金属片やむなし

君の影を踏みに。

牡蠣のzip

アメ横センタービルの地下で牡蠣を買ってきた。

粒は揃っておらず、小ぶりのものが多いが、およそ1キロほどの目方で1000円。格安だ。

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塩水で洗って汚れを落とす。片栗粉を使う向きもあるようだが、生の姿で供するのでもなければそこまでしなくてよかろう。

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鍋に油を引き、ニンニクと鷹の爪を入れる。鷹の爪はタネを取り除かないとからくなるため、取り除かない。火にかけて油に香りを移す。

水気を切った牡蠣を投入。水分が飛ぶまでひたすら加熱する。

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けっこう水が出るが、無心で煮詰めていく。エクストラクト牡蠣。牡蠣のzip。ただただ牡蠣を圧縮する。

学生のときに、ノイズバンドをやっていたことがある。おれがギターを弾き、I沢がドラムを叩くという簡単な編成だった。それで学祭に出よう、という話になったのだが、なんでも学祭に出るにはバンド名が必要だという。おれとI沢はふたりでたらふく酒を飲み、なんとなくバンド名を決めた。

学祭当日、ステージに上った。屋外に設けられたステージはライブハウスのそれよりも数段広く、行き交う人々も各段に多い。空が青いな、と当たり前の事を思いつつおれは客席の後輩に終了時間3分前になったら伝えてくれるよう頼み、さてやるべえか、と椅子に腰掛けた。

不意に声がする。「えー、続いてはバンド演奏の方たちです」司会者だ。ふと嫌な予感が背筋を走る。「バンド名はー、片手落ち土人圧縮兄弟商会劇場」「うわあああああああああ!」「えっ、バンド名は」「いいです! 言わなくていい! やめろ!」ファズを踏み込み歪んだ爆音を鳴らす。静かに始めようと思ってたのにいきなりのトップギアだ。ステージは時間を勘違いした後輩のタイムキーピングにより5分ほどで終了した。「ハイ終わり、終わりだおわり!」

ステージを降りてI沢に食ってかかる。「なんだあの恥ずかしいバンド名は!? ああいうのを面白いと思ってると思われたらもう生きていけないではないか!」「なに言ってんだ、お前が決めたんだろ」「えっ?」「お前が言ったやつを提出しただけだ」「おれのセンスじゃない」「知らねえよそんなこと。ともかくお前が言ったやつだからな」

特に「兄弟商会」とか「劇場」とかが恥ずかしい。ふたりとも酔っていたので真相は藪の中だが、今でも自分がそんなことを言ったはずがないと信じている。

結局バンド名には「圧縮」だけを残した。

牡蠣を圧縮している間に、個人的な黒歴史がunzipされた。まだzipなんて圧縮形式がなかったころの話だ。

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牡蠣.zipは密閉容器に入れて、オリーブオイルを流し込んで保存する。そのまま食べてもいいし、パスタの具なんかにしてもいい。写真はドライトマトと合わせてブルスケッタにしたもの。

料理のエントリを書いていただけなのに、どっと疲れた。

re:sample

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みんな大好き食品サンプルである。
本来の目的は店が供する料理がどんなものであるかを視覚的にわかりやすく示すものであり、同時に店頭の賑やかしである。
実際のところカツ丼やラーメンなど、今さら立体で示されても、というものが多い。

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逆に日本人にあまり馴染みのないダルバートやディドなどといったものを供する店で食品サンプルを用意しているところは見たことがない。

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ドネルケバブの店で食品サンプルを用意するのはどうか。実際に焼かれているケバブの前で、偽物のケバブタワーがぐるぐると回っているのだ。

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昔は食品サンプルを豪華に作りすぎて、「実際に供される料理と違う!」というクレームがつくということも良くあった。

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誇大広告の問題は現在でも形を変えて続いている。WEB広告なんて、誰が信用するだろうか。我々は常に誠実であることを心がけねばならない。

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誠実であれ。
突っ込んだら負けだ。

おのののかふたたたび

まずはストリートビューをご覧いただこう。 https://www.google.co.jp/maps/@35.6549202,139.7435161,3a,75y,311.38h,97.52t/data=!3m6!1e1!3m4!1sZDwpIK21xqUdrTu2oicUBw!2e0!7i13312!8i6656?dcr=0スマホの場合はブラウザでストビューを開いてからアドレス欄にurlをコピペすると見られます)

