高遠弘美著『お風呂の歴史』(白水社刊)
今日はきのうにつづいて春到来を感じさせるうららかな一日となった。
仕事場のすぐ近くに、天然酵母のパン屋さんが出来たので、お昼はそこのパンを買う。
小さなパン屋さんで、いかにもおいしそうなパンがささやかに並べられていて、もうすでに3人くらいのお客が並んでいるそのうしろにつく。お客さんのさばき方がまだシンマイで、若い女性ふたりがなんとなくぎこちなくパンを売っている。並べられているパンはどれも丁寧に焼かれた顔をしていて美味しそう。
まあ、あたたかくなった春の日、時間がちょっとくらいかかっても、美味しいパンが手にはいるのだから待ちましょう。
小社よりかつて『乳いろの花の庭から』というすぐれたエッセイ集を刊行されたフランス文学者の高遠弘美氏より、新しい著書『お風呂の歴史』(文庫クセジュ)をいただく。古代からの入浴の歴史をさまざまな逸話ととも紹介していくとあるが、その博識たるや凄まじいものがある。かつてその著書『乳いろの花の庭から』の序文で、中村真一郎をして「彼はわが近世大坂の宇宙的趣味人、木村兼葭堂
の子孫であり、今日の渋澤龍彦の兄弟である。それは世の常の自然愛好家、芸術愛好家の目から見れば、巨大なる逸脱者である」といわしめたように、その貪欲なる知と美への欲求は飽くことを知らない。内外の古典にこれほどエネルギッシュに自在にあそべる魂というものに、私はただ、ただ脱帽です。
ちなみに高遠氏の著書ならびに訳書をちょっと紹介する。これを見ただけでも、氏の精力的な仕事ぶりが伺い知れるというもの。
著書『プルースト研究』(駿河台出版社)
訳書 ロミ『突飛なるもの歴史』『悪食大全』(作品社)『乳房の神話学』(青土社)
ロミ&J・Cフェクサス『おなら大全』『でぶ大全』(作品社)
J・Cフェクサス『うんち大全』(作品社)『珍説愚説辞典』(国書刊行会)などなど他にも多数。
『乳いろの花の庭から』の序文は中村真一郎氏が亡くなる前に書いた最後の序文となったわけであるが、私は中村氏の慧眼をいまさらながら、驚くばかりである。
余計なことであるが、高遠氏は大学時代の同級生であった。彼は将来を期待された優秀な生徒、わたしはといえばそれはもう、お粗末な劣等生であったことはいうまでもない。
(山岡喜美子・記)
後藤比奈夫氏より色紙をいただく。
ふたたび、後藤比奈夫氏より色紙をいただいてしまった。
私は後藤氏の書が大好きである。
見ているとこちらの心までやさしくなってくるような、心の中にたくさんのわだかまりがあってとげとげしていても、その書かれた文字にふれるとあたたかな気持ちになってくるから不思議である。
以前「素敵な書ですね」と思わず申し上げたら、色紙を何枚も書いてくださったのだ。
少し前まで、玄関にかけてあったのが「鶴の来るために大空あけて待つ」。
そうしていまは、「人の世をやさしと思ふ花菜漬」。いい句だなあ。
今日いただいたのが、「ここに来て佇てば誰しも秋の人」。
「確か秋の句がなかったですね」とおっしゃって書いて下さったのだ。
私も秋の句がないかな、と思っていたのであるが、じ、じつはあった!!
今日気づいたのだ。後藤先生、ごめんなさい。
いただいていた秋の句
「沙羅紅葉来世明るしとぞ思ふ」
ふらんす堂の玄関には常に後藤氏の色紙が…。
毎日来る宅急便のお兄さんがかつてこの色紙をじいっと見て、これなんと読むのですか?
