年50冊小説を読まんとする若輩のblog

それ以上でも以下でもなく。

#15「フラニーとズーイ」サリンジャー 村上春樹訳

読み易さ☆☆☆☆☆

面白さ☆☆☆☆☆

読む価値☆☆☆☆

 

エリート一家、グラス家の大学生フラニーと、少し年上の兄ズーイの心の葛藤を描く作品。

ラニーは立ち振る舞いから芸術的なまでに美しい大学生で、所属する演劇クラブで脚光を浴びています。ズーイは中性的な容姿を持った若手スターで、絶対記憶能力を持つ天才です。そんな華々しい2人ではありますが、彼らの抱える悩みは普遍的なもので、読者に共感を抱かせます。

ラニーは自らを取り巻く人々のエゴの強さに辟易しており、1人キリストへの祈りを呟くことで心の救いを得ようとしています。

ズーイは自分のことを、テレビの向こうの人々を楽しませるためだけに作られた人形のように感じており、周囲へ苛立ちをぶつけながら生活しています。

物語の終盤では2人の言い争いが行われ、真剣な、しかし傍から見ると滑稽な、心のぶつかり合いを見ることができます。

 

この作品はほとんどグラス家による会話で構成されていますが、天才一家という設定を裏切らないセンスに溢れた比喩とユーモアに溢れているため、読み飽きません。

小説に娯楽を求める人にとって、非の打ち所のない傑作だといえるでしょう。

 

蛇足

 

サリンジャーはグラス家を主役とした作品ををいくつか書いており、「バナナフィシュにうってつけの日」はフラニーとズーイの前日譚のようです。そちらは未読なので機会があれば読んでみたいです。

 

ところで今回村上春樹さんによる翻訳で楽しみましたが、自分は正直村上さんはあまり好きではなかったりします。彼の小説は登場人物の上流階級感が強くて、庶民バンザイな自分にはどうにも馴染めないです。

しかし、フラニーとズーイはエリートが主役ではありますが非常に楽しむことができ、不思議な印象を抱きました。普段の村上さんとどう違うのか?皆さんに読んで確かめていただきたいです。

 

以上で終わりにしたいと思います。海外文学が続いておりますが、次回は日本文学になる予定です。お読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

#14「宝島」スティーヴンスン 村上博基訳

読み易さ☆☆☆☆☆

面白さ☆☆☆☆

読む価値☆☆☆

 

ジキル博士とハイド氏」で有名な英作家、スティーヴンスンの冒険小説。港町の少年が海賊の地図をみつけ、宝探しの船旅に出るというシンプルなストーリー。

 古くから児童文学として親しまれていますが、大人が読んでも楽しめる作品として知られており、そういう意味で「ガリバー旅行記」と近い立ち位置の作品です。 海賊とかけひきし、ときに戦いとなりながら宝を探す展開であり、面白さの種類としては「パイレーツ・オブ・カリビアン」に近いでしょう。

難しい話は出てこず、物語としての面白さが豊富なため、子供は勿論、誰にでもオススメできる小説だといえるでしょう。

 

蛇足

 

印象深かったのは主人公のジム少年が、周りの大人達から一人の男として扱われていることでした。海賊の親玉であるシルヴァーからは気に入られ、互いの命を保証し合う取り引きを持ちかけられます。また、海賊に捉えられた際には仲間のリヴジーさんから、自分の単独行動の結果なのだから自分で責任を取るようにと突き放されます。どちらも、少年を保護すべき弱者ではなく、対等な相手とみなすからこその行動でしょう。

ところでスティーヴンスンは時の英首相、グラッドストンから、

「君の作品は素晴らしかった。一気に読んで、気づけば2時になっていたよ」

と賛辞を送られた際に、

「そんなことしてないで国政に力を向けて欲しく思います」

と答えたというエピソードが残っています。傾いてますね。

以上で終わりにいたします。お読みいただきありがとうございましたm(__)m

 

 

#13「クリスマス・カロル」ディケンズ 村岡花子訳

読み易さ☆☆☆☆

面白さ☆☆

読む価値☆☆☆

 

