胸の話。

もう十年以上時間が過ぎて、自分の中でとりあえず(本当にとりあえず)気持ちが落ち着いたので書き散らしておこうと思います。

私は現在二十代後半の女です。明日からまた仕事か〜〜と思いながらこれを書いています。

私は男性が苦手です。話せないとか近寄れないとかそこまでではないけど、できれば隣のデスクは女性がいいなあとか、混んでるエレベーターには乗らないとか、その程度の。

多分、側からは「男性に慣れてないのかな」ぐらいの見方をされていると思います。

思い返すのは中学生の頃。

中学校へ入学してすぐ、私はがっつり太りました。運動部に入部したことで、食事量が一気に増えたからです。しかし秋頃から10cm以上身長が伸びた結果、そこまで気にならない程度に体型が戻りました。

それに伴い、二次性徴の影響もあって、少しずつ、しかし着実に胸が大きくなりました。同じ部活にいた子たちは皆スラッとしていて、少しそれが羨ましくもあったけど、特に気にすることはありませんでした。母と一緒に街のデパートへ行って、初めてワイヤー入りの下着を買った日、かわいい花柄のそれに気持ちが舞い上がったこともよく覚えています。

それまで肯定的だった自分の発育に対する考えが180度変わったのは、二年生の冬、修学旅行の夜のことでした。

旅館での夕食の際、宴会場の小さなお膳に慣れない私は手を滑らせて、お茶を寝巻きの上着にこぼしてしまいました。幸い、すぐに従業員の方がタオルを持ってきてくださり、部屋に戻ってドライヤーで上着を乾かし、夕食の後のレクリエーションに少し遅れて参加することができそうでした。

各クラス対抗でゲームをすると聞いていたそれに早く合流したくて、慌てて開けた襖戸は、ちょうど自分のクラスメイトが集まっているあたりのものでした。さっと仲のいい子を探す私を見たクラスメイトの一人、少し荒れていたその中学校で、声の大きいグループにいる男の子が言ったこと。

「○○の胸濡れてね? 子供いるんじゃねえの」

えっ、と思いました。部屋で確認した時はもう完全に乾いていたけど、どこかまだ濡れていたところがあっただろうかと、咄嗟に胸元を見下ろしましたが、しっかり乾いたそれはどこも濡れていませんでした。

顔を上げられない私の向こうで、その男の子の周りにいる子たちがギャハハと笑っているのがぼんやり聞こえました。

自分が何を言われたのかよくわからなくて、目の端に映った仲良しの子のところへ吸い寄せられるように近づいて、なんとか座りました。二言三言、その子が話しかけてくましたが、上手く返せなくて申し訳なかったのをよく覚えています。

結局私は、そのあと15分もその場にいられず、レクリエーション会場の横にある小さなトイレで胃の中のものを全部もどしました。その時初めて、自分の体も性の対象になるんだなと気付きました。

修学旅行から帰ってきて一週間もしないうちに、背中の真ん中あたりまであった長い髪をバッサリ切って、生まれて初めてショートヘアにしました。驚く友人たちには「イメチェン」って笑ったけど、本当はそうじゃなかった。

薬局で大判の包帯を買ってきて、母と一緒に選んだかわいい下着の上から、ぐるぐるに巻きつけて胸を潰しました。この頃から体育と部活の着替えは全部トイレでしていました。

惨めでした。

クラスの他の男子生徒ももしかして同じようなことを思ったんじゃないかと一度考えてしまうと、もう何もかもが受け付けられなくなりました。前まで同じアーティストの話題で盛り上がった子とも、滅多に話さなくなりました。

でももう、当時の私にとって「周りに比べて発育のいい体」は恥以外の何物でもなくて、ちょっとでも着飾ろうとか、可愛らしい格好とかに目がいくと、あの夜のレクリエーション会場が思い出されました。

その反動からか、高校大学ともに女子校を選択して大人になりました。その間もずっと所属は運動部。ショートヘアが板につきました。私服からスカートが消えました。かわいい下着は、最初のうちだけ。中学後半から大学の部を引退するまで、ずっとスポーツブラでした。大学生になってからはやめましたが、高校在学中はずっと胸に包帯を巻いていました。

そして、数年前に社会人になって、ようやく少しずつ、自分の女性を認めることができてきたのかなと思います。そこに劇的なきっかけがあった、とかではなくて、ただ時間の経過があるだけですが。

頑なに履かなかったスカートも、履けるようになりましたし、化粧も覚えました。一番大きな変化としては、ここ一年ほど髪を伸ばしていることです。今はまだロングヘアとは言えませんが、いつか背中の真ん中あたりまで伸ばせたらいいなと思っています。

でも、今でも気分が沈む日なんかは、同僚男性を見て「この人もそういう視点を持ってんだろうな。ケッ」みたいな気持ちになることがあります。多分に失礼な思考ですが、そういう日は本当にどうしようもなくて、少しずつ積み上げてきたものを全部無に返したくなったりします。

そんなこんなで、明日からまた仕事です。

とりとめのない昔話兼愚痴ですが、同じような傷口を今まさに庇っている人がいるかもしれないので、当時の私が喉から手が出るほど欲しかったな〜という言葉を置いて締めにします。

制服ってなんであんな胸があると不恰好になるようにできてんだろうね。社会人用のスーツは胸があっても形が崩れないようなデザインがあるから安心していいよ。早く大人になりたいね。