って聞いたことがある。
それは「花菜漬」の句。「人の世」の世がお習字をしている人でないとちょっと読めないような書体で、
「ああそれは世ってよむんです」と誰かが答えると「ああ!」と感じ入って帰っていったのだった。
(山岡喜美子・記)
俳壇 歌壇 懇親の集い
アルカディア市ケ谷で例年の本阿弥書店による「俳壇 歌壇の集い」があり、中井愛と出席する。
俳人、歌人も一緒のパーティなので、会場はいつも大変にぎやかである。
能村研三氏、宗田安正氏、雨宮きぬよ氏、斎藤慎爾氏、村上喜代子氏、などなどいろいろとご縁のある方に会場につくやいなやお目にかかる。
装丁家の菊地信義氏
も見えていて、ご挨拶をする。今は、「俳壇」「歌壇」の表紙の装丁をなさっているとのこと。並べられているいろいろな刊行物をじっと見ている様子は眼光するどく、やはりプロの顔つきであった。
ながらみ書房の社主で歌人の及川隆彦氏に会う。及川さんは、わたしが20年ほど前に独立しようと思った時にいろいろと相談にのってくださった方である。その時はほぼおひとりで「ながらみ書房」をやっておられたのだ。小さな事務所で、車の往来の音が激しく、私はすこしおどおどしながらいろんなお話をうかがったのだ。
今日もあちらから声をかけてきて下さって、いろいろとアドバイスをいただく。
「ながらみ書房」は歌集出版を中心に「短歌往来」という総合誌も出しておられて、短歌の世界ではよく知られた出版社である。
斎藤慎爾氏にも久しぶりにおめにかかる。仙川に一度いらして下さったことがあり、今度は私が斎藤さんの地元でもんじゃ焼きを御馳走になるという数年来の約束があるのだが、まだご馳走していただいてない。
「今年こそ」という斎藤さんの言葉を信じて、
今年は御馳走していただきます。斎藤さん。
斎藤慎爾氏は出版業界のなかで私が尊敬するお一人である。
今日の午後は装丁の君嶋真理子さんが来る。
あいかわらず元気でくったくがない。
装丁をしながら、いつの間にか話題はお酒のこと。
君嶋さんは無類の酒好き。
結婚前に、夜中までバーをはしごして、自転車にのって帰る途中、電柱に激突して顔をはらし青あざをつくって仕事に来たときには「こんなことで嫁にいけるのか」と心底心配したが、あろうことか素敵な新聞記者と数年前に結婚した。しかも出逢は飲み屋というのだから、青あざも無駄にはならなかったというべきか。なんともいやはやである。
今日はさかんに「ワインは水みたいなものよ」と豪語。
君嶋さん、ワインは水ではなく、お酒です! と私は言いたい。
(山岡喜美子)
河津聖恵さんの現代詩文庫刊行なる。
詩人河津聖恵さんの現代詩文庫(思潮社)が刊行になった。思潮社の担当の藤井一乃さんから二冊送られてきたので、さっそく手にする。本のうらの河津さんの詩歴のところに、おおなんとあるではないか、ふらんす堂の文字が…。ウフフフッ、嬉しいぞ。
この伝統ある現代詩文庫に、こうしてふらんす堂って記されるなんて、18歳の時に胸を躍らせてこの現代詩文庫の作品を読んでいたやせっぽっちの小娘にいったい想像できただろうか。
河津聖恵という優れた詩人のご縁によってこの栄光の2行を獲得したのだ。ハレルヤ!
栄光の2行とは、以下のごとくである。
第4詩集『夏の終わり』(ふらんす堂) 第9回歴程新鋭賞受賞
第5詩集『アリア、この夜の裸体のために』(ふらんす堂) 第35回H賞受賞
この文庫には2詩集の全作品が収められているのである。すでにこのふたつの詩集は品切れとなってしまっているため、この詩文庫の刊行はたいへん意義がある。
ページを開けば、河津さんの美しい、上質な言葉が匂いたってくるようだ。
河津さん、おめでとうございます。
お祝いの会をいたしましょうね。
バイトの澤田ゆうさんが、イタリア旅行から帰国。
久しぶりに姿を見せる。
就職する前に友達と二人で楽しんできたということ。ローマ、ミラノ、フィレンツェ(いいなあ)、アッシジ、ベニス、ヴェローナ(ロミオとジュリエットの地)などを観光。
おみやげのイタリアのチョコレートを食べながら、皆でいろいろと質問。
どこが良かった?