 イギリスの国民作家、チャールズ·ディケンズの短編。クリスマスの夜に起こる奇跡の物語。

残酷な取り立てを行う町金融であり、極端な拝金主義者であるスクルージ老人が主人公。誰からも恐れられ、嫌われている彼は自らも人を愛することをせず、クリスマスなど浪費の肯定、馬鹿の所業だと憎んでいた。

そんな彼のもとに3人の幽霊が訪れる。1人目は過去を見せる力を持つ幽霊。スクルージの少年時代、貧しくても愛する女性がいた頃の幻を見せられる。老いた彼は、遠く忘れていた愛する気持ちや、喜ぶ心を思い出す。

2人目は未来を見せる幽霊。スクルージは自分の死んだ直後の町を彷徨い、誰も自分の死を悲しんでいないこと。むしろ取り立てが無くなったと大喜びしている人々の様子を見せられる。

3人目は現在を見せる幽霊。クリスマスで色めき立つ町の人々を知る。そしてもはやスクルージは以前の堅物ではなく、クリスマスを心から楽しむ人間に変わっていたのだった。

 

こうしてストーリーだけを説明してしまうと、いかにもご都合主義な、キリスト教的訓戒話のように感じてしまいます。しかし、ディケンズの魅力はそういったところではありません。

型にはまったような筋においても活き活きとしている登場人物達。すなわち人物描写の巧みさが評価されています。その人間理解はシェイクスピアにも引けを取らないと言われています。

古典らしい古典を読みたいが、あまり長編を読む気は起こらない、そんな方にオススメな小説といえるでしょう。

 

 

蛇足

 

ブログの更新が完全に不定期になってしまっていることをお詫びいたします(-_-;) 気分のムラなく更新していければよいのですが、自分に甘くお恥ずかしいです。

ディケンズの作風は劇に近く、分かりやすい筋と魅力的なキャラクターが躍動します。そのためか舞台や映画でリメイクされることが多く、作品の知名度に繋がっているのでしょう。情景を想像しながら読むとより深く味わえそうです。

 

それではここらで締めようかと思います。週1更新は保証できないので、思い出したときにまた来ていただけると幸いです。

 

#12「田園交響楽」ジッド 神西清訳

読み易さ✩☆☆☆☆

面白さ✩☆☆

読む価値✩☆☆

 

大戦期の仏作家、ジッドの短編小説。生まれつき盲目の少女を引き取り育てる神父の物語。

 

少女は少女に関心がない祖母と二人で暮らしてきたため、盲目であるだけでなく言葉を理解することもできず、言葉の代わりに鳴き声を発します。身なりの汚さ、伸び切った髪のせいもあり、まるで獣のような少女でした。神父は少女の祖母の葬儀に立ち会ったのち、この身寄りのない少女を自分が育て、愛を教えてあげることこそ、神に与えられた自分の使命であると考えます。

神父はその宗教的情熱のもと、いっぱいの愛を少女に注ぎました。やがて少女は言葉を覚え、話ができるようになり、見た目も美しく育ちました。その美しさは、神父の息子が求婚を考えるほどでした。

少女は自分には見えない世界を、希望に満ちた様子で語ります。彼女は、世界はオーケストラで聞く音楽のように、豊かな喜びに溢れていることでしょうと夢見ています。

神父の愛は本物でした。しかし、少女には嘘をついていました。この世界が、現実が、美しいものだけでできているわけではないこと、罪という概念を、教えようとはしませんでした。

やがて少女は手術によって、生まれて初めて世界をその目にしました。心の底から信頼していた神父が、ずっと自分に嘘をついていたことを知りました。そして、自らの命を絶ちました。

 

子どもを愛すればこそ、きれいなものだけを与えようとしてしまう親も多いかと思います。愛を与え、教えることは大切なことです。ですが、そうやって育てられた子供は、世界の醜いところに耐えられるでしょうか?

