個性的な商業施設・ショップのリサーチメモ

F's SHOP Report!

ショップリサーチの備忘録・感想_φ(・_・

vol 8.中銀カプセルタワー《中央区銀座/2017.10.22》

銀座・汐留の中間辺り、首都高脇に建つ奇妙な近未来的な建物が、1972年にあの黒川紀章が設計した中銀カプセルタワーだ。社会変化に合わせて有機的に成長する建築とされメタボリズムの代表建築とされており、一度中を見たいなぁと思っていた。季節外れの台風接近の中保存会が主催する見学会に参加したので、商業施設ではないけれど早速レポート !

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不思議な建築物だが、構造は実に単純。中央に躯体となる柱状の建造物がありその回りに別で作られたカプセルが螺旋状にボルトで固定されているだけとのこと。カプセルは各々独立しているためメンテナンスは大変。当日も豪雨の為あちらこちらで雨漏りが…

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他にもマンションの苦難を上げたらキリがない。まずは空調。カプセル自体が鉄板でできているので夏の熱さ、冬の寒さは大変みたい。もちろん室外機も階下まで置く所がないので工事も大変なようだ。給湯設備もメンテナンスが難しく機能していないとのこと。つまりお湯が出ない…
インフラとしてはあり得ないんだけど、敢えてここに住むという事に価値を見出してる方々にとってはそんな不便を楽しんで暮らしているらしい。そんなところがまた魅力的なんだろう。
古いアメ車をメンテしながら所有するのと同じ感じなのかな?こんな環境にも拘らず140カプセルの内約100カプセルが稼動してるとの事。

さて、部屋の方は約10㎡。近未来的なイメージなんだけど、イメージは日本の茶室らしい。如何にもなイメージでコッポラやキアヌリーブスがロケ班に訪れたのも納得だ。建設当時のオプションである当時最新のSONYオーディオも現存。まさにタイムカプセル、元気な時代のニッポンの姿が垣間見える。

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 さてこのマンシオン(←実際にこう表示されている)何度も建替の噂が立っている。中に入ると分かるが見た目のアバンギャルドさと比べ内部の老朽化は否めない。建築物としての価値と老朽化、住む人の想い・利権。そのバランスの中でビルは現存しているが、老朽化はドンドン進行する。大規模修繕工事も議決権の1/3を持つ中銀が建替を希望しているため実施できていない。同時に、建替に必要な4/5以上の賛成も得られないため、建替もできない状況らしい。もはや八方塞がりの中で全カプセルの変更も検討されてるようだが現行建築法規の中でハードルも低くはないだろう。建築ファンとしては保存を希望するが、民官一緒に建築物を文化として根本的に守る方法を模索しなければならない。「メタボリズムという建築思想による代表的な建物。壊してしまったら、同じ物は二度とつくれないでしょう。このビルは、日本よりも海外でより高い評価を受けています」とは保存会の方のお話。お役所仕事のコンプライアンスではこうした文化遺産を守れないのだ。

vol 7.高尾山《東京都八王子市高尾町/2017.09.10》

日頃の生活で汚れた心と身体を浄化しようとやってきた高尾山。単なる山と思いきや観光地としてトータルに環境整備されていて驚いた。そんなわけで今回は商業施設ではないけれど高尾山山歩きで感じた事を徒然と…

 

ご存知の通り高尾山は京都や富士山などとならびミシュラン・ボワイヤジェ・プラティック・ジャポンで星3を獲得。東京都心からのアクセスの良さと自然が豊かが評価されたといわれているが、地域や行政もちゃんとそれに応えようと努力してる。

まずはケーブルカーとリフトの発着駅である清滝までの表参道がちゃんと整備されてるコト。

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これって地域の人たちの意識がちゃんとしてないと難しいと思うんだよね。駅舎からこの参道といったファーストインプレッションがいいって大事なことだよね。ちゃんとホスピタリティのコンセプトが理解されてるんだなって感じる事ができる。綺麗=新しいって事じゃないのは分かってるけど、それでもこの清潔感を保つのは環境投資が継続的に行われてるハズ。やっぱり行政の後押しもないと中々これだけのレベルは保てないと思う。つまりは地域コミュニティーと行政の協働体制、コミュニケーションがちゃんと取れてるんだと思うんだよね。
それは表参道の入り口に2015年8月にオープン「高尾599ミュージアム」にも現れている。テーマはみんなでSHAREするミュージアム。

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単なる展示施設ではなく、参加型のイベントなど高尾の自然と触れ合いコミュニケーションできる施設になっている。カフェや子どもの遊び施設も清潔感があって、高尾山と巨大な自然とリゾートとしてそれを味わう都会人・観光客の観光客のウケになっていると感じた。

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もちろん東京からのアクセスの良さとその気軽さはこの地にある圧倒的なアドバンテージだ。都心から1時間。ケーブルカーを使えば登頂・下山で2時間。プラスお土産などなど1時間とすれば、都心から日帰りどころか午後からもう1イベントスケジュールする事も出来る(体力が持てばだけどね)。まさにアーバンリゾート!

