安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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「定本 百鬼夜行 陽」 京極夏彦 京極堂世界の入り口と出口

京極堂世界への入り口と出口

百鬼夜行 陽 京極夏彦

 

こんにちは、暖淡堂です。

極私的「京極祭」、まだ続いています。

「京極祭」を始めたきっかけの「鵼の碑」、まだ読めていません。

この前の年末年始に読む予定だったのですが、このゴールデンウィークもまだ辿りつきませんでした。

 

京極夏彦さんの書籍で、自宅の書棚にはなく、主に図書館蔵書で読んでいるものが数冊あります。

その一冊が今回紹介する「百鬼夜行 陽(定本)」です。

百鬼夜行 陰」の方はしっかりと自宅の書棚で存在感をアピールしているのですが。

これはなぜか書いそびれてしまいました。

いつか、神保町ででも見かけたら、老後の楽しみに購入しておこうと思います。

 

で、「百鬼夜行 陽」。

これは「鵼の碑」へのプロローグでもありました。

この連休に読んでみて、「鵼の碑」を手に取る前にこれを読んでおいてよかったと思います。

それと、最後に書き下ろしで加えられている作品「目競(めくらべ)」

これは一連の京極作品の中心人物、榎木津礼二郎の特異な「性質」を主題としたもの。

その最後の部分で、榎木津礼二郎が「薔薇十字探偵社」を始めるきっかけが描かれています。

 

場所は、中禅寺秋彦の自宅。

自宅を改装して古書店を始めたばかりの頃。

 

「よし」

礼二郎はそう云って、起き上がった。

関口が不審そうに顔を向ける。中禅寺は本を読んでいた。

ビルヂングを建てよう」

「は?」

「親父から貰った金はまるごと残っているのだ。ビルヂングくらい建つ」

建ててどうすると云って中禅寺は顔を上げた。

「そうだな。探偵をしよう」

探偵だアと、関口は呆れたような声を上げた。

 

文藝春秋「定本 百鬼夜行 陽」京極夏彦、p592

 

このやりとりは、昭和25年、秋のこととされています。

この後、「姑獲鳥の夏」などで描かれる事件を、この登場人物たちは生きていくことになります。

 

この本を読んでいて、もう一つ面白かったのは、この本に収められている作品の世界が「巷説百物語」の世界にも通じていることがわかったこと。

この作品の時代が1950年くらい。

又市たちが活動していたのが、幕末期。

山岡百介が一白翁として明治期まで生きていた。

その頃のエピソードが一部、この「百鬼夜行 陽」の中で触れられています。

 

 

 

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【現代詩】「まだまだ」 軽快な不撓不屈のイメージ 現代詩の試み

 

まだまだ

 

たった一度

負けたって

 

勝つことが

なくなった訳じゃない

 

いっそきれいに負けて

次を考えたらいい

 

次も勝てないかもしれないけど

闘ってみた回数は一度増える

 

いっそポイント制にして

節目には自分に

 

何かおごってやったらいい

  

*****

 

いくつになってもうまくいかないことが多いもので。

それでも諦めないことが大事だと、それもいくつになっても思ったりしています。

このまま、いつまでも諦めない生活を送るのでしょうか。

どこかで諦める日がくるのかな。

 

そんなことを考えたりする、休日の午後を過ごしています。

 

 

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父母から聞かされたこと 友だちが一人、いなくなるということ 【沙河36】

北海道砂川で過ごした昭和の日々

  

不安に過ごした夜が明けました。

父母の会話で、大体の事情は分かりましたが、はっきりと聞いたのはその日の夜のことでした。

そのとき、どのように感じたのかは覚えていません。

ただ、うまく説明のできない無力感があったように思います。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十六)③

  

 朝食を食べていると、父と母が小声で話していた。

「きっと、川に行ったんだろうって」

「下の子も、一緒らしい」

 そんなことをいっていた。

 教室での朝の会に、西森先生は少し遅れて来た。

 何か心配事があるような顔をしていた。それでも先生は普段通りに授業を始めた。

 朝はとても寒かった。通学路の脇の雑草が、霜で白くなっていた。それが、帰る頃にはすっかり暖かくなっていた。

 私は、帰り道、灌漑溝の橋のところでふと立ち止まった。

 道路脇の草むらが、風で揺れた。

 風がクルクルと渦巻いて、そのまま空に昇って行った。

 

 父が、いつもより少し遅く帰って来た。疲れているようだった。

「やっぱり、川だったな」

 そう母にいっていた。

「二人一緒だったそうだ」

「確か、同級生だったかね」

 それからすぐに家族そろって晩ごはんを食べた。父はいつものように、お酒を少しだけ飲んでいた。私の膝の上には、子猫が丸まって寝ていた。

 晩ごはんを食べながら、母は私と妹に教えてくれた。

「沢井さんのおばさんと、下の女の子が亡くなったんだよ」

 昼間、石狩川の畔で二人が見つかったそうだった。二人はお互いの手首をしっかり紐で結び合わせていたらしい。それで、自殺だと思われるということだ。

 何を考えていいのか、わからなかった。

 ただ、灌漑溝にかかる橋の風景を思い出していた。

 そして、きっと、とても寒かったろうと思った。

 それだけで、僕は精いっぱいだった。

「沢井さんの奥さん、最近ノイローゼ気味だったらしいってさ。下の子としか話をしていなかったらしいよ。それで家を出る時に連れて行ったみたいで」

 母が父に、そんなことを言っていた。

 私は最近、沢井さんと会っていなかった。

 最後に会ったのはいつだったのか、思い出そうとした。

    

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

この後、通夜に行きました。その辺りはまた次回。

なぜか子供は自分だけでした。

その理由は今でも分かりません。

  

父母から聞かされたこと

友だちが一人、いなくなるということ 【沙河36】

 

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