たった1人で演劇創りを始める方法

劇団に所属せず、周りに仲間もいない状態から、自分だけの演劇作品を上演するまで

 稽古の進め方の実際

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

だいぶ暖かくなって、春本番という感じになってきました。

このブログも、今回で18回目になりました。前回までで顔合わせという、実際に稽古の「入口」にあたるところまで書いてきました。ここまできたら、もう稽古あるのみです。

では、実際の稽古は、どう進められるのでしょうか。

 

団体や演出家によって、稽古の進め方や内容は千差万別です。どれが正しいということはありません。何人もの演出家についたり、いくつもの団体に客演したりする俳優は、それぞれの現場のやり方に適応する能力が求められます。稽古を主催する側も、試行錯誤をしながら、一番いいと思われるやり方を常に模索しつつ、自分なりのスタイルを作っているのです。ですから、ここで紹介するやり方は、あくまでも一例です。オーソドックスかつスタンダードと思われる、稽古のエッセンスと思って下さい。

 

 

1.テーブル稽古

「読み稽古」とも言われます。出演者が座って本の読み合わせをする稽古です。当然、動きはつけません。

この稽古の目的は、「脚本の読解」と「役の理解を深めること」です。

インプロ等を除く多くの場合、稽古は脚本に沿って進められます。役を演じる上でも、シーンを作り上げていく上でも、脚本に何が書かれているのか、テーマは何か、何をどう表現すべきかを理解することは、基本中の基本です。

稽古に入る前に、役者はある程度本を読み込んでおく必要があります。作品全体についても、自分の役についても、自分なりの解釈を持って、稽古に臨むべきです。いくら忙しいからといっても、顔合わせの時以来、1回も脚本を読まずに、真っ白な頭で読み合わせに参加するのは、役者として正しい態度とはいえません。演出家に何か言われるまで何もしない・考えないのは、思考停止であり、作品に対してもお客様に対しても不誠実であるといわれても仕方がないと思います。

こういう役者が存在すると、稽古が停滞してしまいます。本来の稽古のあり方は、役者が脚本を読み込み、演出家は独自に演出プランを立て、それを付き合わせて、ああでもない、こうでもないと作品の方向性を探っていくものです。あなたが演出家の場合は、役者から出てくるものを、すべて却下しないことをおすすめします。特にテーブル稽古の段階では、明らかな誤読や曲解でない限り、役者の意見も取り入れながら、でも自分自身の思いも大切にして、作品やシーンの方向性、役の造形を決めていきましょう。

 

2-①.立ち稽古(抜き稽古)

一通り脚本のシーンの読み稽古が終わったら、実際に立って動きながらシーンを作っていきます。これが「立ち稽古」です。劇場の広さやセットの大きさが具体的に決まっていたら、可能な限り原寸を稽古場でとって(床に養生テープ等で印を付けて=バミって)、その中で動くようにして下さい。

立ち稽古で最初にやるのは、「抜き稽古」と呼ばれるものです。これは、稽古参加者の顔ぶれや、シーンの重要度等に応じて、あるシーンだけを取り出して(抜いて)稽古するものです。抜き稽古の期間中に、台詞を覚えて脚本を離すように役者には指示しましょう。

脚本を手に持ったままだと、動きが制約されますし、小道具を扱うシーンの稽古では支障を来すことになります。

立ち稽古の中で、ミザンス(役者の立ち位置や動き)を決めていきます。これは、一度決めたら絶対に動かさないというものでもありません。通してやってみた時に、感情の流れや前後のシーンとの関係で変えることも普通にあります。

 

2-②.立ち稽古(粗通し稽古)

全てのシーンの演技とミザンスを付け終わったら、それを頭のシーンから最後まで通してやってみます。これが「粗通し」です。この段階までに、役者は台詞を完璧に入れておくように指示しましょう。

ダンスや殺陣がある場合は、この時までに形だけでもできあがっているのがベストです。それを含めて動いてみて、動きに矛盾点や無理がないかチェックします。衣裳の早替えがあれば、それが可能かどうかも確認しましょう。

シーン稽古で決めていた役者の出はけや物の出はけ、舞台裏の導線も確認して、修正が必要なところは、手直しをしていきます。

粗通しを行うことで、それまで繋がっていなかった各シーンが連結され、作品の大まかな姿が現れてきます。また、大体のランタイムも分かります。これを元に、もう一度シーンの抜き稽古に戻って、最良の形に練り上げていきます。

 

2-③.立ち稽古(通し稽古)

稽古期間の最後の1週間は「集中稽古」として、休みなしで昼・夜通しの稽古が組まれることが殆どです。

この段階で行われるのが、「通し稽古」です。小道具を持ったり衣裳を着けたり、メイクをしたりする場合もあります。

ここまでくると、仕上げの段階です。芝居のテンポ感はどうか、台詞は飛ばないか、衣裳のさばきは大丈夫か、殺陣の手やダンスの振りはきちんと入っているか、その他、不都合な点がないかどうかを確認します。

この段階で、テクニカルのスタッフさん(舞台監督・照明・音響)が見学にいらっしゃることも多いです。音響さんが音を流して下さったり、殺陣がある場合は、殺陣音のサンプラーを叩いたりして下さいます。

稽古終盤は、通し稽古を多めにやるようにしましょう。時間が許せば、1日2回やってもいいです。役者は、通し稽古で役の動きや感情の流れを身体に入れて覚えていきます。「次何だっけ?」となるのが、一番怖いのです。

通し稽古をやって、「だめ出し」で問題点を確認し、「かえし稽古」と言われるシーンのやり直しの稽古を行って修正します。そして、それを次の通し稽古で確認します。

このサイクルを何度か繰り返して、芝居を完成させるのです。

 

 

※スタッフさんと打合せ

粗通しや通し稽古をスタッフさんに見ていただいた後に、必ず打合せをしましょう。

照明さんなら、どこにどんな照明が必要かを知った上で、プランを立て、機材を手配します。音響さんには、どこからどこに、どんなBGMや効果音が必要なのかを伝えます。舞監さんは、総合的に見て、舞台美術も含めて改善点や問題点を指摘して下さいます。それが修正可能なのか、何らかの善後策・折衷案で何とかなるのか、それを最終的に判断するのも舞監さんです。

