えびでんすべーすど

計量経済学の実証研究を紹介します。その他もろもろの備忘録にも使います。

テレビの力、無限大 ①

こんにちわ。

春休み中に記事を書きまくろうという魂胆で、早速二つ目の実証研究の紹介をしたいと思います。

 

今回の論文は長いので、今日は概要を説明するだけにします。

しかし、なぜこのテーマが大事なのか、という実証研究にとって欠かせない要素も扱いますので、是非とも読んでみてください。

 

論文の概要

さて、まずは下のグラフをご覧ください。

f:id:econmet:20160115130220p:plain

上のグラフは1960年から2013年間の、アメリカ、日本、ブラジルにおける合計特殊出生率の推移を私がグラフにしたものです。*1

 

どの色がどの国か当てることができますか?

センター試験の地理みたいな問題ですね*2。少し考えてみてください。

 

わかりましたか?

 

正解は、

青:ブラジル

赤:日本

緑:アメリカ

です。

 

では次に、同じ3国の一人当たりGNIの推移を同じタイムスパンでグラフにしてみましょう。

以下のようになります。

f:id:econmet:20160115131711p:plain

 

みなさんにお伝えしたいことは、

「ブラジルの出生率低すぎね?」

ということです。

 

一般に、国単位の出生率というものはその国の豊かさと負の相関を持つと言われています。

つまり、豊かであるほど、出生率は下がる傾向がある。ということです。

要因としては、先進国であるほど女性の社会進出が進んでおり、それによって晩婚化が顕著になってきたことや、先進国では子供を幼い頃から労働力とするような労働集約的な産業がメジャーでなくなっていること、またそれにともない教育への投資がおおきな価値を生むようになっていること、などが挙げられます。

 

実際に、2013年度の一人あたりGNI(対数)と出生率のデータを散布図に示すと以下のようになります。

f:id:econmet:20160115134204p:plain

 

ざっくり作ったので、下に張り付いてる奴がいるとかそういうことはここでは気にしないでください。(おい)

また、中に書かれている直線は、近似直線と呼ばれるものです。だいたいこういう直線の上にデータが乗るよっていうことを示すものだと思いましょう。

 

上の散布図から

豊かであるほど出生率が下がる

という関係が一般的に存在することはわかっていただけたと思います。

 

さて、話をブラジルにもどしましょう。

日本やアメリカと比べると一人当たりGNIは格段に低いですね。

ならば、先ほど散布図から導いた一般論から言うと、ブラジルの出生率は日本やアメリカよりも大きくなっているはずです。

しかしどうでしょう。

最初に見ていただいたグラフでは、ブラジルとその他二国の間に出生率の差はほとんど存在せず、なんならアメリカよりも出生率が低い時期すらあったことが見て取れます。

 

これは一体どういうことなのでしょうか?

ブラジル独自の文化によるものなのか、それとも何かしら外的要因が存在するのか…

様々な分野の学者がこの問題を議論し、ブラジルにおける出生率低下の原因を探し求めてきました。

 

こうした議論の中で、社会学の文脈から一つの仮説が浮かび上がってきます。

その仮説とは、ブラジル人が普段見ているドラマの影響で出生率の低下が起こっているというものでした。

 

は?

 

ドラマの影響で子供を産まなくなる?そんなにテレビって影響力持ってんのかよ?

って思いますよね。

 

その疑問は至極当然です。日本のテレビはつまんないですからね

しかし、もしこの仮説が正しいとするなら、それはとても大きな政策的含意を持っています。

 

例えばあなたが政府に勤めていて、国民の健康状態を改善することが使命だとしましょう。

あなたの国では、現在エイズが蔓延しており、どうにかしてこの拡大を食い止めなくてはなりません。

あなたの国では、エイズの主な感染拡大経路が感染者との性交渉であることが判明しているとしましょう。

エイズは感染者の母乳や精液などの体液が、粘膜部分や傷口に触れることで感染するものです。なので、エイズの感染拡大防止には、国民の避妊具使用率を上げることが効果的であると考えられます。

そう考えたあなたは避妊具の使用率アップのためのキャンペーンを行うことにしました。

さて、あなたはどういった手段で国民にメッセージを発すれば良いのでしょう?

