どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「誕生日はもう来ない」…まさかの大どんでん返し…!!ジャーロ風味な80年代スラッシャー映画

ラストが衝撃的なホラーとして有名な作品。

タイトルだけは知っていて気になっていたのを初鑑賞してみました。

誕生日はもう来ない [DVD]

誕生日はもう来ない [DVD]

  • メリッサ・スー・アンダーソン
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ジャケットはチープな感じですが、監督は「ナバロンの要塞」「恐怖の岬」のJ・リー・トンプソン

主演は「大草原の小さな家」でお姉ちゃん・メアリーを演じていたメリッサ・スー・アンダーソン。

大どんでん返しに賛否両論あるようですが、イタリアのホラーをみる人間には矛盾点は大きな減点材料にはならない(笑)。

むしろ凝ってよく作られたホラーだなーと感心、ジャーロっぽい雰囲気で個人的には大変好みの作品でした。

 

◇◇◇

バージニアは名門私立高校の優等生グループ〝トップテン〟の1人。

4年前のある事故によって、前後の記憶を失い、時々恐ろしい幻覚症状を起こすようになっていた。

そんなある日グループのメンバーが次々に失踪する事件が起きる…

 

〝トップテン〟とやらのメンバーが嫌な奴らばかりでドン引き。

気に入らない奴のビールにネズミを仕込む、跳ね橋を激走してチキンレースする…やりたい放題のDQN高校生たち。

実家は太いお坊ちゃま&お嬢様たちのようで、ホラー映画で死ぬ若者としてはこれ以上ないという面子であります。

 

冒頭真っ先に死ぬのは女学生バーナデット。剃刀で喉スパーッが勢いよく、犯人の黒い革手袋がアルジェントっぽい。

2人目の犠牲者はフランス大使の息子・エチエンヌ。バイクのメンテ中に何者かが彼のマフラーをタイヤに巻き込ませて死亡。

3人目の犠牲者は、グレッグ。筋トレでダンベルをあげている最中に股間に重しを置かれ絶叫。持ち上げられなくなったダンベルが首に直撃して死亡…

殺人シーンはそれぞれユニークで面白いです。

 

なぜか死体が発見されず行方不明扱いになる犠牲者たち。

合間に主人公の回想が挟まれますが、4年前に母親とドライブ中に事故にあったバージニアは現在父親と2人暮らし。

特殊な手術をして事故から回復したものの、記憶障害が残ってしまいました。

亡くなった母親は貧しい家の生まれだったらしく、トップテンをはじめとする町の人に見下されていたようです。

 

事故のせいで分裂症気味になった主人公が犯人なのか…亡くなったお母さんの怨念が取り憑いたのか…

そんな王道ストーリーを予想していたら案の定、第4の犠牲者・アルフレッドがバージニアに刺されて殺されてしまいます。

第5の犠牲者・スティーブもバージニアに手料理を振舞われている最中、バーベキュー串を口にぶっ刺されて死亡。

さらに自宅の浴室で友人アンの死体を発見したバージニアは自分が殺したのではないかと精神科医に相談しますが、医者は「そんな死体はどこにもないよ」と彼女をなだめます。

全てはバージニアの妄想なのか…誰かの悪戯なのか…

そんな中バージニアの18歳の誕生日がやって来ました…

 

(以下ネタバレ)

娘のあとを追った父親が離れの家を訪れると、殺した者たちの死体を並べて〝お誕生日会〟をするバージニアの姿が…

殺された人間の死体が発見されないのが謎でしたが、全てはこの光景のために…狂気が炸裂したグロテスクな景色が壮絶です。
 
バージニアは驚いた父親も刺殺。

「今度はあんたの番よ。私の可哀想な妹よ…」と不可解な台詞を吐いたバージニアが、死体だと思われていた1人の身を起こすと何と彼女もバージニア…??

バージニアが偽バージニアの顔を引っ掴むと、マスクが剥がれ落ち、中から出てきたのは友人のアン。

なんとバージニアに罪を着せるため、アンがバージニアの肉マスクを被ってなりすまし、酷い殺人を繰り返していたのでした。

 

「お前はイーサン・ハントかっ!!」とツッコミたくなること必至のびっくり展開。

実は2人は腹違いの姉妹で、その昔アンの父親はバージニアの母親と浮気していました。

愛人とその娘のせいで、自分の母親が家を出て行ったのだと憎しみを募らせていたアンが凶行に…

バージニアに薬品を嗅がせて眠らせ、犯行事に入れ替わっていたことが説明されるも、かなり難易度高そう。

死体処理も早すぎるし、声とか体格とか誰か気付くんじゃないかなーと現実的に考えるとかなりの無理ゲー。

でも犯人の動機には説得力を感じて、陰鬱家族ドラマがビンビンに感じられるストーリーに自分は魅力を感じました。

愛情深そうなお父さんとは実は血の繋がりがなかったというのにもびっくりです。

 

貧しい家の生まれで金持ちの愛人になったけど、男から別れを突きつけらて1人バージニアを出産。

その後また金持ちの男と今度は子連れで再婚し、見返してやろうとわざわざ同じ街に舞い戻ってくる。

「娘がイケてるグループの友達とお誕生日会を開くまでになったわ…!!ついに私も勝ち組よ…!!」みたいな思考になってるオカンが闇深すぎる…

しかしアンが嫌がらせでバージニアのお誕生日会にぶつけて自分もパーティーを開いたため、皆そっちに行ってしまい、誰も来てくれなかった4年前のお誕生日会。

いたたまれない空気の中、ヤケ酒あおるオカンと2人きりとか主人公が気の毒でたまりません。

 

