会社潰した年が開け
あけましておめでとうございます。
おかげさまで、本当に大変だった2010年も終わりました。
破産後の現状ですが、結局前職と同じ様なことをやっております。
潰した会社の取引先がショップ代行に興味を持たれ、そこの社長さんが立ち上げた新会社で、事実上雇われ社長のようなことをやっています。自己破産歴のある人間が役員をやっていると経営上いろいろありそうなので、書類上はそこの社長さんが新会社の社長を兼ね、私は部長という事になっています。部長といっても、部下は一人なんですけどね。
その部下にショップ代行のノウハウを教え、会社がある程度軌道に乗るところまでは、その会社から給料をもらう生活です。
その後は、また会社を始めようかと考えています。ショップ代行は退職後一定期間は出来ない契約なので、また何か新しいことをするか、契約で縛られないWeb制作の方で行くか、開業資金を貯めながらのんびり考えます。
一般企業に就職という事も考えたのですが、35歳を過ぎてからの転職の厳しさを考えると、小さな規模で生活できる程度に起業するほうが現実的かなと。まあ、雇われるのが怖くないと言えば嘘になるのですが。
今年一年はこつこつ働き、地道にお金を貯めます。
給料をもらう生活も、地味に暮らす生活も久しぶりです。
この安心感と言いますか、落ち着いた暮らしは確かにいいものではありますが、たぶん一年後には飽きていることでしょう。
飽きるためにも、今年一年はのんびり過ごそうと思います。
この一年が皆様にとってもすばらしい一年であるよう、心から祈ります。
『会社を潰す』ということ
『倒産』『破産』と書いてきたが、続いて『会社を潰す』。
『倒産』は会社がこのままじゃやってられないよという状態になったということ、『破産』はもう会社(正確には個人も)が無理っぽいので裁判所に清算をお願いすること。『破産』のなかでも『少額管財』という安く済む方法を選ぶと、破産申立の前に『会社を潰す』作業を進めなければならないと、前回書いた。
では、『会社を潰す』とは実際にどういう意味なのだろう。
なんとなく思いつきではあるのだけど、夫婦の離婚に例えてみよう。
離婚も色々あるけれど、実際に離婚届を出す前に夫婦関係が破綻してしまっているケースがほとんどだと思う。中には、離婚はなかなか成立しないまま、それぞれ完全に別の生活を行っているというケースもあるだろう。このように、離婚成立の有無にかかわらず夫婦関係が破綻して、もう無理っぽいなという状況を、会社に例えると『倒産』ということになる。
『倒産』にも清算型と再建型があるように、ここからやり直す夫婦もあると思う。しかし、どうやっても無理なので離婚という流れになることも多い。円満に離婚できるケースもあれば、裁判所に頼るケースもある。離婚して夫婦関係を終わらせることを会社に例えると『内整理』や『破産』になる。これで夫婦はおしまい。会社もおしまい。
さて、夫婦関係が破綻して離婚するにしても、具体的な行動が必要になる。弁護士に相談したり、別居のために引越をしたり、浮気の証拠を揃えたり、親族に説明したり、夫婦関係を終わらせるために実際に行動すること、これを会社に例えると『会社を潰す』ということになる。
弁護士に相談して債権者リストを作って、在庫や資産を処分して、従業員や得意先に今後の対応を説明して、事務所を解約して、債権者説明会を行って、こういった具体的行動が『会社を潰す』ということになる。
会社の破産する際には、原則的に破産管財人と経営者が共同で『会社を潰す』作業を行う。しかし、管財人負荷を減らして、払うギャラを減らそうと始まったのが『少額管財』。そのため、少額管財で破産をする際には、あらかじめ経営者がある程度まで会社を潰しておくことを求められる。
少額管財制度ができる前、法人の破産は下記のような経過で進んでいた。
経営者が破産を決断
↓
弁護士に相談・申立委任
↓
申立書類作成
↓
裁判所に破産申立
事務所は閉鎖、張り紙をする。
玄関に張り紙がしてある、ニュースなどでよく見る光景