 

国の予算は無限ではありません。ここは、できるだけ効率よくメッセージを発していきたいところです。

そのためには何が国民にとってもっとも影響力のあるメディアなのかを明らかにする必要があります。

ここで、あなたは学生時代に読んだ論文で、テレビドラマの影響でブラジルの出生率が低下していたことを示したものがあったことを思い出すのです。

 

出生率を変化させるほどに影響力のあるテレビドラマという手段を使えば、効果的に避妊具の使用率を向上させることができる!

そう考えたあなたは脚本家に依頼して、避妊具が大活躍するドラマ(笑)を書いてもらいました。

効果はてきめん。国民は避妊具の大事さを理解し、結果としてエイズの感染拡大を食い止めることに成功しました。

めでたしめでたし

 

まぁ避妊具が活躍するドラマ、というのは冗談ですが、

国民にとってもっとも影響力のあるメディアの特定というのは、以上述べた通り国の政策運営のあり方を決定する非常に大きな要素なのです。

 

ということで、先の仮説をどうにかして検証する必要が出てきました。

必要があれば誰かが動くものです。実際に実証分析が行われ、2008年に

Soap Operas and Fertility : Evidence from Brazil

という論文にまとめられました。

 

今回紹介するのはこの論文です。

この論文は、5000通の履歴書論文とは違い、純粋な観察データを用いた本格的な実証研究です。*3非常に読み応えがあるので、ゆっくりと読んでいきましょう。

 

 

終わりに

冒頭に述べたように、今回は概要の説明で終わりにしたいと思います。

次回は論文の解説に入る前に、論文で使われている手法の解説をしたいと思います。

つまんないかもしれませんが、知らなきゃよめないので、ぜひとも御覧ください。

*1:出典:

http://data.worldbank.org/country/united-states

*2:あれ意外とむずいですよね

*3:履歴書論文が本格的じゃないとは言っていないです。

大輔は光宙(ぴかちゅう)よりも、結衣は音音(のんのん)よりも就職に有利? ②

 

こんにちは今日は履歴書論文の結果を書きたいと思います。

今回は経済学の実証研究でおなじみの表が出てくるので、その見方の説明もしたいと思っています。

 

では早速行きましょう。ラキーシャとハマルの運命やいかに…

 

結果を見る前に

さて、前回5000通の履歴書を実際に企業に送りつけたところまで見ました。

結果に入る前に、復習も兼ねてもう少し詳しくこの実験の概要を見ておきましょう。

 

科学的な方法論として、「二つの変数の関係」を抽出したいときに最も注意すべきことは「他の条件を等しくする」ということです。

他の条件を等しくして、関係性を知りたいたった一つの変数だけ変化させたとします。その時得られる反応の差は、変化させた変数によるものでしかありえません。

科学という枠組みではこのように二つの事象の間に因果関係を見出すのが普通なのです。

 

社会科学たる経済学でもこれは同様です。

今回の論文で興味があるのは、「選考の突破率」と「名前がアフリカンアメリカン的である」との関係性です。

そのために、資格や学歴、職歴、性別、出身地などの要素をほとんど同じにした上で、名前がアフリカンアメリカン的である人とそうでない人との選考突破率の差を見るということになります。

 

ところが、現実にはそんな都合のいい人がいないのです。

そこで、名前以外はほぼ同じ履歴書を大量に用意することになったのでした。

 

以上が基本的な論文のフレームワークですが、追加的な枠組みがいくつかあるので、そちらも紹介します。

 

こういった社会実験的な行いは莫大な費用と労力を必要とするものです。今回は5000通もの履歴書を作成したのですから、相当の労作だと思われます。

万が一にも、このフレームワークで明快な結果が出なかったら… 論文をジャーナル*1に載せることはできません。そうなれば作業員たちに謝礼金を払うこともできず、自身のキャリアも閉ざされ、暗黒の未来が始まります。

 

そうならないために、賢い経済学者はサブプランを用意するものです。

一つの調査でいろんなことを調べられるように、実験のやり方を工夫するわけです。

今回は主に以下の2つのサブプランを用意していました。

  1. 高スキル人材であることの効果を白人とアフリカンアメリカンとで比べる
  2. 産業種別や事業規模によって差別の度合いが異なるかを調べる

もしメインテーマがポシャっても、これら2つでなんとか論文を書いてやろうという気概が感じられますね。いいと思います。

 

では、以上の2つも含めて結果を見ていくことにしましょう!