アンは最後にバージニアも殺してすべての罪をなすりつけようと計画していましたが、返り討ちにあって死亡。

しかしそこに偶然警察がやって来て、バージニアがアンを刺す場面を目撃。

誤解されたまま全部彼女の犯行ということになってしまいそう…

家族も友人も全てを失った主人公の姿とともに流れてくる「ハッピーバースデートゥーミー」の歌声…容赦ない陰鬱エンドが胸にどっしり来ました。


冷静に考えるとアンの復讐劇は回りくどすぎるし、荒唐無稽であることは確か。

思わせぶりで結局何だったのかとなる場面も多数存在します。  

特に剥製作りが趣味のアルフレッドの不気味さ(笑)。

行方不明の友人の死体の模型をつくるって悪趣味すぎてドン引きです。 

実はこれがアンの差金で、肉マスクを作ってもらっていた協力者だった…とか、浴室でアンが死んでいるシーンが主人公の幻覚でなくアルフレッドに作ってもらったダミーの死体だった…とかそういう設定があったら納得したかも…

この作品、ディテールをもう少し丁寧に活かせていたら、もっとかなり化けたような気がします。

この他にも、グループの一員・アメリアが別棟の前でプレゼント持って震えてるシーンが謎だったり、本筋に関係ないヒロインの手術シーンにやたら力が入っていてグロかったり…

思わせぶりで伏線丸投げなところ、ラストにどどーん!!と唐突に真相が明らかになるところなど、良くも悪くもイタリアのジャーロに近しい印象。

けれど人間の心の闇、陰鬱な家族関係をじっとり描いている独特の暗さもジャーロっぽくて、自分はとても楽しんで観ることができました。

 

俳優陣は主演のメアリー・スー・アンダーソンはもちろん、他のメンバーも〝鼻持ちならない金持ち高校生〟の嫌なところが出ていて、皆良かったように思います。

主人公がこのグループにずっと馴染んでなかった感じがして、どうにも切なかったですね…

 

日本版のDVDは冒頭の曲がファンキーな洋楽になっていて、初見の自分は80年代スラッシャー映画らしいと違和感を感じずに観れてしまったのですが、元々はもっと雰囲気のある曲だったよう…ちゃんとしたバージョンがリリースされるといいですね。

海外版のジャケ写も大概だけどこっちの方が好きかも(笑)。

 

素晴らしくホラーしてるラストの画。あれだけでも一見の価値ありの作品だと思いました。

 

「ナイトメア・シティ」…疾走するゾンビとびっくり仰天のラスト

イタリア・スペイン合作、「人喰族」のウンベルト・レンツィ監督による80年ホラー。

知能派ゾンビが登場する「ゾンビ3」と比べられることが多く、気になっていたのを初鑑賞してみましたが…

ナイフも銃もお手のもの、猛ダッシュで動くゾンビにびっくり(笑)。

設定的には〝放射能汚染で血を求めるようになった人間〟らしく、厳密にはゾンビといえないのかもしれませんが、「バタリアン」「28日後」などの先を行っていたのではないかと思う斬新なゾンビものでありました。

 

◇◇◇

核物理学者・ハーゲンベック教授を取材するため空港に出向いたTVリポーターのミラー。

突如そこに国籍不明の軍用機が飛来。

機内から核汚染で突然変異を起こした人々が出現した…

 

空港のロケーションといい、エキストラの数といい「ゾンビ3」と比べるとお金をかけてしっかり撮った感じがする映像。

先頭の教授は普通の顔色なのに、続くゾンビは腐敗が進んだ顔をしていて、1体1体のムラが激しいです(笑)。

「ゾンビ3」のゾンビも道具を使う知恵者でしたが、こちらは刃物を持って猛スピードでメッタ刺しにしてくるのがおっかない。

放射能で血液細胞が破壊されたため常に新しい血を求めるらしく、女性の首を刺してはチューチューと血を啜る、まるで吸血鬼のようなゾンビ。

主人公の勤めるテレビ局にも一気にゾンビがなだれこみますが、武富士ダンスを踊っていたレオタード姿の女性たちにゾンビが襲いかかるシーンがシュール。

(軽快なエアロビBGMから突然の阿鼻叫喚)

(人間の心が残ってそうなスケベな目ww)

場面転換が雑で残酷描写もチープですが、怒涛の勢いで話がどんどん進んでいきます。

 

主人公・ミラーは女医の妻がいる病院へと向かいますが、こちらも地獄絵図で夫婦2人であちこち逃げ回ることに…

主人公役の俳優さんがかなりの大根役者。

表情筋が全く動かない虚無の顔で「大丈夫、なんとかなる」と妻を励まし続けるのが1番ホラー(笑)。

妻の方は逃げ込んだカフェでインスタントコーヒーを飲みながら「文明の利器は果たして人間を幸福するのか」…などといきなり深い話をし始めます。

撮っている制作陣はきっと大真面目。伝えたいメッセージは何となく理解できるものの、ポエムのように作者の主張を唐突にねじ込んでくる、強引で雑な脚本に笑ってしまいます。

 

パニックを鎮圧しようとする軍人サイドのキャラクターも登場。

情報統制して事件を隠蔽しようとする将軍役はメル・ファーラーが演じていて、無能な上官役がハマり役。

自分の身内だけは助けようと密かに娘夫婦に連絡したものの、「非常事態宣言?何それ!?」とナメてた2人が殺されるのにはスカッとしました。

現場を奔走するウォーレン少佐役には「恐怖の報酬」のフランシスコ・ラバル。

お付き合いしていた芸術家の美女もあえなくゾンビに…

車を運転し、銃を乱射し、電話線を切断する…賢すぎるゾンビたちに大苦戦。

噛まれた人間もゾンビ化するらしいものの、この辺りの描写が不足していて感染の恐怖や多勢に無勢感が伝わって来ないのは残念でした。

ロメロのゾンビを完全にトレースしたようなヘリからの上空景色、「サンゲリア」を模したような目を抉るゴア描写なども炸裂。

ロケ地はヨーロッパなのか、途中に出てくる近代的な建築の教会など妙に印象的でした。

 

(ここからラストまでネタバレ)

クライマックスは遊園地…!!

ゾンビとアミューズメントパークの組み合わせ、非日常感があって素晴らしいです。

追い詰められた主人公夫婦はジェットコースターのてっぺんまで逃げるも絶体絶命。

そこに救援のヘリコプターがやって来てロメロのゾンビエンドかと思いきや、惨たらしく転落死する妻に絶句…!!

