阪神高速道路の地下化構想

 神戸の市街地は海と山の景観に恵まれ、異国情緒にあふれ、その美しさは多くの人が讃えるところである。しかし、その神戸の市街地の景観を損なっている最大のものは、高層ビルでも、タワーマンションでもなく、阪神高速道路3号神戸線であろう。現在の神戸の景観上の最大の課題は、港から見る六甲山の稜線や、ビーナスブリッジから見る大阪湾の水平線をいかに守るかではない。それは、間違いなく、市街地と港を分断する阪神高速道路の存在だと考える。この付近を歩くとき、高速道路の高架は、人々にかなりの圧迫感を感じさせる。特に阪神高速道路は高さも低く、目の前に長大な壁のように立ちはだかり、頭上すぐに覆い被さるようで、これがなければどれだけ開放感があるだろうかと考えずにいられない。そのように考える者は、筆者だけではないはずだ。

 

(神戸 メリケンパーク前から市街地を臨む)

 

(神戸 京橋付近からメリケンパーク方面を見る)

 

(神戸 フラワーロード側から神戸税関方面を臨む)

(上記3枚 出典:google ストリートビューから作成)

 

(神戸 メリケンパークから見た市街地の風景)

 

 上の写真を見ても明らかなとおり、これらの高架道路は神戸の市街地を分断し、大きな閉塞感をもたらし、景観を決定的に破壊している。


 実際、過去には、これを撤去して地下に移設してはどうかということが議論に上がったことがある。

 「阪神高速道路神戸線は全面的にやり直す時点で地下化すべきである」

 6月29日、神戸市復興計画審議会は計画案の答申に特記事項を加えた。しかし、翌30日に決まった復興計画で、この表現は消えた。神戸線は「早期復旧」としか書いていない。

(中略)

 「ひょうご創生研究会」(会長・新野幸次郎元神戸大学長)は3月末、神戸線撤去を提言。「地球環境の回復と自動車対策や交通政策の転換を示し、震災復興のシンボルプロジェクトに」とした。


 しかし、行政の方向は既に決まっていた。

 神戸市の復興計画づくりのためのガイドライン検討委員会。複数の学者が創生研と同じ観点から地下化、掘割化を主張したが、論議途中の3月2日、県知事、沿道各市長は、阪神高速道路公団神戸線の早期復旧を要望した。

 委員の一人は振り返る。「意見をまとめる段階では、復旧は既成事実化していた。矛盾した言い方は難しかった」。神戸市サイドからは、復旧事業は予算がつくが、地下化などは新規事業になり、何年かかるか分からないとの「現実論」も出された。産業復興、神戸港再生のために-との方向は変わらなかった。

 

神戸新聞「50年目の決算 震災で問われたもの」 1995/8/19)

 

 1995年の阪神・淡路大震災の当時、阪神高速道路神戸線が倒壊し、復興を検討する中でその地下化が提言されたが、復旧が優先され、実現されることはなかった。

 

 高速道路といえば、高架道路というのがお決まりであるが、神戸と同じ国際港湾都市である横浜市では、計画着工の直前に、高架が市街地を分断してしまうことを懸念し、計画を見直し、地下埋設に変更したという事例がある。その実現に至る経緯については、田村明「都市ヨコハマをつくる」(中公新書)に詳しい。その実現は非常に困難なものであったが、その努力は現在の横浜市の市街地の開放的で美しい景観に見事に結実している。

 

(広々として開放的な横浜港の風景)

 

(横浜 山下公園から見る ホテルニューグランドマリンタワー

 

(横浜 大桟橋から見る 赤煉瓦倉庫とみなとみらい地区の偉観)

 

 


 その他には、東京の首都高速道路では、日本橋に覆い被さる高架道路を地下化する事業を現在進めている。

 

START!新しい道へ!日本橋へ! | 首都高速道路日本橋区間地下化事業 (shutoko.jp)

 

 神戸でも、この日本橋区間の事業に続く、第2弾、西日本での第1号として阪神高速道路の地下化を実現できないものだろうか。

 