 

結果

 下のTable 1を見てください。

本論文メインの結果はこの一枚の表だけから見て取れます。

f:id:econmet:20160114190452p:plain

1列目に注目です。

約5000通の履歴書全てに対しての選考突破率が、名前の種類別に表示されています。

1行目が白人的な名前の履歴書、2行目がアフリカンアメリカン的な名前の履歴書に対しての結果です。数字の下にある括弧の中にあるのは送った履歴書の総数です。

3行目は白人の選考突破率が、アフリカンアメリカンのそれに比べて何倍であったかを示し、 4行目が、その差を示しています。

 

4行目の数字の下に、なにやら括弧で囲まれた数値があります。

これはP値というものです。

P値というものをちゃんと勉強しようとすると大変なので、ここでは「小さければ小さいほど、差が存在することの真実味が増す」ぐらいの存在だと思ってください。

 

Table1からは、白人とアフリカンアメリカンとで差を見たところ、そのP値が極めて小さいものになっていることがわかります。

すなわち、白人とアフリカンアメリカンとで、選考突破率に差があることがデータから確認できたということになります。

 

今回確認された差は、白人系の名前だと3.2%だけ選考突破率が上昇する

というものでした。

3行目のratioにもありますが、もともとの選考突破率が低いので、これは白人系の名前の方がアフリカンアメリカンよりも1.5倍選考を突破しやすいということになります。

こう聞くと、この差がどれだけ大きなものであるかがわかりますね。

 

また、筆者はこの差をさらに分かりやすいものにするために、「白人系の名前であることが選考突破率を上げる度合いが、就業年数を何年増やすことに相当するのか」を算出しています。

ここにおいても、まず他の状況を同じにした上で就業年数のみを変えた履歴書同士で結果を比べて…という努力があるわけです。*2

 

結果は、白人系の名前である事は8年長く就業していたことに相当する効果を持つ

というものでした。

格差の大きさが実感できる数字だと思います。

 

ということで、筆者は見事にメインのテーマを示すことに成功しました。

アメリカの労働市場において未だ人種差別は存在していたのです。

 

メインテーマはこれにて終了ですが、先ほどのサブテーマはどうだったのでしょうか。

以下に結果を記します。

  1. 高スキル人材であることによる選考突破率の上昇分は、白人系の名前である時の方がアフリカンアメリカン的な名前の時よりも大きかった。
  2. いかなる産業分野、事業規模であれ、格差の程度に差は確認されなかった。

 

1について見るべき表は以下のTable 4です。

f:id:econmet:20160115005142p:plain

 Panel A と書かれた上半分だけ見れば十分です。

 

この表を見ていきます。

実は、サブテーマの1つめを検証できるように、筆者あらかじめ一つの会社に対して4つの履歴書を送りつけていました。

 

その4つとは

  • 白人系の名前で高スキル
  • 白人系の名前で低スキル
  • アフリカンアメリカンの名前で高スキル
  • アフリカンアメリカンの名前で低スキル

です。

 

冒頭から述べている通り、分析の基本は「他を同じにする」でした。

ここでは、白人系の名前同士で高スキルと低スキルとの差を取り、アフリカンアメリカンについても同様のことをします。

そうして得られた選考突破率をまとめたのが上に提示したPanel Aの、highとlowです。

そして、一番右端に書いてある数値が今比べたいスキルによる選考突破率の差、となっています。

 

白人系の名前ではスキルによって2%以上の差が生まれるのに対し、アフリカンアメリカンの名前では0.5パーセントの差しか生まれていません。

 

しかも、先ほどのP値の話を思い出せば、アフリカンアメリカンの名前ではP値が大きすぎるので、スキルによって差が生まれるということの真実味すら薄いということもわかります。

ということでサブテーマの1つ目もデータから結果を明快に出すことができました。

 

2つ目のサブテーマは、論文の本体ではなく付録に表が載っており、ここでは提示しませんが、同じように業種ごとに格差の程度に差がないことが示されています。 

 

おわりに

とりあえず、今回の論文紹介は以上にしたいと思います。

メインの結果を伝えることができれば十分だと思うのでこのぐらいでいいでしょう。*3

 

みなさんは結果を見てどう思われたでしょうか?

