「まず調査して、その地域の特色となる食材を見つけます。そして、地域のいろいろなお店にその食材を活かした料理を考案してもらう。
それでここからが重要なんだけど、必ず試食会をやるんですね。
地域のおばさまやお母さんたちなんかを招いてそれぞれの料理の試食会をやる。
で、ここがポイントで、『ダメ出しして下さい』とお願いするんです。
そうすると『盛り付けがダメ』とか『味付けがダメ』とかみんなダメ出しをしてくれる。
それでそのダメ出しを元にして、もう一回シェフや板前さん、職人さんに料理を練り直してもらう。
そうやって地域の新・名物料理を作り上げて、お披露目する。
そうするとね、ダメ出しをしてくれたおばさまお母さんがたがどんどん口コミで宣伝してくれるんです。『私たちが作り上げた名物料理が出来たから食べに行こう!』って」
食で地域おこしをしている料理人兼プロデューサーのかたから聞いた話だ。
顧客である地域の人たちを企画段階から意識的、積極的に巻き込んでゆくことで、大きな流れを生み出してゆくその仕事術に、ぼくはとても魅了された。
自分ひとりでできることはたかがしれている。
うまい具合にまわりを「巻き込む」ことこそ肝要だが、それがなかなか難しい。
〈「いいか。テレビ局の制作ってのは、クレームをつけるのが仕事なんだ。今のテレビ番組ってのは八十%が制作プロダクションへの外注だ。そうなってくると、局の担当というのは仕事がないわけで、何もすることがない。毎日非常に困るわけだ。手持ちぶさたで。で、何をやるかというと、制作プロダクションが仕上げてきた作品にいちゃもんをつける。それしかないんだ、することが」
「なるほどね」
「そういうときに制作プロのディレクターはどう対処すればいいか。わかるか、沢井ディレクター」
「わかりません」
「巻き込むんだ、相手を」〉
(中島らも『水に似た感情』集英社文庫2000年 p.174-175)