↓
破産管財人が在庫・備品の処分、事務所明け渡し
残されている資産の換金
従業員の解雇
↓
処分した資産の合計から配当を算出し、債権者集会で説明、配当
↓
破産手続終了
今でも、少額管財事件にはならない大型の破産事件は、この手順で進む。
しかし、少額管財では下記のように進むケースが多いらしい。
経営者が破産を決断
↓
弁護士に相談・申立委任
↓
弁護士とと話し合いながら、証拠を残しつつ、できる限りの在庫や備品の処分
可能であれば事務所明け渡し
従業員の解雇
↓
申立書類作成
↓
裁判所に破産申立
↓
破産管財人が証拠書類をチェック
まだ処分されていない資産の換金
↓
処分した資産の合計から配当を算出し、債権者集会で説明、配当
↓
破産手続終了
一番の違いは、在庫や備品の処分・事務所の明け渡し・従業員の解雇を、管財人中心に行うか、経営者中心に行うか。
手間のかかる部分を、できる限り経営者と代理人弁護士で申立前にやっておいてね、というのが少額管財の考え方だ。
というわけで、破産をしようとおもったら、その前に『会社を潰す』作業が必要になる。
長々と『倒産』『破産』『会社を潰す』と説明してきたけれど、次回からようやく具体的な倒産の実情を書いていきます。
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『破産』ということ
前回は『倒産』について長々と解説をしたけれど、シンプルにまとめると次の二つ。
今回は、倒産の一形態であり、株式会社ポチが実際に採った方法でもある、『破産』についてまとめてみよう。
『破産』をシンプルにまとめると、借金や買掛金などの債権が積もり積もってにっちもさっちもいかなくなったよと裁判所に申立て、その清算を頼むこと。
零細企業の場合、会社で作った借金のほとんどに代表者の個人保証をつけさせられるので、会社が破産するとその借金は代表者個人に降りかかる。そのため、零細企業の破産は会社と代表者個人のセットで行うことになるケースが多い。
破産の申立を裁判所にすると、裁判所は本当にお金ないのかなと確認し、こりゃ無理だなと判断すると「破産手続き開始決定」というのを出す。昔は「破産宣告」と、死刑宣告や余命宣告並みに重苦しい名前だったんだけど、2005年に改正されて柔らかい名前になった。しかし、意味は同じ。これが出た段階で、会社なり個人なりは『破産』した、ということになる。
破産手続き開始決定が出た破産者は裁判所の監督下に置かれ、裁判所に選出された破産管財人がその財産を調べる。破産管財人は財産があったらお金に換え、債権者集会を開いてその結果を公表し、可能であれば残っているお金を債権者に配当する。それが終わったら会社は消滅。登記簿から抹消される。その段階で払うべき主体がなくなるので債権も事実上消滅する。借金を取り立てたくっても、借金をした○×株式会社はもうない、だから取り立てのしようがない、という状態になる。
しかし、前に書いたように零細企業の借金のほとんどは代表者の個人保証が付く。○×株式会社がなくなっても、その社長から取り立てることはできる。
法人と違って個人は抹消するわけにはいかない。そこで、裁判所が破産者を呼んで免責審尋というのを行う。破産管財人があらかじめ破産した理由を調べ、その結果を裁判官に報告する。裁判官が念のため破産者本人にも確認して免責審尋は終了。特にひどい理由がなければ、その借金を返さなくてもいいよと『免責許可』を出してくれる。これで、個人も借金から開放され、破産に関わる手続きは全部終了する。
このように、破産をした後始末は裁判所、実際には裁判所が選んだ破産管財人にしてもらうのだけど、その費用は破産を申し立てた人が払わないといけない。この費用を予納金というのだけど、その額は法人だと最低でも70万円。代表者個人の破産を合わせてすると、さらに50万円。この他に、申し立ててもらうための代理人弁護士の費用もかかり、最低でも200万円程度は必要になる。
