「アホかわエロス」の進化――姫野蜜柑の軌跡

 今回の記事では、COMIC LOにて成年漫画を執筆している姫野蜜柑について語ろうと思う。

 姫野蜜柑はこれまでに単行本を二冊出しており、その両方の帯で同じテーマについて触れられている。曰く、
時代は… アホかわエロスだ!!
ことわざに曰く「アホの娘ほどかわいい」。つまり、かわいくてアホな娘が最強。
ディスイズ ちょっとアホ&エロかわロリマンガ ベリーマッチ!!
 前者二つの引用が一冊目の単行本『ろりるれろ』、後者が二冊目、最新単行本である『ろりはれっちゅ』に拠る。
また、一つ目の見出しには「アホかわ」の部分に「※『アホかわいい』の略」という注釈が付けられている。
 姫野蜜柑を語る際、この「アホかわ」というワードは避けて通れないだろう。

 初期の作品――『ろりはれっちゅ』はおよそ発表と逆順に収録されているので単行本では「そーせーじ!」以降――こそ
成年漫画の基本を描いているが、それでも「小さな八百屋さん」では独自の「姫野蜜柑ワールド」を出している。
姫野ワールド、つまりアホかわエロスの世界では、ただ少女が「アホ」なだけでなく、世界さえも「アホ」である。
 だから、それが顕著であり、開始から2ページで「アホ」になる作品「ろりるれろ」が第一単行本のトップバッターに選ばれたのだろう。
ただ「抜けていて可愛い少女」ならいくらでも――それこそ掲載誌が全て「LO」というロリコン向け雑誌なので――いるが、氏の場合、男までもが「アホ」となる。
 表題作「ろりるれろ」はまさに姫野蜜柑の真髄とも言え、
女の子が「アホ」になる(本作では飲酒し、脱ぎ始める)→男も「アホ」になり、偶然を装った行為がエスカレートし、セックスする→女の子が「アホ」のふりをし、男との関係を持ち続ける
という展開を見せる。

 先述の「小さな八百屋さん」ではエロ漫画というよりも、むしろ、ギャグ漫画に近い体裁をとっている。
氏の作品は実用性には乏しいかもしれないが、女児向けアニメである「プリキュア」に「萌え」るように、別の角度から楽しむことが出来る。
ろりるれろ』収録の「パパの宝物」や「そーせーじ!」では、「大切なものを壊したから」、「好奇心旺盛な双子だから」といった、成年漫画的な理由が主軸となっているが(勿論、両作品にも姫野節は健在だが)、
以降は「アホかわ」を軸にし、氏にしか描けない世界観で作品を執筆している。
 私は抜けなくとも、笑えたり、考えさせられる成年漫画はいい読み物だ、と考える。後者だと、例えば町田ひらくなどがいる。

 姫野蜜柑はこれまで「アホかわ」を貫いてきたが、しかしそこにも微細な変化があった。
ろりはれっちゅ』収録の「お世話になります」と「あねのこ!」で、作中の男キャラは危ない綱を渡ることになる。
 前者では女の子が「嫌がり」はじめる。既存の姫野作品では、「ろりるれろ」の説明に書いたとおり、女の子は「アホ」であり、セックスを受け入れてきた。
しかしここにきて――氏は東日本大震災以前は月に一作、コンスタントに作品を発表し続けており、本作は15作目に当たる――
女の子が無条件に快楽を、そして男を受け入れるのに対し、女の子がそのことに拒否を示す。
だが前者では、いわゆる「ツンデレ」的な拒否であった。読者から見ても明確に、拒否ではないと分かるものだった。
 しかし後者、「あねのこ!」では、最終ページに至るまで女の子の真意は伏せられており、あまつさえ「れいぷ」という単語をも女の子は男に対して投げかけるのだ。
一応、前述の姫野蜜柑の「アホかわ」テンプレは使用されており、喜劇性を残してはいるものの、本作で「アホ」なのは男だけで、女の子は拒否の態度を貫く。
 ギャグ漫画を描いていた姫野蜜柑がシリアスに転身したとも言えるが、しかし、以降の作品でも「アホかわ」の精神は忘れられておらず、やはり笑える、「アホかわエロス」は健在である。

 単行本収録済みの作品はそれらを参照してもらうとして、以下は単行本未収録の作品と、掲載号の一覧である。

さんたこさんた COMIC LO 2012年2月号掲載
キャラメロリー  COMIC LO 2012年3月号掲載
ずっと一緒2   COMIC LO 2012年4月号掲載
面接へ行こう!  COMIC LO 2012年6月号掲載

ちなみに、現時点での最新号であり通算100号目である2012年7月号には、氏の作品は掲載されていない。

 さて、ここで氏に、第二の変革が訪れる。
それは3月号に掲載された「キャラメロリー」においてであった。
これまではなんだかんだと言いつつ、女の子は基本的に、男に惚れ、「らぶらぶ」な展開になっていた。
しかし本作では、あろうことか男キャラは、女の子を「レイプ」する。
あねのこ!」のときとは違い、今回は本当にレイプしてしまうのだ。
 だが、レイプものだから陰鬱かと言われればそうではなく、強姦でさえ氏はギャグに昇華してしまう。
前述の「お世話になります」から通ずる――くしくもあの作品も女の子は男を拒否していた――オチがそこには待っている。
初めて扱った本物の「レイプ」をどう落とすのか、はらはらしながら読んでいたが――
特に目覚まし時計でレイプ犯を殴るシーンでは、氏の緊張も伝わってきた――まさか、というオチだった。
 続き物である「ずっと一緒2」は除くとして、最新作の「面接へ行こう!」ではいつもの姫野節が戻っており、少なからず安心感を得た。

「アホかわエロス」を主軸としながらも、これからも姫野蜜柑は進化していくだろう。
その片鱗として、例えば「面接へ行こう!」では、正統派で可愛い女の子が描かれている。
氏は決して、特別に絵は上手いとは言えないが、この作品での「アホ」――つまりギャグ調の消え去った少女の絵には魅力がある。
 たかみちだの町田ひらくだのクジラックスだのを目当てにLOを買った際には、是非姫野蜜柑を一読していただきたい。
きっと氏の魅力に、あなたも打ちひしがれるだろう。



Amazonではマーケットプレイスにしか在庫はないが、一応、「ろりはれっちゅ」の方は茜新社のネットショップで購入出来るし、
DMMでは両単行本が新品で購入出来、単行本収録済み作品ならDL販売もされている。
また、お近くのメロンブックスとらのあなでも購入出来るはずである。