まるで理不尽な悪夢…と思ったらなんと本当に夢オチ!?

悪夢から目覚めた主人公が空港へ取材に向かい、冒頭と全く同じ場面が再生されていくループエンド。

全てはうだつの上がらない男の暗い願望を映し出した夢だったのか…それとも未来からの警告的予知夢だったのか…

こんなB級映画なのになぜかラストは「インセプション」にも負けない深い深い余韻が残りました。

 

エログロのドロっとした感じの強い「ゾンビ3」、これでもかというサービス精神の「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」と比べると、思ったより大人しめの印象。

自分の中ではこの2作を上回ることはなかったけど、イタリアのゾンビものを観た!!という満足感はしっかりと残りました。

 

主演の俳優さん、他の映画でもこんな演技なんだろうか(笑)。  

虚無的表情のどこか冷たい感じのする主人公と、現実と虚構の境目が曖昧になったようなラストが妙に味わい深く、なんかいい感じの作品でした。

 

「続・夕陽のガンマン」…完全版178分と国際版162分の違いを探してみた

先日4K復元版を劇場鑑賞、興奮冷めやらぬ素晴らしさだった「続・夕陽のガンマン」。

dounagadachs.hatenablog.com

先日上映されたのは178分の完全版でしたが、自分が初めて観たのは〝国際版〟と呼ばれる162分版。

〝夕陽コレクターズBOX〟で完全版を鑑賞した際にはテンポの良さが損なわれていて長く感じたのですが、劇場で観ると映像の迫力に圧倒されて全く気になりませんでした。

でも久々に短いバージョンが観たい…!!

自分が所持しているのは夕陽コレクターズDVD-BOXとBlu-ray-BOXで、こちらに収録されているのはどちらも完全版。

収録時間が〝162分〟と記載されているこちらのDVDを新たに購入してみたのですが…

なんと中身が全く違う内容で、入っていたのは178分版。

ジャケット裏面にもディスクのプレス面にも「162分」と記載されているのにめちゃくちゃいい加減な仕様のDVDでした(笑)。

 

Amazonで〝続夕陽〟を検索するとたくさんの品番が出てきて、一体どれを買えば短縮版がみれるんだーー!?と混乱。

1番発売年が古いやつが当たりかもしれん…と1999年発売のこちらのDVDを購入したところビンゴ。

画質は良くないし吹替もありませんが、162分バージョンがしっかり収録されていました。

やはりこちらの方がテンポがいいです。

 

178分の完全版と162分の国際版。どんなシーンが追加になっていて、どんな印象の違いがあるのか…気付いたところを挙げて比較してみたいと思います。

 

◆トゥーコが洞窟で仲間を雇うシーン

ブロンディに捨てられるも命からがら荒野を渡りきったトゥーコは銃器店で銃を強奪。

短縮版ではその後子分を引き連れてブロンディのいる町に到着するシーンに変わりますが、完全版ではトゥーコが洞窟で仲間を雇うシーンが追加されています。

「生きるためになぜせっせと働く?」…泥棒として(アウトローとして)生きることを決意したようなトゥーコの独白。 

ニワトリの死骸を抱えながら、茹でた芋に手をつけるトゥーコ。

「人間には2種類ある。大勢の友達がいる奴と俺様のように孤独な奴だ。」…この映画の名台詞である〝2種類〜〟がここでも登場しますが、陰キャには突き刺さる中々切ない台詞。

まるで誰かに聞かせるように「上手い話がある、ある男を捕まえるのに協力すれば1人1,000ドル…」とトゥーコが話し出すと、洞窟の上からロープが突然下ってきて3人の男がスルスルと降りてきます。

 

なんだか唐突でシュールな感じもするこの場面。  

もともとのイタリア公開版(177分43秒)には収録されておらず、「プレミア上映にはあったがその後削除されたシーン」だそう。

2002年にMGMが完全版を制作する際に、担当者が「このシーンがないと続く場面でいきなり子分たちが登場していて話の繋がりが悪くなる」と復活させたようです。(自分はなくてもトゥーコが男たちを囮に用意したのがなんとなく分かると思いましたが…)

暗い洞窟はまるでトゥーコの精神世界。

全体からは少し浮いた印象がして、自分は初見時冗長で勿体つけた感じがしたのですが、主人公の孤独な内面に迫ったシーンと言えるのかもしれません。

 

◆砦で聞き込みするエンジェル・アイズ

リー・ヴァン・クリーフ演じるエンジェル・アイズは総じて出番が少なめですが、完全版ではビル・カーソンの居場所を探るため、負傷した南軍兵士が集まる廃墟のような砦を訪ねるシーンが追加されています。

「ここはリゾート地」と皮肉る兵士に酒瓶を渡し、カーソンの情報をしっかり得るエンジェル・アイズ。

のちにエンジェル・アイズ自身が捕虜を虐待している北軍兵士であることが分かって複雑ですが、彼自身は戦争のことなどどうでもよさそう。

負傷者やうだつのあがらない兵士たちにほんの少し哀れみの目線を向けているようにもみえて、彼の人間味が僅か垣間見えるシーンになっていました。
 

このシーンはトゥーコがブロンディを追跡する場面の前に挿入。

短縮版では「大砲が飛んできて縄をかけたブロンディに逃げられる」→「テーマ曲と共に追跡を開始するトゥーコ」の流れになっていてテンポがいいのですが、完全版は勢いが削がれてしまっている印象。

戦争の悲惨さを描いた場面は他にもあるので、個人的にはなくてもいいのかな…と思うシーンでした。

 

◆砂漠でブロンディをからかうトゥーコ

復讐のためブロンディに灼熱砂漠を歩かせるトゥーコですが、完全版ではいたぶるシーンがやや長め。

横たわったブロンディがブーツを掴むも中身は空っぽで、その先には桶に水を入れて贅沢に足を洗うトゥーコの姿が…

アップで映るブロンディの顔、日焼けによる火傷が痛々しい…

このシーン、トゥーコの嫌ーな、根に持つところがよく描写されていて(そしてそんな目に遭わされてもその後フラットに接するブロンディとの差異が際立っていて)自分は嫌いじゃないかも。

悪趣味で残酷なシーンですね(笑)。


◆南軍に道を訪ねるトゥーコ

墓場の名前を聞いたと知るや否やブロンディをせっせと介抱するトゥーコ。

短縮版ではブロンディに「死ぬなよ」と言った後すぐに馬車が伝道所に着くシーンに飛びますが、完全版では夜中に移動しているシーンが追加されています。

南軍の検問所に出会し「重傷の兵士を運んでいる」と答えるトゥーコ。

現在地を聞き出すと伝道所がこの辺にあるはずだと、トゥーコがこの辺りの出身らしいということが示唆されます。

伏線を張っているシーンですが、ない方がテンポがいいかも??