借金返せないくらいにお金に困っているのに、そんな大金出るかっ、という突っ込みは当然出るところで、以前は破産手続きを取らずに夜逃げするケースが多かったらしい。前回のエントリーでまとめた、「(7)放置する」のケースですな。
この状態をよろしくないと考えた東京地裁は、手続きを簡素にして迅速に処理できるようにし、破産管財人の仕事を代理人弁護士にある程度分担することで負担を減らし、その報酬である予納金を減らそうと『少額管財』という制度を作った。
この少額管財の場合、予納金は法人・代表者合わせて20万円。普通の管財制度の計120万円から、なんと100万円OFFのお買い得。代理人弁護士の費用込みでも100万円程度で破産ができる。実際に破産を経験してみると分かるけれど、このくらいの金額であれば、返済をストップすれば2ヶ月程度で用意できるところは多いと思う。おかげさまで、この制度ができてから、東京地裁に申し立てる中小企業の破産のほとんどは、この少額管財で行うようになったという。すばらしい。
実際、株式会社ポチの破産も少額管財で行った。
ただ、少額管財は申し立てる裁判所によってできるところとできないところがあるので、具体的には代理人弁護士に確認してもらいたい。東京地裁の他は、横浜地裁や大阪地裁には同様の制度があるらしい。
会社組織にせず個人事業で商売をやっていた人は、原則的に個人にしか使われない『同時廃止』という手段もある。
もう、財産がないのがわかりきっているので、わざわざ破産管財人を選任するまでもないような場合に行われる方法で、破産申立と同時に破産手続きを終わらせてしまうので『同時廃止』という。この場合、予納金は2万円程度。実際に個人が破産する場合は、ほとんどがこの方法を選ぶらしい。
あくまで財産がない個人限定の方法なので、不動産などの財産を持っていた場合は旧来の方法か少額管財を選ぶことになる。また、免責不許可事由があった場合も、必ず破産管財人が付く形になる。
さて、こうして破産を申し立て、借金や売掛金を精算してもらう事、それは当たり前だけど良いことばかりではない。
まず、何度も書いてはいるけれど、破産すれば会社がなくなる。これに尽きる。
しかし、逆に言えば会社の破産ではこれ以上に悪いことはない。
代表者個人も合わせて自己破産した場合は、破産手続き開始決定と同時にいくつかの制約が付く。
まず、破産する会社以外の会社の役員になっていた場合は、一度退任しなければならない。ただ、再任はしてもいいので、形だけ一度やめればOK。旧会社法の時代、破産者は役員になれなかったのでその名残だと思うけれど、ちょっと変な法律ですな。会社の役員以外にも、弁護士・税理士・保険外交員・警備員・古物商など、お金が絡んだり信用が必要だったりする職には就けなくなる。こちらは再任もできない。
破産管財人が付く破産の場合、逃走を防止するため、勝手に引っ越したり旅行に行くことができなくなる。また、郵便物は全て破産管財人に転送されて、隠し財産がないか、なにか隠していることはないかと、中身をチェックされる。
ただし、これらの制約は免責で解除される。財産があまりないケースであれば3〜6ヶ月程度で免責まではたどり着くので、あくまでそのわずかな期間だけの制約であり、一生弁護士になれないわけでも、旅行ができないないわけでもない。郵便物が覗かれるのは気持ち悪いけれど、まあしょうがない。借金をチャラにする対価として考えれば、こんな制約は問題にならないと思う。
現実に生活している上で最大の制約は、いわゆるブラックリストに載ることだろう。破産手続き開始決定が出ると、官報に破産者の名前と住所が告知される。信用情報を管理している業者は毎日官報をチェックし、せっせと自分のデータベースを更新している。これがいわゆるブラックリスト。クレジットカードを作る際やお金を借りるとき、業者は必ずこの信用情報をチェックしている。ここに破産したと書いてあるのに、カードを作ったり金を貸してくれる業者はない。
最近では携帯電話の販売でも信用情報をチェックしているらしく、割賦販売を断られるケースもあるらしい。まあ、一括で買えばいいんですけどね。