婚活パーティーエクシオの看板である。首都高から見えやすいよう、高い位置に大きな文字で、コントラスト高めの配色で作られている。ちなみに写真はボカされているが、おのののかである。このブログで彼女を取り上げるのは2度めになる。

先ほどのストビューは首都高からのものであったが、徒歩だと赤羽橋の交差点を東麻布から三田方面に横断するときにこの看板が見える。見えるというか、ビルの影から巨大なおのののかが覗き込んでくるように見える。これが非常に怖い。おのののかは別に悪くない、コントラスト高めの配色というか下品な看板に使われてお気の毒の限りではあるのだが、とにかく怖い。リアル進撃の巨人である。

進撃の巨人には女型の巨人が登場するが、あれは服を着ていなかった。おのののかもグラビアなどで裸に近い格好をしていることがあるので、巨人として違和感がない。そうだ今度実写化するときはおのののかをキャスティングしよう!(今度実写化?)

巨人としては違和感がないかもしれないが歩行者としては違和感がありまくりである。本気で怖い。誰がなんと言おうと怖いものは怖いんだよコノヤロウ! と男らしく言い切れるくらい怖い。生理的にクるものがある。言うなら夢に出てきてうなされそうな怖さ。もしおのののかが本当に巨人で服を着ていなかったとしても俺は逃げると思う。まあ見るは見るけどな。そりゃ見ますとも。

世の中は広いので、巨大な女性が好きという人たちが存在している。俺もその存在を知ったときはなんじゃそりゃ、と思ったものだが幼少期にウルトラマンを見て目覚めた、などと聞いてなるほどさもありなん、と肚に落ちるところがなかったわけではないので巨女萌えのみなさんは赤羽橋まで行くとわりとリアルに感じられることがあるかもしれないがどうか。

いつにも増して誰の役にも立たないエントリだが、このブログのポリシーは「ためになることよりダメになること」なのでそんな感じでひとつよろしくお願いします。

そういえば昔どっかの掲示板のリンクを踏んで迷い込んだ海外のサイトで、巨大な魚を釣り上げた写真をベースに作ったヌードコラばかりが何百枚も集められてたところがあったんだけど、やっぱこの話おもしろくならないからやめる。

あと自分で付けといてアレだけど、けっこういいタイトルじゃね?

しきはくうに通じて

ひさかたぶりのお目汚しにございます。お前らおひさしぶりだよ!

先日インド料理店で食事をした。料理をあらかた平らげそろそろフィニッシュ、というところで、人懐こそうな笑顔を浮かべたインド人店員さんがやってきた。

「セサミナン、焼きたてサービスね!」

店員さんは白い歯を見せて満点の笑顔であったが、おれの表情は引きつった。もうおなかいっぱいなのである。そもそもおれは食がやや細く、普段からあまりおなかいっぱい食べる、ということをしない。食べ過ぎたおなかの苦しさに幸福感を見出していた幼き日々はすでに遠く、ひたすら燃費の良いおっさんの身体となった。おれにタイヤが付いていたらエコカー減税受けられるのに! ドラレコとナビも付けてください!

おっさんになり食が細くなると、おっさん同士でこんな会話が繰り広げられる。

「最近だと牛丼の並がキツくなってさあ」 「牛丼の小盛りとかミニって、つゆ少なめで頼まないとダクダクになっちゃいますよねー」 「わかるー!!」

おっさんは意外と女子力の高い会話をしているのだ。

とまれ問題は目の前のセサミナンだ。焼きたてでほんのり湯気をあげていて、ゴマの香ばしい香りがする。正直とても美味そうなのだが、おれの胃袋にはもう余裕がない。しかし目の前の店員さんが100%、混じりっけなしの善意でサービスしてくれていることは疑いようがない。おれのおなかはギッチギチで、彼の笑顔はまぶしすぎる。いっそ錯乱したふりをして「ふぇぇ、そんなにおっきいの入らないよぉ!」と叫びたいくらいだ。ウン、下ネタは恥ずかしがったら負けだ。堂々と叫ぼう、ふぇぇ!