基本的にスタッフさんは、演出家の意図をくんで、それを最大限実現させようとして下さいます。ですので、ビジョンを明確に持ち、その具体化を各スタッフに任せるが、演出家の役割だと思っておいて下さい。

 

如何でしたでしょうか。

稽古の大まかな流れを書いてみました。

先に書いたように、団体によって進め方は様々です。どのタイミングで通しをやるかとか、シーンの稽古の前に、敢えてシアターゲームのようなものを取り入れて、役者同士のコミュニケーションをとらせる等、いろいろありますが、ベースは上記にまとめたものです。

「どうしてもこういうことを稽古に取り入れたい」というものが特になければ、この流れに従って稽古を進めていって下さい。

 

 

次回は、稽古について、もう少し細かく見ていくことにしましょう。

次回も、どうどお読み下さい。

(写真 松永幸香)

「顔合わせ」でやるべきこと

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

また随分ご無沙汰してしまいました。今、水面下でいろいろなことが進んでいまして、なかなかこのブログを更新する時間がありませんでした。しかし、楽しみにして下さっている方もいらっしゃるようですので、書き続けていきたいと思います。

 

前回は、顔合わせまでの間にやっておくべきことをまとめてみました。

今回は、いよいよ顔合わせについてです。とうとうここまできました。

新年度が始まり、新しい職場や学校・クラスで、心機一転、新たにスタートを切る、という方も多いでしょう。タイミング的には、いいお題だと思います。

 

 

顔合わせの席順

「顔合わせ」とは、文字通り出演者、スタッフ等、この作品を作り上げるメンバーが、初めて一堂に会する場です。時には、出演者である俳優のマネージャーさんもいらっしゃいます。また、小劇場の場合は、多くのスタッフさんは普通は顔合わせに出席しません。(別の現場を抱えていらっしゃる場合が殆どだからです。)

顔合わせは、稽古場として使用するスタジオや会議室、公共施設等で行います。この時、出演者にどんな順番で座ってもらうかが、実は問題だったりします。演出家や作家、そして主催者(この3つを1人が掛け持ちしている場合が殆どだと思いますが)が一番奥の中央に座るのはいいとして、問題は俳優の並び順です。小劇場では割といい加減になっていますが、芸能界というところは、とりわけこうした「席順」に厳密な世界です。

普通は、キャリアの長い順番に、上座から席を作っていきます。役の重さと、キャリアの間には大抵相関関係がありますが、たまに、キャリアの浅い人が主役やメインどころに抜擢されたりすると、この順番が微妙に狂います。自分が相応に遇されていないと思うと、人は「ああ、自分はこの現場ではこの程度に見られているのか」と不機嫌になり、モチベーションが下がるものです。それはその後の稽古にまで響く可能性が高いので、特に注意が必要です。

スタッフさんがいらっしゃっている場合は、主催者や作家・演出家と同じ、または並びのテーブルに座っていただきましょう。

 

顔合わせでやるべきこと

①自己紹介

顔合わせで初めて実際に出会う人達も多いでしょう。1人ずつ、簡単に自己紹介をしていただきます。主催者は、挨拶を兼ねた自己紹介を、最初にするといいと思います。

 

②稽古の進め方やスケジュール等の説明

業務連絡のような内容ですね。

まず、稽古全体の日程・時間や場所を一覧にして紙なりデータなりで渡しましょう。(顔合わせまでの期間でできれば、先にやっておきます。)

カンパニーによって、稽古の進め方は違います。稽古の方針を最初に明示しておくといいでしょう。読み稽古をじっくりやる場合もあれば、すぐに動いてみるというやり方をするカンパニーもあります。中には、脚本は前半だけできていて、後は稽古をしながら同時並行で書いていくという主宰さんもいます。

どれが正解というわけではありません。今までの経験を生かして、また思うところに従って、あなたなりの稽古の進め方を決めて、発表して下さい。勿論、稽古をやりながら軌道修正をはかることもできます。

また、稽古全体の大体のスケジュール感を示すことも大切です。2週間で全てのシーンを最低1回は稽古をし、その直後に粗通し(全てのシーンを最初から順番に通す)を行う、集中稽古期間中のどこで通し稽古をするか等々です。役者は、他に仕事を持っている人が殆どですから、「この日とこの日だけは開けて欲しい」という日を、早い段階で教えてあげるのが親切です。

また、エンタメ系の舞台で、ダンスや殺陣、歌唱といった、シーン稽古とは別の稽古が必要になるものも、合わせて大体の日程を伝えておきましょう。

劇場に入ってからのスケジュールは、舞監さんと話し合って決めますので、この段階では発表しなくても大丈夫です。(概略が分かっていれば、軽く伝えておくのもいいと思います。)

稽古するにあたっての、カンパニーとしての「ルール」のようなものがあれば、ここでしっかりと伝えておきます。

そして、使用する稽古場(施設)自体の注意事項(例えば、「全面禁煙」)も忘れずに伝えましょう。

上記のことは、顔合わせを欠席した人にも確実に伝わるように、例えばLINEのグループを作って、ノートで共有する等して、「えっ、私それ知らない」という人がいないようにして下さい。

 

※コロナ対策について

新型コロナの感染が収まっていない現状では、稽古場でのコロナ対策について説明しておく必要があります。公的機関や劇場等からいくつかのガイドラインが出ていますので、それに従ったものを予め作成しておいて、説明するといいでしょう。

実際に、稽古場でクラスターが発生する事案がいくつもありました。用心の上にも用心を重ねて、消毒液や検温器等を用意し、定期的に換気を行う等、安心して稽古ができるように、対策には万全を期して下さい。

 