親や、いつか親になる人に読んでもらいたい作品です。

 

 

蛇足

まるまるひと月も更新を止めてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m

言い訳としては、4月の前半にスマホが故障しまして、買い替えやデータの引継ぎでわちゃわちゃしていたことがあります。まだ新端末に慣れていないため、今回は年代物の処理の遅いPCから記事を書いております。徐々に慣れていきたい。

 

さて、ジッドは文学において残した功績を認められ、戦後ノーベル文学賞を受賞した作家です。小説も書いていますが、母国フランスの植民地、コンゴの旅行記である『コンゴ紀行記』で有名です。彼は植民地の惨状を、自国政府の目を気にすることなく文学にしました。

彼はキリスト教に忠実である一方で、人間性を追求するためであれば世論を敵に回すこともいとわなかった作家であり、自らの情熱のままに世界に貢献した、ノーベル賞に値する作家だったと言えるでしょう。

 

このあたりで終わりにしたいと思います。お読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

#11「斜陽」太宰治

読み易さ☆☆☆

面白さ☆☆☆

読む価値☆☆☆

 

太宰治が「人間失格」の1つ前に書いた小説であり、自殺の前年に遺した作品。察していただけるであろうとおり、その作品全体が絶望の匂いで満ちています。

戦後の没落貴族の娘、かず子を主人公とし、結核により死にゆくその母、麻薬中毒者の弟、弟の悪い師匠である作家の4人が、それぞれの滅びへと向かっていく姿を描くストーリーです。

前半のうちは叔父の援助を受けて生かされている生活の中で、絶望の底にありながらも母娘の愛に溢れた「平和」な日常を送ります。後半になると叔父の援助も途絶え、母の病状もいよいよ悪くなり、弟は酒に溺れるなかで、かず子は「自分が嫁いで金を用立てるしかない」と考えます。

その決心をする際のかず子の台詞、『戦闘、開始』。貴族としての誇りを捨て、生活のために好きでもない男に言いより、妻子が居ようが構わず、情熱的な言葉を騙り、枕へ誘い込む。

 

太宰治の作品は、読者を引き込む力が強い。主人公の独白部分が単なる説明ではなく、不自然ではない程度に読者に語りかけるようになっている、非常に珍しい二人称小説だ。自分の感想を語っていることは一人称小説と変わらないが、まるで隣で語って聞かされているような感覚を抱く。ともかく、心に寄り添ってくる文体といえる。

そうした巧みな技術で引き込む先が、絶望という安穏。太宰治が長く多くの人の心を捉える反面、評価しない人もいる理由がよく分かる。

 

なんだか色々語ってしまいましたが、一度は読んでみるべき作品だと思います。少なくとも「人間失格」と比べるとまだユーモアがあって面白く、共感もしやすい小説だと感じました。

 

 

蛇足

 

読み終わって数日経ちますが、未だに何かを引きずっています。基本的に自分は小説が与えてくれる感動であれば何であれ歓迎する姿勢でいるのですが、斜陽がもたらした「重さ」は、ちょっと厄介ですね。

 

『人間として最大の美徳は、上手に金をかき集めることである。 つまり、どんなことがあっても他人の厄介になるなということだ。 』(ドストエフスキー

 

この名言の見方が変わるぐらいには衝撃的でした。生きるって大変ですね。

 

次回は気分を変えて、有川浩さんでも読もうかと思います。ここまでお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

 

 

 

 

 

定期反省 その①

このブログもようやくレビューが#10まで到達したということで、これまでの反省などしていこうかと思います。

 

3月が終わってこれまでに読んだ小説は10冊。年50冊を達成するために読んでおくべき冊数は12冊。すでに2冊分遅れてしまっています(汗)。言い訳をさせてもらうと、番外編として扱った「社会人大学人見知り学部」と、読んだもののレビューが書けなかった1冊を数に入れれば12冊になるので、別にサボっていた訳ではないのです…(ーー;)

とはいえエッセイもたまには読みたいですし、読んだ結果レビューする気が起こらない作品は今後も出てくるでしょう。読むペースとしても、今ぐらいが日常生活と無理なく両立できる丁度いいペースだと感じています。

 