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新しい駅舎から清潔な参道、コミュニティ型のミュージアム、そして雄大な自然と歴史。全体がトータルにプロデュースされている。1度行ったら癖になるというのもよく分かる。まだまだ打つ手はありそうだ。

vol 6.MIRROR/カキモリ《東京都台東区蔵前/2017.08.23》

下町・蔵前散歩にて、前々から気になっていた施設を2軒。「蔵前」は浅草と浅草橋の中間、両国から隅田川を対岸に位置。町工場やおもちゃ問屋が建ち並ぶ非常に地味な土地柄。そんな蔵前に個性的なレストランやショップが続々と開業、古い下町と調和する注目のエリアになっているのだ。

 

まずは、さまざまな業態のレストランを続々とオープンさせ、どれも人気店へと成長させているバルニバービが運営、既存の廃ビル(誰も廃ビルとは言ってませんが勝手に想像しちゃいましたスイマセン)をリノベーションした食の複合商業施設「MIRROR」。7階建てのビルの中に、リバーサイドカフェ「シエロイリオ」、卓球が楽しめるバー、パーティールーム、ルーフトップバー、同社オフィスが営業をしている。
「MIRROR」が開業する前のこの場所は、土曜でも店前の通りを歩く人が50人もいなかったような寂れた場所だったらしい。そもそもバルニバービは、人通りが少ない、活気がなく寂れている立地に積極的に出店する「バッドロケーション戦略」で成長してきた企業だ。つまり会社のアイデンティティに、立地に合ったレストラン・施設を開業させ、新たな人の流れを生み出し、その街の持つポテンシャルを引き出そうとするデベロッパーのようなマインドを息づいているのだろう。そういう意味では蔵前・リバーサイドというこの場所に目をつけた先見性・チャレンジ精神は素晴らしいと思う。
リノベーション方法も元々のビルが持つ躯体が活かされている。普段から集客力を考えている者としては「店舗への導線が…」とか「道路から店舗の顔が見えない…」とか考えてしまうが、こうした今までの固定概念が崩されていったのが分かった。大きなドアを開け、雑居ビル風の暗い階段を上がった所に広がる開放感あるレストランの風景は感動すら覚えた。f:id:fskol869:20170826174439j:image

また、窓際の席からは隅田川を見下ろされ、きらめく水面や川の向こうにはスカイツリーが見え最高のロケーションだ。

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この窓際の席について面白い話がある。このビルが建てられた40年前の隅田川は今よりもかなり汚れていて、川側に窓を設置できる状況ではなく、川沿いにも関わらず窓がなかったらしい。高度経済成長の頃の日本がいかにムチャしてたかが分かるエピソードだと思いません?
こんな「MIRROR」を体験した後、周りの古いビルを見ながら「ここならこんな開発できるな。コッチはこんな導線で…」などと想像しながら蔵前散策を続けるのも、また楽しいのだ。

 

さて次は、「MIRROR」から歩いて10分程、オリジナルのノートやインクを作ることができる文房具店「カキモリ」。書く事が減ってきた現代人に「たのしく、書く人を増やしたい」という思いがコンセプトととのこと。この地を選んだ店主さんの以下の言葉は商業デべにとって大変参考になる一言だ。
「文房具は道具のひとつですから、使ってもらわないと意味がないと思っています。だからこそ手を出しやすい値段設定にしたくて、できるだけ固定費がかからない場所を探しました。
それに青山や表参道などおしゃれなお店が揃うところに出店しても、埋もれてしまうと思います。蔵前のような小売に向いていない場所であってもコンセプトが尖っていれば、お客さんは来てくれると考えました。文房具を売るだけでなく、お客様と職人さんをつなぐ役目を担いたいと思っています。(ブログ・灯台もと暮らしより)」とのこと。よってオンラインショップを持たず、作ったものをお客様に商品を直接届けることにこだわりを置いている。f:id:fskol869:20170826174037j:image
キモリのシステムはこうだ。

