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天体撮影で利用しているツール一覧

最近X(旧Twitter)のTLを眺めていると、新しい方が次々と天体写真に挑戦していて嬉しくなるのですが、一方で「あのツールを使えばもっときれいに(or もっと簡単に)なるのに……」と思うこともしばしばあります。


しかし一方で、振り返ってみると、自分が使っているツールについてまとめて紹介したことなかったな……と思い当たりました。そこで、自分が普段利用しているソフトやウェブサイトについてまとめてみようと思います。何かの参考やヒントになれば幸いです。

撮影計画段階で使用するソフト、ウェブサイト

ステラナビゲータ12

https://www.astroarts.co.jp/products/stlnav12/index-j.shtml


国産の天文シミュレーションソフトです(パッケージ版:15400円 ダウンロード版:13860円)。バージョンが12になって表示できる星雲・星団数が大幅に増えたので、撮影候補の天体を選ぶのがさらに便利になりました。惑星や彗星の位置の確認、天文薄明開始・終了時間の確認など単純なプラネタリウム的な使い方にとどまらず、カメラやレンズの情報を元に写野角を表示させることができるので、構図決定に便利です。




特に、DSO*1の撮影には「画像マッピング」機能が便利。写真を星図上に貼り込むことができる機能で、ネット上などで撮りたい天体付近の写真を見つけて貼り付けておく*2と、写野角表示機能と合わせることで「撮れるつもりが、はみ出していた」といったトラブルを回避できます。


オンラインにはTELESCOPIUSのような便利ツールもありますが、総合的な使い勝手ではやはりこちらに軍配が上がります。


ちなみに、ステラナビゲータには「望遠鏡コントロール」機能があり、ステラナビゲータの表示と望遠鏡の動作とを同期させることもできるのですが……自分の場合、ユーザーインターフェイスがリッチなSTAR BOOK TENをコントローラーとして使っていることもあり、この機能は使用していません。


Aladin Desktop

https://aladin.cds.unistra.fr/AladinDesktop/


ストラスブール天文データセンターによって提供されているフリーウェアの星図ソフトです。DSS(Digital Sky Survey)をはじめとした様々な波長域の画像を表示できる上、SIMBADなど外部のデータベースとも連携できるなど、極めて高機能なソフトですが、なんとなく眺めているだけでもなかなか楽しいです。


が、このソフトが撮影計画において便利なのは、表示画像の「レベル調整」がリアルタイムできること。




この機能を使うことで、淡い天体を見やすくできる上、これまで撮ったことのある天体と見比べることで、どの程度の淡さのものまで撮ることができるのか推測がつけやすくなります*3


N.I.N.A.(NIGHTTIME IMAGING 'N' ASTRONOMY)

https://nighttime-imaging.eu/


オープンソースで開発が進められているイメージングスイートです。冷却カメラのみならず、赤道儀など様々な周辺機器を集中的にコントロールできるソフトで、後述するように、自分も撮影で非常に重宝しています。




このソフトで、撮影前の計画段階において便利な機能が「フレーミング」機能です。この機能を使うと、スカイサーベイの画像を見ながらカメラのフレーミングを事前に決定することができます。自分の場合、ステライメージで構図の大体の当たりをつけておいた上で、この機能で本決定しています。あとは撮影時に「導入と中心合わせ」で天体を導入、目標をシーケンスに追加すれば準備完了です。


なお、スカイサーベイ画像の読み込みはオンラインで行われるので、この作業は撮影に出発する前、自宅であらかじめ行っておいた方がスムーズです。一度読み込んだ画像は「キャッシュ」として現地で読み込むことが可能です*4


Windy

https://www.windy.com/



世界中の気象予報をグラフィカルに表示できるサービスです。誰でも利用できる無料版と、より詳細なデータを入手できる有料版(年額20.89ドル)とがありますが、普通の使い方なら無料版でも十分でしょう。気象予報モデルには「ECMWF」(欧州中期予報センター)、「GFS」(アメリカ海洋大気庁)、「ICON」(ドイツ気象局)と3種類ありますが、普通はデフォルト設定で、予報精度が最も高い「ECMWF」を使えばいいと思います。


このサイトが便利なのは、詳細な雲の分布や種類、風の強さ、PM2.5の濃度などを最大9日先まで見られる*5ことで、撮影計画を立てる際にとても役立ちます。予想精度もなかなか高く、大外れした記憶はあまり多くありません*6。少なくとも、一般的な天気予報*7よりはよほど信頼できると思います。*8


SCW

https://supercweather.com/


日本国内の気象予報をグラフィカルに表示できるサービスです。原則無料ですが、月額308円の有料会員になると過去の情報やより細かい予報情報の閲覧が可能になります。


サービス内容、機能ともWindyと似たようなもので、好みで使い分けるといいでしょう。予測精度についてはこちらも十分高いですが、Windy(ECMWF)と比べると(少なくとも自分の住む地域では)外す割合がやや高いような印象があります。逆に、WindyとSCWとで予報が揃えば、ほぼ確実と思っていいでしょう。



撮影段階で使用するソフト

PoleMaster

https://www.qhyccd.com/download/


QHYCCDの電子極軸望遠鏡「PoleMaster」(セット実売価格:43000円)の制御ソフトです。「PoleMaster」は2015年末に発売された製品で、それまで光学式が主だった極軸望遠鏡を電子化したということで大いに注目されました。これを用いることで、わずか数分ほどの作業で30秒角以内の設置精度を得ることができます。今となってはSharpCapやPHD2など他のソフトにも極軸設定支援機能が搭載されていますが、直感的な操作という意味では現在でも随一かと思います。
hpn.hatenablog.com

ただ、「天の北極」の位置は地球の歳差運動によってわずかずつ移動していくので、これが反映されるよう、常に最新のバージョンを使うようにしましょう。


PHD2

https://openphdguiding.org/


定番中の定番ともいえるオートガイディングソフト。初期状態でもパラメータが良くできているため、ほとんど調整の必要なしに精度の高いガイドができます。v2.6.10からは、複数の星を同時にガイドに用いる「マルチスターガイディング」を選択できるようになり、ガイド精度がさらに向上しました。
urbansky.sakura.ne.jp


N.I.N.A.(NIGHTTIME IMAGING 'N' ASTRONOMY)


上でも触れたオープンソースで開発が進められているイメージングスイート。多彩な機能を備えている一方、機能ごとにタブに分類されていて画面が見やすかったり、その機能自体も気が利いていたりで、冷却CMOSカメラでの星雲・星団の撮影にはこれがあれば十分な感じです(もちろん、オートガイドソフトなどは別途必要だけど)。


また、上でも書いた「フレーミング」機能とプレートソルビング*9 *10の組み合わせは、子午線越えや複数夜にわたる撮影を簡単にしてくれます。


機能は極めて高度で、撮影の完全自動化にも十分こたえられるような機能を持っていますが、自分の場合、撮影時は常に望遠鏡のそばにいるので、使っているのはもっぱら撮影に直結するコアな部分だけです(^^;


BackyardEOS

https://www.otelescope.com/store/category/2-backyardeos/


カナダのO'Telescopeが販売している、Canon EOSシリーズ(含 EOS Rシリーズ)専用のリモート撮影用ソフトです。必要最低限の機能を備えたClassic(35ドル)と、フル機能を備えたPremium(50ドル)とがありますが、Premiumを買っておいた方が何かと便利でしょう。


デジカメでの撮影を行う場合、各メーカーとも多くはリモート撮影用のソフトが付属していて、これを利用することが多いのですが……当然のことながら天体撮影に特化しているわけではないので、ちょっと高度なことを行おうとすると不満が色々と出てきます。


その点、BackyardEOSを用いればピント合わせの補助やディザリング*11、撮影画像の強調、プレートソルビング*12 *13などを行うことができ、格段に使い勝手が上がります。


なお、ニコンのカメラに対応した「BackyardNIKON」という同様のソフトも販売されています。


FireCapture

https://www.firecapture.de/


惑星撮影用の動画キャプチャーソフトです。この手のキャプチャーソフトとしてはSharpCapと双璧をなす存在ですが、SharpCapが電視観望に適した機能を追加している(逆に言うと、惑星撮影には不要な機能が増えている)のに対し、FireCaptureは変わらず惑星撮影に特化している感じです。


撮影対象を動画の中心に捉え続ける「オートアライメント」や、ADC(Atmospheric Dispersion Corrector, 大気分散補正用可変ウェッジプリズム)の調整を補助する「ADCチューニング」など、惑星撮影に便利な機能が豊富で、これ1本あれば惑星撮影には必要十分です。