③本読み

出演者全員に脚本を渡したら、いよいよ実際に役に分かれて読んでもらいましょう。この本読みで、役者も脚本家・演出家も、作品の大体の雰囲気を掴みます。勿論、そこから実際の稽古で練って、最適な形を探っていくわけですが、そのベースになる第一印象が全員に伝わる、非常に大切な時間です。

 

※作者本読み

僕はやりませんが、野田MAPの野田秀樹さんは、顔合わせの時に、「作者本読み」ということをするそうです。文字通り、作者である野田さんが、俳優やスタッフの前でお1人で脚本を最初から最後まで読むのです。

野田MAPでは、演出も野田さんがやりますので、ご本人による本読みを聞けば、それぞれの役をどのようなイメージで演じていけばいいのか、各シーンはどのようなテンポなのかといったニュアンスが、役者にダイレクトに伝わります。役者は、それを手がかりに、各々役作りをしていくことになります。

野田さんは俳優でもありますので、こういう芸当ができるのでしょう。

もしご自身の表現力に自信があったら、または、どうしても作品のイメージを直接的に伝えたいと思ったら、やってみてもいいと思います。

 

④作品全体の概略や主題等を伝える

出演者全員(または大部分)が顔を合わせる機会というのは、稽古の進め方にもよりますが、この先そうそうありません。この機会に、作品を通して、お客様に何を伝えたいのか、どんなことに注意し、どこに重点を置いて稽古を行っていけばいいのかを、あなたの口から、あなた自身の言葉で全体に伝えましょう。

役者やスタッフの作品作りの重要な原動力の1つは、主催者の「情熱」や「思い」です。出演者やスタッフが「よし、面白いものを作るぞ!」という前向きな気持ちが持てるように、1人1に語りかけるつもりで話して下さい。

 

 

ここまでの話が終わったら、質問を受け付け、一通り疑問点、確認すべき点が出て、それらに回答したら、顔合わせは終了です。

コロナ以前は、この後に「決起会」という名の親睦会(飲み会)を開催する団体・座組みも多かったのですが、このご時世、ある程度の大人数で飲み屋に繰り出すのは、自分達でわざわざ感染の危険性を高めるような行為ですので、避けた方が無難でしょう。親睦は、稽古場で少しずつ、密を避けてはかるようにして下さい。

 

 

如何でしたでしょうか。

初めて関係者が一堂に会してどんなことをするのかお分かりいただけたかと思います。

稽古の仕方が様々であるように、顔合わせのやり方も様々、それこそ団体・座組みの数だけあると思います。しかし、上記のことを踏まえておけば、最低限するべき「顔合わせ」の内容は網羅できると思います。

いろいろな人と初対面で緊張すると思いますが、それはおそらく相手も同じです。主催者であるあなたが音頭を取って、明るく前向きで、次の稽古に繋がるような雰囲気の顔合わせにして下さい。

 

次回は、稽古の進め方の実際について書く予定です。

次回もどうぞお読み下さい。

稽古開始までの間にやるべきこと

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

だいぶ間があいてしまいましたが、覚えていらっしゃいましたか?(笑)

前回まで3回にわたって、キャスト(出演者)やスタッフを集める方法を書いてきました。他にも方法はあると思いますが、ご紹介したやり方がポビュラーなものです。

 

こうして顔ぶれが揃ったら、いよいよ「顔合わせ」ということになります。顔合わせは、その名の通り、主に作品の出演者が顔を合わせる場です。各々のスケジュールの関係で、全員が揃わないこともしばしばですが、いよいよここからスタート!ということで、テンションも上がります。

今回は、この顔合わせまでの間に、やっておくべきことをご紹介しましょう。

 

 

稽古場を押さえる

出演者・スタッフが決まっても、稽古をする場所がなければどうにもなりません。前にも書きましたが、稽古日程を決めて、どこかの自治体で団体登録をして、公共施設を借りるか、民間のスタジオを予約しましょう。

最近の舞台は、2時間ものでも稽古の回数は20〜25回程度です。土日や、1週間前からの集中稽古期間は長い時間押さえ、その他の平日は夜のみといったスケジュールが一般的です。できるだけ皆が集まりやすい立地が望ましいですが、あまり贅沢を言ってもいられないのが実情です。むしろ、舞台の原寸が取れる広さを最優先し、次に料金を考慮して決めましょう。

 

 

キャスティングをし、出演者に伝える

顔合わせまでにやらなければならないことの筆頭が、このキャスティングです。出演者の顔ぶれが決まり、脚本も第1稿が上がっているのなら、どの人にどの役をやってもらうかを決めます。これは、とても大切な作業で、芝居が成功するか失敗するかの鍵でもあります。

オファーする時や、オーディションの過程で、1人1人の役者の特徴や個性、能力を大体掴んでいると思いますので、それを元にして役者を役に当てはめていきます。

個性が被ってしまったり、いいなと思ったけれども、該当する役が脚本になかったり、集まった役者の男女比が元の脚本と違っていたりということもまま起こります。その場合は、脚本の調整が必要になります。

また、出演者全体の顔ぶれを見渡しても、どうしても決めきれない役がある場合もあります。そんな時は、その役はペンディングにしておいて、顔合わせの日、またはその後の直近の稽古日に、プチオーディションをやって決めるというやり方もあります。

顔合わせ前に全ての役が決定したら、出演者にメール等で知らせます。顔合わせの1週間位前を目安に送れるといいでしょう。

 

 

脚本の微調整をする

上記のように、実際の出演者の顔ぶれを見た時に、それに合わせて脚本に手を入れたくなる時があります。

また、改めて読み直してみると、台詞が長いとか、余計と思われるシーンがあるとか、逆に説明不足で分かりにくいので足したいシーンや台詞が出てきたりします。2時間ものくらいになると、ある程度きちんと骨組みを作ってから書かないと、芝居の最初と最後で登場人物が矛盾した言動をしているといったことがでてきます(意図的な場合は問題ありません)。

ただ、整合性・完成度を重視するあまり、刈り込みすぎてしまい、最初にあった作品の勢いが削がれてしまうこともあります。デリケートな作業ですので、じっくり行って下さい。

