誰も知らない~奥ちゃんは天才のサクラさん~
ボクは、人間の布団の上でまどろんでいることが多い。
すると、「ピエル!」って、話を聞いてほしい家族がやってくる。
今日は、奥ちゃんだ。
何でも、また、才能を発揮してしまったんだって。
「わたし、プロになれる。 サクラ(偽のお客さん:奥ちゃんは本物のお客さんだけど)の天才だよ。 お客さんの誰もいない店に私が入るでしょ。数分後には、お客さんがいっぱいになってるんだよ。すごくない?」
この才能(?)に、奥ちゃん本人が気付いたのは、4,5年前らしい。
ただ、家族の誰も、「偶然だよ。」と取り合わない。
奥ちゃんはサクラの才能を発揮してるとき、家族に「ほらね」って、証拠を見せることにした。
「さっきまで、誰もいなかったでしょ? ほら、見て!!!」って。
お客さんが誰もいなかった、団子屋さんに列ができる。
雑貨屋さんに、2,3のグループが入ってくる。
誰も見向きもしないで通り過ぎていたセールのカゴに、客が群がる。
ライちゃんも、旦さんも、実際に『奥ちゃん=お客さんが増える』を見てきた。
それでも、こう言ってる。
「それって、一人でも人がいると入りやすいからだよ。偶然だよ。」
〈奥ちゃん、天才サクラ説〉は、支持されない。
でも、本人はしょげていなかったよ。
ボクの頭をなでながら、奥ちゃんは悦に入っていた。
『私は、知らず知らずのうちに、お店を繁盛させてあげてる、いい人だよね。』って。
犬種で犬の価値は決まるの?
ボクはテリアの血を受け継いでいる可能性が高いらしい。
散歩に出かけると、
「まあ、何ていう種類?」ってよく聞かれる。
旦さんは、
「雑種です。」って答える。
質問した人からは、
「まあ、MIXなんですね。」とか「ハーフ犬ね。」と訂正されるようだ。
雑種より、ミックスやハーフの方が格が上なのかな。へんなの。
うちの近くにドッグランがある。
奥ちゃんがボクを連れていきたいと思って調べたら、犬種ごとの日があった。
柴犬の日とか、プードルの日とか、レトリバーの日とか。
ぼくは、どこにもあてはまらない。
いつだったら、行ってもいいのかな。
奥ちゃんが子供の頃、シンフォニーちゃんという犬と一緒に暮していたんだって。
シェットランド・シープドッグという種類で、走るのが大好きだったんだって。
奥ちゃんの家にもらわれて来た時は、小犬で、その時は、それはそれは可愛いかったって。
写真を見たら、名犬のラッシーさんにちょっと似てた。
ボクが
うちのみんなは、ボクの子供の頃を知らない。
「ピエルが小犬のときは、きっと、すっっっごく可愛かったはずだよ。見られなくて残念。」って、言ってくれる。
ボクも、残念。
子供の時から ここにいたかったなあ。
橋の上のおじいちゃん ~ケンコウデ ブンカテキナ セイカツ~
奥ちゃんが毎日通る橋の上に、ほとんど毎日おじいちゃんが座っている。
いつも膝を抱えて、おしりが下につかないようにしゃがんでる。
ホームレスのおじいちゃんだ。
プラスティックの箱の中に、誰かが入れたお金が少し入ってる。
となりにリュックサックが1つ置いてある。
道行く人達は、見ないようにして、通り過ぎる。
奥ちゃんは、すごく気になるんだって。
何を食べているんだろう。どこで寝るんだろう。
風邪ひいたら、どうするんだろうって。
声をかけたいけど、勇気がなくて、恥ずかしいんだって。
1回だけ、そっとカイロを置いてきたことがあるけど、
それだけしかできなくて、恥ずかしかったって。
昨日は雹がふってた。 今日は、すごく寒い。
そして、今日、おじいちゃんは橋の上にいなかった。
奥ちゃんとボク ~ピエルは、モデル犬~
奥ちゃんは、この家のお母さん。
散歩のお供をするのは旦さんで、ボクにご飯をくれるのは、この奥ちゃんだ。