しかし、クレジットカードがなくても案外生活に困ることはない。いざとなったらデビットカードというクレジットカードもどきもあるし、ETCカードもパーソナルカードというデポジット制の仕組みがある。お金も借りないに越したことはない。
また、ブラックリストの情報は5年〜10年で削除される。その間くらい、クレジットカードをじっと我慢していればいいわけで、これもまた、そんなに大した問題じゃない。
一般的には、破産によって社会的なダメージを食らうと思われがちだけど、それはほとんどない。
合コンに行って「破産中です」と自己紹介したらどん引きされたけど*1、実際にはわざわざ宣伝して廻らなければ、誰も破産したことには気付かない。よく、戸籍や住民票に破産者と書かれるという勘違いがあるのだけど、実際にそれはない。極端なことを言えば、破産した事実を隠して結婚してもばれることはないだろう。配偶者に黙ってこっそり破産するというケースもあるらしい。
『破産』という言葉には、何とも言えないネガティブなイメージがつきまとう。しかし、実際に個人が負うダメージはそう大きくはない。
もう会社を潰す以外に解決方法がないと考え始めたとき、そのネガティブイメージにとらわれることには全く意味がない。会社を経営している人にとって、『会社を潰す』という事は『敗北』を意味するかもしれない。しかし、それは会社経営者としての敗北であって、一人の人間全てを否定されることではない。経営者として最後の責任を取るためにも、『破産』という一つの対処法を冷静に検討するべきだろう。
さて、ここまで『倒産』『破産』と長々とつまらない解説を書いてきた。
株式会社ポチは少額管財を利用し、東京地裁に破産を申し立てることにした。
破産を申し立てるにあたり、経営者は『会社を潰す』というもう一つの仕事をしなければならない。
次回その解説をして、「ということ」シリーズは終了の予定。
しかしまあ、こんな長いの読む人いるのかねえ。
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*1:そりゃまあ、合コンのネタとしては重すぎだよね。男にだけウケました。意味ね−。
『倒産』ということ
(書いてみたら順序を変えた方がいいので、「『会社を潰す』ということ」を一端削除しました。順序が前後してしまい、申し訳ありません)
破産手続廃止と免責決定で『倒産』は無事終了。法人にとっての戸籍にあたる法人登記簿は閉鎖され、株式会社ポチはこの世から消えた。
人間なら「死亡」ということ。享年8歳。短い命でした。さようなら。*1
会社が『倒産』したとはよく言うけれど、倒産=会社の消滅ではない。また、倒産=破産でもない。株式会社ポチの場合は倒産=会社の消滅=破産だったけれど、それは倒産の一形態に過ぎない。
大型倒産速報で有名な帝国データバンクでは、倒産を下記のように定義している。
(1)2回目不渡りを出し銀行取引停止処分を受ける
(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)
(3)裁判所に会社更生法の適用を申請する
(4)裁判所に民事再生法の手続き開始を申請する
(5)裁判所に破産を申請する
(6)裁判所に特別清算の開始を申請する
http://www.tdb.co.jp/tosan/teigi.html
この中で確実に会社が消滅するのは、(5)の破産と(6)の特別清算だけ。(1)は後述するのでちょっと置いておくが、(2)〜(4)は会社が存続することを前提としている。会社が残るのに倒産ってどうも釈然としないような気もするけれど、そもそも「倒産」という言葉は法律用語にはないため、法的な定義はない。
とう‐さん【倒産】
[名](スル)1 企業が経営資金のやりくりがつかなくなってつぶれること。企業が不渡手形などを出して銀行から取引停止を受け、営業困難に陥ること。「不況で―する」2 赤ん坊が逆子(さかご)で生まれること。 ...