出演者にデータを送信してから脚本を訂正した場合は、当然ですが、完成版を改めて出演者に渡しましょう。余程大きな手直しでない限り、顔合わせの日に手渡しでも大丈夫です。

もし、脚本を他の人に依頼している場合は、事前に修正部分を把握しておいた方がいいので、期日を切って手直しをしてもらうようにして下さい。

 

 

演出プランを作る

あなたが演出家を兼ねている場合は、この期間に、ざっとでもいいので、演出プランを作っておくことをお勧めします。

初めての場合、どう作ればいいのか途方に暮れてしまうかも知れません。演出プランの作り方は人それぞれです。登場人物に見立てた紙の人形を作り、それを動かしながら考える人もいますし、参考文献を集めて、それを読みながら作品を解釈しつつプランを練る人もいます。

自分で書いた脚本だったとしても、虚心坦懐に、初めて読む気持ちで改めて脚本を読み直すことが、全てのスタート地点です。そこで思い付いたことをノートやメモ帳に書いておき、それを参考にしながら、役者の動きや台詞の言い方、シーンとシーンの繋ぎ目の処理方法等を作っていくのが王道です。

実際に芝居を見ると分かりますが、頭のシーン(つかみ)とラストシーンの絵は非常に大切です。つかみでお客様を劇の世界にグッと引き込んでおかないと、その後にどんなにいいシーンがあっても、お客様は見て下さらないかも知れません。また、ラストシーンの絵は、劇全体の印象を決めるものです。(たとえバッドエンドであっても)いい後味や余韻が残るように工夫しないと、お客様は満足して下さらないのです。かといって、オープニングやエンディングが芝居全体の雰囲気から浮き上がりすぎても具合が悪いです。塩梅が難しいですが、この2箇所には特に力を入れましょう。

この段階での演出プランは、ガチガチに固めすぎないのがいいと思います。稽古場で実際に役者に動いてもらったり、実際の舞台装置の中に役者が立つことを想定したりすると、机上で考えていたことが実現しない場合があります。また、想像もしていなかった演技を役者が持ってくることもあります。そういうことに対応できるように、最初の演出プランはフレキシブルなものにしておきましょう。

演技や演出に「正解」はなく、より良いものを現場で探っていくのが、稽古をするということなのです。この点に関しては、稽古についてのところで改めて書きます。

 

 

各スタッフさんと打合せをする

顔合わせまでのこの時期に、打合せが可能がスタッフさんとは、直接お会いするなどして、打合せをしておきましょう。

例えば、舞台監督さんと舞台美術さんとは、実際にどんな舞台装置にするかを話し合い、舞台の図面(寸法が入ったもの)とエレベーション(舞台の見取り図)を作成してもらって下さい。顔合わせの初日に役者にこれを見せると、実際の稽古がスムーズに進みます。

制作さんとは、チケットの種類や料金、販売方法と発売日時、グッズの種類や値段等を確認します。当日の人員体制についても詰めておきましょう。

出演者のブロマイドやビジュアルの撮影も、可能であれば早めに行う方がよいので、スチールのカメラマンさんや衣裳さんとの打合せも必要になります。

そして、宣伝美術さんとは、どんなイメージのチラシや特設サイトのデザインにするかを詰めて、チラシ表面の画像データだけでも早めにもらって、ネットで公開しましょう。

チラシのデザインや役者のビジュアルは、作品のイメージを決定付けるものです。「面白そう」「見に行ってみたい」と思われなければ意味がありませんので、じっくり話し合って、妥協のないように決めて下さい。できるだけ分かりやすく、具体的にイメージを伝えるのがポイントです。

殺陣師さん、振付師さんがいる場合は、やはり顔合わせ前の打合せで、イメージを伝えたり、曲を渡したりした上で、どんなスケジュールで練習を入れるかを決めましょう。

テクニカルスタッフ(音響・照明・映像等)との打合せは、稽古が始まってからでも大丈夫です。特に音響さんと照明さんは、芝居がある程度固まらないとプランも立てられませんので、大体いつ頃に打合せをするかだけ決めておきましょう。

 

 

如何でしたか。

この他にも、稽古の準備として「香盤表」(各シーンの登場人物や小道具、消え物等が書かれた一覧表)を作成しておくといったことが考えられます。

演出助手がいたら、この作業や稽古場を押さえることは任せても大丈夫です。また、各スタッフとの打合せには、できる限り演出助手にも同席してもらいましょう。

準備は多岐にわたるので大変ですが、遠足の前夜のような楽しさやわくわく感もあります。それを大いに味わって、本当の戦いである稽古までに集中力を高めておいて下さい。

 

次回は、いよいよ実際の稽古に関して書きたいと思います。

キャスト(出演者)とスタッフを集める その3

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

たった1人で演劇を創るために、その舞台を彩ってくれる役者さんを探す方法の、今回は3回目です。

おさらいですが、出演者(役者)を探す方法には、大きく分けて3つありました。

 

・一本釣り方式

・オーディション

・コネクション

 

前回は、オーディションのやり方をざっとご紹介しました。

今回は、最後の「コネクション」、平たくいえば「コネ」についてです。

コネには、いくつかのルートがあります。

 

①演劇関係者(役者)のコネ

あなたが役者なり脚本家なり演出家なりで、既に演劇人として活動している人であれば、演劇関係者に知り合いや友人が1人や2人はいると思います。当然、出演等何らかの協力をお願いしていると思いますが、その人から知り合いの役者を紹介してもらうのです。オーディションで採った役者に聞くのもありです。また、誰かにオファーして断られてしまった場合でも、「代わりに誰かいい人いない?」と聞いてみましょう。候補がいたら教えてくれるはずです。

実際にその人の演技を見たことがなくても、写真やSNS等最低限の情報が得られるでしょう。良さそうだと思ったら、前にご紹介した「一本釣り」の手法でアタックしてみましょう。その時に、例えば「役者の○○さんから紹介されました」と一言添えると、相手も安心して話を聞いてくれます。

 