ひまわり8号リアルタイムWeb

https://himawari.asia/


気象衛星ひまわり8号からの衛星画像を表示できるウェブサイト。撮影中に雲が流れてきたときなど、雲の動きを確認するために使用することが多いです。


夜間は、雲の状態を可視光で確認できないので、赤外画像を見ることになります。具体的には「24時間地球」の「バンド7」の画像を確認しています(タイムラグは30分ほど)。なお、サイトでは「夜間画像」として「バンド13」の画像を勧めてきますが、バンド13では低層雲などが写りにくく、バンド7の方が実態に即した感じになります。


このバンドによる写りの違いについては、以前記事を書いているので参照してみてください。
hpn.hatenablog.com


なお、ウェブサイトとは別に、以前はAndroidに対応した表示アプリも公開されていたのですが、現在はiPhone対応のものだけのようです。

ひまわりリアルタイム

ひまわりリアルタイム

  • TAIYO HOSHA CONSORTIUM, N.P.O.
  • 天気
  • 無料
apps.apple.com


画像処理に使用するソフト

ステライメージ9

https://www.astroarts.co.jp/products/stlimg9/index-j.shtml


国産の天体画像処理ソフト(パッケージ版:30800円 ダウンロード版:27720円)。当然のことながらすべて日本語なのでとっつきやすく、情報も比較的豊富です。とはいえ、使いどころの難しい機能などもあるので、初めて触れる方は「公式ガイドブック」とのセット(パッケージ版:33440円 ダウンロード版:30096円)での購入がお勧めです。*14


ステライメージ8までは動作速度の遅さが問題でしたが、その点は9になって大幅に改善されました。とはいえ、GPUでの処理には依然として未対応ですし、カブリ補正やノイズ除去機能に古さを感じるなど、歴史あるソフトならではの弱点も垣間見えます。しかし、フラット補正時にフラット画像にガンマを適用して補正不足・過剰補正を最小化する「ガンマフラット」など、このソフトでしかできない処理もあり、手元にあるなりに便利なのは確かです。


過去に簡易レビューも書いていますので、参考にしてみてください。
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


PixInsight

https://pixinsight.com/


おそらく世界で最大のユーザー数を持つ天体画像処理ソフトです。基本的に、誰でも追加モジュールやスクリプトの開発を行えるため、現在でも世界中の開発者が日々機能強化にいそしんでいます。こうした開発体制のため、新機能の取り込み、改良の速度が非常に速く*15、最新のトレンドに沿った処理を積極的に行うことができます。コミュニティの活動が極めて活発なのも特長で、何か問題が発生しても公式フォーラムで解決することが多いです。


機能的にはきわめて豊富で、これ1つあれば天体写真に必要な処理はほぼまかなえると言って過言ではないでしょう。


ただ……

  • 日本語に非対応
  • 機能が多すぎてメニューが複雑
  • 操作方法が独特
  • ドキュメントなどにおいて機能名が略語で記されることが多く、分かりづらい*16

……など、正直猛烈にとっつきにくく、ハードルは決して低くはありません。


とはいえ、言語の問題についてはブラウザの翻訳機能もずいぶん優秀になって、フォーラムなどに目を通すにはあまり問題にならなくなってきました。また、蒼月城さんや丹羽雅彦さんなど、日本語で情報を発信してくれる方も増えてきたので、その意味ではだいぶ楽になってきたかと思います。
www.youtube.com
masahiko.me


個人的には、丹羽さんが書かれた以下の本を読んで、大まかな処理の流れをつかむのがいいのではないかと思います。


難点があるとすればその価格で、2024年3月時点で300ユーロ……つまり5万円近くもします*17。まずは45日間利用可能なトライアルバージョンを試してみて、それで判断してみるといいでしょう。


BlurXterminator

https://www.rc-astro.com/software/bxt/


PixInsight用の有料プラグインモジュールです(99.95ドル)。


天体写真を撮ると当然星が写りますが、その像は大気の揺らぎや光学系の収差、ガイドエラーなど様々な要因によってある程度の大きさを持って写ります。しかし、理想的なことを言えば恒星は本来点像であるはずです。つまり、恒星が点に写る「理想の天体写真」があったとして、「現実の天体写真」はこれにある種の関数を作用させたものと考えることができます。


そこで、この関数を何らかの方法で求め、その逆関数を「現実の天体写真」に作用させれば「理想の天体写真」に近づくはずです。これを「デコンボリューション」といい、BlurXterminatorでは、この逆関数をAIを用いて求め、画像を先鋭化します。


その効果はきわめて強力で、収差やガイドエラーの目立つ画像も、あっという間に無収差の光学系で撮ったかのような画像に変化します。ただ、対象やパラメータによっては、星が極端に小さくなってしまったり、星と星雲とで解像感の違いが目立って不自然になってしまうこともあり、注意が必要です。


StarNet 2

https://www.starnetastro.com/


画像から星だけを取り除いてくれる無料のツールです。PixInsightのプラグインのほか、単独で動作するコマンドライン版、GUI版(Windowsのみ)が用意されています。


かなりの高精度で、星だけを取り除いた画像を生成してくれます。こうやって「星のみ」と「それ以外」とを分離できると、例えば「星雲の階調を強調する」、「星の色を残す」といった操作を、互いに影響させることなく実行できるので、画像処理の自由度が大きく上がります。


GraXpert

https://www.graxpert.com/


光害などによるカブリを除去してくれる無料のツールです。PixInsightのプラグインのほか、単独で動作するスタンドアロン版が用意されています。ただし、スタンドアロン版では複数のカブリ除去方法から適当なものを選べますが、現時点(2024年3月)のプラグイン版では1種類の方法しか選べず、細かい調整もできません。


ステライメージは基本的に直線的なカブリや2次関数的な周辺減光しか除去できず、一方、PixInsightにはAutomaticBackgroundExtractor(ABE)やDynamicBackgroundExtraction(DBE)といったツールがありますが、設定によっては補正不足や過剰補正がしばしば発生します。GraXpertはこれらに替わるツールです。


もちろんGraXpertとて完璧ではなく、ABEやDBE同様、補正不足や過剰補正が発生することも多々ありますが、選択肢が増えるのはいいことです。


FlatAide


ぴんたん(荒井俊也)氏作成のフリーウェアです。撮影または画像処理した画像から、天体や星を消去したフラット画像を事後的に作成して、フラット処理を行います。いわゆる「セルフフラット」を行うためのツールですね。自分の場合、フラット補正はもちろん行っていますし、カブリ除去も慎重にやっていますが、それでもどうしても背景がフラットにならない場合の最終手段として利用しています。これを使うと、なぜか負けた気がするのですが仕方ありません。


なお、現在は有料の「FlatAide Pro」(通常ライセンス:11000円)が主力になっています*18が、自分が使っているのは以前公開されていた無印のFlatAideの方です(現在は公開終了)。安定性に難があるなど問題も少なくありませんが、工夫次第で乗り越えられるレベルなので使い続けています。


NikCollection

https://nikcollection.dxo.com/ja/


元々は、ドイツのNik社が開発していた高機能なPhotoshop用画像処理プラグイン*19です。これが2012年に会社ごとGoogleに買収され、2016年には無料公開。翌年にはさらにDxOの手に渡って無料公開が終了となり、2018年からは新バージョンの販売が始まっています(現バージョン:18500円)。


ちなみに、自分が使っているのはGoogleが無料公開していた頃のバージョン。最新版と比べて若干機能が劣る部分はありますが、大きな不都合はありません。当時ダウンロードしたファイルを保存しておいてよかった……。*20


このツールは複数のプラグインからなっていますが、中でも最も使い出があるのが「Silver Efex」。本来は、モノクロフィルムの暗室処理をシミュレートするものですが、これを天体写真に対して適用すると、散光星雲や分子雲の淡い部分を炙り出すことができる、まさに魔法のような効果を発揮します。カラー画像に対してこれを用い、出来上がった画像をL画像として使うのでもいいのですが、R, G, Bの各チャンネルに対してSilver Efexを適用し再合成するという手間を踏むと、さらにハッキリした結果が得られます。


Silver Efexにはいくつかのプリセットがありますが、天体写真に有効なのは「ファインアートプロセス」、「高ストラクチャ(強)」、「フルダイナミック(強)」、「フルコントラストストラクチャ」あたり。


 

ただ、いずれも猛烈な強調処理が行われるので、元画像はなるべく品質の高いものが必要です。また、効果が強いほどノイズまみれになったり、カラーバランスが滅茶苦茶になったりしがちなので、節度ある使い方が重要です。