とはいえこのままだと目標達成が厳しいので、あることを解禁したいと思います。それは「短編小説を1冊としてカウントすること」です。

これまでは小説の短編集など、本自体を字の通りに「1冊」としてレビューするか、それとも短編1つを「1冊」としてレビューするかという点で葛藤があり、意図的に避けてきました。あまり短編ばかり読むのは本意ではないのでしませんが、たとえば長編小説を読んでいる時期に、バランスを取る範囲で短編も読んでいくのも良いかなと思いました。あまりレビューの間隔が空くのも考えものなので。

 

ところで、このブログは文字だけの殺風景なブログになっていますが、よく見かけるブログのように小説の商品リンクを貼ってみたいと常々思っています。このブログを読んでくれた方がその本を欲しいと思ったときにすぐに手を伸ばせるようにしておくのも面白いでしょう。しかし、このブログは専らスマホで記述しており、調べたところスマホ版ではリンクを貼る機能が搭載されていないということで、現状見送らせていただいています。いずれ方法が見つかれば、何らかの形で商品リンクを貼りたいと思っていますので、もうしばらくお待ちください。

ちなみにああいうリンクって、アフィリエイト料として小銭がもらえたりするんでしょうか?まぁこのブログのアクセス数だとおそらく、うまい棒が買えるかどうかというレベルの収入になりそうですが、ちょっとしたやりがいにはできそうです。

 

最後に、これは自分のなかの永遠のテーマですが、ブログってどれぐらい崩した口調で書いていいものなのでしょうか?どうしてもかしこまった口調、かしこまった言い回しになってしまいがちで、窮屈さを感じてしまいます。

正確な情報提供は今後も意識したいと思いますが、このブログ自体の読み物としての面白さにも気を配っていきたい所存です。それでは今回はこの辺りで。良い一日を。

 

#10「リバース」湊かなえ

読み易さ☆☆☆☆

面白さ☆☆☆☆

読む価値☆☆☆

 

映画化された「告白」で有名なミステリ作家、湊かなえさんの小説。「リバース」は昨年ドラマ化されました。

 

主人公と大学のゼミでの仲間5人は、全員で出かけた旅行中に、その内の1人、広沢を自動車事故で死なせてしまう。彼らは無理やり飲酒運転をさせたことに負い目を感じ、このことは誰にも話さないという約束を交わした。それから3年経ったある日、彼ら全員の元に「お前は人殺しだ」と糾弾する匿名の告発文が届く。この手紙の主は誰なのか? 主人公による犯人探しが始まるのであった。

 

読者も犯人は誰か?と思いながら読むことになりますが、この小説の特殊なところは「犯人」が別の意味で2人いることでしょう。つまり、告発文を送りつけてきた犯人と、あの日広沢を本当に殺した犯人とです。その2つの犯人探しを破綻することなく同時に行いつつ、クライマックスで驚きの真実が明かされる構成は、特別評価できるものでしょう。

また、湊かなえさんは女性ですが、元ゼミ生5人の男同士の仲間関係や優劣意識といったリアルな描写を描いており、その想像力と人間理解は相当なものです。ミステリーですが人をきちんと描いた作品という印象を抱きました。

 

構成や描写も評価できますが、個人的には単純にミステリーとしてとても面白かったです。犯人は誰か?という謎を追い、好奇心に駆られてページを捲るという感覚は久しぶりなものでした。小説に興奮を求めたい人におすすめであり、夢中になりたい気分の人におすすめな小説でした。

 

 

蛇足

 

主人公が割と自分に似ていたため、共感という意味でも面白かったです。具体的には、華やかな人といると劣等感を感じてしまうところや、友人に対しての姿勢、コーヒーが好きなところなど。本当は面白さの評価は☆5でもよかったのですが、個人的な共感補正で評価ブレさせてはならないと思い、一つ下げています。

 

「共感」は小説の面白さの多くを占めるものだと思いますが、あえてそれを求めるものではないと思っています。もちろん共感できる小説は面白いですが、共感できない小説も知らない世界を教えてくれる案内人としての意義があると思うからです。自分がジャンルをあえて定めずになるべく異なるジャンルのレビューを書こうとする理由もそうだったりします。

 

いずれにせよ、共感は個人的なもので、公正を期待される評価には影響させてはいけないと思うので、今後もそうしていきます。お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m