大辞泉
倒産(とうさん)とは、個人や法人などの経済主体が経済的に破綻して弁済期にある債務を一般的に弁済できなくなり、経済活動をそのまま続けることが不可能になること、又はそのような事態を処理するための法的手続をいう。
Wikipedia
このように上に引用した大辞泉の定義と、その下に引用したWikipediaの定義も異なる。一般の人が思う『倒産』は大辞泉のイメージだと思うが、実際の『倒産』はWikipediaの定義であり、「経済活動をそのまま続けることが不可能」なのでなんらかの処理が必要となっている状態になっていることをいう。その処理によって会社が再建する場合・消滅する場合があり、それぞれを、再建型・清算型と呼ぶ。帝国データバンクの定義は、その処理方法を列記したものだ。
詳しくは帝国データバンクのページを見ていただいた方がわかりやすいが、それぞれを零細企業の実態に即して簡単にまとめてみよう。
(1)2回目不渡りを出し銀行取引停止処分を受ける
実際に良く聞く『倒産』のケースですな。ドラマにおける倒産の典型例と言えましょう。
製造業を中心に企業間の決済でよく使われる「約束手形」というものがあるのだけど、単純に言えば「銀行さん、これを持ってきた人に、今日から(90)日後に(100万)円、当社の口座から引き出して払ってください」という紙切れの事。()の中はそれぞれ。一般的には60日〜120日くらいだけど、業種によっては360日だったりするらしい。怖っ。「小切手」と似ているけれど、すぐにお金が支払われるのではなく、一定の期日が過ぎてからお金が支払われる点が違う。支払う側としてはすぐにお金を用意しなくてもいいので助かるけれど、受け取る側としてはすぐに現金化されないので困る、支払う側有利の仕組みと言える。なぜ製造業を中心に一般的なのかを考えると日本の産業構造が浮かび上がってくるけれど、まあ、それは別の話。
さて、約束手形が現金化される約束の日に、口座にお金がなくて支払うことができない事を「不渡り」という。2回不渡りすると、銀行はその会社との取引を停止する。手形が不渡りになったという情報は手形をやりとりしている全ての金融機関に伝わるので、手形を振り出していた銀行だけではなく、全ての銀行の取引が停止になる。取引が停止すると、返済期日に関係なく、全ての借金の返済を求められる。そもそも銀行が使えないと商売は成り立たないので、その会社の命はもう尽きたということになる。
旧来の産業だと手形はよく使われているので、中小企業でもこの形の倒産は多い。
しかし、Web業界でこの形の倒産をするところはないだろう。そもそも手形を使っているWeb屋は皆無に近い。外注費の支払もほとんどは普通に銀行振込。それがいくら遅れても、銀行が間に入っているわけでもないし、銀行取引停止になったりはしない。株式会社ポチも手形は受け取った経験があるだけだ。
また、実際にこの段階で会社が消滅するわけではない。その後、(2)〜(6)の手順を取る流れとなる。
(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)
実際には多いらしいケース。「私的整理」や「任意整理」とも言う。
裁判所を介入させずに、会社と債権者で話し合いをして、債務を整理していく方法。弁護士が会社と債権者の間に入って交渉し、例えば、債務を一律90%カットし、残りの10%を10年間かけて返済していくといた取り決めを結ぶもの。債権者としてはわずかかとはいえ債権が回収できるし、会社としては潰れないで済む。また、法的整理と違って管財人をたてる必要がないので、費用も抑えられる。
いいことばかりに聞こえるけれど、原則的に債権者全員の合意がないとその取り決めは成立しないこともあり、妥結できないままに法的整理に移行するケースも多い。また、公的な監査が入らないため、その取り決めが公平かどうかは疑問が残るケースもある。債務カットすることで新たに借金ができなくなることもあり、資金調達が滞って結局破産に移行というケースも聞く。まあ、いいことばかりではない方法ではあるけれど、会社が消滅しないで存続できるというところは大きい。