 

◆トゥーコに行き先を尋ねるブロンディ

伝道所をあとにしてテーマ曲と共に馬車で出発するブロンディとトゥーコ。

短縮版ではその後すぐに「南軍と北軍を見間違うトゥーコ」のシーンに飛びますが、完全版ではその前に2人の会話シーンが追加。

地図で行き先を確認するトゥーコに「どこに行くんだ?」と墓場の場所について探りを入れるブロンディ。

行く道には兵士たちの死体が横たわっており、さり気なく残酷な戦争の爪痕が描かれています。

 

◆エンジェル・アイズの手下をみつけるブロンディ

拷問されたトゥーコとは違い、「痛めつけてもどうせ吐かないだろう」と捕虜収容所からあっさり解放されるブロンディ。

目的地に向かってエンジェル・アイズと共に野営するブロンディでしたが、手下が隠れていることに気付きその内の1人を撃ち倒します。

ゾロゾロ出てきた手下たちをみて「6人ならちょうどいい」と宣うブロンディ。

この場面がないと、続くシーンでブロンディがいきなり6人の男たちと行動を共にしていて、何があったのか分かりにくいかも…

ただこの場面はトゥーコの脱走シーンを中断して挿入。

短縮版では、「トゥーコがデブの拷問人とともに汽車に乗る」→「拷問人を騙して汽車から飛び降りる」…となっているのが、このシーンが間に挟まることでテンポの良さを損ねている気もします。

 

◆戦場にかける橋/名前を言わない2人

橋をかけて戦っている北軍に出会すブロンディとトゥーコ。

厭戦的な大尉との会話シーンが完全版では少し長めになっています。

南北に共通するのは酒臭いことだと自暴自棄気味に語る大尉。

多少のことでは動じないトゥーコとブロンディが戦争の悲惨さには言葉を失っている様子。

大尉に名を聞かれても答えない2人のアウトロー感が際立っていて、後に登場する墓場が「無名戦士の墓」であることを考えても意外に重要なシーン。

ここは残しておいてもよかったのではないかと思いました。

 

◆ダイナマイトを仕掛けるシーンが少し長い

負傷して危篤状態の大尉にいい知らせをきかせるとダイナマイトを担いでいく2人。

橋に爆薬をくくりつける場面、完全版の方が48秒長くなっています。

台詞のない完全な作業シーン、なくても印象はあまり変わらないかも。

 

◇◇◇

今回買った99年発売のDVDに収録されている”未公開シーン集”の特典も参考にしつつ、見比べてみて自分が気付いた追加シーンは上記の通りでした。

完全版の方が捕虜収容所のトゥーコ拷問シーンが長かった気がしていたけど、ここは全く同じ。

見比べるとそんなにたくさんのシーンが追加されているわけではないと思うのですが、テンポはかなり変わるように感じました。

特にトゥーコの洞窟の場面、エンジェル・アイズが南軍兵士と会う場面はあるかないかで全体の印象が変わり、完全版は良くも悪くも〝重厚な大作感〟が増しているように思いました。

 

どちらか1つを選べと言われたら、自分はテンポよく純度の高いエンタメ映画してる短縮版の方が好き。
(こういうのは”最初にみたバージョンが自分の1番”になりがちな気がしますが)

でも先日劇場で鑑賞した際には、完全版を長いと感じることがなく、壮大さが増していてこれはこれで素晴らしいと思いました。

 

字幕や日本語吹替の違いについては追っていませんが、日本語吹替版のオリジナル…「俺汚ねえやつ/俺悪いやつ/俺いいひと」のナレーションはユーモラスでビタっとハマっていて好き。

トゥーコの「ごめんなさーい」もトゥーコなら言いそう(笑)と思って、違和感ゼロ。

吹替は吹替で味があって素晴らしいです。

そのうち完全版・短縮版の両方が収録された4KBlu-rayが国内でリリースされるのかな…

 

初めて観た時の衝撃的に面白かった記憶がありつつ、劇場で完全版を鑑賞できたのも最高の体験でした。

 

「マシンガン・パニック/笑う警官」…マルティン・ベック映画化作品、完全に別物でなんじゃこりゃ⁉

スウェーデンの警察小説、マルティン・ベックシリーズの最高傑作として名高い第4作目「笑う警官」。

なんとウォルター・マッソー主演でアメリカで映画化されているとのこと。

サブウェイ・パニック」に便乗したかのような邦題ですが、制作されたのは73年とこちらが先のようです。

スウェーデン独特の寒々しい雰囲気ってアメリカ映画だと出すのが難しそう…自分はフィンチャーの「ドラゴンタトゥーの女」も物足りなく感じてしまって、観る前から嫌な予感がするなーと思ったら、清々しい位別モノになっていてびっくり(笑)。

舞台はサンフランシスコ。70年代アメリカの雰囲気は素晴らしいけど、脚色がダメダメで残念映画になっていました。

 

◇◇◇

ある男を尾行していた若手刑事のエバンス。 

バスに乗ると、しばらく経って乗ってきた客の1人が突然マシンガンを乱射し、乗客たちは凶弾に倒れてしまいます…

 

