に転勤させられるケースがよくありますが、そういうことです。
また、ネットニュースなどの記事でも「年収○千万円の暮らし」といったものは頻繁に見ますが「生活費はいくらで、貯蓄がいくらで、収入が断たれたら何年生活ができるのか?」といったことは、面白くもないのでほとんど記事になりません(「老後の貯蓄2,000万円問題」とか「リタイア後、年金支給までの期間をどう乗り切るか」みたいな高齢者向けの記事は見かけますけどね)。
多くの人は「収入がいくらなのか?」に興味があるからそうなるんだと思いますが、実はストック重視の人間は「収入を増やすこと」にはほとんど興味が無いんですよね。重要なのは年収の額ではなく
- 自分が満足できる生活のイメージをはっきりさせること
- その生活水準を維持するために必要な金額を明確にすること(ストック重視者の場合、これは収入よりもはるかに少ない額です。年収と比較したら1/3とか1/4とか)
- 「年間の貯蓄目標額は○円」「金融資産が○円になったら引退」など目標を明確にして金融資産を増やすこと
です。つまり、今の生活に満足しているから収入を増やすことに執着する必要がないんです。少々収入が増えても引退時期が若干早まる程度なので。
収入を増やすことに興味が無くなると社畜状態から脱することもできます。無意味な長時間労働なんかする必要はありませんから(ちなみに「ストック重視」に切り替えた時点で周りの同調圧力も気にならなくなります)。それに「いまの年収の1/3、1/4で暮らせるなら、最悪、バイトでもどうにかなるだろ」と考えればかなりラクになります。
「でも、そんな生活って味気ないんじゃない?」と思われるかも知れませんが、果たしてどうでしょうか。
■で、億万長者ってどんな人?
この本で紹介されている億万長者の特徴を「支出を減らす・収入を増やす・残ったお金を運用で増やす」で分類整理してみました。
- 支出を減らす
- 倹約:無駄なことにお金はかけません。上記の通りブルーカラーと言って良いような職業が多く、スーツや靴、腕時計や車などにお金をかける必要もありません。ちなみに医者に蓄財優等生は多くありません。理由は「社会的信用を維持するために立派な家・高級車・高価なスーツなどにお金を使う必要があるため」「就学期間が長いため社会に出るのが遅く、資産形成にとりかかるのが遅れるため」などです。弁護士、公認会計士なども同様です。
- 家計管理:必ず年度の予算計画を立てます。食費、衣料費、住居費など何にいくらかかっているのか正確に把握しています。
- クレジットカード:最低限の枚数しか所持しません。
- 車:故障の少ないありふれた国産車を乗りつぶします。
- 親からの経済的な援助:ほとんど受けていません。ちなみに親からもらったお金は消費行動に使われがちで(分不相応な車や家の購入など)、その結果、さらにお金のかかる状態になってしまいます。
- ただし、投資、経理・税務、法律、医療・歯科、教育、住宅などについては必要と判断したら相当の金額を使います。
- 収入を増やす
- 仕事:蓄財優等生のうち自営業者は59.1%です。
- 自分の性格にぴったり合った仕事を選んでいます。
- 残ったお金を運用で増やす
- 資産運用:蓄財優等生は月8時間以上、年100時間以上を資産運用のために使います。これは蓄財劣等生の2倍弱です。
- 投資判断:すべて自分で行います。証券会社の営業マンに進められるままに何かを買うようなことはありません。
- 株:億万長者の95%が株を所有しています。購入した株はある程度の期間、保有します。短期売買は滅多にしません。
- その他の特徴
- お金の心配をしなくても済むことのほうが、世間体を取り繕うよりずっと大切です。
- 家族と過ごすのが最も幸せな時間です。
仕事に満足していて、お金の心配も無く、家族と一緒に居ることが幸せならそれで十分なんですよね。見栄やストレス発散のために買い物や海外旅行などで散財する必要も無いわけです。収入が増えたとしても生活水準を上げずに済むのは、今が幸せだからなんでしょう。
最後に、この本では成功への鍵として以下の3点が挙げられています。
・自分をコントロールする精神力
・犠牲をいとわぬ態度
・勤勉さ
こういった性質は先天的なものもあれば、子供の頃からの教育で身につく後天的なものもあるでしょうが、そもそもそういったものを持ち合わせずにすでに大人になってしまっているとしたら、億万長者への道は「宝くじに当たる」くらいしか残されていないのかもしれないですね。
おわり
マンションの寿命_6
(マンションの寿命_5 からの続き:在宅勤務メインになりそうなので地方に中古マンションを買おうとしたんだけど、マンションの寿命が気になりだして調べてた。どうやら重要なのはメンテナンスの継続らしい)
■マンションは「立地が全て」「管理を買え」の意味
数年前に「四谷コーポラスが建て替えをすることになった」って聞いたときにちょっと驚いたんです。というのも、マンションの建て替えには区分所有者の4/5の賛成が必要で、これまで建て替えを行ったケースは多くないと聞いていたので。