 現在、神戸では、新港突堤の再開発が進められている。今後、この地区に建ち並ぶ倉庫群は、いったんすべて撤去されることになるはずだ。これはめったにない、きわめて貴重な機会であると思われる。早急に計画を立案し、ルート部分の敷地を確保すれば、さほどの難工事を要することなく実現が可能なのではないだろうか。幸いなことに、みなとの森公園も大きな空地となっている。この機会に、みなとの森公園から新港町、メリケンパークを経て、神戸駅前付近辺りまでの高架道路を抜本的に整理、移設し、これまで分断されていた市街地と港を一体のものとする再開発を、神戸の都市計画百年の計として行ってはどうだろうか。

 阪神高速道路が市街を分断して、すでに50年以上を経過している。いずれ、リニューアルの計画も出てくるに違いない。この機会に、京橋パーキングエリアごと、移設できないだろうか。

 さらに、タイミングがよいことに、最近、京橋付近で、幕末の勝海舟坂本龍馬ゆかりの海軍操練所の遺構が発掘されている。これは、日本の近代化の曙光ともいうべき我が国の重要な歴史的遺産である。この復原を一つの目標として、国家的事業として計画を進めてはどうだろうか。

 

 勝海舟の提案で幕末の1864年に幕府が開設した神戸海軍操練所とみられる石積み防波堤などが神戸市中央区新港町で見つかり、26日、神戸市が発表した。

 市によると、幕末に開港した5港(函館、横浜、新潟、神戸、長崎)のうち、開港時の遺構が発掘調査で確認されたのは初めてという。

 操練所は海軍士官養成や艦船修繕のためのドックもあり、坂本龍馬陸奥宗光らが学んだという。倒幕を目指す浪人らもいたため、反幕府的とみなされ、1年で閉鎖されたが、操練所跡を土台に港湾施設が建設され、68年に開港、その後の神戸港の礎となった。

 

日本経済新聞 2023/12/27)

 

 

 新港突堤の界隈には、神戸の代表的な近代建築である神戸税関本館や旧神戸生糸検査所(現デザイン・クリエイティブセンター神戸)などがある。しかし、現状はこれらを覆い隠すように、阪神高速道路等の高架が錯綜している。もしも、これらを撤去することができれば、市街地と港の文字通りの一体化が実現し、神戸の市街地に開放的な広がりと重厚感を与えることができるだろう。

 

 実現するためには多額の費用を必要とするだろう。しかし、これは、実現する価値が十二分にあることだと思う。実現するまでに長い時間を要するだろうが、しっかりと計画をつくり、着実に事を運ぶならば、いつの日か、開放的で美しい、神戸の市街地が姿を現し、それは市民の誇りとなるだけではなく、日本、世界の人々に愛され、多くの人々が訪れる場所になることだろう。何事も、ビジョンと熱意が重要だ。想像すること、願うことなしに物事が実現することはない。神戸市は、そうした未来の神戸のための大きなビジョンを提示してほしい。

 

 

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元町商店街の活性化(3)

元町商店街のゲート問題

 

 前回、元町商店街の活性化を考える上で、「ここが神戸元町商店街である」と人々が認識できる景観づくりに努めることが重要であることを指摘した。そして、現在の元町商店街でその有力な素材として大丸百貨店前交差点に面する東ゲートの存在を挙げた。

 

 東ゲートはステンドグラスがはめ込まれ、夜間に点灯された姿はとても美しい。色とりどりの大小の円形が大胆に重なりあう構図であるが、よく見ると、小さなブロックが複雑に合わさって構成されており、非常に緻密にデザインされている。ところが、この東ゲートはその美しい姿にもかかわらず、それほど人々の注目を集めていない。これはどうしたわけだろうか。

 