奥ちゃんは、仕事で町に出かける。
これまでいろんな仕事をしてきたけど、今は、パソコンを使った仕事をしているんだって。
ボクと同じだね。あ、ボクのは趣味か。。
趣味と言えば、奥ちゃんの趣味は、写真。
2年前、ずっと欲しかったデジイチを旦さんからプレゼントされた。嬉しいったらなかったそうだ。
「デジイチ」っていうのは、デジタル一眼レフという種類のカメラ。
それまで奥ちゃんが持ってたカメラより、断然きれいに写真が撮れるらしい。
その時の嬉しさと言ったら、
『外にお散歩に連れて行ってもらって、
優しい人に次々に撫でてもらったと思ったら、
今度は飛びきり美味しいおやつをもらえて、
その後は、ふっわふわのお布団でぐっすり眠れるくらい』なんだって。
それは奥ちゃん、相当うれしかったんだね。
肝心の腕の方は 、まだまだらしい。
ダメだなあぁ、、って時々ため息ついてる。
それでも、カメラで写真を撮るのはワクワクするんだって。
ボクの写真も、そのカメラで撮ってくれるんだ。
ラタくんとボク ~平和を愛しすぎるミドルスクーラー~
数日前にも書いたけど、ラタくん(中学生)はネコ派だ。
大人になったら、ふわふわの白毛のネコを飼う予定なんだって。
ボクがこの家に来て、二年。 最近ラタくんとボクは、かなり仲良くなった。
時々、ボクはお父さんの旦さんに叱られる。
理由は、我慢が出来ないから。 我慢は苦手なんだ。
みんなそれぞれ、苦手なことってあるでしょ。
おいしそうなにおいがしていると、どうしても近くでクンクンとにおいを嗅ぎたくなってしまう。
さっきも、テーブルの上にあったチーズをクンクンしてたら
「こらあああ、ピエル!!!」って、旦さんに怒られちゃった。
ラタくんは、他人が怒られるのを見たり聞いたりするのが大嫌い。
平和を愛するヤツなんだ。
ボクが怒られてると、ラタくん自身が怒られてるのと同じように感じるんだって。
この前の家族の留守中のこと。
ボクは、台所に侵入してパンの袋を開けちゃった。 台所の床は、パン屑と袋がおちて散らかった。
一番先に帰宅したラタくんは、びっくり。
『このままでは、ピエルが怒られてしまう』と証拠隠滅を始めた。
散らかってる袋やパンくずを片付けてくれたんだ。
残念だったのは、ラタくんの仕事は、完璧じゃなかったこと。
パンの袋とパン屑がまだ床の上に残ってた。
結局ばれちゃった。
ボクは、怒られた。
おまけに、ラタくんまで怒られてた。
「どうして ピエルをかばうんだ!」って。とばっちりだね。
それでも、ラタくんは、ボクに怒ったりはしないんだ。いい奴だ。
台所には、ボクが留守中に入れないように、鍵がかけられた。
それからラタくんは、外出前には鍵がかかっているのをしっかり確認する。
外出するときは、ボクに念押しする。
「ピエル。ここは、ダメだよ。」って。
ハイハイ、わかってますよ。
旦さんとボク ~高学歴で清貧で~
旦さんは、
この家に犬が欲しいと懇願したのは、娘のライちゃんなんだけど、毎日、ボクを散歩のお供にしてくれているのは、旦さんだ。
ボクは、家族みんなのことが好きだ。
でも、犬は、ものごとに順番付ける性質をもってる。この家のボスである旦さんを、ボクは一番好き。いつもそばにいる。
あまりにべったりするので、奥ちゃんには、
「ピエロ、気持ち悪いよ。旦さんへの愛が止まらないの?」って言われてる。
日中は、ライちゃんもラタくんも学校に行く。
イコちゃんは、外で働いている。
でも、旦さんは、家にいることが多い。
旦さんは、普段は 日中家で仕事をしている。そうかと思うと、朝早くから遠くの町に出かけてしまって、帰ってくるのは夜遅くとか、次の日のこともある。
『センセー』って呼ばれる仕事をしているらしい。何かの専門家なんだ。