私の周りでこの方法を取ったところはないけれど、零細企業でも最近はよく使われる方法らしい。株式会社ポチも、破産の1年くらい前にこの方法を考えていたら、また違った結果を生んだかもしれない。今となっては意味のないことだし、引き際は本当に難しいのだけど。
また、再建を前提としない整理もあるのだけど、それは(7)で。
(3)裁判所に会社更生法の適用を申請する
会社と債権者で話し合いをして、債務を整理して再建していく方法としては内整理と同じだけど、こちらは裁判所が間に入り、監督して再建を進めていくのが大きな違い。原則的に経営陣は退陣させられ、新たな経営陣と管財人とで再建を進めていく。
基本的には大企業でしか使われないケースなので、零細企業には縁がない。
(4)裁判所に民事再生法の手続き開始を申請する
会社と債権者が裁判所の監督の下で話し合いをして債務を整理して再建していく方法としては会社更生法と同じなのだけど、こちらは経営陣の退陣が必要なく、そのまま経営を続けることができる。中小企業に使いやすいようにと2000年に誕生したが、最近では大企業にもよく使われる方法。管財人ではなく監督委員が裁判所から送られてきて、再建を監督する。会社と債権者の話し合いで債権をカットするのは内整理と一緒だけど、債権者の過半数がその計画に賛成すれば成立するのが大きな違い。監督委員が入るので公平さも担保される。
良いことずくめのような気がするけれど、多額の費用がかかるのが欠点。裁判所に民事再生を申し立てるときの予納金は、最低でも200万円。弁護士費用も破産よりかかり、最低でも100万円。300万の現金があったら潰さないよと思っちゃう辺りは私が駄目経営者である所以なんだけど、実際のところはなかなか難しいところだと思う。
そんなわけで、零細企業とはいえない規模の中小企業では使われるけれど、零細ではあまりない方法かな。取引先で民事再生を始めたところがあったけど、結局最後は破産に至っていた。その予納金で少しでも払ってよ、というのが正直なところだった。
(5)裁判所に破産を申請する
さて、ようやく倒産の王道、破産がでて参りました。株式会社ポチもこの方法を取っております。ビバ破産。
バンザイ突撃かって話はさておき、破産はこれまでの倒産とは内容が大きく異なる。
内整理や民事再生などを再建型の倒産と言ったりするのだけど、こちらは会社を再建することが前提。しかし清算型の倒産と言われる破産は、会社が消滅することを前提としている。再建型では事業を継続していくために最低限の資産は残すけれど、清算型は文字通り全てを清算する。人間関係の清算はその後で復活することがあるかもしれないけど、会社の清算はもう復活しません。さようなら。
というわけで、破産=会社の消滅。全ての資産を管財人が確認し、処分・換金して債権者に分配する。そして、全ての処理が終わったところで裁判所に報告し、報告を受け取った裁判所は法務局に連絡して、法人の戸籍にあたる法人登記簿を閉鎖する。この段階で会社は消滅する。
会社の消滅を前提としているため、倒産における究極の方法と言える。当然のことながら、少しでも再建の可能性があるならば破産という方法は取らない方がいい。しかし、そのまま存続させることで、借金が増え、買掛金が増え、未払賃金が増え、未納の税金が増えと、どんどん人に迷惑を掛けていく事が確定的ならば、破産という方法を取らざるを得ないと思う。
そう思って株式会社ポチは破産を決断した。その決断に悔いはないと、思いたい。
零細企業の倒産というと、ほとんどが破産。破産については別途「『破産』ということ」というエントリーを上げるつもりなので、そちらをご覧ください。
(6)裁判所に特別清算の開始を申請する
これは実際に使われているケースを全く知らないのだけど、債務超過の株式会社に限定して使われる方法だそうな。
実際には親会社が債務超過の子会社を清算時に使うケースがほとんどのようなので、零細企業には関係ないですな。
(7)放置する