 その理由は、東ゲートの昼間の姿を見るとよくわかるのだが、それは日中には単に黒っぽい門にしか見えない。というのは、ステンドグラスは、裏側から光を当てなければ美しい絵柄が浮かび上がらないからだ。本来、ステンドグラスは屋内で鑑賞するものであって、暗い室内で屋外からの透過光によって初めて鮮やかに絵柄が浮かび上がる。そのため、東ゲートは、日中、人々が多く通行する時間帯には、その存在をアピールすることができず、街の景観の中に黒っぽい物体として沈み込んでしまっている。これでは、日中は誰も被写体として写真を撮ったり、これを背景に記念撮影をしたりしないはずだ。東ゲートは元町商店街の正面玄関にあたるものだから、人々に商店街の存在を強く印象づけるものでなければならない。しかし、現状では、まさに「宝の持ち腐れ」となってしまっている。

 

(日中の東ゲート)

   

 

(夜間の東ゲート)



 商店街のゲートに求められる役割は、屋外で、周囲から明瞭に視認され、道行く人々を招き入れることである。ところが現在の東ゲートは、本来、屋内を美しく彩るものであるステンドグラスを、屋外に対してアピールするために用いている。とすれば、元町商店街のステンドグラスは、利用の仕方が誤っているということになる。

 

 これをなんとか解決する方法はないだろうか。

 ステンドグラスが最も美しく使用されている例は、西洋のゴシック建築であろう。ゴシック建築は外壁の細やかな装飾と暗い室内に屋外の光を透したステンドグラスの鮮やかな光がとても美しい。このステンドグラスの使い方が参考になる。パリのノートルダム寺院の有名なバラ窓は、屋外から見えているのは実はステンドグラスではなくフレームである。

 

(バラ窓(内側))

 

(バラ窓(外側))

(出典 Wikipediaノートルダム寺院」)

 

 

 

 つまり、外側には、模様をつけた飾りフレームを取り付けることが考えられる。このようにすれば、日中はフレームが陽光を浴びて美しい模様を描き出し、夜間は照明によって鮮やかな色彩を放つだろう。

 

 一方、現在の東ゲートの内側の状態を見ると、裏側(商店街の内側)には覆いが施されているため商店街の内部からステンドグラスの美しい色彩を直接見ることができない。そこで、裏側の覆いを取り除いて、直接ステンドグラスが見えるようにすればよい。

 

(東ゲート(内側))



 

 先ほど、東ゲートは、日中にはステンドグラスの美しい絵柄が浮かび上がらないと書いたが、一日のうち、太陽の光を通して光り輝く時がある。それは、夕暮れの時間帯だ。

 

(夕暮れの東ゲート)

 

 やはり、太陽の光を透して見るステンドグラスは非常に美しい。しかし、これにしても、上半分は鮮やかに文様が浮かび上がるが、下半分はアーケードの陰で光が遮られてしまっている。また、全体として太陽を背にする逆光となるので、なかなか直視することが難しい。

 

 これを解決する方法として、現在の東ゲートを西ゲート側に移設をしてはどうだろうか。西ゲート側に設置した場合、午後の西日を通してステンドグラスの色とりどりの光が商店街の内側に降り注ぐだろう。三宮側から商店街を西に進み、最後の6丁目に至ったときに、アーケードの先に鮮やかなステンドグラスが浮かび上がるのは、ルミナリアのガレリアのようで、なかなか見応えがある光景になるのではないか。その光景を見るために、大勢の人々が商店街を通り抜けしてくれたら、商店街の西側も大いに活気づくのではないだろうか。

 

(現在の西ゲート)



 西ゲートは、JR神戸線の車中からも見ることができるので、日中にはフレーム、夜間には内側からのライトアップをすれば、元町商店街の存在を大いにアピールすることができるだろう。

 

 仮に、現在の東ゲートを西ゲートに移設するとすると、東ゲート側にはそれに代わる新しいゲートが必要となる。それはどのようなものがよいだろうか。それは、まず屋外の明るい光の中で美しく見えるものである。それは色彩や陰影をしっかり描き出す構造物である。たとえば、白っぽい素材で凹凸が細やかに施されているものが考えられる。それは、どのようなものかと言えば、まさにゴシック建築の外壁である。ゴシック建築は屋外は日光を受けて外壁に繊細な陰影を描き出し、屋内は暗がりの中で鮮やかなステンドグラスの光が降り注ぐ。現代のようなライトアップを要せず、自然を実にうまく活用したものであることに、あらためて感嘆するばかりだ。