 

以外と大きな差別ですよね。

年代的には今から10年以上前の論文になるので、現状どうなっているかはわかりませんが、アメリカが抱える人種問題の根深さを感じさせる結果だと思います。

このように、社会に対する新たな知見や皆がなんとなくは思っていることを、事実として表舞台に引きずり出すことができるのがデータ分析の力だと思います。

今回の論文はその強さを端的に表した優れた例ですね。

 

さて、今の時代便利なもので、今回の論文も名称でググれば本論文をダウンロードすることができます。

詳細が気になる方はそちらの方をどうぞご自分でお読みになってください。高校生ぐらいなら十分読めると思います。

 

これ以上どんな詳細があるんや。なんて思う方も多いと思いますが、実はめっちゃあります。

私は実証研究を紹介する際に、メインテーマについての結果と、その周辺ぐらいしか紹介しませんが、実際にはその他無数の(論文の本文に記載されないものも含めると本当に数え切れないほどの)分析が一つのデータに対してなされるものです。

これは実証研究の結果に真実味を持たせるために避けて通れない道であり、むしろ研究者の本質はこういった細部をどれだけ詰められるかにあると思います。

 

ということで、研究者の涙ぐましい努力をご覧になりたい方は是非とも下記のリンクより本論文にチャレンジしてみてください。

http://www.uh.edu/~adkugler/Bertrand&Mullainathan.pdf

 

今回は以上になります。

お付き合いいただきありがとうございました。

 

また、やっぱり統計的な用語がわかってる方が解説もしやすいということに気がついたので、必要最低限の知識をまとめた記事を近いうちに作ろうと思いました。

おたのしみに

 

 

*1:論文が載ってる月刊誌みたいなものです。週刊少年ジャンプみたいな

*2:本当に涙ぐましい

*3:決して疲れたとかそんな理由ではありません

大輔は光宙(ぴかちゅう)よりも、結衣は音音(のんのん)よりも就職に有利? ①

こんにちは。今日から実証分析の紹介をしていこうと思います。

内容の面白さを優先して、手法的な部分は飛ばし飛ばしいきますので、どなたでも事前知識なしで読めると思います。*1

今回扱う論文は、「差別」に関するものです。 初回から重い…

 

みたいな気もしますが、分析のアプローチがぶっ飛んでいて面白く、また難しい手法も使っていないので最初に紹介することにしました。

実は、この記事のタイトルは日本でこの論文をレプリケーションするならこうなるだろうな、というだけで、論文で実際に扱われている内容は「アフリカンアメリカンは白人よりも就職において不利なんじゃね?」というものです。

 

独創的な手法を用い、米国における永遠のテーマたりうる問題を扱いながら、かつ明確に結果を出した大変優れた研究だと思います。

以下詳しい解説に入ります。拙い文章ですが、最後までご覧いただけると嬉しいです。

 

論文の概要

今回は

"Are Emily and Greg More Employable than Lakisha and Jamal? A Field Experiment on Labor Market Discrimination"

という論文です。日本語訳すると、

「エミリーやグレッグはラキーシャやハマルよりも採用されやすいか?」

みたいな感じです。

 

普段からアメリカ人と触れ合っているわけではないですがけど、エミリーとかグレッグなんていう名前はいかにもアメリカ人っていう感じに聞こえますね。

一方ラキーシャはどうでしょう? 

なんだか色黒なラテン系のイメージが先行しませんか?少なくとも"WASP"*2のイメージは出てきません。

 

このように、「名前だけからその人物の民族、人種が想像できてしまう」というのが今回の論文の肝なのです。

 

ところで、

中高生の方々はまだ経験したことがないかもしれませんが、就活という通過儀礼にはいくつもの関門があります。

その第1の関門がエントリーシート、履歴書の提出というものです。

このエントリーシートには、志望動機にはじまり、自分の特技、強み、資格、経験などなどが、就活生によって地獄の思いで刻み込まれているわけです。

これは日本のみならず、世界どこでも事情は同じだそうで、私などはむしろ日本など甘っちょろい部類に入ると聞いて戦々恐々としているわけです。

 

さて、

そんな厳しい世界の中でも最も厳しいであろう国、アメリカとあっては、自分の履歴書がいかに輝かしいものであるかが、人生の分かれ道となっているわけであります。

これは今の時代、人種に関係なく広がった競争であるらしく、エミリーはラキーシャと、グレッグはハマルと一緒に、今日も24時間営業の図書館で寝る間も惜しんで勉強に励むわけです。

 