冒頭から刑事が尾行している場面を映し切ってしまっていて、真相を探る楽しみが激減。

原作だと2階立てバスの2階から犯人が突然現れて…というのに説得力があったけど、こっちは後部座席で犯人が銃組み立ててるのに誰も気付かないのが不自然な気も…

どうしても本と比較して色々思ってしまいますが、制御不能のバスがサンフランシスコの坂道を下って舗道に激突する場面はなかなか迫力のある画が撮れています。

 

事件の調査に乗り出すのはエバンス刑事の上司だったジェイク・マーティン。

主人公の名前、マルティン・ベックに合わせる気もさらさらない(笑)。

この主人公のジェイク、女性を突然ビンタして情報を聞き出そうとしたり、同僚の刑事に冷たかったりと、かなりの荒くれ者。

ウォルター・マッソーのイメージにも合ってないような…

主人公の家庭が上手くいってないのは小説と同じですが、仕事の愚痴をベラベラ奥さんにぶちまけるジェイク。

「寡黙で忍耐強い原作マルティンはどこなのよ!?」とびっくり仰天な人物像になっていました。

 

そしてジェイクの相棒刑事としてレオというキャラクターが登場。

立ち位置的にはコルベリとラーソンを併せたような人物です。

女好きで色目使いまくり、仕事は雑で態度は横柄…とこちらもかなりの問題児。

それにしても髭面のブルース・ダーンインパクト絶大。ユーモラスな演技も上手くて原作とは別モノで面白いキャラクターでした。

 

複数の刑事が聞き込み調査をしていくところは原作と同じなものの、聞き込み先がポルノ小屋、ゲイバー…と70年代アメリカの風俗を映し出したような場所ばかり。

仏教徒のような格好をしたヒッピー集団が現れたり、ポン引きの男と娼婦の喧嘩に出会したり…話はつまらないけど、当時の生活感溢れるディテールの部分はフリードキン映画のような臨場感で面白いです。

同僚刑事役がルイス・ゴセット・ジュニアだったり、聞き込み先の看護師役がジョアンナ・キャシディだったり、キャストも何気に豪華。

タレコミ屋のジジイからヤクの売人まで、役者陣の顔は皆本当に素晴らしかったです。

 

聞き込みだけじゃ画が地味すぎると思ったのか、ベトナム帰還兵による立てこもり事件が話の本筋に全く関係なく挿入。

死んだ若手刑事が過去の未解決事件を追っていたという真相は原作と同じなものの、隠れゲイの夫が妻を殺害したという、これまた全く違うアメリカンな事件になっていてびっくり。

ジェイク本人が2年前に事件を担当しており、証拠不十分で逮捕できなかった犯人を捕まえようと躍起になりますが、死んだエバンスと同じく尾行で犯人にプレッシャーをかけて自分にマシンガンを向けてくるよう誘導するジェイク。

市民を巻き込んでいて危険だし、こんな誘いに乗ってくる犯人の頭もどうなってんのよ…と後半の脚本がダメダメで、何が起こっているのかも分かりにくい。

クライマックスにカーチェイスを無理矢理入れてくるも、アクション映画としても中途半端で、どっちつかずの作品になっていました。

 

作品の1番の見所はマッソーとダーンのチグハグコンビのバディ感!?

相棒に塩対応かと思いきや「俺の頼みを聞いてくれ」と急に頼ってきたり謎にツンデレウォルター・マッソー

「俺は年金さえ貰えればいい」とか言いつつ、ジェイクに認められたいのか躍起になって捜査するブルース・ダーン

刑事2人の食事シーン。イタ飯を食べるときは厨房の真横のテーブル、タコスを食べるときは小汚い手作り工場のバックヤード…と謎に臨場感ある現場風景がオモロかったです。

 

ネットで「笑う警官 映画」と検索するとサジェストで〝ひどい〟と出てくるのですが、どうやらこの作品のことではなく2009年に角川春樹が制作した映画が酷い出来だった模様(笑)。 

この作品は酷いというほどではないと思うけど、めちゃくちゃ面白い原作を読んだ後にみるとガッカリ。

以前観たスウェーデン製作の「刑事マルティン・ベック」(小説第7作目の映画化)の方が遥かに面白く、原作の空気感が見事に再現されていて傑作でした。

dounagadachs.hatenablog.com

 

同じキャストとロケーションならブルース・ダーンベトナム帰還兵が大暴れする映画が観たかったかも(笑)。

マシンガン・パニック、笑う警官…どっちにしてもタイトル詐欺…!!

 

刑事マルティン・ベック「笑う警官」…シリーズ最高傑作の呼び声高い第4作目

警察小説の金字塔と呼ばれるマルティン・ベックシリーズの中でエドガー賞を受賞しており、最高傑作の呼び声が高い第4作目。

新訳シリーズとして刊行された角川文庫は1作目「ロセアンナ」からではなく、この4作目から出版していることからしても、1番人気の作品であることが伺えますが、個人的には1から順番に読んでいってよかったと思う次第。

群像劇要素の強いこのシリーズ、個々のキャラクターを掴んでこその面白さがあって、特に本作は〝1〟で登場した警察官がキーパーソンなっていることもあり、順番に読まないと感じられない人間ドラマがあると思いました。

(そういう自分も〝7〟の映画化作品からこのシリーズに入ったので、真っ当な順路で進んではいないのですが…)

 

◇◇◇

ベトナム戦争反対の世論が強まるスウェーデン。反米デモの夜、ストックホルムの夜バスで8人が銃殺された。

大量殺人事件に世間は凍りつくが、8人の乗客の中にはベックの後輩である刑事が乗り合わせていた。

狂った無差別犯による凶行だという見方が強い中、死んだ刑事の行動を追ったベックは、彼の知られざる一面を発見してしまう…

 

冒頭では〝3〟(バルコニーの男)で偶然犯人逮捕の手柄をあげたクリスチャンソンとクヴァントのコンビが再登場。

またもや神引きでドデカい事件の第一発見者となりますが、現場を保存しなかったせいで初っ端から捜査が難航モードに。

私生活第一、ビタ一文余計な仕事はしたくない…徹底した省エネモードが清々しいこの2人。

間抜けでもっさりしたコンビですが、こういう仕事のスタンスもあるあるだと思って、どこか親しみも湧くユーモラスなキャラクターです。

 

なぜかバスに乗り合わせていて銃弾の犠牲になったのはベックの後輩・ステンストルム。

1作目「ロセアンナ」で尾行の名人として登場、休暇中も上司のベックに律儀に絵葉書を送る姿が微笑ましかった若い警察官。

偶然乗り合わせていただけなのか、私生活に暗いものがあって彼を殺すための事件だったのか…仲間のプライベートを探っていく捜査に妙な緊張感が走ります。

職場のデスクからはガールフレンドのエロ写真が大量に発見。いい奴そうにみえて実はとんでもなくヤバい奴だったのか!?