表紙裏表紙を厚紙や革などの中から選ぶ→中のノートを紙質、用途、カラーから選ぶ→リングを選択→留め具などアクセサリーを選択となり、トータルではおおよそ2000〜3000円位になる。の一冊となるとなかなかの金額だが、世界に一冊の自分だけのノートと思えば必ずしも手が届かない金額でもない。当日は平日にも拘らず中々の混雑っぷり。しかも平均年齢もソコソコ若い。飲み代ケチる若者達もオリジナルノートをオンラインを持たないショップにワザワザ脚を運んで3000円で創って購入する。今の消費構造がここに全て象徴されているような気がする。


こんなマンパワーや想い、環境資源があればもっと面白く、成長していくに違いないと思わせる。蔵前はそんな街だった。

vol 5.ぽんしゅ館越後湯沢店《新潟県越後湯沢市/2017.03.07》

とにかくモノが売れない(と言われている)。百貨店やアパレルが相次いで減益を発表し、リアルの店舗を次々に閉店を余儀なくされている。ネットなど販売チャネルも広がり、今やリテールや店舗の在り方自体が問われている。そんな現状の中、朧ながら一つの答えが「コト消費」という事になる。ただ、漠然と「コト消費」と言われても具体的な展開はなかなか見えていないが、「ブランド体験」というキーワードを良く聞く。では「ブランド体験」とはなんだろうか?そんな状況で今回のレポートは新潟県越後湯沢駅構内にある「ぽんしゅ館越後湯沢店」。

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実はここを訪れるのは2回目である。昨年、越後湯沢駅を利用した時に初めて寄る機会があった。新幹線発車までのほんの20分弱。もちろんそれでは完全に消化不良。そこで今年は1時間以上の余裕を計算し一年越の再挑戦となったのだが、実際はまだ足りなかった。しかも自分はポン酒よりもビール派なのに、だ。
さてここの構成は、500円でおちょこ5杯の飲み比べゾーン(「日本酒のガチャガチャ」と表現しているブログも…)、アテにはさまざまな塩が数十種類、おちょこなど酒に纏わる雑貨達。
もちろん酒だけじゃない、魚沼産米を使った人の顔程ある「爆弾おにぎり」、お菓子の試食だってケチケチしない。そう正に新潟の「ブランド体験」なのだ。

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 そもそも「ブランド体験」とは、実際に商品に触れ、その価値やストーリーを顧客に伝えることとされている。今のユーザは「安い」という理由だけでは購買には至らない。いかに顧客心理に「買う理由」を動機付けるか?が課題となっている。自分は商業施設を作る側なので、顧客が実際に店舗に「足を運ぶ理由」を作らなければならない。
また、顧客もコトを体験するだけでなく、SNSによる情報発信者として、こうした体験を「みんな」で共有し、新たな価値として広めていく役割も担うようになっている。口コミ(SNS)で評判が広がりプロダクトの価値も高まる。「個」から「みんな」へ商品価値を広げていく。「良質なプロダクトやサービス」がブランドの差別化要素として支持された時代から、「時々のニーズにマッチしたプロダクトやサービス」が高く評価される時代へとマーケティングの重心が移ったとする記事もある。
そうまさに、企業にとっても、顧客にとってもここにしかないブランド体験の「場」の設計が重要なのだ。
そこでこの「ぽんしゅ館」だ。これを体験しようと思ったら「店舗」に足を運ばざるを得ない。新潟というブランドのブランド体験はここでしかできない。だから訪れた顧客もここで何かをしたくなる。(呑んだり、食べたり、買ったり、誰かに伝えたり…)
今後MDに迷って「ブランド体験」の原点に立ち返る事が必要になった時、この店舗を思い返すような気がするのだ。

vol 4.PASAR三芳《埼玉県入間郡三芳町/2016.11.2》

「PASAR三芳」は関越自動車道上り線、練馬ICまであと約15㎞という所に位置。まず、訪れた第一印象は「開発・運営がこなれているな」と感じたコト。テナント構成・配置、デパ地下顔負けのシズル感のある店舗ファサードなどは最新の商業施設顔負けである。ただ、こんな事は多少こなれたコンサル会社や大手内装会社に線を引かせて、運営を任せれば余裕のよっちゃんだ。