彼らを採用する、企業の採用担当者*3も当然スーパーエリートです。

地獄の競争を勝ち抜いてトップ企業に就職、花形の人事担当になって、初めてのお仕事です。

何千、何万通と送られてくる履歴書、エントリーシートを短期間で処理しなくてはなりません。これは日本でもそうであろうと思われますが、就活生の生みの苦しみを彼らは全く考慮しないでしょう。なんせすべて読んでいたら時間が圧倒的に足りないですからね。

それでも彼らは、誰が書類選考を通り、誰が落ちるのか、的確に決めなければなりません。採用は企業の明日を決定する仕事なわけで、彼らが優秀な人材を獲得できなければ会社に明日はないわけです。

 

こうして彼らは、短時間でできるだけ優秀な人材にアクセスしたいと考えるでしょう。怪しそうな奴らまで面接していたら時間もお金もない、という考えに行き着くのも至極まっとうなことです。

 

では、どうやって怪しい奴ら、使えなさそうな奴ら、を見分けるのか…

 

米国でもトップクラスの教育を受けてきた彼らは、当然レイシストではないでしょう。そんなことはあってはならないと私も思います。

しかし、このようなプレッシャーの中で、彼らの脳裏にかすかに浮かぶのは、

白人は安全パイなんじゃないか

みたいな考えなのではないでしょうか。

 

あるいは無意識下の行動であったかもしれません。

意識して選んだのではないのかもしれません。

しかし、数値として白人の方がアフリカンアメリカンよりも採用率が高ければ、それだけで「差別」が存在することになってしまうのです。

 

では、私たちが経済学者だったとして、この労働市場における人種差別の問題を研究したかったとしましょう。私たちは、単純に白人とアフリカンアメリカンの採用率を比べれば良いのでしょうか。

もちろんそう簡単ではありません。

 

今回の敵は、「採用活動において、高スキルのものを低スキルのものよりも優先的に採用するのは当然である」という事実です。

人種によって大学進学率、修士号の所得率、英語の流暢さ、等々のビジネスに直結するような要素に差があれば、採用率の差は、単なるスキルの高低に帰着するものかもしれないのです。

 

だからといって、「全く同じスキルを持ち、全く同じ経歴を持つけど、名前だけ異なる」なんて人はいないし、いたとしても少なすぎて分析できないよ…

といって、この研究を諦めるのがぱんぴー経済学者である私です。

 

一方、天才"MARIANNE BERTRAND"の発想はこうです。

「都合のいい人がいないなら、捏造すればいいじゃない」

 

ということで、ネット上から履歴書のサンプルを大量に入手彼女は、

5000通履歴書を作成し、

履歴書の内容が似通ったものにランダムで白人系の名前とアフリカンアメリカン系の名前を振り分け、

実際の募集広告に偽履歴書を応募し、

その選考突破率の差を測る

という作戦にでました。

 

初めてこの話を聞いたときは爆笑しました。

こんなことやっていいのかと。

まぁ、多分ダメです(笑)

卒論とかでこんなことやった暁には、日本の就活マーケットから排除されてしまうこと間違いなしでしょう。

しかし、経済学上の大義名文があればいいのです!彼女の勇気に敬意を表したいです。

 

ここまでやったならいい結果が出てもらわないと困る!

というわけですが、ちゃんと結果が出るわけですねぇ。そこがすごいですね。

 

ふぅ。

なんだか概要だけで長くなってしまいましたので、結果の紹介は次回にしたいと思います。

お付き合いいただきありがとうございました。

 

おわりに

ちょっと長くなってしまいました。

今回は論文の概要を説明しました。次回はこの壮大な実験の結果を中心に解説したいと思います。

ところで、経済学の実証論文では、毎回毎回必ずと言っていいほど出てくる、結果のレポート表が存在します。

次回はその見方も含めてお話ししようと思います。

長々と失礼いたしました。次回もまたご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:統計的な手法等はいずれまとめて解説します

*2:死語?

*3:こいつがジョンなのかハビエルなのか、ミッシェルなのかアイーダなのかがわからない、というのが今回の論文唯一の弱点ですね

計量経済学、ミクロ実証関連書籍の紹介

今回は、経済学や統計学の知識がなくても読める一般向けの書籍をご紹介します。

構成は以下のとおりです

  1. 実証分析の例が知りたい!
  2. 計量経済学を軽く勉強したい!
  3. 統計学を知りたい!

