居場所

仕事を辞めてせいせいした気持ちになるかと思いきや空っぽになってあそこが一つの居場所になっていたのだと気付く。付随して近くの気楽に入れる飲み屋や稼いだお金でちょっと悠々した気持ちで銀座を歩き立ち寄る場所など。決していつもではないけれどたまに会話を交わしたり話さなくても馴染みの人員の慣れた感じ。好きな時に行けるという特殊な仕事。Tさんは新しい旅の始まりだねなんて言ってたけど今の鬱々とした感じ。

家で飲むのは自分の影と飲むようでとどこかで読んだ。自分一人しかいないこの家はそれこそ自分の影だらけではないか。鬱々とするのも当然なのだ。私、というものがなければどうだろう。無になるとか分割あるいは分散してれば。私、というものはなくてむしろ宇宙にあまねく存在してつまり限りなく無に近ければ。少しは気持ちも軽くなりそう。

この前久しぶりに写真をプリントしてみてそのうちの一枚がいいと思ったので壁に貼った。何日か経ってもやっぱりいいと思う。自分を撮った写真、を見ているこの私みたいなもの、言わばこれの創造主。それはとても味わい深く輝かしい。私、というものはなくても何かしら心は光っているみたい。

収縮

伸びるというのは健やかで窓辺に置いた豆苗がそれぞれ高さもばらばらに伸びているのを見ると生きている感じがする。周りのドライフラワーやガラス器やヘンテコな自作の陶器たちもそれにつられて生きているような感じがする。それはおそらく大きな窓から朝の柔らかい光が差し込むからで色も自ずと現れてくる。もう既に朝の仄暗さはなくほとんど全てが明るみに出ようとしている。

昨日の朝は曇っていた。明るみに出る前の仄暗さが残っていた。それは突然ふってくるように思い立つ。生成りの薄がけと黒い布を持ってきて結局黒にした。影であるのか光であるのか、どちらでもないのか。影に溶け込むようでもあり影から浮かび上がるようでもある。黒い布を被せたソファーの上で丸くなってみる。限られた面積の中で全身を写そうと思ったら縮こまるしかない。胸の下や腹が折りたたまれ腕も脚も折られ背骨は浮き上がる。収縮するとは何かを包み込むことでもある。拒否しながら欲している。包み込まれたものが背中や肩で光っている。

 

 

desiderium

ふと口から漏れた言葉が「共鳴している」人伝てにでも探し物をしたわけでもなくただ降りてきたただ言葉となって繰り返されないただ一語をあなたは繰り返す

色の溢れたゴテゴテした場所ではなく無機的な部屋がいいのは交わるものに色が付いていないから目を閉じて真っ白な光を見てもそれは実際灰色なのだ

目を閉じて匂いも感じなくなるほどにあなたと私も失うほどに失われた星を見ている限りなく発見したというのに近い黎明

ほどよい愛などなくただ苦しみが喜びになっても余計な影であなたのものが萎えてもふと気付く同じものを見ていることにそれが何なのかわからなくてもそれが欲望で愛なのだ同じものを見ていることが

in silence

手と手が重なり両胸を温める。温もりは去らなかった

秘密が重なって繋がれて行く。箱を開けて二人だけのものにする

言葉のない夜の時間。灯りをともせば口元がほころぶ

交わした言葉の上に立って沈黙する。足元を見ることなく

差し込む光に貫かれる。眼裏にも

 

夢を見ていた。道に立っていて何かを待っていたらそこは中華料理店に入る列になっていてそのまま入ってしまい3500円のコースを二人分頼んだ。あの人を待っている。なかなか来ない。随分待っていた気がする。結局来たのか来なかったのか、夢はもうあやふやになっている。

夢は見るという。目を閉じて見ている。空想や記憶を思い返すこと、フラッシュバックとはどう違うのか。夢を見ている自分というのがある。外側に立っている。無意識を意識が眺めているような。

性衝動に駆られる。ウンウン唸るほどにしたくてたまらない。あの人とは結局快楽で繋がっていたんじゃないか。落ちて落ちて、消えた。あの人と付き合っていた時は他の人ともしていた。今はもう随分とTさんとしかしていない。でもこれだけ性欲が高まると誰でもいいからしたくなる。Tさんが恋しくて苦しくなるほどにしたくなる。大事な人。大事だから大事にしなきゃならない。こんな苦しむのは不当だと思ってみても夢ぐらいしか見れない。

naked

自然であるとはどういうことか。生まれ落ちたままの姿で微笑んでいる。化粧は剥げひどい顔だけれど、安らか、平穏、愛に満ちた時間というものがそのまま表れている。そこに生まれ落ちたかのように。過去も未来もない、ただその時間がある。何かを身につけることは不自然であなたとの距離を離す。身に纏う鎧などなかったかのように、存在しないかのように。私は微笑む。身に纏うのはその部屋の空気だけ。ただあなたの視線を受け止める。あなたに愛される喜びが微笑みになった時、生まれ落ちた不安も忘れている。