…馬鹿か。

結局のところおれは青ざめた顔をしてセサミナンを食べた、ふりをした。すこしだけ食べて、あとはジャケットのポケットに隠した。

♪ ポケットを叩くとビスケットならぬセサミナンがひとつ、もひとつ叩くとセサミナンがふたつ、だ。ビスケットは叩いたせいで割れただけではないのか。個数ベースで考えると増えたように見える、数字は決して嘘をつかないが、数字を使う人間は往往にして嘘をつくのだ。って、これなんの話です?

ポケットの裏地に、セサミナン由来の油染みが広がる。これはおれが他人さまの善意を受け止めきれなかった、悔恨の血涙が流れた痕跡に等しいのだ。布団に描いたおねしょの跡が、幼いころにきみが夢みた「世界」の地図であるのと同じように。

我ながらひっでえまとめかたをした。わりと満足。

黄昏

上野はアメ横の一角に、ケバブ圧の強いエリアがある。

ケバブ圧とは聞きなれないことばだと思うが、まあこういうことだ。
歩いていると中東系の顔立ちをした店員さんが「オニサン、ケバブどう? オイシイよ!」と勧めてくるのだ。「結構です」と断っても、「食べるデショ? ケバブ! オイシイ!」などとグイグイくる。「いやいやいや、」「ドシテ食べナイノー!?」正直この問いには「おなかすいてないから」以上の理由が求められている気がする。今度「だってちゃんとハラル認証とってないでしょ?」くらいは言ってみようか。

そしてこの客引き、ひとりだけではない。当該エリアには4軒ほどのケバブ屋が密集しており、ひとり目の客引きを振り切ったところで次の刺客が現れるのだ。 「ケバブ! オイシイ! 500エン!」 まだ日本語がおぼつかないようだが、ことばを3つ並べるとだいたいのことは通じる、という好例である。

「ゴウ」「ダマ」「シッダールタ」
これを目にしたあなたの脳内にはひとりの人物が浮かんでいるはずだ。そう、仏教の開祖たるブッダその人である。彼もまた3つのことばを残している。
「天上」「天下」「唯我独尊」
これだけで仏教をざっくり理解した気になれるのだからたいしたものだ(杉並区でも十指に入る雑な仏教理解)。

…ことばは3つだけだがこの客引き、パーソナルスペースが狭いのか妙なプレッシャーがある。上島竜兵がキスする直前くらいの距離感、といえばご理解いただけるだろうか。全く食欲を減退させる例えではあるが。

このようにアメ横ケバブ売りはそれぞれに圧が高い。今でこそ「ノーサンキュー!」と言えるおれだが、14歳のころのおれだったら言われるがままにケバブを食べ続け、食べきれなくなったケバブを両手に抱えこんで「こんなに食べられないよー!」と泣き出していたとおもう。それほどまでのケバブ圧だ。

なぜここまでケバブ圧が高くなったのか。それはやはり過当に密集しているからだろう。人はケバブのみにて生きるにあらず(宗教ネタってこれくらいうっすらでもドキドキしますね!)、ケバブだけでは人の心は埋められないのにケバブアフターケバブ、過当競争でパイの奪い合いになっている。せっかくだから奪い合ってばかりでなくケバブを入れたミートパイでも開発してはいかがか。

頼むから静かにしてくれ

新宿の四文屋に行った。
うるせえ。とにかくうるせえ。パリピみたいな人種がやたらと大きな声で話していて、その騒音にかき消されてまともに会話ができない。店全体のボリュームがぶっ壊れている。全員がフルボリュームで、全力で声を張っている。

セミは地面の下で12年過ごして、晴れて成虫になって空を飛ぶようになるのだけど、その寿命は約1週間と言われている。まあそれはガセなのだが、成虫でいられる期間が短いのは確かだ。ために全力で声を張り上げて交配相手を探す。命をつなぐ、遺伝子を残すため必死で「ぼくはここにいるよ!」とアピールする必要がある。セミの声が常にフルボリュームなのは必然なのだ。

パリピも声がでかい。その本能が声を張り上げさせる。なぜなら奴らには、セミの遺伝子が入っているからだ。いつだってフルボリューム! 人造人間セミ人間! お前らの寿命も1週間でありますように! ウェーイ!!

