ディストピア
砂漠のど真ん中に薄汚れた山がある。
産業廃棄物やどこからか運ばれてきた家庭ごみなんかで山は作られている。
もちろん、正規のごみ捨て場ではないので、不法投棄だ。
この山は、俺達にとっては職場のようなものだ。
鉄くずを集めて売りに行けば、はした金だが金が手に入る。
「こんな不衛生な所にいたら、感染症になるわ」タトゥがブツブツと文句をたれる。
「相変わらず、手より口を動かす女だな」とネイが悪態をつく。
「嫌なら来なければ良いんだ」
タトゥがネイを睨む。
「大体、こんな事するのって違法じゃないの?」
「許可を得ないで投棄するのが違法なんだ。俺達は違う!」ネイが胸を張って言う。
「そうなの?」大人しく鉄くずを集めてたウズィが俺に聞いてくる。
「知らん!」本当に知らないし、どうでも良い…
タトゥがごみ山をかき分けてウズィに近づいてくる。
「ウズィ、あなたはこんな違法か分からずに行動する大人にならないでね」ウズィの肩に手を置いてタトゥが言う。
「うるせ〜、お前みたいな愚痴ばかりの年増女なんか廃棄物だろ!」ネイが叫ぶ。
失礼ねと呟き「あんなに頭悪いヤツは、見張られてるのよ」タトゥはネイを憐れむような目で見て言う。
「見張られてる?」
ウズィが不思議そうにタトゥを見る。
「そう」タトゥは天を指差す。
「衛星からね」
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トラックに鉄くずを積み込み、街に向けて走り出す。
助手席にはウズィが座る。タトゥとネイは鉄くずと一緒に荷台だ。
街中に入り、しばらく走ると車道が規制されている。どうやらデモが行われているらしい。
「あちらに迂回して下さい」と警察官に言われる。
「トゥラン、何のデモをしてるの?」ウズィが尋ねてくる。
「こないだテレビでやってた個人番号の生体埋め込みがあっただろう。その法案が成立することへのデモだろう」
個人番号が登録されたマイクロチップを体に埋め込む。痛みもなく、簡単な注射のような器具でできるそうだが、これにより手続きや金銭の出し入れが手ぶらで出来るようになるらしい。しかも、盗難や成りすましが不可能となる。
「なんでデモが起きるの?」
政府に全てが管理される。金銭の情報も、居場所も、下手したら会話の内容も聞かれると言い張っている者もいる。
「窮屈だからだろ?」
ふ〜んと言いながら、ウズィは外の景色に視界を戻す。
俺達が通るはずだった道路には、ホログラムで抗議の文字を浮かびあがらせ騒いでる集団が溢れている。
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「なんだよ、これだけか?」
ネイが社長に食いつくが、社長はこれ以上なら買い取らないと引き下がらない。
「社長、奥さんはどうしたんだ?」いつもは一緒に働いてる奥さんが見えない。
「ヨメさんは、あのデモに参加してるんだよ。無駄なことを…」
社長は、忌々しそうに呟く。
確かに、出どころ不明の鉄くずを再利用して売ってる社長夫婦からしたら、何でも管理されるのは嫌だろう。
「ネイ、帰るぞ」
「えっ?」これで良いのかよ、と言いながらネイも引き下がる。
「仕方ないから、明日潜るか」とトゥランが言うとネイが良いね〜と返す。
「ウズィ、政府が管理したくても出来ない場所があるんだよ。教えてやる」
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ごみ山の一画にぽっかりと穴が開いている。
「昔、この辺には地下街というものがあったんだ、人口が減少して、使われなくなって、地上の建物は取り壊されたが、地下までは予算の関係で壊されなかったんだ」
ネイは、ロープを穴から地下深くへ下ろしていく。
ネイもトゥランもハーネスをつけており、トゥランがウズィにハーネスをつけてくれる。
トゥランは、簡単なロープでの降下方法をウズィに教えた後、ヘルメットをかぶる。
「ゆっくり後からついて来い」と言って、トゥランとネイは、ロープで地下に下りていく。
ウズィが恐る恐るロープで地下深くに下りていくと、地下に光が見える。
光はトゥランとネイがつけているヘッドライトと、もう一人が持っているランタンから発せられていた。
「無事に来れたか」トゥランがウズィからロープを外してくれる。
ランタンを持っている人はダボッとした服をきて、防毒マスクや何かを測る機械を肩から下げていた。
「この人は、この地下で暮らしている人だ」とトゥランが紹介してくれる。
「こんにちは、少年」と言って、その人は握手を求めてくる。
トゥランとネイは、その人と世間話をして、その後にいくつかの品物とお金を交換する。
その人は、取引が終わると地下の暗闇の中に消えていった。
「トゥラン、あの人は誰なの?」
「あの人は、地上の監視社会が嫌になって、地下で暮らす人だ。ここには、そんな人達が一万人近くいるらしい」
「ここで暮らしていけるの?」
「ああ、ここには地上で出回らないような、地上で規制されたものがあるんだ。だから、こうして俺達は取引きしている。彼等はそれを生活の足しにしているんだ」
「でも、ここで暮らしていくのは大変でしょう?」
「そうだな、地上には有害なガスもあるし、酸欠の場所もある。だから、地上の人間も追ってこないんだがな……」
ウズィは、複雑な思いで暗闇を見つめる。
「それでも、監視からの自由を求める人達も居るんだ」トゥランは、ロープを握って光が指す地上を見つめる。
「さぁ、帰ろう」