ウーン、ベニス、そしてヴェローナかな。
男性はやはりおしなべて優しかった、ということです。
(山岡喜美子)
「春月」出版記念会に行ってきました。
と言っても先月の28日のことです。すっかり遅くなりました。
戸恒東人主宰の「春月」出版記念会に行ってきました。
少々脱線しますが、待ち合わせに遅れるのが苦手です。
特にパーティなどは前日にインターネットなどで乗り換え案内を綿密にチェックして、最低でも30分くらい前には最寄り駅についているようにしています。
今回も会場の海浜幕張駅までの乗り換えと出発時刻を、いつも通り30分前到着コースでネットで検索。
「東京駅で12分も待つのか・・・でも結構駅の中も広いし、余裕を持ったほうがいいかも」
と思っていたのですが・・・
すっかり東京駅で乗り遅れました・・・。
中央線から京葉線まで、600メートル以上あるとは・・・のんびり歩いていたわけでもないのに。
海浜幕張駅に着いたのは、パーティ開始時刻のなんと10分前。
自分的にはありえない時刻です。会場までダッシュすると、受付で戸恒主宰が待っていて下さいました。
遅れなくてよかった・・・。
パーティは、幕張の素敵なホテルの一室で和気藹藹と行われました。
私は『現代俳句文庫56 戸恒東人句集』を担当させて頂いたご縁で、御招待頂きました。
お祝いのスピーチを申し上げる時はすっかりあがってしまいましたが、午前11時から午後4時まで楽しく過ごさせていただきました。有難うございました。
写真は、スピーチをされる戸恒主宰です。
(中井 愛)
小澤實氏の句集『瞬間』 今年度読売文学賞を受賞!
寒い一日となった。
大方の人はしっているのかもしれないが、小澤實氏の句集『瞬間』(角川書店)が今年度の読売文学賞を受賞。私はなんとこの情報を昨日知る。出版界にいながら、どうもこういう情報をキャッチするのが遅いのである。
ともかくも小澤氏には心よりお祝いを申し上げたい。
小澤實氏といえば、私にはすぐ『万太郎の一句』の仕事ぶりが思い出される。2004年にホームページで毎日、万太郎の俳句を一句ご紹介いただいたのであるが、全力投球でこの仕事にかかわって下さったことは昨年刊行させていただいた『万太郎の一句』を読めばすぐ分かること。
万太郎作品をこころから愛し、手を抜くことの無い丁寧な仕事をしてくださったことには今でも感謝申し上げている。
今日は天気予報では、夕方から雪になるらしい。どうりで寒いはず。
東京は2月に雪が降るのはよくあること。立春をすぎてから雪が降り、そうして雪が降るたびにあたたかくなっていく。
あたたかくなるのが待ち遠しい。
渡邊真紀が新しいコートを来て出社。
黒と白のツィードの材質に、衿の立ち方が若々しく、ウエストを黒のベルトできゅっと結ぶ。
それを着た渡邊はおしもおされぬレディである。
加藤泰子が「いいなあ、ちょっと貸して」と手を通してみるが、なんだかちょっと腕のあたりが…
「入らない!! 真紀さん、腕ほそいねえ」とうらやましそう。
男の子二人そだてている加藤は、かぼそかった腕もしっかり筋肉がつき、見事な母親の腕。
それはそれで、母親の栄光に輝く腕ではありませんか。ね、加藤さん。
(山岡喜美子)