 

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神戸市が国際展示場の再整備に向けた課題整理の着手を表明

 神戸市は、1981年の神戸ポートピア博覧会に合わせて完成した神戸国際会議場や、神戸国際展示場の再整備に向けた課題の整理に着手する。同市の今西正男副市長は7日の神戸市議会本会議で、山本憲和議員(維新)の一般質問に答弁し、建設から40年以上が経過して老朽化が進む神戸国際会議場や神戸国際展示場について「面積や耐荷重、天井の高さなど基本的なスペック(仕様)も、時代に合わないものになりつつある」との認識を述べ、再整備の必要性を強調した。

 

(神戸経済ニュース 2023/12/8)

 

 1981年に完成した神戸国際会議場や、神戸国際展示場が老朽化しており、国際会議等の開催地を巡る他都市との競争が激化していることから、コンベンションセンターの再構築を検討しているという記事を今から4年前の2019年9月に書いたことがある。

 

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 今回の記事では、「再整備に向けた課題の整理に着手する」とされており、事業の全くの停滞に驚かされる。

 というのは、その2019年当時の記事で、神戸市が平成25年(2013年)3月に「コンベンションセンター再構築基本構想 ~アジアのMICEセンターを目指して~ 」という報告書を作成していると紹介しており、その記事の時点で、構想が発表されてから既に「6年が経過しており、新コンベンションセンターの建設は、いったいどうなったのだろうか」と記しているからである。

 しかも、「再整備に向けた課題の整理」をこれから「着手する」となっており、すでに2013年の構想はなかったものになってしまっているようだ。

 

 それはさておき、2013年の構想は、正直に言ってあまり良い内容とはいえなかった。というのは、現在地で現在の国際展示場を建て替える案となっていたからである。現在地での建て替えとなると、当然、建設期間中は展示場が使用できなくなり、その間にこれまで継続開催されていた神戸市での需要が他都市へ流出してしまうことが懸念される。また、規模の点でも、新しく建設をするのに、その時点でも既にスペック的に見劣りのするプランであったからである。

 

 したがって、事業の停滞は、そのあたりに事情があったのかもしれない。

 このたびは「再整備に向けた課題の整理を行う」としているから、一から検討をすることになるのであろう。考え方を変えれば、中途半端なものは建設しないでよかったともいえる。新たに行われる課題の整備では、当然にアクセスの問題が関わってくるだろう。神戸市は三宮と神戸空港の地下鉄新線を構想しているから、それと合わせて抜本的に検討をしようとしているのかもしれない。

 

 では、どのような施設を建設すべきであるのかは、2019年の上記の記事(神戸市のコンベンション政策(3)」に書いたが、今も筆者の考えは変わっていないので、興味のある方は上記を参照されたい。

 

神戸アリーナへの期待

 2025年春に新港第2突堤で完成を予定する1万人規模の新アリーナ(仮称・神戸アリーナ)について、運営会社One Bright Kobe(ワンブライト神戸、神戸市中央区)の渋谷順社長は、開館当初に当たる「25年の4月から9月までの6カ月間について、いくつかの関係先に需要調査を含めて仮の仮ぐらいの予約を取ったところ、調査の形にもかかわらず一瞬で週末が全部満杯になった」と述べ、興行主による同アリーナへの関心の高さを示した。渋谷社長は神戸商工会議所が3日に開いた、同アリーナとの協業提案に関する説明会で話した。

 

(神戸経済ニュース 2023/8/5)

 

新港2突の新アリーナ「25年4〜9月の週末は一瞬で満杯」 年300万人を目標 - 神戸経済ニュース (kobekeizai.jp)

 

 

(出典:株式会社One Bright KOBE KOBE Arena Project)

「神戸アリーナプロジェクト」2025年春開業に向けて本格始動 (kobearena.jp)

 

 

 2025年春に新港第2突堤で完成予定の新アリーナに対する期待は予想以上に高いようだ。上記の記事によると、開業から半年間の週末は一瞬で仮予約で全て埋まってしまったそうだ。

 