旦さんのお母さん(つまりライちゃんたちのおばあちゃん)は、息子に世間で偉いと言われる職について欲しかったんだって。
旦さんは『ハカセゴー』を持ってる。
だから、すごくないわけじゃないだけど、なんせお金持ちじゃない。どちらかと言えば、かなり持ってない。おばあちゃんは、それが悲しいんだって。
ある時、テレビで「高学歴貧乏」という特集をみて、「あああああ、それは、うちの旦じゃないの!」とショックを受けてた。旦さんをみると「高学歴貧乏」と言い続けるので、旦さんは苦笑いしてる。
最近、奥ちゃんが、朝ドラで「清貧」という言葉を聞いてきた。
沙須賀家は、「清貧」だと思うことにした、って言ってる。
《うーん、我が家はそれとは、ちょっと違うような気がするなあ。。》
ボクがそう言ったんだけど、奥ちゃんは聞く耳をもたなかった。
まあ、いいか。
旦さんはボクの大好きないろんなことを知ってるセンセーなんだ。
大きな手で撫でてもらうとすっごく気持ちがいいんだよ。
散歩仲間で、昼寝仲間で、いつもそばにいる、ボクの友達なんだ。
ライちゃんとボク ~犬の仕事~
ライちゃん(高校生)は、ボクのことを怠け者だと思っているらしい。
「ピエル、寝てばっかり。」って言われてる。
言わせてもらいますが、ボクは、仕事をちゃんとやっています。
仕事は、家族を守ること。
捨てられた犬の子供として川沿いの小屋に住んでいた時は、一緒に保護されてたケイタや、モモが、ボクの仲間=家族のようなもんだったけど、今は旦さん達みんなが、ボクの家族だ。
だから、守ってる。
知らない人がきたら、警戒する。
毎朝毎晩、旦さんの散歩にも同行している。
近所のパトロールもついでにやってる。
お客さんには、「こんちには」と挨拶してる。
夜は、みんな寝てるから、聞き耳をたてながら寝るんだ。
「寝てばっかり」とは、聞き捨てならないよ。
犬は、人間よりもレム睡眠の時間が長いんだ。
ボクの目が、ぴくぴく動いてるでしょ。 夢見てるみたいに見えるでしょ。そういう時、ボクはぐっすりは眠ってない。
脳は起きてる。緊急事態に備えてるんだ。
だから、人間より睡眠時間は長く必要なんだ。
それもこれも、家族を守るためなんだ。
わかってほしいよ。
ボクから言わせてもらえば、ライちゃんの方が、よっぽど怠け者だ。
「ちょっと休憩してから勉強しよ!」とか言ってすぐに寝ちゃう。
今週は、テスト週間なのに、大好きなアイドルが歌う曲をイヤホンで聞きながら、机に向かってる。
おなかすいた、とか言って、勉強もせずにポテトチップを食べてる。
《ライちゃん!勉強とは、そんな態度で向き合うものじゃないよ。》
ボクは、再三 こう忠告しているんだけどね。
ボクの言葉は、正確に人間に伝わらないことが多いから、ライちゃんにも 伝わってないみたいだ。
そんなライちゃんだけど、実はボクの恩人なんだ。
この家に犬を連れてこようと言ったのは、ライちゃん。
インターネットの犬の里親募集のサイトに掲載されたボクを、ライちゃんが見つけて、ここに呼んでくれた。
里親と里犬の相性が良いかどうか、お試し期間がある。
ボクは、ケイタやモモやボランティアのおじさんたちと離れてさびしくて震えてた。その時、抱っこして一緒に寝てくれたのは、ライちゃんだ。
「これから 私が毎日、散歩に連れていく。」と誓っていたけど、
それはダメだったみたい。
眠り娘のライちゃんは、朝早く起きたためしがないから。
(毎日、ボクは旦さんと一緒に行っている。)
旦さんの朝の散歩につきあって、(旦さんは、ボクを散歩させてるつもり)
近所のパトロールをした後、ボクはライちゃんを起こしに行く。
学校に遅刻するといけないからね。
恩人の世話は、なかなか大変だ。