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 ここは「PASAR」業態の完成度よりも、外界と拒絶されいわばなんでもOKだったSA・PA運営に、民営化されたNEXCO東日本が、差別化・顧客満足などの一般商業施設の運営視点を重視させたことを評価しなければならないと思う。

そのことを証明し、今回この施設で一番衝撃だったのは高速道路だけではなく、外部から周辺顧客もこのSAへの出入りが可能となっており、このSAが周辺地域に開かれていた事である。この施設が地域住民に対してどんなポジショニングを打ち出しいくか注目であり、この施設はSAとしてだけでなく、三芳町の一商業施設であり、地域コミュニティの中心として機能することになる。これまで「旅」の一環としての役回りの強いSAが今後はSA+郊外型SC+道の駅といった機能を兼ね備える存在となっていくのだと感じる。

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vol 3.松山文創園区、華山1914《台湾台北市/2016.10.3-4》

SCはハードなのか?MDなのか?スピリットなのか?そんな事を考えさせられた台湾の大型リノベ施設2件。
松山は80年前の日本統治時代の煙草工場跡、華山1914は100年前の酒造工場跡に造られた複合施設。日本で言えば赤レンガ倉庫的なのかな?ただ、クリエイターに門戸を開き文化発信施設により軸足をおいたのが台湾版。よって、売上げとか言っちゃうと恐らく全くペイできていないだろうけど、新しい文化とか生活とかを提案する機能は果たしている(感じがする)。

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人間が生きて歴史を積み重ねるように、建物にもその歴史を後世に伝える為に新たな役割負荷させていく。古いものと新しいものを組合せ新たな環境を提案する。これらもデベロッパーの為すべき事なのではないだろうか?なんて思ったり…なんでもスクラップビルドの日本の都市計画に疑問を感じた台湾ツアーだったのでした。

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一方で「建築に関する法規が日本とは全く違うんだろうな?日本じゃまずこれ無料だわ。」と思ったのも事実。日本じゃ昭和初期以前の建物リノベするより、立て直した方が安いし、簡単だし、自由度も高いもんね。赤レンガ倉庫なんかも恐らく相当の気概がなきゃ今の姿はない筈。台湾ではホントに古いビルでも、最新のショップやカフェが出店している光景に何度も出会った。スピリットがうんぬんだけじゃなく、単純に経済的与件もあるんだろうな?
さて、そして文頭の問いであるが、身もふたもないが要はバランス。売るだけ、利益あげるのだけが目的じゃダメなのよ(結果じゃなくて目的ってトコがポイント→備忘録)。折しも日本では百貨店(紋切り型MDの典型)低迷による閉店ラッシュの波が再び襲っている今、新たな集客施設の側面として大きなヒントをもらった気がした。

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vol 2.材木座テラス《神奈川県鎌倉市/2016.08.31》

 そこにある環境が施設を作るケースと施設が地域環境を作るケースがあると思うけど、この材木座テラスは決定的に前者。だって、場所が鎌倉材木座海水浴場の正面。コンセプトが「年間を通してビーチライフを1日中楽しむ」。店舗構成は海とサーフィンがテーマの女性雑誌「HONEY」が手掛けるサーフクラブ、レストラン、ヨガスタジオなどなどなど…なにせ環境が素晴らしい。海側のデッキからは湘南の海が一望!

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全ての店舗がこの環境を享受できてる。会員制のサーフクラブや海を見ながら体験できるヨガスタジオなど絵に描いたようなビーチライフを満喫できそう。ホントこの辺に育って、こんな施設あったら人生違ってたなと思うよ。
そんな訳でやっかみ半分で気になったコトを…私見だけどこうした商業施設って人の動きが大事だと思うのね。ルーティンの来店があった上での、スタジオやクラブみたいなコミュニティだと思うんだよね。そういう意味ではクローズな施設(上記以外にウエディング施設も…)割合が大きくて人の流れが生まれてないとこが残念。環境というかけがえのない財産があるだけに余計そう思ったのかな。イメージはカフェベーカリーやグロサリー、専門性の特化したセレクトみたいな感じ。まっ、とは言え海のある生活って羨ましいなと思わせるライフスタイル施設なのは確か。 因みに今回のランチは最上階のレストラン「POST by HONEY」でビーチを見ながら…またここの働いてるスタッフがイケメンと可愛いコばっかし。ますますビーチライフへの憧れを募らせたのでした。
最後に施設プロフィール。プロデュースは株式会社バルビゾン(東京都港区)。地下1階地上3階建てで、延床面積は1370平方メートル。

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