Topaz DeNoise AI

https://www.topazlabs.com/denoise-ai


高性能なノイズ除去ツール。現在は「Topaz Photo AI」(199ドル)に統合されています。基本的にはスタンドアロンのツールですが、インストールするとPhotoshopプラグインも同時にインストールされます。


AIでの処理により、画像からノイズのみを極めて高品質に取り除きます。街なかからの撮影の場合、天体を炙り出すのに極端な強調処理が必要で、必然的にノイズも浮き上がってきてしまうのですが、このソフトがあれば相当程度までノイズを取り除けるので「より攻めた」強調が可能になります。


ただ、このソフトも万能ではなく、とりわけ「縮緬ノイズ」の類は苦手。また、ノイズ除去の結果、ディテールが消失したり偽模様が発生したりといった問題が発生することがあります。さらに、ノイズを除去しすぎると画像がツルツルで不自然になりがちで、このツールも節度ある使い方が求められます。


NeatImage

https://ni.neatvideo.com/


DeNoise AIと同じく、こちらもノイズ除去ツール(39.90ドル)。ただ、そのアルゴリズムはDenoise AIとは異なっていて、画像上の、比較的均一と思われる領域からノイズパターンを検出、抽出することで極めて高度なノイズ除去を行います。その仕組み上、「縮緬ノイズ」に対してはDeNoise AIよりもこちらの方が有効だったりします。DeNoise AIとは画像によって得手不得手が異なるので、自分は処理結果によって両者を使い分けています。


Autostakkert!

https://www.autostakkert.com/


惑星撮影を行う場合、現在では動画を撮影してそのフレーム同士をスタッキングし、ウェーブレット処理で高精細化する手法がメインですが、この一連の工程のうち、動画のスタッキングを行うのがこのソフトです。


動作は高速で、使い方もかなり簡単です。このソフトで行うのはあくまでスタッキングまでで、それ以降の処理は別のソフトに渡すことになります。


Registax6

https://www.astronomie.be/registax/


オランダのCor Berrevoets氏が中心となって開発したソフトウェアで、動画カメラの性能向上とあいまって、静止画中心だった惑星の撮影を劇的に変化させた立役者の1つです。動画のスタッキングからその後のウェーブレット処理までこなしますが、最終更新が2011年ということもあって、特にスタッキングについては動作がかなり遅いです。私の場合、スタッキングは上記のAutostakkert!に任せ、もっぱらウェーブレット処理にのみ使用しています。


なお、多数の画像をスタッキングしてウェーブレット処理する手法は、惑星に限らず惑星状星雲など他の天体でも有効なので、試してみるといいと思います。


waveSharp

https://github.com/CorBer/waveSharp


Registaxの開発者であるCor Berrevoets氏らが新規に開発しているウェーブレット処理ツールです。Registaxとはまた少し違った特性を持っていて、Registaxではうまく抽出できなかった模様を抽出できる場合があります(下図参照。パラメータ設定の問題もありそうだけど)。両方試してみて、場合によって使い分けるといいでしょう。




AviStack2

http://www.avistack.de/


月面写真の処理を念頭に、ドイツのMichael Theusner氏を中心に開発されたソフトウェア。Registaxと同様、動画ファイルのフレームをスタッキングし、ウェーブレット処理を行うことで高精細な画像を得ます。


惑星写真の処理にルーツを持つRegistaxと比べると、月面のクローズアップ写真のように画面全体に被写体が広がっている画像の処理に長けていると言われており、自分ももっぱら月面写真の処理にこのソフトを用いています。


ただ、ソフトの実質的な最終更新が2010年ということもあり、マルチコア対応が十分ではなく動作は極めて低速。2014年には開発、メンテナンス自体が終了していますし、高品質な画像が得られるとはいえ、今からあえてこのソフトを使わなくてもいいかなという気はしますが……逆に、スタッキングからウェーブレット処理までシームレスに、かつ高品質でバッチ処理できるソフトはこれくらいなので、手放しにくいのも事実です。


Image Composite Editor


マイクロソフト謹製の画像つなぎ合わせソフト。無料なのに非常に高性能で、月面写真のモザイク合成に重宝しています。


使い方も簡単で文句のつけようがないのですが、惜しむらくは研究プロジェクトそのものが終了していて、公開も終わっている点。とはいえ、抜け道は色々とあるもので……。詳しくは以下の記事をご覧ください。
hpn.hatenablog.com


Adobe Photoshop

https://www.adobe.com/jp/products/photoshop.html


泣く子も黙る、黙ってる子も黙る定番ソフト中の定番。色合いや明るさのコントロールといった簡単な用途から、画像上に残ったゴミの跡の消去、カブリの修正、複数画像の合成など、用途はきわめて多岐にわたります。画像の最終出力も「明示的にカラープロファイルを埋め込められて安心」という理由から、もっぱらこれです。


ただ、欠点はやはりAdobe税」とも揶揄される価格面で、最も安い「フォトプラン」でも月額2380円もします。積算すると……うむ……。


世の中には「ジェネリックPhotoshop」(笑)として、例えば買い切りタイプのAffinity Photo 2などのソフトもあるので、用途によってはそうしたものを検討してもいいかもしれません。


(おまけ)画像処理後に利用するウェブサイト

Astrometry.net

https://nova.astrometry.net/


いわゆる「プレートソルビング」の機能を提供しているウェブサイトです。画像を「upload」のページからアップロードすると、画像を解析して、写っている恒星やメシエ天体、NGC天体、IC天体についてラベルを付けて返してくれます*21


特に、おとめ座銀河団など、背景に無数の銀河が写っているような写真で効果を発揮します。また、「どこを撮ったのか分からなくなってしまった」といった画像を解析するのも、便利な使い方です。


SIMBAD

https://simbad.unistra.fr/simbad/


ストラスブール天文データセンターによって運営されている、太陽系外の天体のデータベースです。Basic searchの検索欄に天体名(Vegaなど)やカタログ名(M31など)を入力すると、天体の座標や移動速度、赤方偏移、各波長域での等級など詳細なデータを見ることができます。

冒頭の方で書いたAladin Desktopはこのデータベースと連携しているので、写真に写っている天体と照らし合わせてみると楽しいです。



このほか、SEDS Messier DatabaseThe Interactive NGC Catalog Onlineは、天体の基礎情報を集めるのに役立ちますし、これらを基礎に他のサイトも回ると様々な情報が手に入ります。写っている天体が何者なのかが分かると、撮った写真に愛着もより一層湧くというものです。

*1:Deep-sky objects。太陽系の天体や普通の恒星を除いた系外銀河・星雲・星団のこと。

*2:著作権のある写真を利用する場合は、あくまで個人利用の範囲内で。

*3:基本的には、どのパネルもほぼ同条件で撮影されている(明らかに違うのもいくつかあるけど)ので、お互いに比較が可能です。

*4:バージョンによっては「オフラインで使用するためのキャッシュ画像」のスイッチ(キャプチャ画像左上)をオンにしておく必要があります。

*5:ICONのみ4日後まで

*6:逆に言えばたまには外れる

*7:いわゆる「星空指数」などを含む

*8:そもそも気象庁の「晴れ」の定義が「雲量2~8以下」なので、一般的な天気予報で「晴れ」となっていても、実際には雲だらけということが十分あり得ます。

*9:試し撮りをして、写っている星の配置から望遠鏡がどちらを向いているのか判断する機能

*10:別途、ASTAPPlateSolve2、およびスターカタログのインストールが必要です。

*11:ガイド撮影時、コマごとに構図を少しずつずらし、天体に対するホットピクセルや固定ノイズの位置を分散させる撮り方。

*12:別途、AstroTortillaのインストールが必要です。

*13:後者2つはPremiumのみ

*14:ガイドブックの出来としては、本当は「ステライメージ6」のガイドブックの方が突っ込んだところまで書かれていていいのだけど、さすがに入手困難ですし……。

*15:逆に「知らないうちに今まで使ってた機能がどこかに行ってた」ということも起こりうるわけですが。

*16:例えば、WBPP(WeightedBatchPreprocessing)、ABE(AutomaticBackgroundExtractor)、SPCC( SpectrophotometricColorCalibration)など

*17:去年までは250ユーロ、そのさらに前は230ユーロだったのですが……。

*18:こちらはこちらで、フラット処理にとどまらない高機能なソフトです。

*19:プラグインではあるのですが、なぜかスタンドアロンでも実行できたりします。「プラグイン」とは……。hpn.hatenablog.com

*20:前段のFlatAideもそうですが、実はxxxにアクセスする(違法手段ではない)と、いまだに元ファイルを取得できるのですが……一応、自粛しておきます。Image Composite Ed……いや、なんでもないです。

*21:ちなみに、PixInsightには類似で、かつより詳細な機能が搭載されています。

「銀河祭り」だ、やっほい!