職場で長い時間一緒にいたのに同僚のことなんて何も知らないかもしれない…というベックの心中にリアリティを感じました。

 

(ここから真相ネタバレ)

実は過去の未解決事件をたった1人で追いかけていたステンストルム。

真面目ゆえに名をあげたい野心も人一倍強く、警察のお偉いさんが「過去の未解決事件」の課題を割り振った時、1番有名な事件を解決したるぞ!!と息巻いてしまったようです。

個性が強かったり何か特技があったり…マルティンチームの中にいて実は劣等感があったのかも、と推察したベックの予想が大当たり。

「銃を持っていないとセックスできなかった」という性生活のエピソード然り、ごく普通に見える男が内に抱えるコンプレックス、男らしさを求められる過酷な仕事でのストレス…正義側のはずの警察官が危うい人物として描かれているのが非常にスリリング。

前シリーズを読んでいるとコルベリがステンストルムに当たりが強かったことが思い出されますが、「叩けば伸びると思った」って結構なパワハラ思考。

警察という激務ゆえ和気あいあいな職場ではいられないのだろうけど、言葉足らずで体育会系な部分もリアルに映りました。

 

被害者の数が多いため、複数人で聞き込み調査にのぞむも、皆バラバラの推理をしながら捜査が進んでいくのが本作の1番面白いところ。

それぞれ追っているものが線になることもあれば、全く繋がらない点のまま終わってしまうことも…

やった仕事のうち報われるのはごく僅か。この徒労感、孤独感こそがシリーズの1番の持ち味のように思われます。

 

キャラクターの中で今回株が爆上がりだったのはルン。

ベックとコルベリからの評価はなぜか低いですが、1人生き残った重体の被害者からダイイングメッセージを聞き出すことに成功。

抜かりなくしっかり仕事してて、揉め事起こさずにどんな同僚とも組めるルン、組織の中ではかなり重宝しそうな存在。

 

3作目では問題児だったラーソンは、粗暴だけど仕事には真摯。

記者会見で「これより悲惨な光景をみたことがあるか」と問われて脳裏に思い浮かべる軍人時代の記憶が壮絶。

「ほとんどステンストルムがやったことだ」…1番いい台詞あんたが言うのかよ!!

破天荒かと思いきや時折みせる常識人ムーブにギャップ萌えさせられます。

 

その他、田舎町から助っ人として招集されたモルディンとノーランは慣れない土地で奮闘。

ベックたちが小馬鹿にして感じが悪いのにびっくり。

聞き込み調査で接する人たちもどこか独特のオーラを放っていて、移民労働者が詰め込まれた狭いアパートのむさ苦しい空気、休憩中の看護婦が勢いよく食事を平らげるところなど、些細な描写が迫真でありました。

 

結局バス乱射事件は未解決事件の犯人が過去の犯罪を暴かれることを恐れて引き起こしたものだと判明。

相手を尾行していたステンストルムが返り討ちにあってしまった…というのが真相。

標的を殺すためにいとも簡単に他の乗客を巻き添えにする犯人が恐ろしすぎる…

蓋を開けてみれば狂った無差別犯とは真逆の、高く社会適応した人間が持っている物を失うことを恐れて計画的に行なった犯行。

身勝手極まる犯人の自殺はせめて食い止められてよかった…ラストは胸を撫で下ろすような気持ちになりました。

元の事件の被害者女性は”お堅い生娘タイプ”から一気に堕落して”性欲暴走マシーン”と化したようで…1作目の「ロセアンナ」もそうでしたが、キリスト教社会の抑圧的部分と、時代が進んできての開放的なムードと…2つに引き裂かれたような闇深なキャラクター像でありました。

 

後半に突然過去の未解決事件の話が出てくるなど、スマートに伏線を回収するタイプのミステリではないと思いますが、捜査陣営を含めて見せられる多種多様な人間ドラマが面白く、真相まで一気に読ませました。

「笑う警官」というタイトルは、デカいヤマの真相を引き当てていよいよ自分の能力を示せるぞ…と心の内で笑っていたステンストルムの無我夢中な姿。

仕事のことばかり考えていて私生活では子供といるときでさえ笑顔がない人間になってしまったものの、自分のしでかした下らないポカに対して苦笑いしてしまうラストの主人公の姿。

いざ読むと思っていた以上に渋いタイトルでありました。

シーズン的には秋冬が舞台ですが、「クリスマスなんて資本主義の豚どもの祭りなど愚劣の極み!」という作者の強い思想が伝わってきて、その辛辣さに笑ってしまいました。

 

角川文庫の新訳、読みやすくて自分は不満はないのですが、冒頭ページに現場バスの見取り図なるものが掲載されており、被害者の中にステンストルムの名前がバッチリ載っていました。

登場人物が多いので分かりやすい配慮ではありますが、ネタバレを食らったような気持ちになって複雑。

同僚の死の知らせを受けたベックが「コルベリがやられたのでは…」と動揺するところも序盤の見せ場だと思ったので、間のページに挟んでくれると有難かったかも。

また後書きのスウェーデン人作家がコメントを寄せているコーナーでは、全10作に関するネタバレ的内容がしれっと載せられていました。

この4作目だけのネタバレならともかく、シリーズ10作分の内容に言及するものだったので、ちょっとショック。

こちらには注意書きを付けておいて欲しかったです。

 

