その日は春なのに季節外れの暑さで、外に出ると降り注ぐ日差しがまぶしく、空は雲ひとつなく抜けるような青さでした。
離婚調停も9回目、足掛け1年半。どうせ今日も何も決まらないのだろうと、何の期待もせずいつも通り調停の時間に合わせて家を出ました。
ここ2回の調停を経て、とにかく面会交流がネックになって進まないのは分かりました。その部分について自分の意見をまとめ、調停委員の前で読み上げられるように原稿を作って持っていきました。
家庭裁判所に到着していつものように窓口で名前を名乗り、調停室に案内されて待つこと約10分。調停委員がやってきました。
今回の調停も相手方のターンからスタート。調停委員からは、離婚には同意するが面会交流を強く求めること、マンションが売却できたので収益がこれだけ出たこと、など相手方の言い分を説明されました。
その後は私からの意見として、持ってきた原稿を読み上げました。
とにかく子どもが面会に消極的なので面会交流をこの調停で決めるのは難しい、かといってこれでごねられて調停を引き延ばされてしまうと、私はひとり親に対する助成の申請ができない。婚姻費用ももらえないし、相手方は無職で借金があるので養育費も見込めない。お金の話ばかりして申し訳ないが、お金を出せないならせめて早く離婚を成立させてもらうことが、回りまわって子どものためになる。
……これを聞いた調停委員は、
「面会交流が難しい件、再度伝えてみます。あとはマンションの売却益をどの程度分けるかという話になると思うので、そこを詰めてみますね」
と話し、調停室から出ていきました。
それから待つこと40分ほど。調停委員が戻り、
「○○○万円を分与する、ということです。一旦面会交流については取り決めず、今回で成立、ということで進めていいでしょうか。あなたがこの分与額でのめるか、というところではありますが」
とのこと。
え!成立するん!?
どうせ今日も決まらねえよ、という気分だったので、あまりの急転直下に動揺。調停委員からは、成立は確定じゃなくて、成立するようにもっていきますよ、ということですよ、と諫められましたが、成立に向けて進むことが初めてなのであわててしまいました。
金額についてはもういいんだか悪いんだかよく分からず、慰謝料も養育費もナシではありますが、とにかく今すぐに戸籍を分けたい。
これでいいです、と返事をし、分与が決定したら相手方が私の銀行口座に振り込むということなので、メモ用紙に銀行の支店、口座番号などを書いて渡しました。
もし成立する場合、別室で裁判官が調停条項の読み上げを行うということで、その場に相手方と同席するが大丈夫か?という確認がありました。もちろん嫌ですと伝えるも、
「この裁判官は基本的に同席させる人なんですよね……。いちおう言ってみます」
とのこと。同席させる人とは。
そしてまたしても待つこと30~40分。途中で男性の調停委員が調停室に来て、
「ちょっと裁判官が今立て込んでいるので、もう少しお待ちくださいね」
と言いおいてすぐに立ち去りました。え!成立したの?教えて……。
それから10分か20分か、長いような短いような時間を調停室で待っていると、再度男性の調停委員が登場。
「成立になったので、調停条項の読み上げがあります。お部屋ご案内します」
とのこと。
えーーーーーーー!成立!!!!
へにゃへにゃとその場にへたり込みたいくらいの気持ちではありましたが、何とか踏ん張って読み上げの行われる調停室まで、調停委員と一緒に移動しました。
調停室に入ると、男性と女性が2名。楕円形のテーブルの両サイドに4脚ずつ椅子が並び、調停室に入って右側に男性の裁判官、その奥に書記官が座っていました。まだ相手方はいないようです。
「相手方がいらっしゃっても、前を向いていればいいですから」
とのことだったので書記官の向かい、左側の一番奥の椅子に座りました。
その後女性の調停委員に案内され、相手方と弁護士が調停室に登場。私と相手方の間に弁護士が着席しましたが、とにかくそちらを見ないよう、じっと向かいの書記官と裁判官の肩と肩の空間を見つめていました。
その後裁判官が、
「親権は申立人の○○さん。財産分与は○○○万円で、○月末までに相手方の●●さんが○○さんの指定口座に振り込むこと……」
などと、調停条項を淡々と読み上げ、5分ほどで終了。この後の手続きは申立人がする、と条項に盛り込まれていたので、終了後は書記官からその手続きの説明があります、とのこと。書記官が、
「じゃあ終わりましたので、●●さんと弁護士さんはお帰りください」
と促すと、相手方が小さな声で
「……ご迷惑をおかけしました……」
と一言。それが私に向けられたものか、調停室にいる全員に向けられたものかはわかりません。だって私、一切そちらを見なかったので。
その後、これからの手続きを書記官から説明を受けました。途中で調停委員も調停室から退室したので、丁重にお礼を言って、これでお別れです。ありがとう2人。
離婚が成立すると調停調書というものが裁判所で作成され、それを持って役所へ行って手続きすることとなります。そこで書記官から
「調停調書正本の送達はしますか?」
という確認をされました。なんじゃそれは、なのですが、これを相手方に送達しておくことで、もし財産分与や養育費などが滞った場合に、差し押さえなどの強制執行手続きができるのだそうです。
私の場合は相手方から財産分与として月末までに振り込まれることが決まっていますが、何が起きるかは不透明。ひとまずお守りとして送達してもらうことにしました。
その場で調停調書の交付申請書にサインをし、収入印紙300円分と切手代が必要なので裁判所の中の売店で買って、帰りに窓口に出していってくださいね、ということでその日の手続きは終了。離婚調停を申し立てたときに支払った切手がまだ残っていたということで、追加の切手代は440円でした。私は調停調書を裁判所まで取りに行くことにしましたが、もし郵送してもらう場合はもう少し費用がかかると思います。
売店で収入印紙と切手を買う時に、合計740円なのに540円をカルトンに出して悠然と待っていたら、
「いや、あと200円足りませんよ」
と売店の女性にツッコまれてしまいました。あまりの展開に動揺していたのかもしれません。
裁判所を出る頃にはもう正午過ぎ。季節外れの真夏日予想は当たり、まぶしい日差しにクラクラしましたが、これからの私の未来も明るいものになるんだよ、というエールなのかも、という超ポジティブマインドで裁判所を後にしました。
1年半通ったけれどこれで最後かあ、などと感慨にふけり裁判所を見上げてみましたが、あ、そういえば調停調書を取りに来るんだわ、とすぐに気づくという……。まったく名残惜しくないです。