先の土日は新月期と晴天が重なり、絶好の撮影日和……と思いきや、土曜日は東京23区に強風注意報が出るありさま。ネットを見てると遠征した方も多かったようですが、この日はさすがに出撃を見送らざるを得ませんでした。風が気になって気分もイマイチ乗りませんでしたし。


そこでやむを得ず1日ずらして翌日、いつもの公園に強行出撃してきました。次の日は当然平日なのでキツいのですが、そこにはあえて目をつぶります(ぉぃ


持ち出した鏡筒はED103S+SDフラットナーHD(焦点距離811mm)。本当は「春の銀河祭り」ということでEdgeHD800を持ち出したかったのですが、強風注意報が出ていないとはいえ、特に宵のうちはそこそこ風が強かったので安全策を取りました。SXP赤道儀がもう少し風に強ければなぁ……。


「銀河祭り」を開催するのは、おとめ座やかみのけ座がもう少し高く昇ってきてから。というわけで、宵のうちは小手調べにおうし座の超新星残骸「かに星雲」ことM1を。この天体は過去3回にわたってEdgeHD800でチャレンジしていますが、いずれも悪シーイングなどで写りが今ひとつ。今回はL-UltimateとLPS-D1でそれぞれ撮影して組み合わせるつもりですが……そこそこ風がある中でどうなることやら。


おまけに、撮影途中には「かに星雲」の方向にだけ雲がorz 雲に妨害されたのは正味20~30分ほどだったのですが、あとの撮影予定が詰まっているとやきもきします(^^;


ともあれ、10時ごろには「かに星雲」の撮影を切り上げ、いよいよ「春の銀河祭り」開幕です!



まずは、かみのけ座の系外銀河M85から。これは細部構造に乏しいレンズ上銀河なのでほどほどの露出で切り上げ、次いでM98 & M99、M88 & M91と流していきます。ここ最近の撮り方では「ひと晩に1対象」がスタンダードだったのですが、数を稼ぐこういう撮り方もこれはこれで楽しいものです。


それにしても寒いです。気温は日が落ちてから急降下して3℃ほどに。風速も常時3~4m/sあって、時折5m/sを超えるような風も吹き付けます。風速1m/sごとに体感温度は1℃下がると言いますし、一晩中0℃(体感温度)付近をウロウロしていたようなものでしょうか。


一応、真冬の寒さにも対応できるような装備をしてはいましたが、3月だとまだまだこういう寒さの日もあるのですね……。


リザルト


というわけで撮影結果です。まずは「かに星雲」M1から。通常の光害カットフィルター(LPS-D1)とデュアルナローバンドフィルター(L-Ultimate)で撮ったものは、それぞれこんな感じ。




LPS-D1で撮った方は「かに星雲」として図鑑などでもよく見る姿ですが、L-Ultimateの方は……



www


予想外だったのですが、どうやら「かに星雲」のフィラメント全体としては、OIIIの成分が思った以上に強いようです。また、L-Ultimateでは硫黄由来の赤(SII:波長672.4nm)がブロックされてしまうこともあり、想像以上に青くなってしまったようです。*1


とはいえ、これはこれで結果なので、両者を合成して……はい、ドンッ!




2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×12, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×12, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

フィラメントの強調された、なかなか不気味な姿になりました(笑) 今まで撮った「かに星雲」の中では最もくっきり写ってくれましたが、トータルの露光時間の短さとシーイングの悪さ、強風の影響*2で、分解能としてはもうひとつといった印象。見られる季節が冬場なのでなかなか難しいですが、シーイングがいいときに長焦点鏡で狙ってみたいものです。


次いでM85。




2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

楕円銀河と渦巻銀河の中間的な性質を持つと言われる「レンズ状銀河」と呼ばれるタイプの銀河です。「マルカリアンチェーン」などがある銀河の密集地帯からは北に外れていますが、「おとめ座銀河団」の一員です。地球からの距離は約6000万光年。




M85の左側(東側)には棒渦巻銀河のNGC 4394があります。この銀河と、M85のすぐ南にあるMCG+03-32-028という銀河はM85と相互作用していると言われています。



次はM98 & M99



2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理




M98はかみのけ座にある渦巻銀河で、おとめ座銀河団の一員です。渦巻銀河をかなり傾いた位置から眺めた形となっています。


この銀河で特徴的なのは、他の多くの銀河が宇宙の膨張に従って遠ざかっている*3のに対し、約140km/sという速度で私たちの銀河に近づいてきている点です。これは、この銀河が銀河団とは別に大きな固有速度を持っていることを示しています。この速度から逆算すると、約7億5000面年前、現在では約130万光年離れているM99と相互作用した可能性があります。




M99は渦巻をやや斜めから見下ろした形の銀河です。腕がかなりはっきりしていて、歴史上、M51に次いで渦巻構造が観察された銀河でもあります*4


M99は腕の1本が大きく開いていますが、これはなんらかの重力作用によるものと考えられています。有力な候補の1つは上でも触れたM98との接近なのですが、2005年に「VIRGOHI21」*5と呼ばれる天体がM99の伸びた腕の先に見つかり、腕の歪みはこれの影響なのではないかという説が出てきました。VIRGOHI21は恒星を含まず、そのほとんどが中性の水素を含む暗黒物質ダークマター)からできている天体*6で、初の「暗黒銀河」の候補として注目されています。


ただ、VIRGOHI21の素性については、M98とM99とが接近したときに潮汐作用で放出された物質に過ぎないのではないか、といった異論もあり、いまだ議論が続いています。



そしてM88 & M91



2024年3月11日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

目立つ銀河が3つ写っていますが、右端(西側)がM88、中央がM91、左端がNGC 4571です。




M88は見事な渦巻き構造を持つ銀河で、アンドロメダ銀河M31のミニチュアのようです。この銀河もM99と同じく、かなり早い段階でロス卿により渦巻構造が発見されています。シーイングのいいときに長焦点鏡で単独で狙ってみたいですね。




M91はおとめ座銀河団に属する棒渦巻銀河です。中央の棒構造は明瞭ですがが、それに比べると腕はそれほどハッキリしていません。これはM91がガスに乏しく、星の形成活動が不活発なためで、こうした銀河を「貧血銀河」と呼びます。このような銀河が、将来さらにガスを失い、星形成も低調になって、より不活発な「レンズ状銀河」へと進化していくのかもしれません。


M91は1781年3月18日、シャルル・メシエによって発見されました。この夜、メシエは実に8つの銀河と1つの球状星団を発見しているのですが、M91は発見した8個の銀河のうちで最後に記録されました。ところが、メシエがM91の位置を記録した際、M58を基準にしたつもりが誤ってM89を基準にしてしまったため、該当する位置に銀河がなく、長らく「失われた銀河」となっていました。


そのため「M91」については、メシエが銀河と間違えて彗星を記録した、M58を重複してカウントしてしまった、あるいはNGC 4571がM91である*7といった説がまことしやかに流れていたのですが、1969年にテキサス州フォートワースのアマチュア天文家ウィリアム・C・ウィリアムズが、この基準位置の誤りに気付き、ウィリアム・ハーシェルが独立に発見していた棒渦巻銀河NGC 4548がM91であることが明らかとなりました*8




ちなみに、ハーシェルが「M91の候補」として挙げたNGC 4571ですが、こちらも腕のハッキリしない渦巻銀河で、本物のM91と同様、ガスに乏しく星の形成活動が不活発だと考えられています。姿がおぼろげな上に11.3等とかなり暗いので、当時メシエがこれを発見できたかどうかはかなり疑問なように思います。






さて、これで都心から撮ったメシエ天体はようやく88個に到達。残り20%までこぎつけました。残っているのは散開星団が3つ(M11, M18, M26)、系外銀河が3つ(M74, M94, M102)、あとは全て球状星団です*9。どこかで「球状星団祭り」を開催しませんと……。

*1:かに星雲」は、この手の星雲にしては珍しくSIIの強度が高めです。ちなみに、SAO撮影を行ってパレットをいじると、もっと「ゲーミング」っぽくなります(笑)