4作読んで各キャラクターに思い入れが出てくる頃。個人的にはベック&コルベリコンビより、ラーソン&ルンコンビの方が好きかも(笑)。

また次作も楽しみに読みたいと思います。

 

「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」を午前十時の映画祭でみてきました

午前十時の映画祭、今シーズンのトップバッターはインディ・ジョーンズ3作が1週間ごとに1作ずつ上映。

ゴールデンウィークは「ティファニーで朝食を」が2週上映になっていて、インディの方を連休に長めにやってくれや…この忙しい時期にドル3部作とも上映期間が重なってなかなか厳しい…と思ったけれど、なんとか1番好きな「魔宮の伝説」だけ観に行ってきました。

自分にとって「魔宮の伝説」は子供の頃テレビ放映で観て夢中になった作品。

日本語吹替で脳内再生されてしまうので、今回字幕でみるのが大変新鮮でありました。

ショート役のキー・ホイ・クァン、こんなに子供らしい高い声だったのか…とびっくり。

田中真弓さんのショーティはもっと口が悪くて生意気な印象(笑)。オリジナルは健気さと可愛らしさが増していました。

ウィリーも日本語吹替の藤田淑子さんの〝綺麗なやかまし声〟の印象が強かったけど、ケイト・キャプショーの声は普通にうるさかった(笑)。

2人ともインディに一歩も引けをとらず、3人の関係が対等なのがいいなと思いました。

 

映画評論家の双葉先生も絶賛しておられた古き良きミュージカルなオープニング。

冒険映画が始まると思いきや突如広がる「雨に唄えば」的世界…冒頭の掴みが本当に素晴らしく、スクリーンでみると一層豪華で胸が高まりました。

考古学者とは思えないまるでジェームズ・ボンドなインディ博士ですが、開幕から矢継ぎ早にくるアクションシーンはまさにジェットコースターに乗っているよう。

子供の頃「インディ2作目が1番好き」というと親から「2が1番中身空っぽで趣味が悪い」とよく言われたけど(笑)、B級ホラー味が強いのは確か。

禍々しい邪教集団の敵、心臓鷲掴みのグロシーン…

敵の死に方も、天井のファンに首吊られて死ぬ…ロールに身体を粉砕されて死ぬ…など痛覚に訴えかけてくるような死に様がグレート。

そして子供の頃びっくり仰天したゲテモノ料理のシーン。

テレビでみた翌日、怖かった、気持ち悪かったと友達と話すのも楽しかった思い出。

嘘っぱちで今だと色々怒られそうですが、「世界は広くて自分の知らないものがたくさんある…!!」みたいなロマンが、この頃の映画やテレビにはあったなあと思います。

 

劇場で観ても最高だったのはやはりトロッコのシーン。

あのスピード感と迫力、大画面で観ると本当にアトラクションに乗ったような心地でテンションだだ上がりでした。

ミニチュアで撮って合成されたらしいですが、よく出来ていて圧巻!!

靴に火がついて水、水…の展開は大がかりなコントみたいで何度みても大爆笑。

断崖絶壁→めっちゃボロい橋→下には人喰いワニ…どんだけ盛るねんというスピルバーグのドSっぷりが凄まじいです。

最後の村復興するの早すぎやろ…あの石残り4個はどないなったんやろ…劇場であらたまってみるとツッコミどころもチラホラありつつ、子供たちが笑顔で帰ってくるラストにニッコリ。

中年になっても最高に美味しいお子様ランチでした。

 

3作続けてみるのがベストなのは間違いないと思いますが、エポックメイキングな「レイダース」は何気に観てる回数が1番少なくてまた久々に観てみたいなあ。

「最後の聖戦」もよくテレビ放映していてリヴァー・フェニックスと全然顔似てないよなあと思いつつ、3のオープニングも大好きでした。

終わり方も美しくて、自分の中ではやっぱりインディは3で完結。(4にガックリきて去年公開された5は結局観てないまま…)

 

劇場での鑑賞は初でしたが、懐かしさで胸がいっぱい。この年代のハリウッド映画はなんてパワフルなんだ…!!

大きなスクリーンで観れたので音も映像も大迫力、遊園地に行って帰ってきたような夢見心地の2時間でした。

 

「群盗荒野を裂く」…革命と友情、異色マカロニ・ウエスタンの傑作

ジャン・マリア・ボロンテ主演、社会派監督として名高いダミアーノ・ダミアーニ監督による66年のマカロニ・ウエスタン。

ボロンテが「夕陽のガンマン」とまったく異なるイメージの役を演じているらしく、未見だったのを初鑑賞。

格好いいガンファイトなどはなくあまりマカロニらしくない作品だったけど、すごく面白かった…!!

メキシコ革命を舞台にした作品で、奥深い。

スピーディにアクションが展開する娯楽作でありつつ、ストーリーは二転三転してサスペンスフル。

ワイルドバンチ」が好きな人には絶対に刺さりそう。

男の友情(を超えた何か)に胸をギューと掴まれつつ、ラストの素晴らしさにノックアウトされました。

 

◇◇◇

1910年代…革命軍と政府軍の争いが激化するメキシコ。

野盗団のボス・チュンチョ(ボロンテ)は政府軍から武器弾薬を奪い、革命軍の将軍・エリアスに売りつけていました。

ある日政府の輸送列車を襲撃した際、アメリカ人青年・ビルと出会います。

野盗団に協力したビルを仲間に引き入れた一味は軍施設への襲撃を繰り返しますが…

 

冒頭の列車襲撃シーンから先が読めず面白い。

線路上に磔にされた将校。

襲撃から逃れるためには上官を轢き殺さなければならないが、その決断ができない兵士のジレンマ。(上官も俺の屍を超えていけ…とは言わない)

組織に属する人間は大変ですね…

 

