未知なるマリアージュの世界へようこそ!

私の超オススメワインをご紹介します🥂🍷✨

一夜限りのアール・ヌーヴォーの世界

手に取ると、その流麗な曲線と丸みを帯びた形状に心が躍る、ヴランケン・ポメリー・モノポール社が誇る「ドゥモアゼル」シャンパーニュ。底部にエンボス加工されたアイリスの花が、アール・ヌーヴォーの精粋を映し出しています。この芸術様式は、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に広がり、「新しい芸術」と称され、自然を模した有機的な形やガラスなどの新素材を用いた革新的なデザインが特徴です。

1985年にリリースされた「ドゥモアゼル」は、その「エレガント&フェミニン」なコンセプトで注目を集めています。なかでも「ドゥモアゼル ブリュット グラン・キュヴェ」は、木樽で熟成されたかのような深い樽香と、力強い果実味が複雑に交錯し、洗練された〝マニッシュ〟な印象があります。とりわけトロとの相性は抜群。豊かな旨味が口の中でとろけ、鮨シャンとして見事な調和をみせます。

ところで、「アール・ヌーヴォー」のルーツが日本の「琳派(りんぱ)」にあるとされるのは、文化交流の深さを物語っています。この影響が西洋美術にどのように繋がったかを考えると、その洞察には驚かされます。アール・ヌーヴォーのボトルが、大正時代から続く老舗鮨店に溶け込む様子を目の当たりにすると、芸術と文化の融合に感慨深いものを感じます。「ドゥモアゼル」のおかげで、一夜限りのアール・ヌーヴォーの世界を堪能することができました🥂✨

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月の都ボルドー

ボルドーは、その名が示す通り、ワイン界において特別な地位を享受しています。多くの生産者が「シャトー〇〇」と名のり、ワインのエチケットにはほぼ例外なく、城の絵が描かれています。これは、ボルドーが12世紀にイギリス領であった時代までさかのぼります。当時、多くの城が築かれ、その周囲ではぶどう栽培が盛んでした。この歴史的背景が、今日に至るまでエチケットに強い影響を与え続けています。

「シャトー・ド・マルレ」の1984年のヴィンテージはとくに注目に値します。通常は城が描かれるエチケットに対して、このヴィンテージだけに100年以上前のボルドー港でのワイン樽の積み出し風景が描かれており、その理由は謎に包まれています。この珍しいデザインは、ボルドーがかつて重要な貿易港であったことを象徴しており、地域の歴史的重要性を今に伝えています。

アキテーヌ公国のエレノアがイングランド王ヘンリー二世と結婚した12世紀から、ボルドーはイギリスの影響下に入りました。この結婚がもたらした政治的な変動は、ボルドーのワインが英国貴族にひろまり、国際的な評価を高める一因となりました。今日、この時代からの「シャトー」ブランドのイメージが、ワイン産業におけるボルドーの地位を固めています。

現在、「月の港ボルドー」として知られるこの地域は世界遺産にも登録されており、ワインだけでなく、その美しい港町としても観光客を魅了しています。この地の歴史的な背景と現代の産業がどのように結びついているかを学び、理解することは、日本の地域創生にとって非常に重要なヒントになるはずです。

今宵キラキラと輝く夜景を眺めながら過去をふりかえり、未来を見据えるきっかけをつくってくれた「シャトー・ド・マルレ1984」。わたしの故郷も、ボルドーと同様に、地域が持つ歴史的なストーリーやその独自性を打ち出すことで新たな価値を創出できる可能性があるのでしょうね。
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〝封印が解かれた〟一瞬の旨さ

〝旨さを閉じ込めた〟は、食の世界でよく見られるフレーズです。そこには造り手の想いやこだわり、独自の調理技術や加工方法が存在します。

せいろで蒸された「点心」も、その一例。「点心」とは、中華料理における小籠包やシュウマイのことですが、せいろで蒸すと、直接水や油に触れずに加熱されるため、食材の旨味成分や水分が逃げにくく、風味豊かな仕上がりになります。

せいろのフタをあけるやいなや、ジューシーで甘酸っぱい香りが部屋中にひろがり、小籠包の皮に切り込みを入れると同時に、旨味スープが流れでました。まさに〝旨味を閉じ込めた〟作品です。

一方、瓶内発酵・瓶内熟成によってつくられるシャンパーニュもまた〝旨味を閉じ込めた〟逸品といえるでしょう。瓶から澱を取りのぞく過程で、一瞬外気に触れますが、ワインと酵母によって生まれる旨味と気泡が、年単位で瓶内にとじこめられています。今夜抜栓の「プリュール グラン・プリュール ブリュット」も、開栓とともにクリーミーな泡と、フルーティーで芳醇なアロマが、瓶内から感動的に放出されたのが印象的です。

点心もシャンパーニュも、〝封印が解かれた〟この一瞬の旨さは、はかなくも強烈な印象をわたしの心に残します。だからこそ、たとえ会話がはずむ食卓であっても、その一瞬、一瞬を逃したくないものです。 

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コルクのカビは、ワインの守護神

一般的に「カビ」と聞くと、多くの人が家の壁や食べ物に生じる不快なものとして想像しがちです。しかし見方を変えれば、カビは驚くべき益をもたらす存在にもなります。とくに食品業界では、カビを利用してチーズの風味を深める熟成プロセスが知られています。チーズだけでなく、実はワインの世界においても、カビは黒子の役割を果たしています。

ボトルのコルクに発生したカビは一見すると問題の兆候にみえるかもしれませんが、実際にはこれが最適な保存状態の証となることもあります。理想的なワインの保存条件とは、暗くて湿度が高い環境です。このような環境はカビが自然に繁殖する場所であり、コルクに見られるカビの存在は、ワインが良好な状態で熟成している可能性を示唆しています。