②業界関係者のコネ

例えば誰かのツテでインターネットTVやYouTubeの番組に出演することができたりした場合、その局のプロデューサーさんが、業界に顔がきく場合があります。また、役者・タレントの紹介を業務の一つにしている局もあります。そういう時は、名刺を交換して、役者の紹介をお願いしてみましょう。業務の場合は当然マージンを取られますが、普通に繋いでくれる場合もあります。

勿論、一緒に出演した人やMCの人が役者なら、その場でオファーするのもありです(すぐにはお返事はもらえないと思いますが)。「事務所を通して下さい」と言われたら、事務所に連絡してみましょう。

 

③スタッフさんのコネ

スタッフさんが、前に入った現場で仲良くなった役者を紹介してくれることもあります。また、芸能事務所の仕事を引き受けていた関係で、事務所の人と繋がりができているスタッフさんもいて、その方が事務所と繋いでくれる場合もあります。

僕は以前、元AKB48の女優さんに僕の作品に出演していただいたことがあるのですが、彼女の事務所と繋がることができたのは、間にその事務所の仕事をしたことがあるスタッフさんがいてくださったおかげです。

 

 

スタッフさんを探す

これまでは、主に出演者(役者)の探し方を書いてきました。

スタッフさんを1から探す場合も、ほぼ手順は同じです。

見に行った芝居のチラシのスタッフ一覧を見て名前をチェックしたり、ググったりして、SNS等で探して連絡をとる(一本釣り方式)か、役者またはスタッフさんに、知っているスタッフさんを紹介してもらう(コネクション)といった方法が考えられます。

(さすがにスタッフさんのオーディションというものはありません。)

スタッフさんのデータベースのようなものがあるといいのですが、あるようでなかなかないのです。ただ、何人かのスタッフさんが集まって、会社や集団の形で活動している人達もいますので、その団体にオファーすれば、AさんはダメでもBさんはOKといったことはあります。

 

☆スタッフさんの知り合いは多いほどよい

役者との繋がりも大切ですが、芝居は支えて下さるスタッフさんがいなければ創ることはできませんので、できるだけいろいろなスタッフさんと繋がりましょう。

舞台監督・照明・音響…etc.それぞれのセクションにつき、最低2人は繋がりを持っておくと、1人に断られても、すぐにもう1人に連絡をして頼むことができます。

また、経験値の高いスタッフさんであれば、全く違った毛色の舞台にも対応して下さいますので、極端な話、見に行った芝居と真逆のテイストの芝居を創ろうと思っている時でも、そこのスタッフさんに声をかけてみる価値はあります。そうやって、できるだけ関係を広げていく努力をしましょう。

 

 

声をかけるタイミング

役者にしろスタッフさんにしろ、どのタイミングでオファーをしたり、オーディションを行ったりすればいいのでしょうか。

早ければ早いに越したことはありません。ただ、あまりに早過ぎると、特に事務所系の役者の場合は、「その時期のスケジュールはまだ決められない」と言われてしまうことがあります。ただ、あまりに本番や稽古開始日に接近し過ぎると、既に別の案件のスケジュールが入っていることもしばしばです。

経験的にいえば、本番の6〜8ヶ月前位を目安に、声をかけ始めるのがいいと思います。小劇場とはいえ、人気がある人はこれでも遅い位ですが、逆に1年以上前だと、それこそその時期に自分が何をしているか分からないということで、簡単にはOKはもらえません。

スタッフさんの場合は、かなり先でも予定を入れていただけることが殆どです。早め早めに声をかけることを心がけて下さい。

 

 

如何でしたでしょうか。

本当に初めて演劇界に飛び込み、初めて芝居を創ろうとしている人の場合、コネクションはなきに等しいので、ここに書いた方法はなかなか難しいかも知れません。ただ、出演者でもスタッフさんでも、1人でも決まれば、その人のコネを使うことは可能です。一本釣りで厳しい場合は、どんな弱い繋がりでも、コネを有効に使って下さい。

 

次回は、稽古開始までにやるべきことをお伝えする予定です。

次回も是非お読み下さい。

 

 

※団体、ユニットの立ち上げ等の個別のご相談もお受けしております。ご希望の方は、コメントでお知らせ下さい。

 

(写真 松本和幸

キャスト(出演者)を集める その2

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皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

たった1人で演劇公演を行うために、実際に舞台で演じてくれる役者を如何にして探すかを前回から書いています。

おさらいですが、主には以下のような方法があります。

 

・一本釣り方式

・オーディション

・コネクション

 

前回は、「一本釣り方式」、つまりはお目当ての役者さんに直接オファーする方法についてでした。今回は、2番目のオーディションを行うやり方についてお伝えしたいと思います。

一口に「オーディション」といっても、人によって、また団体によってやり方は様々です。「ワークショップオーディション」という形式もあります。ここでは、僕が普段やっているやり方に則って説明していきます。これが唯一のやり方ではありませんので、あくまで参考程度に捉えておいて下さい。

 

 

①場所を確保し、日時を確定する

当然ですが、オーディションには会場が必要です。「稽古場を押さえる」ことについて前に書きましたが、それと全く同じ要領で場所を予約して下さい。参加人数によって必要な広さは異なってきますが、普通は場所を押さえた上で募集をかけますので、本来はどの位の人が集まるか分からないと広さも決められないということになります。初めてオーディションを行う場合には、最大で20人位入れる部屋を確保するといいでしょう。

また、オーディションは、2回位に分けて行うのが望ましいです。例えば、平日は時間が取れないが、土日なら参加できるという役者もいます。逆に、平日しか体があかないという人もいます。そのどちらにも対応できるような日程を組みましょう。1回に3時間も押さえておけば、準備や後片付けの時間も余裕で入れられます。(オーディションの内容にもよりますが。)

 