ところがあそこは「古くからの住人が多く、中には二代三代に渡っての住人もおり、管理組合の結束が硬い」とか「四ツ谷駅から徒歩5分の好立地」「28戸から51戸に増やすことが可能で、増えた分を分譲に出すことで既存住民の負担を軽減できる」といった好条件が重なっていたので成功したようですね。
「南青山第一マンションズ」も数年前から建て替えの話が出ていますが進んでいないようです。あそこは規模も大きく住人も様々でしょうから意見をまとめるのは大変でしょう。ただ、表参道駅の真上、横長の堂々とした姿を見ると「特に重大な不具合が無いなら、これを解体するのは勿体無いなぁ」とも思いますね、正直。
それらのマンションで建て替えの話が出るのは、どちらも好立地だからです(四谷コーポラスの場合は「耐震強度不足なので補強工事が必要だがかなりの金額になる」「漏水が頻発しているが工事が不可能」といった事情もあったようです)。莫大な費用をかけて建て替えても、なにせ立地が良いから売るにも貸すにも不自由せず、採算が取れるわけです。
一方、郊外住宅地の普通のマンションだと、最近のものは容積率ギリギリで建てられているだろうし、これから人口が減少する日本で、建て替えて採算が取れるものはほぼ皆無なんじゃないかな。大規模修繕を繰り返して延命していくしかないでしょう。
その大規模修繕。区分所有者の3/4の賛成が必要なわけですが、郊外住宅地の普通のマンションであれば三回目の大規模修繕の頃には多くの住人が年金生活者でしょう。自分の代で住み潰すつもりの老人はただでさえ大規模修繕には消極的なはず。その上、積立金不足を補うために月々の修繕積立金の大幅増額を要求されたり一時金を求められたりしたら賛成するとは思えません。
それにそういったマンションでは「中古で買って途中から加わった住人」とか「賃貸に出している人」とか「親から相続したが自分は別のマンションに住んでいるので空室状態」とか「親から相続してそのまま住んでいる人」とか、住民構成が複雑でしょうから意見が揃わず、3/4の賛成を得るのは困難だと思うんですよね。
となると、管理組合がゴタゴタしだすだろうし「メンテナンス不十分で老朽化が進む→住人が減る→価格が下がり得体の知れない住人が増える→最悪、マンション自体がスラム化する」といったことで安住できるような環境じゃなくなると思うんです。人生の終盤でそんな揉め事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。まして、自分が死んだ後にそのマンションを相続した子供が巻き込まれるのは避けたい。
おそらく多くのマンションは、最終的に解体するしかなくなるんじゃないでしょうか。となると修繕積立金は解体費用まで含んだ額にする必要があるはず。もしくは、国が区分所有者から解体費用を強制的に徴収するとか(固定資産税の増額など)。ちなみにマンションの解体費用は、規模や作りにもよるでしょうが、定期借地権付きマンションでの事例だと一戸あたり200万円程度だそうです(富士通総研経済研究所研究レポート No.429 April 2016 https://www.fujitsu.com/jp/Images/no429.pdf )。
「そんな先のことを心配してどうすんの?」って感じかもしれませんが、「将来、資産になりますよ」って言われて買ったマンションでしょう。ようやくローン返済が済んだ直後に、自分ではコントロールしようのない理由で面倒な問題が発生し、最終的にはほぼ無価値になった上に解体費まで負担させられるとしたら、どうなんでしょう。無茶な住宅ローンを組んでマンションを買った結果、会社にしがみつくしかないような人が私の周りにも大勢いますが、本当にそこまでして手に入れる価値があったんでしょうかそのマンション。
子や孫の代まで残すことができ、本当の意味で「資産」といえるマンションは
・駅前などの好立地にあり
・住人は経済的に余裕があり修繕積立金も潤沢でメンテナンスが行き届いていて
・住人同士で価値観が共有され管理組合の運営も円滑
といった富裕層にしか手の届かない物件ということなんでしょうね。
「マンションは立地が全て」とか「マンションは管理を買え」って言葉を聞きますが、こういうことなんでしょう。強烈なインフレでも起こらない限り、普通のマンションが資産になることは無さそうです。
外壁や配管など主要な部材類の寿命が30年かそれ以上、住宅ローンの設定期間が大体は35年、新築マンション購入者の平均年齢が39歳ほどだそうで、日本人の寿命が男性なら84歳。なんだか不動産業界や金融業界の意図というか「このマンションに住むのはどうせ親世代だけ。子世代にはまた新築マンションを買わせれば良い」といった考えが透けて見えてくる気がしますがどうでしょうか。国交省も大規模修繕を「30年ワンサイクル」で考えているようですし。
■まとめ
たとえば1950〜60年代のマンションだと構造的な問題があって(耐震強度不足とか、漏水を直す方法が無いとかで)50年程度で解体ということが多かったと思うんです。また「1970年代のマンションを購入しようとしてます」といった場合は、コンクリートはどんな状態だとか配管には何を使ってるのかとか調べることに意味があると思うんです。でも、平成以降のマンション、特に21世紀に入ってからのものは、まともな企業が作って現代基準の検査をパスしているなら「マンションの物理的な耐久性」を心配する必要はほとんどなさそうなんですよね。いやもちろん「杭が岩盤に届いていない」とか「耐震強度が偽装されていた」とかは問題外ですけど。