これまでは帝国データバンクの倒産基準に則って説明してきたけれど、それとは別に零細企業でよく使われる方法として「放置」というのがある。帝国データバンクの基準に無理矢理合わせるのなら、「(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)」になると思う。
単純に言えば夜逃げ。借金も売掛金も従業員も事務所もそのまま放置して、金目のものだけ持って逃げる。会社の登記だけは存続することになるけれど、実際には何年か決算しないで放置すると閉鎖されるらしい。事務所を放置された大家は、保証金を崩して中身を撤去してまた貸し出せばいいし、従業員は社長が逃げたところで倒産認定されるので、すぐに失業保険がもらえ、未払賃金立替制度も使えるそうだ。借金のほとんどは経営者が連帯保証人になっているので、時効になるまで5〜10年くらい経営者は逃げ続けないといけない。まあ、そのくらいなら逃げ切れないこともないいような気もするし、そう考えるとなんとかなっちゃうのかもしれない。というわけで、それなりに数は多いらしい。
実際に破産してみると、気持ちは分からないでもない。破産直前の借金取りに追われている状況だと、もう全てを放り出して逃げたくなっちゃうものなんですよ。海外逃亡とか夢見てみたり。まあ、逃げちゃ駄目なんだけど、全てが面倒になってしまうあの感じは体感的に理解できる。
しかし、実際に破産してしまえば逃げる必要もなく、すぐに生活を再建することができるし、債権者も損失をすぐに処理することができる。正直、気持ちの上でもかなりすっきりする。費用も今となってはそんなにかからないし、放置するよりは破産をおすすめしたい。
というわけで、ずらずらと書いてきたけれど、倒産=会社の消滅でも、倒産=破産でもないのは理解してもらえたと思う。
破産の段で書いたように、株式会社ポチは破産を選択した。
次回は『破産』について書いてみよう。
*1:とはいえ、一説では会社の90%は創業から10年持たないそうなので、そんなに短くはないかもしれない
免責までの時系列まとめ
免責決定が出たことで「倒産」は一段落。
ここまでの流れをざっとまとめると、こんな感じ。
4月上旬 | 資金繰りに窮し、破産を決断。弁護士に相談。 |
4月20日 | 弁護士に正式に破産申立を委任。受任通知発送。 |
4月25日 | 従業員に正式に破産の事実を伝え、解雇通知。最後の給与支払日。 |
5月上旬 | 取引先に会社を整理する旨を通知。引き継ぎ開始。 |
5月下旬 | 事務所引き渡しに向けて撤去作業開始。 |
5月31日 | 従業員解雇。 |
6月上旬 | 事務所備品類の整理、撤去。 |
6月15日 | 事務所、オーナーに引き渡し。 |
6月下旬 | 破産申立に向けて書類作成。 |
7月中旬 | 東京地裁に破産申立。 |
7月下旬 | 東京地裁から破産手続開始決定。管財人と打合せ。 |
8月 | 管財人から依頼された書類の作成。 |
9月 | そのフィードバックと再作成。 |
10月上旬 | 従業員に未払賃金立替制度の証明書到着。 |
10月下旬 | 東京地裁で債権者集会と免責審尋。1週間後に免責決定・破産手続廃止。 |
これ、こうやって書くだけで疲れるね。
借金をちゃらにするってのは、それなりに大変じゃないとまずい気もするけど。
さて、忙しくて書くのをサボっていた5月下旬以降の動きについて、そろそろまとめます。
免責なう
おかげさまで無事に免責決定が出ました。
弁護士に破産申立を受任してもらったのが4月。
桜が咲いている頃に、破産を決断。梅雨の終わりに申立。
あのやたら暑かった夏は、破産手続と一緒に記憶されることになりそうです。
手続きは無事に終わりましたが、ほっとしていいのか悪いのかもよく分からない、落ち着かない感じです。
20年近く前、大学に合格して、もう勉強しなくて良くなった日を思い出しました。
まあ、そんなにハッピーなものじゃないですけどね。
破産手続開始以降、管財人の調査が思ったより多岐にわたっていたこともあり、念のためブログの更新は止めていました。
もういまさら決定が覆ることもないでしょうし、そろそろ再開します。