ではいきましょう。

 

1 実証分析の例が知りたい!

勉強はやっぱり面白くないといけません。まずは以下の書物から好きなのを選んで、「どんなことができるようになるのか」をつかんでみるとイメージがつかめていいと思います。

 

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

 

 私が計量経済学を面白いと思ったきっかけになった本です。原著はFreakonomicsというのですが、「ヤバい経済学」というのが名訳かどうかは謎です。いわゆる「ヤバ経」この本はアメリカで大ヒットとなった本で、経済学ブーム的なのが起きたらしいです。計量の分野でも取り分け刺激的なものを選んで載せているため、内容は「ヤバい」です。中絶と犯罪率の論文が一番有名でしょうか。理論的な説明はほとんどないですので、気楽に読めます。

 

 

「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイド

「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイド

 

 以前紹介したJoshua Angristが書いた本です。若干難しいですが、以外と説明が丁寧なので読めなくはないと思います。本文中に数多く登場するイラストの意味は全くわかりませんが、応用分野にまで触れており、内容は素晴らしいです。理論面の説明が若干多いかもしれませんので、不安な方は次にあげる本を読みましょう。

 

 

Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect

Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect

 

 英語です。まだ邦訳はないと思います。この本は、上にあげた「ほとんど無害」の簡単バージョンです。なぞのキリギリスとともに計量経済学のトピックを勉強していきます。実証研究の紹介数と理論面の説明とがバランス良く配置されているので、英語に抵抗がなければ最もお勧めしたい本です。

 

 

経済学をまる裸にする  本当はこんなに面白い

経済学をまる裸にする 本当はこんなに面白い

 

 これも私が経済学を勉強し始めたぐらいに読んだ本です。内容は先にあげたものと同じように実証研究の紹介です。「ヤバ経」的な本ですが、そこまで癖は強くないのでより気楽に読めます。

 

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

日本でもついに実証研究が日の目を浴びる日が来たか、という感じです。去年発売された本で、Amazonの経済学カテゴリ第1位を獲得しました。計量経済学の文脈で、教育の収益効果の研究、つまり教育は割に合う行為かという研究は1大テーマであり、アメリカでは何十年も前からずっっっと論争が繰り広げられてきました。これは、その周辺の話を一通り勉強できるいい本だと思います。少人数学級が効果的なものかどうかなど、現役の学生にも身近で比較的関心を抱きやすい本だと思います。お勧めです。

 

2 計量経済学を軽く勉強したい!

この項では、論文の内容紹介では満足できない!という人のために、計量経済学の基礎を学べる教科書を紹介します。昨今は計量経済学の教科書出版ブームですので、多くの教科書がありますが、以外と難しいのも多いので、ムムムという感じです。自分の実力にあったものを選びましょう。

 

 

Introductory Econometrics 5e [AISE]

Introductory Econometrics 5e [AISE]

 

 計量経済学の世界標準テキストです。本当に基礎的なことから(なんと四則演算から)教えてくれます。最終的には系列相関やパネルデータ分析の入門まで扱っていますので、学部レベルはこれで十分と考える大学教授も多いです。見てわかる通り英語ですが、英語は平易ですし、系列相関のところ以外はわかりやすいと思うので、とってもお勧めです。演習問題が豊富なのと、コンピュータエクササイズが付いているのも評価ポイントです。

 

 

計量経済学 (y21)

計量経済学 (y21)

 

 日本語の学部上級テキストです。学部上級とはいえ、行列表記かどうかが上級かそうでないかの違いなので、行列大丈夫だよっていう人はこれを読むのが手っ取り早いです。(付録の行列の解説で十分という説もあるので、行列のできない人でもチャレンジする価値はあります)演習問題も豊富でとってもよろしいと思います。

 

 

実証分析入門  データから「因果関係」を読み解く作法

実証分析入門 データから「因果関係」を読み解く作法

 

 項目の1に入れようかどうか迷いましたが、こっちに入れておきます。日本語版でのMastering Metricsだと思えばいいです。スラスラと読める上に、最終的にはブートストラップやベイズ統計まで入門できるので、個人的にはお得だと思いました。実証研究の例として取り上げられる論文が、政治経済学*1よりなので、そっちが好きな人にはとてもいいかもしれません。

 

 

3 統計学を知りたい!

