泡沫の逃避行

1人旅の帰り道に乗った特急列車の、その車窓から外を見ると、美しくて、どこか気の抜けた田園風景が今まさに時速150kmで駆け抜けては消えていく。
そんな様相が目に映り僕は戸惑う。
列車とは、もう少し優雅で気長な乗り物では無かったのか。そのスピードは時間の代償に僕の心の安らぎを平然と奪っていった。
東京に戻れば、また毒気の抜けない日常が僕を忙殺しにくるだろう。座席に座りながら呑気にビールなんぞ飲んでいる僕は、今まさに時速150kmで忙しなく当てもなく過ぎるあの「日常」に突き落とされているのだ。
 
ローカル線で行けばよかった。
もう少しのんびりと、この風情を、この景色を、この麦酒と一緒に楽しみたいものだ。
 
僕は車窓から見える景色を写真に撮って「哀愁」などと形容してみる。
家屋の庭に並べられた洗濯物が風になびいて揺れた時、僕はふと我にかえった。
僕が無責任に「哀愁」と呼ぶその景色は、彼らにとって何の取り柄のない「日常」なのだ。
あの家屋たちは決して「哀愁」などではなく、寒さや外敵から身を守るための「壁」に過ぎないのだ。
 
「日常」に突き落とされながら「日常」を眺めた時、その二つの「日常」がまるで重なって見えた。
今、目の前を通り過ぎる「日常」もきっと毒気の抜けない、当てもない「日常」に違いない。
となれば、僕に逃げる場所なんてない。慌てて残りの麦酒を喉に放り込んだ。
泡沫の逃避行が今まさに終わろうとしているのだ。

自己紹介

はじめまして。
 
あなたはきっと、僕のことをまったく知らないでしょうから、自己紹介から始めさせてください。
 
僕は神奈川に住む「平凡」な男。「趣味」で文章を書いております。
 
「平凡」と書いたのは、僕に自らを非凡と称するほどの度胸がないからであり、暇つぶしに文章を書こうという根暗野郎が果たして「平凡」なのかというと甚だ疑問ですが、とりあえずここは「平凡」で居させてください。
 
「趣味」と記述しましたが、それは、つまり言ってしまえば自己満足の文章を垂れ流す体のよい言い訳であり、僕がこれからここに書いてゆく文章が僕の「偏った」価値観に基づいて人に見せても恥ずかしくないと判断されたものに過ぎない、ということを皆さまの中に前提として置いていただくための精一杯の卑怯です。

僕は特に書きものについて勉強していたわけではなく、
ましてや敬語の使い方も怪しいようなボンクラで、僕が文章について何かインプットがあるとすれば、ただみなさんの書かれた文章を、楽しく読ませていただいているということだけです。そんな自分が果たして、人に見せても恥ずかしくないモノを書き上げられるのかはまだ分かりませんが、とりあえず、しばらくの間は見守って下さればと思います。 

では、これにて自己紹介を閉じさせていただきます。
何卒、よろしくお願いします。