 これまでも、交通条件の素晴らしさから、神戸が大規模アリーナの立地に非常に適していることを指摘してきたが、それが裏付けられた形だ。

 

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 この神戸アリーナは1万人規模の施設であるが、前の井戸兵庫県知事はスポーツの国際大会の誘致も可能な2万人規模のアリーナの建設を構想していた。斉藤知事が構想を凍結してしまったが、ぜひこちらも計画を復活させてほしいものだ。

 

 

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 そのような中、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会 関西支部が、「関西地区のアリーナ建設計画に関する声明」を発表した(2024年2月15日)。

関西地区のアリーナ建設計画に関する声明/一般社団法人コンサートプロモーターズ協会:ACPC

 

 同声明は次のように説明する。コロナ禍が終わってエンタテインメント公演が急激に復活し、コンサートの数は過去最高に増加しているが、公演は首都圏に集中しているのが実態である。その要因として関西圏では大規模な会場が不足していることを挙げ、新しいアリーナの建設や開業も首都圏に集中していることから、このままでは首都圏一極集中がますます進み、公演地としての関西飛ばしが発生し、関西のエンタメ産業が衰退してしまう可能性がある。ついては、関西圏でも大規模アリーナの計画を早急に進める必要があるという主張だ。

 同声明によると、関西では現存するアリーナ施設がスポーツ目的で建設されており、コンサート利用には元々制約があり、またコンサート利用に限らず多くの催事にも利用されているため、関西でのスケジュール確保が非常に困難となっているとのことだ。また、大型エンタテインメント・コンテンツのほぼ全てが東京ベースで発信・主導されるため、東京では採算に乗る10000席規模の公演を関西地区で開催すると、移動交通費、宿泊費、運送費等の経費増により採算が取れなくなってしまうとのことだ。こうしたことから、関西圏でもより大規模なアリーナ施設の建設を進めなければ、大型公演の東京一極集中が進む懸念があるという。

 

 その声明に付された「基礎調査データ」を見ると、首都圏と関西圏の2023年上半期の大型公演(スタジアム、アリーナ公演)の動員数、公演数の差が対2019年と比較して開きつつあることが示されている。

 

アリーナ公演

 

スタジアム公演

 

 そこでは、現在、大阪で計画が進められている「森ノ宮アリーナ」を例に上げ、その収容能力が10000席規模となることから、10000席以下の規模の施設では、公演の収支・採算は困難となり、積極的な利用が困難な状況となることを、強く懸念している。ついては、今後の大阪・関西のエンタテインメントおよび文化事業発展の為、大型コンテンツが実現可能な規模感での建設が必要不可欠であると主張している。

 声明の最後に、建設計画の規模の再検討と、エンタテインメント公演事業者と早期に意見交換会・協議の場を設けることを要望している。

 

 

 以上が同声明の内容である。

 

 アリーナ運営によるエンターテインメント事業は、西日本有数の交通の要衝たる神戸市には優れた立地適性があり、その強化はきわめて重要な課題であると考えられ、上記の声明は非常に興味深い。神戸市は、早急に、これらの情報収集にあたり、同協会とも積極的な意見交換にあたるべきだろう。

 

 近時の神戸市は、かつて誇りとしていた、国際都市としての進取の気風を失ってしまったように見える。本来、神戸が持っている優位性に気づかず、神戸を可憐な美しい「地方都市」と位置づけ、地方の小都市の成功事例をお手本とした後追いの「村おこし」のような施策ばかりを行っている。大都市には大都市の役割がある。そのような「村おこし」の施策が大都市を動かす起爆剤になることは決してない。

 神戸の復活は、まず、神戸の持つ優位性に気がつくことだ。自らの自画像を見直すべきだ。

 

 次の言葉は、先の神戸市長 原口忠治郎氏の言葉である。

 

 私は、神戸は未来をひらく都市だと考える。他のどこよりもすぐれた条件に恵まれており、工夫の余地が山ほどあるからだ。問題はそれを生かすかどうかにかかってくる。

 

 我々は今一度、この言葉を思い起こすべきだろう。

 

 