科学的には、コルクに生じるカビは空気中の湿度を利用して、微小な空間を通じてワインへ微量の酸素を供給します。この酸素が緩やかにワインと反応し、熟成を促進させるのです。たとえば、今夜抜栓した「シャトー・オー・バタイエ1978」に見られた、コルクとキャップシールに付着していた大量のカビ。そのおかげで、46年もの長い歳月をかけて醸成された、優雅でビロードのような舌触りと、深みと奥行きのあるやさしい味わいを存分に楽しむことができました。

ヴィンテージワインを抜栓したとき、コルクのカビを見つけた瞬間、わたしは期待感が高まります。カビが熟成過程に果たしている重要な役割を理解し、カビを見て興奮を覚えるようになると、あなたもワイン上級者の仲間入りです。おいしいヴィンテージワインの背景には、熟成を助ける守護神として、この小さな生物が存在しているのです。

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シャンパーニュの「厚み」とは何か

シャンパーニュは、その独特な製法と洗練されたイメージで世界中にその名を知られています。シャンパーニュを特徴づける表現の一つに「厚み」という言葉がありますが、これはビールや日本酒、焼酎など他のお酒にはあまり使用されることのない表現です。では、シャンパーニュの「厚み」とは具体的になにを指しているのでしょうか。

シャンパーニュの「厚み」とは、その味わいの深さや複雑性、そして口当たりの重厚感を示します。これはシャンパーニュ特有の瓶内二次発酵と長期熟成によるもので、ボトル内でゆっくりと炭酸ガスが生まれ、ワインに繊細な泡を与えると同時に、風味の層を重ねていくプロセスによって、「厚み」が生まれることになります。

とくに、ボランジェという高品質なシャンパーニュは、まろやかで豊富な果実味が広がるふくよかな「厚み」と奥行きのある複雑性で知られています。この「厚み」は、グラスに注がれた際の泡立ちの質や、口中で感じる泡のクリーミーさ、そしてアフターテイストの長さにもあらわれます。たとえば、泡が細かく、クリーミーで滑らかな口当たりのシャンパーニュは、「厚み」があると評されることが少なくありません。また、様々なフレーバーが複雑に絡み合う味わいも、「厚み」を感じさせる要因のひとつになります。

シャンパーニュの「厚み」は、素晴らしいテロワール、厳選された高品質なぶどう、製造方法、熟成度合い、そして卓越した技術が組み合わさった結果です。シャンパーニュの「厚み」と、その奥深さを理解するには、まずは「ボランジェ」を。シャンパーニュ初心者には、いつもそう伝えています。

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餃子とかけてシャンパーニュととく

餃子とかけてシャンパーニュととく。その心は、どちらも〝ガス〟が旨さの決め手となります。餃子においては、強火でジューシーな焼き上がりを得るためにはガス(火力)が必要です。一方、シャンパーニュにおいては、瓶内二次発酵でボトル内で生じたガス(炭酸)が、その豊かな泡立ちと繊細な味わいを生み出します。両者ともに、その調理や醸造過程での〝ガス〟がクオリティを左右するという点で共通しています。

今夜は、まるでシャンパーニュのようなフルーティーで上品なテイストのビール「イネディット」とともに、ガストン・デクロという造り手のシャンパーニュ 「デクロフレール・ブリュット」を楽しんでいます。ピノ・ノワール特有のほのかな甘みを感じる芳醇な香り、凝縮された果実味と奥深いコクが、餃子との相性抜群。

最近は、カリカリジューシー焼き餃子をアテに、シャンパーニュとビールを交互に楽しむことにはまっています。「イネディット」の軽やかなホップの香りが春キャベツを優しく包み込み、豚のひき肉が「デクロフレール・ブリュット」の洗練された泡立ちと相まって、それぞれの食材の美味しさを最大限に引き出します。

みなさまは餃子とかけて、なんとときますか?ぜひ、オススメの組み合わせで、みなさまの自信作の「なぞかけ」をご披露くださいね。

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古樽から紡がれるフレーバー

ウイスキー愛好家たちがその独特の風味と製造過程に魅了される理由のひとつは、「古樽」の利用にあります。この繊細な酒の多様性と深みを引き出す重要な要素である古樽の選択は、独自のアロマと味わいを大きく左右します。

この業界の革新性と伝統を象徴するかのように、シェリー樽、ビール樽、ラム樽など、世界各地でもちいられた多彩な樽がウイスキー製造に再利用されています。なかでもシェリー樽を使用したウイスキーは特に興味深いです。辛口のフィノやオロロソ、甘口のペドロ・ヒメネスなど、樽の種類に応じてウイスキーに異なるニュアンスをもたらし、豊かな風味と複雑性を加えているからです。

たとえば、「グレンアラヒー11年」はペドロ・ヒメネスの古樽で熟成されたウイスキーで、微かなスモーキーさとペドロ・ヒメネス独特のまろやかな甘みが特徴です。このウイスキーシェリー香は、「ドンペリ1988」のような熟成シャンパーニュの酸化による熟成香とどこか似ていると感じるのはわたしだけでしょうか。ただし、シャンパーニュの樽で熟成されたウイスキーは現時点ではほとんど見かけません。一般にシャンパーニュはステンレス鋼のタンクやガラス瓶で発酵・熟成されるため、専用の木製樽が少ないからでしょう。

しかし、ウイスキー製造における革新的な試みとして、さまざまな種類のワイン樽が試験的に用いられており、今後シャンパーニュ樽の活用も実現するかもしれません。赤ワインや白ワインの樽を用いた熟成実験が盛んになっている今、これらの新しい試みがウイスキー業界に新たな風を吹き込むことを期待しています。

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