娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問31

1.「保護責任者遺棄又は死体遺棄」との択一的な認定では「被告事件について犯罪の証明があつた」(刑事訴訟法(以下略)333条1項)といえず、利益原則に反しないか。

(1)当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下、審判対象は検察官の設定した訴因である。よって、訴因の特定に必要不可欠な事実について合理的な疑いを容れない程度の証明があれば「被告事件について犯罪の証明があつた」といえる。

(2)本件では、保護責任者遺棄罪又は死体遺棄罪に該当するという事実しか認定されていない。前者は身体の安全、後者は国民の宗教感情を保護法益とする罪であるため、両罪の違法性を基礎づける生又は死は異なる次元にある。そうすると、保護責任者遺棄罪における生が存在しないからといって、死体遺棄罪における死が存在することにはならないため、死体遺棄罪について訴因の特定に必要な事実についての証明があったとはいえない。よって、「被告事件について犯罪の証明があった」とはいえないことになり、本件認定は利益原則に反する。

2.また、本件認定は罪刑法定主義憲法31条)に反しないか。

(1)罪刑法定主義は、被告人の行為を犯罪として処罰する場合に、その行為の可罰性が予め法定されていなければならないとするものにつきるものではなく、有罪判決が許されるために証明されるべき対象が、実体法上の構成要件を基準に個別化されることをも要請している。そうすると、合成的構成要件を作り出すような択一的認定は許されない。

(2)本件認定がされれば、生体又は死体を遺棄する者を罰するという合成的構成要件を作ることになってしまう。よって、本件認定は罪刑法定主義に反する。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問30

1.本件同項では、Kは嫌がるXを無理やりパトカーの後部座席に押し込み、警察署に同行しており、Xを実質的には令状(刑事訴訟法(以下略)199条1項本文)なしで逮捕していることになる。よって、本件同行は令状主義に反し違法である。

2.一方で、Xは尿を任意提出してKがこれを領置(221条)しており、尿の取得は違法ではなく、尿の鑑定書は違法収集証拠排除法則によって尿の鑑定書の証拠能力は否定されないとも思える。もっとも、本件同行と尿の取得はXの起訴という同一目的に向けられたものであり、量の取得は本件同行を直接利用したものであるから、両者には密接な関連性があり、本件同行の違法性が尿の取得に承継されるため、本件では上記法則を適用しうる。ここで、上記法則の要件が問題となる。

(1)上記法則の根拠は、司法の無瑕性、将来の違法捜査の抑止である。そうすると、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、又は②将来の違法捜査抑制の見地から証拠排除が相当である場合に上記法則は適用される。

(2)本件では、XはKによって無理やりパトカーの中に押し込まれており、身体活動の自由に対する制約は著しかったといえる。また、令状が発付されていたが呈示はされなかったというわけではなく、そもそも令状発付がされていないのだから、199条1項という法規からの逸脱の度合いは大きい。そして、嫌がるXを見たKには法潜脱の意図もあったと考えられる。よって、令状主義を没却するような重大な違法があったといえる(①)。よって、本件で問題となるのが覚せい剤事犯という重大な事件であり、証拠が尿という重要なものだったため証拠排除が相当とは言えないとしても、上記法則が適用される。

3.以上から、本件では尿の鑑定書の証拠能力が否定されるため、裁判所はXの公判でそれを証拠として用いることはできない。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問28

1.本件書類は違法収集証拠排除法則によって排除されないか。

2.まず、確かに本件では捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略)218条1項本文)は発付されているため、令状発付なしでの捜索差押えという令状主義違反はない。しかし、Kは令状の提示をしておらず、222条1項本文、110条違反がある。よって、本件捜索差押は違法である。

3.ここで、上記法則の要件が問題となる。

(1)上記法則の根拠は、司法の無瑕性、将来の違法捜査の抑止である。そうすると、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、又は②将来の違法捜査抑制の見地から、証拠を排除することが相当である場合には、その証拠は排除される。

(2)本件では、確かにKがした捜索差押えは発付されていた令状記載の範囲を超えるものではなかったため、Zの被侵害法益は最小限にとどまっていたといえる。しかし、逸脱された法規は110条である。110条の趣旨は、捜索差押対象者に受忍限度を明らかにして不当な人権侵害を防止する点にある。よって、本件では重要な法規が逸脱されたといえる。また、Zは捜査報告書の作成にあたって、捜索差押許可状を提示した旨虚偽の事実を記載しており、この糊塗からXの法潜脱の意図が推認される。よって、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある(①)。

 そうすると、本件が詐欺事件という懲役刑にもなりうる事件である(246条参照)ため重大な事案であり、本件書類が土地の売買契約書という不動産詐欺の収容な証拠になるものであったため、将来の違法捜査抑制の見地から排除が相当であるといえないとしても、同法則の適用はある。