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神戸空港 国際線誘致の状況

 神戸空港は2025年4月から国際チャーター便の運航が解禁されるが、実際に就航する国際便は、どのような就航先となるのだろうか。

 朝日新聞では、このままいけば有力な就航先は韓国と台湾だけになるとの見方を紹介しており、神戸空港国際化について不安をあおる記事を掲載している。

 最近の神戸空港国際化に関する報道記事を拾ってみた。

 

 神戸空港へ国際便を就航させようと、アジア各国にはたらきかけてきた神戸市が、対象国側への支援金拠出を2024年度は見送る方針を固めた。誘致方針を見直した。空港の国際化は25年に迫るが、このままいけば有力な就航先は韓国と台湾だけになるとの見方もある

 

朝日新聞 2024/2/2)

 

 神戸市の今西正男副市長は7日の神戸市議会本会議で、2025年4月からの神戸空港での国際チャーター便就航に向けて、神戸空港に国内線を就航させているANAホールディングス傘下の全日本空輸(ANA)や、スカイマークと同市が意見交換したことを明らかにした。(略)

 今西氏は上畠寛弘議員(自民)の一般質問に答弁した。11月22〜25日に坊恭寿議長を含む神戸市議の議員団が台湾を訪問し、台湾の交通部(国土交通省に相当)と現地航空会社から神戸空港に対する高い評価を得たことについては、「台湾人観光局の約9割が訪日回数2回以上のリピーターであり、台湾は大きなマーケットの1つ」「国際チャーター便の誘致に向けて、非常に力強い後押しになると感じている」と述べた。

 

(神戸経済ニュース 2023/12/8)

 

 関西3空港を運営する関西エアポートの山谷佳之社長は5日に開いた2023年4〜9月期決算の記者会見で、神戸空港への就航する国際便について「具体的な検討段階の前の段階では(準備が)始まっている」と現在の状況を説明した。「具体的に何かを検討しているかは、まだ私の耳には届いていない」とする一方で、航空会社からの「問い合わせは少なからずある」と明かした。

 神戸空港は2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)に合わせて、国内線の発着枠が1日120便に拡大(現在は80便)したうえで、国際チャーター便を就航させることで経済界や関係自治体が合意した。「この方向で進んでおり、エアライン(航空会社)も頭に入っていることかと思う」との認識を山谷社長は示した。

 国際チャーター便の就航に向けて、神戸市は神戸空港島にサブターミナルを建設中。関西エアポートには「本当に国際チャーター便が可能になるのか、あるいはターミナルの建設が間に合うのか、また国内についてはどうか、みたいな問い合わせ」が入っているという。具体的な話は出ていないが、関心を持っている航空会社は少なくないとみているようだ。

 

(神戸経済ニュース 2023/12/7)

 

 韓国の航空大手大韓航空は24日、神戸空港への就航に意欲を示した。同空港は2025年に国際チャーター便、30年前後の国際定期便の就航を見込む。昨年5月に尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が就任して以降、日韓関係の改善が進展。人的交流がさらに活発化すれば、双方の観光客を安定的に運ぶことができると期待する。「国際化されて最初の路線は、ぜひ韓国に」とアピールした

 

神戸新聞 2023/8/26)

 

 神戸空港で2025年春に運航が解禁される国際チャーター便について、神戸市が東アジア・東南アジアの計7カ国・地域に照準を定め、誘致を目指していることが分かった。旅行会社を対象にした視察ツアーを企画するなど海外での知名度アップも狙い、30年前後に迫る国際定期便の就航に向けて弾みをつける。

 

神戸新聞 2024/1/6)

 

 市はこれまで韓国、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアシンガポールの7カ国・地域に照準をあわせ、現地の旅行会社などと交渉し、就航を促してきた。東南アジアでは神戸の認知度は高くないとして、市は年間数億円規模の予算を計上して対象国の旅行会社に一定の支援金を出し、旅行代金を抑えられるようにする考えだった。

(略)

 市は結局、新年度予算では旅行会社への支援金の原資を計上しないことにした。30年ごろの定期便就航を目指し、航空会社との交渉に力を入れるという。

 一方、神戸への観光需要がもともとある韓国、台湾からは、25年の就航の可能性が高いされている。大韓航空は取材に対し、「韓国人から見て神戸をはじめ関西地域は大変人気のある目的地。(就航を)前向きに検討する。」と答えた

