リメイク版、『ドーン・オブ・ザ・デッド』についての感想。

ドーン・オブ・ザ・デッド』('04 原題:Dawn of the Dead)

 

 ザック・スナイダー(Zack Snyder)監督作。1978年に公開された『ゾンビ』(原題:"Zombie/Dawn of the Dead")のリメイク作品である。その後、『300 〈スリーハンドレッド〉』('07 原題:"300")や、『ウォッチメン』('09 原題:"Watchmen")を撮るザック・スナイダーの出世作と言えるだろう。脚本は、『スーパー!』('10 原題:"SUPER")のJames Gunn。

 

 ゾンビに追いかけ回される映画である。また、この映画のゾンビはゾンビとは思えない速度で全力疾走してくる。とても恐ろしい。

 1978年のGeorge Andrew Romeroによるオリジナル版と同じように、物語の舞台はショッピンモールが主となっている。ゾンビは死んでいながらも、生前と同じ行動を繰り返すためショッピングモールに集まる。ショッピングモールに集まる生ける亡者たちという構図は、大衆消費社会を批判してるという。

 このリメイクは小さいながらも中身がぎゅっと詰まった良作だった。病院でナースを勤める主人公の視点を通じて、序盤からウィルスによる感染を示唆するようなシーンが幾つも織り込まれている。救急車の中から足を突き出して倒れている人を発見して、不吉な音楽とともに声をかけると仮眠を取っていた同僚だった、というような細かい不吉な予兆の演出なども良い。追いかけてくるゾンビを、逃げる車のフロントにカメラを付けて1カットで撮影するシーンや、チェスの駒の視点から登場人物を捉える構図など気の利いたカットが多かった。カメラの撮り方がクールなのである。

 何より魅力的だったのは「人間」の描き方である。この映画の秀逸なところは走るゾンビではなく人間のほうだ。ゾンビに覆われた社会のなかで、生存者にで会った場合、まず何を感じるかといったら、それは「疑念」だろう。彼は本当にゾンビではないのか、仮に人間だったとして友好的なのか、それとも敵対的なのか、彼は何者なのか、そのような猜疑の心をまず最初に抱くのではないだろうか。この作品ではそれが緻密に描かれている。主人公が最初に出会う生存者の保安官は、主人公に銃を向け人間であることを確認した後に、特に会話を交わすでもなく立ち去ろうとする。主人公は何となくその後を付いていくだけだ。彼に限らず、生存者と生存者が出くわす瞬間は、お互いに銃を向けるところから始まるのである。

 また、主人公たちがショッピングモールで、篭城した従業員と思われる生存者のチームと出くわしたとき、エレベーターのドアを挟んで緊張が起こる。安全な場所に避難したいという主人公たちと、外部の人間を入れたくないという従業員たちとが、何度も閉まろうとするドア(と、閉まるのを制する手の動き)によって、お互いに発砲しかねない一色触発の攻防が表現されている。
 それぞれのキャラクターはそれぞれのバックグラウンドを抱えている。ややひ弱そうで、和解を促すキャラクターが、重要なタイミングで武力行使を行い、徐々にそのキャラクターが冷静で即物的な判断を示す一面をみせていく。また、自分のことを敵対視し、銃を向ける人間に対してたった1言、その人間の名前を把握して名前で呼びかけることで、彼の損得勘定に話しかけるのではなく、1人の人間としての「彼」に話しかけようとする。利害を超えて他者が協力するには、対話をもってする方法しかないのである。それぞれのパーソナリティがさりげなく示され、絶望と希望の輪の中で、序所に連帯が立ち上がるその様は美しい。