4.なお、上記違法はZに対するものであるため、別人であるXが本件書類の排除を主張できるかが問題となる。

(1)上記法則の上記趣旨から、申立適格は制限されないと考える。

(2)本件でも、Xは上記法則の適用を主張できる。

5.以上から、裁判所は本件書類を証拠として用いることはできない。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問27

第1.(1)について

1.本件では、甲の証言の「証明力を争う」(刑事訴訟法(以下略)328条)ために別人である乙の供述を録取したKの供述録取書が請求されており、同書が「証拠」(同条)に含まれるかが問題となる。

(1)同条の趣旨は、供述者の供述と矛盾する供述自体の立証を許すことで、前者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する点にある。そうすると、「証拠」には、証拠の信用性に影響を与える補助証拠のみが含まれる。同一人物の不一致供述(以下、自己矛盾供述)以外の矛盾供述が用いられれば、その証拠は裁判官の心証上、実質証拠となってしまう。よって、「証拠」には自己矛盾供述のみが含まれる。

(2)本件では、証明力が争われる供述をした者は甲である。それに対して、同書の供述者は乙である。これらは別人であるから、請求された証拠は自己矛盾供述に証拠ではなく、「証拠」に含まれない。

2.よって、裁判所は同書を証拠として採用できない。

第2.(2)について

1.前段について

本件では、甲の証言の「証明力を争う」ために、自己矛盾供述である甲の供述を録取したLの捜査報告書の取り調べが請求されている。もっとも、同書には「供述者」甲の「署名若しくは押印」(321条1項柱書)がないため、同書は証拠能力を欠き、同書用いては厳格な証明ができない。ここで、「証明力を争う」ためには厳格な証明が必要であるかが問題となる。

(1)上記のように「証明力を争う」ことは補助証拠を用いることを意味する。補助証拠は刑罰権の存否及び範囲を画する事実を証明する実質証拠の証明力に影響する重大な証拠であるため、補助証拠による証明も厳格な証明である必要がある。よって、「証明力を争う」際には厳格な証明を要する。

(2)本件では、上記のように厳格な証明ができない。よって、裁判所は同書として採用できない。

2.後段について

 本件では、甲の証言後に甲の自己矛盾供述に関する供述録取書が作成されている。このような書面も「証拠」に含まれるか。

(1)原供述の後にされた矛盾供述が用いられたとしても上記328条の趣旨は没却されない。よって、原供述後の矛盾供述も「証拠」に含まれる。

(2)本件でも、同書は「証拠」に含まれるため、裁判所はこれを証拠として採用できる。

第3.(3)について

1.本件ICレコーダーも(2)前段に準じ、「署名若しくは押印」(321条1項柱)がない以上厳格な証明ができないため、「証明力を争う」ことはできないとも思える。もっとも、ICレコーダーである点で「署名若しくは押印」が不要とならないか。

(1)「署名若しくは押印」を要する趣旨は、供述録取書の録取者の伝聞過程が正確であることを供述者に確認させて、二重の伝聞性を解消する点にある。そうすると、機械的録取の場合は正確性が担保されるため、「署名若しくは押印」は不要である。

(2)本件ICレコーダー音声に関して機械的録取をするものである。よって、「署名若しくは押印」は不要である。

2.したがって、同レコーダーでも厳格な証明が可能であり、裁判所は同レコーダーを証拠として採用できる。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問26

第1.(1)について

1.乙の手帳は「公判期日における供述に代」わる「書面」(刑事訴訟法(以下略)320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚・記憶・表現・叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問等による真実性の吟味をしえず、誤判が生じてしまうため、それを防止する点にある。そうすると伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で決まる。

(2)乙の手帳は公判廷外の乙・甲の公判廷外の供述を内容とする(①)。また、本件争点はXの犯人性であり、立証趣旨は甲との会話の状況である。乙と甲が会話したこと自体ではXの犯人性と何ら関連性を有しない。一方で、甲が殺害現場を目撃した状況を証明できれば、Xの犯人性を直接証明できるのだから、要証事実は甲の殺害現場の目撃状況である。そうすると、乙と甲の供述内容の真実性を証明するために用いられるため、乙の手帳は再伝聞証拠である。伝聞証拠ですら同項で証拠能力が否定されるのだから、再伝聞証拠である乙の手帳も同項で証拠能力が否定される。