計量経済学の基礎は統計学です。統計を知れば理解が深まること間違い無しです!

とはいっても、統計はみんな苦手な確率とかのお話ですので、嫌いな人も多いと思います。今回はそんな人でも読めるような本を集めました。

 

 

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

 

 有名な本ですね。なんの前提知識もいりません。これ一冊でなんだかわかった気になれる魔法の本です。また、計量経済学に使う最小二乗法の説明が載っているのもいい点ですね。統計学は方法論の学問であり、生物学、物理学、化学、経済学、人工知能論等々のあらゆる学問分野の基礎をなす学問です。ゆえに、「最強」と言っているのでしょうが、なんだか他の分野の方に怒られそうですね…

 

 

 

統計のはなし―基礎・応用・娯楽 (Best selected business books)

統計のはなし―基礎・応用・娯楽 (Best selected business books)

 
確率のはなし―基礎・応用・娯楽 (Best selected business books)

確率のはなし―基礎・応用・娯楽 (Best selected business books)

 

 私が統計や経済を勉強し始めた際に読んだものです。直感的に理解できるよう解説がなされていると感じました。具体的な事象に絡めて解説がなされるのですらすら読めますが、色々と勉強してからもう一度読むと、新たな発見があったりと楽しい本です。

 

 

 

統計学入門 (基礎統計学)

統計学入門 (基礎統計学)

 

 東京大学の学部生向け統計学講義で用いられる教科書です。一冊で多くの範囲を抑えることができるのでお勧めです。記述が簡潔、というか不親切気味ですが、その分注意深く読めて理解が深まります。*2

これの続編として自然科学用と社会科学用の二冊があり、これらも非常に優れた教科書です。

 

 

おわりに…

 今回は書籍の紹介でした。皆さんの学習の参考になればと思います。

ただし、発展的な内容を扱っている書籍は紹介していないことと、今の時代ネットに落ちているpdfファイルこそが勉強の最大のツールであることの二点を忘れてはいけません。

知りたいことがあったらまずググりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:著者の方が政治系の方です

*2:その効果を狙っているとは思えません

ミクロ実証ってなぁに

 今回は、ミクロ実証という経済学の一分野がどのようなものかについてお話ししたいと思います。拙い文章ですが、どうか最後までお付き合いください。

経済学って…

そもそも経済学とはどのような学問なのでしょう?

若輩者の私がとやかく言っても何の説得力もありませんので、ここは天下の東京大学が経済学部のホームページでどのように経済学科を紹介しているのか見てみましょう。経済学科で学べることこそ経済学だろってことで、いざ。

www.e.u-tokyo.ac.jp

経済学科は、主として経済システムの動きを理解することに役立つ経済理論と、その応用としての政策問題を教育する。経済全体の生産活動水準や失業、物価上昇率、経済成長の決定要因に関する理論、さらにはそれらの経済状態をコントロールする政策に係わる分析は経済学科の重要な教育課題である。また学生は、様々な資源の配分パターンや所得分配のありかたがどのように決定されるか、またそれを社会的に望ましい姿に変更するためには、どのような方法があるのかをも学ぶ。 

 何やら難しいですが、経済学を構成するのは以下の3点のようですね。

  • 経済システムとその現象を説明する経済理論
  • 現実の経済現象を左右する政策とその周辺の分析
  • 社会的に望ましい状態を達成するための方法論

時系列で考えると、以下のようになるでしょうか。

  1. 経済理論から、社会の「こうあるべき」という姿が判明する
  2. その姿を達成するために政策が考案され、実行される
  3. 本当にその政策の効果があったのか、理論が現実に整合的なのかを分析し、結果を理論や手法へフィードバックする

これが経済学という学問体系です。

現在では、上記の1の領域は大学が、2の領域は中央官庁が、3の領域は大学と官庁の両方が担っています。実社会と密に関係を持ち、また持たざるを得ない学問分野であるといえるでしょう。

 

よく「経済学なんて机上の空論だ!役に立たない!世間を混乱させるだけだ!」みたいなことをいう人がいますが、そのような人は以上のような経済学の全貌*1を知らずに経済理論の話だけを見て声高に叫んでいるのでしょう。気にすることはありません。

 

ミクロ実証って…

経済学の全貌が分かったところで、まず計量経済学の話をしたいと思います。

計量経済学というのは、先の時系列の3に当たる分野のことを指します。つまり、実施された政策の効果を分析する際の手法を考える学問です。英語ではEconometricsと言います。