②情報を発信する

日時と場所が決まったら、それを告知します。告知の方法は、Twitter等のSNSを使うやり方と、オーディションサイトに情報を掲載してもらうやり方があります。

オーディションサイトへの掲載は、基本は無料です。代表的なものに「CoRich」の掲示板、「オーディションプラス」「Deview」といったものがあります。このうち、Deviewは、「参加者に金銭的な負担がないこと」を情報掲載の条件にしていますので、ノルマを設定する公演のオーディション情報は載せられません。また、Deviewもオーディションプラスも、独自の掲載基準を持っていますので、情報を送ったからといって、確実に掲載されるわけではありませんので、注意しましょう。CoRichは、登録さえすれば掲示板に自由に情報を載せられます。ただし、前述の2つに比べて、見ている人が多い割には応募してくる人は殆どいません。さらに、Deviewもオーディションプラスも、一定期間を空けないと次の情報が載せられませんので、短期間で追加でオーディションを行う場合には使えません。

また、「18歳以上」「演技経験のある人」「性別不問」等、条件がある場合は、それも明記しましょう。ネタバレにならない程度に作品のあらすじを載せておくと、受ける方がよりイメージしやすくなり、興味を持ってもらえるので効果的です。

 

オーディションを受ける人から送ってもらう情報としては、下記のようなものが考えられます。

 

・名前

・性別

・年齢

・所属

・身長

・スリーサイズ

・芸歴

・特技

・自己PRまたは志望動機

・写真(全身とバストアップ)

 

上記を、メールで送ってもらうのが一般的です。当日、プリントアウトしたものを持参しましょう。

 

③オーディション用の資料(脚本)を用意する

あなたが役者の何を見たいかで、当日用意するものは変わってきます。

演技力を見る最もオーソドックスな方法は、台詞を読んでもらうこと、役を演じてもらうことです。それには、オーディション当日に読んで(演じて)もらう脚本が必要です。といっても、新しく書き下ろす必要はありません。もう既に、上演するための脚本が(第1稿でも)上がっている筈ですから、そこから適切と思われるシーンを抜いて、それを使用すればよいのです。男女の比率やシーンの長さに応じて、どこをチョイスするか決めます。複数のシーンを用意しても構いません。それをプリントアウトして、人数分コピーして持って行きます。

 

☆歌・ダンス等、特別な能力を見たい場合

ミュージカルや音楽劇等では、役によってはダンスや生歌の能力を確認しておきたい場合があります。そんな時は、そのための課題を別途用意する必要があります。

歌の場合は、例えば「得意な歌をワンコーラス歌ってもらう」、または「課題曲を予めデータで送信しておいて、当日歌ってもらう」といった方法が考えられます。ダンスの場合も、これと同じです。課題曲や課題のダンスは、直接作品と関係がなくても大丈夫です。課題を与える場合は遅くともオーディションの10日から1週間前までには送るようにしましょう。

 

④オーディション当日

もし知り合いで手が空いていそうな人がいたら、お手伝いを頼むのもいいでしょう。椅子を並べたり、課題を配ったりと、色々やることはあります。また、その人が役者なら、脚本を演じてもらう時に、オーディションを受ける人の相手役をやってもらうこともできます。

一般的な流れとしては、「役者自己紹介→脚本を使っての演技→歌やダンス(あれば)→質疑応答」ということになります。

一口に「演技を見る」といっても、何を重視するかはあなた自身の判断です。見た目(立ち姿等)なのか、台詞の言い方なのか、作品の色や登場人物の役柄に合っているかなのか、初見の脚本に対しての対応力なのか。

人数が多い場合は、1人に割ける時間が限られますが、少人数だった場合は、例えば1回読んで(演じて)もらった後に、軽く演出をつけて、もう一度やってみてもらうこともできます。役者が、つけた演出をすぐに取り入れて、演技を変えられるかを見ることができます。

 

一通り演じてもらった後の質疑応答の時、

 

「お客さんは何人位呼べますか?」

 

と役者に質問してみて下さい。その役者の動員力を知るためです。

大抵の場合、実際の何割り増しかの数を役者は答えます。例えば、「20人位です」と答えた人は、実際には12、3人、多くて15人位しか呼ばないことが多いです。ただ、参考にはなります。同じ位の演技力や魅力を持っている人が2人いたら、多い数を答えた方を合格にするといった判断基準になるのです。

 

☆ワークショップオーディション

上記のような一般的なオーディションの他に、「ワークショップオーディション」というものを開催する団体やユニットもあります。

これは、オーディションにワークショップ(与えられた様々な課題を参加者全員でこなす、「演劇教室」のようなもの)の要素を加えたもので、役者の演技力だけではなく、性格や協調性といった、演劇作品を作る上で非常に大切な要素を見ることができます。ただし、まとまった時間を必要としますし、開催する方にもかなりの準備や演劇的な素養を求められますので、初回からこれを行うことはお勧めしません。

どうしてもやってみたいと思ったら、まずは他の団体や演出家・監督が主催するワークショップに参加してみることが、一番の早道です。

 

⑤ オーディションの結果発表

役者は、通常同じ期間にいくつもオーディションを受けます。ですので、できるだけ早く結果をお知らせするのが親切です。

複数の日にわたってオーディションを行った場合は、最後のオーディションから概ね1週間以内に、結果をメールで個別に伝えましょう。

この時、合格を知らせた役者から、既に別のオーディションに合格していて、そちらを選ぶので辞退したい旨のお返事をいただくこともあります。縁がなかったと諦めて、気持ちを切り替えて下さい。

 

 

如何でしたか。

オーディションは準備に手間がかかりますが、今まで知らなかった役者と、実際に会って演技を見られます。事前に送られてきた情報では分からなかったことを、生で知ることができる貴重な機会になります。多くの新たな出会いが期待できますし、その中から、その後も長い付き合いになる役者が出てくることもしばしばです。

初めての時は緊張すると思いますが、それは役者も同じことです。是非新たな出会いの場を楽しんで、ご自分の作品の世界を構築するのに最適な人材を発見して下さい。

 

次回は、「コネクション」(コネ)に関してです。

次回も是非お読み下さい。

 

 

※団体・ユニット等の個別のご相談もお受けしております。ご希望の方は、コメントでその旨お知らせ下さい。

 

(写真 松永幸香)