結局自らも死ぬことで列車を押し進めた中尉でしたが、謎の青年ビルが運転士を殺害しなぜか野盗団に協力。

護送中の賞金首を装ったビルは「行く当てがないから」と野盗団の一味に加えてもらいます。

一体ビルの目的は何なのか…ベビーフェイスのルー・カステルがミステリアス。

自分と違って学があり、意外に度胸もあるビルをチュンチョは高く買って気に入った様子。

 

その後も矢継ぎ早に襲撃を繰り返す一行でしたが、他のメンバーも皆個性的で破天荒な者ばかり。

チュンチョの弟だというサントは神父なのに人を殺しまくるとんでもない奴ですが、一味が金儲けではなく無償で将軍に協力していると信じているピュアな人間でもあります。

三位一体を唱えながら手榴弾投げつけるクラウス・キンスキーがアナーキーすぎる(笑)。

 

気の強そうな美人・アデリータはチームの紅一点。

盗人猛々しく強奪したドレスを艶やかに着こなすも、「地主に14歳のとき暴行された」と語る悲惨な過去の持ち主で、権力者には容赦ない…!!

 

あるとき一行は政府軍から解放されたサンミゲルの村に身を寄せ、そこで機関銃を手に入れることに成功します。

革命の同志たちに共鳴し村に残ろうとするチュンチョと、「さっさと武器を売りに行こう」と金銭第一なメンバーとで意見が対立してしまいます。

権力者を倒すまではいいものの、次のリーダーを選んで自分たちでやっていくことの難しさ、自衛できる兵の育成の課題など、その先が大変なんだという村の描写が何ともリアル。

村ではチュンチョをリーダーにと推す声が上がるも、自分は読み書きできない、地元の人間じゃない…と辞退するチュンチョ。

名誉欲に溺れるかと思いきやなかなか筋の通った奴…!!

何の躊躇いもなく兵士を殺したり、ときには仲間を撃ったり…ろくでもない悪党に違いないチュンチョですが、刹那的にそのとき自分の思った通りに行動する、嘘偽りない生き様はどこか眩しく映り、不思議と魅力を感じる主人公であります。

 

仲間と別れて村に残ることにしたものの、機関銃を盗られたことを知ったチュンチョは、一味の後を追いかけて結局合流。

しかし途中出会した政府軍との戦いで一味はほぼ壊滅してしまいます。

2人残ったチュンチョとビルは武器を届けに将軍の下へと向かうことにしますが…

 

(ここからどんでん返しありネタバレ)

武器を届けると、「村が政府軍に襲われて壊滅した」という衝撃の知らせが。

「お前が金儲け優先で村の武器をここに持ってきたからだろ」と遠回しに非難され、死刑宣告されてしまうチュンチョ。

言い訳するかと思いきやチュンチョは進んで刑を受け入れます。

大局的に物が見れないアホゆえ翻弄されるけれど、筋だけは通っているから何とも見上げた奴。

ところが、そんな中ビルが将軍を狙撃し暗殺…!!

何とビルは政府軍から雇われたヒットマンで、将軍を殺るために一味に潜伏していたのでした…

 

何となくビルの目的は中盤から読めるものの、終盤さらに話が二転三転。

ギャラの10万ドルの半分をチュンチョに差し出し、2人でアメリカに行こうと誘うビル。

金貨に魅せられ、貴族的装いに身を包み人生を再出発させようとするチュンチョでしたが、駅で並んでいるメキシコ人たちを押し除けて横入りするビルの姿をみて、一瞬で我に帰ります…

金のことしか考えてないふんぞり返ったクソ野郎はくたばりやがれ…!!

突然友をピストルで射殺するチュンチョ。

最後の最後に自分を偽ることを拒否したボロンテの姿がこれまた刹那的でありつつも美しかったです。

 

いかにもこの年代の左翼映画というムードではあるのですが、説教臭くなく、視点がフラットなのが奥深いと思いました。

途中に登場した地主夫婦は、権力者サイドの人間で、農民を搾取していた悪い奴なんだろうと察せられますが、野盗団に妻が毅然と立ち向かい、夫婦愛し合っている姿をみせるところには善性を感じさせます。

一方チュンチョたち一味は表向きは正義の革命を謳いつつも、実はそれに便乗して金儲けしたいだけの欺瞞に満ちた人間だったりして、各人物の立ち位置が複雑。

どんな人間にも善と悪の一面が…のキャラクター像が魅力的です。

 

抜け目ない計画的犯行で見事ターゲットを仕留めたビルは、自分の利益をどこまでも追求する冷徹なアメリカ人ビジネスマンとして描かれていました。

「好きなものは金」と割り切った答えが清々しい(笑)。

でもチュンチョや途中アデリータにも「一緒にアメリカへ…」と声をかけていたあたり、こいつもやっぱりどっかで寂しかったんじゃないでしょうか…

ただの裏切り者キャラにはなっていなくてどこか憎めず、銭ゲバ野郎が利害を度外視して誘ったアメリカへの旅…自分と正反対のチュンチョに強く惹きつけられていたのでは…とBL脳が炸裂せずにはいられないクライマックスに悶えました。

 

年代的には反ベトナム戦争のムードと一致しそうな本作。

お互い惹かれるものがあっても、違う国に属すものどうし相容れないものもある…差別している特権階級は自分が差別しているとも思っていないけど相手の逆鱗に触れることもある…別離の結末にリアルを感じました。

祖国を見下し自分さえ良ければいい主義な友の醜悪さを目の当たりにしてふと我に帰る、ラストの何でもない展開が胸熱。

何より「自分はこういう人間だ!」と開き直ったかのような主人公の笑顔が爽快で、ありのままの自分でいることを選んだ姿に誠実さと救いを感じました。

 

原題:Quién sabe?(知ったことか)…人には理屈どうこうではなく説明できない感情で動く瞬間がある…タイトルもカッコいいですね。

(自分は邦題はそんなに悪くないと思いますが、英題:A Bullet for the Generalは完全なネタバレでよくない)

底抜けに朗らかでありつつどこかノスタルジックなメキシカンな音楽もピッタリ。

マカロニ・ウエスタン本当にいろんな作品があるなあ…と感心の傑作でありました。