SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

くじら島のナミ

[著者:浜口倫太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン]

ディスカヴァー文庫 くじら島のナミ

ディスカヴァー文庫 くじら島のナミ

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 どこか児童文学的な表現描写のように感じられたお話。とは言え、大人が読んでも存分に堪能出来る仕上がりになっていると思います。

 船の沈没事故で死に瀕した母親から、生まれたばかりの娘ナミを託された『超巨大クジラ』のジマ。クジラのジマと人間のナミとの異種族間同士の交流と生活。

 ジマとクジラの群れの生存を賭けた天敵シャチとの緊迫に満ちた戦い。そして難局を乗り越えた先に待っていたナミのジマとの別離……などなど、分かり易い内容ながらも見どころも面白さも満載でした。

Blue

[著者:葉真中顕/光文社]

 『平成の時代』を色濃く反映させた物語。特に音楽の歌詞や政治情勢などはリアルに盛り込まれていて、世代によってはこの世界観にドハマりしそうな雰囲気だったなあって印象でした。

 物語の内容は、家族を惨殺した犯人が自殺して幕を閉じるはずだった事件の背後に、正体不明の『真犯人』の影が浮上した事によって、その存在を追跡しゆくと言った展開。平成時代の幕が閉じるまで事件を追い続けた、刑事であるひとりの男の『執念』が実を結んだ、と言った感じだったでしょうかね。

 一見関係なさそうな人物や証言の断片が集まり、複雑な経緯を辿って真相に至るまでの構成は、長丁場でも引き込まれ続ける魅力があって見事なものでした。

 “真犯人の幕切れ”について。個人的にはこれで良かったかなと納得出来ました。登場人物達は色々複雑な思いでしょうけど、何となく真犯人自身がこの結末を望んでいたように思えてしまったので。

ロスト・ケア

[著者:葉真中顕/光文社]

 高齢化社会、在宅介護、介護業界の闇、高齢者の貧富格差、などなど。フィクションと注釈を入れられたとしても、どうしても現実社会のリアルと重なる部分で「これはノンフィクションか?」とつい思わされてしまいました。

 読んでいても、やはり創造の物語の中だけの出来事とはどうしても割り切り難くて、大体の結末は初期段階で何となく察せられるものの、残され突き付けられたものはやるせなく救いようがなく。

 じゃあどうすればよかったのかと考えてみても、結局『真犯人が手を染めた犯罪方法』以外に救われる道を思い浮かべる事は出来ませんでした。

稲荷山誠造 明日は晴れか

[著者:香住泰/ディスカヴァー・トゥエンティワン]

稲荷山誠造 明日は晴れか (本のサナギ賞受賞作)

稲荷山誠造 明日は晴れか (本のサナギ賞受賞作)

  • 作者:香住泰
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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 絶縁状態の娘が行方不明と知らされたおじいちゃん、その言づてを持ってきた孫と一緒に手掛かり不足なまま個人的に調査に乗り出す事に。

 とにかくこの70歳越えのジジイこと稲荷山誠造、行動力と思考力と決断力が年齢離れしていてやんちゃが過ぎる。

 強引な無茶をやっては結構派手に何度も暴行受けたりして、「おいおい大丈夫かよ」って心配しながら追っていましたが、大体がそう言った行動から自ら活路をこじ開けてしまっている所が凄いなと感じさせられました。

 『年寄りもその気になって奮い立てばまだまだ行けるんや!』みたいな、誠造からの叱咤激励と言うか、そんなメッセージが込められていたのかもなあ、とか思ったりも。

 あと、誠造と触れ合いながら“ヘナチョコ”だった孫の翔が頼もしく変わって行く姿とか、最後に上手くまとまってくれてほっこり一息とか、良い感じでしたね。

逃亡刑事

[著者:中山七里/PHP研究所]

 同じ署内の刑事が別の部下の刑事を射殺した証拠を掴むも、真犯人に罠にはめられ冤罪の濡れ衣を着せられ逃亡を図って反撃の機をうかがう、と言う展開。

 味方のはずの県警組織がほぼ『敵』で、摘発対象のヤクザが利害一致で一時的に『味方』になる、みたいな状況に持ち込む、追い詰められての高頭冴子の機転には目を見張るものがあってなかなか面白い。

 終始劣勢で何度も何度も追い詰められて「もうダメだ……」な状況に追い詰められ続けるので、そこからどう逆転劇を見せてくれるのか、と言う期待の高まりが増し続けてページをめくる手が止まらなくなる。

 まあ『逆転劇』って所を拾うと、ちょっと突飛な様子も否めなかったし、最後はもうちょい余韻が欲しいとも思ったけれど、途切れる事のない盛り上がりの構築は見事なものでした。