キャスト(出演者)を集める その1

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皆さんこんにちは。劇作家(脚本家)・演出家の息吹肇です。

2月に入りました。このブログも足掛け4ヶ月目になります。遅々として進んでいないようにも見えますが、気が付けば少しずつでも実際の上演に近付いてきました。

今回は、キャストを集める方法について書いていきます。といっても、僕のやり方はごくごくシンプルなものなので、何か特別な「技」があるわけではありません。

大きく分けて、

 

・一本釣り方式

・オーディション

・コネクション

 

上記の3つになります。

順番に説明していきましょう。

 

 

一本釣り方式

①公演チラシを活用する

小劇場の芝居を見に行って、「あの人よかった!」と思える役者さんが、1公演に1人はいると思います(もしいなければ、残念ながらその芝居は、あなたにとっては「ハズレ」です)。その人に声をかけるわけです。

僕はそういう時のために、パンフレットが販売されていたら、必ず買うようにしています。パンフの販売がなければ、簡単な出演者・スタッフ紹介のA4二つ折り位の紙が大体は用意されていますので、それを持ち帰ります。パンフがあれば、演者の名前と顔が一致しますので、まずは気になる人をググってみましょう。大抵、何らかのSNSをやっていますので、例えばツイッターのDMで声をかけます。もしその役者が事務所に所属していても、「お仕事の依頼はこちらから」とメールアドレスを載せている場合が多く、それがない場合でも、事務所のサイトにお問い合わせフォームが必ずあります。そこにオファーのメールを送ります。

 

SNSで見つける

上記と重なりますが、ツイッターやインスタで気になる役者をフォローし、どんな芝居(や映像)に出演しているかを投稿の内容から推測します。自分の求めている役者に少しでも近いと思ったら、迷わず連絡をとってみて下さい。その際、ツイッターであればフォロワー数もチェックしておきましょう。フォロワーが2桁、または3桁でも300以下なら、動員力はあまりないと思って間違いありません。動員はさておき、どうしてもその人に出てもらいたいと思えば、DM等で声をかけてみてもいいでしょう。

時々、ブログはやっているけれど、ツイッターやインスタといったSNSはやっていない役者がいます。そういう人には、なかなか連絡がとりにくいものです。しかし、それは役者側の考え方なので、深追いする必要はありません。

 

③事務所のサイトから見つける

先にも書いたように、事務所に所属する役者は、直接連絡をとることがNGである場合が結構あります。そうなると、事務所経由でオファーするしかありません。その時、お目当ての役者だけではなく、事務所の所属タレント紹介のページを一通り見てみましょう。さらに魅力的な役者が登録されていることがあります。事務所のページには、出演履歴等も載っていますので、それを参考にして、複数の人にオファーするのもありです。AさんはダメでもBさんはOKといったこともよくあります。

 

④メールは誠意を持って、堂々と

初めて直接連絡をとる相手ですから、最初は緊張するかも知れませんが、相手はそういうことには慣れていて、かつ基本的には仕事を待っている身だと思えば、少しは気が楽になるでしょう。過剰に卑屈になる必要はありません。

かといって、強気に出られる立場でもないので、「他の誰でもなく、あなたにこの作品に是非出演して欲しい!」という気持ちが伝わるようにオファーの文章を書きましょう。

メールを送ってから、かなり経った頃に返信が来ることもしばしばです。スルーされてしまう場合も多いですが、根気よく待ってみて下さい。

 

⑤伝えるべきこと

先方がまず確認したいのは、スケジュールです。稽古期間や上演日時、場所を伝えます。そして、スケジュールがOKだったら、企画書と脚本を送って出演を検討してもらいます。

次に相手が重要視するのは、出演条件です。チケットノルマがあるのかないのか、チケットバックなのか、ステージギャラ方式なのか。具体的にはどんなシステムなのか。これはしっかり決めておいていて下さい。なお、出演者ごとに条件を変えるのもありです。

そして、最後に相手が知りたがるのは、自分(もしくは事務所所属の役者)の役どころです。「番手」といって、その人が出演者全体の中でどの位の位置にいるのかを示す指標があるのですが、役者も事務所も非常にこれを気にします。比較的有名な事務所の役者は、この番手が上の方でないと引き受けてくれません。また、そういう人をあまりにも低い番手にキャスティングするのは、失礼に当たります。オファーする時までに、どの人をどの役にしたいのか、仮でもいいのでキャスティングを考えておいて下さい。

 

⑥どのレベルの役者までオファーが可能か?

あなたが生まれて初めて演劇公演を主催するのであれば、誰でも知っているような芸能人・俳優が所属するような芸能事務所にオファーをしても、まずスルーされると思って下さい。まだどこの誰かも全く知られていないような人間のために、十分に有名で仕事も詰まっている俳優・タレントのスケジュールを割く意味はないと判断されるからです。また、よしんばスケジュールが大丈夫だったとしても、その俳優の高額なギャラの支払い能力があなたにあるとは見なされないでしょう。

ですから、初めは有名な事務所へのオファーは避け、SNSに連絡先を載せている役者にターゲットを絞ってみて下さい。

 

☆息吹の場合

僕は、Evernoteで公演毎にノートを作り、作品名・劇場名・公演日程、大体のスケジュールとともに、気になった役者、出て欲しいと思っている役者を、出演者候補として入力しておきます。キャストだけではなく、スタッフさんの候補も入れておくとよいでしょう。交渉結果を「OK」「NG」で入れておくと、次からの参考資料にもなります。

 

 

如何でしたか。

今はSNSがあるお陰で、だいぶ一本釣り=直接オファーがしやすくなりました。勿論、受ける、受けないは先方の役者次第です。特に条件面や、どんな役を想定しているかについて質問がくることが多いので、その時点で決まっているところまででもいいので、答えられるようにして下さい。

まったく無視されてしまうこともあるかと思いますが、その場合は、単に縁がなかったということです。気持ちを切り替えて、別の役者へのオファーに力を注いで下さい。

だめかなと思っても、作品の内容に興味を持ってくれて、何とかスケジュールを調整してもらえることもあります。「ダメ元」でいろいろな役者に当たってみましょう。

 