(略)

 

朝日新聞 2024/2/2)

 

 神戸空港のセールスポイントは、国土軸沿いにあって、都市部に近く、最寄りの新幹線駅への距離が短く、時間・費用とも少なく済むこと、風向明媚であることなど、枚挙に暇がない。交通機関は合理性が貫徹するものだから、すでに神戸空港は十分な優位性を持っている。また、東南アジアの交通関係者の中で神戸の知名度が低いとも思えない。(たとえば、2023年5 月にACI(国際空港評議会)アジア太平洋地域総会は神戸で開催されている。)

 支援金が必要なのは、こうした合理性を欠く場合である。おそらく市の当局は、支援金を用いずとも十分に路線の誘致が可能だと判断したのだろう。

 冒頭の記事が書くように、「有力な就航先は韓国と台湾だけになる」と書いているが、韓国と台湾だけでも十分な利点があるのだが、先行きについては心配する必要はないと考える。

人口減少が都市間競争に与える影響のモデル

 国全体の人口が減少する傾向となった場合、それが都市に与える影響を考える時に、どのようなモデルが考えられるだろう。

 国全体の人口減少は、国土全体の地盤沈下にたとえられるだろう。

 国土全体が均等に沈下をしていくならば、低いところから水面下に水没していく。この場合、人口密度、経済的集積が高いほど標高が高いと想定する。

 国土全体が一様に沈下して行った場合、標高の低い地域から水没していく。その場合、局地的には、水没しかかった地域を捨ててより標高の高い都市に集約しようとする動きが生じるだろう。その結果、全体として水没しながらも、局地的にはより集積を強める動きも生じる。水没しかかった都市では、自然に水没するのを待つことなく、地盤沈下が加速し、さらに水没が早まるかもしれない。このように、国土全体が地盤沈下を起こす場合、沈下を早める地域と、標高を高める都市との二極分化を生じさせる傾向がある。結果として、都市の淘汰が進んでいく。したがって、各都市としては、できるかぎり地盤沈下を防ぐため、他都市よりも少しでも頭を高くするように努めなければならない。つまりは、各都市間に生き残り競争が生じるのだ。

 その様子は、巨大な船が沈んでいく姿にもたとえられる。船が浸水し、傾いていくと、乗客は低いところを脱して、より高い方に集中しようとするだろう。

 国の人口動態の変化は、もっと長期間のものだが、全体として人口が減少していくと、これと同様の動きが生じるだろう。そして、今、そのような動きが徐々に現れつつあるのだと考えられる。

 このモデルで考えると、神戸市は、「人口減少社会にふさわしい都市作り」などとのんびり構えていていいものだろうか。

神戸市 人口100万人割れの衝撃

【神戸人口ビジョンの改定】神戸市“独自”算定による将来推計人口をダッシュボードで公表

 神戸市では初めて独自の算定手法で将来人口推計を行い、このたび公表に至りました。(昨年12月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口」とは別手法で算定。)
 今回公表の推計の特長として、「独自の算定方法採用による精度向上」や「毎年度ごとの更新が可能」、「ダッシュボード(複数のデータを可視化)の活用」などがあげられ、目まぐるしい社会情勢の変化に対応した足許のトレンド把握が容易となり、今後の公共施設の再配置検討や人口規模を踏まえた施策の立案に活用していきます。
 また、この将来推計人口を「神戸人口ビジョン」にも位置づけ、次期総合基本計画策定事業では基礎資料とし、検討を進めていきます。

 

市内将来推計人口概要


・全国の動向と同様に人口減少は進行し、2070年には約88.9万人(約42%減)になる

・市内全ての行政区で人口が減少する(2050年時0.5%~33%減)

・老年人口(65歳~)は2044年にピークとなり、人口の約40%の48.8万人に達する


(推計期間は2023年から2070年までの約50年間(行政区別は2050年までの約30年間))

 

(神戸市記者資料提供(2024/2/14))