2.もっとも、乙の手帳は例外的に証拠能力が肯定されないか。

(1)確かに再伝聞証拠の例外を定める規定はない。しかし、一つ目の伝聞性について例外(321条1項各号)が認められれば、その書面は「供述に代えて」(320条1項)証拠となるため、324条1項、2項を類推適用できる。また、伝聞例外の趣旨は、証拠の必要性と供述の信用性の状況的保障である。再伝聞証拠にもそのような比較衡量が妥当する以上、二つの伝聞過程について伝聞例外要件を満たせば証拠能力が認められると考える。

(2)本件では、乙が「死亡」(321条1項3号本文)しており、その他の要件を満たす必要がある。また、甲は「被告人以外の者」(324条2項)であるため、同項が類推適用され、甲についても321条1項3号の要件を満たす必要がある。すべての要件を満たせば乙の手帳は証拠能力が認められ、裁判所はこれを採用することができる。

第2.(2)について

1.本件調書も伝聞証拠といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件調書は、甲、Xの公判廷外の供述を内容とする(①)。また、上記のように甲との会話の状況を証明しても意味がなく、本件調書はXがVを殺害した状況の証明に用いて初めて意味がある。そうすると、要証事実はXがVを殺害した状況であり、本件調書は甲、Xの供述内容の真実性を証明するために用いられるため、再伝聞証拠にあたる。

2.もっとも、伝聞例外が認められないか。上記のように二つの伝聞例外要件を満たす必要がある。

(1)本件調書は検察官面前調書の中でも供述録取書であるから、甲の伝聞過程については「署名若しくは押印」(321条1項柱書)と、同3号の要件が必要である。

(2)また、Xは「被告人」(322条1項)であるから、同項が類推適用され、同項の要件該当性が必要である。

(3)上記要件を満たせば証拠能力が肯定され裁判所は本件調書を証拠として採用できる。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問24

1.本件領収書について

 本件領収書は「公判期日における供述に代」わる「書面」(刑事訴訟法(以下略)320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚・記憶・表現・叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問(憲法37条2項前段)等による真実性の吟味をしえず、誤判が生じてしまうためそれを防止する点にある。そうすると、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で決まる。

(2)本件領収書はSの公判廷外の供述を内容とする(①)。また、本件争点はXの金員供与の有無であり、立証趣旨は領収書の存在と内容である。確かに本件領収書の存在と内容を証明したところで、Sが1000万円を受け取ったことが証明されない限り、争点との関係で本件領収書は無意味な証拠であるとも思える。しかし、領収書は通常、金員の受け取りを証明する性質を有するから、SがYに対して本件領収書を交付した事実が認められれば、本件領収書の存在と内容も本件争点と関連性を有する。よって、その場合は要証事実も領収書の存在と内容となり、供述内容の真実性を証明するために用いられるとはいえない。よって、そのときは、本件領収書は非伝聞証拠であり証拠能力が認められるため、裁判所は本件領収書を証拠として採用することができる。

2.本件メモについて

 本件メモは伝聞証拠といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件メモはYの筆跡によるからYの公判廷外の供述を内容とする(①)。また、確かにメモの存在と内容を証明したところで、本件争点に対して関連性を有しないとも思える。しかし、本件メモはXが使用している机から発見されているため、Xの支配領域から発見されたといえる。そうすると、記載内容と現実が一致すれば、本件メモの存在と内容からXが1000万円の金員供与に関わったと推認できる。よって、その場合は本件メモは供述内容の真実審の証明に用いられるとはいえず、非伝聞証拠である。よって、そのときは、裁判所は本件メモを証拠として採用できる。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問23

1.本件のWの証言は、「公判期日外における他の供述を内容とする供述」(刑事訴訟法(以下略)320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚・記憶・表現・叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問(憲法37条2項前段)等による真実性の吟味をしえず、誤判が生じる恐れがあるためそれを防止する点にある。そうすると、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で決まる。

(2)Wの証言は、Xの公判廷外の供述を内容とする(①)。また、本件争点はXの犯人性であり、検察官の立証趣旨はWがVから話を聞いたこと自体である。話を聞いたこと自体を証明しても、内容が不明である以上Xの犯人性立証に何ら役立たない。一方で、XがVにいやらしいことをしていたことを証明できれば、それがエスカレートして強制性交に及んだことが推認できるため、争点に関連性を有する。よって、要証事実はXがVにいやらしいことをしていたことであるため、Wの証言は供述内容を証明するために用いられる(②)。よって、Wの証言は伝聞証拠であるため、原則として証拠能力は否定される。

2.また、本件では「同意」(326条1項)もないため、これにより証拠能力は付与されない。

3.もっとも、Vは「死亡」のため「供述することができ」(321条1項3号本文)ないといえる。よって、Vの供述が不可欠であり、(同本文)、絶対的特信情況(同後段)があれば例外的に証拠能力が肯定されるため、これ以外の場合には裁判所はWの証言を証拠採用しなべきである。

以上