*2:BXTで救うにしてもやはり限界があります。

*3:おとめ座銀河団自体、約1100km/sの速度で銀河系から遠ざかっています。

*4:1846年、第3代ロス伯爵ことウィリアム・パーソンズ(72インチ望遠鏡、通称「パーソンズタウンのリヴァイアサン」で有名)による。

*5:「VIRGO・HI・21」と読みます。VIRGO(ヴィルゴ)はおとめ座のこと、HI(エイチ・ワン)は中性水素のこと、21は中性水素原子が放射する波長21cmの電磁波を指します。

*6:なので、残念ながら光学的には観測できません。

*7:ウィリアム・ハーシェルはそのように考えていたようです。

*8:Sky and Telescope, 38(6), 1969, P.376

*9:興味の偏りが明らかです。

CP+ 2024

毎年恒例、CP+が今年もパシフィコ横浜で今週末まで開催されています。


完全にコロナ禍から脱した(脱したとは言ってない)中で、各社がどのような展示を行うのか注目……ということで、例年通り、天文関連製品中心にレポートしていきたいと思います。

ビクセン


まずは国内勢の雄、ビクセンから。今年は、入り口から比較的近いところにやや大きめのブースを構えていました。


ブースの一番目立つところに展示されていたのが「VSD70SS」。昨年発売されたVSD90SSのダウンサイジング版といった立場の製品です。


実際、VSD90SSの「口径90mm、焦点距離495mm(F5.5)」というスペックに対して、VSD70SSは「口径70mm、焦点距離385mm(F5.5)」ときれいに比例。レンズ構成も全く同じと言ってよく、接眼部や逆付けにしてコンパクトに収納可能なフードなども同じです。ただ、接眼部が太くなってしまう関係上、鏡筒バンドは前方に向かって絞られたようなデザインになっていて、あまり不格好にならないよう工夫されています。


あくまで参考出品扱いですが、それほど時間をおかずに出てくるのではないかと思います。


また、同時に展示されていたのがVSD90SS、VSD70SS共通の「VSDレデューサー V0.71」。その名の通り、焦点距離を0.71倍(F5.5→F3.9)に短縮するレデューサーです。曲率の強いレンズも使われていて、かなり高品質そうな印象です。「SDレデューサーHDキット」を出して以降、ビクセンの補正レンズはなかなか優秀なので、こちらも期待できそうです。



もう1つは「SDP65SS」。口径65mm、焦点距離360mm(F5.5)のSDアポクロマート屈折です。SDレンズとEDレンズを1枚ずつ含む4枚玉の鏡筒で、VSDシリーズのさらに弟分といった感じです。


面白いのは2通りの鏡筒が展示されていた点で、1つは通常の鏡筒同様、ドローチューブの抜き差しでピントを合わせるタイプ(写真上)。もう1つはレンズ群の方を前後させてピントを合わせるタイプ*1です(写真下)。後者は、接眼部に可動部がないために重量のあるカメラなどを付けても問題が起きにくいのが利点。また、フードの内部でレンズ群が前後するので鏡筒自体の全長は変わりません。ピントのロックは、鏡筒上部のネジでレンズ群の収まった内筒を押さえることで行います。構造としてはこちらが本命のようです。


似たような構造はWilliam OpticsがPleiades68などで行っていますね(あちらの方がもう少し凝った作り)。
www.astroshop-tomita.com


もっとも、未だに2通りの鏡筒が展示されていることでも分かる通り、この鏡筒については、製品化はまだもう少しかかりそうな印象。デザイン含め、さらなるブラッシュアップに期待したいところです。


この鏡筒にもレデューサーは用意されています(0.8倍)。レンズ径が小さく見えますが、これでもフルサイズはカバーしているとのこと。この鏡筒では、ケラレの影響を抑えるために最終レンズ部分で光束を絞る設計になっていて、その分、レンズが小さくても大丈夫ということなのだと思われます。


なお、この鏡筒を含め「最近の鏡筒に対してレデューサーを用意するべきかどうか」については社内でも議論があるようです。たしかに、レデューサーを使うと一般的に周辺光量は低下しますし、像質も低下しがちです。そして単純に、光学設計も手間がかかる……。ならば、焦点距離がやや短めでフラットな光学系だけを用意しておいて、他の焦点距離が欲しければトリミングしたり、カメラを他のフォーマットのものに換えたり、あるいは単焦点のカメラレンズのように鏡筒自体を換えていけばよい、というのは一つの考え方かと思います。実際、自分もレデューサーの使用頻度はそれほど高くなかったりしますし……。


とはいえ、F値が明るくなるなどレデューサーに魅力があるのも確か*2で、案外さじ加減が難しい問題かもしれません。



光学系としてはこのほか、低価格のラインとして「SDE72SS鏡筒」「ポルタII-AE81M」とが展示されていました。


前者はSDレンズを用いたオーソドックスな2枚玉アポクロマートです。光学スペックは口径72mm、焦点距離432mm(F6.0)。たたずまいから海外製品のOEM*3 *4かと思いますが、デュアルスピードフォーカサーを標準装備していたり、合焦機構が(クレイフォードではなく)ラック&ピニオンだったりと結構本格的。


焦点距離を0.8倍に短縮するレデューサーやカメラの回転装置も用意されています。現在の低価格ED鏡筒であるED80Sfよりも力が入っている印象で、まずはこれで天体写真というものに親しんでもらおうという心づもりのようです。


ポルタII-AE81Mも、現行のA80Mfに比べて合焦機構がラック&ピニオンに進化。光学スペックは口径81mm、焦点距離910mm(F11.2)と極めてオーソドックスですが、なかなか使いやすそうです。


なお、この鏡筒のみ、レンズ間のスペーサーが昔ながらの錫箔になっていました。星像に「ヒゲ」が生えるため、写真を撮る場合には嫌われがちな錫箔ですが、この鏡筒の場合は眼視が主でしょうから、特に問題にはならないでしょう。


個人的に一番嬉しかったのは「直焦ワイドアダプター60DX for 48mm」の登場です。


これまで、冷却CMOSカメラを接続するにはEOS-EFマウントアダプターの類を介さざるを得ませんでした。この構成の場合、フィルターを直焦ワイドアダプター以降に入れることができず*5 *6、フィルターを交換する場合はいちいち補正レンズを取り外す必要がありました。また、EOSマウントアダプターの光路長*7や迷光の有無、スケアリングなどにも不安があり、EOS-EFマウントアダプターは使いたくないのが本音。いっそのこと、接続用の部品を特注しようかとも覚悟していたのですが*8、これが出てくれるなら話は別です。自由度が大きく上がるのは確実なので、早い登場を期待したいところです。


ビクセン製のオートガイドカメラ「VA225C」。型番からも分かる通り、ソニーの1/3型CMOS、IMX225を採用したガイドカメラです。価格は税込29700円。専用のオートガイドソフトで利用できるとはいえ、カメラ自体は極めてオーソドックスなもので、単純な価格面だけからいえば、同じスペックでSVBONYのSV905Cが13980円で買えてしまいます。ただ、初心者からすればガイド鏡*9やオートガイドソフトも含め、オールインワンで揃えられるというのは心強いだろうと思います。*10


こちらは「ウェイト軸アクセサリーホルダー」。モバイルバッテリーを搭載したり、側面のカメラネジ(1/4インチ)を利用して雲台&カメラを載せたりと、アレンジが自由になります。シュミットの「ShaftCube」と同じような発想ですね。
www.syumitto.jp


Celestronからは、スマート望遠鏡(電視観望専用機)「Origin Intelligent Home Observatory」*11。RASA光学系を用いた口径152mm、焦点距離335mm(F2.2)の鏡筒で、カメラはシュミカセで言うところの副鏡の位置にあります。


カメラはIMX178(1/1.8型)を用いた非冷却のもの。カメラが格納されているハウジングにはフィルタードロワーも装備されていて、1.25インチまたは2インチのフィルターが使用可能です。見ての通り、カメラが本体に「内蔵」されているわけではないので、将来的にはカメラの交換も可能な作りになっています。ここは他社製品に比べて大きな利点です。


本体後部には通信およびデータ取り出し用のLAN端子およびUSB端子が用意されています*12。また、架台は経緯台式ですが、将来的にはウェッジを追加して赤道儀として使用することも可能になる予定で、より安定した天体追尾が行えるようになるはずです。


本体にはそのほか、結露防止ヒーターや温度順応のためのファン、システム冷却用のファンも備えています。各種操作は専用アプリから。


昔から天体望遠鏡のコンピュータ化に積極的に取り組んできたセレストロンだけに、機能に隙はない感じですが、ハイスペックだけに価格も相当なものになりそう。海外では約4000ドルで予約販売されていますが、他のセレストロン製品の国内価格と比較すると、80万円を超えてきても不思議ではありません*13。ZWOのSeeStarあたりとは狙う市場がまったく違っているのは確かですが、さすがに値付けが強気に過ぎる気はします。


ここまで大がかりなら、高くなってもむしろ冷却カメラを採用した方が……とも思いましたが、さすがに敷居が上がりすぎでしょうか?