 

 神戸市が、独自の算定手法で将来人口推計を行い、これを公表した。今から約50年後の2070年には、神戸市の人口は88.9万人(42%減)となるとのことだ。

 

 この記事では、神戸市が「初めて独自の算定手法で将来人口推計」を行ったと、誇らしげに公表している。しかし、一般の人々にとって重要なのはそこではない。将来、神戸市の人口が激減してしまうということだ。現に、この発表は新聞では次のように報じられている。

 

 神戸市は14日、市人口が2063年に100万人を切るという推計を発表した市人口は減少が続いており昨年10月に150万人を割っていたが、100万人を切る予測が公になるのは初めて

 市が70年までの人口予測を独自に計算した。70年の人口は88万9171人になる見通し。(以下略)

 

朝日新聞 2024/2/14)

 

 昨年10月に神戸市の人口が150万人を割り込んだと発表したことは大きな話題となった。その衝撃も落ち着かぬうちに、将来人口の100万人割れのニュースを流せば、神戸市の「衰退」はより強固に印象づけられるだろう。これではまるで、自ら「衰退都市」と宣伝しているようなものだ。そのような影響は考慮しなかったのだろうか。このような宣伝に努めるよりも、人口を増加させる対策に力をそそぐべきである。

 

 この神戸市の状況の一方で、福岡市について次のような報道がなされている。

 

福岡の地価上昇、財政潤す 市税収入は過去最高3700億円
成長都市・福岡

 

 福岡市の財政が潤っている。2024年度の市税収入は人口増や再開発を背景にした地価上昇で固定資産税が増加し、初めて3700億円を突破する見込みだ。税収増で1人あたりの市債残高は04年度のピーク時から半分以下に減少、財政の健全化も進んでいる。借金返済を進めつつ子育て支援やインフラ整備など重点分野に財源を振り向け、都市の成長を加速させる。

(以下略)

 

日本経済新聞 2024/2/26)

 

 

 それはともかく、これは大変な事態である。ほぼ半減の状態となると、そのとき現在の市の形がそのまま残っているとは考えられない。

 人口減少は我が国全体で進むとしても、その影響は地域ごとに均等ではないはずだ。つまり、劣勢の都市は加速度的に劣勢となり、他の優勢の都市に集中する傾向があると考えられる。というのは、人口減少が進めば、これまで置かれていた都市機能の維持が難しくなり、他の大都市に集約されるという事態が生じるからだ。つまり、人口減少がある程度進むと坂道を転げ落ちるように加速度的に衰退すると考えられるので、もし、この前提が正しいとすると、おそらく上記の予想をはるかに超える人口減少が現出すると思われる。

 神戸市はもっと危機感を感じなければならない。そして、このような結果を、何の対策案もなしに、嬉々として公表する感覚を疑う。

 

 神戸市は、久元市長の就任以来、有効な人口増加対策を講じず、「人口減少社会」という言葉を積極的に用いて、日本の人口減少問題を一手に引き受けるかのようだ。

 悪いことは早めに予想するということは悪いことではないと思う人があるかもしれないが、社会現象については必ずしもそうとも言えない。なぜならば、社会現象には、「予想が現実を招き寄せる」という傾向があるからだ。人口問題もそのような性質を帯びている。

 社会現象には、人々の予想というものが少なからず影響を与える。人々は現在のトレンドの先に未来を予測する。栄える都市と衰退する都市、人々はどちらに住み、また投資することを選ぶだろうか。将来、衰退が明らかであるのに、わざわざ投資をするだろうか。都市の選択において、人々は「勝ち馬」に乗ろうとするはずだ。都市の管理者とも言うべき神戸市が公式に、将来、人口が半減するといっているのに、人々はどうして自らの生活や財産を委ねることができるだろう。将来が明らかであるなら、まだ未来があると思われる選択肢を選ぶのは自然なことだ。

 

 

 このような予測をする一方で、有効な対策を提示せず、「人口減少時代にふさわしいまちづくり」と嘯(うそぶ)いている姿は、どこか他人事で、無気力であるとさえ感じられる。

 

 

 

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