ところが、計量経済学というのもまた広範な分野を指す言葉です。計量経済学の論文として扱われた内容の例を以下にのべると、

  • 金融政策の効果分析
  • 女性の労働供給についての分析
  • スターバックスでのカロリー表示が売り上げにもたらした影響分析
  • バスエンジン交換についての分析

などなど。今や、経済事象に関してのデータ分析はなんでも計量経済学だぜ!みたいな感があります。*2

ということで、広範な計量経済学という用語は避けて、計量経済学の中でもミクロなデータを主に扱い、ミクロ経済学の文脈で語られるものをミクロ実証と呼びたいと思います。

といってもよくわからないと思うので以下に例をあげます。

 

 

MITのJoshua Angristという教授が書いたとんでもなく有名な

Lifetime Earnings and the Vietnam Era Draft Lottery: Evidence from Social Security Administrative Records

という論文があります。

これは、ベトナム戦争の従軍経験が生涯賃金に負の影響を及ぼすのかどうかを調べた論文です。

皆さんだったらどのようにこの分析をおこないますか?少しご自分で考えてみてください。

 

何か思いつきましたか?

おそらく、従軍した人と、従軍しなかった人とで平均賃金を比べる、というのが皆さん考えつくところだと思います。*3

確かにその分析で、従軍した人の賃金が従軍しなかった人に比べて低ければ、「従軍したことによって賃金が下がった」と言えそうです。

 

が、

 

そうは簡単にいかないのですね。なぜなら今回の状況では、「もともと賃金が高くない低スキルの人材が、食い扶持として従軍に参加した」という可能性が考えられるからです。もしこの状況が実際にあったとすると、仮に従軍した人と従軍しなかった人の平均賃金を比べて前者が後者よりも低かったとしても、それは純粋に「従軍した結果」ではなく、「もともと賃金の低いやつらが多く従軍した結果」も加味したものになってしまうのです。

 

計量経済学では、この種の問題を「内生性」の問題と呼びます。内生性の問題は、観察データの分析では必ずと言っていいほどに言及される重大な問題です。こいつをどうにか倒して、純粋な因果関係を抽出しなくてはなりません。そのために様々な手法が存在しますが、今回Angristが用いたのはInstrumental Variable (IV)と呼ばれる手法です。日本語だと操作変数法ですね。

 

操作変数法についてはまた別の機会に詳しく説明しますが、Angristはこの論文で「くじ引きでベトナム戦争への従軍が決定する時期があった」という事実に基づいて操作変数法を使用し、「ベトナム戦争への従軍が賃金を15%減少させた」という因果関係を抽出したのです。

 

どうでしょう?少しは面白いと思っていただけたでしょうか?

ミクロ実証はこのように身近な問題に対してデータを使って答える学問分野であり、その結果は思わず人に話してみたくなるようなものばかりです。

 

おわりに…

今回はミクロ実証の説明でした。この分野の面白さが少しでも伝わったら幸いです。

ミクロ実証は、近年のデータ集積に伴って急速に発展してきた学問分野です。それゆえに大学の学部レベルで教育を受けられる学校は日本ではまだ少ないのが現状です。

しかし、「役に立たない経済学」というイメージを払拭する分野でありますし、海外では学部レベルの授業も増えてきているので、今後の経済学のメインストリーム足り得るものだと思います。

データの扱いは社会での基礎能力ですし、勉強しておいて損はないのではないでしょうか。

 

このブログでは日本での経済学の地位向上のために、中高生や一般の社会人に向けて最新の実証論文の内容を紹介していきます。話のタネになるネタも多いとおもいますので、以降よろしくお願いします。

 

 

 

 

*1:もちろん経済学は先に述べたこと以上に深みと幅を持つ学問でありますので、先の3点で全貌というのは気が引けますが、とりあえず

*2:あくまで私の感覚です

*3:それ以外の方法を思いついた方すみません

こんにちは

はじめまして

東京の大学で経済学部に通う3年生です。

勉強したこと書きます。

主な興味は

・ミクロ実証

・統計

機械学習

などです。

最近だと観察データの因果推論の勉強が多いです。

読んだ論文の紹介や考えたこと書きます。

経済学部への進学を考えている高校生の人に面白さを伝えたいです。

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