あと、「Smart DewHeater Controller」の国内販売がようやく決まったようです。昨年、セレストロン製の鏡筒用に結露防止ヒーターリングが発売されましたが、コントローラーだけはなぜか別。結果としてフルパワーで電力を垂れ流すしかありませんでした。フルパワーだと8インチ用でも12V・1.7A……つまり約20Wという消費電力なので、なかなかバカになりません。


しかしこのコントローラーがあれば、温度と湿度を監視しながら最適な出力にコントロールしてくれるので、だいぶ使い勝手は変わってくるはず。なんでこれを最初からセットで販売しなかったのか……orz


ただ、価格に関しては例によってかなりレートが高めなので、結構な金額になるのではないかと思います。アメリカでの価格が「Smart DewHeater Controller 2x」が259.95ドル、「Smart DewHeater Controller 4x」が439.95ドルなので、それぞれ5~6万円、9~10万円程度してもおかしくありません。


サイトロン


今年も大きなブースを構えたサイトロン


最大のトピックは開発中の新型鏡筒こと「SR2-001」と波動歯車装置採用の「SJX赤道儀でしょう*14


SR2-001は、口径75mm、焦点距離375mm(F5.0)のSD、EDレンズを含む6枚玉屈折です。


設計上のその像質はすさまじく、11波長*15を用いたスポットダイヤグラムにおいて、中心部の星像の「直径」が0.67μm、イメージサークル(フルサイズをカバーするφ44mm)の最外周でも1.31マイクロメートル。ストレール比も、中心が99.2%、最外周でさえ97.3%という驚異的な値を叩きだします。


当然、エアリーディスク径すら優に下回る数値で、こんな高性能が要るのかと疑問になるところですが、この高性能には大きなメリットが1つ。それは「温度変化によるピント位置の変化に鈍感になる」という点です。


一般に、撮影中に温度が低下していくと鏡筒やレンズの収縮でピント位置がずれてくるので、撮影中に何度かピントのチェックが必要になることが多いです*16。ところがこの鏡筒の場合、元々の結像性能が極めて高いので、ピントが多少ズレたとしても星像がエアリーディスクの範囲内に収まり、ピントがずれたように見えないというわけです。


この高性能を担保するため、レンズに施すコーティングはレンズの曲率などに合わせて一面ごとに最適化を行うという徹底ぶり。ラック&ピニオン式のドローチューブも、チューブ両脇にガイドレール(写真中央)を設け、重量級の機材を取り付けても歪むことがないようにしています。


と、ほとんど理想的ともいえる望遠鏡ですが、ひとつ断りを入れておくとすれば、現時点では「設計上では」という注釈がつくことを忘れてはいけません。スペックはあくまで理論上の値で、展示されているのもプロトタイプです。実際に量産に入ったとして、どの程度のバラツキで生産ができるものなのか……。工場の能力を疑うわけではありませんが、そこは注意しておく必要があるかと思います*17


それにしても、ビクセンサイトロンも「口径70mm前後、F5程度」という似たようなスペックを目標に定めてきたのは面白いところです。口径6cm以下だと性能的に物足りない、8~10cmを超えると中華勢とのガチンコ勝負になってしまいコスト的に厳しい……ということで、このあたりのスペックに落ち着いたらしいですが、市場が狭いわりに隙間を縫うようなかじ取りが求められて、なかなか難儀な業界だと思います(^^;




……そうそう。まったく関係ない余談ですがこの鏡筒の発表会の際、「天文リフレクション」の山口編集長に、ようやくリアルでご挨拶することができました。いつもありがとうございます。



(記念に頂いたステッカー)




閑話休題(^^;


SJX赤道儀は、最近採用例が急増している波動歯車装置(いわゆる「ハーモニックドライブ」と同様のもの*18)を採用した赤道儀です。




https://www.sightron.co.jp/cpplus2022/sightron_mount2.htmlより)

元々、「SJX赤道儀」は2022年のCP+において「Sky-Watcher AZ-GTiマウント」のファインチューニング版として発表されたものですが、今回登場したSJX赤道儀は全くの別物。おそらくですが、本家Sky-WatcherからAZ-GTiの赤道儀版とでも言うべき「Star Adventurer GTiマウント」が発売されたこともあり、企画内容を変更したのかもしれません。


さて、このSJX赤道儀、自重10kgに対し、積載可能重量はバランスウェイト使用時に20kgと、波動歯車装置採用の赤道儀らしい数字です。とはいえ、ZWOのAM5赤道儀の「自重5kg、積載可能重量最大20kg」のようなインパクトはありません。これはおそらく十分安全を見込んだ数字なのでしょう。海外製の赤道儀はえてして数字を盛りがちなので、その意味では誠実でかえって好感を持てます。


なお、赤道儀の外観、仕様はまだまだ変わりうる段階ですが、今のデザインは十分美しいように思います。ちょうど先日、Sky-Watcherの波動歯車装置採用の赤道儀の画像がXのTL上に流れてきましたが……




あくまでも主観ではあるもののなかなかアレな外観*19で、「機能が想像できるデザイン」というのは大事だなと痛感したところです(^^;


SR2-001+SJX赤道儀の足元には、小さな望遠鏡が鎮座していました。こちらは「D50」という、口径50mm、焦点距離540mm(F10.8)のアクロマート望遠鏡です(架台は別)。見ての通りの初心者向け望遠鏡ですが、SR2-001と同じくこちらも国産で、口径の割に良く見えるとのこと。おそらくそう無茶な値段にはならないはずなので、子供たちなど、初心者開拓に一役買ってくれるといいなと思います。この夏発売予定とのこと。


ブースの目立つところには、NEWTONYやMAKSYといったお馴染みの学習用天体望遠鏡が並んでいますが、その端っこにひときわ目立つ金ピカの鏡筒があります。古い天文ファンの方は、昔、テレビューで販売されていたRenaissanceという真鍮製の鏡筒を思い出すかもしれません。


実はこれ、Sky-Watcherの創業25周年にちなんで作られた記念モデル。仕様も特別で……


アイピースがねじ込み式だったり、


光軸調整装置が備わっていたりします(笑) もっとも、NEWTONYである以上、性能自体はアレだとは思いますが……(^^;



一方、ブースの外周にはSky-Watcherの新製品がずらりと並んでいます。ただ、これらについては情報が少なく、スタッフ自身も不明な部分が多いということで、こちらもあまり詳しい説明はできません。


「Honders Advanced Camera 125」こと「HAC125」。口径125mm、焦点距離250mm(F2.0)のハイスピードアストログラフです。


「Honders」と言えば、Riccardi-Honders光学系のKlaas Honders氏が真っ先に思い浮かびますが、たぶんその「Honders」でしょう。Riccardi-Honders光学系といえばOfficina Stellareのハイスピードアストログラフ「RH Veloce」が有名ですが、筒先にカメラがあるあたり、Riccardi-Honders光学系とは全く関係なく、RASAのように主焦点を利用する光学系のようです。


鏡筒の底には光軸調整用のネジがあるだけで、非常にシンプルな外観です。


筒先から覗くと、カメラと補正板が見えます。取り付けられていたカメラはPlayerOneのSEDNA-M。1/1.8型CMOSであるIMX178を搭載したカメラです。おそらくこれをカバーする程度のイメージサークルはあるのでしょう。


補正板の反射を見る限り、補正板の曲率はあまり大きくなさそうです。


少し横から見ると、カメラが31.7mmスリーブに差し込まれているのが分かります。その奥にはギザギザの刻まれたリングが。ピントの微調整はここで行うのでしょうか?明るい光学系だけに、下手に主鏡移動式を採用すると光軸が傾きかねないので、こうした構造になっているのだと思いますが、ピント合わせはなかなか厄介そうではあります。


なお、これを見る限り中央遮蔽はφ40mmくらいはありそうで、仮にそうだとすると実効F値は3.3くらいにまで落ち込みます。多分価格はそれほど高くなく(というか、高くならないといいなぁ)、面白い鏡筒だとは思いますが、過度の期待は禁物なように思います。


片持ちフォーク式の「HAZ Alt-Azimuth Mount」赤道儀モードで25kg、経緯台モードで35kgの積載可能重量を誇る大型架台です。重心の低さもあって、安定感を感じます。