 

次回は、オーディションを行う場合について書きたいと思います。

次回も是非お読み下さい。

 

 

※団体・ユニットの立ち上げ等の個別のご相談もお受けしております。ご希望の方は、コメントでその旨お知らせ下さい。

 

(写真 宮本よしひさ)

企画書を作る

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(写真 宮本よしひさ)

皆さんこんにちは。劇作家・演出家の息吹肇です。

とある読者の方から、紹介の肩書きが「脚本家」から「劇作家」に変わっていますね、というご指摘を受けました。確かにそうですね(笑)

本人は、あまり意識的に使い分けているつもりはないのですが、「劇作家」の方が少し重く感じますね。まあ、やっていることは同じなので、どちらでもいいのですが。

 

さて、今回はいよいよ「企画書」の書き方です。だいぶお待たせしてしまいましたが、これを書かないと、役者に出演のオファーをすることはできません。とはいえ、企画書の書き方は人によって違います。これもあくまでも一例ということで参考にして下さい。

 

 

作成はパワーポイントで

僕はずっと以前に、とある制作会社の方から、企画書の書き方を教わりました。その時は、Wordを使ってかなり事細かく文章で説明するようなやり方でした。それでずっと通してきたのですが、一昨年にとある若手のキャスティングの方から「読みにくい」と言われてしまいました。文字が多すぎて、何が肝心な情報なのか分からないということだったようです。それで、その人に例として見せられたのが、パワポで作ったファイルでした。

確かに、企画書はプレゼンテーションの大元みたいなものなので、パワポで作るのは的を射ています。(もしあなたがMacユーザーで、パワポを持っていない場合は、キーノートでも大丈夫です。)芸能事務所のマネージャーさんは、たくさん送られてくる企画書に目を通すわけですから、ぱっと見て全体が把握できるものの方が有利です。A4横書きで、一般的なテンプレに基づいてデータを作成し、メールに添付して送るのが普通です。ファイルの形式は、OSやソフトの有無に関係なく開けるPDFで保存するとよいでしょう。

 

 

入れる要素

①ユニット名、公演(作品)タイトル

当然最初のページ(表紙)にはこれを載せます。作家・演出家の名前も入れます。ここにあなたのユニットのロゴが入ると素敵です。

 

②概要

上演作品の概要を箇条書きで載せます。詳しいあらすじは不要です。作品の特徴やアピールポイントを書きましょう。

 

③ユニットの作品の特徴

あなたのユニットが創ろうとしている舞台の特徴を、箇条書きで書きましょう。3つくらい、多くても5つにしましょう。分かりやすく、インパクトのある内容(文)が望ましいです。

 

④ユニットの沿革・概要

あなたのユニットの紹介です。初対面の方に自分を紹介するつもりで、ここは少し詳しく書いてもいいでしょう。

あなた個人についてと、ユニット自体のことを分けて書くと分かりやすいです。といっても、初めての公演であれば、書くべきことがないと思われるかも知れません。そういう時は、自分と演劇の関わり合いのきっかけや、こんなユニットにしていきたいという目標を書いても構いません。

相手は、あなたが何者か、自分または自分がマネジメントする俳優を託して大丈夫な相手なのかを知りたいのですから、それに答えるつもりで書くといいでしょう。アピールポイントがあれば、どんどん前面に押し出して下さい。

 

⑤公演の詳細

いよいよ、公演そのものの詳細な情報です。

以下のような項目を入れます。

 

・作品タイトル

・上演場所(および会場のキャパ)、会場WebサイトのURL

・公演期間(決まっていれば、上演スケジュール・ステージ数)

・動員目標人数(なくても構いません。)

・チケットの種類・料金

・キャスト数(男女別の人数)

 

※この段階では、上演スケジュールやチケット関係は、予定でも構いません。

 

⑥物販グッズの内容

物販を行う場合は、種類と予価を書きます。一定の割合を役者にバックする場合、そのパーセンテージが決まっていれば書きます。

この段階では、物販の種類や価格は、予定でも構いません。

(物販を行わない場合は、このページは不要です。)

 

新型コロナウイルス対策の内容

これを書いている2021年1月現在、新型コロナウイルスの感染が全国に広がっています。国や地方自治体が劇場等イベントスペースでの感染症対策のガイドラインを発表していますので、その内容や、稽古場での対策等を明記します。

(既にコロナが収束している場合は、このページは不要です。)

 

⑧稽古スケジュール

仮でも構いませんので、稽古開始日や、週何回か、開始時間と終了時間、稽古場はどのあたりかを書きます。

また、一緒に小屋入り後の想定されるスケジュール(場当たり、ゲネの日等)も入れておきましょう。あくまでも予定、目安ということでいいと思います。この部分がもし分からなければ、決まっていたら舞台監督さんに聞いてみて下さい。通常は、小屋入り初日は仕込み(セットの建て込みや音響・照明のセッティングやチェック等)、2日目は1日場当たり、3日目の昼間にゲネで夜が本番の1回目になります。(仕込み日が1日しかない場合は、スケジュールが変わります。)

 

 

如何でしたか。

とにかく、ぱっと見て分かりやすいことと、ある程度インパクトがあることが重要です。使えるところには写真やイラストを入れて、アクセントを付けるとなおいいと思います。また、必要に応じて、各項目の但し書き、注意点(例えば、「稽古のNGは予めお知らせ下さい。」等)を入れると親切です。

実際にこれをプロジェクターに映し出してプレゼンをするつもりで作って下さい。

最後までできあがったら、何度か見直しをしてみて下さい。足りなかった所や、余分な所があると思いますので、それを修正して、完成版ができたと思ったら送るようにしましょう。

企画書がないと、先方も何を基準にして出演する、しないを決めたらいいのか分かりません。つまり、企画書は全ての始まりの第一歩です。

これさえ完成させれば、あとは攻めるののみです。

 

次回は、この企画書を元に、どのように役者やスタッフを集めるかの話に入りたいと思います。