立川で居酒屋に入ったところ、ウルトラマンのフィギュアがたくさん並んでいるほか、何かがシャア専用だったり変なポップが貼り出されていたりしてなんというか頭の悪いヴィレッジヴァンガードのような店であった(別にヴィレッジヴァンガードが頭が良いとは言っていないので注意)。

客層は学生がほとんどのようで、とてもとてもチャラい若者たちがとてもとてもウェイウェイしていたためこちとら完全にアウェイアウェイである。人生いつだってアウェイなんだ。
幸い彼らとは離れた席に通されたのでそこまでうるさくは感じなかった。それでも向こうの世界はまぶしいな、とドロリとした目をしてすみっこでボソボソと酒を啜っていると、突然店内の照明が落ちた。すわ停電、と色めき立った直後にミラーボールが回り出し、ハンドマイクというか拡声器を手にした店員がアジテーションを始める。

「お楽しみのところ失礼いたします! 本日はみなさんにお知らせがございます! なんと今日、今日は当店の常連さんである○○さん、立川一のイケメン○○さんの! お誕生日でーす!」

全力で知らんがな。

その後も店員は15分以上も客を煽り続け、アルコールヘッドの客たちのテンションは右肩上がりとなった。店員と客はよくわからないコールアンドレスポンスをし、おれのジョッキは空になり、視界の隅をコソコソと乳繰り合う男女がかすめ、知らない若者が挨拶をしたりお礼を言ったりウェイウェイウェイウェイ、本当にアウェイだな! とげっそりしてきたところで、

「それではこれより店員一同が、全ての席の、全てのお客様とお祝いの乾杯をしに回らせていただきます! 今日の出会いに感謝して! それではみなさん、カンパーイ!!」

もう苦笑するしかない。完全に君たちの勝利、未来は君らの手の中だ。おれは席まで回って来た店員と杯を合わせ、「さっき頼んだレモンサワーまだ来てないんだけどな」と思いながら空になったジョッキを飲み干すふりをした。

化粧扇子

今年は珍しく扇子を失くしていない。
例年だと年に10本ほどの扇子をなくしている。ピックとライターに次いで失くなるもののひとつだが、これらと決定的に異なるのは、扇子は外出先で失くなるということだ。

ピックとライターは室内で失くなる。というか、妖怪ピック隠しと妖怪ライターヴァニッシャーの仕業である(妖怪? ヴァニッシャー?)。
扇子は妖怪のせいではない。おれの不注意で失くすのだ。都内のカフェや居酒屋、南インド料理屋やネイティブネパール料理屋などに、おれがいた痕跡を残していく。おれの存在ははかない(パンツくらいは履いている)ので、せめて扇子くらいは残していこうとするのだ。肉親から口減らしとして遺棄されたヘンゼルとグレーテルが道しるべとしてパンを撒くように、おれは扇子を撒く。ためにおれの扇子には「ここにいた」と書くようにしている。もし都内でそのような扇子を見かけたら、そっと持ち帰ってほしい。おれがいたことの小さなかけらである。もちろん嘘なのだが。

ところでお菓子の家の魔女はヘンゼルを太らせて食べるためにグレーテルにごちそうを作らせる。牛肉1キロを生産するのに必要なトウモロコシは10〜30キロと言われているが、ヘンゼル肉1キロを生産するのに必要なエネルギー量を1ヘンゼル=10グレーテルごちそうと呼ぶとしよう。魔女はトウモロコシのみにて生くるにあらず、ケーキを食べればいいじゃない! いったい何を書いているんだおれは!

この童話をブログのネタにするのは二度めだし、ケーキを食べればいいじゃない、というのも何度かネタにしている。もう慣れたものだ。ところで「大人の王様ゲーム」というのを思いついたことはもう書いたっけ?

「王様だーれだ?」
「俺おれ!」
「吊るせ! 王を吊るせ!」

…… 革命で王様がギロチンにかけられるゲームだ。ギロチンに切り落とされ、首だけになってなおじょうずに民衆を睨みつけられたら王様の勝ち、首塚を建立してもらえます。おめでとう!

今日のはさすがに自分でも気持ち悪いことを書いているという自覚がある。いつもこんなことを考えているわけではないし、たまにはヘンゼル肉も食べたい。扇子を失くすという話題から思いつきと連想だけで文章を書いていたらここに着地した。着地失敗!