しかし……このスタイル、どこかで見たと思ったらAvalon InstrumentsのM-zero obsにそっくりですね……(^^;
www.avalon-instruments.com


こちらはセレストロンのNexStar のパクリ によく似た「LAZGT Mount」。本体重量8kg、積載可能重量12kgで、アリガタがビクセン/ロスマンディ両規格対応になっていることから幅広い鏡筒を載せることができそうです(構造上、長さには制限があります)。制御はSynScanのアプリなどで行うので、それこそAZ-GTiマウントと同じ感覚で扱えそうです。


架台部分だけ取り外して、前述のHAZマウントに載せて赤道儀として用いる方法も提案されていました。


今回のSky-Watcher関連の展示の中で最大のトピックの1つがこれ。Hα太陽望遠鏡の「Sun76」です。口径76mm、焦点距離630mm(F8.3)という仕様で、フィルターの半値幅は0.5Å以下を標榜しています。


エタロンの調整は、鏡筒中央部の銀色のノブを手動で操作して行います。ブロッキングフィルターは、天頂プリズム部分に内蔵されているオーソドックスな形式です。


Hα太陽望遠鏡は長らくCORONADOとLUNT SOLAR SYSTEMSの二社による実質的な寡占状態が続いていて、高値で安定してしまっています。高値には、中心コンポーネントであるエタロンフィルターの製造の難しさという側面も確かにあるのですが、決して健全な市場とは言い難いのも事実。そこに風穴を開けるという意味で、この鏡筒には非常に大きな期待がかかります。


ただ……案の定というかなんというか、「他社の特許に引っかかっているのではないか?」という疑惑がまだ残っているようで、実際の発売がいつになるのか?というか、そもそも発売できるのか?というのは不透明な状況にあるようです。うまくクリアできているといいのですが……。


昨年、トラバース自動導入経緯台を投入したACUTER OPTICSは、口径60mm、70mmという小口径マクストフカセグレンをフィールドスコープとして投入。


小口径にもかかわらず、安価な「グレゴリー式」ではなく「ルマック式」を採用*20しているようですし、F値も無理をしていない*21ので性能にも期待が持てそうです。


ブースの反対側に回ると、Askarの恐竜的進化の極北、「Askar 185APO」の巨体が姿を現します。写真だとその大きさがピンときませんが、下の架台が中型赤道儀ではなく、Sky-Watcherの大型赤道儀EQ8-R Proであることに注意。本当にとんでもないサイズです。


口径185mm、焦点距離1295mm(F7)、EDレンズ1枚を含む3枚玉で、全備重量17.2kgという……。昨年展示されていた151PHQも相当な大きさですが、あっさり上回ってきました。どこまで行くんだ、Askar……。


その横にはAskarやSharpstarの製品がずらりと。下段一番手前にあるのは新製品の「Sharpstar 50EDPH」。スペックは口径50mm、焦点距離275mm(F5.5)、EDレンズ2枚を含んだ3枚玉アポクロマートです。0.84倍の専用レデューサーも用意されていて、これを用いると焦点距離230mm(F4.6)まで明るくなります。


それにしても、以前もどこかで書きましたがAskar/Sharpstarの商品展開速度は驚くばかりです。「とりあえず出してみて、ダメだったら次」という、トライ&エラーというか、カニバリゼーション上等というやり方なのでしょう。分野は違えどスペースXにも通じるような手法ですが、こういう荒っぽいのは良くも悪くも日本企業には難しいでしょうね……。


ブースの片隅で展示されていた「ステップアップリング 36-48」「レデューサー0.75× アメリカンサイズ」


前者は、Askar FMA135の筒先に付けることで2インチフィルターの利用を可能にするもの。ちょうどいいリングは市販でなかったですから、こういう形でフォローしてもらえると助かる人も多いはずです。


後者は、CMOSカメラのノーズピースなどに付けて鏡筒の焦点距離を0.75倍に短縮するもので、どうしても視野が狭くなりがちな電視観望において効果を発揮すると思います。先端にはフィルターねじも完備。この手の製品はこれまで、笠井トレーディングが取り扱っている「31.7mmアイピースレデューサー」くらいしかありませんでしたから、それと比べて実際の性能がどの程度なのか、気になるところです*22


新製品の「SCT-33/AD-SWカーボン三脚」。4段の非常にコンパクトな三脚ですが、脚の最大径は4cmと太く、見た目以上にがっしりしています。小さくたためるので海外遠征などには重宝するでしょう。


サイトロンの数ある展示品の中で、ひときわ異彩を放っていたのがこれ。星見専用めがね「Stellar Glass」です。暗いところでは人間の目のピントが合いにくい点*23に着目し、あえて弱い凹レンズ(-0.25ディオプター程度)を噛ませることで、強制的に無限遠にピントを合わせてやろうというメガネです。スタッフ曰く「逆ハズキルーペ」。近くのものを見やすくするルーペの逆、という意味で、まさに言いえて妙だと思います。モノは樹脂素材で軽く、本家のハズキルーペと同様メガネの上からでも掛けられます。


発想がユニークで、実際に星まつりで体験してもらった時には大好評だったとのことです。ただ惜しむらくは、暗いところでこそ効果を発揮するツールゆえ、明るいCP+の会場では効果がほとんど分からなかったこと。同様の理由で、都心や都会近郊の明るい空では効果がちょっと減弱するんじゃないかという気がします。


いわゆる「スマート望遠鏡」(電視観望専用機)の先駆けの1つであるvaonisは新モデルの「VESPERA II」と、「HESTIA」とを展示していました。


VESPERA IIは、口径こそ50mmと旧モデルと同様なものの、焦点距離が200mmから250mmへと変わり、一方でセンサーがIMX462(1/2.8型、1920 x 1080ピクセル)からIMX585(1/1.2型、3840 x 2160)に大きく進化しています。


スマート望遠鏡はこのセンサーの進化が地味に痛いところで、光学系に比べて画像系が陳腐化しやすいのです。特に、VESPERAシリーズは価格が決して安くない*24ので、製品としてなかなか厄介だと思います。


一方のHESTIA。こちらは逆に思い切った製品で、HESTIA自身には口径30mmの光学系しか載っておらず、天体追尾のためのモータすらありません。使い方は簡単で、手持ちのスマホをこのHESTIAにセットし、専用アプリから撮影するだけ。あとはアプリの側で撮った画像の位置合わせ、スタッキングを自動で行い、最終的な画像を得るという猛烈な力技です。


ただ、太陽や月は問題なくとも、特に星雲や星団の撮影にはスマホ自身のカメラ性能が大きく影響してくるので、現時点でサポートされているスマホは限られています。方法としては安価なのでしょうけど、振り切る方向が極端というかなんというか……。




ZWO


今回初出展のZWOは、スマート望遠鏡のSeeStarやAMシリーズの赤道儀、惑星撮影用カメラなどを中心に展示していました。協栄産業が協力していて、自分が訪れたときには、ブログの担当者であるむらちゃん(id:KYOEI-TOKYO)こと村上さんがブースに立っておられました。残念ながら新製品は特になし。


ASI461MM Proのセンサーは初めて見ましたが、44×33mmというデジタル中判サイズは改めてとんでもなく大きいです。いい画像が撮れそうだけど、光学系に要求するものが高そうな上、隅々までの補正が死ぬほど大変そうです(^^;


隣のASI2600MC Pro(APS-Cサイズ)と比べると、開口部の大きさが一目瞭然です。


ボーグ


ボーグは今回もケンコー・トキナーのブース内にコーナーを設けていました。



展示内容は基本的に昨年と同様。最終的な製品版となったBORG72FL軽量望遠レンズセット【6271】BORG36E電子観望鏡筒【3694】BORG55FL電子観望鏡筒【3695】が展示されていたのが一応新しいところでしょうか。


ボーグのブースの向かい側には、昨年も展示されていたケンコーとの共同企画品MOEBIUS 55が展示されていましたが、このシリーズに関しても特に新しい展開はまだないようです。この製品については価格の高さがネックで、特に、ビクセンサイトロンが初心者向け製品に力を入れてきた現状では、立場が厳しいと言わざるを得ません。「本機ならでは」のメリットを訴求するには、ボーグパーツとの互換性を打ち出すくらいしかなさそうですが……ボーグの情報発信機能は相変わらず死んでいるも同然ですし、そうこうしているうちにボーグの存在感自体が地盤沈下している感じは否めません。