それよりも重要なのが「メンテナンスが適切に行われているか」「修繕計画は適切か」「修繕積立金の残高は十分か」「管理組合が機能しているか」といったことのようです。
だから「インスペクション」を実施したり「竣工図書」を確認するのももちろん大切ですが、「長期に渡ってのメンテナンスが可能かどうか」という視点で「大規模修繕履歴・計画」「修繕積立金の残高」「管理組合の理事会議事録、総会議事録」などをしっかりとチェックしたほうが良さそうですね。
それと本当に資産になるマンションはとにかく「好立地」。立地さえ良ければ何かあっても売るのも貸すのも困らないし、もしかすると子や孫の代になったら建て替え後の物件を(少ない自己負担で)再取得できるかもしれません。
まとめるなら、マンションの寿命が尽きるのは
- 郊外住宅地の普通のマンション:十分なメンテナンスができなくなったとき=管理組合が機能しなくなったとき
- 好立地のマンション:立地の優位性が失われたとき
といったところでしょうか。前者については、思いの外、早く来そうです。
ちなみに、最近は築30年くらいのマンションをリノベした物件が人気らしいですが、それこそこういった話の先行事例でしょう。たとえば、何もしなかったら2,000万円の物件を700万円かけてリノベして3,000万円で売れば、それなりの経済状態の人が入居してくるわけですが、そういったマンションではおそらく何回目かの大規模修繕がすぐに来るわけです。従来からの住人(もう住み潰すつもりだから大規模修繕は最低限にしておきたい)とリノベ物件に入居してきた若者(これから30年40年は住み続けたい)とで意見が合うかどうか、管理組合が機能するかどうか、ウォッチしておくと参考になるかもしれないですね。
もしかすると
・メンテナンス不十分で空き家だらけ・わずかな住人は老人だけ
→価格下落
→得体の知れない居住者が増え、最悪、スラム化
がリノベによって、
・メンテナンス不十分で空き家だらけ・わずかな住人は老人だけ
→空き家はリノベして高値で売る
→経済的に余裕のある住人が増えはじめる
→管理組合が機能しはじめ大規模修繕が徹底される
に変わるかもしれないし。ただ、そういったやり方だと入居者の入れ替わりに時間がかかるから難しいだろうな、とは思います。「全室空き家のマンションを一棟買いしてリノベして全室一斉に再販売」といったことができればまた別ですが、そこまでする価値のあるマンションは少ないでしょう。
結局、「リノベした部屋だけピカピカ。共用部分はボロボロ」といったマンションが増えそうな気がします。
■で、どうする?
そもそも”家が欲しい”っていう欲望は動物としての本能なんでしょうね。人間だって元々は動物なんだから、自分の巣を手に入れて自分好みの心地よい空間にしたいんでしょう。「マンション、買っちゃおっかな」って思ったときに不覚にもちょっとワクワクしたんだけど、あのワクワクは本能から来るものだったと思う。じゃなきゃ本来ケチな私がマンションなんて高い買い物でワクワクするわけがない。それと、人間は30年とかそれ以上の長いスパンで物事を考えるのは苦手みたいですね。「その頃はまたどうにかなってるんじゃない?」とか「今からそんなこと心配したって仕方がないよ」とか。
普段は理性的な人が、ことマンションの話になると急に支離滅裂になるのを私の周囲でも割と頻繁に目にしますが、本能の赴くままに行動して、それを無理やり正当化するからそうなってしまうのかもしれないですね。
ということで、私はずっと賃貸で行くことにしました。いよいよになったら「有料老人ホーム」か「サービス付高齢者向け住宅(いわゆる「サ高住」)」に入ります。子や孫に迷惑かけたくないし。
しばらくは、いまの賃貸物件に住みながら、その地方都市の賃貸物件のチェックを継続していきます。地方だと分譲賃貸がそこそこ安い家賃で出ているんですよね。それをチェックするのが割と楽しい。
■付録
仮に「35歳で4,000万円のマンションを頭金500万円・残り3,500万円を金利1.0%の35年ローンで購入」し75歳までの40年間住むとして、管理費+修繕積立金=30万円/年、固定資産税=10万円/年、リフォームなど(ユニットバス、洗面、トイレ、キッチン交換。給排水管交換など)=500万円、としたら総額がいくらになるかと言うと、
4,000万+650万(金利)+30万×40年+10万×40年+500万=6,750万円
これを月ごとの家賃に換算すると
6,750万円÷40年÷12ヶ月≒14.0万円/月
ということになります。
仮に最後の最後にマンションを解体した場合、その土地が売れるかどうかというと人口減の数十年後の日本では期待できないかもしれませんね。それに、修繕積立金に解体費が含まれていないなら解体にかかった費用は区分所有者の持ち出しになるでしょう。
こうなるとマンションっていうのは「体の良い賃貸団地」に思えてきますね。
おわり