一応、ボーグの新製品は出ていますし、事業として生きてはいますが……そもそもがトミーテックの事業としては傍流もいい所ですし、色々と厳しそうな感じはします。


ケンコー・トキナー


ケンコー・トキナーは大所帯だけに、事業ごとに複数のブースを設けていました。こちらは上述のボーグも入っていた、カメラレンズ、フィルター類以外の製品を主に扱うブース。


並んでいたのは、Sky-WatcherからのOEM品である昔ながらのSkyExplorerシリーズとMeadeの低価格帯ライン、スカイメモといった従来品ばかりで、目新しいものはありません。さすがに、もう少しやる気を見せてくれるとありがたいのですが……。


一方のフィルター関連ブース。こちらにはいくつか面白いものがありました。


まずは昨年末に発売された、「カメラレンズ版バーティノフマスク」とでも言うべきフォーカシングツール「ナイトフォーカス」(写真中央)。これはフィルター表面にバーティノフマスク上のパターンが複数刻まれたもので、バーティノフマスク同様、星像に発生する光条を目安にピントを合わせるものです。


ライブビューを見ると、たしかに明るい照明の周りに光条が発生しているのが分かります。


ただ、このツールはレンズ前面のフィルターねじにねじ込む形になるため、取り付け、取り外し時にレンズに触れてピントや構図が狂ってしまう可能性があります。そこを解決するのが写真右の「スクエアコンバージョンフレーム」(昨年末発売済み)と、写真左の「マグネティック・マウント・システム」です。


「スクエアコンバージョンフレーム」は、丸型フィルターを角型フィルターホルダーにセットできるようにするためのアダプターで、これを使えばレンズにひねる力が加わらないため、ピントがずれる心配が大きく減ります。


また、「マグネティック・マウント・システム」は、レンズ側に「マグネットベースリング」、フィルター側に「コンバージョンリング」をあらかじめ取り付けておくことで、フィルターをマグネット着脱式に変換することができるというもの。これならピントや構図がずれる心配がほとんどありませんし、手袋などをしていてもスムーズにフィルター交換ができます。「ナイトフォーカス」だけではなく各種ソフトフィルターなどと組み合わせても便利に使えるでしょう。


こちらは、レンズ後面に装着するソフトフィルター「リア プロソフトン」。ポリエステル製のシートで、好きな形、サイズにカットして使用します。レンズ後面にセットするので、前玉が突出したいわゆる「出目金レンズ」でも使用可能。ソフトフィルターを広角レンズで用いた際に見られる、周縁部の星が楕円形に歪んでしまう現象も回避できます。


ソフト効果は強さは弱、中、強の3種類がセットで、弱が「プロソフトン クリア(W)」相当、中や強が「プロソフトン[A](W)」くらいの強さになるのではないかとのことでした。


マルミ光機


フィルターと言えば、マルミ光機も星景写真撮影用として、ケンコーと同じようなマグネット着脱式のソリューションを展開していました。


同社は以前から「マグネットスリムフィルター」として、ケンコーの「マグネティック・マウント・システム」と同様なマグネット着脱式のシステムを展開していますが、今回アピールしていたのが「マグネットスリム星景キット」です。


マグネットベース(写真左端)には、色素系光害カットフィルターであるStarScapeフィルターが装着済み(というか、StarScapeフィルターがマグネットベース化されている)。これと、白色系の拡散粒子がガラスに混ぜ込まれているソフトフィルターの1種「ホワイトパウダーミスト1/2」(左から2番目)、「ホワイトパウダーミスト1/4」(同3番目)、専用キャップ(写真右端)がセットになっています。


それぞれは個別に購入することも可能で、ホワイトパウダーミストフィルターには、さらに効果の弱い「ホワイトパウダーミスト1/8」というのもあります。なお、このセットを含め、「マグネットスリムフィルター」は67mm、77mm、82mmの3サイズで展開しています*25。これ以外のサイズに対してはステップアップリングで対応します。


マグネットタイプなので、手袋をしていたり、暗闇でも着脱が簡単。こういうソリューションが各社から出てきたのは歓迎したいところです。




と、例によって長くなりました*26が、めぼしいのはだいたいこんなところでしょうか。今回感じたのは「星景写真への関心の高まり」で、次のチャレンジングな目標として一般の写真愛好家に認識された印象があります。




ケンコーやマルミ光機が星景写真用のフィルターやツールを押し出してきたのもそうですし、そもそも会場で配られている「写真・映像用品年鑑」に星景写真の特集記事が組まれるくらいです(上写真)。


ただ、こうして星景写真にチャレンジする人が増えてくると、問題を起こす人たちが一定数現れてくるのも避けがたい事実。先日は、星空保護区に指定された福井県大野市南六呂師地区において観光客のマナーの悪さがニュースになっていましたが、こうした事態があちこちで起こってくる可能性も否定できません。
www.fukuishimbun.co.jp


撮り鉄問題」の二の舞は勘弁なので、業界(特に、天文関連に比較的疎いカメラ業界)には早い段階からマナー啓発に努めることをお願いしたいです。そして天文ファンの側も、初心者への啓発を折に触れ心がけていきたいところです。


あと、望遠鏡業界についてはビクセンサイトロンともに非常に元気で、今後の実際の製品発表がとても楽しみです。期待しています。

*1:カメラレンズで言えば、おそらく「全群繰り出し式」に相当します。

*2:もっともこれも、「カメラの感度を上げればOK」という面もあります。

*3:というか、フォーカサーの所に「Made in China」とハッキリ書かれてますね。元はこれでしょうか?http://www.sky-rover.com/showproject.asp?ProdNum=262

*4:最初、Sky-WatcherのEVOSTAR 72ED IIあたりかと思いましたが、よく考えると焦点距離が異なる上、合焦機構もあちらはクレイフォードなので別物です。

*5:一応、EOS-EFマウントアダプター内にφ48mmフィルターを設置できますが、交換が面倒なのは一緒です。

*6:フィルターホイールと、それ用のEOSアダプターを買えば可能ではあります。

*7:自分の個体をノギスで測ると、26.5mmの部品長があるはずのところ、25.8mmしかありませんでした。

*8:もし出ていなければ、こちらからビクセンに提案するところでした。

*9:現在の「暗視野ファインダーII」はガイド鏡として使用可能です。

*10:露骨な「囲い込み」と言ってしまえばその通りなのですが。

*11:どうでもいいけどビクセンさん、特設ページの製品の綴りが全部「Intell"e"gent」になってるのですが……(^^;(https://www.vixen.co.jp/activity/cpplus2024/origin/など) 25日に見たら直ってました。気が付いてくれたのかな?

*12:中身はぶっちゃけ、Raspberry Pi 4 Model Bそのものです。

*13:100万円オーダーという声も聞こえてきました。

*14:ちなみに、写真で望遠鏡の横に立っているのが、SR2-001の開発者、傳甫でんぽ淳 氏。珍しいお名前なので調べてみたら、全国でも10~20人程度しかいない苗字だそうです。

*15:一般的には5波長程度を用います。測定波長が増えるほど、条件としては厳しくなります。

*16:たとえば写真派の間で人気のあるタカハシのFSQ-106EDなどは、このピント移動が比較的大きいことで有名で、高性能なこの鏡筒の数少ない泣き所の1つになっています。

*17:理論上の設計値では素晴らしい値を叩きだしたものの、実際の製造技術が及ばずグダグダになったミザールのアルテア-15のような例もありますし(笑)

*18:歯にものが挟まったような表現になっているのは「ハーモニックドライブ」が(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ登録商標なため。表現から察せられるように、この赤道儀ではおそらく「ハーモニックドライブ」を使っているわけではありません。

*19:全体が茶筒っぽい上に、その「茶筒」の上にアリガタが直接乗っていて、視覚的にどうしても不安定な感じがしてしまいます。

*20:「グレゴリー式」では、筒先のメニスカスレンズの裏面にメッキをして副鏡の代わりにしますが、「ルマック式」では副鏡を別パーツとして作りこみます。一般に、ルマック式の方が光学系を最適化しやすい分、性能を出しやすいと言われます。

*21:F値の暗いは七難隠す」と言いますし。

*22:実は出所が一緒、というオチもありえますが(^^; 情報によれば、自社生産品とのことです。

*23:暗さそのものに加え、瞳孔が開くことで被写界深度が浅くなるのじゃないかと思います。

*24:Unistellarの製品なども同様です。

*25:ちなみにケンコーの「マグネティック・マウント・システム」は49/52/55/58/62/67/72/77/82mmと幅広い径に対応予定なので、汎用性ではこちらに軍配が上がります。

*26:トータルで2万字近くなっちゃった orz